ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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01話:古代怪獣ゴメス(変異種) 登場
01話『新星/科学特務隊』


 

 地上二五階、地下二〇階。東京湾の南西に数年前建設されたのが、このX-GUYS(エックス・ガイズ)ジャパン関東基地のシンボル“ドラグーンベース”である。この周囲に航空管制司令部、科学局、訓練場、空戦機出撃用リフト、隊員宿舎などの大小の建物が整然と、そして機能的に配置され、東京都心から五〇キロメートルほど離れた防衛中枢地区を形成しているのだ。

 

 夜雲(やくも)マモルが訪れたのは、基地施設南側に位置する観測局だった。東日本エリアで起こっている怪現象の報告資料十数冊を受け取りに来たのだ。この中でとりわけ怪獣の出現や宇宙人の暗躍に関連していそうな事件を見極め選定し、自分たち“科学特務隊(かがくとくむたい)”が調査・対処するのである。

 

 ひと月前、クルー養成学校学修課程を終えたマモル。未だ前線についたことがなく、覚えなければならないこと、経験しなければならないことは多かった。それを考えると、直近の未来に気後れせずにはいられない。

 

 それでも、前に進むしかない。いつまでも子供ではいられないのだから。さしあたり、この広大な基地施設内部の位置関係を覚えなければならない。そのために姉は――隊長は、このささやかな任務を彼に与えたのである。

 

 特務隊専用のオフィスに戻る前に、科学局に寄ってみた。先日、大気圏を通過したものの空中で爆発した円盤の残骸が、この施設に運ばれたのだ。

 

 マモルは、友好的であれ敵対的であれ宇宙からの来訪者に興味があった。それに、調査分析の進捗(しんちょく)に関する情報を仕入れておけば、今後隊の役に立てるかもしれない。

 

 基本的にX-GUYSの隊員服は緑と白に赤いラインが入ったものであるが、所属部隊によっては異なる場合がある。科学特務隊もその一例で、彼らの隊服は紫色なのだ。そのため、遠くにいても見分けがつく。

 

 マモルは、焦げた残骸の前に立つ先輩の姿をすぐにとらえられた。

 

 ポニーテールにまとめられたセミロングの髪。か細い肢体と指貫グローブ。振り向くと、日本人には珍しい緑色の瞳がマモルをとらえた。

 

「あ、マモル君」

 

 六つ年上の先輩隊員、結城(ゆうき)(はるか)だ。遥は残骸に触れていた手を引き、資料を抱える後輩のもとに歩み寄る。

 

「残骸を透視していたんですか?」

 

「うん、まあ。何もわからなかったけれど」

 

 結城遥は、接触感応能力(サイコメトリー)をもつ超能力者なのだ。手先を接触させることにより、物体などから情報を読み取ることができる。地球人に本来超能力は備わっていないが、ごく希に、そして突然に能力に覚醒する者が存在する。しかし彼女の場合、その力は生まれつきで、血筋に由来していた。遥は特別な力が使える家系の末裔なのだ。“巫女”ともいうらしい。

 

 科学特務隊は、ドラグーンベースの作戦司令官であり、日本の対怪獣防衛実戦部隊の(おさ)である天宮(あまみや)武志(たけし)司令の肝いりで創設された特別部隊である。それだけに配属されているメンバーは精鋭揃いだった。

 

 遥がその特務隊に配属されたのは超能力者だから、と外部の者は感じるかもしれない。しかしマモルが思うに、彼女の能力の本当に(ひい)でたのは、超能力よりむしろ、空戦メカの操縦技術だろう。彼女は、かの第一空戦部隊で数年間エースパイロットをやっていた腕の持ち主なのだ。

 

 科学局を後にした二人は、ドラグーンベースに向かう。基地内施設間の移動はレール・カーに乗ってできるが、“道を覚える”目的のため、歩いて移動した。

 

「どう、仕事は慣れた?」

 

 過ぎ去るレール・カーの音を(かたわ)らに、遥は新入りの後輩に()く。

 

「いえ、全然。早く皆さんに追い付けるように頑張りたいです」

 

 そう答えたのは、謙遜でもなんでもない。むしろ、本音はより深刻だった。遥含め、チームのメンバーは秀でた能力や才能を持った人材で構成されている。しかし、マモルにはそんな人達と肩を並べるだけの取り柄を持っていないし、これから持てるとも思えなかった。

 

 「夜雲マモルが特務隊に配属されたのは義父と姉のコネだ」という陰口を聞いたことがある。自分が根回ししたわけではないが、事実だと思った。そうでなければ、説明がつかない。

 

 姉であれ、義父である天宮司令であれ、それなりに考えがあるのだろう。もしくは、親心なのかもしれない。いずれにせよ、自分には荷が重すぎる。マモルにはそう思えた。しかし、唯一の血の繋がりのある姉も、育ててくれた義父も、マモルは愛している。自分が弱音をあげれば、陰口の矛先(ほこさき)が家族に向くかもしれない。やはり、努力するしかなかった。

 

 萎縮(いしゅく)するマモルの肩を、遥は軽くたたいた。

 

「まぁ、そんな(こん)を詰めないで。すこしずつ頑張っていけば大丈夫よ」

 

「そうでしょうか」

 

「そうよ。あんまり肩の力をいれてると身がもたな……」

 

 すると突然、どこからか雄叫(おたけ)びが飛んできた。

 

「食らえーっ! 必殺の新星(あらほし)キィィィィクっ!」

 

 聞き覚えのあるその声に、一瞬言葉と足を止める二人。間をあけた後、遥は言った。

 

「……前言撤回。緊張って素晴らしいよね。真面目って大切よね」

 

 二人は声のした建物に向かう。体技訓練用の武道棟だ。そこでは、チームの同僚であるビリー・ヴィンセントが、雄叫びの(ぬし)の腕を捕らえ、脇固めを()めていた。

 

「ギャァー! ギブ! ギブ! 助けてーっ!」

 

 跳ねる魚のような手で床を叩く声の主。しかしビリーは、相手の頬をマットに押し付けたまま、武道場にやってきたチームメイトたちを迎えた。

 

「やあ、遥。マモル」

 

 アナウンサーのように聴き取りやすく落ち着いた声の日本語。しかし言っている彼は、短い金髪と蒼穹のような青い目をもったアメリカ人である。日焼けを知らない白磁のような白い肌に、一八〇センチを越える長身。鍛え抜かれ絞り込まれたタイトな筋肉は、服越しであっても彼のずば抜けた身体能力と性的な魅力を強く表している。

 

 ビリーは、人事交流でX−GUYSアメリカからドラグーンベースに出向してきた外国人隊員だ。その身体能力は超人的といっても誇張ではなく、肉弾戦なら並の宇宙人だって倒せるほどだという。

 

「ハイ、ビリー。今日もいい天気ね」

 

「ああ、まったくだ」

 

 型にはまった世間話を白々しくはじめる二人。脇固めに苦しむもう一人の同僚は必死に叫んだ。

 

「くぉらッ! 無視するなぁッ! 腕がもげるぅーッ!」

 

 ビリーは欧米人らしい表情の動きを見せて遥に尋ねた。

 

「と、言っているがどうする?」

 

「いっそ脱臼させたら?」

 

G.I.G.(ジーアイジー)

 

 技の締めをより強くするビリー。武道場いっぱいに叫び声が充満する。

 

「ぎぃぃやぁぁぁッ!!」

 

 その様子に満足した遥。彼の開放をビリーに許可した。

 

 彼の名前は新星(あらほし)俊太郎(しゅんたろう)。遥の同期入隊のX-GUYSクルーで、特務隊では現地調査を(おも)に担当している。毛先が跳ねた薄い茶髪のミディアムヘアに、くっきりとした眉と眼が特徴。体格は細身で身長も低くはなく筋肉質だが、いかんせんビリーと比べると中途半端感が拭えない。当人もそれを自覚しているため、ビリーをライバル視しているのだ。

 

「あー、イテテ。ひでぇことしやがる……」

 

 脇固めから開放されると、俊太郎は床に尻をついたまま上半身を起こし、肩が正常であることを確めた。そんな彼に、緑色の瞳で冷ややかな視線を送る遥。

 

「あんた、またビリーに手合わせ挑んだの? 懲りないわね」

 

「うるせー。日本男児のもつ大和魂のパワーをコイツに見せてやろうと思ったんだよ」

 

「それで特攻隊よろしく玉砕したってわけ?」

 

「うっ……お、俺はまだ負けてねーぞ」

 

「さっき床叩いてギブギブ叫んでたのはどこの誰よ」

 

 二人の先輩の会話を、マモルはただただ見ているしかなかった。新参者に言葉を挟むタイミングなどない。

 

 俊太郎は腰を上げた。

 

「で、お前らは何してんだ? こんなところで」

 

「科学局からの帰りよ。戻る途中でザコの叫びを聞いて立ち寄ったの」

 

「誰かザコじゃ」

 

「自覚があるなら世話ないわ」

 

 二人はいつもこの調子である。

 

 新星俊太郎はかなりの負けず嫌いで、ビリーには体術訓練で、遥には航空シュミレーションで、それぞれ勝負を挑む。そして、毎回例外なく彼は負ける。そんな話を耳にすると、人は彼を粗悪なX-GUYSクルーと思うに違いない。

 

 しかし、マモルはそうは思わなかった。裏を返せば、格闘戦では遥に勝り、操縦技術ではビリーを上回る。秀でたものがあるわけではないが、能力に偏りもない。さらに実戦とデスクワーク、秩序と合理性、成熟さと純粋さ、緩と急……。俊太郎はありとあらゆることに均整がとれているのだ。

 

 「バランスのとれた人材はチームにとってとても大切」と姉は言っていた。俊太郎が特務隊に選ばれたのも、それ故だった。しかしその価値を、本人は誇りにはしていない。むしろ劣等感を感じている様子だった。

 

「おい、ビリー! これで勝ったと思うなよ!」

 

 指差された金髪の端正な白人男性は肩を竦めて苦笑した。

 

「そうか。だったら今度は腕をき引き抜きたいところだけど、生憎、ミーティングの時間だ」

 

 ビリーは(きびす)を返した。さすがにこれ以上負け惜しみを並べても仕方ないと悟ったのか、俊太郎も後に引いた。

 

 

 

 

 科学特務隊のオフィスは、ドラグーンベースの一三階にある。入り口の自動ドアをくぐると、グレーを基調とした、やや天井の高いスタイリッシュな空間が入室者を迎える。右側の壁には、各隊員のデスクが五台直列に並び、それを尻目に中央の通り道を真っ直ぐ進むと、左から右に上がる階段に差し掛かる。部屋は上下二つのフロアに分かれていて、上にはガラス張りの二つの個室がある。その一つは隊長の執務室で、その部屋の前に立って振り向くと、オフィス全体を見渡せた。緊急時、隊長はいつでもここから指示をだせるのだ。

 

 隊長の部屋の隣。つまり、上のフロアのもう一つの個室に入ると、全員の顔ぶれが(そろ)った。会議室である。それぞれが席につき、ミーティングの開始を待つ。各人の前には、机と一体化した端末のディスプレイが顔を出している。

 

 マモルだけは、隊長・夜雲(やくも)朱里(あかり)の元に駆け寄った。

 

「隊長、観測局から資料をもらって来ました」

 

「そう、ありがとう。私のデスクに置いておいて」

 

「はい」

 

 自分達が姉弟であることは周知の事だが、私的な関係を勤務時間に持ち込む訳にはいかない。その意識があるせいか、マモルは不自然なくらい他人行儀に徹した。

 

 夜雲朱里は、特務隊の実戦を指揮するリーダーである以前に、X-GUYSの中でも随一(ずいいち)といっていいほど、才能と実力に恵まれた女性だった。

 

 別名“GUYSアカデミア”と呼ばれる帝都科学防衛大学校を首席で卒業したキャリア組のエリートで、在学中に宇宙工科学や宇宙物理学など、複数の分野で論文を発表し、学界から高い評価を得た経歴の持ち主である。一方で、実戦においても比類(ひるい)ない能力を有しており、取り分けその狙撃の腕は日本屈指と言っても過言ではない。

 

 天は人に二物を与えず、などという言葉があるが、彼女の前では()れ言にも(ひと)しい。

 

 無論、その将来はX-GUYS内外から嘱望(しょくぼう)されており、彼女が入隊するときは実戦部隊と科学局が彼女の人事を(めぐ)って争った……などと(うわさ)もある。

 

 隊長として頼りある人であり、姉としても尊敬できる女性だった。しかし、巨大な才能が常に人に光だけを与えるとは限らない。影を産み落とす場合だってあるのだ。そばにいる者にとってその度合いは特に強い。

 

 マモルには、姉が(まぶ)し過ぎたのだ。

 

 隣の部屋に直通する扉から、資料を置きに行く。

 

 戻り着席すると、暗黙のうちにミーティングは始まる。前面の立体スクリーンとそれぞれの端末のディスプレイに、地図と異常現象の発生を表す波紋(はもん)が表示された。

 

「先日から、この地域で怪電波が頻繁に観測されているわ」

 

 都市部から離れた山間のエリアである。地図に続き、観測局からまとめられた概要が画面上に出てくる。

 

「データを見て、皆の所感(しょかん)を述べて欲しいわ」

 

 最初に声をあげたのは、(いかり)ドン助だった。

 

「観測され始めた日付と場所が気になるでゴワス」

 

 張った頬に、表情の変化に薄い四角い目。頭皮が透ける坊主刈りの頭と、前にも横にも幅がある体格が特徴的な男性。巨漢というには威圧さに欠け、どれかというと大仏のような印象を見るもの与える。特務隊の分析担当だ。

 

「というと?」

 

「先日回収された円盤の残骸、あれの爆発が確認された日から怪電波が発生しているようでゴワス。位置からしても、二つの事象は関連がある可能性が高いでゴワス」

 

 ドン助のキーボード操作で、平面だった地図が立体となり、地表を横から見た視点に変更された。円盤が爆発したと黙される地点と、怪電波が確認されたエリアが矢印で結ばれる。

 

 ドン助の発言に声を返したのは、向かえに座る遥だった。

 

「あの円盤の持ち主が怪電波を流している、ということですか?」

 

 これは純粋な疑問というより、ミーティングを進めるための合いの手のような発言だった。

 

「断定はできぬでゴワスが、偶然にしては出来すぎているでゴワス」

 

「ミスター、あなたの見解は?」

 

 朱里が次に話を振った相手は、チームで一番マッシブなフォルムを持つ人物だった。

 

 太い腕と太い脚。それぞれを組んでいたその人物は、その両方を解いて隊長の問いに応じた。

 

「コケッ、オイラも基本的にはドン助と同じ見解だ」

 

 寝かせた卵のような頭に、みかんのヘタに似た眼。鳥類を思わせる(くちばし)。喉元には赤い粒の模様があり、肩は少し大きい。X-GUYS本部のアーカイブ、ドキュメントUGとドキュメントGUYSにも記録が残る、分身宇宙人ガッツ星人。その同種族だ。

 

 ミスター・タマゴ。ガッツ星からたった一人で地球に亡命した宇宙人で、現在X-GUYSで宇宙人コンサルタントとして活躍している。彼の頭脳と知識はメテオール解析に少なからず貢献し、未確認の宇宙怪獣などの対策を練る際にとても重宝されるのだ。

 

「加えて言うなら、頻度が気になるな。多い」

 

「多い?」

 

「コケッ。通常、侵略目的の宇宙人は怪電波が外部に漏れるのを極力抑えるはずだ。見つかっちまうからな。それをやらないってことは……」

 

「敵意はない、と?」

 

「あるいは罠?」

 

「いずれにせよ、見つけてくれ、と言っているようだな。コケッ」

 

 すると、俊太郎が軽く手を挙げた。

 

「隊長、現地調査するんだったら、俺を行かせてもらえますか。土地勘あるんで」

 

「そうね、とりあえず頼もうかしら。一緒にいくのは……」

 

 GUYSの野外行動は二人一組が原則だ。この場合、任務に適したのは超能力者である遥か、宇宙人と五分以上の格闘戦をこなせるビリーのどちらかに思えた。

 

 しかし朱里が指名したのは、どちらでもなかった。

 

「マモル、貴方が行きなさい」

 

「あ、はい。……じゃなくて、G.I.G.」

 

 他のメンバーのときは「頼む」。自分のときは「しなさい」。他人行儀を意識し過ぎているのは、弟だけではないようだった。

 

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