ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話) 作:さざなみイルカ
01話『新星/科学特務隊』
地上二五階、地下二〇階。東京湾の南西に数年前建設されたのが、この
ひと月前、クルー養成学校学修課程を終えたマモル。未だ前線についたことがなく、覚えなければならないこと、経験しなければならないことは多かった。それを考えると、直近の未来に気後れせずにはいられない。
それでも、前に進むしかない。いつまでも子供ではいられないのだから。さしあたり、この広大な基地施設内部の位置関係を覚えなければならない。そのために姉は――隊長は、このささやかな任務を彼に与えたのである。
特務隊専用のオフィスに戻る前に、科学局に寄ってみた。先日、大気圏を通過したものの空中で爆発した円盤の残骸が、この施設に運ばれたのだ。
マモルは、友好的であれ敵対的であれ宇宙からの来訪者に興味があった。それに、調査分析の
基本的にX-GUYSの隊員服は緑と白に赤いラインが入ったものであるが、所属部隊によっては異なる場合がある。科学特務隊もその一例で、彼らの隊服は紫色なのだ。そのため、遠くにいても見分けがつく。
マモルは、焦げた残骸の前に立つ先輩の姿をすぐにとらえられた。
ポニーテールにまとめられたセミロングの髪。か細い肢体と指貫グローブ。振り向くと、日本人には珍しい緑色の瞳がマモルをとらえた。
「あ、マモル君」
六つ年上の先輩隊員、
「残骸を透視していたんですか?」
「うん、まあ。何もわからなかったけれど」
結城遥は、
科学特務隊は、ドラグーンベースの作戦司令官であり、日本の対怪獣防衛実戦部隊の
遥がその特務隊に配属されたのは超能力者だから、と外部の者は感じるかもしれない。しかしマモルが思うに、彼女の能力の本当に
科学局を後にした二人は、ドラグーンベースに向かう。基地内施設間の移動はレール・カーに乗ってできるが、“道を覚える”目的のため、歩いて移動した。
「どう、仕事は慣れた?」
過ぎ去るレール・カーの音を
「いえ、全然。早く皆さんに追い付けるように頑張りたいです」
そう答えたのは、謙遜でもなんでもない。むしろ、本音はより深刻だった。遥含め、チームのメンバーは秀でた能力や才能を持った人材で構成されている。しかし、マモルにはそんな人達と肩を並べるだけの取り柄を持っていないし、これから持てるとも思えなかった。
「夜雲マモルが特務隊に配属されたのは義父と姉のコネだ」という陰口を聞いたことがある。自分が根回ししたわけではないが、事実だと思った。そうでなければ、説明がつかない。
姉であれ、義父である天宮司令であれ、それなりに考えがあるのだろう。もしくは、親心なのかもしれない。いずれにせよ、自分には荷が重すぎる。マモルにはそう思えた。しかし、唯一の血の繋がりのある姉も、育ててくれた義父も、マモルは愛している。自分が弱音をあげれば、陰口の
「まぁ、そんな
「そうでしょうか」
「そうよ。あんまり肩の力をいれてると身がもたな……」
すると突然、どこからか
「食らえーっ! 必殺の
聞き覚えのあるその声に、一瞬言葉と足を止める二人。間をあけた後、遥は言った。
「……前言撤回。緊張って素晴らしいよね。真面目って大切よね」
二人は声のした建物に向かう。体技訓練用の武道棟だ。そこでは、チームの同僚であるビリー・ヴィンセントが、雄叫びの
「ギャァー! ギブ! ギブ! 助けてーっ!」
跳ねる魚のような手で床を叩く声の主。しかしビリーは、相手の頬をマットに押し付けたまま、武道場にやってきたチームメイトたちを迎えた。
「やあ、遥。マモル」
アナウンサーのように聴き取りやすく落ち着いた声の日本語。しかし言っている彼は、短い金髪と蒼穹のような青い目をもったアメリカ人である。日焼けを知らない白磁のような白い肌に、一八〇センチを越える長身。鍛え抜かれ絞り込まれたタイトな筋肉は、服越しであっても彼のずば抜けた身体能力と性的な魅力を強く表している。
ビリーは、人事交流でX−GUYSアメリカからドラグーンベースに出向してきた外国人隊員だ。その身体能力は超人的といっても誇張ではなく、肉弾戦なら並の宇宙人だって倒せるほどだという。
「ハイ、ビリー。今日もいい天気ね」
「ああ、まったくだ」
型にはまった世間話を白々しくはじめる二人。脇固めに苦しむもう一人の同僚は必死に叫んだ。
「くぉらッ! 無視するなぁッ! 腕がもげるぅーッ!」
ビリーは欧米人らしい表情の動きを見せて遥に尋ねた。
「と、言っているがどうする?」
「いっそ脱臼させたら?」
「
技の締めをより強くするビリー。武道場いっぱいに叫び声が充満する。
「ぎぃぃやぁぁぁッ!!」
その様子に満足した遥。彼の開放をビリーに許可した。
彼の名前は
「あー、イテテ。ひでぇことしやがる……」
脇固めから開放されると、俊太郎は床に尻をついたまま上半身を起こし、肩が正常であることを確めた。そんな彼に、緑色の瞳で冷ややかな視線を送る遥。
「あんた、またビリーに手合わせ挑んだの? 懲りないわね」
「うるせー。日本男児のもつ大和魂のパワーをコイツに見せてやろうと思ったんだよ」
「それで特攻隊よろしく玉砕したってわけ?」
「うっ……お、俺はまだ負けてねーぞ」
「さっき床叩いてギブギブ叫んでたのはどこの誰よ」
二人の先輩の会話を、マモルはただただ見ているしかなかった。新参者に言葉を挟むタイミングなどない。
俊太郎は腰を上げた。
「で、お前らは何してんだ? こんなところで」
「科学局からの帰りよ。戻る途中でザコの叫びを聞いて立ち寄ったの」
「誰かザコじゃ」
「自覚があるなら世話ないわ」
二人はいつもこの調子である。
新星俊太郎はかなりの負けず嫌いで、ビリーには体術訓練で、遥には航空シュミレーションで、それぞれ勝負を挑む。そして、毎回例外なく彼は負ける。そんな話を耳にすると、人は彼を粗悪なX-GUYSクルーと思うに違いない。
しかし、マモルはそうは思わなかった。裏を返せば、格闘戦では遥に勝り、操縦技術ではビリーを上回る。秀でたものがあるわけではないが、能力に偏りもない。さらに実戦とデスクワーク、秩序と合理性、成熟さと純粋さ、緩と急……。俊太郎はありとあらゆることに均整がとれているのだ。
「バランスのとれた人材はチームにとってとても大切」と姉は言っていた。俊太郎が特務隊に選ばれたのも、それ故だった。しかしその価値を、本人は誇りにはしていない。むしろ劣等感を感じている様子だった。
「おい、ビリー! これで勝ったと思うなよ!」
指差された金髪の端正な白人男性は肩を竦めて苦笑した。
「そうか。だったら今度は腕をき引き抜きたいところだけど、生憎、ミーティングの時間だ」
ビリーは
科学特務隊のオフィスは、ドラグーンベースの一三階にある。入り口の自動ドアをくぐると、グレーを基調とした、やや天井の高いスタイリッシュな空間が入室者を迎える。右側の壁には、各隊員のデスクが五台直列に並び、それを尻目に中央の通り道を真っ直ぐ進むと、左から右に上がる階段に差し掛かる。部屋は上下二つのフロアに分かれていて、上にはガラス張りの二つの個室がある。その一つは隊長の執務室で、その部屋の前に立って振り向くと、オフィス全体を見渡せた。緊急時、隊長はいつでもここから指示をだせるのだ。
隊長の部屋の隣。つまり、上のフロアのもう一つの個室に入ると、全員の顔ぶれが
マモルだけは、隊長・
「隊長、観測局から資料をもらって来ました」
「そう、ありがとう。私のデスクに置いておいて」
「はい」
自分達が姉弟であることは周知の事だが、私的な関係を勤務時間に持ち込む訳にはいかない。その意識があるせいか、マモルは不自然なくらい他人行儀に徹した。
夜雲朱里は、特務隊の実戦を指揮するリーダーである以前に、X-GUYSの中でも
別名“GUYSアカデミア”と呼ばれる帝都科学防衛大学校を首席で卒業したキャリア組のエリートで、在学中に宇宙工科学や宇宙物理学など、複数の分野で論文を発表し、学界から高い評価を得た経歴の持ち主である。一方で、実戦においても
天は人に二物を与えず、などという言葉があるが、彼女の前では
無論、その将来はX-GUYS内外から
隊長として頼りある人であり、姉としても尊敬できる女性だった。しかし、巨大な才能が常に人に光だけを与えるとは限らない。影を産み落とす場合だってあるのだ。そばにいる者にとってその度合いは特に強い。
マモルには、姉が
隣の部屋に直通する扉から、資料を置きに行く。
戻り着席すると、暗黙のうちにミーティングは始まる。前面の立体スクリーンとそれぞれの端末のディスプレイに、地図と異常現象の発生を表す
「先日から、この地域で怪電波が頻繁に観測されているわ」
都市部から離れた山間のエリアである。地図に続き、観測局からまとめられた概要が画面上に出てくる。
「データを見て、皆の
最初に声をあげたのは、
「観測され始めた日付と場所が気になるでゴワス」
張った頬に、表情の変化に薄い四角い目。頭皮が透ける坊主刈りの頭と、前にも横にも幅がある体格が特徴的な男性。巨漢というには威圧さに欠け、どれかというと大仏のような印象を見るもの与える。特務隊の分析担当だ。
「というと?」
「先日回収された円盤の残骸、あれの爆発が確認された日から怪電波が発生しているようでゴワス。位置からしても、二つの事象は関連がある可能性が高いでゴワス」
ドン助のキーボード操作で、平面だった地図が立体となり、地表を横から見た視点に変更された。円盤が爆発したと黙される地点と、怪電波が確認されたエリアが矢印で結ばれる。
ドン助の発言に声を返したのは、向かえに座る遥だった。
「あの円盤の持ち主が怪電波を流している、ということですか?」
これは純粋な疑問というより、ミーティングを進めるための合いの手のような発言だった。
「断定はできぬでゴワスが、偶然にしては出来すぎているでゴワス」
「ミスター、あなたの見解は?」
朱里が次に話を振った相手は、チームで一番マッシブなフォルムを持つ人物だった。
太い腕と太い脚。それぞれを組んでいたその人物は、その両方を解いて隊長の問いに応じた。
「コケッ、オイラも基本的にはドン助と同じ見解だ」
寝かせた卵のような頭に、みかんのヘタに似た眼。鳥類を思わせる
ミスター・タマゴ。ガッツ星からたった一人で地球に亡命した宇宙人で、現在X-GUYSで宇宙人コンサルタントとして活躍している。彼の頭脳と知識はメテオール解析に少なからず貢献し、未確認の宇宙怪獣などの対策を練る際にとても重宝されるのだ。
「加えて言うなら、頻度が気になるな。多い」
「多い?」
「コケッ。通常、侵略目的の宇宙人は怪電波が外部に漏れるのを極力抑えるはずだ。見つかっちまうからな。それをやらないってことは……」
「敵意はない、と?」
「あるいは罠?」
「いずれにせよ、見つけてくれ、と言っているようだな。コケッ」
すると、俊太郎が軽く手を挙げた。
「隊長、現地調査するんだったら、俺を行かせてもらえますか。土地勘あるんで」
「そうね、とりあえず頼もうかしら。一緒にいくのは……」
GUYSの野外行動は二人一組が原則だ。この場合、任務に適したのは超能力者である遥か、宇宙人と五分以上の格闘戦をこなせるビリーのどちらかに思えた。
しかし朱里が指名したのは、どちらでもなかった。
「マモル、貴方が行きなさい」
「あ、はい。……じゃなくて、G.I.G.」
他のメンバーのときは「頼む」。自分のときは「しなさい」。他人行儀を意識し過ぎているのは、弟だけではないようだった。