ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話) 作:さざなみイルカ
「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」
依然、状況は好転する
朱里たち科学特務隊も善戦している。麻酔弾で一度は足止めをしたが、思ったほど時間は稼げなかった。ゴメスの変異は想像以上に進行しているようだ。
第二空戦部隊の一機が、威嚇攻撃を仕掛けた。ゴメスはそれに怯まず、長く太い尾でその戦闘機を地面に叩き落す。
タマゴによると、ゴメス自身身体の変異に苦しみ、痛みを紛らわすために暴れるのだという。もともと壮絶な苦痛を身体中に含めている怪獣に、手加減した火器攻撃など痛くも
「ゴオォォウッ! ……クアッ!」
放射熱線を放つゴメス。陸戦部隊の戦車が焼き払われる。
ゴメスが出現した際、走行していた新幹線が陸橋ごと地面に落とされ、中の乗員乗客が自力で脱出できない、という事態が発生していた。今まさに、ジャイロは救出活動の最中なのである。
「いけない!」
朱里はGxスナイパーライフルを構えた。スコープに片目を通し、狙いを定める。
発射。閃光がゴメスの牙を直撃した。
「ゴオォォウッ!?」
四散した牙に、ゴメスは怯みもがく。顔の一部が攻撃を受けたとなると、さすがに足を止めずにはいられないようだ。
朱里の意図通りだったが、それば別の危険を手繰りよせることに繋がっていた。怪獣の狙いが、彼女に向いたのだ。そして今、朱里は建物の屋上にいる。逃げ場はない。
「クア……ッ!!」
片方の牙を失った口が開かれる。熱線はコンクリートの地面を照射しながら、朱里のいるビルに迫る。
幼い頃、身寄りがなかった自分達姉弟は、天宮司令に養子として迎え入れられた。あの日からGUYSクルーになると決め、地球の平和と人々の安全のために身を捧げる覚悟は出来ていた。
それでも、死が迫る一瞬。それだけは、恐怖を感じずにはいられなかった。
朱里は目を伏せた。今生に言葉を残しておくべきだったか。尊敬する義父に、愛する弟に。
刹那、その必要はないことを朱里は悟った。光が、それを教えてくれた。
「……?」
伏せた目を再び開けたとき、眩い光の柱が立ち込めていた。その中の人型のシェルエット。それこそが、ゴメスの放射熱線から朱里を守ったのである。
司令室で天宮とタマゴが、格納庫では鷹屋が、ディレクションルームでは遥が、地上ではビリーとドン助が、避難していた街の人々が、映像を介して世界中の人々が、その姿を目撃する。
その背中を、朱里は知らない。しかし一二年前、似た存在を彼女は見ていた。
「ウルトラマン……?」
かつて、地球を幾度の危機から救った伝説のヒーロー“ウルトラマン”。その巨人はそれに類似するものだった。
その出現に、街が、地球が、時代が静まりかえる。そして個々の脳に「ウルトラマンの再来」という言葉が伝達されると、封を切ったように歓声があがった。
現れ、ただ佇んでいるだけの巨人に膨大な量の希望が集中する。もしも人の感情に重さがあったとしたら、この瞬間地盤沈下がおこったことだろう。熱気は嵐をおこし、喝采は渦を巻く。一二年前も同様だったかもしれないが、時代が混迷を極めていた分、
刹那、地面が蹴られた。最初の一撃がゴメスに放たれる。飛び
太い首の根元を突いたそれは、怪獣の
「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」
ゴメスの闘気と怒気と殺気が、全て巨人に集中される。ウルトラマンの先制攻撃はこれが目的だったのかもしれない。これにより、怪獣の視線は足下の街からは遠ざかる。
ゴメスは腕を上げ、離された間合いを詰めもどす。振り下ろされたそれは、重みがあったが、速さに欠いた。ウルトラマンは軽く弾く。
続けての攻撃。防ぐ。やはり、スピードには巨人に部があるようだった。
「レアッ!」
掛け声。ウルトラマンは受け止めた腕を返し、怪獣の身体を押し退ける。
「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」
咆哮による威嚇。対峙するウルトラマンは、半身前屈立ちの構えを取る。束の間の静寂が燃える街に流れた。
次の瞬間、仕掛けたのはゴメスだった。
テールスイング。間合いを越えた攻撃がウルトラマンに襲いかかる。
直撃にはならなかった。脇で受け止めたのだ。怪獣の尾を腕で固定した紅の巨人は、身体を大きく降る。片足が軸となり、ゴメスの巨躯は宙を浮き、巨大なジャイアントスイングが見えてくる。
「セィアッ!!」
その回転に十分な加速が付いたとき、腕を放す。すると、鈍重なゴメスの身体は一瞬、重力を無視して空を駆け抜けた。そして、街の郊外に叩きつけられる。
避難した人々の喝采がピークに達した。この瞬間、街は脅威から引き離されたのだ。
「戦う場所をえらんだ……?」
朱里にはそう見えた。
紅い巨人は
当たり前のことだが、怪獣との格闘戦など経験したことない。とりあえず、尻尾を掴んで投げ飛ばす、という思惑は上手くいった。
これでこれ以上、街に被害を出すことはない。あちらは隊長たちに任せればいい。
「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」
顔に付いた山の土を払いながら、ゴメスは立ち上がる。投げ技自体は、大きなダメージにならなかった。
俊太郎は今、“ノヴァ”と呼ばれたウルトラマンと一体化している。彼の魂は、彼自身の本来の姿を覚えたまま、真紅の巨人の中にあった。まるで、大小二つの自分が重なって存在するような感覚だ。
小の俊太郎が構えると、大の自分も構える。
立ち向かってくる怪獣。
「レアッ!」
矢のごとく、素早い回し蹴りを見舞った。ゴメスはたじろぎ、後退る。間髪いれず、
それを決めると反対側から、さらにもう一発。次いで
俊敏。それが俊太郎の格闘スタイルだった。軽い小技を絶え間なく繰り出し、敵の体力を削りつつ反撃の機会を奪う。強攻ではないが、猛攻と言えば違いない。
追撃。拳打を放つノヴァ。
「!?」
しかし、ゴメスはそれを剛腕を以って防いだ。読まれたようだった。さらに、カウンターの体当りでで相手の身体を押し返す。
「ゴオォォウッ! クアッ……!」
再び掛かろうとしたとき、放射熱線の迎撃がノヴァを襲った。
「ウァッ……!」
「マジかよ」精神の俊太郎は吐き捨てた。受けた焼きつくような熱が、彼の魂に伝わる。
体勢を崩したウルトラマン。猛追の蹴りが、容赦なく彼に迫る。サッカーボールのように数回蹴りまわされた揚句、その身体はゴメスの足蹴となってしまった。
「く、ウァ……!」
苦痛に唸る彼に呼応するように、胸のクリスタルが赤く点滅し始める。
その輝きは、俊太郎の魂と連動していた。彼もまた、苦しみの中にいる。
このままじゃ、まずい――。
俊太郎は必死に足を退かせようよしたが、四万トンの重量をこの体勢で押し返すのは無理だった。ウルトラマンといえど、できることと、できないことはある。
その時、一筋の閃光が、ゴメスの眉に刺さった。ゴメスはたじろぎ、ビームを受けた目の上を押さえる。足が浮いた隙に、ノヴァは逃げて起き上がった。
Gxブラスターの射撃、X-GUYSの救援か。
俊太郎はそう思ったが、違った。
『やっほー。てこずってるね』
無邪気なあの声である。未来人ヨーが、俊太郎の魂に直接語りかけてきたのだ。
「お前か? 今の」
『そーだよー♪』
未来人にはテレパシー能力があるのか、と俊太郎は疑問に感じたが、この際どうでもいい。
『何かいうことは?』
「ありがとよ」
礼を言ったのは、感謝していたからではなく、面倒だったからだ。
『どうして光線技を使わないの?』
「やり方が分からないからだよ。生憎、使った経験ないもんで」
『とりあえず、イメージしたらできるよ』
「説明どうも」
巨人の中で繰り広げられた会話はここで終わる。ゴメスが再び、襲いかかって来たからだ。
ノヴァは簡単にそれを
地面を蹴った。すると、真紅の身体は空高く舞い上がり、右足を突き出したまま急降下。ビリーには不発で終わった“新星キック”がゴメスの頭部を討ち、三日月状の角を叩き折った。
「ゴォ!?」
ゴメスは角を失った頭を抱え、狼狽したような様子をみせる。慌てふためく怪獣に、ウルトラマンは姿勢を低くしたまま追撃。その腹に、両掌を喰い込ませた。
「レアッ!」
巨躯を突き飛ばすと、ウルトラマンノヴァは右腕を掲げる。その腕には、俊太郎の身体を変身させたノヴァイスゼラが装着されていた。
光がそこに集約され、片方の腕に力が漲るのを俊太郎は感じた。
「ハァァァッ……!」
ブレスレットとなっているノヴァイスゼラを押さえる。イメージすればいい、とヨーは言った。確かにそうした。すると、いつの間にかどこかで見たものの真似をしていた。
俊太郎は思い出した。これは、ウルトラマンヒカリのナイトシュートだ。どうやら、オリジナリティーはまだまだ遠い。
せめて、技名だけでも独自性をだそう。俊太郎は思った。腕を十字したとき、右腕に宿ったエネルギーは輝きとなって飛んでいく。
「
駆け抜ける光の粒子が、怪獣の身体中央を撃ち貫く。ゴメスは轟音と共に四散した。
戦いは終わった。怪獣が消えた今、辺りに響くのはカラータイマーの点滅音だけである。
市街地の郊外、人気のない場所。別に誰かに勝利を讃えられるわけもなく、ノヴァはその姿を元にもどす。
彼の靴の裏が着いたのは、川辺の砂利の上だった。
俊太郎は、手にあったノヴァイスゼラに目をやる。とても馴染む形だが、荷は重かった。二度とこれを使うことはないだろう。
次にやることは、決まっている。先刻の命の恩人を、捕まえにいく。恩知らずの極みだが、色んな意味で必要なことだった。
すると不意に、GUYSデバイサーが鳴った。着信の相手を見て、失念していた一人の人物を思い出す。マモルだ。
山でのアンドロイド追跡以降、彼と連絡を取る機会がなかった。心配していることだろう。
ノヴァイスゼラをしまい、携帯端末を取り出す。
「もしもし、すまないマモル。実はいろいろあって……実は今――」
『“勇気の出るおまじない”って知ってる?』
「は?」
画面に顔は表示されていない。何故か、川辺で応答する自分の姿が映っている。
カメラの方角に、顔を上げた。
「…………!」
そこに、マモルは立っていた。
いや、マモルではなかった。彼は、眼鏡などかけていない。
「デュワっ♪」
無邪気な笑顔で黒い縁を摘まむ未来人に、俊太郎は言葉を失った。