ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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01話『新星/巨人降臨』

 

 咆哮(ほうこう)は大気を震わし、その闊歩(かっぽ)は大地を揺るがす。街は焼かれ、建物は壊され、人々は逃げ惑う。

 

「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」

 

 依然、状況は好転する(きざ)しを見せてはくれない。かなりの人口密集地にゴメスが出現したために、避難誘導作業が思うように進まないのだ。

 

 朱里たち科学特務隊も善戦している。麻酔弾で一度は足止めをしたが、思ったほど時間は稼げなかった。ゴメスの変異は想像以上に進行しているようだ。

 

 第二空戦部隊の一機が、威嚇攻撃を仕掛けた。ゴメスはそれに怯まず、長く太い尾でその戦闘機を地面に叩き落す。

 

 タマゴによると、ゴメス自身身体の変異に苦しみ、痛みを紛らわすために暴れるのだという。もともと壮絶な苦痛を身体中に含めている怪獣に、手加減した火器攻撃など痛くも(かゆ)くもないようだ。故に、ゴメスを市街地から引き離すということもままならない。

 

「ゴオォォウッ! ……クアッ!」

 

 放射熱線を放つゴメス。陸戦部隊の戦車が焼き払われる。

 

 獰猛(どうもう)な眼。その先に映るのはX-GUYSの救助用ジャイロだ。

 

 ゴメスが出現した際、走行していた新幹線が陸橋ごと地面に落とされ、中の乗員乗客が自力で脱出できない、という事態が発生していた。今まさに、ジャイロは救出活動の最中なのである。

 

「いけない!」

 

 朱里はGxスナイパーライフルを構えた。スコープに片目を通し、狙いを定める。

 

 発射。閃光がゴメスの牙を直撃した。

 

「ゴオォォウッ!?」

 

 四散した牙に、ゴメスは怯みもがく。顔の一部が攻撃を受けたとなると、さすがに足を止めずにはいられないようだ。

 

 朱里の意図通りだったが、それば別の危険を手繰りよせることに繋がっていた。怪獣の狙いが、彼女に向いたのだ。そして今、朱里は建物の屋上にいる。逃げ場はない。

 

「クア……ッ!!」

 

 片方の牙を失った口が開かれる。熱線はコンクリートの地面を照射しながら、朱里のいるビルに迫る。

 

 幼い頃、身寄りがなかった自分達姉弟は、天宮司令に養子として迎え入れられた。あの日からGUYSクルーになると決め、地球の平和と人々の安全のために身を捧げる覚悟は出来ていた。

 

 それでも、死が迫る一瞬。それだけは、恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 朱里は目を伏せた。今生に言葉を残しておくべきだったか。尊敬する義父に、愛する弟に。

 

 刹那、その必要はないことを朱里は悟った。光が、それを教えてくれた。

 

「……?」

 

 伏せた目を再び開けたとき、眩い光の柱が立ち込めていた。その中の人型のシェルエット。それこそが、ゴメスの放射熱線から朱里を守ったのである。

 

 

 司令室で天宮とタマゴが、格納庫では鷹屋が、ディレクションルームでは遥が、地上ではビリーとドン助が、避難していた街の人々が、映像を介して世界中の人々が、その姿を目撃する。

 

 その背中を、朱里は知らない。しかし一二年前、似た存在を彼女は見ていた。

 

「ウルトラマン……?」

 

 かつて、地球を幾度の危機から救った伝説のヒーロー“ウルトラマン”。その巨人はそれに類似するものだった。

 

 (くれない)の身体の上を駆ける銀の線。頭には白刃のような鶏冠(とさか)。多角形の両目はどこか無機質だが、鋭利な眼光を放っている。胸・肩に装着された鉄色のプロテクトは、まるで三重に重なった鎧のようで、その中心で蒼氷色のクリスタルが煌めく。その輝きこそが、その巨人がウルトラマンであるという証だ。

 

 その出現に、街が、地球が、時代が静まりかえる。そして個々の脳に「ウルトラマンの再来」という言葉が伝達されると、封を切ったように歓声があがった。

 

 現れ、ただ佇んでいるだけの巨人に膨大な量の希望が集中する。もしも人の感情に重さがあったとしたら、この瞬間地盤沈下がおこったことだろう。熱気は嵐をおこし、喝采は渦を巻く。一二年前も同様だったかもしれないが、時代が混迷を極めていた分、今日(こんにち)のそれはさらに大きいだろう。

 

 刹那、地面が蹴られた。最初の一撃がゴメスに放たれる。飛び()りだ。

 

 太い首の根元を突いたそれは、怪獣の巨躯(きょく)を三歩引かせる。その一歩につき、人々の歓声と希望はさらに高まっていく。

 

「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」

 

 ゴメスの闘気と怒気と殺気が、全て巨人に集中される。ウルトラマンの先制攻撃はこれが目的だったのかもしれない。これにより、怪獣の視線は足下の街からは遠ざかる。

 

 ゴメスは腕を上げ、離された間合いを詰めもどす。振り下ろされたそれは、重みがあったが、速さに欠いた。ウルトラマンは軽く弾く。

 

 続けての攻撃。防ぐ。やはり、スピードには巨人に部があるようだった。

 

「レアッ!」

 

 掛け声。ウルトラマンは受け止めた腕を返し、怪獣の身体を押し退ける。

 

「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」

 

 咆哮による威嚇。対峙するウルトラマンは、半身前屈立ちの構えを取る。束の間の静寂が燃える街に流れた。

 

 次の瞬間、仕掛けたのはゴメスだった。

 

 テールスイング。間合いを越えた攻撃がウルトラマンに襲いかかる。

 

 直撃にはならなかった。脇で受け止めたのだ。怪獣の尾を腕で固定した紅の巨人は、身体を大きく降る。片足が軸となり、ゴメスの巨躯は宙を浮き、巨大なジャイアントスイングが見えてくる。

 

「セィアッ!!」

 

 その回転に十分な加速が付いたとき、腕を放す。すると、鈍重なゴメスの身体は一瞬、重力を無視して空を駆け抜けた。そして、街の郊外に叩きつけられる。

 

 避難した人々の喝采がピークに達した。この瞬間、街は脅威から引き離されたのだ。

 

「戦う場所をえらんだ……?」

 

 朱里にはそう見えた。

 

 紅い巨人は跳躍(ちょうやく)し、怪獣を投げ飛ばした先に向かう。そこは、低い山が連なる山岳地だ。

 

 

 

 

 

 当たり前のことだが、怪獣との格闘戦など経験したことない。とりあえず、尻尾を掴んで投げ飛ばす、という思惑は上手くいった。

 

 これでこれ以上、街に被害を出すことはない。あちらは隊長たちに任せればいい。

 

「ゴオォォウッ! ゴオォォウッ!」

 

 顔に付いた山の土を払いながら、ゴメスは立ち上がる。投げ技自体は、大きなダメージにならなかった。

 

 俊太郎は今、“ノヴァ”と呼ばれたウルトラマンと一体化している。彼の魂は、彼自身の本来の姿を覚えたまま、真紅の巨人の中にあった。まるで、大小二つの自分が重なって存在するような感覚だ。

 

 小の俊太郎が構えると、大の自分も構える。

 

 立ち向かってくる怪獣。

 

「レアッ!」

 

 矢のごとく、素早い回し蹴りを見舞った。ゴメスはたじろぎ、後退る。間髪いれず、手刀(チョップ)を叩きこんだ。

 

 それを決めると反対側から、さらにもう一発。次いで肘鉄(ひじてつ)を繋げる。

 

 俊敏。それが俊太郎の格闘スタイルだった。軽い小技を絶え間なく繰り出し、敵の体力を削りつつ反撃の機会を奪う。強攻ではないが、猛攻と言えば違いない。

 

 追撃。拳打を放つノヴァ。

 

「!?」

 

 しかし、ゴメスはそれを剛腕を以って防いだ。読まれたようだった。さらに、カウンターの体当りでで相手の身体を押し返す。

 

「ゴオォォウッ! クアッ……!」

 

 再び掛かろうとしたとき、放射熱線の迎撃がノヴァを襲った。

 

「ウァッ……!」

 

 「マジかよ」精神の俊太郎は吐き捨てた。受けた焼きつくような熱が、彼の魂に伝わる。

 

 体勢を崩したウルトラマン。猛追の蹴りが、容赦なく彼に迫る。サッカーボールのように数回蹴りまわされた揚句、その身体はゴメスの足蹴となってしまった。

 

「く、ウァ……!」

 

 苦痛に唸る彼に呼応するように、胸のクリスタルが赤く点滅し始める。

 

 その輝きは、俊太郎の魂と連動していた。彼もまた、苦しみの中にいる。

 

 このままじゃ、まずい――。

 

 俊太郎は必死に足を退かせようよしたが、四万トンの重量をこの体勢で押し返すのは無理だった。ウルトラマンといえど、できることと、できないことはある。

 

 その時、一筋の閃光が、ゴメスの眉に刺さった。ゴメスはたじろぎ、ビームを受けた目の上を押さえる。足が浮いた隙に、ノヴァは逃げて起き上がった。

 

 Gxブラスターの射撃、X-GUYSの救援か。

 

 俊太郎はそう思ったが、違った。

 

『やっほー。てこずってるね』

 

 無邪気なあの声である。未来人ヨーが、俊太郎の魂に直接語りかけてきたのだ。

 

「お前か? 今の」

 

『そーだよー♪』

 

 未来人にはテレパシー能力があるのか、と俊太郎は疑問に感じたが、この際どうでもいい。

 

『何かいうことは?』

 

「ありがとよ」

 

 礼を言ったのは、感謝していたからではなく、面倒だったからだ。

 

『どうして光線技を使わないの?』

 

「やり方が分からないからだよ。生憎、使った経験ないもんで」

 

『とりあえず、イメージしたらできるよ』

 

「説明どうも」

 

 巨人の中で繰り広げられた会話はここで終わる。ゴメスが再び、襲いかかって来たからだ。

 

 ノヴァは簡単にそれを(かわ)し、そのまま後転。間合いを開けた。

 

 地面を蹴った。すると、真紅の身体は空高く舞い上がり、右足を突き出したまま急降下。ビリーには不発で終わった“新星キック”がゴメスの頭部を討ち、三日月状の角を叩き折った。

 

「ゴォ!?」

 

 ゴメスは角を失った頭を抱え、狼狽したような様子をみせる。慌てふためく怪獣に、ウルトラマンは姿勢を低くしたまま追撃。その腹に、両掌を喰い込ませた。

 

「レアッ!」

 

 巨躯を突き飛ばすと、ウルトラマンノヴァは右腕を掲げる。その腕には、俊太郎の身体を変身させたノヴァイスゼラが装着されていた。

 

 光がそこに集約され、片方の腕に力が漲るのを俊太郎は感じた。

 

「ハァァァッ……!」

 

 ブレスレットとなっているノヴァイスゼラを押さえる。イメージすればいい、とヨーは言った。確かにそうした。すると、いつの間にかどこかで見たものの真似をしていた。

 

 俊太郎は思い出した。これは、ウルトラマンヒカリのナイトシュートだ。どうやら、オリジナリティーはまだまだ遠い。

 

 せめて、技名だけでも独自性をだそう。俊太郎は思った。腕を十字したとき、右腕に宿ったエネルギーは輝きとなって飛んでいく。

 

新星(ノヴァ)ストリームッ!!」

 

 駆け抜ける光の粒子が、怪獣の身体中央を撃ち貫く。ゴメスは轟音と共に四散した。

 

 戦いは終わった。怪獣が消えた今、辺りに響くのはカラータイマーの点滅音だけである。

 

 市街地の郊外、人気のない場所。別に誰かに勝利を讃えられるわけもなく、ノヴァはその姿を元にもどす。

 

 

 

 

 彼の靴の裏が着いたのは、川辺の砂利の上だった。

 

 俊太郎は、手にあったノヴァイスゼラに目をやる。とても馴染む形だが、荷は重かった。二度とこれを使うことはないだろう。

 

 次にやることは、決まっている。先刻の命の恩人を、捕まえにいく。恩知らずの極みだが、色んな意味で必要なことだった。

 

 すると不意に、GUYSデバイサーが鳴った。着信の相手を見て、失念していた一人の人物を思い出す。マモルだ。

 

 山でのアンドロイド追跡以降、彼と連絡を取る機会がなかった。心配していることだろう。

 

 ノヴァイスゼラをしまい、携帯端末を取り出す。

 

「もしもし、すまないマモル。実はいろいろあって……実は今――」

 

『“勇気の出るおまじない”って知ってる?』

 

「は?」

 

 画面に顔は表示されていない。何故か、川辺で応答する自分の姿が映っている。

 

 カメラの方角に、顔を上げた。

 

「…………!」

 

 

 そこに、マモルは立っていた。

 

 いや、マモルではなかった。彼は、眼鏡などかけていない。

 

「デュワっ♪」

 

 無邪気な笑顔で黒い縁を摘まむ未来人に、俊太郎は言葉を失った。

 

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