ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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02話:地底怪獣グドン 登場
02話『責任/作戦会議』


 

 二日目は、初日に塗装した機体底の装甲を取り付ける作業から始まった。正午になる前、ついに機体表面のペイントに入る。

 

 一〇年以上GUYSの主力として戦線を飛び続け、今なお活躍する統合攻撃戦闘機ガンフェニックス。現在、X-GUYSでは、その後を継ぐ次期主力戦闘機の開発計画が進んでいる。そしてその計画において、複数の候補機が生まれ、その中の幾つかが試験運用されることが決まった。

 

 先日特務隊に配備された“GUN(ガン)ヴィカロス”も、その1つである。

 

 一二年前、かつてのGUYSクルーは、配備されたばかりのガンフェニックスをチーム総出でペイントし、“俺たちの翼”と称してチームとしての絆を萌芽(ほうが)させた、という逸話がX-GUYSに残っている。今回の新型機塗装作業は、かつてのチームに(なら)ってのことだ。

 

 「自分達の機体を自分達の手でペイントすることで、隊の団結を深めましょう!」と、隊長・夜雲朱里に進言した本人に、チームの信頼関係を強化する意図などなかった。ただ、自分の得意分野を周囲にひけらかしたかっただけなのである。

 

 去年、基地内で開催された市民交流イベントにおいて、新星俊太郎が中心となって作り出展した『ドラグーンベース1/1000模型』は、訪れた人々の間で最もな人気を博した。縮小版の竜の城を中心に展開されたミニチュアを目にした子供は、そのショウケースの前に根を生やしたかのように動かなくなったという。

 

 俊太郎は手先が器用なのだ。模型作りに限らず、デッサン、折り紙、彫刻もお手の物だった。もちろん、色塗りもその範疇(はんちゅう)である。

 

「ドンさん、そっちのアクリル取ってくれ」

 

「うむ」

 

 ドラグーンベース地下、三番格納庫。

 

 シンナーの匂いが嗅覚を刺激する中、碇ドン助から塗料スプレーが手渡された。それを彼が撒くと、ただ塗られていた紫がさらに生気を帯びてくる。

 

 「魔法みたい」――。

 

 俊太郎の技能をそう表現した者がいる。その人物は今、刷毛(はけ)を片手にペタペタと塗装作業に勤しんでいた。正確には、その人物の身体は、だが。

 

 一日目は科学特務隊全員が参加していたが、今日はニ名欠席している。朱里とミスター・タマゴだ。この日、ドラグーンベース地上二一階で、基地首脳陣全員参加の作戦会議が行われていており、二人はそれに出席せざるを得なかった。噂に聞くと、内閣の怪獣対策委員会の委員も出向いてきているらしい。タマゴに言わせれば、「中央から誰かが来るときは、大体ろくでもない話」とのこと。

 

 つまり、昨日よりも今日は人手が二人少ないわけだが、ツナギに身を包んでいるのは四人だけだった。さらに一名、不器用という理由で塗装作業から外された者がいるのだ。

 

 その女性隊員は片手にビニール袋を携えて、新型機の元に戻ってくる。

 

「はい、買って来たわよ。お昼」

 

「へへ、遅かったな」

 

 手先に限りない格差を持つ、同期生の勝ち誇った顔。それを緑の瞳に写して、結城遥は眉間で不快さを示した。

 

 一四八五回に及ぶ空戦シュミレーションでの恨みを、ここぞとばかりに晴らす俊太郎。今回の作業を提案した最大の目的と言ってもいい。

 

「で、俺のメシは?」

 

「はい」

 

 指貫グローブをはめた手が、袋の中から弁当を取り出す。

 

「おい、これ生姜焼き弁当じゃねーか! 俺が頼んだのは焼肉弁当っ!」

 

「うっさいわね、売り切れてたのよ! それで我慢しなさい!」

 

「お前、わかってねーなー。芸術はカロリー使うんだぜ。繊細な作業の後には、ガッツリとした食事が重要なんだよ」

 

「聞いたことないわよ、そんな話! 絵が上手いからって調子にのるなっ!」

 

 怒り狂う遥の姿は愉快だった。地団駄を踏み、手はバタバタと理不尽さを訴える。両者とも二〇代の後半に当たる年齢だが、こういったやり取りのときは少年少女に戻るのだ。

 

「相変わらずでゴワスな。ぬしら」

 

 一ミリグラムものロマンスすら含まれない男女の会話を聞きつけて、首にタオルを掛けたドン助がやってくる。その後ろにビリー・ヴィンセントが続く。

 

 遥は別の弁当と割り箸を取り出し、この場の年長者に手渡した。

 

「はい、ドンさん」

 

「うむ、かたじけない」

 

 ドン助は大柄だが、過食というわけではなく、食べ物の嗜好もかなり質素だった。頼んだのは、幕の内弁当と煎茶である。

 

「ビリーはネギトロ丼よね」

 

「ああ、ありがとう」

 

 箸と刺し身醤油をつけて、白人男性にそれを渡した。ビリーは魚貝類が好きなのだ。

 

「マモル君、カレー買ってきたわよー」

 

 遥は、まだ受け取っていない後輩の名前を呼んだ。すると、機体の反対側から「ちょっとまって」という返事が帰ってくる。

 

 一〇秒後。一つの影がGUNヴィカロスの上から跳び降りてきた。

 

 小柄。肩幅が狭く、華奢な手足。髪はショートボブ。容姿端麗な姉と同じ遺伝子に由来する顔は、とても整っているが瞳がやや大きく、どこかあどけなさが残る。チーム最年少の新人、夜雲マモルだ。

 

「おまたせー♪ あー、おなか減った」

 

 小さいウインナーと福神漬けが入った、やや色の濃いルウのカレー。それを受け取ったマモルは、とても嬉しそうにはしゃいでいた。元々童顔だが、その姿はより幼く見える。

 

「あ、ジュース頼むの忘れてた。買ってこーよおっと」

 

 適当な所に昼食を置いて、フロア内の自販機に駆けていくマモル。

 

 彼が入隊してきて一ヶ月。時期的にいえば、隊の全員が後輩の顔を完全に見慣れているはずである。にも関わらず、ここ数日、この場にいる全員が彼に対し、新鮮な印象を抱かずにはいられなかった。

 

 その最大の要因は眼鏡である。

 

「マモル殿は、元々眼が悪かったでゴワスか?」

 

「聞いたところ、最近掛けたみたいですけど……。随分印象変わりましたね。なんか、以前は遠慮しがちだったような」

 

 眼鏡だけでなく、髪型も若干以前と異なる。しかし、それ以上に動作や言動の変化が著しい。

 

「何かあったでゴワスか」

 

「ねぇ、俊。あんた、何か知らないの?」

 

 尋ねられて、俊太郎は口を(つぐ)む。声を発したとき、言えたのはこれだけだった。

 

「さぁな」

 

 自分は嘘をついたことになる。俊太郎は、後輩が豹変した原因を知っているのだ。マモルの中には今、未来人が憑依している。

 

 彼の脳裏に数日前のことが過った。それは、GUNヴィカロスの配備が決まり、自分がペイント作業を隊長に進言した後の日。自分がウルトラマンに変身した日のことだ――。

 

 

 

 

 “勇気のでるおまじない”が彼に与えたのは、凶夢(きょうむ)の感覚だった。

 

 大きさが等しくない流紋岩(りゅうもんがん)たちが、足場の平坦を奪う川辺。静寂の中で聞こえるのは、せせらぎと、木のざわめきと、鳥の声。

 

 「お前を捕まえる」。三つ目の質問に対して、未来人が一分(いちぶ)の余裕も乱さなかった理由を、俊太郎は覚えた。

 

「お前、マモルの身体を乗っ取ったのか」

 

「えへへ。あの時、捕まえたのは君だけじゃなかったの」

 

 眼鏡を掛けた後輩は、弾けるように明るくなっていた。

 

 俊太郎が洞窟で眠らされていた同時刻、連絡で残ったマモルは電波妨害による通信不能に困惑していた。すると、背後から蚊のような超小型昆虫ロボットが、気づかれぬままに接近。彼のうなじに針を刺し込んだ。彼は倒れ、そのまま意識を失い、別のアンドロイド達に拉致されたのだ。

 

 ヨーはその経緯を全て明かす。彼がマモルに憑依したのは俊太郎が変身した直後だった。

 

 捕らえた俊太郎が目を覚ますまでの間、科学特務隊の隊員からマモルの端末に連絡が入った。無視すると外部に怪しまれるので、ヨーが応答したという。

 

「この身体悪くないね。(しばら)くこれを使わしてもらうよ」

 

「ふざけるな!」

 

 俊太郎はGxブラスターを構え、険しい眼光を未来人にぶつける。銃口に怯んだ素振りを見せたのは両手だけ。表情は笑顔のままである。

 

 ヨーは彼の元に歩み寄る。

 

「そんな恐いの向けないで。撃っても死ぬのは彼だけだよ」

 

「チッ……」

 

 舌打ちして、光線銃を下げる。ヨーがマモルの身体を乗っ取ったのは、単に実体を得るためだけではない。人質にするためだったのだ。それはつまり、その未来人が相当狡猾な人物であることを示していた。マモルだけではなく、俊太郎も、そしてウルトラマンも意のままに操れるというのである。

 

「これから仲良くやっていこうね♪ ウルトラマン」

 

 近付いてきたマモルの手が俊太郎の肩に軽く乗せられる。もう片方の手の人差し指が、顔と等しい高さで斜めに立てられた。

 

 可愛げをアピールしているのか、挑発されているのか。どちらにしても不快感は拭えない。

 

「お前の目的は一体なんだ? なんの目的で俺をウルトラマンにしたんだ」

 

「ウルトラマンが必要な理由はひとつしかないよ。地球を守るためさ」

 

 両手を腰で合わせ、河原の石の上を歩くヨー。実体を得ても、ちょこまか動くのは変わらないようだ。

 

「地球を?」

 

「未来を、って言ってもいいかな」

 

 彼が肉体を失ったことと関係があるのか、俊太郎は思った。

 

 ヨーの口調は決して沈んではいないが、そこから少しずつ無駄な明るさが引いていく。

 

「将来、地球はある存在に支配されるの」

 

「侵略されるのか」

 

「そんなところ」

 

「俺にその侵略者をウルトラマンで倒せ、と?」

 

「正解~。だけど、今のままじゃダメ」

 

「まだ何かあるのか」

 

「ノヴァイスゼラに秘められた力は、まだ十分解放されていない。ウルトラマンノヴァはもっと強くなれる」

 

「真の力を解放させないと、その侵略者に勝てないってことか」

 

「察しが良くて助かるよ。封印されていた石碑によると、“強さ”に触れたとき七色の輝きがノヴァイスゼラに宿るんだって」

 

「なんじゃそりゃ。どうして太古の人間はそんな曖昧な表現を好むんだよ」

 

「そういう訳で、強さを証明して」

 

「どうすればいいんだ? 武闘会でも開催すりゃいいのか」

 

「簡単だよ。強い“敵”を沢山倒すの。そしたら“強い”って証明できる」

 

 

 

 

 

 ドラグーンベース司令長官である天宮武志の入室と、幹部一同の起立で、会議は即座に開始された。

 

「今回の会議は、昨日内閣によって決定された怪獣掃討作戦の具体的な行動計画を討議するためのものだ」

 

 着席した出席者に視線を配りながら、天宮は今回の招集の目的を述べる。その声は、普段よりもやや重く、高揚感に欠く。円卓の一席についている娘は、彼が今回の作戦に好意的でないことを知っていた。

 

 X-GUYSは国際組織だが、その指揮権は個々の国の行政機関が保有している。日本の場合、内閣とその中にある怪獣対策委員会がそれに該当していた。

 

 実戦部隊の長である天宮といえど、委員会を無視して部隊を動かすことは許されない。法律上、国の指令を受けてX-GUYSは行動できるのだ。ただ、前回のゴメスの出現のように、怪獣が突然現れた場合、()()()()()各エリアの基地司令官の独断で怪獣掃討に乗り出すことができる。そして、この特例が原則よりも多用されていることは言うまでもない。

 

 今回の場合、慣例化している特例を押し退け、原則が前に出る形で姿を表したのである。

 

「まず、この作戦案を委員会に提出した古谷参謀に作戦の概要を説明してもらう」

 

「はい」

 

 名前が出た参謀は起立し、円卓の中央のホログラムにある山の地形を表示させる。

 

 古谷は三十後半から四十前半あたりの、官僚的雰囲気を持つ男だ。着こなす軍制服とジェルで完璧にセットされた髪が、彼の隙のなさと要領の良さを物語る。しかし好意的に感じるには、感情の豊かさに欠く。その小さな口から弱味が漏れることはなく、同じく小さなつり目は常に他人の(あら)を探しているようだった。

 

「調査班からの報告で、奥多摩山中の地下深くに冬眠状態巨大怪獣が確認されました」

 

 ホログラムの地中に、眠る怪獣の姿。ドキュメントMATに記録が残る“地底怪獣グドン”である。

 

 奥多摩では四六年前、同種の出現が確認されている。今回のグドンは、その個体の子供ではないかと推定されていた。もちろん、身体は既に成体となっている。

 

「今回の作戦は、このグドンを掃討することを目的とします。まず、地底探査タンクの攻撃で地底で眠っているグドンを地上のポイントZに引きずり出します」

 

 淡々と概要を説明する古谷。指定したポイントZは、一切の建物のないエリアである。

 

 ポイントの四方には、特殊な磁場フィールドを発生させるパラボラが設置される。出現したグドンをバリアの檻に閉じ込め、外部に逃がさない算段だ。ここで使用される磁場フィールドの強度は、一二年前ボガールモンスを掃討した際に証明されている。

 

「グドンを磁場フィールドに閉じ込めた後、同ポイントで待機してる第二空戦部隊の攻撃で撃破します」

 

 おおよその概要は以上のようだった。戦術構想としては、悪くない内容だ。しかし、根本的な疑問が残る。それを指摘したのは、会議室で一際目立つ様相を持つ人物だった。

 

「コケッ、眠っている怪獣をわざわざ攻撃するのかよ。調査班からの報告はオイラも目を通したが、グドンの覚醒が予想されるのは八〇年後とある。すぐに害がでる訳でもないのに攻撃すれば、ただの藪蛇(やぶへび)になるのではないか」

 

 ミスター・タマゴの発言は礼節に欠くが、指摘としては的確だった。彼はこの作戦自体の無意味さや危険性を説いたのである。朱里も同じ意見だった。

 

 古谷は眼鏡を中指でかけ直して、宇宙人コンサルタントに言葉を返す。

 

「タマゴ氏はご存知かはわかりませんが、かつてこんな話がありました。民間人が発見した古代怪獣の卵を、当時の地球防衛隊の隊員はろくな調査もせずに無害と判断したのです」

 

「ほぅ」

 

「その結果、怪獣は孵化。同時期に出現したグドンと共に東京を襲い、都市を壊滅寸前にまで追い込みました。私の言いたいことはわかるでしょうか」

 

「いや」

 

「我々X-GUYSは、如何なる時も徹底しなければならないのです。そして、軽はずみに調査結果を鵜呑みにせず、地上に害を及ぼすであろう可能性はことごとく排除せねばならないのです」

 

 熱を帯びてきた古谷の声に対し、タマゴは冷ややかだった。

 

「コケッ、そりゃ立派だな。じゃ、何か。地底で眠っている怪獣を発見する度に、一つ一つ撃滅するべきと貴官は主張するのか?」

 

「必要とあらば、そうすべきです」

 

 一理ある。しかし、無益な攻撃が怪獣の激発を招いた例だってある。決断するのは結構だが、慎重も熟考も介さない即決は無謀と同列だ。参謀はその点に思いを致すべきではないか、朱里は思った。

 

 それに無闇に掃討する行為は、生態系への影響も懸念される。

 

 続いて発言したのは、第一空戦部隊隊長の鷹屋翼だった。

 

「攻撃するのはいいとして、何故、第二空戦部隊のみの出撃なのかを聞かせ願いたい」

 

 グドンはかなり凶暴な怪獣で、その掃討には十分な戦力を用意する必要があった。

 

 鷹屋が率いる第一空戦部隊は、怪獣掃討が主な任務であり、その戦力は規定のニ倍ある。しかし、第二空戦部隊の主な任務は市街地に出現した怪獣の牽制や誘導。しかも、陸戦部隊との連携が前提となっている。単体では火力不足は否めない。

 

「それに関してはまず、今回出席いただいている怪獣対策委員会の片桐議員に発言していただきましょう。議員、お願いします」

 

 すると、円卓とは別の天板の席に座っていた女性議員が起立する。

 

「こんにちは。片桐です」

 

 (うやうや)しくお辞儀すると、片桐と呼ばれたその議員は言葉を続けた。やや濃い口紅を塗ったその口から発せられる声には、豪胆な響きがあった。

 

「私たちは、常に責任を背負っています。国民の安全と平和を守る責任を。それを脅かす怪獣を駆逐するのは、私たちの永遠の死命であるでしょう」

 

 片桐は四十代前半の小柄な女性だった。しかし、その堂々とした姿勢と、タカ派を匂わせる発言が、彼女を実物以上に大きく見せる。

 

 長々と前置きを話す勇ましき女性議員に、朱里は覚えがあった。“活躍する優秀な女性隊長”ということで、強引にマスメディアの前で握手を求められ、売名行為に利用されたことがある。委員会唯一の女性であり、本人もその事を売りにしているのだ。

 

「しかしながら、年々増加する怪獣対策の費用が国の財政を圧迫しているのも事実。やむを得ないことですが、看過する訳にはまいりません。X-GUYSの皆さんには、ご自分達が使用している武器に血税が使われていることをより意識して頂きたい」

 

 節約して戦え、と言いたいらしい。

 

 そこまでは言わせず、古谷が主張を繋げる。

 

「今回の作戦は、一つの前例となります。少ない戦力で効率的に怪獣を倒す、良き前例に。これは戦略的にとても意義を持つものと小官は考えます」

 

 だったら、こんな作戦自体やらない方がより経済的だ――などとは考えないのだろうか。朱里はそう思ったし、おそらく、彼女が信頼を置いている三名の人物も、同じことを考えていることだろう。

 

 しかし、委員会が決定を下した以上、もはや中止の望みは無いに等しい。ドラグーンベースの幹部が一丸となって抗議でもすれば覆せるだろうが、それは現実的に不可能だ。幹部の中には、権力に従順な者、古谷参謀に近い者、自身の野心の為に天宮の失脚を狙う者、そして、全体の流れに無関心な者、様々いた。

 

 “作戦開始を見送る”という実質的中止という手段もなくはないが、それを講じれば、次に古谷は世論を味方につけて再び会議に臨むだろう。東京近郊に怪獣が眠っている、という情報を世間にリークすれば、彼の作戦の支持者は即座に一定のマジョリティを形成することは明白だった。

 

 そうすれば最悪、天宮は司令長官の椅子から引きずり下ろされかねない。朱里には想像するのもおぞましい可能性だった。今のX-GUYSに、義父以上にドラグーンベースを任せられる人物などいるとは思えなかった。

 

 鷹屋もタマゴも、口を(つぐ)む他なかった。反論したところで、この流れを止めることはできない。

 

 しかし、何も手を打たない訳にはいかない。そこで、朱里は挙手した。

 

「磁場フィールドでは地中まではカバーできません。グドンは地底怪獣、記録にも地中に潜る能力が確認されています。万が一、地底に逃げられた場合に備え、攻撃前に追跡用の発信器を怪獣の皮膚に撃ち込むというのはいかがでしょうか」

 

「なるほど。それはいいですね」

 

 古谷は朱里の提案に好意的な姿勢を見せる。朱里は義父の方に視線をやった。

 

「そして、怪獣に発信器を撃ち込む役を私が担いたく思います」

 

 朱里の本心はそこにあった。

 

 作戦が始まると、磁場フィールドによって他の部隊は攻撃に参加できなくなってしまう。そこで、自分と特務隊が作戦前にバリアの内側に入る口実をつくりたかったのだ。

 

 父は自分の意図を洞察してくれた。天宮は即座に身を机上に乗り出し、出席者たちに問う。

 

「私は夜雲隊長の意見に賛成だ。その役も彼女が適任と思う。諸君はどうか」

 

 さすがに反発は出なかった。朱里以上の狙撃の名手はこの基地にはいないし、作戦実行にあたり保険を立てて置く意義を否定する者もいるはずがない。

 

 何より、司令長官の威光が効果を発揮した。それに頼るのは義理の娘としては不本意だったが、この際は甘えるしかない。

 

 

 

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