ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話) 作:さざなみイルカ
痛みはあっても、傷はない。身体で起こっている
木に持たれる背中。俊太郎は座っていざるを得なかった。そこに銃を構えた未来人がやってくる。
「すまない。力及ばずだ」
来ることは予想していたので、怯えることもなかった。ヨーの顔は、灰の砂漠のように無機質だ。
「……面白くない芝居はやめて。わざと負けたでしょ」
「バレたか」
俊太郎は笑ってみせた。
まだグドンから受けた痛みが神経の中で残留している。しかし一秒経るごとにそれは和らいでいるのが彼にわかった。
ヨーは冷淡な声と動きで、再び俊太郎に同じ光景を見せる。構えていたGxブラスターを、その頭に押し付けたのだ。
「次そんな戦い方したら、この子の頭を撃ち抜くよ。この身体は気に入ってるけど、次の人質を探すよ。この子のお姉さんとか」
痛みのせいか、さっきのような
一息おいて、ヨーに言う。
「そうか。だったら――」
ノヴァイスゼラを取り出して軽く放り投げた。マモルの足元にそれが落ちた刹那、ブラスターを抜き、閃光を放つ。
「……ッ!?」
眼鏡の奥の目が張った。狡猾な未来人も、この展開は意外だったようだ。
レーザーは変身アイテムの数センチ横を掠める。地面に残ったのは、小さな焼跡だけだ。
「ソイツを破壊する」
睨みが、相手の肝を貫く。ヨーは提示された事柄に動揺し、目を泳がせた。耳の上に押し付けられていたブラスターにかかる力も、やや緩くなる。
「ほ、本気なの?」
答える必要などなかった。ただ眼でそれを訴えればいいだけなのだ。
事情はまだ完全に掴めていないが、ヨーにとってウルトラマンノヴァは必要不可欠な存在だった。それが潰されるとなれば、彼も余裕を保ってはいられないようだ。人質を持っているのは、彼だけではなかった。
「……どうして、そんなに変身を避けるの?」
観念したのか、ブラスターを下ろすヨー。俊太郎も同様にする。
「ウルトラマンは強大な力だ。無闇に使えば、人々を依存させかねない。人類の自立を損ねるだろう」
俊太郎は考えを述べた。
ウルトラマンの活躍は、その力を自分達の都合にいいように利用せんとする者を呼ぶ。古谷参謀や片桐議員がそれだ。彼らにはそれなりの実力がある。しかし、見識は欠いていた。そんな者たちが地位を強化していけば、組織も国も社会も暴走を余儀なくされる。
力を持った者は、慎重にならざるを得なかった。
「強大な力には常に責任が伴う。周囲に変化を及ぼす責任がな。責任無き力なんて、ただの暴力だ。俺はそうなることを恐れている。恐れているから、戦いたくないんだ」
それが俊太郎の答えだった。
人は、戦うことに勇姿を見出す場合が多い。しかし本当に勇気が必要なのは、戦わないと決断し、それを言葉にする時だ。彼の瞳には、真の度胸が宿っていた。
束の間の沈黙。
視線同士を戦わせた後、ヨーはゆっくりと口を開けた。
「……ひとつ言っておくけど、君が逃したグドンが次は街に現れるかもしれないんだよ」
「!」
刹那、俊太郎の信念に揺らぎが生じる。己の迂闊さを見落としていたのだ。相変わらず、ヨーの指摘は鋭い。
「それを忘れないで」
しかし、ヨーは追撃をする気は無いようだった。
「おい、待てよ。お前はどうしてそんなに、俺を戦わせようとするんだ」
咄嗟に呼びかけた。立ち止まりはしたが、振り向かない。
「言ったでしょ。ノヴァの真の力を覚醒させるためだよ」
「それで未来を守るのか」
俊太郎は立ち上がった。まだふらつく足で、彼の背中を追う。
「教えてくれ、どうしてお前は人質をとってまで未来を守ろうとするんだ」
ヨーはようやく振り向いた。
「その未来で、大事な人に生きてて欲しいからだよ」
「!」
「ボクはそのために戦うし、どんなことだってする」
彼の瞳にもまた、強い意志が宿っていた。再び、二人の視線が格闘する。
「……その為に、他人がどうなっても構わないっていうのか」
「構わない。目的のためなら」
即答したヨーだったが、やや俯き、それに遅れて言葉を続けた。
「……でも、できることなら誰も傷つけたくない。できることなら、犠牲者を少なくしたい。だから、君を選んだんだよ」
「俺を?」
「君ならノヴァを覚醒させるだけじゃなく、ウルトラマンの力を正しく使える。そう信じたから、ノヴァイスゼラを託したんだ」
その日その後の記憶は、大して残るものではなかった。仮設テントに戻っても、基地に帰還しても、周囲はゴタゴタしているだけで、新しい行動を起こすことはなかった。
基地幹部間では次の対策が協議されたのだろうが、一介の隊員である俊太郎がその日の内に知る由もない。警戒態勢は解除され、出撃した隊員達にはとりあえずの休息が命じられた。
流れるように隊員用の宿舎に帰った俊太郎。暗い部屋の床に荷物を放り投げて、灯りもつけずにロフトベットに寝転んだ。
近い天井。ただそれだけを見つめて、ヨーの指摘を
「……ひとつ言っておくけど、君が逃したグドンが次は街に現れるかもしれないんだよ」
確かにそうだった。前回のゴメスのように人口密集地に怪獣が出現すれば、また死傷者が出る。可能性を生み出したのは自分でないにしろ、摘む機会を見逃してしまった。その点において、彼の良心は強い
しかし、一方で怪獣を撃破することで、古谷参謀の思惑に加担するのは避けたかった。ウルトラマンとの共闘を自演したことによって、X−GUYSを増長させる結果になりうる。さすれば、社会におけるX−GUYSの影響力と権力はますます肥大し、最終的にはX−GUYS自体が支配者となりうる日がくるかもしれない。X−GUYSは地球防衛隊といえど、やはり軍隊としての性格を
「じゃあ、俺はどうするべきだったんだ」
取り出したノヴァイスゼラに問う。星の力を秘めた石は、何も答えてなどくれない。答えは、自分で見つけるしかないのだ。
思考の切り口を変えた。これからどうするべきか。キーパーソンはヨーであるように思えた。
彼を味方と判断するのは性急すぎる。まだ不明確なところが多過ぎた。ただ、古谷参謀のような利権屋より、幾らか信頼できるようだ。いつだって心許せる仲間に恵まれるとは限らない。それどころか、相対的にまだ信用できそうな相手を選ばなければならない場合の方が、はるかに多いだろう。
俊太郎の脳は、あるひとつの結論を見出しつつあった。
すると、問題が一点残る。マモルのことだ。
自分がヨーと協力し合うことを、人質にされている後輩は許してくれるだろうか。俊太郎にはわからない。マモルがどんな志向の持ち主なのかを確信するには、彼と付き合った時間はまだまだ足りなかったのだ。
ただ、ヨーに憑依される前のマモルは、どこか窮屈そうに見えた記憶がある。顔は笑っていても、愛想笑いの領域を抜けることができず、その表情と行動と言動には常に遠慮が付き纏っていたようだった。今日のように姉に反論するなんて、考えも寄らない。
記憶と感覚を共有している、とヨーは言った。だとすれば、反抗したのはヨーの純粋な身勝手とは断定しきれないのではないか。姉の過保護さに、マモル自身脱出したかったのではないか。
自らの茶髪を頭を掻いた。ベットの上でそんなこと推測しても意味がない。
マモルがどう感じているにせよ、ヨーへの協力を拒んで彼の身を危険に晒すことなんて
その意味においても、あの未来人と手を組むのは有効なことだった。
俊太郎は、もう一度ノヴァイスゼラを見遣った。暗闇の中で、窓の外から漏れる光を反射させる装飾。視線は、そこに見えない何かを刻む。
それは、自分がウルトラマンとして戦う理由だった。
グドンがその刺々しい姿を見せたのは、翌日の夕時だった。荒涼とした土地の採石場に姿を現したのだ。
すぐさま、警戒態勢が敷かれる。科学特務隊のメンバー全員が、オフィス内の会議室に集まったのはその直後だった。
「どうして隊長がいるんですか」
と、遥が問うた。朱里がいるのは当然のこととして、この部屋にはもう一人隊長の姿があった。第一空戦部隊の隊長、鷹屋翼だった。
「今回の作戦は、私達科学特務隊と第一空戦部隊が先陣を切ることになったの」
遥の今の上司が説明すると、壁に持たれていた過去の上司が、組んでいた腕を挙げて付け加える。
「つっても、ウチから出撃するのは俺だけだ。他の面々は後方待機」
特務隊と鷹屋がグドンに攻撃を仕掛けている間、他の部隊は後方で迎撃体制を整える。二段構えの作戦だった。鷹屋のGUNホークと特務隊の戦力なら、グドン迎撃に必要な火力をぎりぎりではあるが、満たしているといえる。
「ということは、あの機体が初出撃になるでゴワスな」
「そうだな」
ドン助の言葉に応じたのビリーだった。
あの機体――。
そう、特務隊に配備され、先日全てのペイントを終えた新型機。“GUNヴィカロス”だ。ガンフェニックスよりも一回り小さな機体ではあるが、その戦闘能力は現主力のそれをはるかに凌駕する。
朱里はGUNヴィカロスに搭乗するメンバーを割り振る。
「αには遥とビリーに乗ってもらうわ」
「G.I.G.」
順当な組み合わせだった。遥は鷹屋の下で数年間、エースパイロットとして経験と実績を積み重ねてきた。そんな自分を補助する相方・ビリーは、情報処理にも一日の長があった。精密な起動計算や弾道の見極めなどのコンピューター関連作業は、正確で、かつ速い。このコンビで出撃すれば、よほどの敵でない限り、遅れをとることはまずない。
「βは――…」
朱里が言う前に、ひとつの手が上がった。彼女は恐らく、俊太郎とドン助を指名するつもりだったのだろう。遥は思った。
挙手したのは、指名されたであろう内の一人だった。
「俺とマモルが行きます」
刹那、メンバーの間で静かな緊張が駆ける。夜雲の姓を持つ二人は特に、その手の主である俊太郎を見遣った。その発言が意外だったようだが、驚いたのは遥も同じだった。
「理由は?」
朱里は短く尋ねた。冷静な口調だが、その言葉の裏には大きな反発と理性が葛藤していただろう。表情が動いたわけでもないのに、何故かそれがわかる。
「ドンさんは怪獣の分析のために後方にいるべきだと思います。それに……」
「それに?」
「マモルには経験が必要です」
その傍らで、眼鏡をかけた年少の隊員は俊太郎の顔を見上げている。
朱里はすぐに言葉を返した。間を置かないところに、彼女の動揺が垣間見える。
「そうね。でも、今回は危険よ。グドンほど獰猛な怪獣は、初陣の相手には向いていないわ」
「前例がないわけではないでしょう。グドン相手に飛び立った民間人が、帰還した頃にはGUYSクルーになっていた、なんて話もあるらしいですよ」
それは、あまりにも有名な前例である。特に、このスーツに身を包む者にとっては。
すると、鷹屋が笑い声を上げた。ぱん、ぱんと拍手して、緊迫した空気を破壊する。
「そりゃそうだ。夜雲、お前の負けだな」
「鷹屋!」
「出撃させてやれよ。ここにいるのは、全員X−GUYSのクルーのはずだろ?」
「……っ」
「決まりだな。じゃあ、さっさと片付けて、後方連中の出番奪っちまおうぜ」
手を叩いて、鷹屋は室内の全員に檄を飛ばす。
「X-GUYS,
「「「G.I.G.」」」