申し訳ありません!
私生活がバタバタしていまして…
誤字報告ありがとうございます!
セオドールはハリーがダンブルドアに個人授業を受けている事を本人から聞き出した。
その内容はロンとハーマイオニー以外には知らせる事が出来ないようだったが、そこは大した問題では無い。
ダンブルドアがハリーに教えている内容がセンチュリオンの戦略に直接関係しているようには思えなかったし、最悪の場合、ハリーに開心術を行使すれば良いだけの話だったからだ。
だが、ハリーがダンブルドアの個人授業を受ける日は当たり前だが、ダンブルドアがホグワーツに居る。
今回の作戦を許可してもらうのならば、その機会を使う他に無いだろう。
セオドールはそう考えていた。
ハリーがダンブルドアの個人授業を受けるのは月曜日の2000。
セオドールは同日の2130時、作戦起案書を片手に校長室を訪れた。
「センチュリオン副隊長、セオドール・ノット入ります」
「おお、ミスター・ノットか。お入り」
憂いの篩をはじめとする様々な魔法道具が(ほとんどがオーパーツと呼ばれるべきものだ)置かれ、肖像画がびっしりと飾られた校長室にはダンブルドアの他にハリーが居る。
どうやら個人授業は終わったらしい。
「まずは現状報告を聞こうかの。わしの居ない間に色々な事があったようじゃし」
「はい。ケイティ・ベルの事案は既に知っている事と思いますが、それにより隊長は意識不明となっています」
「先程、医務室に行って来たよ。あそこまで強い呪いを受けながらも生き延びた魔法使いはそうそう居ないじゃろう。正直な話、わしのミスでもあった。エスペランサを狙いに来るとは思っていなかったのじゃ」
「その言いぶりだと……まるで犯人に目星が付いているみたいですね」
「そう聞こえたかのう。犯人は分かってはおらんよ。エスペランサについては聖マンゴ出身の隊員が処置をしているから呪いの拡大は抑えられているじゃろう。あとは待つだけじゃ」
「校長。自分はポッターと同様にマルフォイが犯人では無いかと疑っています」
セオドールの発言にハリーが「良く言った!」とばかりに目を輝かせた。
「その件については問題無いじゃろう。犯人の炙り出しはわしの方でも行う。君達は自分達の身を護る事に専念すれば良い。ああ、ハリー。君はもう疲れたじゃろうから寮にお帰り」
セオドールはハリー同様に少し苛立ちを覚えた。
恐らく、ダンブルドアは今回の件について真相を知っている、もしくは見当がついているのだろう。
しかし、それをセオドールにもハリーにも言おうとしない。
ハリーは恨みがましそうに校長室を後にし、寮へ帰って行った。
「分かりました。先生を信じましょう。だが、我々とて黙ってやられている訳にはいきません。この作戦を実施する許可を頂きたい」
セオドールはダンブルドアに作戦起案書を手渡した。
ダンブルドアは死んだようにボロボロになっている手でそれを受け取る。
数分間、起案書に目を通していたが、やがて顔を上げた。
「確かに、この作戦は至極精密なものじゃ。同時に死喰い人以上に残酷な行為を伴う作戦でもある。恐らく騎士団では考えないじゃろう。しかし、ホグワーツの警備を緩和するというリスクに加えて、ハリーの命を危険に晒す行為は許容出来ない」
「そう言うとは思っていました。この作戦は校長の趣味では無いでしょうから」
「如何にも。相手が死喰い人とは言え、このホグワーツを血で染めたくは無いのじゃ」
「ハリー・ポッターは囮になることに賛成してくれています。それでも駄目でしょうか?」
「そうじゃ。わしはこの作戦に許可をする事は出来ないのじゃよ」
ダンブルドアはセオドールを見つめた。
その目には確かな"拒絶"の念が込められている。
だが、そこで引き下がるセオドールでは無い。
彼はスリザリン生だ。
目的の為には手段を選ばず、使える物は何でも使う。
残酷な手段や騙し討ちを好まない騎士団ではホグワーツを護れない事実を彼は嫌というほど知っていた。
だからどんな手段でも使う。
それこそ、相手がダンブルドアであっても容赦はしない。
「ホグワーツを血で染めたくは無い……ですか。立派な事です。流石は世紀の大魔法使い様だ。だが、我々はホグワーツを血に染めようとも、この戦いに勝たなくてはならない。そう、"より大きな善の為に"ね」
「……今、何と?」
ダンブルドアの体が一瞬だけ強張った。
セオドールはそれを見逃さない。
「"より大きな善の為に"と言いました。校長。我々センチュリオンの諜報員、通称黄金虫が良い情報を持って来まして。どうやら、校長はその昔、グリンデルバルドと共にマグル界の征服を目論んでいた……。その後の経緯までは調べ上げられませんでしたが、貴方とグリンデルバルドは決裂し、最終的に決闘をする事になった。そして、グリンデルバルドは敗北したと」
より大きな善の為に、というグリンデルバルドのスローガンであるが、思いつきはダンブルドアであった。
無論、それをセオドールは知らなかったが……。
「良く調べておる。否定はせんよ。わしの若かりし頃の過ちじゃ。過ちを正す為に、わしは彼を倒さねばならなかった」
「本当ですか?貴方とグリンデルバルドの決裂はかなり早い段階の話です。貴方と決裂した後にグリンデルバルドは世界を征服しかけました。特にドイツはグリンデルバルドに乗っ取られかけています。ブータンの麒麟の件では危うく魔法界のトップに彼がなるところでした。そしてその間に少なくない命が犠牲になっている。校長ならもっと早い段階でグリンデルバルドを止める事が出来たのでは無いですか?」
「………………」
「単純な魔法力では校長はグリンデルバルドを圧倒していた。だからグリンデルバルドは英国に近付かなかった。貴方はグリンデルバルドをもっと早く倒せたんだ。それなのに、動くのが遅かった。それは、貴方がグリンデルバルドを倒す事に少なからずの迷いがあったから。違いますか?」
「それも、否定は出来まい。わしは君の指摘通り、彼を倒すのを躊躇した事がある。それから、彼に勝てると思っていたのも本当じゃ」
「後悔……しているんじゃないですか?もっと早く戦えば犠牲が少なくて済んだ……と」
「なるほど。犠牲者を増やさない為にも躊躇するな、と言いたいんじゃな?」
「その通りです。この作戦はこれ以上の無駄な犠牲を出さない為に起案したもの。血を流す事を躊躇していてはヴォルデモートには勝てない」
ダンブルドアはしばらく目を瞑って考えていた。
彼がグリンデルバルドを倒す事に躊躇をしなかったかと言われれば、やはりそれは嘘になる。
実際、ダンブルドアがグリンデルバルドに抱いていた感情は愛に等しい物であり、それ故に過ちを犯したのだ。
では、ヴォルデモートはどうだろうか。
ダンブルドアがヴォルデモートに抱いている感情は憐れみであり、怒りである。
ヴォルデモートとグリンデルバルドは違う。
ヴォルデモートを倒す事にダンブルドアは何も躊躇いを持たない。
それはエスペランサやセオドールが死喰い人を殲滅することに躊躇いがないのと同じだ。
であるならば、セオドールが提案してきた作戦を実行しない理由は何か。
ホグワーツを血で染めたくは無いから。
生徒を危険に晒すリスクがあるから。
センチュリオンの隊員もその8割は学生なのだ。
しかし、綺麗事だけではヴォルデモート勢力を倒す事は難しい。
ダンブルドアに与えられた余命は残り1年も無い。
自分の死後、ハリーがヴォルデモートを倒す事を半ば確信しているダンブルドアであったが、その間に犠牲となる魔法使いや魔女、そしてマグルの数は少なくないだろう。
その為には死喰い人の数を少しでも削る必要がある。
分かりきっていた事だ。
ダンブルドアは決断した。
「分かった。君の作戦を認めよう。ただし、やるからには必ず勝ち、生徒に犠牲を出さない。これが絶対条件じゃ」
「ありがとうございます。作戦上、センチュリオン以外の職員生徒には秘密で計画を進めていきます」
「頼んだぞ。それから、君の事だ。恐らく、他にもわしに頼み事があるのではないかのう?」
「………お見通しのようですね。はい。あります。もう一つ、校長に頼みたいことがあります」
「内容次第じゃが、言ってみなさい」
「遠足に行く許可を貰いたい。場所は………ヌルメンガード」
マルフォイ家の屋敷にヴォルデモートと死喰い人の一部が集まっていた。
大広間のテーブルの中央にヴォルデモートが座り、その横にベラトリックスやドロホフといった死喰い人の中でも実力派の人間が立っている。
部屋の隅にはナルシッサ・マルフォイが肩身狭そうにして立っていた。
ドラコから「ホグワーツの警備が緩くなる」「ハリー・ポッターがホグワーツの警備を抜けて外に出てくる」という情報がヴォルデモートのもとに来たのはつい先日。
この情報が正しければ、死喰い人をホグワーツ内部に侵入させる絶好の機会となる。
加えて、ハリー・ポッターを暗殺する事もできる。
ヴォルデモートとしてはこの機を逃す訳にはいかなかった。
ただし……。
「我が君。これは敵の罠です。こんな都合が良い情報を得られる筈がありません」
ドロホフがドラコから送られてきた手紙を眺めて言う。
ちなみに手紙は高度に暗号化されているため、死喰い人以外には読めない。
単純な戦闘力ではホグワーツ教職陣を上回る彼の発言はヴォルデモートにとって貴重なものだ。
「俺様も怪しいとは思っている。ダンブルドアがホグワーツの警戒網に穴を作るとは思えん」
「そうです。それに情報源はルシウスの息子。信憑性に欠けます」
「いや、ドラコは先日、エスペランサ・ルックウッドを戦闘不能にした実績がある。案外、この情報は確かなものなのかもしれん」
他の死喰い人が言うと、周りの人間も「そうだそうだ」と同調する。
ここのところセンチュリオンに連戦連敗している死喰い人勢は何とかして戦局を挽回しようと躍起になっていた。
だが、ドロホフを筆頭とする首脳陣はそれを良しとしない。
彼等はすでにセンチュリオンの戦力を過小評価していなかった。
「仮にこれが罠で無かったとしても勝算はあるのか?ホグワーツにはセンチュリオンとやらの他にダンブルドアをはじめとする教員達がいる。ダンブルドア以外になら俺はまず負けないが、しかし、お前達がマグゴナガルやフリットウィックに勝てるとは思わん」
「お前、まさか怖気付いてるのか?」
「何?」
ベラトリックスが意地の悪い目でドロホフを見ていた。
「神秘部の戦いで睾丸を切り落とされたんじゃないのかい?意気地が無いじゃないか」
「感情論で勝てる相手では無い。貴様こそ敵の戦力を過小評価し過ぎなんだ!俺は勝つ為に頭を使っている」
「へっ。マグルの道具に頼るしか脳がない連中なんて恐るるに足りない」
ベラトリックスとドロホフはそもそも馬が合わない。
実力はあるものの、感情で動くベラトリックスと戦闘力だけでなく頭脳も明晰なドロホフでは話が合うわけがないのだ。
「例えこれが罠であろうともポッターとダンブルドアを殺す機会には違いない。ベラ、お前が指揮を執りホグワーツを襲撃するのだ」
「はい!我が君!」
「我が君、しかし……」
「アントニオン。お前の忠告は俺様も理解している。しかし、敵の実力が如何なるものなのか、まだあまり情報が無い。センチュリオンの戦力を見極める為というだけで、今回の襲撃は意義があるだろう?」
「………敵情視察という訳ですか?」
ヴォルデモートの言う通り、死喰い人たちはセンチュリオンの戦力をまだ十分に知らない。
機関銃、火炎放射器、迫撃砲といった多岐に渡る武器を操る敵は死喰い人勢と違い、実に連携が取れた戦いをしていた。
だが、敵も無敵では無い。
どこかに弱点がある筈だ。
「では、私もホグワーツ襲撃に参加します。敵の実力は私も知りたいところですし、私が居れば少なくとも我が方が全滅することは無いでしょう」
「良かろう。頼むぞ、アントニン」
「お任せを……」
ヴォルデモートの前で跪いたドロホフは無意識に杖を握りしめていた。
それは、恐怖からではなく、どちらかと言えば歓喜の感情からきたものである。
弱者を拷問することに喜びを感じるベラトリックスと違い、彼は常に強者との戦いを望んでいた。
それはアエーシェマ・カローと通じるところがある。
未知の敵との戦闘がここまで心震わせるものであるのか、とドロホフは一人昂っていた。
セオドールはダンブルドアの部屋にいた。
「作戦開始は明後日の夕方。詳細は紙面にて報告した通りです」
「目を通した。正直なところホグワーツを血で汚したくは無かったのじゃが……」
ダンブルドアはA4のコピー用紙を机から取り出し、暖炉の火の中に入れた。
このコピー用紙に作戦概要が記されてあったのだが、保全の観点から使用後破棄が義務付けられている。
それは、ダンブルドアであっても例外ではなかった。
「校長、我々は……」
「わかっておる。よーく分かっておる。敵の数を減らすチャンスを捨ててはいけないということじゃな。思えばわしも少し積極性に欠けていたのかもしれんな」
ダンブルドアはソファに座りながら溜息をついた。
ダンブルドアがその気になれば死喰い人を殺せる。
しかし、それをしなかったのは彼が善人であるからか、あるいは……。
「そろそろ時間じゃな。遠足に行こうかのう」
ダンブルドアがソファから立ち上がり、セオドールの手を取る。
今夜、セオドールはダンブルドアに連れられてオーストリアに存在する要塞型牢獄、ヌルメンガードに行く。
それはセオドールがかの有名なゲラート・グリンデルバルドに会いたいと願ったためだ。
「良いか。今から君が会いに行くのは世紀の大闇の魔法使いじゃ。あやつの言葉は魅力的に思えるかもしれんが、決して入れ込んではならんぞ」
「承知しています。ですが、今後ヴォルデモート勢力と戦う上で、自分は彼と会っておきたい」
「ならばもう止めることもないじゃろう。今から付き添い姿眩ましでオーストリアまで飛ぶ。しっかり掴まっておるのじゃ」
「ホグワーツ城内での姿眩ましは不可能な筈では?」
「校長権限で出来るのじゃ。偶にセストラルを使う事もあるがの」
セオドールはダンブルドアのまだ死んでいない方の手を握る。
刹那、視界が反転しまるで無重力の空間に投げ出されたようになった。
何の事は無い。
姿眩まし特有の現象だ。
セオドールは魔法省のレクチャー無しに姿眩ましと姿現しを習得していたので驚きはしなかった。
ヌルメンガード城はかつてグリンデルバルドが敵対勢力の者を投獄する為に建造した牢獄である。
入口には「より大きな善の為に」というグリンデルバルドの標語が刻まれていた。
見た目は城というよりも要塞であり、硬い岩で出来た壁が禍々しく反り立っている。
周囲は岩山で囲まれていて暗い雰囲気が醸し出されていた。
無論、中では姿眩ましをする事が出来ない。
ダンブルドアとセオドールは城門の前に姿現しした後に正規の手続きを経て、中に入った。
ヨーロッパ中の悪人が無造作に投獄されている光景にセオドールは衝撃を受ける。
中世の牢獄を思わせる部屋の中に如何にも悪人といった面の男女が所狭しと入れられていたのだ。
「ここにいる罪人はどういった罪を犯したのでしょうか?」
「闇の魔術を行使したり、人を殺めたりした者達じゃ。生涯、彼等はここから出てくる事はないじゃろう」
ヌルメンガードの最上階にある部屋がグリンデルバルドの収監されている場所だった。
牢獄の雰囲気は他の部屋とは変わらないものの、その大きさとかけられている防御魔法は異なっている。
「この部屋に鍵はかかっておらん。かけられているのは中から外へグリンデルバルドが出れなくなる魔法のみじゃ。わしはここで待とう」
グリンデルバルドが収監されている部屋の前でダンブルドアが言った。
「校長は一緒に来ないんですか?」
「わしが彼と会うことは二度と無いじゃろう」
松明で照らされたダンブルドアの表情から少し寂しさを感じたのはセオドールの気のせいだろう。
ヌルメンガードにグリンデルバルドを収監したのは他でも無いダンブルドア自身なのだから。
「良いか?くれぐれも……」
「分かっています」
セオドールはダンブルドアを残し、木製の扉を開けた。
部屋に入ると冷たい空気がセオドールの肌を刺す。
何とも言えない負の空気が部屋中に漂っていた。
部屋の入り口に無造作に置かれた食器類から、この部屋に人が居ることがわかる。
照明が一切なく、たった一つある窓から覗く月の明かりだけが唯一の光だ。
その月明かりに照らされて1人の男が部屋の中央に座っていた。
「来客とは………何年ぶりだろうか」
今にも消えて無くなりそうな弱り切った声を男は発した。
痩せこけて骸骨のような見た目の男だ。
脚には鎖が繋がれている。
年齢はダンブルドアと変わらず100を超えているだろう。
だが、青白く骨が浮き出た顔にはかつての美貌の面影が残っている。
全盛期は絶世の美男子だったに違いない。
その男こそ、かつて全世界を震え上がらせた闇の魔法使い、ゲラート・グリンデルバルドだった。
「私はホグワーツの生徒で、セオドール・ノットです」
「ホグワーツ……。ダンブルドアがホグワーツの生徒をこんなところに連れてくるとは思えんが」
暗がりの中でグリンデルバルドの目が光る。
弱り切っていたが、その声は第一印象よりもしっかりしていた。
「私がダンブルドア校長に頼んでここに来ました」
「それをダンブルドアが許したのかね?」
「交渉は少し手間取りましたが……」
「そうか。単刀直入に聞く。何故、こんな死にかけの過去の人間に会おうと思ったんだ?」
「あなたはヴォルデモートを知っていますか?」
「質問に質問で返すな。だが、まあ、ここに居ても情報は流れてくる。ダンブルドアは随分と手こずっているみたいだ」
「私は、いえ私達の組織は今、ヴォルデモートと戦争状態にあります。だが、勝算は極めて低い。あなたならヴォルデモート勢力の弱点がわかる筈だ。何せ……」
「世界を征服しかけた闇の魔法使いなのだから……か?」
「そうです」
「なるほど。大方、ヴォルデモートを倒す方法でも聞きにきたのだろう……。確かに、全盛期の私と私の組織があれば死喰い人ごときに遅れは取らないだろう。ヴォルデモートとやらの勢力は強いようで脆い」
「それは、何故ですか?」
「連中を見た事はあるか?下品な連中だろう?自らの犯罪行為をひけらかし、理念すらなく、破壊の限りをつくす。ただの餓鬼の遊びの延長だ」
「あなたの組織は違ったとでも言いたいようですね」
「ああ。私も破壊行為や殺人は数えきれないほどやってきた。しかし、それは私の理想を実現するための過程であり手段だ。快楽で殺人をしていた訳ではない。事実として、私は殺人を躊躇しなかったが、快楽を覚えた事は無い。それに、私の側近の部下は極めて優秀だった」
例外も居たがな、とグリンデルバルドは笑いながら付け加えた。
彼が一時、世界を征服しそうになったのは彼一人の力が強かった訳ではない。
グリンデルバルドに魅了された人間や同調した人間に優秀な人材が多く、少なくない政府関係者も協力していたからだ。
そのことは近代魔法史を学べばすぐに分かる。
「そうでしょうか?あなたは洗脳術に長けていたと聞きます。あなたの部下達は騙されていたのではないのですか?」
「それもあるかもしれん。私の部下達は両極端だった。私の理念に心から賛同していた聡明な者。私の話術により騙された愚かな者。しかし、どちらの者も恐怖により従っていたのではない。私の理念に賛同して従っていたのだ。そういう組織は強い」
センチュリオンの結束が強いのは共通の理念があり、その理念に誇りをもっているからだ。
かつてグリンデルバルドはマグルの危険性と魔法族の偉大さを啓示して仲間を集めた。
だが、ヴォルデモートの組織に理念はあるのかと言われれば疑問である。
ヴォルデモートはグリンデルバルドと同じくマグルを支配下に置くことを第一としているのだろうが、何故、それをしようとしているかが不明確なのだ。
グリンデルバルドはマグルの科学力と残忍さを危惧し、選ばれた種族である魔法族こそが世界を統治するに相応しいとして行動していた。
一方でヴォルデモートは純血に対するコンプレックスと差別感、そして暴力衝動から行動しているに過ぎない。
「ヴォルデモートは個が強い。故に組織を必要とせず、部下を駒としてしか見ていない。だから理念や真の目的を提示しないのだ。一方の死喰い人やヴォルデモート派の人間も唯の荒くれ者達だ。彼等は破壊衝動に駆られているに過ぎん」
「そこにヴォルデモートの弱点があるという事ですね。我々はヴォルデモート個人を倒す事を放棄してヴォルデモートの組織を壊滅させることを目指しています。それであれば対抗できる」
セオドールがヴォルデモートと戦争を行う上で出した結論は死喰い人の各個撃破だ。
それはヴォルデモートという魔法使いが強力過ぎて倒せないという結論からくるものであり、ならば彼の組織を壊滅させようと考えたのだ。
「ヴォルデモートは単独でも魔法界を支配出来るだろう。だから、お前達が死喰い人を壊滅させようが意味のない事だ」
「組織の力無しに国を征服出来る訳がありません」
「可能さ。君はまだ魔法というものがどれだけ万能で世界を統べる事のできる力なのかを理解していない」
かつて魔法に魅了されたグリンデルバルドとダンブルドアは魔法には無限の可能性がある事を知っている。
その気になれば世界を征服出来るほどに魔法は強力だった。
「魔法の万能性は理解しています。だが、たった一人で世界を征服できるのなら、とっくにこの世界は魔法使いの物になっているはず……」
「そうだ。無論、それを可能にするだけの魔法力を持った者は少ない。ダンブルドアなら可能かもしれん。私は自分の能力に自信はあったが、それでも単独で世界を征服出来るとは思っていなかった。だから、死の秘宝を求めたのだ」
「死の秘宝……!」
「魔法界生まれの君なら死の秘宝は知っているだろう。そう。魔法界には死の秘宝のような強力な力が無数に存在している。そして、それを相当の能力を持った魔法使いや魔女が使えば世界を統べる事は不可能ではないのだ」
死の秘宝は御伽噺の世界の物だと言われている。
無論、セオドールもそう思ってきた。
だが、グリンデルバルドは死の秘宝が現実に存在するものだと言っている。
「蘇りの石、透明マント、そしてニワトコの杖。これらが現存している…ということか」
「そうだ。だが、まあそれは今は関係ないことだ。ヴォルデモートも単独の力で魔法界とマグル界を制服しようと考えているだろう。とすれば、彼の恐れている事は容易に想像が出来る」
「……自身の弱体化、いや、自身の死か」
「そうとも。ヴォルデモートが恐るるのは死だ。故に彼は無敵の身体、つまり不老不死を目指すだろう。もしかしたらもうその方法を見つけているかもしれんがな」
セオドールはヴォルデモートがハリーに敗れても尚、生きていた事実を思い出した。
一般的にハリーに向けて放った死の呪いが何らかの防御魔法により跳ね返った為、ヴォルデモートは瀕死の状態になったと言われている。
では、何故ヴォルデモートがかろうじて生きていたのか。
それは、不老不死の方法を見つけたからとすれば合点がいく。
「仮にヴォルデモートが死を克服した存在だとすれば勝ち目は無い」
「あるさ。死を克服する手段は無い訳ではない。だが、死を克服した存在であっても所詮は人間の身体だ。魂を破壊する事は出来なくても、身体の機能を奪うことは可能だろう?」
「それが出来れば苦労はしない。ヴォルデモートはダンブルドアに匹敵する戦闘力を持っているんです。我々は近代兵器により強力な火力を保持していますが、それでもヴォルデモートを倒すことは出来ない」
「果たしてそうだろうか。魔法というのは、いや、魔法使いは無限の可能性を持っている。私もダンブルドアもそんな可能性に夢を見ていた。頭を使え若人。無限の可能性を秘めた魔法を駆使すれば何とかなるかもしれんぞ?君達はダンブルドアと共に戦うのだろう?」
グリンデルバルドの青い瞳がセオドールを見据えた。
とてもかつて世界を震わせた闇の魔法使いが言う台詞ではない。
投獄されてからの長い年月で彼の心境に何らかの変化があったのか。
それとも、彼は根っからの悪人では無かったのか。
どちらにせよ、グリンデルバルドが既に世界の脅威では無いことは明らかである。
「答えは得ました。ヴォルデモートは必ず我々が倒します。貴方に会えて良かった」
「私が誰かに"会えて良かった"と言われる日が来るとは思わなかった」
グリンデルバルドはフッと笑い、立ち上がる。
そして、牢獄の入り口の方へ声をかけた。
「おい!ダンブルドア!そこに居るんだろう?」
返事は無い。
だが、牢獄の外には確かにダンブルドアが立っている気配がした。
グリンデルバルドは言葉を続ける。
「私は自分の過去の行いに後悔は無い。だが、この私、グリンデルバルドの存在しない世界の方が大衆にとって幸せな世界であったということは理解している。我々の時代は終わった。私は次の時代をヴォルデモートのような輩に託したくはない。お前がこの子達に道を示し、未来を守ってやれ」
「………………………わかっておる」
長い沈黙の後、確かにダンブルドアはそう答えた。
それを聞き、グリンデルバルドは安心したように目を閉じる。
「頼んだぞ。もう二度と会う事も話す事も無いだろう。さらばだアルバス………」
「ああ。さらばじゃ……友よ」
これが事実上、ダンブルドアとグリンデルバルドの最後の会話となった。
グリンデルバルドはこんなに善人にして良かったのだろうか…
また、ダンブルドアがグリンデルバルドと対決をしなかった理由は血の誓いによるものですが、もちろんセオドールはその事を知りません。