ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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久しぶりに投稿です。

感想などありがとうございます!!!!!!


case 18 Blood, politics and the army 〜血と策略と軍事と〜

エスペランサが短機関銃によってピクシー妖精を一掃した出来事は「血の防衛術教場事件」だとか「ピクシーショック」といった名前で有名になった。

 

このピクシー妖精大量虐殺事件以来、ロックハートはエスペランサを極端に恐れるようになったし、また、闇の魔術に対する防衛術の授業では一切の実技訓練が行われなくなった。

仮にロックハートがピクシー妖精以外の魔法生物を実習の一環として持ってきたとしても、エスペランサが銃火器を使用して血祭りに上げ、生徒にトラウマを与えかねないと教師陣が判断して実習を禁止したという噂もある。

 

 

兎にも角にもエスペランサ・ルックウッドは今現在、ホグワーツの中で(悪い意味で)有名となってしまっているのである。

 

 

 

 

 

 

やっとこさ訪れた土曜日の朝。

 

まだ日が昇らないうちにエスペランサは薄暗いグリフィンドールの寮をこっそり抜け出した。

禁じられた森で体力練成を行うためだ。

 

フル武装をして走る武装走に、懸垂をはじめとした筋力トレーニングを行うことで、軍人としての身体を作るのは彼の日課でもある。

 

魔法族はあまり運動をしない傾向にあるため、日頃から身体を作っておけば格闘戦で優位に立てるだろう。

 

 

 

エスペランサは城の正門を抜け、朝靄で視界の悪い湖のほとりを小走りに走り、禁じられた森へと向かった。

 

城と禁じられた森の間にはクィディッチの競技場が存在する。

コロシアムのような見た目のその競技場を横切る時、彼の視界の端に見知った人物が映りこんだ。

 

ハリー・ポッターである。

 

ここ最近、散々な目にばかり遭っているハリーは箒を片手に食いディッチ競技場へと入っていった。

 

 

時刻はまだ4時台である。

 

朝練をするにしても早すぎる時間だろう。

 

 

「そう言えばクィディッチの練習風景って1回も見たことが無いな」

 

 

クィディッチの競技自体は1度見たことがあるエスペランサであったが、練習風景は1度として見たことが無い。

 

少しばかり興味が湧いた彼はしばしの間クィディッチの練習風景を見ていこうと重い、競技場内へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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時刻は6時をとっくに過ぎ、もうすぐ7時になる頃。

 

エスペランサはクィディッチ競技場の観覧席で座っていた。

 

グリフィンドールのクィディッチチームはまだ練習を始めていない。

何故か。

 

それはキャプテンのオリバー・ウッドの長すぎる作戦会議と演説のせいだった。

 

 

 

競技場の端で2時間以上も作戦の説明と演説を行うウッドは狂人である。

そうエスペランサは思った。

 

選手は誰もウッドの説明を聞いていないし、双子のウィーズリーは演説開始5分で居眠りを始めていた。

 

軍隊でもそうだが、ブリーフィングはこんなに長く行うものではない。

作戦目的と必要な情報のみを部下に把握させ、余計な情報は一切入れてはいけない。

 

2時間を越えるブリーフィングはナンセンスだ。

 

護身用に懐に入れていた拳銃のベレッタに油を差しながら、エスペランサはウッドの演説をボーっと見ていた。

 

 

 

やがてブリーフィングが終了し、ハリーたち選手はやっとのことで箒を手に競技場の中央へ歩いてくる。

 

時刻は7時を回ろうとする頃。

日は完全に昇り、競技場は明るく照らされていた。

 

 

「あ、エスペランサ。君もクィディッチの練習の見学?」

 

急に話し掛けられたエスペランサが振り向けば、朝食のトーストを手に持ったロンとハーマイオニーが立っていた。

彼らもハリーの練習を見に来たらしい。

 

 

「まあ、な。そう言えばもう朝飯の時間か」

 

 

空腹を感じたエスペランサは鞄から戦闘糧食を取り出す。

 

戦闘糧食といっても様々な種類があり、各国の軍隊によって内容も味も違う。

彼が持っているのは賞味期限がギリギリ米軍の横流し品(消費期限は開封後2年なのでおそらく食べられる)であるが、味のほうは期待していなかった。

 

何種類かの糧食を食べたことがあるが、一番最悪なのは英国軍のものだ。

 

ホグワーツで出される食事もそうだが英国料理は不味い。

戦闘地域に居たエスペランサにとって食料というのは食べられればそれだけで良いのだが、それでも英国の料理は微妙だったのだ。

 

加熱剤の入った袋に水筒の水を入れ、袋の口を閉じること数十秒。

袋の中に入れた水が沸騰し、もくもくと煙が出てきた。

 

 

「何それ?それもマグルの道具かい?」

 

 

興味を示したロンが聞いてきた。

 

 

「これは戦闘糧食って言って軍隊が野戦で食べる飯だよ。水さえあればどこでも加熱して食べられる」

 

 

そんなに旨くは無いけどな、と付け加えながらエスペランサは説明した。

 

 

3人で朝飯を頬張っている中、競技場に緑色のユニフォームを着た生徒が入ってきた。

スリザリンチームである。

 

 

「スリザリンの選手が来たぞ。合同練習でもするのか?」

 

「ありえないよ。あんな連中と合同練習するなんて!」

 

 

競技場にやってきたスリザリンチームの選手たちは、いざ練習しようとしていたグリフィンドールの選手達の下へ向かっていく。

 

非常に不穏な空気が流れる中、エスペランサは糧食のビーフテリヤキを貪っていた。

 

 

「何か揉めてるぞ。僕達も行こう」

 

「そうね」

 

 

ロントハーマイオニーが朝食を中断して競技場へ向かって行った。

 

エスペランサも仕方なしにビーフテリヤキを齧りながら歩き出す。

 

 

 

 

「今日このピッチを予約していたのは僕だ!今は僕達の練習時間だぞフリント!」

 

競技場では顔を真っ赤にしたウッドがスリザリンチームのキャプテンであるフリントに怒鳴っていた。

 

「出て行ってもらおう!」

 

「ウッド。俺達は今日、特別にスネイプ先生から競技場の使用許可を貰っている。競技場の予約はそっちが先かもしれないが、こっちも事情があるのでね。優先権はスリザリンにある」

 

トロールのような体格をしたフリントが言う。

 

「特別な事情?」

 

「これだ」

 

 

フリントはウッドにクィディッチ競技場の特別使用許可届けの紙を見せつけた。

 

 

“スネイプ教授はスリザリンチームの新規シーカー育成と調整の為にクィディッチ競技場を使用することを許可するものである”

 

 

「新規のシーカー?へー。誰だ?」

 

ウッドの興味が逸れる。

 

 

「僕だ」

 

 

フリントの後ろからマルフォイが出てきた。

 

 

「ルシウス・マルフォイの息子か」

 

 

フレッドが呟く。

 

 

「それにドラコの父上は我々にこれらを贈呈して下さった。どうだ?」

 

「ニンバス2001!!??」

 

 

スタンドからやってきたロンがスリザリン選手の持つ箒を見て驚愕する。

 

 

「ロン。ニンバス2001っていうのは凄い箒なのか?」

 

エスペランサはロンに訊ねた。

 

彼は箒事情に詳しくない。

ハリーの持っている箒がニンバス2000であるということも知らない。

 

 

「2000シリーズよりも高性能。クリーンスイープには圧勝するほどの箒だ」

 

フリントがロンの代わりにエスペランサに説明した。

 

成程、とエスペランサは思う。

マルフォイは財力に物を言わせて、選手全員に最新鋭の箒を譲渡する代わりにクィディッチの選手にさせてもらったということだろう。

 

無論、マルフォイの体格はシーカーに適しているし、飛行能力も悪くは無い。

順当にクィディッチの選抜を受ければメンバー入りできた可能性はあるが、それをせずにマルフォイは財力で無理やりチーム入りした。

余程、クィディッチがしたかったのか、それともハリーに負けたくなかったのか。

 

 

「グリフィンドールも資金を集めたらどうだい?もっとも、ウィーズリーには無理だろうけど」

 

マルフォイがあざ笑う。

 

「少なくともグリフィンドールのチームは誰一人、お金で選ばれていないわ。純粋に才能で選手になったのよ」

 

ハーマイオニーがきっぱりと言う。

 

その言葉に顔を引きつらせたマルフォイははき捨てるように言った。

 

 

「誰もお前の意見なんて聞いてない。この“穢れた血”め!」

 

 

穢れた血という単語はおそらく差別用語なのだろう。

 

マルフォイがハーマイオニーに穢れた血といった瞬間にグリフィンドールの選手は血相を変えて、マルフォイに飛び掛ろうとした。

女子生徒はマルフォイを罵り、フレッドとジョージは既に戦闘態勢に入っている。

 

マルフォイはフリントの背後に隠れていた。

 

殴りかかろうとする双子を必死で止めるエスペランサを他所に、ロンはセロハンテープでグルグル巻きになった杖をマルフォイに向けて呪文を放った。

しかし、呪文は逆噴射して、ロンの顔面に直撃する。

 

 

「ロン!」

 

「ロン大丈夫!?」

 

 

全く大丈夫ではない。

 

ロンは口の中から巨大なナメクジを次々に吐き出した。

 

 

 

「うえっ!?何ておぞましい光景なんだ」

 

 

ロンの姿にスリザリン生は大爆笑する。

 

グリフィンドールの生徒は誰も近づこうとしない。

 

 

「ハリー、ハーマイオニー。ロンをハグリッドの小屋へ運んでくれ。ここから一番近い救護所はあそこしかない」

 

エスペランサに指示にハリーとハーマイオニーはゲーゲー言うロンを抱えて競技場から出て行った。

 

 

 

「さて、と。で?穢れた血っていうのは一体何なんだ?」

 

エスペランサは地面に転げまわりながら笑うマルフォイに聞いた。

 

「あ?ははは。穢れた血っていうのはマグル生まれの下等な魔法使いや魔女のことさ。僕みたいな由緒正しい魔法使いは純血と言う」

 

マルフォイは得意げに言った。

 

「つまりマグル生まれの魔法使いの血液は穢れていると?」

 

「そうだ。ルックウッド。君もマグル育ちだ。だから穢れた血、もしくは血を裏切る者だぞ」

 

「………マルフォイ。お前、教養が無さ過ぎるだろ………」

 

 

エスペランサは呆れていた。

 

魔法界が科学と無縁であるのは承知していたが、もうじき21世紀となるこの世で未だにそのような中世風の考えが残っているとは。

 

 

「良く聞けスリザリン。血っていうのはな、酸素や二酸化炭素の運搬、栄養の運搬、体温調整に使われる唯の体液だ。赤く見えるのは赤血球に入ってるヘモグロビンって色素のせいだ。この血液の構成要素は血球成分と血小板、血漿成分なんだが、基本的にどの人間も同じ物質から成り立っている。マグルだろうと魔法使いだろうと、血液に含まれる成分に違いは無い。強いて言えば、DNAは他人と異なるが、DNAの他人との差なんて0.1パーセント程度って話だ。この意味が分かるか?」

 

エスペランサはポカーンとしているスリザリンの生徒に言い聞かせるように言う。

 

「要するにマグルだろうと、マグル生まれだろうと、お前らのところで言う純血だろうと、流れている血の成分に違いなんて無い。全員、ほぼ同じ血が身体に流れているんだ。穢れた血?純血?馬鹿馬鹿しい。血が汚れているって言うのは、生活習慣が悪くて血がドロドロになるって事だ。その意味だったらデブのクラッブの方が穢れた血だぞ。だいたいにして、マグル生まれのハーマイオニーや俺なんかよりもお前らのほうがよっぽど成績悪いじゃねえか。何が由緒正しい魔法使いだバーカ」

 

 

おそらくスリザリンの生徒はおろか、グリフィンドールの生徒も理解していない。

 

DNAや赤血球といった用語はマグル界では一般常識として存在するが、魔法界では知っている人間の方が珍しい。

科学が中世から発展していない魔法界では遺伝の研究などは殆ど行っていないのだろう。

だから、純血主義などといった慣習が残ってしまう。

 

もっとも、マグル界にも差別は存在すると言えば存在するのだが………。

 

 

「ふん。お前たちと僕の血が同じなもんか。これ以上マルフォイ家を侮辱するのは許さないぞ」

 

 

おそらくエスペランサの言うことの殆どを理解していないのだろう。

スリザリン生は代わる代わるに彼を罵る。

 

「くだらない価値観だ」

 

 

馬鹿げた価値観を持つスリザリン生の親は魔法会のトップに君臨している。

 

マルフォイの父やクラッブ、ゴイルの親等々。

古臭い純血至上主義を掲げる人間が政治の裏側に存在する英国魔法界は腐敗に満ちていそうだ。

 

そんな体制だから闇陣営に国をのっとられかけるという事案が発生するのだろう。

 

いつだって国を滅ぼすのは愚かな国民だ。

 

 

「純血主義の全てが悪だとは言わない。純血主義が生まれた経緯は俺も勉強しているからな。だが、極度に純血主義を崇拝したままで居るのは危険だぞ。いずれその思想は国を滅ぼす力になり得る」

 

エスペランサはそう言って競技場を後にした。

 

彼が去った後、微妙に気まずくなった空気の中、グリフィンドールとスリザリンの両チームは互いに干渉しないように競技場を半分に分けてクィディッチの練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ロンは午前中の間ずっとナメクジを口から吐き続けた。

 

その光景を目にしたくなかったエスペランサは非情にもロンをハリーとハーマイオニーに押し付け(ロンの口から吐き出される体長10センチのナメクジは生理的に受け付けなかった)図書館にこもった。

 

 

日差しの差し込む窓際の特等席に腰をかけ、のんびりと読書を始める。

休日の午後の図書館は閑散としていて、今は数人の7年生が勉強しているだけだった。

カリカリと羽ペンを動かす音だけが聞こえる。

 

エスペランサは読書といっても物語のようなものではなく戦史研究本や戦略戦術の本ばかりを読んでいた。

 

エスペランサの最終的な目的は魔法界及び非魔法界から全ての悪を滅ぼすことである。

昨年度はヴォルデモート一人を相手に戦いを挑んだが、行く行くはテロリスト集団や暴走した武装集団、闇の魔法使いの率いる軍団とも戦うだろう。

もしかしたら国家を相手に戦う必要性すらある。

 

エスペランサはたった一人でそれらを相手にしなくてはならない。

 

そうなった時必要なのは戦略戦術に関する知識だ。

過去の軍人の考えを頭に叩き込み、頭脳で戦いを有利に運ばなくてはならない。

 

それに、国際関係論や政治に関する知識も涵養しなくてはならないだろう。

 

1人でこの世界を救う。

何十年かかろうともその目標だけは達成させる。

 

 

 

「とは言うものの………。魔法の腕は半人前。所有する武器の火力はやっと1個小隊レベル。道は長く険しいな………」

 

椅子の背もたれに体重をかけ、一人ぼやく。

 

 

 

「お久しぶりです」

 

「んあ?」

 

 

天井を眺めながら考えにふけっていたエスペランサに声をかけてきたのはフローラ・カローであった。

 

金色の髪が窓から差し込む日差しで輝き、一瞬、見とれたエスペランサだが、すぐに煩悩を振り払う。

相変わらず感情に乏しい顔をしているが、心なしか昨年度よりも優しい顔つきになっていた。

 

そう言えばエスペランサが彼女と最後に会話を交わしたのは昨年度末のホグワーツ特急に乗車する時だ。

 

 

「久しぶりだな。最後に会話を交わしてから1ヶ月以上が経過してる」

 

「そうですね。2学年になっても相変わらず無茶苦茶なことをしているようですね、貴方は。スリザリンでも噂になってますよ。ピクシー妖精を木っ端微塵にした悪魔が居ると」

 

「トロールを爆破した時よりは可愛い所業だと思うんだが………。まあ、あの場に居合わせた生徒の何人かはトラウマになっちまったみたいだな。いまだにネビルは俺を見るたびに回れ右して逃走するし、女子生徒は近づかないし。それより、こんな休日に俺に何のようだ?ただ喋りに来たってわけじゃないんだろ?」

 

 

エスペランサはフローラの後ろに立つ男子生徒をちらりと見ながら言う。

 

フローラの後ろには2学年にしては背が高く、体格も良い。

エスペランサはこの生徒を知っている。

 

セオドール・ノットだ。

 

学年末試験でハーマイオニーに次ぐ2位の好成績を収めた少年である。

大体いつも一人で居ることが多く、マルフォイ一味とはあまりつるまない一匹狼を気取った生徒だ。

 

学力においてはハーマイオニーに劣るが、彼は頭の切れる人間で、ハーマイオニーが血の滲むような努力で学年トップの成績をたたき出したのに対し、ノットはほぼ無勉強で学年2位の成績を出した。

授業は1度聞けば理解してしまうほど賢い生徒らしい。

 

ノットの父親は、かつてヴォルデモートの部下であったという噂を聞いたことはあるが、ノット自身が純血主義者であるという話は聞いたことが無い。

 

 

「はい。セオドールがあなたと話したいと言ってきたので、連れてきました」

 

フローラが言う。

 

「スリザリン生が俺と話がしたいってのは珍しいな。何だ?」

 

「…………今朝、ドラコがお前の悪口を散々言っていた。お前が純血主義を否定した、とか」

 

 

ノットがゆっくりと喋る。

 

今朝、エスペランサがクィディッチ競技場でマルフォイに純血もマグル生まれも血の構成要素に変わりは無い話した出来事のことだろう。

 

 

「ああ。言った。純血もマグルも血は同じだってな。そう言うお前は純血主義なのか?」

 

「そうだ。僕も純血主義だ。だが、僕の思想とドラコの思想は異なるものだ。一緒にするな」

 

「純血主義に思想の違いなんて存在するのか?」

 

「僕は別にマグル生まれを劣る存在だとは思わない。現にマグル生まれのグレンジャーは僕よりも成績が優秀だった。魔法の能力の優劣は血統に左右されない。あたりまえのことだろう。それに血液の研究は魔法界でもマイナーではあるが進められている。血筋と魔法の腕は関係ないという研究結果は半世紀も前に学会で出されたものだ。まあ、ドラコの祖父が否定して、研究者を追放してしまったが」

 

「では何故、お前は純血主義なんだ?」

 

「純血主義のルーツは知っているか?」

 

「知ってる。大昔にマグルが魔法使いを恐れて迫害、虐殺をした。その際に魔法族を守るために魔法界からマグル関係者を根絶し、完全に魔法使いだけの世界を作ろうとしたことがルーツだったはずだ。中世の魔女裁判をはじめとした魔法族を非魔法族が迫害したことも純血主義に拍車をかけたらしいが」

 

 

サラザール・スリザリンがホグワーツにマグル生まれの生徒を入学させたがらなかったのもそれが理由である。

 

かつてはマグルも魔法族も同じ世界に住んでいたが、魔法を恐れたマグルたちが魔法族を根絶させようとしたことから、魔法族は裏の世界に逃げ込んだ。

魔法史の勉強をしていれば分かることだ。

中世の魔女狩りはそのもっとも具体的な例であると言えるし、米国が1940年代まで極度にマグルとの接触を拒み続けたのは、アメリカ大陸に開拓地を作ろうとした際にマグルと魔法族の間にゴタゴタがあったからだ。

 

元もとの純血主義というのはマグル生まれやマグルを差別するのではなく、魔法族をマグルの手から守ろうとするものであった。

 

 

「そうだ。純血主義というのは今の時代は古臭いものとして考えられているが、かつて魔法族が同胞を守ろうとして作り上げた歴史あるものなんだ。要するに文化だな。僕はマグル生まれを差別することには否定的だが、元もとの純血主義の思想を否定することも出来ない」

 

「成程。そういう考えを持った学生もスリザリンには存在するのか。案外、面白い寮なのかもしれないな。スリザリンは」

 

「そんなことは無い。僕の考えを理解する学生は少ない。フローラやダフネは特殊な存在だ。スリザリン生の9割は馬鹿げた純血主義者だよ」

 

 

特にドラコは、とノットは呟く。

 

 

「スリザリン生とはいえ純血主義に否定的な人間は若干名存在します。寮生の全員が純血でも無いですし」

 

そう言うのはフローラである。

 

「だがドラコのような伝統的でない純血主義者が魔法界の政治を牛耳っているのも事実だ。魔法省を裏から操っているのは殆どが金に物を言わせた馬鹿な純血主義者なんだ。そんな状態が数世紀に渡って続いている。英国の魔法界がマグル界に比べて文明の発達が遅いのは君ならもちろん気づいているだろ?それは、そいつらがマグルの発見した科学を否定し続け、見下し、拒んできたからだ」

 

「…………………」

 

「米国の魔法界はマグルと共同で研究を行う機関を20年前に創設した。米国がコンピュータや宇宙開発で世界トップに君臨しているのはそれが原因だ。ロシアはマグルと魔法使いの混成軍事部隊を編成した。日本では魔法界がマグルの科学技術を取り込んで研究を行っている。ふくろう便を廃止して電子メールとネットワークを構築したのは半年前のことだ。無論、ほとんどのマグルは魔法界の存在を知らないが、国の裏側では両陣営が手を組んでるんだ」

 

 

ノットは英国魔法界以外の魔法界がマグルと共同で研究を行っている事実をエスペランサに説明した。

 

エスペランサはマグル界の事情にはある程度精通していたつもりであるが、マグル界と魔法界が裏で手を組んでいる事実は知らなかった。

確かにここ数十年でマグルの科学は飛躍的に進歩している。

 

人類ははじめて空を飛んでからすぐに宇宙へ飛んだ。

VT信管を開発した十数年後には誘導弾を開発した。

90年代に入ってからはコンピュータとネットワークが飛躍的な進歩を遂げている。

 

その裏に魔法界との協力があったとすれば目まぐるしい科学の進歩も頷けよう。

 

英国の魔法界は現在、完全にマグルと交流を断絶しているようなものだ。

協力して研究開発などしているはずがない。

 

ルシウス・マルフォイをはじめとした権力者がマグルとの共同開発など認める筈もないからだ。

 

 

「魔法界において英国魔法界は後進国となってしまってきている。僕はこの現状を良しと思わない。ルックウッド。君はどう思うんだ?」

 

「どう思うって………。そもそも俺は英国の魔法界にさほど興味は無いし、ついでに言えば英国に愛国心を持っているわけでもない」

 

「そう……だろうな。だが、教えてくれ。英国魔法界はどうすれば良い?君なら現状を打破する方法が分かるんじゃないか?」

 

 

ノットは身を乗り出してエスペランサに聞いてくる。

 

その顔は真っ赤だった。

エスペランサはノットという少年はもっと冷めた人間だと思っていたが、それは違ったようである。

 

彼は本気で英国魔法界のことを考えている。

 

英国魔法界を立て直すためなら現在の純血主義者を敵に回す覚悟も出来ているのだろう。

 

 

「……………他国の魔法界がどういったものなのかは知らないが、とりあえず英国の魔法界は問題点が多過ぎる」

 

仕方なくエスペランサは自分の考えを話した。

もっとも、エスペランサは政治や国際関係に精通しているわけではない。

 

最近少し勉強したくらいで政治に関しては素人だ。

どうすれば政治が良くなるのか、なんて知る筈もない。

 

だが、素人のエスペランサでも英国魔法界の欠陥はわかる。

 

 

「まず、省庁。この国の魔法界には魔法省という省庁しか存在しない。この魔法省が全ての行政を行ってしまっている。要するに権力を一か所に集中してしまっているわけだ。魔法大臣や魔法省のトップがしっかりした人間のみで固められているならこれでも問題ないと思うが、今聞いた限りだと、純血主義者に金で動かされるような人間ばかりなんだろう。そんな連中が権力を全て持っているのは危険すぎる」

 

 

「なるほど」

 

「それに裁判所も魔法省の中に存在するんだよな。しかも裁判は魔法大臣や各官僚が行う。上訴も無いらしい。三権分立も糞も無い。野党も存在しない1党独裁の政府の大臣が裁判も行うというのはどうなんだ?大臣や官僚が間違いを犯したときに誰が大臣や官僚を裁くんだ?これじゃ独裁国家と変わらん。ナチスと同じだ。いや、選挙で選ばれて与党になったナチスの方がまだ若干マシか?」

 

 

魔法界の権力は全て魔法省に集中している。

地方自治体も存在しない魔法界では行政のすべてを魔法省の上層部が行っているのだ。

 

また、政党は存在せず、選挙も存在しない。

大臣も官僚も魔法省の上層部が勝手に決める。

民意は反映されていない。

 

この上層部がルシウス・マルフォイのような人間に牛耳られている現状は非常に危険である。

現に10年前は魔法界がヴォルデモート率いる闇の勢力に乗っ取られた。

 

 

「では、魔法省の組織を改革しなくてはいけないということか」

 

「確かに魔法省は欠陥組織だ。だが、俺は実は魔法省自体を改革する必要はないんじゃないかと思う。俺は政治に関してはずぶの素人だから俺の考えた方法で現状が打破出来るかは分からん。というか、俺は魔法界を変えるというより、二度と闇の勢力が魔法界を乗っ取らないようにする方法をずっと考えていたんだ」

 

「何でも良い。教えてくれ」

 

「魔法界に政党制が存在しないのも、選挙が存在しないのも、行政が一か所に集まっているのも、全ては人口が原因だ。英国に居る魔法使いと魔女は吸血鬼や人狼等を含めても3万人に満たない。正確な数字は出されていないが2万6千人程度とされている。その程度の人口しか無い国で政党や地方自治体を作る必要はないだろう。魔法省に入省する基準は相当に高かったはずだ。2万6千人程度の人口の中から入省の基準を満たす人間が複数の政党を作ったり、別個に裁判所を作れるほど居るとは思えない。圧倒的に人材不足だろう」

 

 

魔法界における国境はマグル界のそれとは異なるが、英国魔法界はマグル界の英国とほぼ同じ領土を持つ。

その国土の中には2万6千人程度の魔法使いしか存在しない。

 

ちょっとした町の人口である。

ならば政府というより町役場や市役所程度の規模の行政府で事足りるのだ。

 

 

「だから魔法省内を変革する必要は今のところあまりない。問題は過激な純血主義者がヴォルデモート亡き今でも政治の世界に居座っていることだろう」

 

 

エスペランサがヴォルデモートの名前を言った時ノットもフローラもビクッとした。

 

 

「ああ。すまん。例のあの人の傘下にいた人物が政治に口を出しているのが問題なんだ。だから現状を打破する方法としてはそれらの人間を排除するしかない。しかし、それは難しいだろう。魔法界で殺人は罪だし、敵は財力もある。社会的にも物理的にも排除できない。それに連中は元闇の勢力。魔法を用いた戦闘に関しては特化しているだろう。勝ち目は薄いな」

 

「何か……ルシウス・マルフォイや元闇の勢力の政治家と戦おうとしてませんか?」

 

フローラが怪訝な顔をして言う。

 

「ヴォル……例のあの人は消えてないんだ。昨年俺が戦ったようにまだ生きている。その現状で闇の勢力だった人間を生かしておくのは危険だと判断した。願わくば全員、物理的に排除したいんだが、それは困難。でも、再び闇の勢力が勢力を拡大させるのを抑止することは可能だ。そして、その抑止は元闇の勢力の人間と純血主義者を政治の世界から追放することが出来るかもしれない」

 

「抑止?」

 

「そうだ。抑止だ。約10年前に闇の勢力が拡大したのは魔法省に闇の勢力を排除できるほどの実力部隊が存在しなかったからだ。本来、国家というのは国内の治安維持のために圧倒的な戦力を持った治安維持部隊、つまり軍を持つ必要があるんだ。政府直属の軍があれば国民は無暗に内乱や大量虐殺などを行おうとはしないだろ?でも、魔法省にはそれが無かった。だから例のあの人の勢力を止められなかった」

 

「でも、それはマグル界の話でしょう?魔法使いは全員、武器である杖を持っています。杖を持った闇の勢力を押さえつけることが出来るほどの軍を魔法省が持つことが出来るでしょうか?」

 

フローラが言う。

 

「米国では国民に銃を持つ権利が与えられているが、政府は銃を遥かに凌ぐ武器を持った軍を持っている。要は火力の問題だ。杖とマグルの兵器を保持した魔法使いの軍隊に闇の勢力が勝てると思うか?俺はマグルの武器を持ち、尚且つ魔法を使う魔法界の軍隊を作るべきだと思っている。無論、構成員は全員、闇の魔術を嫌う人間でなくてはならないが………」

 

「魔法使いの軍隊………」

 

「そうだ。しかもこの軍隊は当初、魔法省直属ではなく完全に独立した治安維持部隊とする。魔法省の上層部が腐っている現状で魔法省直属の軍隊を作るわけにはいかないからな。この治安維持部隊は闇の勢力が少しでも勢力を伸ばそうと行動したら即座に攻撃を加え、鎮圧する。また、一般市民に攻撃をしようとする勢力があればこれも潰す。そう。治安維持部隊がある限り、闇の勢力の拡大は出来ないし、したところで潰され、また、武力で市民を攻撃しようものなら同様に潰されると敵に思い知らせておけば良いんだ。そうすれば約10年前のように例のあの人の天下は訪れない。これが抑止力だ」

 

 

 

ここ数日でエスペランサが導き出した結論である。

 

マグルの武器を持ち、魔法を使う治安維持組織を作り、少しでも罪のない人たちへ攻撃が加えられようものなら直ちに出動する。

この組織がある限り英国だけでなく世界各国で行われる理不尽な暴力を根絶することが出来るのだ。

 

理想論ではあるが、エスペランサはたった一人でこれを行おうと思っていた。

 

 

 

「理想的だ。本当にそんな組織を作ろうとするのは非常に難しいが………。でも、作れたのなら………。君はそれを作ろうとしているのか?」

 

ノットが聞く。

 

「まあな。俺は英国の魔法界なんてどうでも良いが、理不尽な暴力は根絶したい。闇の勢力も、マグル界の武装組織も根絶するにはこれが一番だ」

 

 

しばし沈黙が続く。

 

 

 

「なあ。ルックウッド。僕もそれに協力させてくれないか?」

 

「え??」

 

「協力させてくれ。君のその考え、気に入った」

 

 

思いもよらぬ言葉であった。

 

同学年の、しかもスリザリンの生徒がエスペランサの考えに同調し、協力を申し出てきたのだ。

 

 

「分かってるのか?俺のしようとしていることは現実的でないし、危険も伴う。スリザリン生を敵にするかもしれないんだぞ?」

 

「関係ない。僕は君に協力する。君にとって協力者がいるのは悪くないことだろう?それに一人で軍隊が作れると思っているのか?」

 

「…………………」

 

「私も協力させてくれませんか?」

 

「フローラもか!?」

 

「私は魔法界や政治に興味はありませんが、あなたの言う理不尽な暴力というものには否定的な考えがあります。微力だとは思いますが、これでもあなたより試験の点数は良いですよ?協力させてください」

 

 

ニコリともせずにフローラは言う。

 

エスペランサにとって協力者の存在はありがたい。

しかし、治安維持軍の創設も闇勢力との対立も、将来的に行うであろう世界各国の武装集団との戦闘も危険が伴う。

エスペランサはノットとフローラの命の保証を出来るほどの力は持っていない。

 

 

 

しかし…………。

 

 

彼はかつて自分が所属していた部隊を思い出した。

 

そこには仲間が居た。

仲間が居なければ死線は潜ってこれなかっただろう。

 

 

 

長考の末にエスペランサは「………頼む」と一言発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

将来、英国魔法界に多大なる影響を及ぼすことになり、ヴォルデモートとの戦争時に強大な力を発揮した“ある部隊”はホグワーツの図書館で結成され、たった3人からはじまったとされる。

 




ちょっと沈黙の艦隊の影響を受けてるかもしれません。

魔法大臣は公式では選挙で選ばれるみたいですね。
魔法界の人口は適当に決めました。ホグワーツの生徒の人数的にこのくらいかな……と。
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