遅くなってすみません。
C言語はもう嫌だ………
季節は変わって本日はハロウィンの日である。
件のトロール事件からもう1年が経つ。
時の流れは速いものだとエスペランサは思った。
ホグワーツのハロウィンは豪勢な料理が並んだり、煌びやかな飾りつけがされたりする。
生徒は皆、それを楽しみにしていた。
無論、エスペランサも例外ではない。
ハロウィンの豪勢な料理を食べることを待ち望んでいた彼は週の初めからソワソワとしていた。
何せ、数年前までは戦闘糧食や部隊で出される味気のない飯を食べていたのだ。
ハロウィンの御馳走をありつけるなんて夢のようである。
そんなエスペランサの楽しみを奪ったのは他ならぬハリー・ポッターだった。
何をどうしたのかは知らないが、ハリーはほとんど首なしニックというグリフィンドールのゴーストにニックの絶命日パーティーへ参加するという約束をしてしまったのだ。
ハリーは一人で行くのは心細いと言ってエスペランサたち3人をこのパーティーに誘った。
ロンとハーマイオニーは好奇心から即答で参加を承諾したが、エスペランサは首を縦に振ろうとしなかった。
ゴーストばかりが参加する辛気臭いパーティーに人間の食べれるような御馳走が並ぶわけがない。
しかし、ハリー達3人を差し置いて一人、ハロウィンのパーティーに参加するのも気が引けたので、結局、参加を決意してしまったわけである。
「来るんじゃなかった………」
エスペランサはパーティー会場である地下牢で嘆く。
暗い地下牢には無数のゴーストが漂い、そのためか、凄まじい冷気が漂っている。
音楽を奏でるゴーストもいるが、その音楽というのが黒板を爪でひっかくというものなので甚だ不愉快である。
料理もあるにはあるが、完全に腐ったポテトや、蛆のたかる肉、糞のようなパイなど食べた瞬間に自分もゴーストの仲間入りしてしまいそうなゲテモノばかりだった。
何故、腐った食べ物が置いてあるのかというと、腐って刺激臭を放つ食べ物をゴーストが通ると、ゴーストはその味が分かるからだという。
自分は絶対にゴーストにだけはならないと心に誓いながらエスペランサは自分たちの生首でホッケーを始めたゴーストを眺めていた。
ハリーたちはニックと喋っているがその顔はお世辞にも楽しいとは言い難い様子である。
「とっととこの場から退避して、大広間で食事をとろう」
長居すればする程、気分が悪くなると思った彼は隙を見て地下牢から逃げようとした。
「君。そこの生きている生徒。君は他の生徒とは違うな」
そそくさと地下牢の出口から逃げようとしていたエスペランサをゴーストの一人が呼び止める。
「え?」
「君のことを先程から観察させてもらっていた。君は戦場を体験したことがあるのだろう」
エスペランサを呼び止めたゴーストはふわふわと漂いながら近づいてくる。
40代くらいの年齢で死んだのだろう。
他のゴーストに比べると割と若い見た目をしたゴーストだ。
だが、エスペランサはゴーストの年齢よりも、ゴーストの服装の方に興味を持った。
「………その服……。大戦中の合衆国海兵隊の戦闘服に似ている」
薄汚れたOD色の戦闘服。
腰に付けた弾帯。
弾帯につけられた弾納。
間違いない。
第二次大戦中に米国海兵隊が着ていたものだ。
「おう。私の服装が分かるのか。これは私が戦死した時に着ていたものだ」
「何故合衆国の軍人が英国に?いやそれよりも、何故魔法界でゴーストになっているんだ?ゴーストになれるのは魔法族のみだったはずだが」
軍服を着たゴーストは愉快そうに笑いながら説明する。
「君はノルマンディー上陸作戦を知っているかね?」
「勿論だ。一般人でも知らない人は少ないレベルの有名な作戦。それがどうしたんだ?」
「私は魔法使いではあるがあの作戦に参加して戦死したんだ。そして、ゴーストになった。ゴーストになったあと、私は英国の魔法界に辿り着いた。今日はゴーストの仲間に誘われてホグワーツに来たのだよ」
「魔法使いが……ノルマンディーに?」
魔法族がマグルの戦争に関与することは稀である。
というのも、マグルの世界と魔法界では国境が違うし、魔法族はマグルに存在を知られないようにしているからである。
現在は裏でマグルと魔法族が手を組んで科学技術を発達させている米国であるが、1940年代まで米国魔法省は極端にマグル界との接触を拒絶していた。
これはニューヨークで起きた闇の魔法使いであるゲラート・グリンデルバルド絡みの事件が原因であると考えられているが、それ以前に、当時の米国魔法省であるマクーザがマグル政府と何の関りも持っていなかったからに他ならない。
マクーザではラパポート法という法律により、マグルと魔法族の婚約や友人関係も禁じていた。
故に米国の魔法族が1940年代の二次大戦に参加することはあり得ないと言える。
「今でこそ米国はマグルと魔法族が繋がりを持っているが、大戦時は一切関りを持とうとは思っていなかったのだよ。だがな、やはりそれには限界があった。魔法族の存在を悟った米国マグルの政府は密かにマクーザと接触を図ったんだ。無論、非公式にな」
「何故マグルは魔法族に接触を?」
「第二次世界大戦時、魔法族と共同で戦闘を行っていなかったのは米国だけだ。ドイツやフランスはマグル界に魔法族が割と溶け込んでいたから魔法族は戦争に積極的に参加しようとした。魔法族も自分の住む地域に爆弾が落ちてきたのでは溜まったものではないからな。非公式に魔法族の部隊が結成し戦闘に参加させた。ダンケルクの撤退作戦はフランス魔法族の協力があってこそ成功したものであったし、ドイツのアルデンヌ突破は魔法を活用していた」
「知らなかった………」
エスペランサは軽く驚く。
今まで魔法族とマグルは裏で技術開発のために協力することはあっても、戦争や紛争において協力していたとは夢にも思わなかったためだ。
「ノルマンディー上陸作戦を立案した時、米国政府が懸念したのがドイツ軍に協力していた魔法使いの存在だ。規模にしたら1個中隊にも満たない人数の魔法使いだが、それでも十分な脅威だった。それに、魔法族と共同戦線を張っていた日本軍に米軍は太平洋で苦戦を強いられたことが少なからずあったから必要以上に警戒していたのだろう。兎にも角にも、米国政府は魔法族の力を借りたがっていた」
ゴーストは懐かしむように話す。
「それで、米軍に魔法使いは協力したのか」
「最初は渋ったが、結局参加した。戦後、米国内で魔法族の地位が保証されると考えてな。マクーザの中に存在した警察組織の中でも優秀なものを集め、部隊を編成した。表向きには米国海兵隊が密かに育て上げた特殊部隊という扱いだったが、その実は魔法族による部隊であった。そこに私も参加した。任務はノルマンディーで待ち構えるドイツ魔法族部隊の殲滅。いや、もう悲惨だったよ。あんな地獄のような戦場は見たことが無い」
「ノルマンディー………」
ノルマンディー上陸作戦がどのような戦場であったかはある程度知っているエスペランサであったが、実際の戦場は想像以上に悲惨であったのだろう。
エスペランサも地獄のような戦場は経験したし、故郷の仲間が全員殺されたあの光景は彼に大きなトラウマを残している。
しかし、そのエスペランサの経験した戦闘はノルマンディーの戦闘に比べたら大したことは無いのかもしれない。
「君も戦場を経験しているようだが、私の経験した戦場はもはや戦場ですらなかった。そんな場所で私は戦死したのだよ」
「…………………」
「君は……今の平和を大切にした方が良い。あの戦いに比べたらヴォルデモートとやらとの戦争なんてちっぽけなものだ」
かつて地獄を経験したそのゴーストは呟くようにそう言った。
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ハリーたちがこれ以上絶命日パーティーに居るのは限界だと言って会場から逃げ出したので、エスペランサも一緒に地下牢から抜け出して大広間で行われているであろうハロウィンパーティーに参加しようとした。
大広間に行く途中でエスペランサはノルマンディーで戦死したというゴーストの話してくれた魔法族とマグルの戦争における関係をハーマイオニーに話して聞かせた。
「すごいわ!その話って魔法史の教科書には載っていない話よ。歴史的発見だわ。すぐにでも発表すべき事柄ね」
予想通り、ハーマイオニーは食いついてきた。
「俺もそんな歴史的事実があったとは驚きだよ」
「僕はそんな歴史の話よりも早く腐っていない食べ物が食べたい気分だ」
腹の虫を鳴かせながらロンが言う。
「多分飯はもう完売だろ。デザートが残ってれば御の字かな」
エスペランサは腕時計を見ながらぼやく。
そう言えば魔法界ではデジタル時計は機能しないからアナログ時計を使っているのだが、そのせいで果たして腕時計に示された時刻が正しい時刻なのかを確かめる術が無かった。
「ねえ。何か聞こえない?」
突然ハリーがそんなことを言い出した。
「は?」
「ほら。また!」
エスペランサは耳を澄ませるが何も聞こえない。
「幻聴だろ。俺は何も聞こえないぞ」
「私もよハリー」
「そんなことはないよ。また、あの声だ。ロックハートの部屋で聞いた時の………」
ハリーはロックハートの部屋で罰則を受けていた時に「引き裂く」だとか「殺す」だとか物騒なことを言う声を聴いたらしい。
エスペランサはロックハートと3時間も同じ部屋に居たら幻聴が聞こえるくらいには精神的にやられるのではないかと思っていた。
「ほら。引き裂いてやるとか、八つ裂きにしてやるとか今も言ってる」
「何も聞こえないよハリー」
「ロンの言う通りだ俺達には聞こえない」
ハリーは声が聞こえるらしい方向へとどんどん歩いていく。
その歩いていく方向は残念ながら大広間とは逆の方向であった。
「おいおい。デザートはどうすんだよハリー」
エスペランサはハリーを止めようとするが、ハリーは聞く耳を持たず、暗い廊下をどんどんと進んで行ってしまう。
そんなハリーを追いかけるようにロンとハーマイオニーも追いかける。
ハリーは玄関ホールへ続く階段を駆け上がり、「誰か殺すつもりだ!そう言ってる!」と叫んだ。
「大丈夫か………あれ。本格的に精神科を勧めるべきだと思うが」
エスペランサはそうからかいつつも念のために懐から短機関銃UZIを取り出して、初弾を送り込んだ。
4人は3階まで駆け上がり、ハリーの進む方向へ走る。
やがて誰も居ない廊下へと辿り着いた時、ハリーは走るのを止めた。
「声が止まった………」
ハリーが言う。
嫌な予感がしたのでエスペランサは短機関銃を構えながら周囲の警戒を行い始めた。
「あ、あれ見て!!!!!」
ハーマイオニーが悲鳴に近い声で叫ぶ。
咄嗟にエスペランサは短機関銃の銃口をハーマイオニーが指さす方向へと向け、引き金に人差し指をかけた。
「……なんだ…これ」
照明代わりに取り付けられた蝋燭の炎に照らされて壁に書かれた血文字がテカテカと光っていた。
30センチほどの文字の羅列が赤い血で書かれている。
“秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ”
「秘密の部屋?」
「何だろう。あそこにぶら下がってるの…………」
ロンが血文字の横にぶら下がる“何か”を指さす。
「あれは…………!?」
エスペランサはぶら下げっている“それ”の正体を見て顔色を変えた。
何故か一面水びだしの廊下をバシャバシャと走り、エスペランサは“それ”の元へ近づいた。
「ミセス・ノリス………」
見間違うはずがない。
何度もフィルチの部屋に通ったエスペランサはミセス・ノリスに懐かれていた。
大多数の生徒はこの猫をフィルチに告げ口する猫として毛嫌いしていたがエスペランサは懐いてくれる“彼女”が好きであった。
その彼女が冷たくなって吊るされている。
ギリッとエスペランサは奥歯を噛んだ。
思わず軽機関銃の握把を握る手に力が入る。
「……………クソッタレが」
エスペランサはミセス・ノリスを床に下ろしてやった。
目はカッと見開かれ、毛は逆立っている。
身体は石のように硬直し、氷のように冷たくなっていた。
「ここを離れた方が良い」
ロンが言う。
「でも………」
「ハリー。ここに居たら僕たちが疑われる。特に君は目立つから………」
「そうね………」
3人はこの場を去ろうとするが、エスペランサは動かなかった。
悲しみ。
怒り。
困惑。
あらゆる感情が湧いてくる。
彼はその全ての感情を必死に押し殺し、冷静な思考を取り戻した。
敵は何だ?
手段は?
目的は?
考えを巡らす。
そんなエスペランサを余所に、ハロウィンのパーティーを終えた生徒たちが続々とこのフロアに集まってきていた。
がやがやと煩い生徒の声はエスペランサに届いていない。
彼はミセス・ノリスの状態と、周囲の状況から考えられる敵の情報を頭の中で整理していた。
「まずいよ。エスペランサ。他の生徒がみんなここに来る。この廊下は大広間と寮を繋ぐ廊下の一つだからもっと大勢の生徒が来る」
ロンが警告するが、時すでに遅しであった。
大広間からやってきた生徒たちが、まず、壁に書かれた血文字を見て声を上げる。
そして、その次に冷たくなったミセス・ノリスに覆いかぶさるようにして座り込むエスペランサを見て悲鳴を上げた。
「何だこの文字!!!!」
「秘密の部屋?継承者!?」
「きゃあああああ!」
「ミセス・ノリスが死んでる!」
「あいつルックウッドだ!ピクシー妖精を虐殺したやつだ!」
数十人の生徒が口々に言う。
流石にエスペランサも生徒たちが集まってきたことに気づいた。
「違うぞ。これは俺の仕業ではない。まあ、証明は出来ないが………」
恐怖にひきつった顔をした生徒たちに向かってエスペランサは弁解をしようとした。
その時だ。
「継承者の敵よ気を付けろ。次はお前たちの番だぞ穢れた血め!!!」
いつのまにか生徒たちの一番前まで来ていたドラコ・マルフォイが目をギラギラさせ、にやにやと笑いながらそう言った。
「マルフォイ………お前、今何て言った?」
エスペランサは一切の感情が無い声でマルフォイに聞き返す。
マルフォイは相変わらず、ニヤけた顔で「次はお前たちがその馬鹿猫のように死ぬんだ。穢れた血め」と言ってのけた。
意地の悪い薄ら笑いを浮かべたマルフォイであったが、その笑みは長くは続かなかった。
薄ら笑いをしたその顔にエスペランサの拳が突き刺さったからである。
鈍い音がしたかと思えば、マルフォイが2メートル後方に吹き飛ばされていた。
特殊部隊で近接格闘戦闘訓練を積んだ、エスペランサの拳は時に凶器となり得る。
年齢にしては体格の良いエスペランサであったが、それでも12歳の子供である。
格闘戦で大人の兵士に勝てる筈はない。
だが、相手が同年代の温室育ちで、何の運動もしていない子供だったら話は別だ。
「がっ!!!い、痛い!!!?????ううううう」
滝のように血を鼻と口から流すマルフォイが水びだしに廊下を転げまわる。
廊下にできた水たまりは赤く染まっていた。
周囲の生徒はクラッブとゴイルを含めて、全員静まり返り様子をうかがっている。
「ち、父上が知ったら……ごほっ……おまっ!!!!」
歯が折れたか、鼻が折れたかしているマルフォイは上手く活舌が出来ていない。
そんな彼の襟首をエスペランサは左手だけで掴み、持ち上げた。
そして、右手に持った銃を突きつける。
この時、エスペランサは勘違いをしていた。
「次はお前たちの番だぞ」という言葉から、ミセス・ノリスを襲った人間がマルフォイであると勘違いしていたのである。
少し冷静に考えればわかったことではあるが、頭に血が上り、戦場モードになったエスペランサは歯止めがきかなかった。
「貴様!!!!どこまで腐ってやがる!!このノリスを見て何故笑ってられる!!!命がひとつ消えたんだぞ!貴様は命を何だと思ってるんだ!」
「ぐっぐるし………」
「何が穢れた血だ!前にも言ったけどな!俺からしてみれば純血もマグル生まれもマグルも流れる血は同じで赤いんだよ!!何が次はお前たちだ、だ。貴様はマグル生まれなら罪のない人間でも殺されて良いと思ってるのかっ!!!!」
「エスペランサ!やめろ!」
「やめて!!!」
ロンやハーマイオニーがエスペランサを止めようとしたが、彼らはエスペランサの“本気になった時の目”を見て怖気づいた。
やがて、フィルチやロックハート、スネイプがやってきて魔法で強制的にエスペランサを抑えるまでエスペランサによるマルフォイへの一方的な攻撃は止むことが無かった。
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ミセス・ノリスは死んでいなかった。
ダンブルドアによってノリスが石にされているとわかった瞬間、フィルチは号泣し、エスペランサはほっとした。
とりあえず死んではいない。
マンドレイク薬を使えば蘇生も出来る。
その事実にフィルチもエスペランサも一応の安堵をしたわけだ。
と、同時にミセス・ノリスを石にするほどの魔力をマルフォイが有していたとは考えにくく、犯人はマルフォイのほかに居るとエスペランサは知ることになった。
犯人がマルフォイでなかったと知っても尚、彼はマルフォイに憎悪の感情を向けていたが………。
ロックハートの部屋に集まったフィルチ、ダンブルドア、スネイプ、ロックハート、マクゴナガルは机に載せられたミセス・ノリスを囲むようにして立っている。
その横にハリー、ロン、ハーマイオニー、エスペランサが立っていた。
ちなみにマルフォイは医務室に運ばれている。
ロックハートの部屋はあちらこちらにロックハートの肖像画が飾られ、その全員がウインクをしているという不愉快極まりない部屋であった。
蝋燭の炎によって石になったミセス・ノリスが薄暗く照らされる。
電気が通っていないホグワーツでは松明や蝋燭によって夜は照明がつけられているが、蛍光灯に慣れたエスペランサはこの薄暗さが不便だと度々感じていた。
「アーガス。ミセス・ノリスはマンドレイク薬が完成すれば治るじゃろう。幸い、この学校にはマンドレイク薬を調合できるセブルスがおる」
ダンブルドアが目を泣き腫らし、すすり泣いているフィルチを宥める。
ロックハートが「私も調合できますよ。寝てても出来ます」と言うのはハーマイオニー以外の全員が無視した。
「問題は誰がどうやって猫を石にしたか……じゃが」
「あいつがやったんだ!」
フィルチが叫ぶ。
「ポッターはわしがクイックスペルで魔法を学ぼうとしていたのを知っていた!!!あいつがやったんだ!あいつは、わしがスクイブだって知っている!」
「無理じゃ。2年生にこのような闇の魔術は使えん」
「先生!僕はやっていません。スクイブが何かも知りません!」
ハリーが顔を真っ赤にして弁明しようとした。
「校長。少しよろしいですかな?」
今度はスネイプが発言する。
「ポッターたちは間が悪く、その場に居合わせただけかもしれません。このような魔術をポッターたちが使えるとは思えませんし………いや、ルックウッドなら可能性はあるが……」
「自分がミセス・ノリスを襲う理由がどこにあるのですか?それに俺なら銃を使いますよ先生」
「君は拳も使うようだが?」
スネイプがエスペランサを睨みつける。
おそらく彼がマルフォイをぶん殴ったことを根に持っているのだろう。
「それに、ポッターたちは大広間のパーティーには参加していなかったようだ。それは何故だね?」
「それはニックの絶命日パーティーに参加していたからです!あの場にはゴーストが100人はいましたから誰かしら証明してくれるはずです」
ハーマイオニーが説明した。
「ではその絶命日パーティーの後、なぜ3階の廊下に居たのかね?大広間に行かず………。絶命日パーティーに人間の食べるような物が出るとは考えにくいが?」
スネイプの質問にハリーとロンは口をパクパクさせる。
ハリーが幻聴を聞いたという話をここで言ったところで誰も信じないだろう。
仕方なくエスペランサが話をでっちあげることにした。
「大広間に行く途中で3階の廊下から物音が聞こえたものですから。パーティーの途中であるにも関わらず誰も居ない廊下から物音が聞こえるのは不自然であると考えて様子を見に行ったところ今回の事件に出くわしたわけです」
「……………成程。しかし、その証言は信憑性に欠けますな。やはりしかるべき処置が必要かと。例えば、ポッターをクィディッチのチームから外すとか……」
「スネイプ先生。ミセス・ノリスはクラブで殴られたわけでもないのですよ?クィディッチは関係ありません!」
マクゴナガルがぴしゃりと言った。
「そうでしょうな………。しかし、ルックウッドはミスター・マルフォイに危害を加えた事実があります。これに関しては処罰が必要でしょう」
「そうですね。ルックウッド。あなたには失望しています。まさかあのような暴力を………」
「失望してくれて結構です。ですが、ここ数日のマルフォイ学生の差別発言や、命を軽視して他者の死を喜ぶような態度は目に余るものがあると思います。奴は魔法界では現在のところ差別用語として扱われている“穢れた血”という言葉を何のためらいもなくハーマイオニーに向けていました。しかも、ノリスの次はマグル生まれの生徒が殺されれば良いという非道徳的な発言までしています。正直言って自分はもう2、3発殴ってあの腐った性格を叩きなおしたいところです」
エスペランサはいまだに怒りが収まっていなかった。
冷静さを取り戻さなくてはならないと思いつつも、罪のない人の死に敏感になっている彼にとってマルフォイの発言は許せない部分がある。
「ルックウッド。物理的な危害を加えたのはお前だ」
「では、ハーマイオニーには泣き寝入りしろ、と言うんですか?もしやスネイプ先生もマグル生まれの生徒のことを穢れた血と呼んで差別してるんですか!?」
「吾輩はそのような言葉を使わん!!!!」
エスペランサの言葉にスネイプが声を荒げる。
これにはエスペランサも驚いた。
「ミスター・マルフォイの発言に関しては吾輩が注意をしておく。ルックウッド。だからといってお前の罪は消えない。グリフィンドールからは50点減点」
「セブルス。落ち着くのじゃ。エスペランサ。君もじゃ」
ダンブルドアの声に2人とも我に返った。
「エスペランサ。君は動揺しすぎておる。君はミセス・ノリスのことが気に入っておったようじゃな。親しき者が襲われたことで殺気立つのは分かるが、怒りの矛先を間違えるでないぞ」
ダンブルドアはその青い瞳でエスペランサをじっと見ていた。
「失礼しました。失言でありました………」
「疑わしきは罰せずじゃ。生徒たちはもう遅いから寮に帰って休むと良い」
エスペランサたちは重い足取りで寮へと帰っていった。
執筆にあたって秘密の部屋を久々に読み返しましたが、やっぱり面白いですね。
大戦中のマグルと魔法族の関係はオリジナルですが、マクーザの設定はポッターウォッチから拾ってきています。
最近プライベートライアンを視聴したのでノルマンディーはどっかで出したかったわけで……