ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

27 / 112
世間はクリスマスですが自分は仕事です。

感想やお気に入りありがとうございます!


case 24 Spider panic 〜スパイダー・パニック!〜

エスペランサが図書館前の廊下にたどり着いた時は、既に手遅れな状態であった。

 

 

冷たい床にハーマイオニーと、もう一人レイブンクローの女学生が倒れている姿を見た瞬間、エスペランサの頭の中は真っ白になる。

 

床同様に冷たくなり、目を見開いたまま石にされた2名の学生の姿を見て彼は発狂する。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

廊下中に響き渡るような声で叫んだエスペランサは何度も何度も拳で床を殴る。

 

石で出来た床を殴り続けた結果、拳は皮がめくれて血だらけになったが、彼は気にしなかった。

 

 

使う必要のなくなったM4カービンを乱暴に床に叩きつけた後、エスペランサはハーマイオニーの元へ這うようにして近づく。

 

 

 

発狂し、冷静さを殆ど失っていた彼だが、根っからの軍人であるが故に、理性を失いつつも、被害者の生死や外傷の有無を調べるという行動を無意識に行った。

 

 

眼光は無い。

 

顔の筋肉は硬直し、目は恐怖で見開いている。

 

目立った外傷はない。

脈も無し。

 

肌は石のように堅い。

 

 

 

「ああ………。死んでは……いなかったか………」

 

 

エスペランサ若干、安堵する。

 

最悪の状態は免れたようであった。

ハーマイオニーも、もう一人の生徒も石になっただけで死亡はしていない。

 

マンドレイク薬があればいずれ、元に戻るであろう

 

 

 

だが………。

 

 

 

「そうか。今度も………俺は守れなかったか」

 

 

冷静さを取り戻したエスペランサはそう呟く。

 

ミセス・ノリス、コリン・クリービー。

 

彼はもう犠牲者を出さないためにセンサーやカメラを設置し、監視した。

寝る間も惜しんで怪物から生徒を守ろうとしたが、それは無駄だったのだろうか…………。

 

 

これだけ魔法を使えるようになっても、これ程までに武器を揃えても、守りきれない人たちが大勢居る。

 

その事実がエスペランサを苦しめた。

 

 

 

人の命を奪うのは簡単だ。

 

戦場では何度も人の命を奪ってきた。

 

しかし、人の命を救うのは何故、こんなにも難しいのだろうか。

 

 

 

 

 

ふと、エスペランサは石になったハーマイオニーが何かを持っているのに気がついた。

 

 

「これは、手鏡か。成程な。やはり、ハーマイオニー。お前は優秀だよ」

 

 

 

おそらく、ハーマイオニーは廊下を曲がる際に、手鏡を使って、バジリスクが曲がり角の先に居ないかどうか確かめながら、避難しようとしたのだろう。

 

確かにそれなら、バジリスクが居たとしても直接的に目を見る事にはならず、死は免れるかもしれない。

 

 

 

ハーマイオニーは必死で死を免れようとした。

しかも、たまたま居合わせた他の生徒の命も救おうとした。

 

いや、彼女は死を免れようとしたのではない。

 

 

 

彼女は、己の頭脳を駆使して、バジリスクを倒すための方法を模索していたではないか。

 

ハーマイオニーが生きようとした理由は自分の命惜しさではない。

バジリスクを倒すためにも自分はまだ死ぬわけにはいかない、という思いがあったからこそ、彼女は死にたくなかったのであろう。

 

 

「ハーマイオニー。お前の犠牲は決して無駄にはしない。バジリスクは必ず、俺が倒す」

 

 

エスペランサは再び、小銃を拾い上げた。

 

 

 

「待っていろ、バジリスク。そして、スリザリンの継承者。俺が必ず貴様らの息の根を止めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスペランサはマクゴナガルにハーマイオニーともう一人の女子生徒が石にされた旨を伝えた。

 

マクゴナガルは発狂こそしなかったものの、相当ショックを受けているようだった。

無理も無い。

自分の寮の生徒が2人も石にされたのだから。

 

エスペランサは2人がどこでどのように石にされたかは伝えたが、怪物の正体がバジリスクであるということだけは伏せておいた。

 

もし、怪物の正体をマクゴナガルが知れば、おそらく職員を総動員してバジリスクの駆除を行うだろう。

 

そうなれば教職員にも死者が出る可能性は高い。

いくらベテランの職員であれど、バジリスクを杖一本で倒せるとは思えなかった。

 

ダンブルドアなら倒せるかもしれないが………。

 

 

それに怪物の正体がバジリスクであることが生徒に知れ渡れば、パニックどころの騒ぎではなくなる。

 

パニックにより秩序をなくした集団が暴徒化する有様をかつて中東で眼にしたエスペランサは、怪物の正体を今はまだ公にすべきではないと判断した。

 

だがしかし、このまま放っておくわけにはいかないだろう。

今までは運良く死者が発生していないが、次こそは死者が発生する可能性がある。

 

 

 

 

 

石にされたハーマイオニーが横たわるベットの横でエスペランサは思考を巡らせていた。

 

エスペランサは彼女の見舞いに来たわけではない。

彼はハーマイオニーが石にされる直前に何らかのダイイング・メッセージを残しているのではないかと思い、それを探しに来たのである。

 

 

エスペランサはハーマイオニーのローブのポケット等を物色したが、これといったメッセージは見つかっていない。

 

 

彼がローブのポケットの物色を止めると同時に、ベット周りを囲うカーテンがシャッと開き、ハリーとロンが現れた。

 

二人とも顔面蒼白で、ハリーはクィディッチのユニフォームを着たままだ。

2人の後ろにはマクゴナガルの姿がある。

おそらく、彼女が二人を連れてきたのだろう。

 

 

 

「そんな……………ハーマイオニー………」

 

 

ロンがうめき声をあげる。

 

 

「図書館の横で倒れていたのをルックウッドが発見しました………」

 

マクゴナガルが言う。

 

彼女の言葉で2人は初めてエスペランサがこの場に居る事に気がついた。

 

マクゴナガルは3人にしてあげようとでも思ったのか、どこかへ去っていってしまう。

 

 

 

「エスペランサ………。君が見つけたの?」

 

 

ロンが尋ねる。

 

 

「ああ。そうだ、センサーに感があったから、駆けつけたんだが………」

 

「何でだよ!!!!!」

 

「は???」

 

「君は学校のあちこちにマグルの道具を取り付けて、怪物が来ないか監視してたんだろ!?何でハーマイオニーを助けてやれなかったんだよ!!!」

 

 

ロンが叫ぶ。

 

突然、大声で怒り始めたロンにエスペランサは一瞬だけたじろいだ。

 

 

上官の怒鳴り声や、敵兵による罵声には慣れていたものの、彼は同年代の友人の怒りをぶつけられた事が無かった。

 

 

「落ち着けロン。エスペランサを責めたって意味無いだろ?それに君は彼に怪物と一人で戦えって言いたいのかい?」

 

ハリーがロンをなだめようとする。

 

しかし、ロンは興奮状態で、ハリーの声は聞こえていないようだった。

 

 

「エスペランサは最近、武器をたくさん手に入れてた!どうやって手に入れたのかは知らないけど。それは怪物を倒すためだろ!?学校中を寝る間も惜しんで監視してたのも!なのにハーマイオニーを救えなかったんだ!!」

 

 

 

ロンはハーマイオニーに好意を持っていた節がある。

 

普段は彼女を馬鹿にするようにしていたロンであったが、それは素直じゃないからで、本心では好きであったのだろう。

 

 

だからこそ、ハーマイオニーを救ってやれなかったエスペランサを責めてしまうのだ。

 

無論、ロンもエスペランサを責めるのは筋違いだと言うのは理解している。

しかし、それを素直に認められる程、彼の精神は大人になってはいなかった。

 

 

「そうだよ。ロン。俺は今回、何一つ守れてやしない。必死で監視カメラやセンサーを監視しても無駄だった」

 

「エスペランサ…………」

 

「でもな、ハーマイオニーは最後まで怪物の正体を突き止めようと足掻いた。だから俺も足掻く。お前が言うように、今までの俺の行動がすべて無駄だったとしても、俺は足掻かせてもらう。それに、まだハーマイオニーは死んだわけじゃない。まだ死者は一人も出ていないんだ。だから、俺たちはまだ負けたわけじゃない」

 

 

 

ハーマイオニーを失ったショックは大きかったが、だからといって戦意喪失をする気はさらさら無かった。

 

むしろ、エスペランサは復讐心に燃えている。

 

 

久々に殺意と言う感情を覚えたエスペランサの身体の感覚はかつて特殊部隊で傭兵をしていた頃に戻りつつあった。

 

 

 

「ごめん………。どうかしてた。君は怪物を倒そうと必死で、僕たちは何もしていなかったのに………」

 

「ロン………」

 

「エスペランサは今まで一人で頑張ってきてたんだ。それを責めるなんて僕、最低だ」

 

 

先程までとはうって変わった態度になるロン。

 

 

そんな彼をエスペランサはフォローした。

 

 

「そんな事はないぞ。ロン。仲間がやられたんだ。それに怒りを覚える事が出来るのは、まだ、まともだって証拠だ」

 

「ねえ?エスペランサ。今度は僕たちも何か手伝うよ!去年もそうだったろ?僕たちでも何か力に慣れれば良いんだけど」

 

 

ハリーが思いついたように言う。

 

 

「そうか。ありがとう二人共」

 

 

エスペランサは笑顔でそう答えた。

 

 

しかし、彼はバジリスクとの戦闘にハリーとロンを巻き込むつもりは無かった。

 

バジリスク相手の戦いで、エスペランサは2人の命を守りきれる自信が無い。

それに、未熟な魔法使いの2人が戦いに参加したところで、ただただ犠牲を増やすだけになってしまうと彼は思っていた。

 

 

(戦闘は俺の本分だ。それに2人を巻き込むことは許されん。バジリスクは俺が一人で仕留めてやる)

 

 

エスペランサの決意は固かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

50年前の「秘密の部屋事件」に関しての情報を持っているのは当時からここで働く職員とハグリッドだけだろう。

 

僅かな可能性だが、もしかしたらハグリッドは秘密の部屋の場所について知っているかもしれないと思ったエスペランサたちは、消灯後、こっそりハグリッドの小屋に押しかけた。

 

 

 

3人が小屋に行くと、ハグリッドは石弓を構えて小屋から出て来る。

 

 

 

「ハグリッド?それ何?」

 

「あー。ハリーたちか。まー、これはなんだ………その」

 

「石弓って………。そんな石器時代の遺物で何と戦おうとしていたんだ?」

 

 

いかにも殺傷能力の低そうな石弓を見ながらエスペランサは言う。

 

そんな彼の背中にはレミントンM870ショットガンがぶら下がっていた。

 

 

突然、バジリスクが現れた時に彼が携行している短機関銃や5.56ミリの小銃は威力不足であると思ったためだ。

 

 

「とにかく、えーと。入れや。お茶でも入れるから」

 

 

ハグリッドは小屋の中にエスペランサたち3人を招きいれた。

 

 

お茶を入れるハグリッドの様子は明らかに変で、まるで何かにおびえているようである。

 

お湯をこぼしたり、ポッドを壊しそうになったり、兎に角、落ち着きが無かった。

 

 

「ハグリッド。ハーマイオニーのことは聞いた?」

 

「ああ。聞いたとも………。!?」

 

 

ハグリッドがケーキを皿に載せようとした瞬間に、小屋の扉がノックされた。

 

 

 

コンコンコン。

 

 

 

 

「まずい。誰か来たな」

 

「お前さんたち。早くマントのなかに隠れろ」

 

 

エスペランサたちが慌しく透明マントの中に隠れるのとほぼ同時に小屋の中へダンブルドアと頼りなさそうな初老の男が入ってきた。

 

 

「誰だあれ?」

 

「コーネリウス・ファッジ。パパのボスだ」

 

「成程。魔法大臣か。でもなんでここへ?」

 

 

魔法大臣であるらしいファッジはハグリッドに話しかける。

 

 

「ハグリッド。状況はすこぶる悪い。マグル出身がこんなにやられたんだ。もう手に負えない状況だ」

 

「そんな……俺は何もやってねえ」

 

「ファッジ。わしはハグリッドを信頼しておる。ハグリッドは決して人を殺めるような行為はしないじゃろう」

 

「しかし、ダンブルドア。魔法省が何か行動を起こさねば………。その、世論が煩くてな……。近頃じゃ支持率も右肩下がりで」

 

 

ファッジは溜息をつく。

 

彼も彼で苦労が耐えないようで、目の下には隈が出来ていた。

 

 

「あー。こりゃあれだ。駄目な政治家だ」

 

「エスペランサ!静かに」

 

 

ファッジはおどおどもじもじしながらダンブルドアに言う。

 

 

「ダンブルドア。私の立場も分かって欲しい」

 

「立場と言うのならファッジ。魔法大臣は英国の魔法族を守る立場にあるじゃろう。ならば、ハグリッドの事を守るのも君の役目ではないのかね?」

 

 

ダンブルドアが珍しく怒っているのをエスペランサたち3人は感じ取る。

 

 

「だがな、ハグリッドを連行するのはすでに議会で決まった事で………。圧力もかけられるし」

 

「連行!?俺を?」

 

 

ハグリッドの顔が真っ青になる。

 

 

「まさかアズカバンじゃ………」

 

 

 

「そのまさかだ。ハグリッド」

 

 

冷たい声が小屋の入り口から聞こえる。

 

その声の主はルシウス・マルフォイのものであった。

 

 

 

「マルフォイ!俺の家から出て行け!」

 

「ハグリッド。えー。これが、家とでも言うのかね?」

 

 

ルシウス・マルフォイは冷ややかな笑いを浮かべる。

 

 

「紛争地帯の難民キャンプに比べればハグリッドの小屋は天国だぜ?何ならマルフォイの家を爆破すれば奴も難民になるかもな」

 

 

エスペランサはマントの中で毒づいていた。

 

ルシウス・マルフォイは近い将来、エスペランサが粛清をしようとしている相手だ。

こんな風に笑ってられるのも後数年だ、と彼はせせら笑う。

 

 

「私は森番に用件があって来たのではない。ダンブルドア校長。あなたに用があって来た。12人の理事たちがあなたの退陣を願っているのでね。それを伝えに来たんですよ」

 

 

ルシウスは12人分のサインが書かれた紙を見せ付ける。

 

 

「ルシウス。それはまずい!この状況下でダンブルドアをホグワーツから追い出すなんて!!それはいくらなんでも………」

 

「これは理事の決定ですから。大臣。あなたに拒否権はありません」

 

 

「成程。理事たちがそれを望むのならわしはホグワーツを去ろう。しかし。これだけは覚えておく事じゃ。わしがこの学校を本当に去るのはわしに忠実なものがこの学校から一人も居なくなった時じゃ」

 

 

そう言ってダンブルドアはちらりとエスペランサたちの隠れている空間を見つめた。

 

そう言えば、3人分のケーキとお茶が出されたままだ。

もしかしたらダンブルドアはエスペランサたちの存在に気づいていたのかもしれない。

 

 

 

「そうですか。私たちは、ダンブルドア。あなたの個性的なやり方を懐かしく思う事でしょうな。多分」

 

フフンと鼻で笑いながらルシウスは小屋を去る。

 

 

「あー。誰かファングに餌をあげてくれ。それと、これは俺の地元のことわざなんだが、糸口を探りたかったら蜘蛛を追いかければええ」

 

 

ハグリッドはそう言ってファッジとともに部屋を去った。

 

 

 

誰も小屋から居なくなった後、マントから出てきたロンは床に座り込んでしまう。

 

 

 

「そんな。ダンブルドアがいなくなるなんて。これじゃ、毎日誰かが襲われるぜ」

 

「そうかもな。今まではダンブルドアが抑止力として機能していたから。それにしても、マルフォイの野郎。後数年したら俺が確実に潰してやる」

 

 

口々に叫ぶ2人を尻目にハリーは小屋の外を眺めていた。

 

 

「どうした?ハリー」

 

 

「ハグリッドが言ってた。蜘蛛を追いかければ良いって。蜘蛛を追いかければ真実が分かるかもしれない」

 

 

小屋の外を見れば、蜘蛛が1列になって禁じられた森へ入っていくのが見える。

 

 

「本当だ。で、ハリー。あの蜘蛛を追うのか?」

 

「勿論。秘密の部屋について何か知る事が出来るかもしれないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁じられた森はエスペランサの演習場である。

 

迫撃砲や無反動砲の射撃訓練に、行軍訓練などをしょっちゅう行っていたので、彼は禁じられた森の地理をほとんど把握していると思っていた。

ちなみに、迫撃砲の射撃訓練はケンタウロスにも一応許可を取って行っている(決して良い顔はされなかったが)。

 

しかし、エスペランサの思っていた以上に森は奥深かったようだ。

 

 

 

「こんな奥まで来たことは無いなぁ」

 

 

蜘蛛の大名行列を追いかけてきたものの、その行列は思った以上に森の奥へ続いており、もうかれこれ1時間近くは歩いている。

 

 

「ねぇ………帰らない?」

 

 

ロンが弱弱しく言う。

 

最近知った事実だが、ロンは蜘蛛が苦手らしい。

 

 

 

「ここまで来たんだ。後戻りは出来ないだろ。それに何か怖いものが出てきても、こっちには武器がある」

 

 

エスペランサはM870ショットガンをガシャリと持ち上げる。

 

ショットガンの先っぽには小型のライトがビニールテープで括りつけられており、彼は銃を懐中電灯の代わりとしても使っていた。

 

ハリーたちはファングを連れてこようとしたのだが、エスペランサは戦闘の邪魔になると思い、それを止めている。

 

 

 

3人は茨の道を越え、倒れた大木を登り、そして、少し開けた空き地へと到着した。

 

 

 

 

「蜘蛛の行列を見失っちまった。どこに行ったんだ?」

 

 

エスペランサはライトで周囲を照らす。

 

しかし、蜘蛛の行列はどこにも見えない。

 

 

 

「嫌な予感がする………」

 

 

ロンが震えながら言う。

 

 

「怖気づくなロン。周囲を警戒しろ。ハリー。ルーモスで周囲を照らしてくれないか?ライト一つじゃ視界が悪い」

 

「わかった。やってみるよ。“ルーモス・光よ”」

 

 

ハリーが杖先に光を灯す。

 

2つの光に森の中が照らされた。

 

 

 

「!!!何あれ!」

 

「どうした!?」

 

「エスペランサ!木の間を見て!上の方!何かガサガサ音が聞こえる方」

 

「ありゃ……蜘蛛か?」

 

 

光に照らされて、3人の頭上の大木に居る巨大な蜘蛛が露になる。

 

 

体長は3メートルもあるだろう。

 

巨大で鋭い肢をガシャガシャ鳴らし、毛むくじゃらの胴体をワサワサとさせながら蜘蛛は糸を使って、エスペランサたちの方へ向かってくる。

 

 

その数、実に30体!

 

 

30体の巨大な蜘蛛が降りてくる光景はまさに地獄絵図であり、ロンは白目をむいて気絶しかけている。

 

 

「しっかりして!ロン!」

 

「何だこの巨大な蜘蛛は!アクロマンチュラってやつか?」

 

 

 

アクロマンチュラという巨大蜘蛛は「幻の生物とその生息地」にも記載がある。

が、アクロマンチュラが英国に生息していると言う情報は無かったはずだ。

 

 

「ってことは、ハグリッドがアクロマンチュラの養殖でもしてたってことだな」

 

 

ドサッと3人の横に降り立ったアクロマンチュラは鉈のような肢を彼らに向けて威嚇する。

 

そんな怪物にエスペランサはショットガンを向けた。

 

 

ショットガンは威力こそ大きいが、装弾数は少ない。

 

それに連続射撃が不可能であるから、複数の敵を相手にした戦闘には向かなかった。

 

だからといって、アクロマンチュラの皮膚を5.56ミリNATO弾が貫ける保証も無い。

とするならば、ショットガンの残段がなくなり次第、対戦車兵器を使って蜘蛛を一掃すべきだろう。

だが、対戦車兵器を森の中で使用するとなると、森で火事を起こしてしまう可能性がある。

そうなれば、ケンタウロスやユニコーンなどの生物を殺してしまうかもしれなかった。

 

 

「アラゴク!アラゴク!アラゴク!」

 

 

耳を済ませると、蜘蛛たちは何かを叫んでいるようだった。

 

 

「アラゴク?」

 

「二人とも!あれを見て。あそこの穴からさらに大きな蜘蛛が」

 

 

 

ハリーが指差す方向を見ると、大型トラックほどの大きさはあるであろう巨大すぎる蜘蛛がのっそりと出てくるのが分かった。

 

この時点で、ロンは発狂した。

 

 

 

肢はまるでチェーンソーのようで、8つの目は全てエスペランサたちを睨んでいる。

 

 

「中戦車に照準を定められたような心境だ………」

 

 

流石のエスペランサも多少の恐怖を覚えずには居られない。

 

 

 

「何のようだ。ハグリッドか?」

 

「いえ、違います」

 

 

どうやら蜘蛛は目が見えていないようだった。

 

それにしても、声帯を持たない蜘蛛が何故しゃべれるのか、エスペランサは不思議に思ったので聞いてみる。

 

 

「何で蜘蛛が喋れるんだ?どこで発声してるんだよ」

 

「エスペランサ!空気読んでよ!」

 

 

 

 

「…………ハグリッドではないのか。殺せ!」

 

 

 

 

「ほら、言わんこっちゃ無い!君は少し黙っていてくれ。僕たちはハグリッドの友達です!ハグリッドに言われてここへ来ました」

 

 

ハグリッドの友達、と言う単語にアラゴクと呼ばれた蜘蛛は反応する。

 

 

「ハグリッドは何故お前をここへ寄こした?」

 

「ハグリッドが、秘密の部屋の怪物を操って人を襲ったと誤解されて捕まってしまったんです………。それで僕たちはハグリッドを助けようとして。ハグリッドはここへ来れば真実が分かると言っていました。だから来たんです」

 

「秘密の部屋………。それはもう遠い昔の話だ」

 

「ではあなたは秘密の部屋の怪物ではないのですね?」

 

「そうだ!わしたちは部屋の怪物の話はしない!あれはもっと太古の生物だ。わしは生まれてからハグリッドに育てられた。彼は良い人間だ。わしに住みかと妻を与えてくれた。わしが怪物だと思われて殺されそうになった時も逃がしてくれた。今では、こんなにも家族に恵まれておる」

 

 

周囲の蜘蛛たちがガシャガシャと肢を鳴らす。

 

当初、30匹ほどだった蜘蛛は、その数を数百にまで増やしていた。

 

 

 

「何かやばそうだ。ハリー。アラゴクってやつが怪物でない事も、ハグリッドが犯人じゃない事も分かったし、そろそろ撤退しよう。ロンももう限界だ」

 

 

数百の蜘蛛たちはじわりじわりとエスペランサたちに近づいてきている。

どう考えても蜘蛛たちは3人を食べようとしていた。

 

ロンは相変わらず白目をむいたままだ。

 

 

 

「えーと。アラゴクさん。ありがとうございました。それじゃ、僕たち城へ帰ります………」

 

 

「ならぬ。ハグリッドはわしの命令で息子や娘に襲わせないようにしているが、お前たちのような新鮮な肉をおあずけには出来ない。さらばだ。ハグリッドの友達たちよ」

 

 

アラゴクはゆっくりとエスペランサたちに死刑宣告をした。

 

やはり、蜘蛛たちは3人を食べるつもりだったのだろう。

アラゴクの言葉を聴いて、一斉に数百の蜘蛛が襲い掛かってくる。

 

 

 

「クソっ!やっぱり魂胆はこれか!そっちから宣戦布告したんだから、こっちも反撃させてもらうぞ!」

 

 

エスペランサは待ってましたと言わんばかりにショットガンを構えて、銃口を一番近くの蜘蛛に向ける。

 

 

「悪く思うな。これも戦争だ」

 

 

 

 

ズドンッ

 

 

 

 

発射された無数の鉛球が、アクロマンチュラの巨体にめり込む。

 

案外、蜘蛛の皮膚は柔らかかったようで、銃弾はあっけなく蜘蛛の身体を貫いてしまった。

 

 

 

 

ブシャアアアアアアア

 

 

 

蜘蛛の体液が噴出し、周囲の草木をどす黒く染め上げる。

 

 

 

 

「何!!??」

 

 

「人間を甘く見るなよアクロマンチュラ!」

 

 

 

ショットガンの発射に驚いた蜘蛛たちは一瞬、動きを止めてしまう。

 

その一瞬が命取りであった。

 

 

 

 

ズドン

 

ズドン ズドン

 

 

 

立て続けに発射された散弾がアクロマンチュラを次々に粉砕していく。

 

 

 

「ハリー!周囲を杖で照らしてくれ!ついでに応戦しろ。ロンは気絶しかけて使い物にならん」

 

「わかった!そう言えば、トム・リドルが記憶の中で蜘蛛を蹴散らすのに呪文を使っていたんだっけ?確か“アラーモニア・エグゼメ 蜘蛛よ去れ”」

 

 

ハリーの呪文で何体かの蜘蛛が吹き飛ばされる。

 

 

「良いぞ!」

 

 

エスペランサは残弾のなくなったショットガンを襲い掛かってきた割と小柄な蜘蛛にぶつけ、フローラ・カローに譲り受けた検知不可能拡大呪文のかかった鞄からMINIMI軽機関銃を取り出す。

 

この機関銃も勿論魔法によって軽量化されていた。

 

 

 

 

「貴様等あああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

わずか数十秒で20匹近くの息子たちを惨殺されたアラゴクは怒りを露にする。

 

 

「お前たち!!!何が何でもそいつらを殺せ!!!!怖気づくな!我らのほうが数の上では勝っている!」

 

 

 

確かに近代兵器を持つエスペランサでも数百の蜘蛛を相手に戦うのは困難だ。

 

しかも、完全に囲まれていて、尚且つ、周囲は真っ暗な状況である。

明らかに不利な戦いだった。

 

それに、蜘蛛たちはこの辺りの地理を完全に把握しているのだろう。

 

そうなると逃げる事もままならない。

 

 

 

「たった3人でこの場を逃げ切るのはほぼ不可能だ」

 

 

この場を乗り切る方法は、昨年度末にヴォルデモートに使ったエレクト・テーレムの魔法を使う他ない。

 

手持ちの武器を全て起動させて、発射すれば、数百の蜘蛛であろうと、一瞬で殲滅できる。

しかし、そうなれば森は大惨事になり、罪のない生物が死ぬ事になってしまう。

 

 

「やっぱり、現代の戦争らしく、制限戦争を仕掛けるしかないよな………」

 

 

エスペランサは軽機関銃を掃射して、襲い掛かってくる蜘蛛をなぎ払っていった。

 

最初は銃を恐れていた蜘蛛であったが、怒りで恐怖を忘れたのか、仲間の死体を乗り越えて、襲い掛かってくる。

まさしく死兵であった。

 

 

「どうしよう!!このままじゃ!」

 

 

ハリーの悲痛な声が聞こえる。

 

ロンも意識を取り戻していたが、折れた杖では戦えない。

 

 

 

あっという間に200発の銃弾を撃ちつくしたエスペランサはバーレット銃狙撃銃を新たに取り出して応戦し始めた。

 

倒された蜘蛛の死体は増えてきているが、その一方で襲い掛かってくる蜘蛛の数も増える一方だ。

 

 

 

ドンッ

 

 

ドンドンドン

 

 

 

12.7ミリの弾丸が命中し、蜘蛛が四散する。

 

 

 

「このままじゃジリ貧だ。何とかしないと…………」

 

 

禁じられた森で開始された人間と蜘蛛による戦争は激しさを増していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の戦闘で使った武器一覧


M870ショットガン

MINIMI軽機関銃

バーレット銃狙撃銃



全部子供が扱えないような武器ですね。
魔法があってよかった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。