ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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色々と二次創作のネタが思いつく今日この頃。

感想やお気に入りありがとうございます!


case26 The Wailing Myrtle 〜嘆きのマートル〜

秘密の部屋の怪物がうようよしているというのに定期試験は行うらしい。

 

マクゴナガルのこの発表に多くの生徒は驚愕し、そして絶望の淵に立たされた。

これとは別に、“ふくろう試験”や“いもり試験”を挑む5,6年生は今学期最初から絶望していた。

闇の魔術に対する防衛術の教官がポンコツ過ぎて、とてもじゃないがこれらの試験を突破できそうにないからである。

故に5,6年生においてロックハートのファンの女学生は限りなく少ないわけだ。

 

ちなみに“ふくろう試験”というのは5年生の時に全員が受ける魔法省公認の試験らしく、マグルの世界でいうところの大学入学試験や卒業試験の類らしい。

この試験の成績によって6年生以降に受講できる科目や卒業後の進路が決まるそうだ。

この時期の上級生にノイローゼ患者が多いのはそのせいである。

 

上級生のピリピリした雰囲気は下級生にもいやというほど伝わってくる。

パーシー・ウィーズリーもその一人なのだろう。

見るからに元気が無くなっていた。

 

 

生徒たちが大慌てで試験勉強を開始する中、エスペランサ・ルックウッドは一人、嘆きのマートルの巣窟と化した3階女子便所に侵入した。

女子便所への侵入は偵察(リコン)任務よりもなぜか緊張したが、何とか侵入した彼はマートルの名前を呼んでみた。

 

明かりが無く、薄暗い女子便所の便器や排水管はあちらこちらが破損しており、床は水びだしだ。

暫く掃除もされていないのだろう。

洗面台には埃が被っている。

 

ところどころに落ちている猫の毛はハーマイオニーの置き土産だろうか?

 

 

「おーい!マートルさーん!出てきてくれー!聞きたいことがあるんだ」

 

エスペランサはそう叫ぶが全く反応が無い。

 

シーンと広い便所内は静まり返ったままだ。

 

 

不在なのかと思い、彼は懐から煙草を取り出した。

 

マイルドセブンと書かれた箱から1本の煙草を取り出し、ジッポで火をつける。

暫く吸っていなかったので煙草が想像以上に美味しく感じる。

 

肺まで吸い込んだ煙を一気に吐き出す。

薄暗い部屋に白煙が漂い始めると、どこからともなく「ごほっごほっ」と咳き込む声が聞こえた。

 

 

「ちょっとちょっと。あんた。誰の許可をもらって私のトイレでタバコなんて吸ってるのよ」

 

ガマガエルの鳴き声のような声の持ち主は、地味な女子生徒のゴーストであった。

丸眼鏡に三つ編みのそのゴーストはローブにつけられた寮識別章(エスペランサがローブにつけられた各寮のワッペンを勝手にそう呼んでいる)からレイブンクロー出身の生徒だと言う事が分かる。

 

 

「あんたがマートルか?」

 

「そうよ!てか、あんた生徒でしょ?しかも男子!!なんで私の女子トイレで喫煙してるのよ!」

 

「便所は公な場所だ。誰が入ろうと問題ないだろ。お前の持ち物じゃないし」

 

「問題大ありよ!あんた、自分の性別も忘れちゃったの!?」

 

「あ………そうだったな」

 

「それに喫煙は魔法界では20歳からよ。まったく………」

 

 

魔法界の喫煙可能年齢に関してはエスペランサも知っていたが、あえて知らないふりをしていた。

罵るマートルを尻目に彼は喫煙を継続する。

 

 

「あんたの態度。いっそ清々しいわね。最近、このトイレに訪問する生徒が居なくて精々してたのに………」

 

「だから便所はお前の専有物じゃないって………」

 

「で?何の用なの?お腹がピンチなら余所でやってくれる?それとも、またヘンテコな魔法薬でも作りたいのかしら?」

 

「ヘンテコな魔法薬ってのはハリーたちの作ってたポリジュース薬のことか」

 

「そうよ。あんたハリー知ってるの?ハリーは元気?彼、最近来ないから心配してたのよ」

 

 

マートルは顔を赤くしながらそんなことを言う。

 

気の毒なことに、ハリーはこのマートルというゴーストに気に入られているみたいだった。

 

 

「元気ではないな。ハーマイオニーって生徒、お前は知っていると思うが、彼女がスリザリンの怪物に襲われて石になったんだ。それで皆、落ち込んでる」

 

「あら……そう」

 

 

マートルの表情が一瞬だけ変化したのをエスペランサは見逃さなかった。

 

 

「今年度に入って秘密の部屋が開かれたり、スリザリンの怪物に生徒が襲われてるのは知ってるだろ?」

 

「ええ………まあ、知ってるわ。ゴーストたちも騒いでたし。ほら、ニックが襲われたから」

 

「そうか。同じゴーストが襲われてるんだから、知っているはずだな。既に怪物の犠牲者は6名になった。幸いにも死には至っていないが、このままだと確実に死者が出る。俺は何としてでも次の犠牲者が出るのを食い止めたいんだ。なあ、マートル。俺に協力してくれないか?」

 

「はあ!?何であんたなんかに協力しなきゃいけないのよ」

 

「そりゃ………。お前もスリザリンの怪物の犠牲者の一人なんだろ?自分を殺した相手を倒したいとか思わないのか?」

 

「………何で、何であんたがその事を知ってるの?」

 

 

マートルの声のトーンが下がる。

 

どうやら50年前にバジリスクに殺された生徒はマートルで間違いないようであった。

 

 

「やはりマートルが犠牲者だったんだな。いや、まあ、前回の犠牲者が3階の女子便所で死んだっていうのは調べればすぐにわかる事柄だ。その場所に居座り続けるゴーストが居るって話を聞いて、もしやと思って鎌をかけてみたんだ」

 

「そう………。そうね!!わたしが怪物に殺された生徒よ!何?同情したの?わたしが可哀そうだとか思ったの!?そんなわけないわよね?今まで、誰もわたしのことを可哀そうだとか思ってくれる生徒は居なかったもの。両親はゴーストになったわたしを怖がって二度とここへは来てないわ。ここに来るのは私のことをバカにしたい生徒だけ。わたしが怪物の犠牲者だとも知らずに虐めて……虐めて………」

 

 

マートルが甲高い声を上げて叫ぶ。

 

マートルが癇癪を起こすのはいつものことなのだろうが、ここまで感情を露にするとはエスペランサも思っていなかった。

長年溜まっていたものを一気に放出するように彼女は喚き散らす。

 

 

「可哀そう……か。そうだな。マートルのことは可愛そうだと思う。だが、それよりも、怪物とクソッタレの継承者に、お前のような一般生徒が殺されたことに憤りを感じているんだ。俺は」

 

「え………?」

 

「お前は五月蝿いし、癇癪持ちだし、我儘で理不尽だ。だが、殺されて良いような人間じゃない。ちょっと性格に難があるが、善良な一般生徒には変わらないだろう」

 

「あんた、しれっと失礼なことを言うのね」

 

「俺は罪の無い人間が、理不尽に殺される世界を最も嫌っている。善良な人々が怪物に襲われるという事実に俺は深い憤りを感じるんだ」

 

 

エスペランサは2年前の惨劇を思い出す。

 

老若男女、全ての人が片っ端から殺されていったあの地獄。

そこにかったのは絶望という二文字のみ。

 

エスペランサの殺気を感じたのか、マートルは少し戸惑う。

 

 

「だから、俺はスリザリンの継承者も怪物も許さない。必ず、この手で息の根を止めてやる。俺は人の命は尊いものだと思っているが、継承者のような“癌”は別だ。この世から摘出してやらないとな」

 

「…………あんた、ハリーと同級生なのよね?」

 

「ああ。そうだが」

 

「てことは2年生ね。あんたみたいな2年生をわたしは見たことないわ。無謀っていうか……何というか」

 

「よく言われるよ」

 

「2年生が怪物相手に戦えると思ってるの?口は達者みたいだけど、所詮はひよっこの魔法使いでしょ?」

 

「まあな。魔法の腕に関しては未熟で半端者だ。だが、こっちに関しては腕に自信がある」

 

 

エスペランサはローブから拳銃を取り出して、くるくると回す。

 

 

「それ……ピストルでしょ?何でそんなもの………」

 

「入手の経緯に関しては企業秘密でな。教えられない。兎に角、俺は今、大量のマグルの武器を持っている。自動小銃から銃迫撃砲までな。これらを駆使すれば怪物を倒すことだって夢ではない」

 

 

マートルはマグル出身であるから、自動小銃や迫撃砲の威力について少なからず知識がある。

確かに、迫撃砲などの野戦砲の類があれば怪物を倒すことが出来るかもしれない。

 

 

「でも、あんた。怪物の正体も居場所も知らないんでしょ?」

 

「怪物の正体は分かってる。問題は居場所だ。それを、マートル。お前に聞きたくて俺はここに来たんだ」

 

「わたし、そんなこと知らないわよ?怪物の住処なんて分かるわけないじゃない」

 

「いや、分かる。マートル。お前が殺されたのはこの便所だよな。その時のことを聞かせてくれ」

 

「…………ええ。いいわよ。わたしが殺されたのはそこの個室の中。個室の中で泣いてたわたしは、個室の外で男子が何か知らない言葉をしゃべってるのを聞いて………。追い出そうとして扉を開けたの。その時に大きな恐ろしい目玉を二つ見たわ。そして………死んだの」

 

 

なるほど。

と、エスペランサは思った。

 

その男子生徒が当時の継承者だろう。

そして、知らない言葉というのはパーセルマウスに違いない。

 

継承者は蛇語でバジリスクを操っているわけだ。

 

 

「ありがとう。辛いことを思い出させてすまなかったな。だが、これである程度、怪物の移動経路は絞れた」

 

「え?今の話で?」

 

「継承者は男子だったって言ったよな。その男子はなぜ、女子便所で怪物を操っていたのか疑問に思わないか?もし、継承者が人目につかない場所で怪物を操りたいのだとしたら便所という公共の場は不適切だ。誰かほかの生徒とエンカウントする可能性もあるしな。それに、不可解な事はもう一つある。何故、男子便所じゃなくて女子便所だったのか、だ。普通、男子なら男子便所を使うはずだ。継承者がとんだ変態で、女子便所を覗くのが趣味であるか、それとも、怪物を操るには女子便所ではなきゃいけに理由があるか、どっちかだな」

 

「言われてみればそうかもね。当時はこのトイレも普通に生徒に使われてたから、こそこそ悪さをする場所としては不向きだったわ。このトイレでなくてはいけない理由……ね。もしかしたら、あそこが関係してるかも」

 

「あそこ?」

 

「そこよ。その洗面台」

 

 

マートルはトイレの中央に存在する洗面台を指さす。

 

これといって特徴のない洗面台だった。

 

 

「これがどうかしたのか?」

 

「あのね。ゴーストって壁も床も通り抜けできるのよ。わたしはたまに便器の中で考え事してると、間違えて流されちゃうんだけど、その時は排水管を伝って湖まで流されるのよ」

 

「ちょっと待て。便器の排水管は湖に直接つながってるのかよ。汚ねえな!衛生上よろしくないぞ」

 

「わたしには関係ないけどね。で、話を戻すと、わたし達ゴーストは排水管も水道管も通ることが出来るの。でも、ゴースト除けがされている場所は通り抜け出来ないわ。プライバシーの問題だか、安全管理上だか知らないけどね。それで、そんなゴースト除けがかけられている排水管が、その洗面台の下の排水管ってわけ」

 

「そう……なのか。この洗面台の下の排水管はゴーストが通り抜け出来ないのか」

 

「そうよ。まるで、何かがそこに隠されてるみたいじゃない?」

 

 

エスペランサは確信した。

 

その洗面台下の排水管こそ、バジリスクの通り道でもあり、秘密の部屋へつながる秘密の抜け道であることを、だ。

 

ゴースト除けがしてあるのは、ゴーストが秘密の部屋を見つけてしまわないようにするためだろう。

 

 

「マートル。ありがとう!」

 

 

そう感謝の意を伝えるとともに、エスペランサはC4プラスチック爆弾を取り出した。

 

 

粘土状の爆薬をこねて、起爆装置をセットし始める彼を見て、マートルは怪訝そうな顔をした。

 

 

「あんた。それ何?何する気?」

 

「洗面台を吹き飛ばす」

 

「あー。多分無駄よ。それ。何年か前に、ピーブスが洗面台を吹き飛ばそうとして失敗してるから」

 

「何!?この洗面台には強化呪文もかかってるのか。あと、ピーブスは女子便所に出没するのか」

 

「そうよ。だから爆発させても多分、壊れないわ。でも、ガッカリしないで。強化魔法がかかってるのは洗面台だけだと思うわ。排水管はゴースト除けがかけられていても、強化魔法はかけられていない。たまに排水管が割れたりして故障するから分かるわ」

 

 

と、言う事は女子トイレの洗面台かを爆破して排水管へ侵入することは不可能であるが、別の場所からなら排水管へ侵入可能であると言う事になる。

 

 

「ここ以外で、そのゴースト除けのかかった排水管に侵入できそうな場所は分かるか?」

 

「分かるわ。教えてあげる」

 

「感謝する。何から何までありがとう」

 

「礼には及ばないわ。だって、あんた。わたしの仇を取ってくれるんでしょ?」

 

「まあ。そういうことになるな」

 

「それなら、わたしがお礼を言わなきゃ。ねえ、あんた、名前は何て言うの?」

 

「エスペランサ・ルックウッドだ」

 

「そう。エスペランサね。絶対、絶対に“生きて帰ってくるのよ”。あんたにはまだ言いたいことが沢山あるんだから。約束ね」

 

「ああ。約束する。怪物と継承者を殺して、絶対に帰ってくる」

 

 

マートルはにっこりと笑って、エスペランサに排水管の場所を教えてくれた。

 

笑ったマートルは存外、可愛らしいとエスペランサは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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必要の部屋には限界がある。

 

まず、食べ物は出せない。

そして、巨大なものや強力過ぎる道具は出せない。

一度に出せるものの量にも限界がある。

 

 

エスペランサは一度、試しに地中貫通型爆弾と戦略爆撃機が欲しいと必要の部屋で願ったことがある。

無論、彼はその両者とも扱えるはずも無かったが。

 

しかし、必要の部屋はそれらを出せなかった。

 

様々な武器を必要の部屋で生み出したエスペランサだが、どの程度の武器まで出すことが出来るのか、最近分かってきた。

 

必要の部屋で出せる武器は、火器なら重迫撃砲から誘導ミサイルMATまでの物が限界。

自走榴弾砲や戦車は出せなかった。

 

弾薬は1度に1120発入りの弾箱が2つ程度。

複雑な電子機器は無線機や充電器が限度で、コンピュータの類は簡易的なものしか出せない。

 

魔法道具は市販されている物が限度だった。

 

つまり、必要の部屋は必要以上に強力なものを出さないという制限がついているわけだ。

 

まあ、もし、必要の部屋が制限なしに核ミサイルだとかの大量破壊兵器を出してくれる部屋だったら、この部屋だけで世界征服が出来てしまうだろう。

必要の部屋は便利なものではあったが、限度があったのである。

 

 

それでも、エスペランサにとってこの部屋は重要なものであった。

 

 

マートルから排水管の位置を聞き出すと、真っ先に彼は必要の部屋へやってきた。

アクロマンチュラとの戦いで弾薬のほとんどを使い切ったエスペランサは補給を行う必要があったためだ。

 

今から戦うのはアクロマンチュラとは比べ物にならないほどの強敵。

バジリスクだ。

 

 

必要の部屋は相変わらず、軍隊の武器庫のような内装をしており、弾箱や銃器が平積みにされていた。

その中から、エスペランサは必要とされる武器を次々と取り出し、“軽量化の魔法”と“銃弾の自動追尾の魔法”をかけていく。

 

クィレル先生の開発した“銃弾の自動追尾魔法”は便利だったが、“目標を視認することが絶対条件”という制限がある以上、バジリスクには通用しなさそうであった。

バジリスクは目を合わせたものを全て殺す。

故に、バジリスクを目視しなければ銃弾を命中させることが出来ない、という条件は非常に厳しい制限だった。

 

それでも、エスペランサは対バジリスク用の戦闘パターンを考え出している。

 

必要の部屋の端に存在するオンボロの机の上には彼が考えた戦闘パターンを記した紙が数枚、転がっている。

昨年、ヴォルデモートと戦いに行く前にも彼は戦闘パターンをいくつか紙に記していた。

今回も同じである。

 

前回はヴォルデモート相手に煮え湯を飲まされたことがあったが、今回は確実に勝利するために幾つもの「スペアプラン」を用意し、作戦は穴の無いようにしてある。

 

 

作戦に必要な武器弾薬を全て、確認しながらエスペランサは検知不可能拡大呪文のかかった鞄に詰め込み始めた。

 

M16自動小銃。

G3A3バトルライフル。

バーレット重機関銃。

MINIMI。

UZI短機関銃にM92F。

 

破片手りゅう弾とスタングレネードは戦闘服に着け、ヘルメットには暗視ゴーグルを装着した。

魔法界でも電子機器を使えるようにしたおかげで使えるようになった暗視スコープは虎の子である。

 

最後にガソリンの入ったジェリ缶を1つ、鞄に詰め込んだエスペランサは、ゆっくりと立ち上がり、深呼吸をした。

 

 

 

「いよいよ決戦だ。待ってろ、継承者とバジリスク。お前らの寿命もあとわずかだ」

 

 

控え銃(銃を胸の前で持つ)の姿勢を取り、彼は必要の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 




今回は少し短めです。

次回はハリーとロン視点で始まると思います。



必要の部屋の設定は独自設定です。
マートルは湖まで流されることがあると原作で言われてますけど、ってことは排泄物も湖に放出されるってことですよね。

マーピープルは怒って良い。

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