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case 02 the sorting hat
ホグワーツには4つの寮があるらしい。
自分の入学する学校がどのような学校なのかくらいは知っておこうと思い、エスペランサはホグワーツに関する文献を読み漁った。
学校創設の過程や、卒業生の功績、寮の特性などなど……。
グリフィンドールは勇敢、スリザリンは狡猾と言う具合に個人個人の性格や血統などでいずれかの寮に振り分けられるらしい。
もっとも、各寮の人数調整の関係上、必ずしも勇敢な学生がグリフィンドールに入るというわけではない。
エスペランサにとっては組み分け自体は割りとどうでも良いことであったので大して気にしていなかったのだが、他の生徒は違うようだった。
例えば、ホグワーツ城へ向かう途中のボートに一緒に乗り合わせたロナルド・ウィーズリーという赤毛でのっぽの少年はやたらとグリフィンドールに入りたがっていたし、例のマルフォイ少年はスリザリンを熱望していた。
ボートの上ではどの学生も組み分けの話ばかりしていた。
やがて、ボートが進み、湖畔に浮かぶ宝石のようなホグワーツ城が見えると、生徒は全員息を呑んで感動したものだ。
無論、エスペランサとて例外ではない。
口の中が砂利つく戦闘地域に長年居た彼にとって、ホグワーツ城のような絶景は新鮮だった。
「綺麗だな。こんな景色は生まれて初めてだ」
彼はそう独りでに呟いた。
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ボートはやがて城の船着場に着いた。
生徒たちはボートから降り、ハグリッドと呼ばれた巨大な人間に案内されながら城の内部に足を進める。
城は中世に建てられたような古めかしいもので、現代の文明の利器が一切存在しない。
コンセントも蛍光灯も一切無しだ。
照明は全てランプか松明である。
エスペランサが身を置いていた場所も、アメリカや英国の都市に比べたら文明が発達していたとは言えないが、それでも電気やガスなどは整っていた。
魔法族はこんな生活でよく不便しないものだと彼は感心していた。
一行はどんどん場内に進みやがて大広間につながる扉の前にたどり着く。
大広間につながる大扉の前に初老の教師と思われる魔女が立っているのが見えた。
「マクゴナガル先生。イッチ年生をつれてきました」
「ご苦労様ですハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
マクゴナガルと呼ばれた女教師は新入生の前に出てくると組み分けの儀式の説明をはじめた。
「大広間の席につく前にあなたたちは組み分けの儀式を行わなくてはなりません。寮は4つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そして、スリザリン。あなたたちのした良い行いは各寮の点数となり、学期末には最高得点をとった寮に寮杯が与えられます」
簡単な寮生活の説明であったが、その説明の中には組み分けをどう行うかの説明が含まれていなかった。
そのことが新入生を不安とさせる。
「いったいどうやって寮を決めるんだろう?」
「試験みたいなものだと思う。フレッドはトロールと戦わされるって言ってたけど、多分嘘だ」
赤毛のウィーズリー少年が不安げな表情を浮かべる黒髪のメガネをかけた少年と話している。
(魔法生物と新入生を戦わせることで個人の性格や技量を見るという試験を行う可能性は十分にある。だが、俺はまともに魔法も使えないし、持っている武器は拳銃1丁のみだ。何をしてくるか分からない魔法生物相手に拳銃が通用するだろうか………?)
組み分けの儀式が仮に「魔法生物との戦闘」であったときのことを考え、エスペランサはあらゆる戦闘プランを考える。
元々、傭兵時代から作戦の立案を担当してきた彼はこういったプランを考えるのが得意ではあったが、魔法生物相手の戦闘は行ったことが無い。
横で覚えてきたのであろう呪文を復習するようにブツブツと言っている女子生徒を尻目にエスペランサは戦闘に必要な“道具”の準備を行い始めていた。
エスペランサが戦闘の準備を終えるころ、マクゴナガル教授は大広間の扉を開けて、新入生に大広間へ入るよう指示をした。
それまで緊張した面持ちであった新入生は大広間の光景に圧倒される。
中には歓声を上げる生徒すら存在した。
何千と言う蝋燭が宙に浮かび、4つの長机を照らしている。
4つの長机には各寮の上級生と思われる生徒がずらりと座りっていた。
その間を縫うように数百のゴーストがひしめき合う。
そして、天井は満天の星空で満たされていた(この星空に関しては魔法がかけられているだけなのだと秀才風の女子生徒が独りでに言っていた)。
大広間の突き当たりに置かれた机の上には古ぼけた帽子がひとつ置かれている。
(あんなものと戦うのか?)
てっきり巨大なドラゴンだとか、オークと戦闘を行うのだろうと思っていたエスペランサは拍子抜けする。
しかし、魔法生物に関する知識が無い以上、油断は禁物だと思い直し、ローブの懐に隠し持っていた拳銃を取り出す。
そんな時だ。
帽子の縁の破れ目が口のように動き、歌い始めたのは。
「は?あれ喋るのかよ!?しかも、歌うのかよ!」
喋る帽子という奇妙なものを目の当たりにして彼はつい声を出してしまう。
さらに彼は帽子の歌った歌の内容にも驚いていた。
帽子の歌った歌の内容は主に各寮の特色の説明のようなものであったが(しかも、なぜかスリザリンが微妙にネガキャンされる内容の)、歌詞の最後のほうに組み分けの方法が含まれていたのである。
「組み分けって、帽子と戦うんじゃないのか………。まあ、冷静に考えたら当たり前のことだけど」
「なんだよ!フレッドのやつトロールと戦うなんて嘘じゃないか!」
「でも全員の前で組み分けするのは………」
試験が“帽子をかぶるだけ”だと分かり殆どの学生は安堵していた。
エスペランサも取り出していた拳銃に安全装置をかけ、懐にしまった。
「今からABC順に名前を呼びます。呼ばれたらここへ来て帽子をかぶるように!」
マクゴナガル教授が生徒をABC順に呼ぶ。
ハンナ・アボット、スーザン・ボーンズ、テリー・ブート…………
エスペランサの姓はRokewode(ルックウッド)であるから最後のほうだ。
名前が呼ばれるまでの間、彼は各寮の雰囲気を観察していた。
活気があり、陽気そうであるが、同時に精神年齢の低そうな者が多いのがグリフィンドール。
辛気臭く、暗いが落ち着きのあるスリザリン。
頭でっかちが多そうなレイブンクロー。
ボーっとしていて戦場で部隊から置いていかれそうなハッフルパフ。
赤毛のロナルド・ウィーズリーや秀才気味のハーマイオニー・グレンジャーなどはグリフィンドールに入り喜んでいる。
マルフォイやその腰ぎんちゃくはスリザリンに組み分けされた。
黒髪でメガネをかけたハリー・ポッターという少年の組み分けは予想以上に長引いた。
ハリーという少年が名前を呼ばれた瞬間に大広間はざわついていたが、組み分け帽子が長考に入ると静かになる。
エスペランサはあまり知らないが、ハリー・ポッターという子は英国の魔法界では英雄らしい。
かつて英国を恐怖のどん底に陥れたヴォルデモートという魔法使いをたった1歳で打ち破ったのだそうだ。
1歳にして闇の魔法使いを倒す程の存在なのだからさぞ強そうな見た目をしているのだろうとエスペランサは思ったが、彼は栄養失調を疑うほどに痩せていた。
(あんな子供が英雄? というか1歳に負ける闇の魔法使いに支配される英国魔法界の治安維持能力には不安しか覚えられないな)
エスペランサはヴォルデモートという人物がどのような強さを持っていたのかを知らない。
おそらく独裁国家の独裁者やテロ組織のリーダーのような存在ではないのかと勝手に想像している。
恐怖政治を行ったロベスピエールやファシズムを掲げたムッソリーニなどである。
やがてハリー・ポッターはグリフィンドールに組み分けされ、グリフィンドールからは今までに無い歓声が上がった。
赤毛の双子は「ポッターをとった!」と騒いでいるし、他の生徒もみな立ち上がって喜んでいる。
ハリーの組み分けの後、数人の組み分けが終了し、いよいよエスペランサの組み分けが始まった。
「エスペランサ・ルックウッド!」
「はっ!」
マクゴナガル教授の名前を呼ぶ声が、かつて傭兵だったころの上官の声とかぶり、ついつい硬い返事をしてしまう。
さっさと組み分けを終わらせてしまおうとエスペランサは小走りで帽子のところまで行き、それを被った。
「むむっ。これはまた難しい子が来た」
組み分け帽子が言う。
「難しいとは?」
「私は被った人の思考を読み取れるのだが、君のような思考の子供は珍しい」
「と言うと?」
「子供の思考は純粋だ。汚れを知らない。しかし、君は………」
「まあ、あんな地獄を経験してきたからな………。つい数週間前まで人殺しをしてきた子供が純粋なわけが無い」
「大抵の人間は過去に起きた辛いことや苦悩を忘れようとして、心の奥底に封じ込めようとする。だが、君の場合は逆だった。頭を覗いた瞬間に、君の苦悩が私に襲い掛かってきたよ」
「俺はあの地獄を忘れるわけにはいかないからな。あの戦場で犠牲になった仲間の死を俺は忘れはしない。そして………」
「君の体験したような恐ろしい出来事がもう起こさないために、魔法を学びに来た……と?」
「そうだ。折角、魔法という力を手に入れたんだ。この力を最大限に利用して理不尽に襲い掛かる暴力をこの世から滅ぼしてやる。テロリストだろうが、闇の魔法使いだろうが、一人残らず俺が倒す」
「それが死んだ仲間に対する弔いであると?」
「ま、そういうことだ」
「なるほど。君は力に対し貪欲だ。力を欲し、そして、それを利用とするならばスリザリンが適している。しかし、君の心にあるのは“闇”に対する憎悪。君のような生徒を二人ほど知っている。一人は悪の道に走り、一人は光の道へ走った」
「……………………」
「ふむ。君の力を最大限に活かせるのはスリザリンだ。しかし、世界を君の望む方向に変えたいのであるならば…………グリフィンドール!」
「………その寮で俺の求める力は得ることが出来るか?」
「それは君次第だ」
「なるほど。感謝します」
ハリーほどではないがエスペランサは拍手でグリフィンドールに迎えられた。
余談だが、グリフィンドールの寮に向かう最中でクソ爆弾による爆撃をしてきたピーブスというポルターガイストの腕をM1911で撃ち抜いたことにより、エスペランサはマグル生まれの学生から恐れられるようになってしまった。
「クソ爆弾の形状が手榴弾に酷似していたのが悪い」、「自分は他の生徒の命の危険を感じたから行動したのだ」と、M1911を没収しようとするマクゴナガル教授に彼はそんなことを言いながら抵抗した。
子供が拳銃を撃つと反動で腕が後ろに吹っ飛ぶらしいですね。