ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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投稿が遅くなり申し訳ございません!

やっと仕事やら雑務が片付いたので投稿出来ました!
誤字報告や感想ありがとうございます。


case27 Room of Secrets 〜秘密の部屋〜

ハリーとロンは遂に怪物に正体を突き止めることに成功した。

 

 

医務室で彼らはハーマイオニーが「幻の生物とその生息地」のバジリスクの項目を握り締めていることに気づいたのだ。

 

バジリスクが怪物の正体ならば、今までの出来事と全てつじつまが合う。

何故、犠牲者が死なずに石になったのかという疑問も、ハーマイオニーが手鏡を持っていたことから分かった。

 

また、ハーマイオニーは「パイプ」という走り書きを紙にしており、そのことからバジリスクが排水管を使って移動していることも判明した。

 

加えて、マートルが死んだのが女子トイレであったことから秘密の部屋の入口がマートルのトイレであることも予測できた。

 

 

 

「そうだ。継承者は蛇語を使ってバジリスクを操っていたに違いない。だから僕にだけ声が聞こえたんだ!」

 

「どうするハリー。怪物の正体も部屋への入口も分ったけど、ダンブルドアは不在だぜ?」

 

「とにかく先生たちに伝えよう。マクゴナガル先生ならなんとかしてくれるかもしれない」

 

 

ハリーとロンは興奮して廊下を移動する。

 

兎にも角にも、教職員に事実を報告すべきだという考えに至り、2人は職員室へと向かうことにした。

 

 

2人は職員室へ入ったが、職員室に教職員は1人としていなかった。

 

がらーんとした部屋には職員の机と椅子が無造作に置かれていて、机の上はプリントやら筆記具が置きっぱなしにされている。

 

 

「誰も居ないね」

 

「どうしたんだろ?先生たち。まるで仕事を放り出して出て行ったような感じだ」

 

 

2人が顔を見合わせている時、突然、マクゴナガルの声が廊下に響き渡った。

おそらく声量拡大呪文を使っているのだろう。

 

 

『生徒は全員、それぞれの寮に戻りなさい。職員は全員職員室に集まってください!!!』

 

 

マクゴナガルの声からは多少の焦りが見え隠れしていた。

 

 

「どういうことだろう?僕たちも戻った方が良いかな?」

 

「今出たら最悪、先生たちと鉢合わせだ。そうなったらまずい。今は団体行動が義務付けられているから、僕ら二人だけで行動してるのがばれたら減点されちゃう」

 

「そうだねハリー。じゃあ、あの洋服箪笥の中に隠れよう。あの中で隠れていれば何が起こったのかも知ることが出来るかもしれない」

 

 

ハリーとロンは部屋の隅にあった古い洋服箪笥の中に隠れた。

 

 

 

2人が隠れたすぐ後に職員が続々と職員室へ入ってくる。

 

 

眉間にしわを寄せたマクゴナガルを筆頭にフリットウィック、スネイプ、スプラウト、シニストラ、ゴーストのビンズ、中にはハリーたちが見たことのないような先生もいる。

 

 

「とうとう。起こってしまいました。最悪の事態です」

 

マクゴナガルが深刻な表情で言う。

 

「何が起きたのです?」

 

「生徒が秘密の部屋に連れ去られました。また、一人の生徒は行方知れずです」

 

 

その言葉に職員は息をのむ。

 

 

「何故、生徒が連れ去られたというのがわかるのですかな?それに、行方不明とは?」

 

スネイプが静かに言う。

 

「スリザリンの継承者が伝言をまた、廊下に残したのです。『彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう』と。壁に血文字で書かれていました。そして、3階の女子トイレの近くの壁が爆破され、排水管が粉々にされています。近くには、これが落ちていました」

 

 

マクゴナガルが取り出したのはC4プラスチック爆弾の起爆装置であった。

 

 

「これはルックウッドの持っているマグルの機械です。恐らくですが、彼はスリザリンの継承者か怪物と廊下で鉢合わせしたのでしょう。そこで戦闘になった……。ルックウッドはいまだに行方不明です」

 

 

エスペランサの名前を聞いてスネイプは顔を歪める。

 

スネイプはエスペランサが怪物相手にした抵抗が“壁1枚を爆破するだけ”と言う事に疑問を持っていた。

 

 

「ルックウッドなら怪物を道連れにしてでも戦いそうですけどな。もしかしたら今でも戦っているかもしれませんぞ」

 

フリットウィックが言う。

 

妖精呪文では優秀なエスペランサをフリットウィックは割と高く評価していた。

 

 

「それで、襲われた女子生徒というのは誰なんです?」

 

スプラウトが聞く。

 

「ジネブラ・ウィーズリーです」

 

 

洋服箪笥の中でロンが絶句した。

 

へなへなと倒れるロンをハリーが支える。

 

 

「もはやホグワーツは終わりです。生徒を家に帰さなくてはなりません。でなければ犠牲者が増える一方です」

 

 

マクゴナガルはそう決断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、空気を読まずに乱入してきたロックハートはスネイプとマクゴナガルによって追い詰められ(「ロックハート先生はスリザリンの怪物を倒すことは容易いと言っておりましたな?」と煽られた)、職員室から逃げ出すことになる。

 

この時ばかりはスネイプとマクゴナガルも結託していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハリーとロンは一度寮に戻った後でギルデロイ・ロックハートの部屋を訪ねた。

 

ロックハートはスリザリンの怪物を倒そうとしているとしていると(不安ではあるが)思っていたためだ。

 

しかし、ロックハートはホグワーツから逃げようとしていた。

 

 

失望してハリーがロックハートを問い詰めたところ、ロックハートは今までの功績が全て漁夫の利で、他人の功績を勝手に自分のものにしていたのだとバラしてしまう。

もし、その場にエスペランサが居たとしたらロックハートは1発ぶん殴られていただろう。

 

ロックハートの杖を武装解除した後、ハリーはロックハートを秘密の部屋まで連れていくことにした。

大した役には立たないだろうとは思っていたが、まあ、弾除けくらいにはなるだろうと2人は思った。

ハリーもロンもエスペランサに毒されてきてるのかもしれない。

 

 

マートルのトイレに行くと、マートルはハリーに飛びつくように出てきた。

 

何だかいつもよりも機嫌の良いマートルにハリーは色々と質問をした。

死んだときの話や、トイレの構造について、だ。

 

マートルはそれを快く承諾し、全て教えてくれた。

 

 

「あら。ハリーも同じ事聞くのね。エスペランサってやつも同じことを聞いてきたわよ」

 

 

マートルは言う。

 

 

「え?エスペランサもここへ来たの?」

 

「半日くらい前にね。彼はだいぶ前から怪物の正体に気づいていたみたいよ。それに秘密の部屋の入口も見つけたみたいね」

 

「マジかよ。エスペランサ。あいつ、僕らには何も言わなかったぜ?ていうか、怪物がバジリスクって知ってたのに、あいつアラゴクのところまで行ったのかよ」

 

「エスペランサってやつは1人で怪物と戦うって言ってたわね。多分、あんたたちが危険な目に合うのが嫌だったんじゃない?」

 

「うん。エスペランサはそういう奴だよ。でも、一言僕たちに言ってくれたっていいじゃないか。まあ、その時は僕らもついていくだろうけどね」

 

 

ロンが苦笑いしながら言った。

 

 

ハリーは洗面台に蛇の模様を見つけ、蛇語を使うことで見事に秘密の部屋への入口を開くことに成功した。

 

ロボットアニメのように洗面台が変形し、地下へ続く大きな穴がトイレの真ん中に登場すると、マートルは口笛を吹く。

 

 

「ねえ、ハリー。あなたが死んだらわたしのトイレに住まわせてあげるわ。エスペランサは見た目は良いけど、中身がちょっとあれだし。ハリーは見た目は地味だけど性格がわたしの好みなのよ」

 

「あー。えーと、ありがとう?」

 

 

ニヤニヤするロンを無視して、ハリーはロックハートを穴の中にけり落した。

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

ロックハートの悲痛な叫びが木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

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排水管を抜けて、地下へたどり着いたハリーたちはバジリスクの抜け殻を発見した。

抜け殻だけで6メートルを超える。

 

真っ暗だったので「ルーモス・光よ」でハリーは地下を照らしていたのだが、照らした先に抜け殻があったのである。

 

 

狭い洞窟のような場所に無数のネズミの骨とバジリスクの抜け殻が転がる光景は不気味でしかない。

湖の下なのか、あたりの岩肌は濡れていて時折、ピチョンピチョンという音が聞こえる。

 

 

「もし何か生き物が動く気配がしたらすぐに目を閉じるんだ。バジリスクの目を絶対に見ないようにしよう」

 

 

敵の正体はバジリスク。

 

その眼を見たものを問答無用で殺すという特殊能力を持った蛇だ。

故にハリーは物音が聞こえたら真っ先に目を閉じるようロンとロックハートに指示を出した。

 

 

「僕たちじゃたぶんバジリスクを倒すことは出来ない。だからジニーを発見し次第すぐにでも部屋から逃げよう」

 

「でも、ハリー。バジリスクを野放しにするのか?」

 

「勿論、野放しになんてしたくない。でも、相手はエスペランサやハーマイオニーでも敵わなかった怪物だ。僕たちだけで戦って、勝ってジニーを取り戻すことなんて不可能に近い」

 

「そっか。エスペランサ………。無事だといいんだけどな………。いくらマグルの武器をたくさん持っていても、バジリスクには敵わなかったってことだよな」

 

 

エスペランサの死体は見つかっていない。

 

廊下が爆発でめちゃめちゃになっていたことからエスペランサとバジリスクが交戦したことはハリーもロンも予想がついたが、彼が生き延びたのかそれとも死んだのかは見当がつかなかった。

 

相手がトロールやアクロマンチュラならエスペランサにも十分な勝機があったとは思うが、今回は相手が悪すぎたのだろう。

何せ、目を見たもの全てを殺すという能力を持った怪物なのだ。

 

 

エスペランサでも勝てなかった相手に立った二人で挑もうとするほどハリーは馬鹿ではない。

ハリーは今回の任務の最優先事項が「バジリスクを倒す」ことではなく「ジニーの救出」にあることを十分に理解していた。

 

 

「え……エスペランサ・ルックウッドでも勝てなかった怪物に会いに行くのですか!?無茶だ。私は帰ることにします!」

 

 

ロンの言葉を聞いてロックハートが顔を青くする。

 

ロックハートはエスペランサを恐れていた(ピクシー妖精の虐殺事件によって)が、同時に彼の強さを信頼していた節がある。

ピクシー妖精を容易く全滅させることの出来るエスペランサならバジリスクのような怪物相手でも勝つことが出来るだろう、と。

 

しかし、現実は違ったようである。

 

顔色一つ変えずにピクシー妖精を蜂の巣にしたエスペランサもあっけなくバジリスクに敗北した。

その事実がロックハートを絶望させる。

 

もっとも、ピクシー妖精とバジリスクではそもそも危険度が違いすぎるのだが、ロックハートにとってはピクシー妖精もバジリスク並みに脅威であったわけだ。

 

 

「別にバジリスクと戦いに行くわけじゃない。ジニーを救いにいくだけだ。こんな怪物と正面から戦っても勝てるわけないだろ」

 

「そんな!だってここに抜け殻があるってことは、ここは怪物の巣なんでしょう?絶対どこかに怪物が居るってことじゃないですか!?」

 

「先生は生徒がどうなっても良いって言うんですか?」

 

「あたりまえじゃないですか!私は死にたくない!」

 

 

バジリスクの抜け殻を前にして鳴いて喚くロックハートをロンは冷ややかな目で見る。

 

正直なところ、ロンはロックハートの気持ちが分からないわけではなかった。

 

富や名声が欲しい。

有名になってちやほやされたい。

そういった欲はロンも持っていた。

 

ハリーはどこへ行っても有名人で、ハーマイオニーは優秀であるから褒められる。

兄弟は人気者だったり秀才だったする。

そんな人間に囲まれた生活でロンは劣等感に悩まされていた。

 

自分だって有名になりたい。

ちやほやされたい。

ハリーのおまけ扱いしないで自分だけを見て欲しい。

そう思っていた。

 

だからロックハートの他人を騙してまでも名声を手に入れようとする気持ちを理解する事はできた。

同情すらしていた。

 

だが、ロンは例え偽りの名声しか手に入らなかったとしても、生徒を見殺しにする事はしないだろう。

ロンはロックハートの持っていない「勇気」というものを持っていたのだ。

 

 

「ウィーズリー君。君なら分かるだろう。私は有名になりたいだけだったんだ。決して怪物と戦って死のうとなんて思ってなかった」

 

「見損なったよ。先生。僕だって有名になりたいし、名声も欲しい。でも僕はあなたみたいにかっこ悪い有名人にはなりたくないんだ。僕は人を救って、人のために尽くして有名になりたい。他人を見殺しにするような英雄にはなりたくないんだよ。だから僕と先生は違う」

 

 

ロンは一人の友人のことを思い浮かべる。

 

富も名声も欲さない。

ただただ罪無き人間の命を救うためだけに努力をするエスペランサ・ルックウッドという少年にロンの心は動かされた。

 

彼はハリーが有名だろうと、ハーマイオニーが優秀だろうと、そんなことは一切気にしなかった。

エスペランサにとってハリーは「英雄」ではなく「守るべき一般市民のひとり」であったのだ。

 

他人を救う以外に欲が無い彼をロンは密かに尊敬していた。

エスペランサの生き様を見ていると劣等感に悩まされている自分が馬鹿のように思えたのだ。

 

 

「先生。いや、ロックハート。あなたにチャンスをあげるよ」

 

 

そう言ってロンは自分の持っていた杖をロックハートに投げ渡した。

 

 

「あなたは忘却術が得意なんだろ?その杖で僕と決闘しろ。あなたが勝ったら逃げようがどうしようが自由にすれば良い」

 

「ロン!何をして………」

 

「ハリーは見ててくれ。ロックハートは僕の悪い部分を具現化したような存在だ。こいつを僕が倒せば、僕は一歩、前に進めるような気がする」

 

 

そう言ってロンは懐から拳銃を取り出した。

 

「それは………」

 

「エスペランサには悪いけど、あいつの机の引き出しから失敬したんだ。今の僕の杖よりは役に立つからね」

 

 

ロンが取り出した拳銃はエスペランサが所有する銃の中でももっとも小さいSIG-P226というものであった。

エスペランサは日頃から自身のベットや机に武器を隠しているのだが、そのうちのひとつをロンは勝手に持ち出していたのである。

 

杖は折れて使い物にならない上に、まともな攻撃用呪文すら知らないロンは杖よりも銃のほうが役に立つと考えたのだ。

もっとも、彼は銃を撃った事がない。

エスペランサが魔法によって銃本体の重量を極限まで軽くしてはいるが、素人のロンが射撃の難しい拳銃を即座に使いこなせるはずは無かった。

 

 

「先生。いや、ロックハート。これが最後のチャンスだよ。ここであんたが忘却術を成功させて僕に勝てば、とっとと城に戻ってまた偽の英雄を気取れる。でも、僕に負けたら最後まで付き合ってもらう。囮役か盾役としてね」

 

「ロン!ダメだ!銃はそんなに簡単に使えるものじゃない!それに魔法の前では無力すぎる」

 

 

ハリーはマグル出身であるから銃の怖さは人並みに知っていた。

 

しかし、ハリーがホグワーツに入学する前の誕生日の日。

叔父のバーノンが持っていたライフルがハグリッドの手によっていとも簡単にひん曲げられ、使用不能に陥った出来事や、昨年度末にエスペランサの銃による無差別飽和攻撃がヴォルデモートにあっさりと退けられたという事実もあり、魔法の前では銃が無力になる事もあることを彼は実感していた。

 

それでもロンは銃口をぴったりとロックハートに向けたまま動かなかった。

 

 

ロックハートも銃の威力は知っている。

 

ピクシー妖精を一瞬で殺戮した兵器の恐ろしさをロックハートは忘れていない。

 

 

しかし、今回銃を扱おうとしているのはエスペランサではなくロンである。

銃を使ったことのない素人に対して、ロックハートは杖を持っている。

 

ピクシー妖精の駆除すらできない彼であったが、学生時代はレイブンクロー寮内でも中堅の学力と魔力を有していた過去がある。

故に2学年であるロンに魔法で後れを取ることはまずなかった。

 

加えて、ロックハートは十年以上もの歳月をかけて鍛え上げた忘却術という奥の手がある。

忘却術を駆使すればロンもハリーも容易く倒すことが出来るだろう。

そう、彼は考えていた。

 

 

「良いのですか?ウィーズリー。私を甘く見ているようだが、忘却術は得意中の得意でね。私が忘却術を使えばあなたたちは確実に負けるのですよ?」

 

「へえ。随分余裕じゃないか。ピクシー妖精の前でもそんな風に余裕を持てればよかったのにね」

 

「ロン!挑発しちゃだめだ!」

 

 

ロンの言葉に顔を赤らめるロックハート。

 

プライドの高い彼は煽られることに対する耐性があまりついていない。

ロンに渡された杖を握る手に力が入るのをロックハートは感じる。

 

 

「君たち子供に私の苦悩が分かってたまるか!!!!」

 

 

ロックハートは憎悪をむき出しにして杖をロンに向けた。

 

その動作は、いつものポンコツな彼とは違い、スネイプ達熟練の魔法使いをも彷彿とさせる滑らかな杖さばきであった。

 

ロンはそんなロックハートの予想外の動きに圧倒され、反応が遅れてしまう。

 

 

 

「ロン!駄目だ!逃げてっ」

 

「遅い!!!オブリビエイト・忘れよ!!!!!!」

 

 

 

ロックハートが呪文を叫ぶとともに彼の持つ杖からは強力な閃光が放出される。

 

 

 

しかし、その閃光はロンではなく呪文を放ったロックハートに向かっていき、そして、直撃した。

 

 

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

 

 

呪文の直撃を受けたロックハートは吹き飛んでしまい、背後の岩壁に衝突する。

 

その衝突で彼は気を失った。

 

 

 

「そうか。ロンの杖は…………」

 

「うん。呪文が逆噴射しちゃうんだ。こいつがそれに気づかないでよかったよ」

 

「君は最初からこれを狙って………?」

 

「そうだよ。エスペランサに前に言われたんだ。戦は戦わずして勝つのが一番良いってね」

 

 

そう言って安堵したロンとハリーであったが、足元がぐらぐらと揺れ始めたのを感じて、笑顔が消える。

 

 

 

「何だ?この揺れは」

 

「ロックハートが岩壁にぶつかった衝撃で天井が崩れ始めたんだ………」

 

 

 

ガガガガという音と共に頭上から大小さまざまな岩石が落下してくる。

 

 

ハリーとロンは咄嗟に左右に分かれて岩石を回避した。

 

しかし、落下してきた無数の岩石は2人の間に積み重なり、通路を分断してしまう。

 

 

 

「ロン!大丈夫!?」

 

 

積み重なって通路を分断してしまった岩石越しにハリーが声をかける。

 

 

「ハリー!こっちは大丈夫だ。一応、ロックハートも生きてるよ。でも、この岩をどかさないと………」

 

「どうしよう……。爆発させたりしたらまた岩雪崩が起きるだろうし………。それにこうしている間にもジニーの命が………」

 

 

もはや一刻の猶予も無かった。

 

 

「ロン。僕は先に行ってジニーを救出してくる。君はその間にこの岩を何とかしていてくれ!」

 

「わかったハリー。でも無茶はするなよ?」

 

「大丈夫。エスペランサみたいにバジリスクと戦おうとしたりはしないさ」

 

 

 

そう言い残してハリーは前進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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秘密の部屋には案外、簡単に侵入することが出来た。

 

 

 

左右に蛇の銅像が並び、地面には水たまりが広がる。

 

蛇の銅像を抜けると、ホグワーツの大広間くらいの大きさがある広場が広がっていて、その奥の壁にサラザール・スリザリンと思われる人物の巨大な石像が物々しくそびえ立っていた。

 

地下のはずなのに何故か明るいのは魔法のせいであろうか。

 

 

一見、古代遺跡のようだ、とハリーは思った。

 

じっくり鑑賞したいところだが、ハリーにその時間は無い。

 

すぐにでもジニーを見つけ出し、そして、逃げなくてはならない。

何故なら、この秘密の部屋はバジリスクの住処でもあり、いつ、バジリスクが登場してもおかしくないからだ。

 

 

 

「ジニー!!!!」

 

 

 

ジニーは探すまでも無かった。

 

秘密の部屋の最深部であるスリザリンの石像の下に横たわっていたのだから。

 

 

 

「ジニー!!!!」

 

 

もう一度ハリーは叫ぶ。

 

無論、返事は無い。

 

 

ジニーの肌は色素が抜けてしまったように白くなっており、呼吸もほぼ無かった。

瀕死の状態である。

 

 

 

ハリーは彼女のそばへ杖を放り出して駆け寄り、跪く様にしてジニーに声をかけた。

 

 

 

 

「ジニー!目を覚ますんだ!!!!ジニー!」

 

 

 

 

 

「彼女は目を覚まさない………」

 

 

 

気が付くといつの間にか座り込んだハリーの横へ一人の少年がやってきていた。

 

 

青白い肌。

整った顔立ち。

高い身長。

どこか冷たさを感じさせる目。

若さを感じさせない冷静なたたずまい。

 

 

 

ハリーはこの少年を知っていた。

 

 

 

「トム………リドル?」

 

 

 

記憶の中の少年。

 

50年前にハグリッドを退校に追いやった学生。

 

 

そう。

 

 

彼は紛れもなくトム・マールヴォロ・リドル本人だった。

 

 

 

 

 

「そんな。君は記憶の中の存在じゃ………」

 

 

「そうだね。僕は記憶の中の存在だ。まあ、もうすぐそれも克服できるが………」

 

「トム!助けてよ。ジニーが死にそうなんだ」

 

「そのようだね。そして、この娘が弱るほどに、僕は確かな存在になる……」

 

「トム?君は何を言っているんだ?はやくしないとバジリスクが来るかもしれないんだ!」

 

 

 

ハリーは若干の苛立ちを感じながらトム・リドルに助けを求めた。

 

それに対してトム・リドルはハリーが投げ捨てた杖を拾い上げて、その杖を弄り回しながら涼しげに答える。

 

 

「大丈夫さ。呼ばれるまでは来ない………」

 

「呼ばれるまで??」

 

「ああ。バジリスクは継承者の命令が無いと動かない」

 

「トム。その継承者がホグワーツに居るんだ。だから早く逃げないと。それと、その杖は僕のだ。返してくれないか?」

 

「どのみち君にはもう杖は必要ないだろう?」

 

「何を言って………?」

 

「この娘に拾われた僕は、ここが僕の記憶から50年が経過した後のホグワーツであることを知った。色々と興味深かったよ。ジニーから件の魔法戦争についても聞いた。でも、彼女は血生臭い戦争よりも色恋沙汰の方が関心がるみたいでね。実に退屈だったよ。ジニーの話し相手をするのは………。英雄ハリー・ポッターともっと仲良くなりたい、とか。ハリーは全然自分に振り向いてくれない、とかね」

 

 

トム・リドルはケラケラと笑いながら話す。

 

 

「そうそう。ハリーと言えば君だ。僕はここのところずっとハリー・ポッターと話したかった。僕は徐々にジニーの身体を乗っ取っていったんだが、彼女が気づき始めてね。怖くなったんだろう。彼女は僕を捨てた。そして、君が僕を拾った。そして、僕は君に、ウスノロのハグリッドが捕まる瞬間を見せた」

 

「ハグリッドは無実だった!君は間違っていたんだ!」

 

「当たり前だ。僕でさえ数年の年月をかけて秘密の部屋を見つけ出したんだ。ハグリッドなんかにこの部屋が見つけられるはずがない。まったくどいつもこいつも………。ダンブルドアだけは僕が犯人だと疑っていたようだけどね」

 

「その言い方………。まるで君が秘密の部屋を開けたみたいじゃないか」

 

「ククク………。ああ、そうだ。僕が開けた。いや、違うな。正確に言うとジニーが開けた。僕が操っていたというのもあるが、彼女がマグル生まれを襲っていたんだよ。ただ、彼女は継承者ではない。そう、スリザリンの継承者とは僕のことだ」

 

「そんな………まさか」

 

「ところで、ハリー。僕は君に聞きたい。君は何故、あのヴォルデモートの呪いを受けても生き残ることが出来たんだ?」

 

「知るもんか。ダンブルドア先生は愛の力だって言っていた。僕の母さんの力でヴォルデモートは死んだんだ!」

 

「ヴォルデモートは死んじゃいないさ」

 

「え?」

 

「ヴォルデモートは過去であり、未来でありそして、今であるからな……」

 

「君は何を言っているんだ?いや、そもそも君は何でヴォルデモートを知りたがるんだ?」

 

「僕がいつまでもマグルの父親の名前を使うと思ったら大間違いだ。僕は在学中から親しい者たちの前ではこう名乗っていた」

 

 

 

トム・リドルは杖を一振りして、宙に文字を浮かび上がらせる。

 

 

‟Tom Marvolo Riddle”

 

 

「こんな汚らわしい名前を僕は名乗らない」

 

 

彼は杖をもう一振りした。

 

 

‟I am Lord Voldemort”

 

 

 

「これで分かったかい?僕の狙いはマグル生まれの排除じゃなくなっていた。僕の狙いはハリー君の命だった!」

 

「!!!」

 

「君は言った。ヴォルデモートの呪いから自分の命を守ったのは母の愛、だと。つまり、君に特別な力が存在したわけではないということだ!それなら襲るるに足りない。バジリスクで確実に倒すことが出来る筈だ!」

 

 

 

トム・リドル、いや、ヴォルデモートは高らかに叫ぶ。

 

 

 

「スリザリンよ!ホグワーツ四強の中で最も強き者よ!我に話したまえ!!!」

 

 

 

 

 

ヴォルデモートがそう叫ぶと、背後のスリザリンの石像の口がゆっくりと開き始める。

 

 

そして、その口の中から巨大な怪物が姿を現した。

 

 

 

「バジリスク!!!」

 

 

ハリーはバジリスクが石像の中から出てこないうちに回れ右をして走り始めた。

 

 

杖が無い今、バジリスクの前でハリーは無力である。

いや、杖があったところで無力であった。

 

バジリスクの目を見れば死が待っている。

 

ハリーに出来ることは唯一つ、バジリスクの目を見ずに逃げることのみだった。

 

 

 

 

 

「はははははは!逃げろ逃げろ!英雄ハリーポッターもスリザリンの怪物の前では無力だな」

 

 

ヴォルデモートの高笑いが聞こえる。

 

そして、巨大な怪物が体を引きずりながら追いかけてくる音もハリーの耳には届いていた。

 

 

 

「っ!?うわっ」

 

 

 

水たまりに足を取られて転倒してしまうハリー。

 

痛さを堪えて立ち上がろうとするも、足に力が入らない。

見れば手足が尋常なまでに震えていた。

 

 

そうこうしている間にもバジリスクは近づいてくる。

 

 

怪物のズリズリと近づいてくる音はまるで死へのカウントダウンであった。

 

 

 

 

 

 

 

ー怖い

 

 

ーでも、ジニーを救わなきゃ

 

 

ーどうやって???

 

 

 

ハリーは恐れた。

 

自分が死ぬことではなく、ジニーを助けられないことを。

 

 

 

 

ー僕には出来ない

 

ー杖も奪われた僕には…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー誰か………僕を助けてくれ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いなヴォルデモート。ここでくたばってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‟ホグワーツでは助けを求めたものに常に助けが与えられる”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシュバシュバシュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 

 

 

 

突如として飛来した‟榴弾”がバジリスクの頭部を粉砕する。

 

 

 

 

飛来した榴弾は3発。

 

 

そのうち1発がバジリスクの頭部に命中し、残り2発は背後の岩壁に当たって爆発した。

 

 

 

宙に舞う怪物の肉片と血潮。

 

 

 

マグルの作り出した殺人兵器はバジリスクの持つ最大の武器であった「眼球」を四散させ、使い物にならなくする。

 

かつて、サラザール・スリザリンが苦心して作り上げた最高傑作であるバジリスクは、マグル世界では割とありふれた武器である対戦車榴弾によって戦闘能力を奪われてしまったのであった。

 

 

 

 

 

「バジリスクの頭が吹き飛んだだと!?いったい誰が!?どうやって!!??」

 

 

 

 

先程までは勝利を確信し、高笑いすらしていたヴォルデモートであったが、突如として僕であるバジリスクの頭が吹き飛ばされ、動揺を隠せずにいた。

 

 

 

 

バジリスクは悲鳴をあげながら部屋中をのたうち回る。

 

頭部からは黒煙が上がり、肉が焼ける臭いがハリーの鼻を突いた。

 

 

 

この破壊力。

 

爆音、黒煙、血の焼ける臭い。

 

 

 

ハリーは知っていた。

 

 

 

ホグワーツ城内でこんな武器を使用する人間は一人しかいない。

 

ダンブルドアが居ない今のホグワーツで唯一、バジリスクを倒すことが出来るであろう存在。

 

 

 

 

 

「誰がやった!?ダンブルドアか?いや、ダンブルドアは追放されてホグワーツには居ない………。では一体だれが?」

 

 

 

 

ヴォルデモートは秘密の部屋中を見渡す。

 

 

 

悲鳴を上げてのたうち回るバジリスクの斜め左。

スリザリンの石像の十数メートル横に土煙が上がっている。

 

そして、その灰色の土煙の中に何者かが立っていた。

 

 

 

 

「お前か!!!誰だ!?ホグワーツの生徒か?名を名乗れ!!!!」

 

 

 

 

土煙が晴れ、そこに立っている人間の姿が露になる。

 

 

 

 

 

短く刈りあげられた黒髪。

決して高く無い身長。

魔法界の人間にしては珍しく鍛え上げられた体格。

数多もの戦場を潜り抜けてきたことをが分かる精悍な顔立ち。

 

そして、魔法に染められた世界とはミスマッチな武器……個人携帯型対戦車榴弾LAMを手に持った少年…………。

 

 

 

 

 

 

 

「名乗るほどの者じゃねえけど………まあ、聞かれたからには答えないとな。俺の名前は、エスペランサ・ルックウッド」

 

 

 

 

 

少年はゆっくりと、しかし、はっきりとこう告げた。

 

 

 

 

「ヴォルデモート。お前を殺しに来た」

 

 

 

 

 

 

エスペランサ・ルックウッド。

その存在は名前が示す通り、まさに、戦場に舞い降りた‟希望”であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハリー目線で書くのが非常に難しかったです。

最後に発射した対戦車榴弾は2発を手に持って発射(無論、魔法で武器本体を軽量化済み)、残り1発を魔法で起動させて発射しています。

トム・リドルもまさか秘密の部屋にマグルの兵器持ち込むやつが居るとは思わなかったでしょうから完全に不意打ちが決まった状態ですね。



あとフォークスの出番が……

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