先日、ガルパンのBDを手に入れました。
久々に大洗に行きたいです。
バジリスクは「その眼を見たもの全てを殺害する」という特殊能力を持っている。
非常に厄介で強力な能力であったが、しかし、この能力さえ奪ってしまえば近代兵器で容易に倒せる相手である。
エスペランサはそう考えていた。
故に彼は初期の段階でバジリスクの眼球を破壊しようとしたわけである。
だが、バジリスクの眼球を破壊するのは簡単ではない。
バジリスクの目を見ずにバジリスクの目を破壊するという所業をやってのける必要があるからだ。
そこで、エスペランサは眼球のみの破壊を断念し、眼球を含む頭部を榴弾の類で吹き飛ばすという作戦を考えた。
幸いなことにバジリスクはスリザリンの石像から出現、つまり、エスペランサの潜んでいた場所に背を向ける形で出現したために、彼はバジリスクの背後から攻撃することが可能となった。
要はバジリスクの目を見ずに、背後から榴弾を撃ち込めるという状況に自然となったわけである。
運が良かったとしか言いようがない。
エスペランサは心の中で安堵していた。
「貴様!エスペランサ・ルックウッド?一体何者だ?」
トム・リドル改めヴォルデモートが発狂する。
無理もない。
彼にとっての秘密兵器であったバジリスクが一瞬で戦闘不能にさせられたのだから。
「何者………か。唯の一般生徒だ。あー。ハリーの同級生だ」
「………エスペランサ。聞いたことがある。確かジニーが日記で僕に教えてくれた奴だ。ホグワーツ城内でマグルの武器を使う変わり者………」
「ジニーは俺のことそんな風に思ってたのかよ」
「まさか………バジリスクの頭を吹き飛ばしたのは!?」
「そうだ。マグルの武器だ」
エスペランサは使用済みの対戦車榴弾発射筒をヴォルデモートの足元に転がす。
「正式名称はパンツァーファウストⅢ。マグルの世界では結構オーソドックスな武器だ。まさか、こんなもので伝説の怪物バジリスクが倒せるとは思ってもみなかったけどな」
「!?貴様!!!」
「そうかっかするなって。あんたが、トム・リドル……いや、ヴォルデモートか?」
感情を押し殺した声でエスペランサが訊ねた。
怒りの感情をむき出しにしたヴォルデモートはエスペランサを睨みつける。
マグル世界の軍人と、世紀の闇の魔法使いが対面した。
「そうだ。君は誰だ?唯の学生ではなさそうだな」
「いや。唯の学生だ。まあ、少しは優秀な学生の部類に入るのか?」
「ククク。ははははは!唯の学生か。唯の学生に秘密の部屋を見つけられ、そしてバジリスクが倒されたのか。まあ、良い。いくつか質問がある」
「何だ?」
「君はいつからこの部屋に居た?」
「半日、いや、それ以上前からだ。あー。あそこの岩陰に潜んでた。潜んでたらジニーとお前が来て、それからハリーが遅れてやってきたな。一部始終見させてもらったぞ」
「何故だ?バジリスクは目だけでなく鼻も敏感だ。バジリスクは君の臭いを嗅ぎ取って見つけられたはずなのに………?」
「それはこれのおかげだよ」
そう言ってエスペランサは検知不可能拡大呪文のかかった鞄から空になったジェリ缶を取り出してリドルの足元に投げる。
「バジリスクの嗅覚は俺も警戒していた。だから臭い消しにガソリンを頭から被っておいた訳だ。半日以上、ガソリンの臭いを嗅ぐのはきつかったけどな」
見れば、エスペランサのローブはベトベトに汚れている。
彼からは鼻を突くガソリンの独特な臭いが漂っていた。
バジリスクの嗅覚が優れている事はエスペランサ自身予想していた事だ。
故に頭からガソリンを被ることで“人間の臭い”を強引に消し去るという手段を使ったのである。
これによって、秘密の部屋に長時間潜んでいてもバジリスクに見つかる事はなかったわけだ。
「成程。この臭い……。忌々しいマグルの油の臭いか。確かに、その油の強烈なにおいならバジリスクの嗅覚をごまかせるだろう。では、もう一つ質問だ。何故、君はこの部屋に入ってくる事ができた?蛇語を使えなくてはここまでたどり着く事はできないはずだが?」
「そりゃ、正規の入り口から入ろうとしたら蛇語は必要だろうよ。だがな、バジリスクの移動に使用されるパイプは学校中に張り巡らされている。そのパイプの一箇所を爆破して侵入するのはそれほど難しい事じゃない」
エスペランサはマートルに秘密の部屋に繋がっていそうなパイプの位置を聞きだした後、そのパイプに侵入した。
廊下の壁をプラスチック爆弾で破壊したところ、バジリスクの通れそうな巨大なパイプがむき出しになった訳である。
そのパイプに侵入して、一番大きなパイプを道なりに進んでいったところ、秘密の部屋にたどり着けたのだった。
「ほう。トイレに存在する入り口ではなく、バジリスクの移動するパイプから侵入したのか。盲点だったな。継承者以外の人間も部屋に入れる手段があるとは。素直に感心するよ」
「荒業だったけどな。おかげで廊下は吹き飛んだし、パイプの幾つかは駄目になったはずだ。下手したら退学だ」
「君は面白い生徒だな。ヴォルデモート卿を前にしても恐れずに余裕を見せる。ポッターと違って冷静だ。マグルの機械を使って継承者と怪物の正体を暴こうとしている変わり者だってジニーは言っていたが、存外、君は優秀らしいな」
リドルは気味の悪い笑顔でエスペランサのことを褒め称える。
「ルックウッド。君は2学年にしては優秀だ。僕ほどではないがね………。だが、いくら優秀でも魔法の腕は未熟だ。まともにバジリスクと戦おうとしても歯が立たないだろう。そこで、君は未熟な魔法力を補うためにマグルの武器に頼った。そういうことだね?」
エスペランサの優秀さはジニーがリドルの日記に偶に記すため、リドルも一応は知っていた。
魔法界に居ながら、マグルの道具を使うエスペランサに憤りを感じたリドルではあったが、魔法界で電子機器を使えるようにした事実や、センサーを駆使してバジリスクの居場所を突き止めようとしたエスペランサに少し惹かれるところもあったのだ。
何故、エスペランサという少年はマグルの武器を使うのか。
それは、単純に未熟な魔法の腕をマグルの武器でカバーしているだけに過ぎない。
リドルはそう結論付けた。
「勘違いしてるみたいだけどな。リドル。俺はマグルの武器を好んで使ってるだけだ。杖よりも銃のほうが俺にとって命を預けるに足る武器なんだよ。お前はマグルの武器を過小評価し過ぎだ。魔法の杖で一度に殺せる人数は精々十数人が限界だろう。だがな、マグルの武器は一度に数十万人を殺す事ができる。マグルの科学技術は、お前が思っている以上に発展してるんだ」
「戯けた事を………。一度に数十万人を殺す力を下等なマグルが持つわけがないだろう」
「お前はマグルの力を舐め過ぎだ。人類が生み出した中で最もたちの悪い大量破壊兵器である核爆弾は今から半世紀近くも前に生み出されている。お前らみたいな世間知らずの闇の魔法使いがマグルと戦ったら、瞬殺されるぞ?」
「僕が?マグルに殺される?馬鹿なことを言うな。僕は将来、マグル界を手中に収める。我々、優秀な魔法族が何故、下等なマグルから隠れて生活をしなければならないか君は考えた事はないのか?」
「話にならないな………」
「はん。君の持つそのちっぽけな武器で何が出来る?確かに、バジリスクの目は潰された。しかし、バジリスクは死んだわけではない。君はこの2年間、ヴォルデモート、つまりは僕を倒すために努力をしてきたみたいだが、それは徒労だ。僕の前には如何なる武器も無力だからね」
「別に俺はお前を殺すために努力をしたんじゃない。ヴォルデモートを殺すことは過程に過ぎない。俺の真の目的はこの世界から全ての悪を葬り去ることなんだからな」
「悪?僕が悪だと??なるほど。君は正義感が強いらしいな。だが、君にとっての正義が僕にとっての悪であるように、僕にとっての正義は君にとっての悪である。忌々しいマグルや低脳な奴らから真の魔法族を救うという僕の理念は僕にとっての正義なんだ」
「罪の無い人間を無数に殺すお前の行動に正義はない」
「果たしてそうなのか?人を殺す事が悪であると決めたのは他ならぬ人間に過ぎない。人間が勝手に決めた倫理が必ずしも正義であると言えるのか?君だって牛や豚を殺して食べるだろう?それと僕のマグル殺しが違うものであると説明できるかい?」
「あんたの行う殺しは悪意を持って行う殺しだ。生きるために仕方なく殺すって訳じゃない」
「いや。生きるために行うんだ。マグルは魔法族をいずれ滅ぼすぞ。それに君だって悪意を持って僕ら闇の魔法使い、いや、真の選ばれし魔法使いを殺そうとしているではないか」
「それは俺があんたたちを悪だと思っているからだ。まあ、そうだな。確かに俺は俺の信じる正義に則って闇の魔法使いを殺すだろう。あんたはあんたの信じる正義に則ってマグルやマグル生まれを殺す。俺ら二人の考えは根本的には同じものなのかもしれない」
「そうだろう。最初からそれを認めていれば良いものを」
「だがな。世の中の大多数は闇の魔法使いを悪であると思っているぞ。あんたらはマイノリティで俺らがマジョリティだ。俺は少数の闇の魔法使いを殺す事で多くの人命を救う。少数の悪を不幸にする事で大勢の人間を幸せにする。なあ。多数決ってのは民主主義の最も具現化した形だと思わないか?より大勢を救うために一部の悪を滅ぼすのは悪くない考えだと思うんだ」
「詭弁でしかない。君の救う大勢というのは無能で価値のない有象無象のことだろう。僕の救う人間は少数であれど価値のある人間だ」
「闇の魔法使いが価値のある人間?笑わせるなよヴォルデモート。罪の無い人間を殺戮するだけしか能が無い連中に価値などない!」
エスペランサとヴォルデモートの主張がぶつかり合う。
互いに確固たる理念があり、そして、両者ともにそれを信じて疑わない。
それぞれが自分の考えを善であると思い、相手を悪であると決めつける。
一般論からすればエスペランサが善で、ヴォルデモートが悪であるのかもしれないが、闇の魔法使い側からすればヴォルデモートが善でありエスペランサが悪だ。
多数決を良しとする民主主義の世界ではエスペランサが善という結論になるが、ヴォルデモートは民主主義の世界に身を置かない人物である。
故にどちらが正しいと結論付けるのは不可能であろう。
ヴォルデモート側からすればヴォルデモートが正しく、エスペランサ側からすればエスペランサが正しい。
「何を言おうと、君と僕では考え方が違う。説得も交渉も不可能だ。どちらが正しいか、というのは決闘で決着をつけるしかないな」
「ああ。そうだろう。結局のところこの世界では勝った方が正義だ。力ある者の理念のみが認められる………」
「はははは。良く分かってるじゃないか。君は実に惜しい人材だよ。是非とも僕の陣営に迎え入れたいところだが………」
「お断りだ」
「だろうね」
戦争というのは勝者が正義だ。
この考え方は実は第1次世界大戦の時までには無く、第2次世界大戦のときから生まれた考え方であった。
1次大戦までは敗戦国に賠償金が請求されることがあっても戦争責任を取って政府関係者や軍人が裁かれることは無かった。
敗戦国はあくまで敗戦国であって悪者とはされなかったのである。
しかし、第2次世界大戦では敗戦国は完全な悪者として扱われるようになり、逆に戦勝国は世界から英雄ともてはやされた。
敗戦国は裁かれ、今日に至るまで戦争における悪人として生きてきている。
もし仮に、ドイツや日本が戦争に勝っていたら、米国や英国が悪者とされていただろう。
ナチスがかつて行った残虐行為も連合国が負けていたら悪とされることは無くなってしまうのである。
勝者が正義。
しかし、勝者が正しい人間でなければ、その正義は歪んだものになってしまう。
当たり前のことだ。
ヴォルデモートは杖を掲げる。
エスペランサも杖を構えた。
「ルックウッド。バジリスクはまだ死んではいないぞ。眼球は破壊されたが、まだ、その巨体と猛毒を含んだ牙は健在だ」
「俺にとっては唯のデカい的でしかねえよ!」
戦いの火ぶたが落とされる。
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先手を取ったのはエスペランサである。
「“エレクト・テーレム・リミット・トライ!!!”」
鞄から飛び出した3丁の自動小銃は襲い掛かってきたバジリスクの尻尾に無数の弾丸を撃ち込む。
眩いマズルフラッシュが薄暗い岩壁を照らし出し、連続射撃音が部屋内を木霊した。
5.56ミリNATO弾はバジリスクの表皮を削り取っていく。
宙に浮かぶ自動小銃は、弾倉に弾丸が無くなると自動で弾倉を新しい物に交換するようになっていた。
だから弾幕が途切れるということが無い。
床には空になった弾倉と空薬きょうが数百も転がっていく。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
バジリスクが悲鳴を上げる。
身体に無数の弾丸が直撃したのだから無理もない。
それでいて尚、絶命しないのがバジリスクの恐ろしいところであった。
「ちっ。“プロテゴ・リフレクション!”」
ヴォルデモートはハリーの杖で即座に防護呪文をかける。
バジリスクを透明なシールドが覆い、無数に放たれた銃弾は反射された。
プロテゴ・リフレクション。
防護呪文の中でも最も高度な呪文だ。
飛来した銃弾や魔法を反射させ、逆に敵に向かわせるというもので、決闘クラブではスネイプが使用していた。
反射した銃弾や魔法の威力は本来ならば半減するはずなのだが、ヴォルデモートの魔法力が高過ぎるのか、威力は一切半減していない。
威力を保ったままの銃弾が回れ右してエスペランサを襲いにかかる。
「“インターセプト・リミット・デュオ 武器を二つに限定して迎撃せよ”」
エスペランサもすかさず迎撃のための呪文を唱えた。
反射された銃弾を新たに取り出した小銃によって迎撃。
空中で銃弾がぶつかり合い、火花を撒き散らした。
「“アクシオ・パンツァーファウスト”」
エスペランサは新たに2つの対戦車ロケット弾を取り出し、それらを両手で構える。
本体だけでも20キロ近いロケット弾を片手で持てるのは対戦車ロケットの重量を極限まで軽くしているからだ。
魔法でプループを伸ばす動作などが自動で行われる。
迷わず引き金を引き、対戦車弾をバジリスクに撃ちこんだ。
カウンターマスと呼ばれる重りが発射筒の後方から吹き飛び、発射による反動が最小限に抑えられる。
ロケット推進で弾頭が真っすぐバジリスクへと向かっていった。
「何度同じものを撃っても無駄だ!」
リドルは無言呪文で向かってきた対戦車ロケットを弾き飛ばし、バジリスクに攻撃命令を下す。
「バジリスク!ルックウッドを踏み潰せ!!」
バジリスクは尻尾をばねにして飛び上がりエスペランサに飛びかかった。
総重量が数トンはあると思われる大蛇の体当たりはエスペランサにとって十分な脅威である。
「“エレクト・テーレム!!リミット・インターセプト・ボム!!!」
鞄から無数の手榴弾とスタングレネードを飛び出させ、迎撃させようとするエスペランサ。
しかし。
「同じ手は通用しない!‟エクスペリアームス 武器よされ”」
飛び出した手榴弾やスタングレネードは四方八方へ吹き飛ばされる。
武装解除呪文で強制的に武器が制御外にはじき出されたようだ。
「やるじゃねえか!!流石はヴォルデモートだ」
恐らくヴォルデモートはまだ本気を出していない。
いや、出せていないのだ。
まだ、彼は記憶の存在。
ジニーが存命している間は彼本来の力を出し切ることは出来ないだろう。
(だが、それでもこの強さ。油断できない………。それに戦いを長引かせるほどにジニーは死に近づき、そして、ヴォルデモートは力を取り戻してしまう。早期に決着をつけなくては!!!)
エスペランサはバジリスクの攻撃を咄嗟に避けたのち、蛇の銅像の後ろに隠れ鞄から重狙撃銃を引っ張り出す。
銅像のような遮蔽物に隠れていれば武装解除をされる心配もない。
「そこだバジリスク!尻尾で薙ぎ払え!!!!」
「遅い!」
エスペランサは極限まで魔法で軽量化されたバーレット重狙撃銃の銃口を襲い掛かってきたバジリスクに向ける。
ズドンズドンと鈍い音が鳴り響き、バジリスクの尻尾の先が吹き飛ばされた。
装甲車の装甲すら貫通させるバーレット重狙撃銃の威力は尋常ではない。
5.56ミリの弾丸では致命傷にならなかったが、バーレット重狙撃銃から発射された12.7ミリの弾丸は硬いバジリスクの尻尾の先を粉砕することすら容易であった。
「こんな威力のマグルの武器を容易く扱う……だと?マグルの銃というのはもっと重くて扱いにくいものだったはずだ」
マグルの孤児院出身のヴォルデモートは銃がどのようなものなのかは知識として知っている。
だが、その知識によれば銃というものは決して軽いものではなく、ハンドガンのような小さなものであっても子供が撃てば肩を脱臼する恐れさえある扱いが難しいものだったはずだ。
それなのに、エスペランサ・ルックウッドという少年は見るからに重そうな重狙撃銃を片手で軽々と持っている。
しかも、発射される弾丸は全てバジリスクに命中していた。
不自然としか言いようが無い。
まるで魔法がかかったよう………。
「そうか。武器の起動だけでなく、武器の軽量化とホーミング機能も魔法で行っている訳か。なるほど」
ヴォルデモートはニヤリと笑うと杖をエスペランサに向ける。
エスペランサは丁度、バジリスクの攻撃を避け、重機関銃を怪物の腹部に向けている最中であった。
「‟フィニート・インカーターテム 呪文よ終われ”」
フィニート・インカーターテム。
かけられた魔法を強制的に終了させる魔法である。
難易度はそこまで高くなく初歩的な呪文であるが、魔法使いにとっては習得が必須の魔法であった。
簡単な呪文ではあるが、エスペランサにとってはこれが致命傷となる。
彼は所有する銃火器、榴弾、爆薬のほとんどに軽量化やホーミング機能などの何らかの魔法をかけていたからである。
ヴォルデモートの魔法強制解除呪文によってエスペランサが検知不可能拡大呪文のかけられた鞄から取り出していた銃火器にかけられた魔法は全て解除されてしまった。
「なっ……!?」
エスペランサの持つバーレット重狙撃銃にかけられた軽量化の呪文が解除される。
M82バーレット重狙撃銃の重量は12キロを超える。
彼はその重量を1キロ未満にまで軽量化して片手撃ちを実現させていたが、ヴォルデモートの呪文によって1キロ未満となっていた銃の重量が一瞬で12キロに戻ってしまう。
身体を鍛えているエスペランサと言えども12キロの銃を片手で持てるはずがない。
彼の手は重量に耐えられず、銃を取り落してしまう。
ガシャアアアアン
冷たい床に狙撃銃が落ちる。
「やはりそうか。君は武器の一つ一つに魔法をかけていたんだろう。それならばフィニートは非常に有効な手段だ」
「………くっ」
エスペランサがバジリスクを攻撃するために鞄から出した数丁の小銃と対戦車榴弾も同様に魔法が解除され、自動射撃能力とホーミング機能、自動装てん機能が使い物にならなくなっている。
対魔法使い用に施した細工は全て無力化されていた。
(大丈夫だ。魔法が解除されたのは鞄から出していた僅かな銃だけ。鞄の中に入っている銃火器にかけられた魔法はまだ有効!勝機はある!)
エスペランサが鞄から出していた銃火器は全体の1割程度の武器。
残りの9割は魔法がかけられたまま無傷で温存されている。
昨年度のように全武器を同時に起動させれば勝機は十分にあった。
本来の力をまだ完全に取り戻せていないヴォルデモート相手になら全銃火器を起動させての飽和攻撃を仕掛ければ勝てる可能性がある。
エスペランサはそう思い、勝負に出る。
「‟エレクト・テーレム 武器よ起動せよ!”」
彼は杖を振り上げて呪文を唱える。
鞄に保管された全ての銃火器を起動させ、飽和攻撃を行うための呪文。
別名、ハルマゲドンモード。
現時点でエスペランサが出せる最大の火力。
彼の切り札であった。
(ハルマゲドンモードを起動したからには、ここで確実に決着をつけなくてはならない!)
ハルマゲドンモードはその性質上、全ての武器弾薬を使い切ってしまう。
1度しか使用できない上に、使用後は手元に一切武器が残らないというリスクの高い攻撃でもあった。
「甘いな………。君は魔法使いを相手にした戦いをまだ理解していないようだ」
ヴォルデモートは不敵な笑みを浮かべて杖をエスペランサに向ける。
向けられた杖の先から炎が飛び出る。
炎を出す魔法はホグワーツでも下級生の時に教わるが、ヴォルデモートの出した炎は通常のそれとは大きく異なる形であった。
まず、温度が桁違いである。
周囲の水たまりの水が一瞬にして蒸発する温度。
そして、形。
普通の炎と違って、その炎は形を持っていた。
「蛇型の………炎だと???」
蛇の形をした炎。
エスペランサは知る由も無かったが、ヴォルデモートの出したそれは「悪霊の炎」と呼ばれる最大級の闇の魔術であり、その炎は分霊箱をはじめとした通常攻撃では破壊できないものですら破壊が可能である。
エスペランサに突っ込んできた悪霊の炎は彼の持つ検知不可能拡大呪文のかけられた鞄に直撃した。
「ぐあああああ!!!!!」
薄汚れた鞄は一瞬にして灰と化してしまった。
エスペランサ自身も無事ではない。
腹部は焼けただれ、血と肉が焼ける臭いが鼻を突く。
腰につけていた装備品は片っ端からスクラップになってしまっていた。
「ぐっ……これでは……武器が」
彼の強さの神通力であった検知不可能拡大呪文のかけられた鞄が唯の灰になってしまったことで、もうエレクト・テーレムは発動が出来なくなってしまった。
それだけではない。
所有する武器のほとんどを鞄に保管したままであった。
故にエスペランサは一瞬にして所持する武器弾薬を失ってしまったのである。
(銃火器のほとんどを失った今、俺が勝てる確率は…………無い!?)
エスペランサは絶望する。
今手元にある武器は12キロに重量が戻ってしまったバーレット重狙撃銃が1つ。
悪霊の炎による被害を運良く免れた腰のホルスターに入っているM92拳銃と若干の弾薬。
そして、ここに至るまでの戦いで鞄から取り出していて、尚且つ、まだ弾薬が残っているM16小銃のみ。
それらの弾薬はかき集めても100発に満たない。
エスペランサ自身も深手を負い、自由に身体を動かせる状態ではない。
「万策尽きたか…………」
彼はヴォルデモートを睨む。
対するヴォルデモートは涼しい顔をして立っていた。
「もはやこれまでだな。ルックウッド。まあ、バジリスクをここまで傷つけたことは称賛に値する。その称賛の意味を込めて、君にはバジリスクの餌にでもなってもらおうか」
ヴォルデモートは蛇語で傷だらけのバジリスクに指示を与える。
おそらく、「ルックウッドを捕食しろ」とでも言っているのだろう。
バジリスクは頷いた後、ゆっくりとまだ残っていた牙を煌めかせながらエスペランサに近づいてくる。
「………大人しく殺されるとでも思ったのか?俺は元軍人だ。降伏するくらいなら最後まで戦って死んでやる」
エスペランサは焼けただれた足に精一杯の力を入れて立ち上がり、傍らに落ちていたM16を拾い上げる。
軽量化の魔法が解除され、本来の重さが戻っている小銃は想像以上に重い。
だが、彼はその重さに懐かしさを覚えていた。
(ああ。銃の重さって………こんなかんじだったな。ここ最近は軽量化した銃しか持ってなかったから、忘れていた)
ズシリと重い小銃を構え、銃口をバジリスクに向ける。
懐かしい感覚だ。
そう彼は思う。
かつては毎日のようにこうして銃を構えていた。
何人も殺し、そして何人も守ってきた。
戦場での記憶が走馬灯のように思い出される。
初めて銃を撃った時。
初めて実戦に赴いた時。
初めて仲間を失った時。
仲間と笑い合って帰還した時。
そして、あの最悪の記憶。
罪の無い人間が一瞬にして惨殺されるという地獄。
「クソッ!ここで俺は負けるのか!?俺が負けたらヴォルデモートがまた罪の無い人間を殺す世の中がやってくるんだぞ!!!」
奇跡など信じたことは無かった。
神に祈ったことも無かった。
この世で信じられるのは自分の力だけだと思っていたからだ。
だが、エスペランサは初めて助けを求めた。
自分の命を救ってほしくて助けを求めたのではない。
あの、邪悪なヴォルデモートという存在を倒す力を、彼は求めたのである。
「誰でも良い……。力を貸してくれ。無力な俺に……。あいつを倒せるような力を」
刹那、秘密の部屋に鳴き渡る不死鳥の声。
独特の甲高い声を轟かせながら真っ赤な羽をなびかせながら不死鳥が大蛇へと急降下攻撃をしかける。
不意を取られたヴォルデモートは不死鳥へ攻撃をするタイミングを逃す。
赤い閃光となって突撃した不死鳥はバジリスクの失われた頭部を貫く。
絶叫する蛇。
それと同時に一人の少年がどこから持ってきたのか分からない‟銀色の剣”を振りかざしてバジリスクへと向かっていく。
生き残った男の子。
ハリーポッターだ。
ホグワーツでは助けを求めたものにそれが与えられる。
エスペランサ・ルックウッドも例外ではなかった。
ヴォルデモート相手に戦うなら最低でも一個中隊規模の部隊が必要だと思います。
流石に個人だけでは倒せなさそうだな…と
感想ありがとうございます!