ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

37 / 112
お気に入り、感想ありがとうございます!!!


case34 Organizing 〜編成〜

マネ妖怪ボガートの授業以来、ルーピンは一躍人気の教師となった。

ボガートの次は赤帽子、河童といった生物を倒す訓練をした。

赤帽子も河童も自動小銃の掃射で簡単に倒せるような生物であったが、エスペランサはあえて銃を使わずに訓練に臨んでいる。

 

一方で占い学は酷い授業となりつつあった。

トレローニーという教師の予言はことごとく外れ、只の出鱈目だと言う事が分かってきたからだ。

エスペランサは占い学の他にマグル学を履修していたが、彼はこの授業においては最優秀生徒である。

初回の授業で行われた‟電話のかけ方”の実習において軍用無線機であるAN/PRC-77を持ち込み、その操作方法を実演したところ、マグル学の教授であるバーべリッジに絶賛された。

無論、この無線機はニッケル・カドミウム蓄電池を使用する電子機器である為、ホグワーツ城内では普通、使用できない。

ただし、エスペランサはマグル除けの魔法がかけられた敷地内でも電子機器を使用可能にする魔法を習得済みであったため無線機に関しても使えるようにしておいた。

マグル学はハーマイオニーも履修していた(他の授業とダブルブッキングしているのに何故か出席出来ていたのは謎であるが)が、ことマグルの電子機器の使用法や仕組みに関してはエスペランサの方が遥かに精通している。

故にマグル学はエスペランサの独壇場となってしまっていた。

 

魔法薬学ではいつも通り、ネビルがスネイプに減点されまくり、グリフィンドール生のヘイトを貯めている。

合計して20点もの点数がグリフィンドールから引かれた魔法薬学の授業の後、エスペランサは同じく授業に出ていたセオドール・ノットに呼び止められた。

 

「やあルックウッド。少し時間はあるか?」

 

「ああ。俺もそろそろお前とフローラを交えて話そうと思ってたんだ」

 

 

エスペランサとセオドールとフローラの3人は新学期がはじまってからすぐに、ヘッドハンティングの準備を行っていた。

もちろん、エスペランサの作ろうとしている部隊へのヘッドハンティングである。

 

 

「とりあえず、今週末にホグズミートへの外出許可が下りる。その時に例の名簿に書いた生徒を全員集めて説明会を行いたい」

 

名簿というのはセオドールとフローラが全校生徒の中から部隊員に適合した生徒を探し、リストアップしたものである。

 

「了解した。しかし、どこへ集まるんだ?」

 

「僕は何回かホグズミートに行ったことがある。あの村にはいくつか店があるんだけど、生徒の集まる店で‟武装した魔法使いの軍隊の設立”に関する説明会を開くわけにはいかないだろ?」

 

「まあ、そうだな」

 

「そこでホッグス・ヘッドを使おうと思う」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「寂れたパブだよ。あそこなら生徒は寄り付かないし、昼間なら客も少ない。すでにふくろう便を使って店を予約しているから19人全員が入ることが出来る」

 

「そうか。手際が良いな」

 

「今週末までに名簿に書かれた生徒に説明会への参加希望を調査し、希望者に集合時間と場所を教えたい。候補者たちは基本的にルックウッドの考えに賛同しそうな人物ばかりだから希望はすると思うが………」

 

「わかった。今週末までに名簿に書かれた生徒全員に趣旨を説明して集まれるように調整しておく」

 

「頼んだ。スリザリン生への勧誘なら簡単なんだが、僕はスリザリン生以外の生徒に対して人望が無いからね。君ならその点、申し分ない」

 

「買いかぶり過ぎだ」

 

 

エスペランサはそう言ってセオドールと別れると早速、勧誘に取り掛かろうとした。

 

現在のところ、部隊に入れようと思っている生徒はエスペランサたち3人を除くと16人。

寮も学年も基本的にバラバラであるが、基本的に学力が高かったり、一芸特化していたりと優秀な人物が多い。

また、思想に関しては「闇の魔術を憎んでいる」、「現在の魔法界の在り方に疑問を持っている」、「理不尽な暴力を許さない」といったエスペランサと共通のものを持っている学生しかリストに載せていない。

 

とりあえずグリフィンドール生から勧誘していくか、とエスペランサは思い、寮へ向かおうとした。

 

グリフィンドールの寮へ向かう途中、廊下の隅からすすり泣く声が聞こえる。

何事かと思い、廊下の隅にある柱の後ろを覗いてみればネビルが顔を真っ赤にして泣いていた。

 

 

「なんだ、ネビルか。こんなところで泣いて何してるんだ?」

 

 

エスペランサはヒクヒクと泣きじゃくるネビルに話しかける。

 

ちなみに名簿にはネビルも含まれていた。

 

 

「グズ………さっきの魔法薬学の授業の後……スネイプ先生に怒られて……罰則だって………」

 

「なんだよ。いつものことじゃないか」

 

 

ネビルが魔法薬学で減点された点数は通算して100を超える。

罰則を受けた回数は20回以上だ。

もはや珍しいことでも何でもないし、ネビルも罰則慣れしてしまったんじゃないかとエスペランサは思っていたが、どうも違うようだ。

 

大理石の床に涙の水たまりを作りながら泣くネビルを哀れに思い、エスペランサは慰めようとする。

 

 

「人には向き不向きがあるからな。ネビルは魔法薬学は苦手でも薬草学は得意じゃねーか。ならその一芸を伸ばして苦手分野は切り捨てたらどうだ?」

 

ネビルは魔法薬学は壊滅的な出来であったが、薬草学は飛びぬけて優秀である。

1学年時の試験は薬草学のみ満点であった。

また、近頃はボガートや河童の撃退にも成功しているので一定以上の魔法力は持っているとエスペランサは分析していた。

 

 

「でも、僕、何やっても駄目だし。エスペランサは良いよね。優秀だし、強いし………」

 

「優秀でもないし、強くも無いぞ。俺は。特殊部隊にいた時も対ゲリコマ戦の作戦立案以外に取り柄は無かった。射撃も徒手格闘も並みの成績だ」

 

「ううん。君は凄いよ。吸魂鬼に単身挑んだり、バジリスクを倒してしまうなんて普通の魔法使いじゃできない。少なくとも僕には無理だ」

 

「無理じゃねえよ。守りたいものがあって、自分の信念があったら、人は戦えるんだ。もちろん、ネビルも例外じゃない。お前にだって守りたいものはあるだろ?」

 

「守りたいもの………」

 

 

ネビルは俯いたまま考え込む。

 

実のところエスペランサにはネビルの守りたいものが分かっていた。

部隊に入れるべき生徒を探すにあたり、エスペランサたちは全校生徒の成績や思想だけでなく、家柄や経歴も調べ上げている。

その過程で、彼はネビルの生い立ちも知ることとなった。

だから、ネビルが何を恨み、何を守りたかったのかも知っている。

 

 

 

「ネビル。俺は理不尽に罪の無い人たちが苦しむのを嫌っている。昨年の事件では生徒が何人もやられた。マグルの世界では今も尚、多くの人たちが理不尽な暴力によって殺されている。十数年前に起きた英国魔法界での戦争では闇の魔法使いによって善良な市民がたくさん殺されたと聞く」

 

「……………」

 

「そんな世の中を俺は絶対に肯定しない。知ってるかネビル?当時の闇の魔法使いは何の裁きも受けず、魔法省でのうのうと働いているんだ。この世の中は正直言っておかしい」

 

「……………」

 

「魔法界もマグル界も、今のままでは駄目だ。誰かが、もっと平和な世界に変えなくてはならない。闇の魔法使いも、テロリストも、独裁者も抹殺して完全に平和な社会を作らなくてはならない」

 

「エスペランサ………君はもしかしてそれを………?」

 

「ああ。折角、魔法っていう便利なものが使えるようになったからな。罪の無い人が平和に暮らせる世界。それを作る為ならば俺は進んで悪を成す。何百という闇の魔法使いやテロリストを殺すことに、俺は何の躊躇もしない」

 

「殺すの!?」

 

「闇の魔法使いやテロリストが生きている世界で平和を実現できると思うか?」

 

「それは………思わないけど」

 

「一昨年だったかな。ダンブルドアが言っていたが、ヴォルデモートはまだ生きている。必ず復活を果たす。現体制下で仮にヴォルデモートが復活したら恐らく多くの人間が犠牲になる。ヴォルデモートだけじゃない。かつて全世界を恐怖に陥れたグリンデルバルトのような闇の魔法使いが出現しても、同じようになるだろう。要するに、今のままでは全世界どころか英国魔法界の平和すら守ることは出来ないんだ。誰かが、変えなくてはいけない」

 

「……………」

 

「なあ、ネビル。俺と一緒にこの世界を変えてみないか?」

 

「え、僕!?」

 

 

エスペランサの誘いにネビルは驚く。

 

 

「ああ。俺にはネビルの力が必要だ」

 

「僕の力って?知ってるだろ?僕は学年1の劣等生だよ。僕の力が無くても君なら………」

 

「いや。俺にはお前の力が必要だ。まあ、嫌なら断ってくれて良い。無理強いはしない。ただ、‟ベラトリックス・レストレンジ”のような人間が生きている世界をぶち壊したいと思うのなら…………」

 

「っ!?」

 

「今週末のホグズミート外出の時にホッグス・ヘッドに来てみてくれ。時間は1500。世界を変えるための組織を設立するための集会をする予定だ」

 

 

ネビルは何か思うところがあるのか、それっきり黙り込んでしまった。

 

エスペランサとしても無理に誘う気は毛頭なかった。

しかし、ネビルの力が必要だというのも嘘ではない。

彼の薬草学の才能は本物だ。

3歩歩くだけで寮の合言葉を忘れるネビルであったが、薬草学に関しては教科一冊をまるまる暗記するほどである。

何かを極めたら強いというタイプの人間だ。

 

敢えてトラウマであろう闇の魔法使いの名前を会話に出すことによってネビルの心を揺さぶる、という作戦が正しいかは分からない。

が、エスペランサは彼が来てくれることを半ば確信していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ホグズミート村への外出は保護者のサインが必要となる。

 

保護者の存在しないエスペランサはサインを偽装した。

表向きには特殊部隊に在籍していた時の教官にふくろう便を送ってサインをもらったと言う事にしてあるが、彼の居た特殊部隊は既に解散して全員米国本土へ撤退してしまっている。

筆跡のサインは魔法によってバレるだろうと思い、エスペランサはワープロで勝手に書面を作成し、サインもワープロで入力した。

魔法使いはワープロを知らない。

なので「マグルではこのようにサインするんです」と適当に説明したらあっさりと通ってしまったのである。

無論、マグル界でワープロによって入力した文字をサインですと言っても通用するわけがないが………。

因みに言えば魔法界にはタイプライターは存在するらしい。

しかし、マグル界ではすでに忘れ去られた存在であるタイプライターと最新型のワープロでは雲泥の差がある。

 

叔父のサインが貰えなかったハリーには次回からワープロや最近やっと普及されてきたパソコンを使ってみてはどうかとアドバイスしておいた。

 

 

ホグズミート村はホグワーツのすぐ横にある村であり、英国内で唯一、マグルの居ない村なのだそうである。

積雪対策なのだろう。

異様に尖った屋根を持つ家が一本の大通りの両脇に十数軒存在する。

ほとんどの家が何らかの店であり、魔法道具や悪戯道具を売っていたり、酒場やパブになっていたりする。

メインストリートから離れた場所には叫びの屋敷と呼ばれる英国内で一番恐れられているとされる廃屋が存在した。

ゴーストや妖怪がそこら辺を徘徊する魔法界でこの手のお化け屋敷を恐れる理由がどこにあるのだろう、とエスペランサは疑問に思う。

 

さて、ホッグス・ヘッドという辛気臭い店はメインストリートの端の方にある。

ホグワーツ生が立ち寄ることはほとんどなく、普段は如何にも怪しい客や吸血鬼などの人外が入っていた。

秘密の集会を開くには適していたが、それでもエスペランサたちは警戒している。

魔法省やホグワーツ職員の目を盗んで武装した魔法使いの軍隊を創設する話を公の場でするのはかなり危険だからだ。

 

そこで、セオドールはホッグス・ヘッドを1日貸し切りにするという荒業に出た。

かなりのガリオン金貨を使い、店をまるまる一日貸切ることにホッグス・ヘッドの店主は決して良い顔をしなかったが渋々受け入れたらしい。

無論、武装した魔法使いの軍隊の設立の話を店主に聞かれるわけにもいかないので、説明会を行うのは店の一番奥にある宴会などを行う個室に設定し、個室の入口には警戒用の魔法道具を複数設置するに至った。

店主は疑わしそうにエスペランサたちを見てきたが………。

 

個室の広さはそれほど広いわけではないが19人の人間が全員入るには申し分ない。

窓が無く、照明はランプのみであったが、エスペランサは電池式の蛍光灯スタンドを何台か運び入れて部屋を明るくした。

マグル界に慣れた身としては魔法界の店内の暗さは抵抗があるためだ。

 

宴会用の長机を中心に置き、その周囲に16個の椅子を並べ終え、19杯のバタービールという甘ったるい飲み物を用意し終えるころには勧誘を行った生徒がわらわらと集まり始めていた。

1500になるころには全員が集合し、着席し終えた。

 

 

「あー全員集まったみたいだな」

 

予定通り19人全員がそろったところでエスペランサは話し始めようとする。

 

殆どの人間にはあらかじめどのような集まりであるのかを説明してはいるが、具体的なことを説明したわけではない。

よって多くの生徒が不安と期待に満ちた顔をして座っていた。

 

 

「じゃまず…………」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 

エスペランサが喋ろうとした矢先、一人の生徒が手をあげて発言の許可を求めてきた。

 

 

「どうした?」

 

「何でスリザリンの連中が居るんだ?奴らも参加するとは聞いていないぞ?」

 

 

生徒は何人か座っているスリザリンの生徒を顎で指しながら言った。

この生徒はコーマック・マクラーゲンという名の生徒で、飛行技術と運動能力の高さを買われて勧誘されていた。

ただし、少々性格に難がある。

マクラーゲンの発言はスリザリン側の参加者の反発を買ってしまった。

スリザリン生の何人かも「何でグリフィンドールの連中がここにいるんだ」と騒ぎ出す。

エスペランサは少々後悔した。

エスペランサやセオドールは寮のしがらみにあまり囚われないため、こういった会合において対立関係にある寮の生徒が居ても何ら気にしない。

しかし、一般の生徒はそうもいかない。

グリフィンドール生はスリザリンを毛嫌いしているし、逆もまた然りである。

あらかじめ他寮の生徒も来ることを言わなかったのは配慮に欠けていたのだろうか。

 

 

「まあまあ、寮同士のいがみ合いは置いておいて、一先ず話を聞かないか?」

 

 

次第にヒートアップしていくグリフィンドールとスリザリンの罵り合いに待ったをかけたのはハッフルパフから参加していたセドリック・ディゴリーという生徒であった。

セドリックはマクラーゲンと同じく飛行技術を買われて勧誘されている。

ただし、彼はハッフルパフ気質で「規則には従順」であるとされるのでエスペランサの考えに賛同しないのではないだろうか、と思われていた。

 

セドリックは人望があり、カリスマ性もある。

彼の一声は喧騒とした雰囲気を収める効果があった。

 

 

「ありがとう。セドリック」

 

 

ムスっとしたまま再び座る生徒たちを見ながらエスペランサはお礼を言う。

 

 

「グリフィンドールとスリザリンが伝統的に敵対しているのは知っている。思想に違いがあるからな。だが、今日はそういった対立は止めてくれ。ここに集めた生徒は学内でもトップレベルで優秀な学生や、一芸特価で何らかの才能を持った人間だというのは皆も薄々気づいているとは思う」

 

エスペランサの言葉に何人かの生徒が頷く。

しかし、一番隅で肩身が狭そうに座るネビルだけは首を振っていた。

 

「まあ、俺やセオドール、フローラの独断と偏見で決めた人選なんだけどな」

 

「優秀な人間を集めたいならグレンジャーやパーシー・ウィーズリーあたりも勧誘すればよかったんじゃないか?」

 

 

机の中央付近に座っていた生徒が言う。

 

 

「確かに、その二人は学力がずば抜けて高い。しかし、パーシーは卒業まで1年もないし、奴は魔法省への就職を希望している。魔法省へ片足を突っ込んでる人間は勧誘できない。ハーマイオニーはおそらく思想や理念で俺と相反してしまう」

 

「集められた俺らだってルックウッドの思想とやらに共感するとは限らないぜ?」

 

「そうかもしれない。ただ、俺が今日集めた生徒には共通点が幾つかある。‟闇の魔術を憎んでいる”、‟現在の魔法界の体制に不満がある”、‟罪の無い人間が理不尽な暴力にさらされることを嫌う”。ここに集まってもらった諸君はこのいずれかの考えを持っているはずだ」

 

 

集まった生徒たちは思うところがあったのか頷く者もいた。

 

 

「とりあえず結論から言おう。俺は‟武装した魔法使いの軍隊”を作ろうと思っている」

 

「何だって!?」

 

「正気かよ!」

 

 

驚きで声を上げる生徒が何人かいた。

 

勧誘の際に「魔法界を変える組織を作ろうと思う」とは言ったが、「軍隊を作る」とは言っていなかったためだ。

 

 

「軍隊だって!?」

 

「そんなん作れないぞ。ルックウッドの戯言じゃねえのか?」

 

 

魔法界には独立した正式な軍隊は存在しない。

しかし、不死鳥の騎士団や死喰い人など武装組織は非公式に何度か誕生していたし、現在の魔法界においては闇払い局が一応、軍隊に該当するという考え方が一般的になっていた。

魔法史において歴史を学んでいる学生は十字軍などの古い軍隊を想像している。

また、マグル出身の学生はマグル界の軍隊を知っているため、軍隊を作るという行為が如何に難しいかを知っていた。

 

 

「いや、作れる。それに俺の作ろうとしている軍隊はただの軍隊じゃない」

 

そう言ってエスペランサは傍らに置いてあったM16自動小銃をバンと長机の上に置いた。

 

「現代兵器で武装した魔法使いの軍隊だ。世界広しと言えどもマグルの武器で武装した魔法使いの軍隊など存在しない。魔法と現代兵器を駆使した軍隊は恐らく世界でも有数の強力な軍隊になるだろう」

 

「マグルの武器だって?笑わすなよ」

 

スリザリンの生徒が鼻で笑う。

 

「昨年度、バジリスクを倒したのはマグルの作ったプラスチック爆弾という兵器だ。マグルの武器はお前らが想像している以上に強力で危険だ。ここに置いてある自動小銃は死の呪いを毎分100発の速度で連続発射するのと同程度の能力を持っている」

 

これは嘘ではなかった。

 

自動小銃や機関銃は魔法界で言うところの死の呪いを連続発射する武器のようなものだ。

単純に敵勢力を相当するだけならば銃は死の呪文よりも効率が良い。

 

 

「俺は別にマグル至上主義を掲げているわけではない。だが、マグルの武器は強力であると共に使い勝手が良く、訓練すれば誰でも扱える。魔法と併用すれば少人数でもかなりの火力を引き出すことが出来るだろう」

 

 

鼻で笑っていたスリザリン生もエスペランサの言葉に聞き入っている。

この2年間でホグワーツの生徒は嫌でもマグルの兵器の強力さを知ることになった。

トロールやピクシー、バジリスク。

魔法生物が倒されるのを間近で見てきたからだ。

 

 

「567人。この人数が何を示す数字なのかわかる奴はいるか?」

 

 

エスペランサは唐突に質問する。

生徒たちは顔を見合わせるばかりで回答しない。

 

 

「この人数はな。先の魔法戦争、すなわちヴォル……例のあの人全盛期に死喰い人によって殺害された魔法使いとマグルの総数だ」

 

 

「なっ!?」

 

「そんなに?」

 

 

「この中には親族を奴らに殺された人間もいるだろう。死喰い人や闇の魔法使いたちはこの国で暴れまわった。聞くところによれば巨人などの魔法生物も使ったとか。とにかく、10年とちょっと前、闇陣営は英国魔法界を支配する勢いだったわけだ。何故、こんなことが起きたと思う?」

 

「…………」

 

「…………?」

 

「えっと………」

 

 

エスペランサの問いに一人の生徒が手をあげる。

レイブンクローの女子生徒だ。

 

 

「例のあの人が強すぎたから………だと思うのだけど」

 

「それもある。正確に言えば闇陣営が強すぎたから、だ。死喰い人の強さはピンキリだったみたいだが、平均すれば一般の魔法使いよりは遥かに強かったらしい。まあ、闇の魔術を使うわけだしな。加えて、奴らの勢力は闇払いの勢力を上回っていた。これが魔法界の異常なところだ」

 

「異常?」

 

「ああ。魔法界では全ての魔女と魔法使いが杖を持つことが許可されている。これは全ての市民が武器を持っていることと等しい。故に、一般市民と魔法省の警察組織の間に戦力差が無いということになる」

 

 

魔法使いは杖を持つことであらゆるものを爆破し、燃やし、破壊することすら可能となってしまう。

魔法省の警察組織は闇払いなどがあるが、闇払いも一般市民も等しく杖を持ち、強力な呪文を使うことが出来る。

つまるところ、一般市民と警察組織の戦力差は無いということだ。

 

だから闇の魔法使いが死喰い人なる組織を編成してもそれを取り締まることが出来なかった。

闇払いの戦力は死喰い人と拮抗してしまったからである。

 

 

「こんな事態はマグル界では起こらない。死喰い人のような反社会組織的な暴力組織はテロリストと呼ばれているが、マグル界では国が強力な軍隊もしくは警察組織を保持していて、テロリストを制圧できるからだ。無論、国がテロ組織を掃討することが出来るほどの軍隊を持っていなければ国内の治安は守れないし、そういった国が存在するのも事実。しかし、マグル界の米国や英国といった先進国は圧倒的火力を持った軍隊を保有しているが故に、反社会組織に国内を支配されることはまずあり得ない」

 

マグル界では国内の治安維持にあたる組織や国外からの侵略を防ぐ軍隊を持っている。

治安の良い先進国では大規模な軍隊を持っていたり、強力な警察組織を保有しているため、武装勢力が国内で蜂起しようが、鎮圧することが出来る。

しかしながら、国力の弱い国では内紛によって政府が崩壊することもあった。

要するに、一般市民の持つことが出来ないような火力を持った軍隊や警察組織を保有すれば国内の治安維持は可能というわけだ。

魔法界はこれが出来ていないのである。

死喰い人を掃討する力を政府が持っていなかったために国が乗っ取られかけたのだ。

 

 

「現在も魔法界の体制は変わっていない。闇の魔法使いを抑えられるほどの力を魔法省は持っていない。あたりまえだ。魔法界では全ての人間が等しく杖を持ってしまっているんだからな。本気で治安維持をしたいのなら一般市民から杖を取り上げてしまえば良い。しかしそれも出来ないだろう。だからこそのマグルの現代兵器だ。銃や火砲は魔法界だけでなくマグル界でも一般市民は持っていない。現代兵器という強力な武器を持っている魔法使いならば闇の勢力を鎮圧することも可能となるだろう」

 

「確かにルックウッドの話には納得できた。マグルの兵器だけを使ったところで死喰い人は倒せないが、魔法を併用すれば倒せるかもしれない。だけど、たった十数人でそれが出来るのか?」

 

ハッフルパフの学生が言う。

 

「現在は19人しか集まっていないが、将来的にはもっと人数を増やす予定だ」

 

「今は平和だろ?闇の勢力も居ないし例のあの人も消えた。本当に軍隊が必要か?」

 

「闇の勢力は確かにその力を弱めた。しかし、当時の死喰い人だった人間はほとんど存命だ。しかもかなり多くの元死喰い人が魔法省で権力を持ったりしている。例えばルシウス・マルフォイ等だ」

 

 

この場に集まっているスリザリン生のほとんどは現在、元死喰い人が魔法省に発言力を持っている現状が許せないと思っている者である。

彼らは純血主義を否定したりはしないが、死喰い人たちが罪を償わずに復帰していることが許せない。

スリザリンの中でも良識のある生徒たちであった。

 

 

「もし今、元死喰い人が結託して新たに反社会活動を始めたら魔法界は一気に崩れるだろう。そして、その可能性は十分にある。なんたってシリウス・ブラックが脱獄したからな。ブラックの元にかつての闇陣営が結集してテロを起こすことだってあり得る。それに、アズカバンが脱獄可能だと分かったから他の闇の魔法使いも脱獄してくる可能性は高い」

 

「実際例のあの人も一昨年、一時的に復活したもんな。今、奴らが復活したら今度こそ終わりだ」

 

アーニー・マクミランという生徒が呟く。

他の生徒も危機感を持ったようであった。

 

 

「皆、危機感は持てただろう。魔法省も闇払いも魔法界を守ることは出来ない。だから魔法界の治安維持のために独立した軍隊を作らなくてはならないんだ。そして、その軍隊を俺たちが作り上げる」

 

「僕たちだけで闇払いを凌駕するほどの軍隊が作れるの?それにその軍隊って闇の魔法使いと戦わなくてはいけないんだろ?自信ないぜ?」

 

「ここに集まった生徒は皆、ホグワーツのブレインだ。それに意図的に4学年以下の学生を集めた。これは数年に渡り訓練をするためだ。現代兵器と魔法を組み合わせた戦い方を訓練すれば闇陣営を押さえつけられる程度の軍隊は作れる。いや、作るんだ。それに、我々が作った軍隊が強力なものだと知らしめれば闇陣営も迂闊に行動を起こせない。行動を起こそうものなら軍隊と武力衝突し、犠牲者が出ると考えるからな」

 

「抑止力……ってことか?」

 

「そういうことだ。もし仮に闇陣営と戦争になっても心配することは無い。俺達にはこいつ(銃)がある」

 

 

エスペランサはそう言って机に置いてあった銃を取り上げた。

 

 

「我々が作る軍隊が目指すのは英国魔法界だけではなく、魔法界マグル界全てを含めた全世界の平和の維持だ!我々が救うのは英国魔法界だけではなく全世界だ。魔法も現代兵器も使える我々にはそれが可能だ!有史以来人類が一度として成し遂げることが出来なかった世界平和。それを我々が成し遂げる!無理強いはしない。しかし、少しでも賛同してくれるのならば、俺に力を貸してくれ」

 

 

しばしの沈黙。

そして、沈黙ののちに一人の生徒が立ち上がった。

セオドールである。

 

 

「僕はルックウッドの考えを全面的に支持し、彼が創設する軍隊を指揮することを肯定する」

 

 

セオドールの後にフローラが続いた。

 

 

「私も彼についていきます」

 

 

「面白そうだ。やってやろうぜ!」

 

「私の親戚も闇の魔法使いに殺されたの。だから、かたき討ちをしてやらないと」

 

「僕で良ければ力になるよ」

 

「正直、マグルを救うってのはどうでも良いと思ってたんだけどな。でも、世界平和の実現か。やってやるよ」

 

 

次々に生徒が立ち上がり参加表明をしていく。

グリフィンドールもハッフルパフもレイブンクローも、そしてスリザリンも。

己の手で世界平和を実現する。

それがどんなに困難な挑戦であろうとも、彼らはエスペランサの信念に突き動かされたのだ。

 

 

「エスペランサ。正直言って僕には自信が無い。でも、君の言う平和な世界を僕は見てみたい。だから、微力だけど協力したい」

 

 

最後にネビルが立ち上がってそう言う。

 

参加表明をしたのは18名。

全員がエスペランサに賛同して軍隊の創設に協力する形となった。

 

 

「ここからは地獄かもしれないぞ?命の保証は出来ないし、魔法省も闇陣営も敵に回すことになる」

 

「地獄…か。地獄を生み出さないために僕たちは戦うんだろ?」

 

セドリックがエスペランサに歩み寄って来ながら言う。

 

「僕たちは皆、君を支持する。何年かかろうと世界平和を実現するために君についていく」

 

 

エスペランサは個室内を見渡した。

集まった18名の生徒は全員、彼を強い眼差しで見つめている。

 

彼らを見てエスペランサはかつて自分が所属していた特殊部隊の隊員たちを思い出した。

 

(ああ。このメンバーならきっと達成できる。きっと皆、救うことが出来る!)

 

 

 

 

後に英国魔法界だけでなく全世界の魔法界の歴史に名を刻む組織はこうして誕生した。

 

 

 

 

 

 

 




演説シーンって難しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。