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ホグズミートでのエスペランサが主催した決起集会は成功に終わった。
参加した学生、もとい隊員たちは用意してあった入隊のための‟宣誓書”にサインした後、三々五々、帰っていった。
この宣誓書は各国の軍隊で新入隊員が入隊する際に書かされるものと同じもので、軍隊に入隊し国に忠誠を誓うことを誓ったりする。
エスペランサの用意した宣誓書には「入隊した以上は隊規に従う」、「隊の掲げる目標の達成に力を注ぐこと」、「隊内の情報を外部に漏らさないこと」などが記載されていた。
全員分のサインが書かれた宣誓書に目を通したエスペランサは今後の訓練や教育の予定を考えるため、セオドールやフローラと共にホグワーツへ帰った。
さて、その夜の事である。
ハロウィンの御馳走を食べ終えて、食道から上機嫌で寮へ帰ったエスペランサは、寮の入口が何やら騒がしいことに気が付いた。
グリフィンドール寮の入口になっている太ったレディの肖像画の前に20人ほどの生徒が群がっている。
「どいてくれ!通してくれ。僕は監督生で首席なんだ」
群がっている生徒をパーシーがかき分けて進んでいくのが見える。
監督生はともかく首席はこの際必要のない情報だろうとエスペランサは思った。
パーシーが生徒をかき分けていった先にあったものはビリビリに破られたレディの肖像画(レディはどこかへ逃げたらしい)であった。
レディが不在となった肖像画は紙の8割が切り裂かれ、粉々になった紙の残骸が大理石の廊下に散らばっている。
「誰がやったんだろう………」
エスペランサの隣にいたロンが不安そうに呟く。
「生徒の仕業……じゃないな」
「え?何でそんなことが分かるの??」
エスペランサは肖像画の残骸を観察していたが、いくつか分かったことがあった。
まず、絵の剥がれた肖像画にはナイフなどの刃物でつけられた傷が無数にある。
犯人は魔法ではなく武器を使用して肖像画を破壊したのだろう。
魔法で紙を破る方法はいくつかあるが、最も簡単で効率の良い方法は‟ディフィンド 裂けよ”という呪文を使うものである。
しかし、仮にその呪文を使ったのならばもう少し綺麗な傷がつくはずである。
マグルの武器に頼るエスペランサならともかく何故、犯人は魔法を使わずに刃物を使ったのだろうか。
考えられる可能性は、犯人がマグルかスクイブであったというもの。
もしくは、何らかの理由で魔法が使えない状況(手元に杖が無いとか)であったことが挙げられる。
エスペランサは後者だと思った。
ハーマイオニーもエスペランサと同じ考えに至ったようで、犯人が誰であるのかを察したような顔をしている。
「俺の予想が正しければ………犯人は」
「ええ。私もブラックが犯人だと思うわ。今朝の新聞でブラックがこの近くで潜伏していたと書いてあったし。そして、狙いは………」
「十中八九、ハリーだろうな」
やがて事態を聞きつけたダンブルドアやマクゴナガル、スネイプといった職員陣がやって来た。
レディが襲われたところを目撃したというピーブスはダンブルドアにレディを襲ったのがシリウス・ブラックだと告げる。
生徒たちは騒然となったが、エスペランサは「ああ、やはりか」と思った。
シリウス・ブラックにはグリフィンドール寮に侵入したい理由がある。
ハリーの殺害だ。
また、彼は脱獄して間もないために杖を保有していない可能性がある。
よって、ナイフなどの武器を使って寮に侵入しようとしたのではないだろうか。
「次から次へと事件が起きるな。ホグワーツは。しかも、ほとんどがハリー関連じゃねえか。おい、ハリー。人気者だなお前」
「冗談じゃないよ。僕だってうんざりしてるんだ。僕は何もしていないのに事件の方から飛び込んでくるんだからウンザリだよ」
ハリーは心底疲れた様子でそう言った。
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シリウス・ブラックの襲撃事件から数日後。
教師陣の捜索網をもってしてもブラックは捕まえることが出来なかった。
恐らく城外へ逃げたのだろう。
生徒たちも数日間はブラックの侵入についてあれこれ議論していたが、すぐに話題にしなくなった。
飽きたのだろうか。
エスペランサは結成した部隊の隊員となった生徒を全員、必要の部屋に集めた。
部隊の編制を決めたり、今後の訓練や教育の予定を示したり、隊の規則などを決定するためである。
休み時間や放課後などの空き時間を使って隊員全員に必要の部屋のある廊下へ集合するように伝えるのは面倒であった。
伝達や命令下達用に各人にトランシーバーを持たせようかとも考えたが、19人もの生徒がマグルの使う無線機を持ち歩くとなると目立ちすぎてしまう。
魔法使いの軍隊を創設するということを教師に知られるわけにはいかない。
銃や野戦砲で武装した魔法使いの組織などホグワーツの教師が許すわけがない、というのはエスペランサでなくても分かることだった。
教師や他の生徒にバレないようにして軍隊を創設するのは予想以上に難しいことである。
全隊員が必要の部屋の前に集合したのは授業が全て終わり、日が完全に落ちた後であった。
エスペランサ以外の生徒は必要の部屋を知らなかったので、はじめて見る必要の部屋に全員驚いた。
現在、必要の部屋は武器庫だけでなく射撃訓練場やブリーフィングルーム、トレーニングルームなどが存在する軍隊の基地のような部屋になっている。
幅も奥行きも100メートルは優に超える大きさだ。
最初は単なる武器庫だった必要の部屋であるが、エスペランサは1年近くをかけて駐屯地並みの施設を作り上げている。
エスペランサは入ってすぐの場所に作ったミーティングルーム(彼はミーティングする部屋が必要だ、と心の中で思うことでこの部屋を出現させた)に隊員を全員集め、用意しておいた椅子に座らせた。
椅子はホグワーツ内には存在しないパイプ椅子であり、周囲の仕切りはコンクリート、中央にはホワイトボードが設置されているこのミーティングルームは明らかに魔法界のものではない。
どちらかといえば軍隊の施設というよりも先進国の学校の教室のような見た目をしていた。
マグル出身の隊員はパイプ椅子やホワイトボードは見慣れたものであるので特に反応もしなかったが、生粋の魔法使いである隊員たちは物珍しそうに触る。
「各人、椅子に座ったらこっちに注目してくれ」
全員を注目させた後、エスペランサは羊皮紙を掲げる。
この羊皮紙にはエスペランサを含む隊員19名の役職や、部隊の編制、隊の規則に日課、訓練内容などが書かれていた。
「とりあえず今日は各人の役割と部隊の編成を発表した後に今後の予定を説明し、個人携帯装備の貸与を行なおうと思う」
本来なら基礎的な訓練を行った後で各人の素養に応じて役割を決めようとしたのだが、如何せん時間が無い。
なのでエスペランサは各々の学科成績や特技を考慮して役割を決め、部隊の編成を考えた。
隊員は決起集会でこの組織が何を目的とするのか、を理解したが、具体的に自分たちがどういった働きをして目標を達成するのかと言う事はしらない。
よって、まず、各員が何の役割を担うのかを知らせる必要があったのだ。
隊員はエスペランサを含めて19名。
人数としてはやっと一個小隊を編成できる規模である。
エスペランサとしては複数の小銃小隊の他に斥候専門の部隊や後方支援の要員も配置したかった。
しかしながら、現状では不可能である。
なので、1個小隊を編成するのを諦め、2つの小銃分隊を作ることにした。
エスペランサが分隊長を務める第1分隊とセオドールの指揮する第2分隊である。
分隊員はそれぞれ指揮官を含めて6名ずつ。
基本的には全員、小銃を装備した歩兵として機能するが、必要に応じて機関銃や対戦車榴弾手を装備する隊員を選抜した。
また、状況に応じて2つの分隊を統合して運用したり、迫撃砲のチームを編成したりすることも決めておく。
「なぜ複数の部隊を作ることに執着するんだ?この人数ならひとつの部隊を編成するだけでも良い気がするが」
セオドールはエスペランサに聞く。
「部隊が複数あった方がメリットが大きい。これに関しては後々説明していくが、バックアップの部隊が存在しないと作戦を立てることが非常に難しいんだ」
エスペランサは特殊部隊の傭兵時代に対ゲリコマ戦の作戦立案の教育を重点的に受け、10歳という年齢ながら作戦に隊員として加わっていた過去がある。
10歳の少年を隊員として扱う特殊部隊など世界各地を探してもエスペランサの所属していた部隊だけだろう。
そんな過去を持つ彼は部隊の編成に関して一通りの知識があったのだ。
戦闘員はこの2個分隊の他に遊撃班を作ってある。
遊撃班はセドリックを指揮官としてレイブンクロー出身のチョウ・チャンとグリフィンドール出身のコーマック・マクラーゲンが班員となった。
全員、箒での飛行を得意としていたので、箒を駆使した機動力によって偵察や遊撃の任務を行う。
箒は時速にして100キロを超えるものも存在する上に、エンジンも必要としないので音も静かである。
大きさも小さいので偵察や遊撃にはもってこいであった。
ホグワーツの飛行訓練の授業の成績を考慮して、エスペランサはこの3人の生徒を遊撃班に回したのである。
が、コーマックは自分が指揮官でないことに不満らしかった。
「何故、僕が隊長じゃないんだ?」
「セドリックはクィディッチでチームを指揮しているという実績がある。彼には既にリーダーシップが備わっているし、部隊を指揮するにはもってこいの人材だ」
「そうは思わないけどね。ハッフルパフのチームはそこまで強くないし、僕の方が指揮官には向いていると思うけど」
「コーマック。この俺が作った部隊は将来的に相当な規模の部隊になるだろう。今ここにいる19人の隊員はその時、全員、幹部となる。つまり、将来的に全員、指揮官になるというわけだ。お前もな。だが、指揮官になるには様々なことも学ばなくてはならないし、何よりも自分の指揮する隊員がどういった考えを持つのかを理解しなくてはならない」
「ふむ………」
「だからまず、指揮官ではなく列員の立場を経験するべきなんだ。不満かもしれないが、まずは列員としてフォロワーシップを身につけろ。それに、これからの訓練では指揮官として部隊を指揮する演練や、作戦を立案する訓練を行っていく。お前だけでなく、全員が指揮官は経験していくことになるから心配するな」
コーマックは戦略を立てたりするのが得意な学生であるが、自信家であるのが欠点である。
故にフォロワーシップを知らない。
上官の命令に従うという軍隊の基本をまずは学んでもらう必要があった。
もちろんこれは全隊員に言えることだ。
部隊の全体の隊長はエスペランサが担当し、副隊長はセオドールであるが前述のとおり、人数が不足している関係上、2人は分隊長を兼任する。
また、エスペランサは訓練責任者も兼任する。
銃や火砲を用いた射撃訓練と戦闘訓練だけでなく、体力錬成や精神教育や現代戦術などの座学の内容を決める役職である。
一方でセオドールは魔法の腕を買われて、魔法訓練責任者となった。
これは魔法を用いた戦闘訓練を指揮する役職だ。
フローラは戦闘員ではなく幕僚を務めることになっている。
とはいえ、彼女も一通りの訓練と教育は受けることとなった。
フローラの役職は衛生課員兼人事管理部人事幕僚である。
隊員の人数や現状だけでなくメンタルのケアまで管理する役職だ。
彼女は観察力が優れているため、人事を任せるにはうってつけであった。
それに、魔法の腕も優秀であったので治癒魔法を鍛えて衛生班としての活躍も期待される。
この他に通信、整備、補給の後方役職の隊員が存在し、彼らは常に必要の部屋に存在する武器弾薬の数を把握して整備することを命じられた。
勿論、彼らは武器弾薬に関して素人であったのでエスペランサが一から教育することになる。
これらの人事とは別に、週替わりで当直の隊員をつけることも決めてあった。
当直の隊員は武器庫の鍵を管理し、隊員の現状を把握し、夜間は必要の部屋を守る。
当直制度は各隊員に責任感を自覚させると共に、共有財産である武器弾薬を守るという役割があった。
エスペランサは全隊員をマグル界の軍隊の隊員と同程度のレベルに持っていくために、軍隊と同じ制度や訓練を全て採用していったのである。
一通りの隊規と日課を定め、今後の訓練や教育内容を説明し終えるのには3時間もの時間がかかってしまった。
「とりあえず当面の間は行進や敬礼などの基本動作と基礎体力錬成を訓練としては行っていこうと思う。基本教練は地味だが、精強な部隊作りは基本動作から行うのが定石だ。また、体力錬成は必須。体力が無ければ戦闘なんて出来ないし」
エスペランサがそう言うと何人かの隊員が疑問をぶつけた。
ミーティングルームは中央にホワイトボードが置かれ、その周りを18個の椅子が囲っている。
隊員たちはその椅子に座ってホワイトボードの前で説明するエスペランサを見ていたわけである。
「ルックウッドはその銃とやらに魔法をかけて軽くしてるんだろ?なら別に筋力をつけなくても良いんじゃないか?」
エスペランサは確かに銃を魔法で軽量化していた。
故に筋力が無くても銃を長時間持ちながら戦闘が可能である。
しかし………。
「戦闘に必要なのは筋力だけではない。精神力も持久力も必要だ。それに、前回俺が秘密の部屋でヴォルデモートと戦った時は…………」
エスペランサがヴォルデモートの名前を出すと隊員たちは椅子から転げ落ちるほどに怯えた。
そんな隊員たちを見て彼は溜息をつく。
「たかが名前で怯えるな。お前たちはこれから兵隊になるんだぞ。敵を恐れるな。恐怖に打ち勝たねば戦闘には勝てない。良いか?ヴォルデモートは将来的に我々が倒す相手だ」
名前を聞いただけで怯えているような兵士は戦えない。
今後は精神的な教育という名の洗脳も行っていかなくてはならないな、とエスペランサは思った。
「話を戻す。俺はヴォルデモートと戦闘をしたとき、ヴォルデモートによって俺が銃にかけた魔法を強制的に解除された。そういった緊急事態に備えて訓練では銃に一切の魔法をかけることを禁止とする。魔法をかけていない銃を完璧に扱えるようになれば、如何なる状況下でも戦えるというわけだ」
弾丸を自動追尾させる魔法も、軽量化の魔法も、訓練では一切の使用を禁止することはあらかじめ考えていたことである。
便利過ぎる魔法に頼り過ぎた場合、魔法が無効化された時に戦えなくなる。
ヴォルデモート戦においてエスペランサは嫌というほどそれを思い知った。
「銃に魔法をかけない理由は分かった。でも、練度を上げるにはすぐにでも射撃訓練を始めるべきじゃないのか?」
最前列に座っていたセオドールが言う。
「射撃というのはそんなに簡単なものじゃない。安全管理の仕方や射撃姿勢などを教育し、それらを習得しない限り実弾射撃には移らない。まずは何事も基本からだ。基本を学んでから射撃訓練や戦闘訓練をやっていく」
「なるほどな。魔法と一緒でまずは座学で理論を学ぶ必要があるわけか」
セオドールは配布されていた訓練実施計画に目を通す。
頭の切れる彼は瞬時にエスペランサの意図を察したようである。
「しかし、基本的な訓練を日々積み重ねるだけじゃ士気はあがらないんじゃないか?何か、目的が無いと人は努力できないものだ」
「目的ならこの間言ったはずだが?平和な世の中を目指すために……………」
「いやいや。最終目的ではない。例えば、‟今年度はこれを達成する”といった目先の目標だよ。何か具体的な目標があった方が僕たちは頑張れると思う。この君が立案した訓練計画は素晴らしいものだが、かなり厳しいものでもある。何か目標が無いと続けられないだろう」
「僕もそう思う。目先の目標があったほうが良いよ。ほら、学年末テストが最終目標だとしたら、目先の目標は小テストだ。小テストが無いと皆、学年末テストまで勉強しないだろ?」
セオドールに続いて後方に座っていたアーニー・マクミランが言う。
「…………確かに、セオドールたちの言う通りではある」
目先の目標があった方が人は頑張れる。
それは自分が日々行っている訓練が一体何のために必要なのかを理解でき、やる気が起きるからである。
どういった意図で何のために訓練をしているのかが分からなければ士気も下がるだろう。
具体的な到達目標が示されている方がやはり良い。
それに、エスペランサは既に今年度中に達成したいことは決めてあった。
「わかった。今年度の我々の目標を決める」
エスペランサの言葉に全隊員が注目した。
「我々の今年度の目標は………‟ホグワーツに派遣されている吸魂鬼の殲滅”だ」
一瞬の沈黙。
そしてその沈黙を破るように驚きの声が上がる。
「正気かよ!」
「無理だろう。それは………」
「第一、どうやって???」
ざわつく隊員たちを一瞥してエスペランサは言葉を続けた。
「吸魂鬼の撃退方法は守護霊の呪文しか発見されていない。が、守護霊の呪文は吸魂鬼を撃退するだけで、亡き者にすることは出来ないらしい。吸魂鬼の倒し方を研究しようとした魔法使いは過去に居たようだが、あまりの吸魂鬼の恐ろしさに研究自体がお釈迦になることがほとんどだったようだ。我々はこの1年を使って吸魂鬼を研究し、コレの倒し方を発見する。そして、最終的にホグワーツに派遣されている吸魂鬼を殲滅することを目標としたい」
「ちょっと待ってください」
「何だ?フローラ」
セオドールの隣に座っていたフローラが手を上げる。
「吸魂鬼が悍ましいものであることは知っています。あなたが吸魂鬼を倒したいと思うのも理解できます。しかしながら吸魂鬼は魔法省の管轄下であり、魔法省の命によって派遣された生物です。なので、これを殲滅するのは不味いのではないでしょうか?」
フローラの言葉に何人かの隊員が頷いた。
「魔法省はホグワーツの生徒が吸魂鬼を殲滅出来るとは思わないだろうし、完全に情報を遮断すればまずバレることは無い」
「100パーセントバレないという保証がありません。魔法省に私たちが吸魂鬼を殲滅したことが……仮に出来たとして、ですが………バレてしまった場合、活動が禁止されるどころではなくなります。魔法省の管理下に置かれた生物の殲滅ですから幾つかの法律に引っ掛かりますね。下手すればアズカバンへ直行です」
「俺が調べた限りだと、吸魂鬼は正確に言えば魔法省の管轄下の所有物品ではなく、あくまでも協力関係にある魔法生物であり、吸魂鬼の行動に英国魔法省の法律は適用されないらしい。吸魂鬼は魔法界のタブーであるから魔法省も下手に干渉しようとしないんだろう。故に吸魂鬼を殲滅したところで我々が罪に問われることは無いし、魔法省が罰することも出来ない」
エスペランサの言葉にフローラは納得したようだったが、親族に魔法省関係者の居るスーザン・ボーンズという女子生徒は違ったようで、エスペランサに疑問をぶつけてくる。
「でも吸魂鬼を倒す意義ってあるの?吸魂鬼はそりゃ倒したい生き物だけど吸魂鬼がアズカバンに存在しているから闇の魔法使いや凶悪犯罪者がアズカバンから脱獄してこない訳だし、吸魂鬼の居るアズカバンに行きたくないから皆、犯罪を起こそうとしないんじゃないのかな?」
「吸魂鬼が一種の抑止力になっていることは認める。だが、忘れないでくれ。将来的にアズカバン収監中の闇の魔法使いも、収監されていない犯罪者も全員、我々が殲滅する。この世界からその手の人間を一掃するんだ。我々の目指す世界にはアズカバンに収監されるような人間は必要ない。だから吸魂鬼の存在もいずれは不要となる」
「なら吸魂鬼を今すぐに倒す必要はないんじゃない?」
「今年度中に英国魔法界に存在する吸魂鬼を全滅させることは目指さない。あくまでもホグワーツに派遣されている吸魂鬼を殲滅することを目指す。ホグワーツに派遣されている吸魂鬼が英国内の総数の何割の吸魂鬼かは分からないが、少なく見ても100を超える吸魂鬼が派遣されているはずだ。これをまとめて殲滅する手段を今年度中に確立することが出来れば、それは我々にとって大きな力になる」
「大きな力???」
「ああ、そうだ。吸魂鬼を倒すことの出来る力を持った軍隊は英国魔法省にとって無視し難い存在となる。吸魂鬼を倒せる存在となった我々はその後、英国魔法界で一定以上の発言力を持つことも出来るだろう。そう、吸魂鬼を倒すことが出来る力を持てば、英国魔法省を動かせるほどの力を手に入れたも同義なんだ」
マグル界でも国際社会で権力を振りかざし、発言力を持っていた国というのは強大な軍事力を持っていたり、豊かな資源が会ったり、工業力があったりと何かしらの力を持っている国だった。
力のない国は力のある国に従わざるを得ない。
表向きには全世界の国家が平等であると謳われている20世紀であっても、やはり力を持つものが強いのだ。
エスペランサは全世界の人間が平等に平和を享受できることを理想としているが、全人類が平等になるということが理想でしかないことは知っている。
人間社会はどうしても力を持つ者と持たざる者が出てきてしまう。
これは仕方のないことだ。
ただし、力を持ったものが正義の味方であれば力を持たざる者は平和を享受できる。
そう。
理想の実現には強大な力を手にすることが必要不可欠なのである。
その第一歩としての吸魂鬼の殲滅方法の確立であった。
エスペランサの説明に多くの隊員が頷いた。
「吸魂鬼の殲滅が不可能?そんなわけがない!!人類は有史以来、様々な不可能を可能としてきた。我々が吸魂鬼を倒す第一人者となるんだ!」
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」
「ここに集めた生徒、いや、隊員はホグワーツ内でも有数の優秀な人間たちだ。我々なら不可能を可能とすることが出来る!!」
隊員たちは興奮気味に椅子から立ち上がり拳を掲げる。
全隊員を見渡した後、エスペランサは杖を取り出して、空中に文字を出現させる。
昨年度、トム・リドルが自分の名前を出現させたのと同じ魔法である。
赤く光る花火のように出現した文字。
‟Centurion”
「センチュリオン…………????」
見慣れない文字列に隊員たちは首をかしげる。
「ああ。センチュリオン。これが我々の部隊名だ。我々は今から魔法戦闘部隊センチュリオンの隊員となった。スローガンは精強即応殲滅。魔法界のみならず全世界の平和の維持を目標としてこれから活動を開始する!!!!」
センチュリオン。
古代ローマ軍の基幹戦闘単位であるケントゥリア(百人隊)の指揮官のことであるケントゥリオの英語読みである。
兵の指揮統制をはじめ非戦闘時における隊の管理など、軍の中核を担う極めて重要な役割を果たし「ローマ軍団の背骨」と称えられたセンチュリオン。
センチュリオンは市民社会からも大きな敬意をもって遇される名誉ある地位であった。
エスペランサはこの部隊が全世界の平和の維持を行うことで市民社会から支持されることを祈り、その名前を付けた。
英国の戦車もセンチュリオンなので・・・
これからセンチュリオンに所属する生徒は「生徒」ではなく「隊員」と呼称されます。