ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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投稿が非常に遅れて申し訳ございません!!

職場で役職に就いてしまい、ここ3ヶ月執筆する時間が無かったもので、、、
待ってしまっていた人には非常に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
お詫び申し上げます。


case 36 Heavy rain 〜豪雨のなかで〜

センチュリオン創設から1週間が経過した。

 

この1週間で隊員達は銃の安全管理と構造を徹底的に頭に入れ、銃の分解結合を幾度も反復演練させられた。

元々、飲み込みの良い者ばかりであったので、分解結合は2,3回行っただけで出来るようになり、安全管理事項もすぐに覚えてしまった。

 

安全管理事項というのは要するに銃口を人に向けない、だとか、結節時には点検を行うだとか、そういったものである。

銃器の安全な取り扱いに関してはジェフ・クーパーによって提唱された4つのルールがあり、

 

1全ての銃は、常に弾薬が装填されている。

2銃口は、撃とうとするもの以外に向けてはならない。

3標的を狙う瞬間まで、指はトリガーから離しておくこと。

4標的と、その向こうに何があるかとを、常に把握しておくこと。

 

というものだ。

これを徹底しない軍隊は存在しない。

逆を言えば、素人と職業軍人の差はこういった教育を行っているかいないかで分かれる。

 

また、「安全管理の段階」と呼ばれる教育も行われた。

銃には安全装置と呼ばれるものがついている。

有名なのは切り替え軸と呼ばれるレバーによって「単発、連発、安全装置」のモードを切り替える機械的安全装置。

 

しかし、安全装置は機械的なものだけではない。

 

この機械的安全装置のほかに生物的安全装置と心理的安全装置というものがある。

生物的安全装置というのは、射手の引き金にかけた指のことだ。

機械的安全装置が解除された銃を手にしても、引き金を引かない限り弾丸は発射されない。

要するに引き金に指をかけない動作自体が安全装置となっているのである。

 

もう一つ。

心理的安全装置というのは「引き金に指をかけていても“撃つという意思が無ければ”弾丸は発射されない」というものだ。

この心理的安全装置を使う事のできる部隊というのは非常に精強な部隊であり、それこそ、デルタフォースレベルである。

エスペランサ自身、心理的安全装置は使った事がない。

いつもはトリガー・セーフティを使用している。

 

銃は扱いを間違えれば危険なものであるが、正しい扱いを知っていれば基本安全なものだ。

これを隊員にはしっかりと教育しておく必要があった。

 

 

 

安全管理事項と分解結合以外に、エスペランサは隊員に統率や戦略、精神的教育を行い始めている。

銃の扱い方を知っていたところで戦略や戦術の知識がゼロでは話にならない。

図上演習を行わせたり、戦史を学ばせる事で基本的な戦い方を彼は隊員に教えていった。

もっとも、エスペランサとて戦史の教官をしたわけではないし、専門はゲリラコマンド戦であったので手探りでの教育となる。

 

精神的教育というのは、まあ、簡単に言えば「戦争に慣れさせる」ことだった。

魔法界の戦争とは比べ物にならない悲惨さを持つ「マグル界の戦争」をエスペランサは隊員に教えた。

 

大量殺戮兵器。

無差別爆撃。

 

隊員の中にはあまりの悲惨さに嘔吐しかける者も居たが、これは至極当たり前な事だろうと彼は思う。

 

 

 

 

兎にも角にも、非常に濃密な1週間が終わり、隊員たちは束の間の休日に移行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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束の間の休日は豪雨に見舞われた。

 

横殴りの雨が城の窓を打ちつける中、クイディッチのグリフィンドール対ハッフルパフ戦が行われる。

よくもまあこの豪雨の中で試合をしようと思ったものだとエスペランサは思ったが、他の生徒は違ったようだ。

 

センチュリオン遊撃部隊隊長を務めるセドリックは(彼はこの1週間、訓練とクィディッチの練習を両立するという多忙な毎日であった)満面の笑みで箒を片手に試合会場へ向かっていたし、他の隊員たちも朝食が終わった瞬間に会場へと走っていった。

エスペランサはそれほどクィディッチに興味が無かったのだが、毎年毎年、グリフィンドール戦では何らかのアクシデントが起きるので、万が一に備えて会場には行くことにしている。

1学年時はハリーの箒が暴れ、2学年時はブラッジャーが狂い、よくよく考えてみれば全部ハリー・ポッターがらみの事件だ。

 

必要の部屋の武器庫からM24狙撃銃と「ある特殊な弾薬」を取り出して、エスペランサは競技場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

競技場は悲惨な状況だった。

 

暴風によって生徒の持つ傘は片っ端からスクラップ。

視界もすこぶる悪く、試合状況も分からない。

点数すら分からず、観戦する意味があるのか疑うレベルであった。

 

時折、視認出来る選手も、暴風で箒のコントロールが出来ていない。

死にかけの蚊がフラフラと飛んでいるようだとエスペランサは思った。

 

人を掻き分けて、やっとのことでグリフィンドールの生徒が観戦するスペースにたどり着いた彼はそこでロンとハーマイオニー、それからネビルを見つけた。

ネビルはこの1週間の教育と訓練で疲れきっているのか、この豪雨の中で居眠りをしている。

ちなみに、物の覚えが悪いネビルであったが、こと銃の安全管理だとか射撃姿勢に関しては人並み以上に覚えが早い。

案外、狙撃手に向いているのかもしてないとエスペランサは思っていた。

 

「試合はどうなってるんだ?」

 

「今は、グリフィンドールが20点リード。スニッチはまだ見つかってないよ」

 

「この雨じゃスニッチなんて見つけられないだろうに………」

 

エスペランサはロンの肩越しに競技場を見る。

 

数歩前の景色ですら見えないというのに、グレネード弾程度の大きさのスニッチを見つけることは非常に困難といえた。

それでも豪雨の中、競技場を飛び回るハリーはやはり天性の才能を持っているのだろう。

 

センチュリオンで遊撃部隊を率いるセドリックもハリーに負けない飛びっぷりである。

 

やはり、遊撃部隊の主戦力はセドリックだ。

エスペランサはそう確信した。

 

吹き荒れる風の中にあっても、逆に風の動きを利用して自由自在に飛び回るその技術は、戦場でも役に立つに違いない。

 

 

「くそっ!雷があのセドリックって奴に当たらないかな。そうしたらハリーも楽になれるのに」

 

「縁起でもない事を言うな!」

 

 

試合を観戦しながら悪態をついたロンをエスペランサはいつも以上に鋭い口調で咎める。

 

 

「え………??」

 

 

困惑するロン。

 

エスペランサがスリザリン生によく敵意を向けている。

ロンもその光景は見慣れていた。

しかし、今、エスペランサが明確に敵意を向けたのはロンであった。

 

 

「え………えっと」

 

「ロン。エスペランサの言う通り、不謹慎だわ」

 

「そ、そうだね。ごめんよ」

 

 

ハーマイオニーにも忠告され、ロンは黙り込む。

 

しかし、彼は内心、困惑していた。

エスペランサがロンに向けた敵意は恐らく、冗談などではない本物の敵意だ。

 

いつもならロンの軽口を笑って聞いているエスペランサが何故、こんなにも敵意をむき出しにしたのか………。

 

 

「俺もすまない。少し強く言い過ぎた」

 

 

エスペランサは競技場の方を見ながら相変わらずのポーカーフェイスで謝罪の言葉を述べる。

彼がロンの何気ない一言に敵意を向けてしまった理由は単純だ。

 

ロンがセドリックの負傷を望むような発言をしたためである。

 

セドリックは今やもうエスペランサの部下の一人であった。

戦場で命を預け、いつ如何なる時でも信頼しあうであろうセドリックに向けて悪意のある発言をする者を彼は許さなかったのだ。

それが例え親友であっても。

 

たった1週間でもセンチュリオン隊員たちの間には確かな絆が生まれつつあった。

 

 

「…………!?」

 

 

ふと、今まで雨に打ち付けられながらも居眠りをしていたネビルが目を覚ます。

 

 

「どうした?ネビル」

 

「………この感覚。エスペランサ!吸魂鬼が近くにいる!!」

 

 

すっかり目を覚ましたネビルは観客席の上に立ち上がり、周囲を見渡し始めた。

 

 

「吸魂鬼だと!?そんな馬鹿な!ここはホグワーツ敷地内だぞ」

 

「いや、この全身が凍るような感覚………。間違いない!」

 

 

確かに、今までとは違って体の芯から凍えるような寒さと暗い絶望感をエスペランサも感じ始めている。

これは吸魂鬼が近くに存在する証拠だ。

 

 

「見えた。目標視認。吸魂鬼5体、右20度、距離3000、真っ直ぐ突っ込んでくる!!!」

 

エスペランサは背負っていたゴルフクラブのケースからM24狙撃銃を取り出し、そのスコープを覗き込む。

スコープ越しに吸魂鬼が5体、突っ込んでくるのが見える。

 

他の観客もそれに気付いたのだろう。

会場がざわめき始めた。

 

 

「何であいつらがここに!?」

 

混乱するネビル。

 

 

 

何故、吸魂鬼がこの競技場に現れたのか。

エスペランサは敵の目的が分からなかった。

 

「このままじゃハリーが危ないわ!ダンブルドアは何をしているの??」

 

「ハリーだけじゃない。選手のみんなが危ない!!ハーマイオニー何とかできないの?」

 

「無理よ。吸魂鬼を倒す術は見つかっていないもの」

 

 

ハリーは吸魂鬼の影響を受けやすい。

箒に乗った状態でまた、ホグワーツ特急の時みたいに気絶でもしたら一大事である。

 

ハリーの命を救うため、エスペランサは覚悟を決めた。

 

 

「虎の子の出番だな。まあ、効果があるかどうかは未知数だが………」

 

エスペランサはそう言ってポケットから厳重にロックされた金属製のケースを取り出して、その中から1発の銃弾を取り出す。

 

見た目は何の変哲もない弾丸だ。

一般的に7.62ミリNATO弾と呼ばれ、彼が今、手にしている狙撃銃の弾丸としても使われる。

 

しかし、これは唯の7.62ミリ弾では無かった。

 

ノクターン横丁のボージンに頼んで量産させたバジリスクの毒を、これまたボージンに頼んで7.62ミリ弾に含ませてもらった物だ。

ボージンはエスペランサの依頼通り、バジリスクの毒を量産させていた。

しかし、量産した毒をそのまま武器にする事は難しい。

そこで、エスペランサはボージンに何発かの銃弾を送り、何とか、銃弾に毒を染み込ませる事ができないかどうか相談した。

 

ボージンは魔法道具には詳しいが、銃弾には詳しくない。

だが、やはり彼はプロだった。

エスペランサの送った銃弾を魔法で分解して構造を瞬時に理解したボージンは1週間ほどの試行錯誤で、バジリスクの毒を内部に含んだ銃弾を完成させたのだ。

 

この弾薬は毒が銃弾本体の内部、つまり人が触れる事のない場所に染み込んでいる。

故に、装填中に銃弾を触ったエスペランサに毒がまわることもない。

しかし、銃弾が目標に着弾すれば中に含まれた毒が拡散されるという仕組みになっているため、敵に命中させさえすれば必殺となる。

 

また、バジリスクの毒は「あらゆる生物を死に至らしめる」という特性上、無機物に撃ったところで通常の弾薬と効果は変わりない。

生物に命中した時のみ、効果を発揮するのだ。

 

ドラゴンであろうと、アクロマンチュラであろうと、この銃弾が身体のどこかに命中すれば、その生物は死に至る。

 

 

吸魂鬼は死をも超越した存在であるといわれているが、バジリスクの毒はヴォルデモートの魂さえも葬り去る事ができる。

エスペランサはそれを秘密の部屋で確認済みだ。

バジリスクの毒が吸魂鬼に効く可能性も無きにしも非ず。

 

 

群れの先頭を飛行していた吸魂鬼はハリーの後方約10メートルの位置に達していた。

飛行速度はニンバス2000を越える。

ハリーは持ち前の技量で巧みに吸魂鬼を振り切ろうとしていたが、それでも、回避しきれない。

 

加えて、吸魂鬼は周囲に存在するだけで人間の生気を吸い取る能力を持つ。

 

ハリーの体力が底をつき始めるのは時間の問題だろう。

 

 

 

エスペランサは競技場の席の上に立ち、構えたM24の引き金を絞り始める。

 

彼の持つ銃器は全て「軽量化」「反動の無効化」「銃弾の自動追跡」の魔法がかけられている。

しかしながら、この魔法にも欠点があった。

 

「銃弾の自動追跡」の魔法は“銃手が定めた目標を常に視認して目で追う”という条件の下、作動する魔法である。

魔法のかけられた銃が銃手の視認情報を銃弾にインプットさせるという段階を踏む関係上、「自動追跡の魔法」は常に目標を視野に入れ続けなくてはならないという制限があったのだ。

故に複数の目標を同時に狙う事や、すばやく高速で移動する敵を狙う事はかなり難しい(とは言え、魔法無しの狙撃よりは簡単であった)。

 

吸魂鬼は複数体。

しかも高速で動く。

豪雨で視界も悪く、至近距離にはハリーも存在する。

 

「自動追跡」の魔法が機能するには最悪の条件化だ。

 

 

「………今だ!!!」

 

 

スコープ越しに吸魂鬼を確実に捕らえたタイミングをエスペランサは見逃さなかった。

 

すぐに引き金を引く。

 

指を曲げるのではなく、人差し指の第2間接を手前に引くようにして射撃。

銃口から飛び出した7.62ミリ弾は真っ直ぐに吸魂鬼へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

今まさにハリーを襲おうとしていた吸魂鬼に弾丸が命中する。

 

物理攻撃の通用しない吸魂鬼。

通常の弾薬であれば吸魂鬼の体をすり抜けてしまっていただろう。

 

しかし、バジリスクの毒によって生成された弾丸は吸魂鬼を簡単に消滅させてしまった。

 

 

シュウウウウウウ

 

 

まるで霞が消えるように吸魂鬼そのものが空中に四散していく。

 

後には何も残っていない。

吸魂鬼は完全に消失していた。

 

 

 

 

 

「やった………のか??」

 

 

 

豪雨で視界が悪いため、1体の吸魂鬼が一瞬にして蒸発するように消滅したことに気付いた者はほとんどいなかった。

しかし、他の吸魂鬼は仲間の一体が消滅した事に気付いたようである。

 

吸魂鬼の群れは明らかに動揺していた。

 

 

無理もない。

吸魂鬼を魔法使いが完全に消滅させた事など有史以来はじめてだったからだ。

 

ひるんだ吸魂鬼はハリーへの追撃の手を緩め、空中で停止した。

 

 

 

「吸魂鬼が止まった………もしかして、エスペランサ。君が………」

 

観客席から身を乗り出して競技場を見ていたネビルが、エスペランサの方に振り向く。

 

M24狙撃銃を持つエスペランサも、自身が吸魂鬼を倒した事に衝撃を受けていた。

一か八かの賭けであったが、目標は達成した。

 

 

 

 

「あああああああああ!!」

 

 

 

 

吸魂鬼が追撃を停止したのとほぼ同時にハリーが意識を失い、箒から落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホグワーツ城の警備に当たる吸魂鬼の総数は70。

 

英国魔法省が管理する吸魂鬼の3割に相当する数だ。

管理といっても、魔法使いが吸魂鬼をコントロールしたり支配する事は不可能である。

利害関係の一致から一時的に協力していると言ったほうが適切な表現だ。

 

魔法省はシリウス・ブラックの捜索兼、ホグワーツの監視を吸魂鬼に頼み込んだ。

しかし、吸魂鬼にとってはブラックであろうが、生徒であろうが、どちらも“食料”であることに変わりはない。

目の前に美味しそうな餌(ハリー)が存在すれば任務を放棄して飛びつくのは当たり前であった。

 

故に、ダンブルドアは吸魂鬼の城内への侵入を禁じていたが、吸魂鬼は勝手に侵入してきたわけである。

 

彼の怒りの矛先はホグワーツへの吸魂鬼の派遣を決定したファッジに向けられた。

 

 

 

「コーネリウス。吸魂鬼は生徒も脱獄犯も見境なしに襲うじゃろう。じゃから城内への侵入をしないように魔法省には注意喚起しておったのじゃ」

 

校長室に大臣のファッジと数名の魔法省職員を呼び出し、ダンブルドアは厳しい口調で言う。

彼の目は笑っていない。

 

ファッジはダンブルドアがここまで怒っているのをはじめて見た。

 

「い、いや。我々も吸魂鬼が競技場に侵入するとは思っていなかったのだ。今後はそういったことが無いように職員の監視も増やすが、ブラックが野放しになっている今、吸魂鬼を撤退させることは出来ない」

 

目を泳がせながらファッジが言う。

 

「わしとしては吸魂鬼を全て、撤退させて欲しいところじゃが………」

 

「それは……議会を通さないと………」

 

 

そんな二人のやり取りを部屋の隅で聞いていたスネイプが口を開く。

 

 

「時に大臣。我輩は奇妙な噂を聞きました。どうも吸魂鬼の数が足りない、と」

 

「あ、ああ。そうだ。派遣された吸魂鬼は合計で70。しかし、現在確認されているのは69。数え間違いはないし、吸魂鬼も仲間が減った事に気付いて動揺している」

 

「なんと。それはいったいどういうことじゃ」

 

 

ダンブルドアは驚いて目を見開く。

 

スネイプは会話を続けた。

 

 

「校長。我輩は生徒の一部から事の顛末を聞きました。ポッターを襲おうとした吸魂鬼の1体が一瞬にして消滅した、と。最初は何かの見間違いかと思いましたが、目撃者は10名を越えています」

 

「吸魂鬼に死は存在しない。じゃとしたら………」

 

「何者かが、吸魂鬼を消滅させた……としか」

 

「セブルス。吸魂鬼を消滅させる方法など存在するのかね?」

 

ファッジがスネイプに聞く。

 

「守護霊の呪文以外に発見されていません。守護霊の呪文も吸魂鬼を消滅させる事は不可能かと」

 

「だったら、一体誰がどうやって?」

 

「……………」

 

「あの場には教職員と生徒しか存在しなかった。となると犯人はそのうちの誰かということになる。しかし、生徒はおろか、職員も吸魂鬼を消し去る事なんてできない。ダンブルドアでもそんな事は不可能だろう?」

 

「そうじゃな。わしも出来はしない」

 

「なら………」

 

 

 

バタン

 

 

「失礼します」

 

校長室へ黒人の魔法省職員が入ってくる。

 

「大臣。吸魂鬼の欠員を議会で報告する必要があります。早急に魔法省へお戻りください」

 

職員はファッジにそう言って再び部屋を出て行った。

 

 

「ああ。こんなことは前代未聞だ。議会が何と言うか………。また支持率が下がってしまう」

 

胃のあたりを抑えながらファッジは弱弱しく呟いた。

 

「では、私はこれで失礼する。吸魂鬼に関しては生徒を襲うことがないようにこちらで対処するよ………」

 

ここ数時間で一層老けたように思える大臣は部下の職員を連れて校長室を出て行った。

 

 

 

 

ファッジと職員全員が退出したことを確認して、スネイプは口を開く。

 

「ホグワーツの生徒に吸魂鬼を倒せるほどの実力者は存在しない。ダンブルドアでも吸魂鬼を倒すことは不可能………ですか」

 

「セブルス。君の考えていることはわかっておるよ」

 

「………。吸魂鬼が発見されてから魔法使いが本気で彼らの倒し方を研究することは無かった。単純に吸魂鬼を恐れたからでもあるし、アズカバンの看守として吸魂鬼が有用であり、倒す必要がないという意見があったからでもある。吾輩は前者だと思いますが、ともあれ、吸魂鬼は倒せないのではなく、今まで真面目に倒し方が模索されてこなかったというのが事実でしょう」

 

「その通りじゃ。吸魂鬼わしの知る限り吸魂鬼を研究しようとした魔法使いは稀有じゃ。守護霊の呪文によって一時的な撃退は可能じゃから本気で奴らを倒す方法など考えもしなかった。無論、わしもじゃ」

 

 

吸魂鬼の倒し方を模索する魔法使いはごく少数である。

 

ほとんどの魔法使いは吸魂鬼を恐れて研究の対象にもしようとしなかった。

しかし、スネイプは吸魂鬼を一切恐れずに倒そうと目論むであろう生徒を一人だけ知っている。

 

 

「ルックウッド………」

 

 

大魔法使いでも撃退が困難なバジリスクの撃退。

トロールの爆殺。

ヴォルデモートと渡り合う戦闘力。

 

 

エスペランサ・ルックウッドなら吸魂鬼を倒す方法を見つけ出してしまうかもしれない。

 

 

「ルックウッドは魔法使いとしては未熟だが、マグルの知識を活用することで前代未聞の偉業を達成してきてしまっている。吾輩はマグルの技術など知る由もないが、我々魔法使いが思っている以上にマグルの技術というのはこの世界の深淵を覗いているのかもしれません」

 

「深淵を覗いている?」

 

「魔法使いが研究するのは魔法のみ。しかし、マグルはこの世に存在する法則や世界の成り立ちを研究している。これを読んでみてください」

 

「これは?」

 

ダンブルドアはスネイプが差し出した羊皮紙を受け取る。

 

「以前、ルックウッドが授業で提出してきたレポートです」

 

 

 

 

 

 

 

   縮み薬の有用性に関する考察

 

 

              グリフィンドール所属 エスペランサ・ルックウッド

 

 

 

  本論文では縮み薬の効果が現代科学に及ぼす影響を述べる。縮み薬はその薬を経口投薬した対象である生物の質量を減少させる効果がある。

  魔法界では一般的な薬であり、未成年の魔法使いでも調合が可能な簡易的薬であるが、現代科学の法則が適用されない現象を具現化することのできるものである。

  素粒子論・核物理・宇宙論などを除く自然科学のほとんどの分野で実用上用いられている「質量保存の法則」によれば「化学反応の前後で、それに関与する元素の種類と各々の物質量は変わらない」とされる。

  しかし、縮み薬を服用した生物はその物質量に明らかな変化が存在する。

  木や紙は燃やすと灰となって質量が大幅に減少するように感じられるが、しかし、このような目に見える質量の変化はあくまで外部との物質の出入りが自由な開放系で見られるものであり、精密な測定のために閉鎖系を準備すると「化学反応によっては元素が分裂して増加したり、消滅して減少したり他の元素に転化したりしない」という結論が導き出された。

  マグルの世界ではこの法則が万物に共通する不変の法則であるとされているが、魔法界では簡易的な薬であってもこの法則を捻じ曲げる強力な効能を有しているのだ。

 

 

   

 

    略

 

 

 

   魔法界では当たり前に使われている薬品が、その実、自然界に存在する法則を捻じ曲げてしまう危険なものであることに魔法使いは気づかない。

   それは魔法使いがこの世の科学に無頓着で無知であるからだ。

   もし仮に、このような強力な薬をマグル界に公表した場合、世界は一変する。

   生徒でも簡単に調合可能な「生物の成長を逆行させる」という力を持つ薬が人類の科学の発展にどれだけ貢献できるかは未知数だ。

   しかし、この薬を軍事利用した場合、人類を破滅の道へと導いてしまうだろう。

   魔法使いはこのような薬を軍事利用しようとは思いもしないだろうが、物理法則を簡単に捻じ曲げることの出来る物質は強力な兵器へ転用可能だ。

   以下ではそのプランを検証していく。

 

 

 

    略

 

 

 

 

 

「これは………」

 

「マグル出身の生徒は彼以外にも多く存在するが、このようなレポートを提出してきたのはルックウッドのみ。我々魔法使いが使用する魔法をもしかりにマグルの連中が利用したらどうなるか………」

 

「吸魂鬼すら容易く倒せるようになってしまうかもしれない……と?にわかには信じられんのう。しかし………」

 

「ルックウッドは現にバジリスクを倒し、闇の帝王と渡り合っている。おそらく吸魂鬼を消滅させたのは彼でしょうな………」

 

 

ダンブルドアは何も言わなかった。

 

かつてトム・リドルを初めて見た時とは違う、もっと別の種類の恐ろしさをエスペランサに感じていたからだ。




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