ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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日常パートはほぼダイジェストになってしまいます。



case38 Exposure 〜爆破せよ!ナパーム弾〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練後、センチュリオンの隊員は全員、禁じられた森の湖畔に集合した。

 

エスペランサの計らいによって戦闘糧食が全員に配られる。

戦闘糧食は水のみで温められ、如何なる場所でも食べることが出来るものだ。

 

味は国によってまちまちであるが、エスペランサは米軍が横流ししたものを手に入れ、密かにホグワーツへ持ち込んでいた。

必要の部屋は何故か食料は出してくれない。

 

 

「食べ終わったパッケージは捨てずに回収するからな」

 

思い思いの場所に座りながら糧食にがっつく隊員たちにエスペランサは言う。

 

陽も差し、暖かい湖畔は昼時の休憩にはもってこいの場所だ。

風も無く、湖は穏やかでキラキラと光っている。

 

セオドール側だった分隊員は最も陽の当たる岩場で糧食のチキンライスを食べながら談笑していた。

 

 

「まさかネビルがあんなことを考えるとは思わなかったな。今回のMVPはネビルで決定だ」

 

「ああ。あのエスペランサを出し抜いただけでも凄いのに、まさか200メートルも離れた場所の敵を倒すなんて思いもしなかった。今度、教えてくれよ」

 

 

今まで、ネビルを劣等生としか見ていなかった分隊員たちであったが、今回の訓練で彼を認めたようである。

それどころか称賛している。

 

 

「い、いや。たまたまだよ。次から同じ手は使えないし」

 

ネビルは今まで同期から褒められたことが無い。

なので、戸惑っているのだろう。

 

「おいおい。手柄はネビルだけじゃなくて僕にもあるからな?あの渾身の演技が無ければ勝てはしなかっただろ」

 

「最初に突撃の指示を出して部隊を壊滅させたのと合わせてトントンだな」

 

「うっ。まあ、僕にも非はあったけど………。しかし、ネビルにあんな才能があったなんてな」

 

 

コーマックは話題をそらしながらネビルの肩に手をかける。

 

 

 

 

 

和気あいあいとする隊員たちの様子を遠くからエスペランサは見ていた。

 

同じ困難を乗り越えた隊員たちの絆はより一層強くなる。

彼もかつてはネビルたちのように訓練を経て団結したものだ。

 

 

「懐かしいな………」

 

 

エスペランサはそっと懐から古いドックタグを取り出す。

 

それは彼が以前、特殊部隊に所属していたことを示す唯一のものであった。

 

 

 

「楽しそうですね。あなたの思い描いていた結果というのはこの光景の事だったのでしょうか?」

 

フローラが近づきながら話しかける。

 

「いや。ここまで上手くいくとは思わなかった」

 

「そうでしょうね。あなたが真っ先に倒されるとは私たちも予想していませんでしたし」

 

「ああ。俺は無傷で勝てると思っていた。でも、戦場では何が起きるかわからん。あらためて思い知ったよ」

 

 

フローラはエスペランサの立っているすぐそばにあった大きめの岩に腰掛けながら糧食のパックを開く。

 

 

「フローラは皆のところへ行かなくても良いのか?あのセオドールですら輪の中に入ってワイワイやっているが」

 

「私はああいった輪の中に入るのが苦手なので………。それに、あなたの隣の方が居心地が良いので」

 

「……………そうか」

 

 

フローラは相変わらず無表情だ。

 

エスペランサは反応に困ったので、既に手入れ済みの銃を再び整備し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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クリスマス。

 

 

エスペランサは他の生徒と同様にホグズミートに出かけた。

 

最近はセンチュリオンの訓練やらであまり一緒につるんでいなかったロンとハーマイオニーと一緒である。

ハリーは例によって外出の許可が下りていなかった。

 

ハーマイオニーはエスペランサが陰で何やらやっていることに薄々感づいているようであったが、特にこれと言って追及してこなかった。

 

 

ホグズミート村は雪に覆われて銀世界。

 

あちこちにクリスマスの装飾がされ、店はにぎわっていた。

元々、中東で特殊部隊の傭兵をしていたエスペランサは寒さに弱い。

 

マグル界から持ち込んだ張るタイプのカイロ(日本製)を取り出して体にペタペタ張る。

 

マグル界の技術は馬鹿に出来ない。

 

 

ハリーへのお土産を買おうと言う事で、村で一番にぎわっているハニーデュークスへ入ることになった。

 

ハニーデュークスの店内はクリスマス用に無数の菓子の箱が平積みされ、タダでさえ狭い店がさらに狭くなっている。

他の生徒とすれ違うのも精いっぱいである。

 

 

「流石に混んでるな。お、俺はこれに興味がある」

 

「アレ?ああ、‟異常な味”か。やめておいた方が良いよ。百味ビーンズの鼻くそ味みたいなのばかりおいてあるんだ。いや、鼻くそ味の方がましかな」

 

「これは?血の味がする飴?ハリーのお土産には向かないわね。きっと吸血鬼用よ」

 

 

ハーマイオニーが真っ赤な飴を取り上げながら言う。

 

 

「じゃあ、これはどう?ゴキブリごそごそ豆板!!」

 

 

 

「絶対嫌だよ!!!」

 

 

 

急に背後からハリーの声がしたのでロンはゴキブリごそごそ豆板の瓶を落としそうになる。

 

 

「ハリー!!!」

 

 

ハーマイオニーが周囲に聞こえない程度の声で叫ぶ。

 

「どうしてここに?」

 

「これだよ。この忍びの地図をフレッドとジョージに貰ったんだ」

 

ハリーは古びた羊皮紙のような物をひらひらと見せる。

 

「何じゃそりゃ」

 

「ホグワーツの地図さ。すごいんだ。誰がどこにいるか、だけじゃなくて、秘密の抜け道も書いてあるんだ。これを見てホグズミートまで来たんだよ」

 

 

ハリーは誇らしそうに言う。

 

 

「素晴らしい地図だ。誰がどこに居るかまでわかるとは。市街地戦で活かせそうだな。後で解析させてくれ。量産できるかもしれない。いや、双子に聞けば良いのか?」

 

「ううん。これはフレッドたちが作ったものじゃないんだってさ。フィルチの部屋から盗んだらしいよ」

 

 

エスペランサは興味津々といった感じで羊皮紙を見る。

 

これがあれば3次元レーダーは不要だろう。

 

 

「ハリー勿論、マクゴナガル先生に提出するわよね?それ」

 

「何言ってるんだハーマイオニー。こんな良いもの渡すわけないだろう」

 

「俺もロンに同感だ。これは何としてでも量産させなくてはならん」

 

 

ハーマイオニーは頭を抱えながら言う。

 

 

「エスペランサは黙ってて。あなたが口を挟むと話がずれるの」

 

「え………」

 

「だって、この地図の抜け道を使ってブラックが侵入してるかもしれないでしょう?それならやはり提出するべきだわ」

 

「問題ない。その抜け道にブービートラップでも作っておけば」

 

「だから、あなたは黙ってて!」

 

「良いじゃないか。ハリーだってクリスマスを楽しむ権利はあるよ。とりあえず、ブラックは後回しさ」

 

 

そう言ってロンはハリーを店の奥へ連れて行く。

 

残されたハーマイオニーはまだ頭を抱えていた。

 

 

 

 

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エスペランサたち4人は3本の箒と呼ばれるパブへ入った。

 

エスペランサ以外はバタービールというソフトドリンクを頼んだが、エスペランサはギムレットを頼んだ。

魔法界の成人未成年は正直言ってザルである。

久々のアルコールに顔をほころばせながら彼は2杯目の酒を注文する。

今度はサイドカーである。

 

そうこうしているとパブに魔法大臣とハグリッド、マクゴナガルが入ってきた。

 

咄嗟に近くの木でハリーを隠し、エスペランサたちも隠れるように座りなおす。

 

 

 

そうそうたるメンツであったので何を話すのか気になって4人は聞き耳を立てる。

 

 

 

 

魔法大臣たちの話は要約すると以下のようなものであった。

 

 

 

 

1、ハリーの父親とブラックは親友だった。

2、そのブラックをハリーの両親は秘密の守り人にした(秘密の守り人というのがエスペランサにはピンとこなかったが)

3、ブラックが裏切ってハリーたちの両親の居場所をヴォルデモートにチクった。

4、同じく2人の親友だったピーター・ペティグリューという男が激おこ。

5、ピーターはブラックを仕留めようとするも返り討ち。

 

 

 

「ブラックはジェームズと無二の友だった。信頼し合っていたんだ。それなのに…・……」

 

ハグリッドは顔を真っ赤にして言う。

 

「俺はブラックに会った。俺がハリーを運んでる最中だ。奴はハリーを預かると言ってきたんだ。名付け親だから育てると言って………。もし渡していたら今頃ハリーはこの世に居なかっただろうさ!!!」

 

「ブラックが捕まったのはその次の日だ。魔法省の部隊が見つければ良かったものを、最悪なことに見つけたのはピーター・ペティグリューだった」

 

ファッジが言う。

 

「ピーターはブラックを追い詰め仇を取ろうとしたらしい。しかし、ブラックは例のあの人の配下。とてつもない力を持っていた。ピーターは返り討ちだ」

 

「それだけじゃありません。ブラックは周囲のマグル数十名も巻き添えにしたんです」

 

マクゴナガルが言う。

 

 

 

「何だって…………」

 

マクゴナガルの話を盗み聞きしていたエスペランサは思わず声に出す。

 

罪の無いマグル数十人を巻き添えにしたという事実は彼を憤らせた。

無意識に腰のホルスターにささっている拳銃に手が伸びる。

 

 

「ブラック………。次にホグワーツに侵入してきたら俺が仕留める」

 

「エスペランサ。落ち着いて!見つかるわ!」

 

 

 

 

 

 

「ピーターの亡骸は指一本しかなかった。他のマグルも吹き飛ばされてバラバラ。表向きにはガス爆発と言われているが、ブラックが吹き飛ばしたのには間違いない」

 

「それで、ブラックは?」

 

「20人がかりで連行した。報道では奴が発狂してるとか言われているが、そうじゃない。奴は正気だ」

 

「正気?アズカバンに何年も居て正気なのですか?」

 

「アズカバンでは吸魂鬼の影響を受けて誰しもおかしくなる。しかし、ブラックはまともに話すことが出来るくらい正気だった。少し前に、私がアズカバンに行った時も話しかけてきた。日刊預言者新聞を見せてくれ、と言ってきたんだ。そのすぐあと、奴は脱獄した」

 

 

ファッジの話をこそこそ聞きながらエスペランサは考える。

 

吸魂鬼を前にして人が正常でいられないのは、幸福感を全て奪われるからだ。

しかし、逆に幸福感が無い人間であれば吸魂鬼を前にしても正常でいることが出来るのではないか。

 

ブラックがサイコパスであればアズカバンでも正常を保てるだろう。

 

サイコパスは一般に人を騙すのが得意であり、一見すれば善人であることもあるという。

もし、ブラックがサイコパスでないとすれば行動原理が分からない。

 

考え込むエスペランサの傍らで、ロンとハーマイオニーはハリーの顔をうかがっていた。

 

故郷を奪われて復讐心に燃えていたかつてのエスペランサと同様に、両親を奪われたハリーも復讐心に燃えていた。

 

 

 

 

 

 

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ブラックの真相を知ってからのハリーの荒れ具合は酷いものだった。

 

ロンとハーマイオニーはハリーの暴走を必死で止めようとしたが、エスペランサはあえて止めなかった。

復讐は何も生まない、という台詞は綺麗事である。

 

復讐の対象が万人にとっての悪であるならその復讐には意味がある。

 

故にエスペランサはセンチュリオンを創設した。

ハリーにも復讐する権利くらいはあるはずだ。

 

 

結局、ハリーは2人に連れられてハグリッドの元へ行き、そこで件のバックビークの処刑の話が上がったことにより復讐心を忘れてしまった。

 

何が起きても、「あの日」覚えた復讐心を捨てることも忘れることも無かったエスペランサからしてみれば変な話だ。

ちなみに、エスペランサはバックビークの裁判に関しては一切、手伝わないことを決めている。

センチュリオンの訓練が忙しいからに他ならない。

 

管理責任を問われてハグリッドが有罪になったところで処分はそこまで重くはないだろう。

それに0-10でハグリッドが悪いという判決にはならない可能性が大きい。

過失はマルフォイ側にもあったのだから。

 

というのはマグル界の裁判の話で、魔法界の裁判が如何に不平等で客観的でないのかをエスペランサは知っている。

どうせマルフォイは権力を使って裁判員を買収するだろう。

そして、ハグリッドは有罪になるわけだ。

 

そうなったら、マルフォイ(子)の箒に嫌がらせに永久粘着呪文でTOYOTAのロゴでも張り付けてやろうかとエスペランサは考えていた。

 

 

 

 

 

クリスマスと言えばプレゼントである。

 

エスペランサのもとにも勿論、プレゼントは届いていた。

今年はやけに多いな、と彼は思う。

 

エスペランサ宛の箱は20以上ある。

 

ツリーの根元に無秩序に置かれたそれらの送り主を見てみたところ、どうやらセンチュリオンの隊員からだ。

 

 

「センチュリオンの隊員が18名。ハリーたち3人とフィルチ。こいつはロンの母親からだな」

 

暖炉のそばの温かいところで包みを開けながら、宛先を一人一人確認する。

ほとんどがホグズミートの菓子やら悪戯クッズであった。

 

菓子のひとつを食べていると、談話室の端の方からロンの歓声が聞こえた。

 

 

 

「すごい!これファイアボルトじゃないか!!!」

 

見ればハリーとロンの座っているソファの前の机に箒が一本置かれている。

 

「何だそれ。新しい箒か?」

 

箒事情に詳しくないエスペランサはロンに尋ねる。

 

「ただの箒じゃない。世界最高峰の競技用箒さ。ナショナルチームも全員採用したくらいの箒で、スリザリンの箒を全てひっくるめても勝てっこない」

 

「ってことは高いんだな」

 

「そりゃもう。僕の家が買ったら皆、餓死しちゃうよ。マルフォイの家だってそうそうに買えないだろうし」

 

「ふーん」

 

 

エスペランサは箒にあまり興味が無い。

 

マグル界では箒は単なる清掃道具の一つだったからだ。

要はマグル界における自動車のようなものなのだろう。

 

 

「前にハリーの使ってたニンバスってやつよりも凄いのか?」

 

「凄いよ。エスペランサにもわかるように言えば、カローラとGTRくらいの違いがある」

 

 

マグル界の自動車を少しは知っているハリーが例える。

 

ハリーたちが盛り上がっている中、ハーマイオニーがやってくる。

 

 

「その箒。誰から送られてきたか分かるの?」

 

「えーと誰だろう。送り主の名前が無いな」

 

「高価な箒を名無しで送ってくるなんて怪しいわよ」

 

ハーマイオニーが言う。

 

「誰だって良いじゃないか。それよりも早く乗りに行こうよ。僕にも乗せてくれるよね」

 

「駄目だ!!」

 

 

ハーマイオニーが言う前にエスペランサがストップをかけた。

 

 

「え?何でさ」

 

「不可解な点が多すぎる。名無しの誰かから世界最高級の箒が送られてくるなんて偶然があると思うか?」

 

「そうよ。珍しくエスペランサの言う通りだわ」

 

「でも、どこにも異常はないぜ。この箒」

 

「そりゃあ目に見える場所にトラップを仕掛ける馬鹿は居ないだろう。海外の要人宛てに爆発物の入った小包が届くなんてマグル界じゃ日常茶飯事だ。俺のいた国でも要人が一人、それで爆殺されてる」

 

 

エスペランサの言葉にロンとハリーは黙ってしまう。

 

 

「君は箒について知らないからそんなことが言えるんだよ。いこうぜ、ハリー。大広間で御馳走でも食べよう」

 

ロンは不貞腐れたようにハリーを連れて寮から出ていく。

 

 

残されたエスペランサとハーマイオニーは溜息をついた。

 

 

「あいつら、危機感が欠如してやがる」

 

「ええ。一昨年、ハグリッドがドラゴンの卵を例のあの人から受け取ったこととか絶対忘れてそう」

 

「あーそんなこともあったな。まあ、そりゃ最高峰の箒だ。不貞腐れるのは分かるが、ハリーは自分の命を狙う人間が少なからずいることを理解した方が良いだろ」

 

「そうね。この箒は恐らくブラックが送ってきたものだわ。ホグワーツの警備が強化されて侵入が困難になったから、プレゼントに罠を仕掛けて送ってきた。そう考えるのが普通だと思う」

 

「まあ、普通に考えたらそうだな」

 

「でも、ブラックにそんな財力は無いはず。逃亡中だし。盗んだとすればニュースになるし」

 

「兎にも角にも教師陣に報告すべきだな。俺がマクゴナガルにでも報告しておこう」

 

「いえ、私がやるわ」

 

「何でだ?ハーマイオニーはただでさえロンとネズミ関係で険悪になってるのにこれ以上険悪にする必要はないだろう」

 

「ええ。そうかもしれないわね。でも、あなたが罠だの爆発物だの言ってもマクゴナガル先生は信じ無いかもしれないもの」

 

 

ハーマイオニーはそう言って寮を出て行った。

 

 

 

 

 

 

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ハリーもロンもハーマイオニーに腹を立てていた。

 

冷静に考えればハーマイオニーが正しい。

しかし、ハリーもロンもまだ餓鬼だったわけだ。

 

 

談話室でも授業中でもロンとハーマイオニーは常に喧嘩をしていた。

 

いつもは仲裁をしているハリーもロン側についている。

ハーマイオニーを孤軍奮闘させるわけにはいかなかったのでエスペランサはハーマイオニーに味方をしていた。

 

こうなるとハーマイオニー陣営は強い。

 

長年、軍人と渡り合ってきたエスペランサと学年一の秀才のタッグにハリーとロンが口論で勝てる筈がない。

一方的な戦いになるどころか、オーバーキルしてロンが涙目で敗走した。

 

 

「エスペランサは私の味方をしてくれるのね」

 

「どう見てもこっちの方が正論だしな。まあ、ファイアボルトとやらの検査が終わればあいつらもまた元に戻るだろう」

 

「そうだと良いけれど………」

 

 

 

 

 

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ハリーの元にファイアボルトが届いたという噂はセンチュリオンの隊員にも届いていた。

 

クィディッチの選手でもある遊撃部隊員のセドリックやチョウは羨ましがっていたし、あのセオドールでさえ興奮しているようだ。

 

 

「そんなにファイアボルトってすごいものなのかよ」

 

「そりゃあもう!今度、ハリーに頼んであたしにも乗らせてくれるように頼んでよ」

 

いつもフローラとつるんでいるグリーングラス(姉)が言う。

 

「いや、今はマクゴナガルの手元で点検中だ」

 

「ええええ」

 

「名無しから送られてきた箒だぞ。怪しすぎるだろ」

 

 

必要の部屋に集まった隊員たちは訓練そっちのけでファイアボルトの話をする。

 

収拾がつかないことを悟ったエスペランサは溜息をつきながらパイプ椅子に座り込む。

 

 

「はー。俺には分からん世界だ」

 

「仕方ないよ。ボクも箒の魅力はいまいちわからないから」

 

 

エスペランサの隣にやってきて座り込んだのは、センチュリオン内でも珍しいマグル生まれの隊員であるフナサカであった。

彼は日系の英国人で、親は電気電子系のエンジニアであったらしい。

本人も親の影響あってか、電子機器に詳しく、アマチュア無線の免許を持っていた。

無論、軍用無線を扱えるエスペランサの方が無線には精通していたが。

 

しかし、このフナサカという隊員の知識は侮れない。

C4の起爆装置の構造を瞬時に理解したり、不調だった無線機の修理をしたりと、かなり有能である。

現在も接触不良を起こした無線機の修理をしていた。

もっとも、魔法を使えば一瞬で直ってしまうので、ただの趣味なのだろうが………。

 

 

「で、フナサカ。例のものは出来そうか?」

 

「ああ。あれか。うん。出来そうだよ。魔法界には便利なものが沢山あるし、この部屋は何でも出してくれるからね」

 

「それなら良い。現状、この必要の部屋が出してくれる兵器では火力が不足しているからな。将来的にはもっと大規模な兵器も必要となる」

 

「なるほど。そのためのアレ………か」

 

 

フナサカが必要の部屋の隅に新たに作られた開発室をちらりと見る。

 

そこには必要の部屋が出してくれない強力な兵器の試作が幾つか置かれていた。

 

その中でも極秘中の極秘であるのがナパーム弾である。

エスペランサもフナサカも兵器開発に関しては素人だ。

必要の部屋がいくら様々な道具を出してくれるとはいえ、兵器の開発は一筋縄ではいかない。

 

必要の部屋が出してくれる兵器にも限度がある。

小火器なら何でも出てくるが、銃火器は重迫撃砲が関の山。

誘導弾の類も近距離のものしか出てこない。

 

これには理由があった。

 

どうも必要の部屋は1度に出せる物の重量に限度があるらしい。

故に巨大で強力な兵器は出てこないのだ。

 

数トンもする戦車や装甲車はどうやったって出てこないのである。

 

 

 

「ナパーム弾の開発が成功すれば吸魂鬼の撃退も可能になるかもしれんしな。いそがなくては」

 

「ナパーム弾で吸魂鬼が倒せるのかな?」

 

「吸魂鬼は呼吸をする。これは誰もが知ってることだ。呼吸をしていると言う事は連中は活動に酸素を必要としていると言う事だろう。それならば瞬間的に周囲の酸素を奪い、高熱を出すナパームは有効かもしれない」

 

「そう上手くいくかなぁ。あいつらに肺があるようには思えないけど」

 

「そうでなくともバジリスクの毒を含ませた銃弾を量産させるまでだ。今月はボージンからまた30発ほど送られてくる」

 

「月30発ペースの量産か。吸魂鬼を全滅させるためにはどうしたって足りないね」

 

「だからこそ別の手段が必要なんだ。そのためにはもっと吸魂鬼について知る必要がある」

 

 

サンプルとして吸魂鬼が1体でも手に入れば話は早いのだが、吸魂鬼を捕まえるのは至難の業だ。

だが、今のところ吸魂鬼に関する知識がセンチュリオンには不足している。

魔法界の書物にもあまり記述が無い吸魂鬼。

こうなればセンチュリオンが独自に研究をするしかない。

 

 

「おおおい!!!総員集合!箒の話をしてる場合じゃないぞ!」

 

 

エスペランサは大声でセンチュリオンの隊員を呼集する。

 

談笑していた隊員たちは必要の部屋の端に作られたブリーフィングルームに集合した。

全員が集合したことを確認して、エスペランサは話し始める。

 

 

「今後の予定について下達する。ボージンから新たな弾薬30発が数日後に届く。当日の当直は受領後に武器庫内の弾箱へ格納せよ。本日の当直は現状報告をしろ」

 

「オッケー」

 

ブリーフィングルームの端に置かれていた空の弾箱に座っていたセドリックが立ち上がる。

彼が本日の当直だった。

 

「武器弾薬の員数に異常は無し。人員も異常なしで体調異常者も無しだ。今週のイベントはクィディッチのグリフィンドール対レイブンクロー戦があることと、日曜日に銃整備が予定されているくらいだな」

 

「ありがとう。引き続き勤務してくれ」

 

セドリックは再び弾箱に座る。

 

「今年度の我々の目標である吸魂鬼の撃滅であるが、現状、我々は吸魂鬼の情報を知らな過ぎる。残念ながら吸魂鬼のスペックを書いた書物も魔法界には存在しない。故に調査が必要だ」

 

「はい」

 

「どうした?アンソニー」

 

「調査すると言っても奴らはもう城内に入ることが出来ない。ダンブルドアが禁じたからだ。それならどうやって調査するんだい?」

 

「その指摘はもっともだ。これを見てくれ」

 

 

エスペランサはキャスター付きのホワイトボードに地図を張り付けた。

ハリーの持つ忍びの地図を参考にして作成した即席のホグワーツの見取り図である。

 

 

「見ての通り。ホグワーツの地図だ。この赤線で囲われている地域が一般的に城内と言われているところだ」

 

 

地図には赤枠で囲った部分と青枠で囲った部分があり、ところどころに書き込みがある。

 

 

「ってことは青枠は城外なんだな。競技場も城外扱いなのか」

 

「そうだ。故に吸魂鬼は侵入可能だった。そして、基本的にこの赤枠の外周を吸魂鬼は巡回している」

 

「なるほど。禁じられた森や湖畔は城外だから吸魂鬼との接触も可能なのか。ということは吸魂鬼の調査は禁じられた森で?」

 

「まあ、そうだな」

 

 

エスペランサはマーカーを取り出してホワイトボードに幾つか文字を書き込む。

 

 

 

1 群れの最小単位

 

2 移動速度

 

3 フォーメーション

 

 

「我々が知らなくてはならないのはこの3つだ。何故だかわかるか?」

 

「吸魂鬼を1か所に誘導して殲滅する作戦を展開する際に必要な情報だからだ。違うか?」

 

「そう。流石はセオドールだ。この情報がないと吸魂鬼を倒す作戦が立案出来ない。加えて………」

 

 

エスペランサはもう1文付け加える。

 

 

4 吸魂鬼の拿捕

 

 

「こいつは困難だ。しかし、俺はこれを行いたい。フサナカ。例のものをここへ」

 

「了解」

 

 

フサナカは開発室からドロドロとした液体の入ったケースを持ってくる。

 

 

「フサナカ。説明してやってくれ」

 

「うん。これはナパーム弾の試作だ。必要の部屋にナフサとナパーム材を出してもらって、何とかゼリー状にしようとしてるんだけど、なかなかうまくいかなくてね。でも、完成したら戦力になる」

 

 

魔法界出身の隊員はナパーム弾という言葉がピンと来ない様であった。

 

 

「ナパーム弾ってのはどういった武器なんだ?手榴弾とかの類か?」

 

「いや。こいつは1000度以上の高温で広範囲を焼却する兵器だ。我々センチュリオンが保有するどの武器よりも強力だ」

 

 

エスペランサが捕捉する。

 

センチュリオンが保有する武器で最大の火力を持ったものは重迫撃砲か対戦車榴弾のLAMである。

それを凌駕する兵器となれば戦力は増すだろう。

隊員たちはどよめく。

 

 

「このナパーム弾が吸魂鬼に通用するかどうかを試したい」

 

「効くのか!?吸魂鬼に!?」

 

「確証はない。だが、吸魂鬼は呼吸をしている。呼吸をしていると言う事は酸素を奴らは動力にしているということだ。それなら、一瞬にして周辺の酸素を奪うナパーム弾などの兵器は有効である可能性が高い」

 

「インセンディオの呪文じゃダメなのか?悪霊の炎とか」

 

「インセンディオは火力が不足しているし、範囲が狭い。悪霊の炎は我々には扱えないだろう。他の榴弾などは物理攻撃には特化しているが吸魂鬼に物理攻撃は通用しない。ならば、広範囲の酸素を一瞬にして消費してしまうナパーム弾の方が有効だろう。倒せなくても良い。最悪、足止めだけでもしてくれれば………」

 

 

エスペランサもナパーム弾が吸魂鬼を倒せるかどうかはわからなかった。

しかし、バジリスクの毒を含ませた銃弾意外に物理攻撃が効かないとなれば残るはNBC攻撃くらいなものだ。

NBC兵器は城内で使用するにはリスクが高いし、吸魂鬼がペスト菌などにやられる光景は想像できない。

 

 

「何にせよ試す価値はあるんじゃないか?今までマグルの破壊兵器を吸魂鬼に試すなんてことをした魔法使いなんていなかったんだから。僕は賛成だ」

 

セオドールが言う。

 

「無論、実行する。ナパーム弾が完成したら作戦を立て、なんとかして吸魂鬼を1体でも拿捕する。そして、こいつにナパーム弾を試す」

 

 

吸魂鬼がナパーム弾の灼熱の炎に焼かれる光景。

思い浮かべただけでもゾッとする。

 

 

「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 

隊員たちにもう吸魂鬼を怖がる者はいなかった。

 

自分たちには武器がある

自分たちには知恵がある。

そしてなによりも仲間がいる。

 

その事実が彼らを強くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ハリーのファイアボルトはあっさり帰ってきた。

 

特に何の以上も無かったそうである。

エスペランサは絶対に何かしらの罠が仕掛けられていると思っていたので拍子抜けした。

 

何の不備も無いとなると、では一体、だれがプレゼントしてきたのだろう。

 

 

ハリーは上機嫌で、箒を談話室に持って来た。

 

「ほら、何もなかったでしょう」

 

にこやかにエスペランサとハーマイオニーに話しかけてくる彼を見て2人は何度ついたか分からない溜息をついた。

 

「そうだな。これでハリーがまた競技中に死にそうな目にあうのを見なくて済みそうだ」

 

エスペランサの一言に苦笑いしながらハーマイオニーは再びやりかけの数占いのレポート作成へ戻った。

 

「そんなにたくさん良く出来るね」

 

「そりゃあ、数占いは面白いもの。占い学とは全然違うの」

 

「へえ。僕には何が何だか」

 

 

ハリーはハーマイオニーと久々に口をきいたので話題を作ろうと必死だった。

 

とにかく、ハリーたちの仲違いは解消されそうだ。

そう思ってエスペランサはほっとする。

いつまでもこのギスギスした関係を継続させるのは精神衛生上よろしくなかった。

 

 

 

「あああああああああ!!!!」

 

 

 

ほっとしたのも束の間で、男子寮の方からロンの叫び声がした。

 

嫌な予感がするとエスペランサは思う。

そしてその予感は当たってしまった。

 

 

転げ落ちるように寮へ続く階段から走り出てきたロンは血のにじんだシーツを持っている。

 

 

その血が誰のものであるかは予想できた。

 

 

 

「スキャバーズが居なくなった!!!!そしてシーツには血が!」

 

 

ロンの顔は真っ青であり、そして真っ赤でもあった。

 

手はプルプルと震えている。

 

 

「ベットの横に何があったか分かるか?」

 

「……………いいえ」

 

「これだよ!」

 

 

ロンは手のひらを見せる。

 

そこには紛れもなくハーマイオニーのペットであるクルックシャンクスの毛がのせられていた。

 

 

 

 

 

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ロンとハーマイオニーの友情は最早これまでかと思われた。

 

エスペランサもハリーもクルックシャンクスはスキャバーズを食べてしまったに違いないと思った。

というかいつかそうなるだろうと思っていた。

 

ロンとハーマイオニーは互いに癇癪を起し、エスペランサは仲介をする気も無かったのでハリーを残してトンズラしている。

喧嘩の仲裁は管轄外だ。

そういった案件は国際司法裁判所にでも持って行ってくれと冗談を言ってとっとと逃げてしまう。

 

 

結局、2人はさらに関係を悪化させ、ついでに言えばハリーが少しロンの肩を持ってしまったので、また、ハーマイオニーが癇癪を起したらしい。

らしい、というのは一連の出来事を見ていたネビルに詳細を聞いたからである。

 

 

 

「てなわけで俺の友人の関係は脆くも崩れ去ったってわけだ」

 

「お前さんの愚痴なんて聞きたくもないんだがな」

 

 

2人の喧嘩から逃げてきたエスペランサは久しぶりにフィルチの事務室に来た。

 

そういえば、フィルチも猫を飼っているじゃないか、と彼は思った。

 

 

「猫ってのは本当にネズミを食べるのか?」

 

「食べる……ところは見たことないな。まあ、食べる奴もいるんだろう。わしのノリスはたまに殺したネズミを連れてくるぞ」

 

「じゃあ、その連れてきたネズミの中にロンのスキャバーズが混じっていたら教えてくれ。供養ぐらいしてやりたいからな」

 

「………そのウィーズリーのネズミ。確か10年も生きてるって話だったよな」

 

「そうらしい。兄さんのお古だそうなんだが」

 

「そいつはおかしいな。ネズミの寿命をとっくにオーバーしている。魔法動物は色々あるがネズミは魔法がかかっていても寿命は短い」

 

「じゃあ、スキャバーズは?」

 

「突然変異したのか、ネズミと思えて実は別種の動物なのか………」

 

「ひょっとしたら動物もどき(アニメーガス)だったりしてな。ははは。んなわけないか」

 

「さあな。10年もネズミの姿でいるもの好きな魔法使いなんているわけがないと思うがね」

 

「俺もそう思う」

 

 

その物好きが本当に存在するとエスペランサは後に知ることとなる。

 

 

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グリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの試合は快晴の元で行われた。

 

ロンとハーマイオニーはいまだに仲違いをしていたので、エスペランサはグリフィンドールの応援席を抜けてレイブンクローの応援席へ向かった。

だがしかし、クィディッチというのは人を変えてしまうもので、レイブンクローの応援席に居た生徒はグリフィンドールの生徒であるエスペランサを見つけるや否や、蹴るわ殴るわの暴行を加えてくる。

流石に苛立った彼は3人ほどノックアウトさせ、2人を医務室送りにして隣のスリザリン生の塊に向かった。

 

スリザリン生の塊の中にフローラやセオドールといったセンチュリオンの面々の集まりを見つけたので、そこへ入れてもらうことにする。

 

 

「センチュリオンの隊長の立場からするとハリーを応援するよりもチョウを応援したい気もするな」

 

スタンドに座りながらエスペランサはそう呟く。

 

「そうでしょうね。チョウは美人ですからね」

 

「あ?何怒ってんだ?」

 

「別に怒ってはいませんけど」

 

 

横に座るフローラは少し不機嫌になっている。

 

 

「そう言えばスリザリンの応援席にマルフォイとその腰巾着が見えないな。いつもなら最前列でブーイングしてるところなのに」

 

「ああ、あいつらならフリントと一緒にどっかに行ったぞ。何か悪だくみでもしてるんじゃないのか」

 

セオドールが言う。

 

「流石に競技の邪魔はしないと思うけど………」

 

セオドールの隣に座っていたダフネが会話に加わった。

 

「ハリーの試合はいつもなにかしら起きるからな。箒の暴走にブラッジャーの暴走に吸魂鬼」

 

「何か起きなかった試合の方が少ないんじゃないの?」

 

「そうだな。1回しかない」

 

 

生徒が夢中になるだけあってファイアボルトの性能は抜群だった。

 

他の選手の数倍のスピード。

それでいて旋回性能も優れているのだから文句の付け所が無い。

 

これではレイブンクローのシーカーに勝ち目はないだろう。

 

観客も試合よりファイアボルトの動きを注視しているようだ。

加えて、リージョーダンが試合の解説ではなくファイアボルトの解説をし始めたのだから始末に負えない。

 

 

『今回の見どころはグリフィンドールのポッター選手の乗るファイアボルトでしょう!ナショナルチームの公式箒にもなったそうで、この箒には自動ブレーキが………』

 

『ジョーダン!いつからあなたは箒のスポンサーになったのですか!?試合の解説をしなさい!!!』

 

『了解です。マクゴナガル先生』

 

 

試合はグリフィンドールが有利に進んでいく。

 

一応、寮への帰属意識が若干あったエスペランサは軽く嬉しさを覚えていたが、周囲がスリザリン生ばかりなので面には出さなかった。

 

 

「あっ!あそこ!!!!吸魂鬼だ!」

 

 

ダフネが突然、競技場の一角を指さす。

 

吸魂鬼の気配は一切感じていなかったが、見て見れば、確かに競技場の隅にフードを被った吸魂鬼らしき生物が4体ほどうごめいている。

 

 

「いつのまに!!!大丈夫かフローラ」

 

「ええ。私は大丈夫ですけど」

 

 

吸魂鬼の影響を受けやすいフローラの様子をうかがうエスペランサ。

フローラは顔色も良く、差ほどまだ影響を受けていないようだった。

 

しかし、それもいつまで保つか………。

 

 

「忌々しい連中だ。生徒に影響が出る前に倒す!」

 

 

エスペランサはそう言ってバジリスクの毒が入った弾薬と狙撃銃を取り出そうとしたが、持ってくるのを忘れたことに気が付いた。

 

手元には携行しやすい拳銃しかない。

 

もう競技場には吸魂鬼はでないと思っていたためだ。

 

吸魂鬼はスリザリンの応援席から100メートル以上離れた場所に居る。

拳銃の有効射程圏外だ。

というよりも、そもそも拳銃は効果が無い。

 

 

「俺が囮になって吸魂鬼を引き付ける。お前たちはダンブルドアを呼ぶか、必要の部屋からバジリスクの毒が入った弾薬を持ってこい!」

 

「え、いやでもあれ………」

 

 

ダフネが何か言おうとしていたが、それを聞く前にエスペランサはスタンドを飛びさした。

 

木製の階段を下りて、競技場の土台の上を駆け抜ける。

選手の待機室を抜け、競技場内に侵入。

すかさずホルスターから拳銃(M92F ベレッタ)を取り出して、スライドを引く。

弾倉から初弾が薬室に入ったのを確認し、再びスライドを元の位置に戻したエスペランサはスタンド沿いに吸魂鬼の元へ全力疾走した。

 

 

時を同じくして上空にいたハリーは吸魂鬼に向けて守護霊の呪文を放つ。

 

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

 

 

マルフォイとその腰巾着。

そして、スリザリンチームのキャプテンであるフリントは吸魂鬼のコスプレをしてハリーを動揺させようとしていた。

単なる嫌がらせである。

 

が、彼ら4人はまさかハリーが箒の上から守護霊の呪文を撃ってくるとは思わなかっただろうし、競技場の端から拳銃を構えたエスペランサが走ってくるとも思っていなかった。

 

 

「わああああああ!!!!」

 

「し…死ぬ!死んじゃう!!!」

 

 

マルフォイが死を覚悟するのは今年に入ってから2回目だった。

 

 

 

エスペランサが拳銃の引き金を引く数秒前に、ハリーの放った守護霊がマルフォイたち4人に直撃する。

守護霊の呪文は物理干渉が出来るものではない。

しかし、初見の人間がそれを見れば腰を抜かすだろう。

 

マルフォイやフリントは腰を抜かして倒れ込む。

 

この倒れ込みが彼らの命を救った。

 

 

ダンダンダンダン

 

 

エスペランサの撃った4発の銃弾はかろうじでマルフォイたちには当たらず、競技場の壁にめり込む。

 

あと少し、ハリーが守護霊の呪文を使うのが遅ければ9ミリ弾は容赦なく彼らの脳天を貫いていただろう。

 

 

 

「え?は?」

 

 

守護霊の呪文を食らって倒れ込んだ吸魂鬼の姿を見てエスペランサは銃を下ろす。

 

吸魂鬼が倒れ込むなんてことがあり得るのだろうか。

あんな滑稽に転ぶ吸魂鬼がいるのだろうか。

 

いや、そもそもあのフードは吸魂鬼のものじゃない。

 

 

エスペランサは倒れ込んだ吸魂鬼に近づいてフードを引っぺがした。

 

 

「あああ!?てめえ!マルフォイじゃねえか!」

 

「ひ、ひいいいい」

 

「危うくぶっ殺すところだったぞ。まあ、それでも良かったんだけどな」

 

 

拳銃を再びホルスターに戻し、エスペランサは転がるクラッブに蹴りを入れた。

 

「それにしても、ハリーの奴。いつのまにあんな呪文を使えるようになってたんだ?」

 

エスペランサは吸魂鬼について調べている。

故に守護霊の呪文の存在も知っていた。

 

その守護霊の呪文をハリーが使えるようになっていたとは………。

 

 

「こ……殺さないでくれ」

 

 

顔を真っ青にして命乞いをするマルフォイを見ながらエスペランサはハリーの成長を祝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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グリフィンドールが優勝に浮かれてどんちゃん騒ぎしている夜。

 

エスペランサは当直だったために必要の部屋の中で過ごした。

当直の仕事は単純に武器弾薬と必要の部屋の護衛である。

 

このことはエスペランサにとってもシリウス・ブラックにとっても幸運だったと言えよう。

 

もし、彼が当直ではなくいつも通り寮の寝室で寝ていたのならば、侵入してきたシリウス・ブラックと鉢合わせたに違いないからだ。

エスペランサは夜遅くまで起きているし、気まぐれに起きては談話室で喫煙をしている。

鉢合わせした可能性は高い。

 

ブラックは明け方ごろ、グリフィンドールの男子寮(それもロンのベット)を襲撃した。

ちなみにロンのベットはエスペランサのベットの隣である。

ロンは悲鳴を上げただけだったが、もし仮に起きたのがエスペランサであったら男子寮は血に染まっていただろう。

 

エスペランサは間違いなくブラックと戦闘を開始しただろうからだ。

 

 

 

「ウィーズリー!それはナンセンスな話です!ブラックがグリフィンドール寮に入り込むなんて」

 

「嘘じゃありません!僕は確かに見ました」

 

 

騒ぎを聞きつけたマクゴナガルがグリフィンドールの談話室に来ていた。

 

殆どの生徒が騒ぎを聞きつけて寝ぼけ眼のまま、談話室に降りて来ている。

ロンの話を信じている生徒はほぼ存在しない。

エスペランサはネビルが寝室に備え付けられた無線機でブラックが侵入したという話を報告してきたので必要の部屋から駆けつけてきていた。

 

気が利いた学生が暖炉に火を灯したために談話室は炎で照らされて明るい。

 

 

「そうだ!ガドガン卿に聞いてください!あの人なら寮にブラックが入ったことを知ってるはずだ」

 

ロンが寮の入口の方を指さして言う。

 

ガドガン卿というのは太ったレディの代わりに現在、グリフィンドールの寮の入口を守っている肖像画である。

偏屈な性格で1日に1回は合言葉を変えてしまう。

覚え物が苦手なネビルは合言葉を1週間分メモにして持ち歩いていたりした。

 

 

「どうなのですか?通したのですか?」

 

マクゴナガルが入口の肖像画に居たガドガン卿に尋ねる。

 

「通しましたぞ!」

 

甲冑を着込んでドヤ顔を決めるガドガン卿は胸を張って言い放った。

 

「通した!?」

 

「そうですとも。その男、合言葉を書いたメモを持っていたようだったですぞ!ほれ、そこに」

 

ガドガン卿は入口脇の床を指さした。

 

そこには1週間分の合言葉を記した単語帳のような物が落ちている。

マクゴナガルはそれを取り上げて、真っ赤な顔をしながら言った。

 

「誰ですか!合言葉を書き出してそこらへ放置していた愚か者は!」

 

 

間違えようがない。

そのメモはネビルの物だ。

 

集まっていた寮生の中からネビルは拳を握った手を宙に挙げて出てくる。

 

「そのメモ帳は僕のです。先生」

 

「ロングボトム!またあなたですか!!!」

 

 

しかし、ネビルは動じない。

ここ数週間の過酷な訓練を通じて、彼は精強になりつつあった。

 

 

「先生。確かにそのメモは僕の物です。でも、僕はこの寮に入る時にそのメモを使いました。つまり、僕はそのメモ帳をこの寮の中に持って入ったんです。もし、ブラックがそのメモを持っていたのならば、何者かが、それを寮外へ持ち出して渡した可能性があります」

 

「そんな言い訳が………」

 

マクゴナガルは言葉を途中でやめた。

 

ネビルは真っすぐにマクゴナガルの目を見ている。

その眼に嘘偽りはない。

 

ついこの間まで鈍くてオドオドしていたネビル・ロングボトムと同一人物とは思えない。

ぽっちゃりしていた顔は引き締まり、独特の雰囲気を漂わせている。

 

この雰囲気はエスペランサ・ルックウッドの持つものに似ている。

 

 

「先生。俺もネビルを信じます。ネビルがそのような初歩的なミスを起こすとは思い難い………」

 

「正気ですか?ルックウッド。ロングボトムが今までどれほどの忘れ物をしたと思っているのですか」

 

「それは以前のネビルです。今のネビルは不用意に機密情報を流出させたりしない。最近の授業でネビルがヘマをしたことがありますか?」

 

「それは………そうでしょうが」

 

ネビルはここ1か月、授業で失敗をしていなかった。

それどころか徐々に成績を伸ばしてきている。

 

「僕もネビルを支持します。ネビルの糾弾よりも今しなくてはならないのはブラックの捜索と教師間の情報共有でしょう。違いますか?」

 

「コーマック………」

 

エスペランサの後ろからコーマック・マクラーゲンが出てきて援護をした。

件の演習から彼はすっかりネビル新派である。

 

「ええ、そうでしょうとも。とりあえず、監督生の指揮のもと、あなたたちは寝室に戻りなさい。ロングボトムの処分は………保留とします」

 

明らかに動揺したようで、マクゴナガルはそそくさと寮を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

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普段あまり日の目を見ることのないロンは一躍有名人になって嬉しそうだった。

 

大広間でブラックと会った一連の流れを会う人全員に話している。

 

 

 

「目が覚めたら、カーテンが破られていたんだ。そして、奴が僕のベットの上に立っていた。こんなにでかいナイフを持って!僕は奴を見た。奴は僕を見た。そして僕は悲鳴を上げた」

 

 

まるで選挙演説のように話すロンを尻目にエスペランサは朝食を食べていた。

 

ブラックは城内に侵入してきた。

あれだけの警戒網を潜り抜けて。

 

吸魂鬼や魔法省の警戒網を潜り抜けてホグワーツに入り込む方法は限られている。

 

秘密の抜け道は不可能だ。

ホグズミードを経由する必要があり、吸魂鬼に見つかる。

 

禁じられた森を抜けて城内に侵入する時も吸魂鬼に見つかるだろう。

 

煙突飛行ネットワークも姿現しもホグワーツでは許可なしに使用できない。

 

 

侵入経路が不明では対策の立てようも無い。

とりあえず、センチュリオンの隊員は常にツーマンセル以上での行動を義務とし、拳銃の携行を許可させるべきかエスペランサは悩んでいた。

 

 

演説最中のロンを置き去りにして、エスペランサは必要の部屋に向かう。

 

 

ブラックはアズカバンを脱獄した実力の持ち主とは言え、逃亡中の身。

おまけに武装はナイフ一本である。

ナイフを片手にロンを襲い、ロンの悲鳴だけで逃亡したとなれば杖を携行していたとは言い難い。

 

ならば脅威にはならないだろう。

 

ナイフ一本の武装をした魔法使いであれば銃が無くても格闘戦だけで倒すことが出来る。

 

ハリーの持つ忍びの地図を駆使して居場所を特定すれば即座に、制圧できるだろう。

ならば、今は吸魂鬼の殲滅方法を模索する方が優先だ。

そうエスペランサは考えた。

 

 

必要の部屋につくと、すでにフナサカが開発室に居た。

 

顔中を油で汚した彼はニコニコしながらエスペランサに話しかけてくる。

フナサカは人懐っこい性格である。

 

 

「丁度良かった。ナパーム弾の試作が出来たところだったんだ。今朝、ゼリー状にすることに成功してね」

 

「やけに早いな」

 

「まあ、魔法を使ったからね。魔法が無かったらナパーム弾なんて作ることは出来なかったよ」

 

フナサカは杖を振りながら言う。

魔法でナフサとナパーム材を添加してゼリー状にしたらしい。

 

プラスチック製の机の上にはドロドロとした液体の入ったケースが置かれている。

 

「あとはこいつを焼夷弾にするだけだよ。まあ、火炎瓶を作るのとそう変わりは無いと思うんだけど……」

 

「いや、よくやってくれた。まさか、こんなにも早く完成するとは思わなかったからな」

 

「まだ、完成とは言えないよ。実験もしてないし、実用化には程遠いかな」

 

「ナパーム弾は大量の酸素を消費する。近くに居るだけでも一酸化炭素中毒になるし、身体に着火したら消化が困難だ。実験といっても必要の部屋の敷地内でやるのは難しいだろう」

 

「かといって学校の敷地内では爆破させられないし、禁じられた森で使ったら山火事どころじゃないね」

 

「爆破地点の周りに隊員を配置して、盾の呪文で爆発自体を囲ってしまえば何とかなるか………」

 

「そんなことできるの?」

 

「前例はある」

 

 

エスペランサは1学年の時にC4の爆発を盾の呪文で防いでいる。

 

もっとも、C4とナパームでは威力が違い過ぎるが………。

 

 

「ぶっつけ本番で使って、作動不良を起こしたんじゃ目も当てられないからね。それで、吸魂鬼の拿捕作戦はいつするんだい?」

 

「まだ隊員たちの練度的に作戦を立案しても遂行できそうにないからな。すぐにはやらない」

 

 

センチュリオンの隊員は毎日の訓練と座学のおかげか、凄まじい勢いで成長している。

それは必要の部屋という完璧な訓練環境と、魔法のアシストがあったためだ。

 

無限に弾薬が供給され、何発撃っても大丈夫な訓練場など世界中探してもここくらいなものだ。

 

また、必要の部屋は欲しいと思ったものをすぐに提供してくれる。

 

さらに、センチュリオンの隊員たちはホグワーツでも優秀な人材を集めた集団だ。

教えたことはすぐ飲み込むし、努力を怠らない。

 

自主的にトレーニングする隊員や射撃訓練をする隊員も多い。

 

休日、重い荷物を背負ったまま走る隊員の姿が城内でもたびたび目撃されていた。

この調子なら吸魂鬼の拿捕も夢ではない。

エスペランサは確信している。

 

 

 

 

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緊急職員会議が開かれた。

 

主要な教師と管理人のフィルチ、医務室のポンフリーによる「対ブラック対策」の会議である。

リーマス・ルーピンは体調不良で欠席した。

 

 

 

職員室に職員が揃ったのを見て、ダンブルドアが司会を始めた。

 

 

「そろったようじゃの。ではミネルバ。状況を説明してもらえんか?」

 

ダンブルドアの言葉を聞いて、マクゴナガルが前に出てくる。

他の教師は神妙な顔で彼女の話を聞いていた。

 

 

「今朝のことです。ウィーズリーが目を覚ますとナイフを持ったブラックが男子寮に侵入していたと………。幸いにもけが人はいませんでしたし、ポッターにも危害はありませんでしたわ」

 

「狙われたのはウィーズリーなのか。ハリー・ポッターではなく?」

 

呪文学の教授であるフリット・ウィックが甲高い声で言う。

 

「そのようです。ベットを間違えたのかもしれませんが、ブラックはウィーズリーを襲ったとのことです」

 

「しかし、ブラックはどうやって城内へ?いや、どうやって寮に侵入したんでしょうか?」

 

「どうやら合言葉を知っていたみたいです。寮の入口にこれが落ちていたのですが………」

 

マクゴナガルは職員室の中心に置かれた木製の巨大な机の上に回収したメモを置く。

ネビルが1週間の合言葉を記していたメモ帳だ。

 

「これは?」

 

スネイプが怪訝そうに尋ねた。

 

「ロングボトムが持っていた合言葉の記されたメモですわ。ブラックはそれに書いてある合言葉を使ってどうどうと寮に侵入したそうです。城内への侵入経路は不明ですが」

 

「寮を守る肖像画は何の疑いも無く通してしまったのか………」

 

「ガドガン卿は即刻首にしました。今後は太ったレディと警護のトロールをつける予定ですけど………」

 

はぁ、とマクゴナガルは溜息をつく。

 

「ブラックが外部から侵入してきたと聞いて、場外への抜け道は全て捜索しましたが、ブラックはいませんでしたぞ。奴は既に外へ逃げたと思いますな」

 

フィルチが言う。

 

「しかし、まあ、ロングボトムはやらかしてくれましたな。合言葉を記したものを放置するなど言語道断。吾輩の寮の生徒がそのようなことを行なったら厳しい処分を行いますが?」

 

「勿論。私も処分を考えました。ですが………」

 

嫌味たっぷりのスネイプにマクゴナガルが今朝、エスペランサやコーマックがネビルを庇ったことと、ネビルが自分の過失を認めなかった経緯を話した。

 

この話にはスネイプだけでなくダンブルドアや他の職員も驚いた。

唯一、フィルチだけはエスペランサの行なっていることを知っていたので特に驚きもしなかったが。

 

 

「すると、ロングボトムは自分はメモを放置していないと言い張るわけですな。にわかには信じられない話ですが」

 

「私も驚きです。彼は私の薬草学では優秀な成績で欠点が見当たりませんが、普段の生活では忘れ物も多く、決して………」

 

「ええ。私もそう思います。しかし、ここ1か月。ロングボトムが何かを失敗したという話は聞いていないのも事実。まるで別人になったみたいですよ」

 

 

ふむ……とスネイプは考える。

 

魔法薬学の授業ではここ2年間、ネビルを目の敵にしてきた彼であったが、ここ最近は1回も叱責していなかった。

1か月ほど前からネビルは魔法薬の分量を間違えたり、鍋の中に誤って別の材料を投入したりすることは無くなっている。

それに、今まではスネイプを恐れてビクビクしていたのだが………

 

 

 

 

 

 

※回想

 

 

 

 

「ロングボトム。今日の授業でこの間のように鍋を溶かしたらグリフィンドールから20点減点する」

 

「………………」

 

「聞こえているのか?ロングボトム?」

 

「……………聞こえています。先生」

 

「ふん。なら良い。ただし、グレンジャーの助言は認めん。お前ひとりの力で調合するのだ」

 

「先生。嫌味なら後にしてください」

 

「なに?」

 

「今、ニガヨモギの千切りをしている最中です。刃物を使用しています。集中力が途切れると危険です。出来れば話しかけるのを遠慮して頂きたい」

 

「…………!?」

 

 

 

 

 

※回想終わり

 

 

 

 

ネビルは魔法薬学でスネイプに堂々と意見をしてきた。

 

まるで別人。

この1か月で彼の身に何があったのか。

 

スネイプは謎で仕方なかった。

 

しかし、一つだけ分かることがある。

ネビルに影響を与えたのはエスペランサ・ルックウッドだ。

 

そして、エスペランサの影響を受けているのはネビルだけではない。

 

何故かエスペランサと良くつるんでいるスリザリン生のセオドール・ノットとフローラ・カロー。

これらの学生は元々、スリザリンの中でも異端だった。

だが、魔法薬学の席でセオドールたちとエスペランサが良く話しているのをスネイプは目撃している。

 

セオドールがグリフィンドール生に気を許しているのを見るのは天変地異に等しかった。

他人と接点を持ちたがらないフローラがエスペランサと話をしている姿は夢でも見ているかのようだった。

 

スリザリンの生徒だけではない。

 

ここ数週間。

寮の隔てを越えて、奇妙な関係が特定の学生間で生まれつつある。

スネイプだけでなく他の教師も気づいているだろう。

 

ハッフルパフの生徒とレイブンクローの生徒が休日に湖畔をランニングしていた。

図書館で数人の生徒が勉強会をしていたが、彼らの机に置かれていたのは「戦争論」であった。

放課後に少なくない数の生徒がコソコソとどこかへ出かけていく。

筋トレをはじめた生徒が増えた。

 

 

「ここ最近、生徒の間で奇妙な動きがみられます」

 

「スネイプ先生も気づいておられましたか。私もですよ」

 

フリットウィックが言う。

 

「何か今までは寮と寮で仲良くすると言う事があまり見られなかったんですがね。最近は違うようですな」

 

「仲良く、ですか。吾輩には何者かが派閥を作っているように思えて仕方ない」

 

「派閥ですか」

 

「ノット、カロー、グリーングラス。吾輩の寮の生徒ではここらへんの学生が怪しい動きを見せている。それにルックウッド、ロングボトム。この間、中庭でマグルの器具を使ってトレーニングをしていたディゴリーやマクミランもそうでしょうな」

 

「何かクラブでも作ったのでしょうか。ほら、スラグ・クラブのような」

 

「そんな生易しいものではないでしょう。恐らく、この派閥の中心にはルックウッドがいる。これらの生徒は皆、ルックウッドと同じような雰囲気を帯びてきている。吾輩は危険に思います」

 

 

かつてヴォルデモートも派閥を学生時代に作り上げた。

それが死喰い人となったわけだが、エスペランサも同じことを考えるかもしれない。

 

スネイプはそれを懸念していた。

 

 

「何事も疑わしきは罰せずじゃろう。ネビルもエスペランサもじゃ。彼らは癖はあっても正義感を持った善良な生徒じゃよ」

 

ダンブルドアが口を挟む。

 

「とりあえず、ネビルの処罰は無しじゃ。ミネルバよ。それと、エスペランサが何か組織を作っていたとしたらその情報をわしの耳に入れてほしいのう。で、ブラックじゃが、これは魔法省と連携して警備を厳しくする予定じゃ。もちろん、吸魂鬼は抜きにしてのう」

 

ダンブルドアに意見する教職員はいない。

スネイプもそれ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

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翌週になるとブラック騒ぎは沈静化していた。

 

いつの間にかロンとハーマイオニーは仲直りしていたり、ハグリッドが敗訴していたりと情勢は目まぐるしく変わっている。

ハグリッドは敗訴したものの、教職員の職を解かれることは無かったようだが、彼のヒッポグリフは処刑されることが決定した。

ロンたちは控訴することを勧めたが、ハグリッドは首を縦に振らなかったそうだ。

裁判官はやはりルシウス・マルフォイに圧力をかけられ、出来レースと化している。

控訴したところで結果は変わらないのだそうだ。

 

ハグリッドは処刑までの期間、ヒッポグリフのバックビークに自由な時間を楽しんでほしいと涙ながらに語ったらしい。

 

ハーマイオニーは健気なことに一人でハグリッドの裁判を手伝っていたらしく、それを知ったロンは改心したようであった。

ハーマイオニーもスキャバーズの件を謝罪し、仲違いは一件落着した。

 

余談だがハリーの所有する忍びの地図はルーピンに没収されたらしい。

 

 

 

 

エスペランサはセンチュリオンの隊員5名を引き連れて吸魂鬼拿捕作戦の展開出来そうな場所を探すため、また、周辺の地形を把握するために授業が終わった後、禁じられた森の外周へ向かっていた。

城外と城内の区切りはあいまいである。

ハグリッドの小屋は城外扱い。

禁じられた森も城外扱い。

多くの生徒がくつろぐ湖の湖畔は城内扱い。

森と城の間の草原は真ん中くらいから城外扱い(暴れ柳が境目である)。

クィディッチ競技場は城外扱いであったが、吸魂鬼侵入事件の後で城内に区分されることになったらしい。

これらは吸魂鬼が侵入できるかできないかで判断することが出来る。

ちなみに、ハグリッドの小屋や湖畔などは城外扱いではあるが、姿くらましは不可能だそうである。

故に、作戦行動時に使用する電子機器は例によって「電子機器を狂わせる魔法から守る魔法」を施す必要があった。

 

吸魂鬼拿捕作戦は城外と区分されている区画で行うが、危険になったらすぐに吸魂鬼の侵入できない城内へ退避できるような場所で行う必要がある。

だが、作戦の展開を教職員や一般生徒に見られるわけにはいかない。

銃声も聞かれるわけにはいかない。

先日の野外戦闘訓練は禁じられた森の割と奥深い場所で実施したため、射撃音を生徒に聞かれることはなかったが、今回は難しいだろう。

 

城内から離れた場所で作戦を行うのは危険すぎる。

城内というある種のシェルター付近で作戦を実施し、隊員の安全を確保したいところだ。

 

そこで、エスペランサは城内と区分されている区画の外周を見て回り、作戦実施が可能な場所があるかを確かめようと思ったのである。

 

 

 

「作戦を行うといっても教師や他の生徒にバレずにやるってのは難しいね。城の外周は寮からも見えてしまうし、銃声も絶対に聞かれてしまう」

 

「銃声はサイレンサーで何とかなるにしても、19人が完全武装して吸魂鬼と戦う姿何て隠し通せるもんじゃない」

 

エスペランサの横でセドリックとマクミランが話す。

セドリック率いる遊撃部隊は今回の作戦の要である。

 

 

「銃声はセオドールが今、何とかなるように呪文を探している。それからマグル除け呪文を応用させて教職員や生徒から作戦実行時の我々の姿を隠すことが出来ないかフローラが模索中だ」

 

「そいつが出来れば今後の訓練にも役立てるな。わざわざ森の奥まで行かなくても城の近くで出来る」

 

 

コーマックが言う。

あの訓練以来、コーマックはすっかり改心したようで、センチュリオンの参謀的ポジションとなっていた。

いまだにスタンドプレーが目立つことが偶にあるが………。

 

 

「お、あれってエスペランサの仲間たちじゃない?」

 

セドリックの後ろを歩いていたチョウがハグリッドの小屋の方を指さした。

 

見ればハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が歩いている。

魔法生物飼育学の授業の帰りだろうか。

 

そして、彼ら3人の歩く先にはマルフォイとその腰巾着2人がニヤニヤしながら立ちふさがっていた。

 

 

「なんか首を突っ込んだら厄介そうだ。迂回するか?」

 

「時間が惜しい。突っ切る。それに、俺はマルフォイに無性に腹が立っているからな。向こうが喧嘩を売ってきたら一発ぐらい殴ってやろうと思ってたところだ」

 

 

エスペランサはいつになく好戦的であった。

 

マルフォイの父親が裁判官に圧力をかけたという話を聞いて腹を立てていたのもあるが、今朝、ピーブスの糞爆弾の絨毯爆撃の被害を被った苛立ちが主な原因だった。

最近、アンガーコントロールが出来なくなってきているのはカルシウムが不足しているからだろうか。

それとも、しばらく戦闘をしていないからガス抜きが出来ていない為だろうか。

 

彼はまだ自分の本質が戦闘狂であることに気付いていなかった。

 

 

「見たかあの泣きっ面!あれで教師だというんだから笑わせてくれるね。僕の父上にかかればあんな獣の1匹、簡単に処刑できてしまうんだ」

 

マルフォイの言葉にクラッブとゴイルは笑う。

笑うというかブーブーと唸っただけに聞こえたが。

 

 

「恥を知りなさい!マルフォイ!」

 

それを聞いてハーマイオニーが怒る。

ハリーとロンも血がにじむくらいこぶしを握り締めていた。

 

 

「フン。でも残念だ。あのウスノロをアズカバンにまた送れると思ったんだけどねえ」

 

「そうだな。それで、マルフォイ。お前は余程、地獄に送ってほしいと見える」

 

マルフォイが驚いて振り返った。

 

マルフォイの後ろにエスペランサとセドリック、チョウ、コーマック、マクミラン、フナサカが立っている。

これにはマルフォイだけでなくハーマイオニーたちも驚いていた。

面子が奇妙な構成過ぎる。

この6人に何の関連性があるのだろうか。

 

「何だお前たちは。お前たちもあのウスノロ教師を慰めに来たのか?」

 

マルフォイはそう言いながらクラッブとゴイルに目配せをした。

 

多勢に無勢だ。

腰巾着に守ってもらわなくては勝機は無いと思ったらしい。

 

ことあるごとにハリーたちにちょっかいを出すマルフォイであったが、エスペランサにはあまり手出しをしていなかった。

吸魂鬼から助けられた過去もあり、深層心理では悪くない印象を持っていたからでもある。

強さに惹かれるスリザリン生の中には隠れキリシタン的にエスペランサ派の人間が少なからず存在した。

 

そんなこと知ったことではないクラッブがエスペランサに詰め寄る。

 

 

「おい、クラッブ!」

 

 

クラッブは朝食で出たチキンを寝坊したせいで食べそこなったために機嫌が悪かった。

 

マルフォイが止める前に、クラッブは行動を起こしてしまう。

 

 

振りかざされる拳。

図体だけはデカいクラッブの繰り出す右ストレートは食らえばひとたまりもないだろう。

 

ハリーはクラッブの右ストレートが従兄弟のダドリーと同程度の威力を持つことを瞬時に見極める。

そう言えば、マルフォイの腰巾着が実際に暴力を振るうところを見るのは皆初めてであったことに気付く。

 

 

エスペランサはつまらなそうにクラッブの拳を見ていた。

 

かつて中東で敵武装勢力と格闘戦になったことが何度かある。

当時のエスペランサは10歳という異例の年齢であった。

彼が実戦に投入された理由は単純だ。

敵はまさか10歳の子供が特殊部隊員だとは思わない。

故に、油断する。

エスペランサは年齢を武器にして敵地に何度も潜入しては任務を遂行してきた(EX01参照)。

その過程で何度、近接戦闘をしたかわからない。

 

自分よりも遥かに大きい人間相手に格闘戦を仕掛けて勝つ。

その経験をしてきたエスペランサにとってクラッブのパンチは脅威ですらなかった。

 

 

軽々とパンチをかわし、クラッブの足に自分の足を引っかける。

勢い余ってクラッブは転倒した。

 

 

「うおっ」

 

 

ドサッ

 

 

その隙を見逃さなかったのは他のセンチュリオンの隊員である。

 

5人が全員、ローブの内側に隠したホルスターから拳銃を取り出す。

即座に安全装置を外した彼らは拳銃の銃口を倒れ込んだクラッブに向けた。

 

もちろん実弾は入っていない。

入っているのはゴム弾だけだ。

 

エスペランサはブラック対策で隊員全員に拳銃の携行を認めていたが、新米の隊員に実弾を持たせるのは危険と判断してゴム弾の携行のみを許可している。

心理的安全装置を使用可能なエスペランサのみ、実弾の携行をしていたが城内では極力、ゴム弾の使用をこころがけていた。

 

 

「な、や、やめて………」

 

 

同時に5つの銃口を突きつけられたクラッブは顔を青くする。

 

これにはマルフォイもハリーたちも驚いた。

まさか、拳銃をエスペランサ以外も持っているとは思わなかったためだ。

 

マルフォイたち3人も拳銃の威力は知っている。

魔法よりも遥かに恐ろしい殺傷能力。

 

 

「銃を下ろせ。城内での無暗な発砲は控えろ」

 

「了解」

 

 

エスペランサの指示で全員、銃口を下げた。

 

 

「お、お前たち。そんなものを持って、父上に、先生に言いつけてやる」

 

「やれるものならやってみろ。銃の携行は規則で禁じられていない。ついでに発砲もな。フィルチさんに聞けばわかるが」

 

「なっ!?」

 

「それに父上とやらを使っても無駄だ。我々の戦力はお前の父上のそれを凌駕している。一方的な戦いになるぞ」

 

「くそっ!い、行くぞお前たち!!!!」

 

 

マルフォイは腰を抜かしたクラッブをゴイルと引きずりながら城内へ逃げ帰っていった。

 

残されたハリーたちはポカンとしている。

セドリックやチョウたちが拳銃を所持していたこともそうだが、彼らのまるで軍隊のような動きに驚愕していたのだ。

 

 

「エスペランサ………君たちは、いったい????」

 

「ん?ああ、えーと。ほら、ブラックが出現して最近物騒だろ?意識高いこいつらは俺に銃をくれって言ってきたんだ。それで譲渡したってわけだ。なあ」

 

 

ウンウン、とセドリック達は頷く。

 

隊長が襲われて咄嗟に銃を出してしまったのは不覚だったと全員が思っていた。

 

 

「ほら、ゴブストーンクラブとか呪文クラブとかと同じで俺らもクラブ活動みたいな感じで始めたんだよ。だけど他の生徒や教師には黙っておいてくれよ?活動を止められてしまう」

 

「………………」

 

 

嘘だ。

 

ハーマイオニーは思った。

 

 

エスペランサはクラブ活動などという生易しいものではない何かをしている。

最近、あまり談話室で見なくなったのも、他寮の生徒と仲良くしているのも恐らくその何かのせいだ。

 

吸魂鬼が1体消滅した噂。

ネビルの変化。

 

全て、エスペランサを中心とした新たな派閥が原因となっている。

 

 

これらを教師に密告すべきか否か。

 

恐らくマルフォイは密告しない。

彼はプライドが高く、エスペランサに屈したという事実を公にはしたくないだろうし、エスペランサは教師陣を恐れていない。

教師に密告しても無駄だろう。

何よりエスペランサの謎の派閥はスリザリンの中にも及んでいる。

 

 

「ええ。もちろん、黙っておくわ。どうせあなたは言っても聞かないだろうし」

 

「感謝する」

 

「でも、次に城内でその危ないものを出したら先生に報告するから」

 

「あ、ああ。善処する」

 

 

 

エスペランサ達一行は冷や汗をかきながら城外の偵察に向かった。

 

 

この後、一連の出来事を知ったフローラやセオドールにエスペランサはみっちり説教を受けることになった。

無暗にセンチュリオンの活動を露見させないように、と言ったのはエスペランサであるのに、その本人がそれを破るとは何事か、と彼らは怒り心頭である。

 

 

 

 

 

 




映画を見ると吸魂鬼って暴れ柳の近くまでは入って来てるんですよね。
城内城外の区分が良く分からなかったので勝手に設定しました。
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