ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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かなり多忙で更新が遅れました!
非常に申し訳ないです!!!!


case39 Operation SF 〜オペレーション・Seizure・Fire〜

吸魂鬼拿捕作戦はクィディッチ決勝戦の当日に行う事が決定した。

 

クィディッチ決勝戦にはほぼ全ての学生と教職員が観戦に行く。

つまるところ競技場以外の場所から人が居なくなるわけだ。

 

これは好都合。

 

しかし、万が一にも拿捕作戦をセンチュリオン隊員以外に目撃される事を防ぐために、作戦区域は競技場とは正反対の場所で行う。

また、銃声や爆発音などを聞かれないようにするために「耳塞ぎ」の呪文を作戦区域全体にかけることも決まった。

 

「耳塞ぎ」の呪文は魔法省に登録されていない非公式の魔法である。

 

約30年前にホグワーツで流行したこの魔法は現在ではその存在すら周知されていない。

呪文は「マフリアート・耳塞ぎ」。

この呪文を唱えると、近くにいる人に謎の雑音を聞かせ、術の行使者たちの会話を聞こえなくさせる効果がある。

応用させれば、銃声も爆発音も聞こえなくさせることが可能だった。

 

セオドールやフローラの努力によって発見された耳塞ぎの魔法は今作戦の要と言っても過言ではない。

 

 

 

拿捕作戦当日。

 

センチュリオンの隊員は全員、必要の部屋に集まった。

時刻は0700。

学生が起床し、食堂で朝食をとる時間である。

 

 

 

今回の作戦における部隊編成は変則的になった。

 

実働部隊はセオドール率いる第2分隊に第1分隊の隊員若干名を加えた混成部隊。

セドリック以下3名による遊撃部隊。

エスペランサと後方支援要員数名から成る作戦本部。

この3つの部隊に分かれて作戦は実施される。

 

作戦名は「オペレーション・SF」。

SはSeizure。

FはFire。

拿捕と業火の意味を持つ。

 

作戦目的は本来一つに絞るべきであるが、このような作戦を2度も行うのはリスクが高い。

故に同時に2つの目標を達成するような作戦を立案する必要があった。

 

 

実働部隊の戦闘員は必要の部屋の武器庫から小火器と弾薬を取り出し、弾倉に弾を込める作業を完了させた。

その間、後方支援要員は通信機材や測定機材、本部設営に必要な物資の点検を行う。

遊撃部隊の3名は箒置き場から箒を持ち出してきた。

 

セドリックとコーマックの箒は魔法界でも信頼性の高い「クリーン・スイーブ7号」であるが、チョウの「コメット260」は速度が遅いため別の生徒から他2名の者と同様の箒を借りる事になっている。

 

 

全隊員が準備を終え、ブリーフィングルームへ入室したのを確認したエスペランサは早速、作戦内容の説明に入った。

 

 

 

「いよいよ作戦実施の日が来た。皆、十分に朝食は食べたか?」

 

エスペランサは隊員たちの顔色を見ながら言う。

殆どの隊員が表情を硬くし、顔を青くさせている。

 

朝食をまともに食べる事ができた隊員は半分もいないだろう。

 

パイプ椅子に座ったまま足を震わせている者もいる。

 

 

「緊張するのは分かる。相手はあの吸魂鬼だ。一歩間違えれば命を落とす可能性もある」

 

 

最前列の隊員がその言葉を聞いて唾をごくりと飲み込んだ。

 

 

「俺も最初に実戦に参加したときは緊張した。今回は相手が吸魂鬼だが、俺のときは人間だったからな。今でも最初に人を撃った時の感覚は覚えているし、昨日まで一緒に生活した仲間が血しぶきを上げて死んでいったのも覚えている」

 

 

エスペランサは無意識に自分の右手を見た。

興奮して我を忘れて無我夢中に撃った弾丸のひとつが敵の眉間に命中した時の光景は目の裏に焼きついて離れない。

 

 

「俺も緊張はしている。何せ吸魂鬼を相手に戦うなんて前代未聞だ。バジリスクやらアクロマンチュラやらトロールやらとはわけが違う」

 

「アクロマンチュラと戦った事があるのか?」

 

 

隅に座っていたセオドールが聞く。

 

 

「ああ。2年の時に。ハグリッドにそそのかされて禁じられた森に入ったら襲われた。あ、安心しろ。群れごと爆薬で吹き飛ばしておいたから」

 

「群れごと吹き飛ばしたって………無茶苦茶だ」

 

「ちなみにそのアクロマンチュラはハグリッドの友達だったらしい。俺が爆殺してなければ今年のハグリッドの授業にはヒッポグリフじゃなくてアクロマンチュラが登場してたかもしれん」

 

「そいつは良いね。アクロマンチュラ相手だったらマルフォイも挑発なんてしなかっただろうし」

 

 

ネビルが言った冗談に隊員たちは笑う。

 

彼の冗談で隊員たちの緊張は和らいだ。

作戦前は少しでも隊員たちの気を紛らわすことが大切だが、まさかその役割をネビルが行うとはエスペランサは思っていなかった。

 

 

 

「冗談はさておき、今回の作戦を説明する。本作戦は俺とセオドールで立案した。作戦名はオペレーションSF。拿捕と業火。すなわち、吸魂鬼の拿捕と焼却が作戦目標だ」

 

エスペランサは部屋の前に置かれたホワイトボードにホグワーツの地図と、部隊を表すマグネットを設置した。

 

 

「まあ、今週いっぱい使って模擬作戦をずっとやってきたから、皆、作戦の概要は熟知していると思うが。まず、遊撃部隊が吸魂鬼の1グループを誘い出し、キルポイントへ誘導する。この間に支援要員は吸魂鬼のデータを収集」

 

 

ホワイトボードに貼り付けられた地図の上のマグネットを動かしながら説明する。

円形の色のついたマグネットには「CP」「obj」「PT」などとマジックペンで書かれている。

 

 

「吸魂鬼が何体食いついてくるかは不明だが、実働部隊は不測の事態に備えてポイズンバレットを携行。遊撃部隊の援護にあたれ」

 

ポイズンバレットはバジリスクの毒を含んだ7.62×51mmNATO弾のことである。

隊員が所持する小火器は5.56ミリ弾を使用するM933コマンドであるが、本作戦では吸魂鬼を相手にする関係上、無用の長物となる。

作戦上、通常弾とM933も使用はするがメインウエポンはポイズンバレットを装填可能なM24SWS狙撃銃となった。

 

 

「キルポイント付近まで誘導したならば遊撃部隊は速やかに安全地帯へ退避。その後、手筈通りに実働部隊はナパームを起爆させろ。この作戦は全部隊の連携と迅速な移動が肝だ。ミスは許されない」

 

「「「 ……………… 」」」

 

「事後、武器弾薬その他機材を“レデュシオ”の魔法にて縮小。鞄に収め、作戦開始地点まで移動する」

 

 

エスペランサの号令で隊員たちは再び、作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「予備弾薬1200発。本部設営資材、無線機、バッテリー用の発電機と燃料。全て移動完了。といっても鞄一つで移動できましたけど」

 

作戦本部設営予定地であるホグワーツ城の天文台で双眼鏡を構えるエスペランサの横にフローラが来て言う。

 

時刻は0930。

隊員たちは1時間以上に渡る機材の最終確認とブリーフィングを終えて、必要の部屋から各々の待機場所へ移動を完了させていた。

 

魔法というのは便利なもので、「縮小呪文」と「拡大呪文」というものがある。

簡単に言えば物体のサイズを変化させる事の出来る呪文であり、これによって本来ならトラックやジープで運搬する必要がある武器弾薬等の物資を鞄一つで運搬する事ができた。

 

「了解した。鞄から物資を出して、本部の設営を開始。本部の設置が完了したらフナサカに無線機をオープンにするように命じてくれ」

 

「分かりました。作戦開始まで30分。時間がありませんね」

 

「ああ。マフリアートの呪文は作戦区画全域に効いているか確認できたか?」

 

「はい。作戦地域であるAからD地区まで全域、魔法がかかっているとのことです」

 

「それなら良い。引き続き作業を続けてくれ」

 

 

今回の作戦で使用する区画はホグワーツ城の正門を東に見た場合の西側、つまり城の裏側である。

城の裏側は城と森の間にかなり広めの草原が存在する他、件の「暴れ柳」が植えられていたりする。

 

クイディッチ競技場やハグリッドの小屋からは死角になる上に、天文台からは見渡す事が出来る。

 

エスペランサは作戦地域全体を見渡す事のできる天文台(普段はここで天文学の授業を行う)に作戦本部を置いた。

作戦状況を常に把握する事が出来る他、実働部隊の援護も可能な天文台は指揮所として文句のつけようがない。

 

天文台に設置される指揮所で待機する隊員はエスペランサ含めて5名。

衛生担当でもあるフローラと通信機に精通したフナサカ。

実働部隊を援護する為の狙撃手であるネビル。

セオドールの代わりにエスペランサを補佐し、作戦を進める幕僚の役割を果たすアンソニー。

 

アンソニーとフナサカは縮小呪文で小さくなっていた天幕と長机、無線機と発電機を「拡大」させ、天文台に設置している。

天文台は屋根がない櫓のような構造をしていて、中世の戦争で投石器を設置するような場所である。

円形の塔の屋上に存在するため、360度見渡す事ができた。

塔自体、高さが20メートル以上ある事に加えて、ホグワーツ城が丘の上に存在する事から禁じられた森を見下ろすような形になっている。

 

広さはそれ程無いため、天幕をひとつ立てるだけで精一杯であった。

 

指揮所として使われる天幕の中に長机を置き、その上に無線機一式を設置。

アンテナを天幕の外に伸ばす。

 

 

「無線機は使えそうか?」

 

「あとは発電機に繋げるだけだ。充電器と変電器の調子は良いし、問題なく使えそう」

 

他の部隊と連携する為には無線機は必要不可欠だ。

ある意味、武器弾薬よりも重要である。

 

軍用の無線機はトランシーバーよりも大きく、重く、複雑である。

エスペランサやフナサカも軍用無線機に精通している訳ではない。

エスペランサは中東にいた頃に使用はしていたものの、充電したり、回線を繋いだりしたことはなかった。

そういった役割は小隊の通信兵が全てやっていたからである。

 

アマチュア無線技師の免許を持つフナサカと四苦八苦して何とか無線機を使用可能に(無論、電子機器妨害用の魔法の無効化を施し)した。

 

遊撃部隊の全隊員とセオドールの部隊に配属されているグリーングラス姉妹に無線機のレクチャーを完了させたのは一昨日のことである。

ギリギリ間に合ったわけだ。

 

ちなみに、天幕や無線機の設営は本来、かなりの人数が必要になる。

しかし、魔法を最大限駆使することでたった5人で全て設営が出来ていた。

杖の一振りで天幕が組みあがっていく光景は圧巻である。

 

予備弾薬と医薬品(これもほとんど魔法薬であった)を天幕に運び入れるフローラ。

その少し横ではポイズンバレットを装填したM24狙撃銃持ち、狙撃ポイントに移動するネビルの姿がある。

彼のM24は銃弾の自動追跡魔法と軽量化の魔法が既に実装されたものだ。

ネビルは天文台から地上部隊と遊撃部隊をM24で援護する事になる。

 

現在、センチュリオンが保有するポイズンバレットは100発程度。

今回持ち出したのは40発で、その内20発をネビルが持っていた。

 

「見渡しも良いし、援護射撃には絶好のポイントだね」

 

「そうだな。しかも、この天文台は城内扱いで吸魂鬼は侵入して来れない。最高の場所だ。遊撃部隊のいざという時の避難場所もこの天文台にしてある」

 

天幕内にある地図には蛍光ペンで水色に縁取られた地域が存在し、そこは城内、つまり吸魂鬼の侵入不可能な地域である。

DMZ。

すなわち非武装地帯。

吸魂鬼の侵入不可能な地域は云わばシェルターのようなものだ。

いざという時は全隊員がこのDMZ内に退避することになっている。

天文台も無論、DMZであった。

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎて、魔法を最大限に使ったにも関わらず全設営を終えて無線をオープンにしたのは作戦開始の10分前であった。

 

 

 

 

 

 

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本作戦の概要は至ってシンプルなものだ。

 

遊撃部隊である3名の隊員がホグワーツ敷地外(DMZ外)で警戒任務に当たっている吸魂鬼にまずちょっかいを出す。

当然、吸魂鬼は遊撃部隊の隊員たちを追撃する。

遊撃部隊の隊員は箒による機動力を駆使して、吸魂鬼をキルポイントまでおびき寄せる。

 

吸魂鬼はホグワーツの敷地には侵入不可能であるため、支援要員はホグワーツの敷地と敷地外の境界スレスレを移動しながら遊撃部隊を援護する。

同時に、彼らは各種吸魂鬼のデータを観測する任務もある。

 

遊撃部隊員は緊急事態となればホグワーツの敷地に即時、退避。

 

キルポイントに設定された地点にはあらかじめ実働部隊である隊員が待機しており、最終的にここでナパーム弾を起爆させることになっていた。

ナパーム弾が吸魂鬼に効果あればそれで良し。

もし、効果が無ければ今後、対吸魂鬼戦はバジリスクの毒を染み込ませた弾丸をメインに作戦を立てれば良い。

 

 

 

セドリック、チョウ、コーマックの3名は大量のチョコレートを摂取しながら、作戦区域上空を箒で飛行している。

天文台に設置された作戦本部ではエスペランサを含む5名の隊員が持ち場に着き、実働部隊の隊員たちがそれぞれ準備を完了した旨の報告を受けていた。

 

 

「いよいよですね………」

 

通信用ヘッドセットを頭にのせたフローラが天幕の中から出てきて、作戦区域を眺めるエスペランサに話しかけた。

魔女の着るローブに身を包みながら、頭に無線機と連動したヘッドセットをしている彼女の姿は異様である。

 

「ああ。我々にとって最初の実戦だ」

 

双眼鏡を石畳の上に置きながらエスペランサは答えた。

 

「私達は皆、緊張しています。ですが、あなたは心なしか嬉しそうな顔をしていますね」

 

「そうか?俺だって緊張してるぞ」

 

「私達は戦闘経験もありませんし、吸魂鬼の影響もあってか、先程から震えが止まりません。特に私は吸魂鬼の影響を受けやすい体質ですし………。ですが、あなたはまるで遠足に行く前の子供のようですよ」

 

「そんなに嬉しそうにしていたか?」

 

「はい。自覚は無いようですけどね」

 

 

確かにこのように組織を編成しての作戦は4年ぶりということもあって正直なところ、気持ちが高ぶってはいる。

エスペランサの本質は3年間の魔法学校生活を通じても、いまだに変わらず、軍人であった。

 

ポケットに忍ばせていたチョコレートの破片を口に放り込み、エスペランサは再び天幕へもどろうとする。

ちなみに、彼も魔法使いの着るローブに身を包み、背中に小銃を吊り下げるという奇妙な格好をしていた。

 

「まもなく1000だ。本部員は狙撃手であるネビル以外、天幕内に入って指揮にあたる」

 

「了解しました」

 

エスペランサの後に続いて、フローラも天幕内に移動した。

 

 

 

 

 

 

天幕は作戦空域の様子が分かりやすいように四方の幕を取り払っている。

小学校の運動会で使用されるテントのようなものになっていると言えばわかりやすいだろう。

要するに吹き抜けというわけである。

 

天幕の中心にはパイプ机が置かれ、その上に作戦区域の地図が載せてある。

エスペランサは地図上の天文台の位置にCPと書かれたマグネットを置いた。

 

 

「時刻規制を行う。現在時刻、0959」

 

エスペランサの言葉を聴いて3名の隊員が腕時計を見る。

 

「5、4、3、2、1、今、1000時!状況開始!!」

 

 

状況開始の号令を聞いたフナサカが無線機のマイクを手繰り寄せる。

 

「こちらCPフナサカより各員に告ぐ!状況開始!繰り返す。状況開始!!!」

 

 

 

 

 

 

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天文台から500メートル離れたホグワーツ敷地外の上空で待機していたセドリックの持つ無線機からもフナサカの「状況開始」という言葉が聞こえてきた。

 

「状況開始の合図がきた。これより我が遊撃部隊は作戦開始する!」

 

セドリックは後続の2名の隊員に言う。

チョウもコーマックも頷く。

 

セドリックは箒を握る手に力を込めて、やや前方へ体重を移動させた。

魔法界の箒の前進方法は前傾姿勢を取ることである。

彼の乗るクリーンスイーブ7号は加速し、十数秒でトップスピードに達した。

 

「遊撃部隊3名。作戦開始!吸魂鬼の群れへ前進中!」

 

『こちらCPフナサカ。了解。そのまま前進せよ』

 

「了解!」

 

風を切りながらセドリックはインカムを使って本部と通信をする。

 

吸魂鬼が近くなってきてるのだろうか。

空気がどんどん冷たくなっていくのが分かる。

チョコレートでドーピングをしても、身体の震えが止まらない。

 

後続のチョウとコーマックも唇を紫にしながら飛行している。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫だ!問題ない!!!」

 

 

吸魂鬼が飛行している空域は競技場付近である。

吸魂鬼らは競技場で歓声を上げている生徒達の幸福感に引き寄せられている筈だった。

 

 

「停止!!!」

 

 

セドリックの合図で遊撃部隊は空中で静止する。

 

彼らの前方、500メートル先にスリーマンセルで飛行中の吸魂鬼が視認出来た。

競技場からはまだ距離がある。

ということはホグワーツ周囲を巡回監視中の吸魂鬼だろう。

セドリックは無線を再び繋げた。

 

 

「こちら遊撃部隊セドリックよりCP送れ」

 

『こちらCP。どうした?』

 

「現在地、ポイントD。前方500メートルに巡回中の吸魂鬼3体を視認。他に吸魂鬼は見当たらず」

 

『しばし待て。隊長に代わる』

 

『こちらCPエスペランサ。現在地を詳細に知らせ』

 

「了解。現在地は競技場からホグワーツ東塔を挟んで直線距離2キロの位置。ポイントDの中央だ。吸魂鬼はこちらには気付いていない」

 

 

セドリックたちが飛行しているのはホグワーツの東塔から100メートルほど離れた上空20メートルの位置である。

城内と城外の境界線の直上である現在地は吸魂鬼の入り込めない場所であるため、吸魂鬼3体はセドリックたちに気付いていない、というよりも認識していない。

 

 

『位置は把握した。吸魂鬼の陽動を開始せよ。ただし、敵勢力が箒の速度を凌駕した場合、すぐに安全地帯へ退避せよ』

 

「わかっているさ。支援要員の配置は?」

 

『完了している。ポイントBに到達後に観測員がデータの収集を行う』

 

「了解。じゃあ、始めるとするよ」

 

 

セドリックは深呼吸をして箒の柄を握りなおす。

 

 

「チョウ!コーマック!眠れる姫を起こしに行くぞ!」

 

「「 了解!!! 」」

 

 

3人の隊員は500メートル先の吸魂鬼へ箒で突撃する。

彼らの手にはM933コマンドが握られていた。

 

 

急速に接近してくる3人の人間に流石の吸魂鬼たちも気付く。

 

が、吸魂鬼たちは心なしか動揺しているようにも思えた。

突撃をかましてくる人間などイレギュラー過ぎたからだ。

 

 

「レフトターン!!!」

 

セドリックの号令で遊撃部隊は進路を左に変える。

そして、3名とも手に持った小銃の銃口を3体の吸魂鬼へ向けた。

 

 

「撃ち方はじめええええええええええ!!!!」

 

 

 

横向きに停止した箒に跨る遊撃部隊の3名は小銃を構えてフルオート射撃を開始する。

タタタタという乾いた連続射撃音が城の横の草原を木霊し、無数の空薬莢が宙に舞った。

 

連続射撃音は耳塞ぎの呪文で競技場や城内の学生には聞こえない。

 

銃口からマズルフラッシュとともに飛び出した5.56ミリNATO弾は真っ直ぐ吸魂鬼へと進み、その身体をすり抜ける。

吸魂鬼に通常兵器は通用しない。

しかし、吸魂鬼は自身の身体をすり抜けていく銃弾たちに気がついた様である。

 

 

3体の吸魂鬼は射撃をするセドリックたち3名の隊員の方を向く。

彼らの顔はフードで見えないが、相当怒っているのが伝わってきた。

 

 

「気付いた!」

 

30発入り弾倉を入れ替えていたチョウが吸魂鬼が振り向いた事に気付く。

途端に、吸魂鬼が近づいてきた時特有の悪寒と絶望感が伝わってくる。

 

 

「長居は無用だ。吸魂鬼と一定の距離を保ちつつ離脱するぞ」

 

 

遊撃部隊は射撃を中止し、箒を反転させ、離脱を開始する。

吸魂鬼は逃げようとする3名を完全に敵と認識して追いかけてくる。

 

「こちら遊撃部隊セドリックよりCP。目標3体は射撃に反応して追って来る。速度は不明だが箒の最高時速を凌駕することは今のところ無い!」

 

『こちらCPエスペランサ。支援要員がポイントBで待機中。そこまで誘導頼む』

 

「了解した」

 

セドリックたちの任務はこの3体の吸魂鬼を地上支援要員が待機するポイントB、つまり天文台下の地点まで誘導する事にある。

吸魂鬼の影響を受けて幸福感が吸い取られ、身体中が震えだしたセドリックであったが、ここ数週間の訓練でつけた精神力が意識を保たせた。

 

吸魂鬼は速度を上げて遊撃部隊との距離を詰める。

まるで死神だ。

と彼らは思った。

 

後ろから自分達に迫ってくる吸魂鬼の速度にあわせて箒の速度を上げる。

 

こんな追いかけっこは二度とごめんだ、と彼らは心から思っていた。

 

 

 

 

 

 

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地上支援要員の指揮はアーニー・マクミランが担当していた。

彼は物覚えが良く、マグルの電子機器の使い方を他の隊員(フナサカを除く)よりも扱えたので地上支援要員の責任者としていた。

 

アーニーは無線でセドリックら遊撃部隊が自身の待機するポイントBへ向かってきていることを知らされている。

地上支援要員はホグワーツ敷地内の安全エリアに待機しているため、吸魂鬼の危険に晒される事はない。

しかし、安全エリアと非安全エリアの境界に目に見えて分かる境界線は存在しない。

これが彼ら支援要員を不安にさせた。

 

地上支援要員はこれからセドリックたちが連れてくる吸魂鬼の各種データを観測しなくてはならない。

その中でも最も重要とされているのが吸魂鬼の最高速度である。

今後の作戦を練る上でこのデータだけは欠かせない、とエスペランサは言っていた。

 

 

『こちら遊撃。まもなくポイントBに到達する。が、吸魂鬼の速度は我々の箒とほぼ同じ。加えて機動性は我が方を凌駕している』

 

「こ、こちら支援要員アーニー。か、確認した。観測終了後、地上から援護をするのでそれに合わせて離脱せよ」

 

『了解した』

 

 

無線越しに聞こえるセドリックの声は明らかに疲労していた。

 

 

「吸魂鬼の速度は箒と同等。機動力があり遊撃部隊が吸魂鬼を振り切る事は難しい……とのことだ」

 

携帯型無線機のマイクをオフにしたアーニーは同じく地上支援要員にあたっていて、後方で待機中の数名の隊員に話しかける。

 

「クリーンスイープ7号の最高時速と同じ速さとか………。恐ろしいな吸魂鬼は」

 

「地上から援護しなければ遊撃部隊は吸魂鬼の餌食だ。予定通り、発煙弾の準備を急げ」

 

 

緊張で小刻みに震える手を押さえつつアーニーは支援要員たちに指示を飛ばす。

自分の指揮次第でセドリックたちが全滅する可能性もある。

その事実が彼を緊張させていた。

 

 

「遊撃部隊発見!うっわ。本当に吸魂鬼3体連れてきてるよ」

 

双眼鏡を構えて地面に匍匐していたダフネが報告する。

 

「目視でも確認できる。セドリックたちと吸魂鬼との距離は10メートル程度か」

 

「よくあれで正気が保ててるね」

 

「セドリックたちはタフだからな。僕だったらとっくに気絶してる」

 

 

吸魂鬼の速度を計測する手段は非常に簡単である。

予め2つのポイントを決めておく。

その2点間を吸魂鬼が移動した時間を計測すれば時速がわかるという寸法だ。

無論、そのためには吸魂鬼が直線で移動し、尚且つ飛行高度も一定である必要があった。

故にセドリックたち遊撃部隊は直線で高度を維持しつつ吸魂鬼を陽動していたわけである。

 

 

「吸魂鬼がポイントCを通過。計測開始!」

 

「了解!」

 

 

アーニーは手元にあったストップウォッチで計測を開始する。

後方にいた他の隊員はビデオカメラの録画スイッチを押して録画を開始した。

 

 

『こちらCP。支援要員送れ』

 

「こちら支援要員アーニー。どうぞ」

 

無線からエスペランサの声が伝わってくる。

 

『遊撃部隊がポイントBへ到達したら発煙弾を用いて吸魂鬼を撹乱。遊撃部隊が安全地帯へ避難する隙を作れ』

 

「了解。こちらは吸魂鬼と遊撃を目視で確認。現在のところ追いつかれる様子は無いが、避難も困難な模様」

 

『こちらも天文台から確認し、把握している。計測終了後、そっちのタイミングで発煙弾を発射せよ』

 

「簡単に言ってくれるな。それが一番難しいんだよ」

 

『お前なら出来ると思って支援要員の指揮を任せたんだ。仕事はきっちり完遂してくれ』

 

 

アーニーは再び無線機のマイクから手を離し、吸魂鬼の方を見る。

支援要員が待機しているのは天文台のある塔から100メートルほど離れた何も無い丘の上だ。

そこからは禁じられた森や湖畔が一望出来る。

本来なら空爆などを恐れてこの様な見晴らしの良い場所に陣を構える事はないが、今回は吸魂鬼のみを相手にするのでその心配は無用である。

 

待機する丘からポイントBと呼ばれている天文塔横エリアまでの距離は100メートルと弱。

迫撃砲の最小射程である。

発煙弾は基本的に迫撃砲で射出する。

センチュリオンが保持する火器のなかでも威力の高い81ミリ迫撃砲L16は虎の子だ。

 

アーニーたち支援要員は短期間で迫撃砲の操作をエスペランサからレクチャーされていた。

無論、この迫撃砲にも自動追尾魔法がついていたので訓練は然程必要なかった訳である。

 

 

「迫撃砲発射準備」

 

アーニーは震えでカチカチと歯を鳴らしながら迫撃砲の発射準備を始める。

速度計測をしているダフネとビデオカメラを撮影する隊員を除く4名の隊員が迫撃砲の周りに集まった。

 

一人が弾箱のなかからロケットにも似た砲弾を取り出す。

もう一人は迫撃砲の砲身に手を当てた。

 

自動追尾の魔法がかかった迫撃砲は弾道計算も観測も必要が無い。

しかし、この魔法は武器に触れている魔法使いの思考を武器にインプットされると言う原理故に、常に武器本体に触れている必要がある。

なので、隊員の一人が迫撃砲の砲身に触れているわけだ。

 

発射時の熱で手のひらが火傷しないように彼の手には予め魔法が施してある。

 

 

「迫撃砲発射用意よし」

 

「発射弾種発煙弾」

 

「発射弾種発煙弾」

 

「射角1100」

 

「射角1100」

 

 

アーニーは向かってくる遊撃部隊と吸魂鬼を睨む。

 

点でしか見えなかった吸魂鬼は、いまやその形がくっきりと分かる位置にまで到達していた。

 

 

「吸魂鬼がポイントBまで到達するのにあと50メートル!」

 

ダフネが叫ぶ。

 

「半装填!」

 

「半装填よし!」

 

 

射手が弾を迫撃砲の砲口へ半分ほど入れる。

 

 

「あと20メートル!!」

 

「……………」

 

「あと10!!!」

 

「……………」

 

「到達!!!!」

 

「発射ああああああ!」

 

 

 

射手は手に持っていた発煙弾を迫撃砲内に落とした。

 

 

 

 

 

 

 

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遊撃部隊の疲労はピークに達していた。

 

吸魂鬼との距離は10メートルを維持している。

しかし、ギリギリだ。

箒の最大速度を出し切っている。

クィディッチの試合でもここまで速度を出す事はなかった。

 

加えて直線移動と高度を維持しなくてはならないのだから神経を使う。

吸魂鬼の影響で今にも気絶しそうな上に神経の使う飛行をしなくてはならないのは酷であった。

 

セドリックは時折振り返って他2名の隊員の顔色も伺っていたが、どちらも真っ青な顔で今にも箒から落ちそうであった。

 

そんな彼らにしてみれば、突如、吸魂鬼へ降り注いだ発煙弾は救世主に他ならない。

 

 

 

ボン

 

 

と言う音が遠くからしたと思えば、背後でボムッという破裂音がする。

 

支援要員が迫撃砲を使い、吸魂鬼に発煙弾を撃ち込んだようである。

となると、すでに自分達はポイントBへ到達していると言う事だ。

セドリックは確信した。

 

 

「支援部隊の81Mだ!吸魂鬼が怯んでいるうちに離脱するぞ!!!」

 

 

発煙弾は吸魂鬼をすり抜けて地面に衝突。

白い煙をモクモクとあげて現場の視界を悪くしている。

 

吸魂鬼に視覚は無い。

だが、発煙弾という未知の武器に少なからず動揺し、動きを止めていた。

発煙弾によってあがった白煙はどんどん広がり、周囲を真っ白に染めていく。

 

その隙にセドリックら3名の遊撃部隊員は進路を変え、安全地帯である天文塔の方へ離脱した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

発煙弾が吸魂鬼と遊撃部隊の間に着弾し、遊撃部隊が安全地帯となっているホグワーツ敷地内に離脱し始めるのをエスペランサも双眼鏡越しに確認していた。

 

 

「セドリック他2名の離脱を確認した。これより地上支援部隊と実働部隊の作戦を開始する。ネビルは狙撃位置から援護しろ」

 

「了解!」

 

 

ネビルはM24狙撃銃を構える。

その銃口は未だに困惑して動きを停止している吸魂鬼へ向けられていた。

 

ネビルが銃を構えるのとほぼ同時のタイミングで遊撃部隊の3名が天文台へ戻ってくる。

 

3名とも顔を真っ青にして、箒を持つことすらままならず、倒れこむように着陸した。

 

 

「ゆ…遊撃部隊、帰還……しました」

 

「ご苦労だった!衛生班!セドリックたちを奥へ連れて行け!」

 

 

フラフラになっている3人の隊員のもとへ衛生担当のフローラが駆け寄り、タオルと大量のチョコレートを渡す。

チョコレートの摂取は吸魂鬼の影響から回復する特効薬と言われていた。

その原理は分からないが、恐らくはチョコレートに含まれている糖分が作用しているのではないだろうか。

 

 

「あんな経験は二度とごめんだぜ。クィディッチの試合でハリーが吸魂鬼に襲われて落下したことを笑っていたけど、もう笑えない。ありゃ恐ろしい」

 

コーマックが板チョコを齧りながら言う。

 

「そうだな。吸魂鬼の速度が予想を超えて速かった。ニンバス級の箒なら振り切れるかもしれないが、コメットや流れ星級だとやられるかもしれない」

 

 

遊撃班が休むのを目の端に見ながらエスペランサは作戦を次のフェイズに移行させるべく無線を開放した。

 

 

「こちらCP。地上支援部隊送れ」

 

『こちら地上支援部隊。各種データの計測を終了した。これより後退しセオドールの部隊を前進させる』

 

「了解。吸魂鬼の動きは?」

 

『相当怒ってるように思えるぞ。僕達は安全地帯にいるから影響を受けないけどセオドールたちは大変な事になりそうだ』

 

「わかった。地上支援部隊はセオドールたちが危うくなったならば躊躇せずに発煙弾を撃ち込み、救援に当たれ」

 

『オッケー!』

 

 

通信を終えてエスペランサは再び双眼鏡を覗く。

 

ここまでは順調に作戦が進んでいる。

各班の連携も完璧だった。

しかし、この作戦の最大の要である吸魂鬼の除去はまだ完了していない。

 

エスペランサは双眼鏡を握る手を強めた。

 

まだ気は抜けない。

 

 

「頼むぞセオドール」

 

 

彼は一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

アーニー率いる地上支援部隊が退避したことを確認したセオドールは手に持つ小銃の安全装置を外した。

 

彼の持つ小銃に装填されている弾丸は通常弾である故に吸魂鬼に効果は無い。

吸魂鬼に現状で効果のある武器は天文台で支援につくネビルの持つポイズンバレットのみだ。

 

 

「第2分隊。前進用意」

 

セオドールの号令を聞いて彼の配下である第2分隊の隊員(一部第1分隊)は各々、銃の安全装置を外す。

 

実働部隊である第2分隊は安全地帯であるホグワーツ敷地内に臨時で作られた深さ1メートル半ほどの塹壕の中で待機していた。

セオドールはその塹壕から顔だけ出して作戦の進行の様子を見ていたわけである。

 

発煙弾による白煙も消え、吸魂鬼は我に返ったように周囲を見渡す。

 

既に遊撃部隊の姿は無く、地上支援部隊は安全地帯の中に退避している。

目標を失った吸魂鬼は明らかに怒っていた。

 

 

「前進!!!!」

 

 

セオドールは振り上げた手を前に下ろして全身の号令をかける。

 

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 

待機していた隊員たちは塹壕から飛び出して走り出す。

 

 

「撃て撃てうてええええええええ!!」

 

 

タタタタ

 

タタタタタン

 

 

走りながら隊員たちは銃弾を吸魂鬼たちに浴びせる。

 

無論、効果は無い。

5.56ミリ弾は吸魂鬼の身体をすり抜けて空へ消えていく。

 

吸魂鬼は突如現れて攻撃を始めた隊員たちに気付き、襲い掛かってくる。

吸魂鬼3体が襲い掛かってくるのを確認した7名の隊員は銃撃を中断し、四方へと散開する。

 

隊員7名に対して吸魂鬼は3体。

隊員たちが散開してしまえば目標を定められずに困惑するのは必至。

 

だが、吸魂鬼はその特性上、付近に存在する人間の正気を奪っていく。

散開した隊員はチョコレートでドーピングしていても尚、体力と気力を奪われていた。

 

 

「う、うわっ」

 

足に力が入らなくなり一人の隊員が草原に倒れこむ。

 

その隊員に吸魂鬼の1体が襲い掛かった。

 

「く、来るなアアアアアア!!!」

 

 

「まずい!?援護しろ!!!」

 

倒れこんだ隊員を見てセオドールは射撃を指示したが、他の2体の吸魂鬼を相手にしている隊員たちにその余力は残っていない。

 

 

 

 

タアアアアアン

 

 

 

 

そんな中、天文台から7.62ミリポイズンバレットが飛来する。

 

飛来した銃弾は吸魂鬼に直撃し、吸魂鬼は消失する。

 

 

「ネビルか!!!」

 

「た、助かった」

 

 

間一髪で生きながらえた隊員は安堵する。

 

 

「油断するな!吸魂鬼は2体残っているぞ!作戦の最終フェイズを発動する!」

 

 

セオドールの言葉を聴いた隊員たちは小銃を地面に放棄し、懐から杖を取り出した。

 

 

「吸魂鬼を封じ込めるぞ!カウント3と同時に盾の呪文を展開!!!」

 

「「 了解 」」

 

「いくぞ!1,2,3!」

 

 

「「「「「  “プロテゴ 守れ”!!!!   」」」」」

 

 

 

 

吸魂鬼を取り囲むように散開していた7名の隊員は同時に杖を構えて盾の呪文を展開させた。

 

吸魂鬼は壁などの障害物をすり抜ける事はできない。

ホグワーツ特急でもわざわざドアを手で開いて入ってきていた。

それならば吸魂鬼は盾の呪文を物理的に突破する事も出来ないはずである、というのがセオドールの導き出した結論である。

 

無論、盾の呪文を展開する場合、吸魂鬼に接近しなくてはならないために相当の精神力が必要であった。

呪文詠唱中に気を失ってしまっては意味がない。

そこで、複数人の隊員を四方に散らばらせる事で吸魂鬼が目標を定められなくなるという作戦を考え出した。

これなら誰か一人がやられたとしてもバックアップは取れる。

 

 

「歯を食いしばれ!!!耐えろ!」

 

 

隊員たちは己の力を振り絞って盾の呪文を展開させている。

 

2体の吸魂鬼は周囲360度を盾の呪文によって出現した透明なバリアによって塞がれて閉じ込められるような形となった。

 

盾の呪文によって閉じ込められた吸魂鬼は身動きがとれずにいる。

言葉こそ発しないが怒りで狂っているのが見て取れる。

 

セオドールは吸魂鬼の影響で過去の最悪な記憶の数々を思い出し、全身が氷のように冷たくなってくるのを感じていた。

しかし、魔力を切らす事は許されない。

 

舌を噛み、痛みで気を紛らわせ、何とか正気を保つ。

 

 

 

「吸魂鬼は抑えた!!!!!ナパーム弾を起爆する!呪文を唱え続けろおおおおお!!!」

 

 

セオドールはそう叫んで術を止めると、背負っていた背嚢から火炎瓶のようなものを取り出した。

 

魔法薬の授業で使用する透明な瓶にゼリー状の液体が入っている。

エスペランサとフナサカが苦心して作ったナパーム弾であった。

 

瓶詰めにしたナパームを起爆させる装置は悪戯専門店で発売されているクソ爆弾の起爆装置の構造を流用したものである。

 

瓶の蓋に括り付けられたピンを引っこ抜いたセオドールはそれを盾の呪文がカバー出来ていない僅かなバリアの隙間に放り込んで地面に伏せた。

 

 

 

 

 

ボムッ

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオ

 

 

 

 

起爆したナパーム弾は紅蓮の炎を発して周囲の草を焼き払う。

 

盾の呪文で防いではいる隊員たちは必至で爆炎を抑えようとしているが、それもギリギリだ。

至近距離でのナパーム弾の爆発を防ぐにはかなりの魔力と集中力が必要である。

 

隊員たちは今にも吹き飛ばされそうな勢いで杖を構え、術を維持している。

 

 

「うおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

爆発は収束し、視界が晴れる。

 

セオドールはゆっくりと顔を上げて吸魂鬼の存在していただろう方向を見た。

 

草木の燃える臭い。

どす黒い煙。

 

その向こうには…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なかなか更新できないですが頑張って更新していきたいです!
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