ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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しばらく更新が途絶えていました。
申し訳ないです!!

転勤して仕事に追われてました。

やっと投稿ができるようになったのでまとめて投稿します!


基本的に主人公視点で物語が進み、ハリー達の行動は端折られるのでアズカバンの囚人の原作未読だと分かりにくいところがあるかもしれません。


case41 Eve of operation 〜作戦前夜〜

吸魂鬼の倒し方はわかった。

 

各種データも揃っている。

センチュリオンの士気は最高潮に達した。

 

 

それにも関わらずエスペランサはセンチュリオンの活動を一時中止することにした。

 

 

何故か。

 

それは期末試験がはじまるためである。

 

 

セオドールやフローラもこの方針に反対はしなかったし、隊員たちも安堵していた。

吸魂鬼を倒す前に、試験に倒されてしまっては意味が無い。

 

 

エスペランサもここ数週間は一切の勉強をしていなかったために試験には不安が残っていた。

 

 

 

 

「筆記と実技、やっかいなのは実技だな。こればかりは暗記だけではどうにもならない」

 

セオドールが羽ペンを動かしながら言う。

 

結局のところ、19名の隊員たちは必要の部屋で勉強していた。

学年次席、次々席のセオドールやフローラ、監督生候補のセドリックやチョウなど優秀な隊員が教え役をする勉強会を企画したのである。

加えて必要の部屋は実技の勉強に必要な道具が勝手に出てくる万能な部屋だ。

 

普段は通信機を置いている机を勉強机の代わりとして19人の隊員がずらりと座り、勉学に勤しんでいた。

 

 

「僕は魔法薬の調合が不安。いつもは皆が横に居るけど試験中は一人だろ?」

 

魔法薬学の教科書を広げてネビルが愚痴をこぼす。

 

「ネビル。まだスネイプ先生が怖いのか?」

 

「だって、吸魂鬼は銃弾で倒せるけどスネイプ先生は銃弾で倒せないじゃないか」

 

 

2年生の時にエスペランサとスネイプは決闘を行った事がある。

銃や榴弾を駆使してもエスペランサは負けた。

 

 

「あの時は負けたが、次は勝つさ」

 

 

反対側のテーブルで教科書を読むエスペランサが言う。

 

近代兵器に頼りすぎた戦い方が熟練の魔法使いには通用しないことを彼はそこで知った。

 

 

「実技は私も不安です。闇の魔術に対する防衛術は実技があると聞いていますけど、その中にマネ妖怪ボガートの撃退が含まれていたら突破できるかどうか………」

 

フローラが不安げに言う。

彼女はボガートの授業で実技に加わっていなかった。

しかし、ハリーがボガートと対峙した時に、それが吸魂鬼に変身したという話を聞いて恐れているようだった。

 

「俺もボガートは苦手だ。だが、奴は物理的攻撃が効くからな。いざとなれば銃で倒してしまえば良い」

 

「あなたはそうしそうで逆に怖いですね」

 

「まあな………」

 

そう言ってエスペランサは椅子から立ち上がり、部屋を後にしようとする。

 

「どこかへ行かれるんですか?」

 

「息抜きだ。俺も連日の試験勉強で疲れてるからな」

 

 

彼はローブの懐から煙草のケースを取り出して見せる。

 

必要の部屋には無数の重火器や弾薬が集積されているため火気厳禁である。

故に喫煙は必要の部屋から出て行う必要があった。

 

 

「私もついていって良いですか?」

 

「良いけど………。俺は一服しに行くだけだぞ?」

 

「構いません」

 

 

そう言ってフローラは羽ペンを机において立ち上がった。

 

 

 

 

 

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時刻は20時を回ろうとしている。

 

殆どの学生は寮の談話室で勉強をしている頃だ。

特にOWLと呼ばれる試験を控えた5年生は机にかじりついて勉強している。

 

教師陣も試験の作成で忙しそうにしているため城内を巡回する職員はいない。

管理人のフィルチは例外だったが、彼はセンチュリオンの協力者であったため城内の時間外徘徊を見つかったところで問題ではなかった。

 

エスペランサとフローラはフクロウ小屋と呼ばれる塔の最上階に存在する小屋にたどり着いた。

 

「インセンディオ“燃えよ”」

 

呪文を唱えると杖の先から火が出る。

火によってフクロウの糞だらけの小屋の中が照らされた。

 

懐から取り出した煙草に火をつけたエスペランサはフローラに話しかけた。

 

 

「で?何で俺の一服についてきたんだ?何か相談でもあるのか??」

 

「……………」

 

小屋が暗いせいでフローラの表情は読み取れない。

もっとも、明るかったところで彼女の表情を読み取る事は困難であったが。

 

普段、煙草の煙を嫌う彼女がわざわざついて来たとなるということは、何か二人きりで話したいことでもあるということになる。

 

「言っておくが俺はあまり良い相談相手ではないからな。メンタルヘルスならセオドールのほうが向いてる」

 

「そうでしょうね。ただ、誰かに聞いて欲しかったんです。私の事を………」

 

「????」

 

「私が吸魂鬼の影響を受けやすい事は知っていますよね?」

 

「ああ。ハリーと同じで吸魂鬼を前にして意識を失っていた………」

 

「そうです。ハリー・ポッターは両親を殺害されたという悲惨な過去を持つために吸魂鬼の影響を強く受けてしまう。と、言う事は」

 

「フローラもそれ相応の過去を持っているということか………」

 

「理解が早くて助かります」

 

 

エスペランサはいつの間にか吸い終えていた煙草を塔の外へ投げ捨てる。

 

吸魂鬼の影響を強く受けるということが何を意味するかは彼も理解していた。

悲惨な過去を持つのはエスペランサも同様であるためだ。

 

 

「私は正規のカロー家の人間ではない……というのは前に話しましたよね」

 

「ああ。養子縁組だっけか?」

 

「はい。カロー家については何か知っていますか?」

 

「純血の一族ってのと、その一族の中に闇の魔法使いが何人か居るってことだけだな」

 

「お世辞にも評判の良い家、とは言えませんよね」

 

 

エスペランサは英国魔法界の現状を知るために有名な一族に関してはある程度調べている。

英国魔法界を牛耳っているのは主にマルフォイ家を筆頭とした純血の家であった。

カロー家もそこに含まれる。

 

非常に前時代的であるが、逆に言えばそれらの家を滅ぼすだけで英国魔法界は乗っ取ることができる。

 

 

「まあ、良い噂は聞かないな。お前の義理の姉にしたってあんな奴だし………」

 

「そうですね。カロー家の人間は皆、姉のような人ばかりですから」

 

 

純血家は純血の血筋を守る事を家訓としている。

 

純血家自体が少ない事からそれも難しくなってきたが、それでも尚、純血家の子は純血家の子と結婚させ、純血の家系を守ろうとする動きは健在だ。

カロー家も例外ではなく娘であるヘスティアを他の純血家の息子と結ばせようとしていた。

 

しかし、彼女は性格と見た目に難がありすぎた。

 

純血家の息子達は彼女の粗暴な性格とそれを具現化したかのような見た目に一種の恐怖すら抱き、逃げ帰ったと言う。

ある純血家系の生徒は彼女の事をドローレス・アンブリッジのようだと形容していたが、生憎、エスペランサはその人物を知らなかったのでいまいちピンときていない。

 

兎にも角にもカロー家はその血筋が途絶えてしまう危機に直面したわけだ。

 

そこで、遠い親戚であるフローラを養子に迎えて、ヘスティアの代わりにしようと画策したのである。

 

 

「同情するよ。そんな家にいたんじゃ、そりゃ捻くれた性格になるわけだ」

 

「別に私は捻くれてはいませんが………。まあ良いです。そのカロー家の主から先日ふくろう便で手紙が届きまして」

 

「ほう?」

 

「姉が最近の私の行動をチクったみたいです。手紙にはカロー家に恥じない振る舞いをしろとか書いてありました。次の夏休みは恐らくずっと説教ですね」

 

 

フローラは他人事のように言ってため息をついた。

 

 

「勝手なもんだな。自分達の都合で養子にして………。意にそぐわない行動をしたら説教か」

 

「勝手なものですよ。知ってますか?カロー家における説教というのはほとんど拷問のようなものなんです」

 

「拷問……だと?」

 

「カロー家の意向に逆らえばどうなるかということを身体に覚えさせるために、時には闇の魔術まで使われる始末です」

 

「何て奴らだ………」

 

「悲惨な日々でしたよ。口答えすれば呪いをかけられ、逃げようとしても逃げられず………。だから私は心を閉ざすしかなかったんです………」

 

 

フローラはそう言って彼女自身の過去を語りだした。

 

 

 

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フローラ・カローはカロー家の分家に生まれた。

 

もっとも、その分家は数十年前に本家から追い出された家であり、英国内では本家に迫害されるために国外へ逃れていたらしい。

国外とはノルウェー方面のことである。

 

英国外ではカロー家の知名度はなかったためにフローラは平和な暮らしを送っていた。

 

もっとも、彼女の両親は彼女が生まれてから間もない頃に病死してしまっていたために祖父に育てられていた。

この頃のフローラは今からは想像もつかないほど無邪気な子供だったという。

祖父と二人で貧しくも幸せな生活をしていた彼女であったが、悲劇は彼女が9歳の時に訪れた。

 

 

 

その日、魔法薬の材料をお遣いとして買いに町に出ていたフローラが家に帰ると知らない男が家の前に訪れていた。

 

彼らは皆、ローブを着ていたために魔法使いだと分かったが、どこか様子がおかしかった。

一言で言えば悪人のようだったのである。

 

玄関先で立ちすくむフローラに近づいてきたその悪人のような男は彼女にいきなり杖を向けると、ある呪文を唱えた。

後で知る事になるが、その呪文は服従の呪文であった。

許されざる呪文の一つである服従の呪文は、対象となった人間を意のままに操る事のできる魔法である。

つまり、フローラはその男に操られたというわけだ。

 

操られたままのフローラを連れて男は家の中に入り込んだ。

 

彼女の帰りを待っていた祖父に男は告げる。

 

 

 

“この娘は今日からカロー本家の養子とする”

 

 

 

無論、彼女の祖父は抵抗した。

 

しかし、男は服従の呪文で操ったフローラに養子縁組の受理申請書のサインを無理やりさせ、半ば拉致をするように彼女を本家へ持ち帰ってしまったのである。

この男はカロー本家の主、すなわちヘスティアの父であった。

 

 

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「今となってはあの時かけられた魔法が服従の呪文であったと理解できます。私は魔法であの男……つまり、現在の父に操られ、養子縁組の契約をしてしまったわけです」

 

「そんな馬鹿な話があるか?魔法省はその出鱈目な申請を通して養子縁組を認めたのか!?」

 

「英国魔法界の法律は前時代的で穴だらけなんです。服従の呪文で操られたたった9歳の子供のサインでも申請書としては認められてしまいます。それに、カロー家は魔法省内で大きな権力を持っていましたから、違法な手段でも何とかなってしまったんでしょうね」

 

「くそったれだ………」

 

 

エスペランサは吐き捨てるように言い、2本目の煙草を取り出した。

 

 

「話を続けますね………」

 

 

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服従の呪文から解かれたフローラは気付くとカロー本家に居たらしい。

 

混乱した彼女の前に例の男が現れた。

男は自分がカロー本家の主人であり、今日からフローラの父となる事を告げた。

 

今まで親族の存在すら知らなかったフローラはますます混乱して「家に帰してくれ」と頼み込んだが無駄だった。

養子縁組の手続きは完了し、彼女は正式にカロー本家の養子となってしまっていたわけである。

 

時に泣き喚き、時に脱走して祖父の下へ帰ろうと試みたが、それも全て無駄であった。

 

3度目の脱走に失敗し捕らえられた彼女は一週間に渡る拷問を受けることになる。

貼り付けの呪文によって苦しめられ、精神が崩壊する寸前になったフローラはカロー本家からの脱走をあきらめるに至った。

 

満足に魔法も使えない未成年の魔女が抵抗するにはカロー家の人間達は強大すぎたのである。

 

それでも彼女はいつか祖父が助けに来てくれることを信じた。

魔法省の職員でも誰でも良い。

誰かが彼女を助けてくれる事を信じた。

 

こんな理不尽が許されて良いはずないと拷問で傷められた身体を押さえながら神に救いすら求めた。

 

しかし、助けは現れなかったのである。

 

カロー家にふさわしい人材にするためという理由で魔法の基礎から、貴族としての振る舞いまでありとあらゆることをスパルタ式で教え込まれ、1年が経過する頃、彼女の祖父が病に倒れてこの世を去った事が義理の父によって伝えられた。

フローラにとって唯一の優しい家族が死んだという事実は彼女の感情を殺してしまった。

 

いつか、祖父と再会できる。

 

そう信じて、その事をたった一つの希望として頑張ってきた彼女の精神はそこで壊れてしまったのである。

 

以来、フローラは感情を表に一切出さずに、まるで操り人形のように生活する事となった。

 

 

 

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「あの時に私は一度死んでしまったんです。生きる希望も見つからず、ただ義理の父となったあの男の言う事だけを聞く人形と成り果てました。彼はそっちの方が喜ばしかったらしく、それ以来、拷問はほとんどなくなりましたけど………。代わりに姉の方が私のことを疎ましく思ってちょっかいを出してきましたが」

 

「そうか……確かに最初に会ったときのフローラは感情を失ったかのように見えた」

 

 

エスペランサは1年生の頃のフローラを思い出した。

 

冷めた目で口数も少なく、周囲から恐れられていた頃の彼女である。

 

 

「父の言いつけで純血の家の息子と何度も無理やり会わされました。私の人生は全てあの男に決められてしまっている、と絶望して自ら命を絶とうとしたこともありました」

 

「そんなことまで……あったのか」

 

「はい。唯一、希望があったといえばグリーングラス姉妹は私に気さくに話しかけてくれたということでしょうか。寮でも孤立していた私に彼女たちは良くしてくれました。ですが、私の将来が絶望的であったことは変わりません。結局自分はカロー家に染められて、抵抗しようにも拷問されて、自分の手では何も変えられないそう思っていました。そんな時にあなたと出会ったんです」

 

「俺と?」

 

 

 

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カロー本家という強大な力の前に抗えず、絶望していたフローラ。

 

エスペランサ・ルックウッドという少年はそんな彼女に新たな希望を与えた。

 

 

純血主義のスリザリンの生徒をひねり潰し、魔法界の常識を覆し、強大な敵であるトロールも3頭犬も倒し、ヴォルデモートにさえ抗い戦う。

抗う事を止めて全てを諦めていた彼女にとってエスペランサは希望となったのである。

 

エスペランサが作ろうとする理想の世界。

 

その世界なら自分は自由になれるのではないか………。

 

 

 

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「私は弱いですから……。あなたの強さに憧れていました。ですが………」

 

「フローラ??」

 

 

フローラはローブから1通の手紙を取り出した。

恐らく義理の父であるカロー家の主人からのものだろう。

 

そして彼女はその手紙を破り捨てる。

 

粉々になった手紙は風に飛ばされ、ふくろう小屋の窓から夏の夜空へ消えていった。

月明かりに照らされた紙ふぶきは季節はずれの雪のようであった。

 

 

「吸魂鬼を私たちが倒した時に思ったんです。恐れずに戦うという選択肢もあるということに」

 

「そうか………。強く……なったんだな?」

 

「はい。強くなりました。私はあなたの部下第一号ですから。当たり前です」

 

 

 

 

フローラはエスペランサの前に躍り出て、そして微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

雲の合間から差し込む月の明かりは幻想的に彼女の姿を照らし出す。

金色に輝く長い髪も、白い肌も。

 

はじめてエスペランサに見せた微笑みも。

 

その姿は美しかった。

恐らくエスペランサがこの世で初めて美しいと形容したものであった。

 

 

 

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筆記試験は予想よりも簡単だった。

というのはハーマイオニーの感想である。

 

ハリーやロンはそんなことはないと言わんばかりの顔をしていた。

 

筆記試験はエスペランサも得意ではない。

一部得意教科を除けばあまり良い成績は取れていないだろう。

 

だが、闇の魔術に対する防衛術の実技試験に関しては自信があった。

 

この実技試験は今までに習った生物を1体1体倒しながらゴールにたどり着くという障害物リレーのようなものである。

 

試験は屋外のグラウンドで行われる事となっており、見ればグラウンド内に池や沼やボガートが入っていると思われる箪笥などが置かれた試験用のコースがあった。

エスペランサはコース横に立つルーピンの元へ行く。

 

 

「先生。使用してよいのは杖だけですか?」

 

「いや。突破できれば何でも構わないよ。君は意図的に最後の生徒にしているからね。得意の武器を使っても構わないさ」

 

「では遠慮なくやらせてもらいます」

 

 

そう言ってエスペランサは持ってきた背嚢から武器を取り出した。

M733自動小銃にM92Fベレッタ。

破片手榴弾とスタングレネード。

各種弾薬。

 

最初は水魔の入ったプールを突破するという実技だ。

 

水魔は緑色に濁ったプールに潜んでいると思われる。

水魔は手がもろい弱点があるので「レダクト」という呪文で簡単に突破できるが、エスペランサはそんなまどろっこしい事はしなかった。

 

 

手榴弾のピンを抜き、それをプールに放り込む。

 

 

 

ズドオオオオオオオ

 

 

 

水柱が上がって、プールに潜んでいた水魔が慌てて姿を現した。

水中で、しかも至近距離で爆発した手榴弾は音響兵器と化す。

良く見れば水魔の耳からは血が噴出していた。

 

姿を現した水魔はたった1匹である。

その水魔の眉間にエシウペランサは5.56ミリ弾を撃ちこんだ。

 

 

「ギャアア」

 

 

水魔は背中からプールに倒れこむ。

そして、プールを赤く染めていった。

 

プールを突破した後はレッドキャップがたくさん潜む穴の存在する場所を駆け抜けることになった。

スタングレネードを投擲してレッドキャップを全て無力化し、そのまま次のエリアに進む。

 

おいでおいで妖怪は沼に誘い込もうとする妖怪であったが、これも小銃による掃射で蜂の巣にしてクリアした。

 

 

 

「で、最後はやはりマネ妖怪のボガートか」

 

 

 

ボガートの潜む洋服箪笥が置かれているのを見てエスペランサは呟いた。

 

おそらくボガートは授業の時と同じ格好で出てくるだろう。

その光景に不快感を持ったエスペランサは再装填した小銃を構えて箪笥に銃口を向けた。

 

 

「悪く思うな」

 

 

引き金を引き、30発の弾丸を箪笥に発射。

たちまち、箪笥は穴だらけになるがエスペランサは攻撃を止めない。

 

 

タタタタタタ  タタタタタン

 

 

空になった弾倉を抜き新たな弾倉を装填する。

人差し指を引き金から外しトリガーオフ。

銃を左に傾けて薬室に詰まりがないことを確認し、新たな弾倉を銃本体に差し込む。

 

所持している全ての弾丸を撃ち終える頃には箪笥に火がついていた。

恐らくは曳光弾が木製の箪笥に火をつけたのだろう。

 

箪笥の中からはボガートの断末魔の叫びが聞こえる。

ボガートは箪笥と共に燃えているらしい。

 

 

パチパチパチ

 

 

後方でルーピンが拍手をしている。

 

「最速でのクリアだ。エスペランサ。満点は君とハリー。それにネビルとセオドール、フローラも満点だ」

 

「そうですか。ハリーもフローラもボガートを突破した、ということですね」

 

「見事だったよ。だけどひとつ気になる事があるんだ」

 

「気になること?」

 

 

ルーピンはエスペランサを見つめながら言う。

その目には“警戒心”が現れていた。

 

 

「ハリーは私の教えた方法で試験をクリアした。だが、他の3人の戦い方は全く違った。まるで………」

 

「兵士のようだった。ですね?」

 

「…………ああ。その3人だけじゃない。他にも何人か、何と言ったらよいのか……。機械的に動いて戦う生徒が居た」

 

「まあ、ここの生徒は少なからず自分のマグルの軍隊式の戦いを目にしているので、それを模倣したんでしょう」

 

「模倣……か。いや、あの訓練された動きは一朝一夕で身につくものじゃないよ。少なくとも魔法界にあのような戦い方は存在しなかった。君もそうだ。エスペランサ。君の動きには全く無駄がない。そう、無駄なく確実に最短ルートで敵を殺すことのみを考えた動きだ」

 

 

それは当たり前だ。

軍隊の戦い方とはそういうものなのだから。

 

エスペランサたちセンチュリオンの隊員は見方の損害を最小にして尚且つ敵を最大限倒すために魔法と近代兵器を組み合わせた動きを研究している。

 

 

「先生。先生はその生徒達に“戦い方”を教えたのが、この俺だと言いたいんですね」

 

「いや、そんなことは」

 

「ダンブルドアもスネイプも恐らく俺の事を探っている。そうでしょう?」

 

「……………ああ。そうだね。彼らは君のことを警戒しているようだ。今まで大勢のマグル生まれの生徒を見てきたけど君のような生徒は居なかった。だが、君のように大勢の生徒に影響を与え、徒党を組み、組織を作り上げた生徒はいる。一人はダンブルドア。もう一人はヴォルデモートだ。強力な魔法力とカリスマ性を備えて大勢を率いていた」

 

ルーピンはヴォルデモートのことを例のあの人ではなくヴォルデモートと呼んだ。

英国魔法界でヴォルデモートの名前を恐れずに呼ぶ人間は少ない。

 

無論、エスペランサはヴォルデモートという名前を恐れてはいなかった。

名前を恐れるという考え方も理解できなかったし、そもそもヴォルデモートは彼にとってただの敵でしかなかったからである。

センチュリオンの隊員にもヴォルデモートを恐れないように教育をしていた。

例えば駆け足をする際の掛け声で「ヴォルデモート イズ サノバビッチ」と言わせていたりする。

 

「自分はダンブルドアのような人格者ではありません。ヴォルデモートのような強力な力も持っていません。成績も中の上。英国魔法界を変えるほどの影響力はありません」

 

「私はそうは思わない」

 

「え?」

 

「ダンブルドアもヴォルデモートも成し遂げなかった事を君は既にやってのけている。それは、寮の壁と魔法界の固定概念を壊すという事だ」

 

「そんな事をした記憶はありませんが」

 

「君が仲良くしている面子は寮も出身もバラバラだ。純血家系もマグル生まれもグリフィンドールもスリザリンもごちゃ混ぜの派閥だ。今まで、ホグワーツは寮同士がこうも交流しあう事はなかったし、組織を編成する事もなかった。古い考え方が蔓延っていた。でも君は………」

 

「それを壊した……と」

 

「そうだ。それはダンブルドアですら出来なかったことさ。英国魔法界の魔法使いは全員、ホグワーツ出身だ。だから寮の対立…主にグリフィンドールとスリザリンだけれども…は英国魔法界全体に蔓延している。だから13年前にはあんな戦争が起きたんだ」

 

 

異なる思想の対立が争いを生むのは古今東西、何時の時代も同じだ。

人間が人間である限り争いは無くならない。

国境を無くせば戦争は無くなるか。

否、内戦が起こるだけである。

武器を無くせば戦争は無くなるか。

否、今度は拳と拳で争いが生まれるだけだ。

 

だから、エスペランサは武器を捨てないし平和的解決をしない。

 

だが、現状を改善する事はできる。

 

闇の魔法使い、テロリスト、独裁者。

意図的に平和を乱そうとする人間を葬り去って今より平和な世界を生み出す。

それがエスペランサ、いや、センチュリオンの行動理念であるはずだった。

 

 

「この1年。私はこの学校の生徒達を見てきた。だからこそ、君を中心としたグループが密かに出来ているのも何となくわかった。それは悪い事ではない。死喰い人のように悪に染まった組織ではなく、かといってダンブルドアの組織した集団のように善人過ぎるわけでもない。でも私は君たちの存在がこの魔法界を良い方向へ導いてくれるものだと信じている」

 

「先生………それは……」

 

「君は君の信じる道を進めば良い。うん。私も少しは教師のようなことが言えたかな………」

 

 

リーマス・ルーピンはそう言って老けた顔で笑った。

 

 

 

 

 

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試験が終わったエスペランサはいよいよホグワーツ周辺に存在する吸魂鬼の撃滅作戦の発動を決めた。

 

バジリスクの毒から造られたポイズンバレットの数が戦闘を行うことの出来るくらいには揃ったこと。

吸魂鬼の倒し方が確立されたこと。

これらの条件が揃ったため、吸魂鬼撃滅作戦を行う事が可能となった。

 

また、シリウス・ブラックが捕まって吸魂鬼が撤退してしまえば吸魂鬼撃滅作戦は行う事が出来ない。

故に早いところ作戦を発動する必要があった。

 

エスペランサは試験が終了して暇をもてあましていたセンチュリオンの隊員数名を集めて偵察分隊を編成し、作戦予定区画である禁じられた森の調査へ向かわせた。

同時にセオドールやフローラ、遊撃部隊長のセドリック、後方支援責任者のフナサカらを必要の部屋に呼び、作戦の細かな内容を決める会議も開いた。

 

試験期間には勉強用の部屋であったブリーフィングルームは久々に本来の使い方で使われる事になったのである。

 

作戦の概要自体は試験前から大方決めていたし、発動が試験終了後すぐになることは分かっていたが、それでもかなり急な話ではある。

 

 

部屋の中心にプラスチック製の机を置き、その上に手作りではあるがホグワーツの地図を載せ、その周りに5名の隊員が集まっていた。

 

 

「吸魂鬼撃滅作戦を発動する。今日、各部隊の責任者に集まってもらったのはその作戦を考えるためだ」

 

エスペランサは集められた隊員たちの顔を見ながら言った。

 

「遂に来たか………。それにしても急過ぎないか?」

 

「試験も終了し、弾薬も確保した。発動にはもってこいの時期だ。試験終了後すぐのタイミングならば教師は試験の採点、生徒は試験の疲れから休養をするだろうし、我々の作戦を察知されない。問題は発動する時間だが………」

 

「それなら意見が」

 

 

セオドールが挙手して発言する。

 

 

「何だ。言ってみろ」

 

「発動はハグリッドのヒッポグリフが処刑される時間が良いんじゃないか?不謹慎だが、ヒッポグリフの処刑にはダンブルドアをはじめとして職員数名が同行する。我々の動きを職員に察知されにくい」

 

「バックビークの処刑はまだ決まったわけじゃない」

 

 

バックビークの処刑は決まっていなかった。

本日の夕方に魔法省の役員がホグワーツを訪れて現地で裁判の判決を行うようである。

しかし、裁判とは名ばかりでバックビークの処刑はほぼ決定しているようなものであった。

多額の財産で魔法省を牛耳るマルフォイ家がバックについているのだからバックビークに勝ち目はない。

 

ハリー達3人はハグリッドとバックビークのために裁判の手伝いをしていたようであるがエスペランサはセンチュリオンの活動を優先したために手伝わなかった。

 

 

「どちらにせよ、バックビークの裁判にはダンブルドアも出席すると思うよ。ダンブルドアはハグリッドの味方だし。問題は詳細な時間だけど………」

 

「マルフォイに聞けば喜んで教えてくれるだろう。奴の親父はこの件に深く関わっているしな。僕が聞いておこう」

 

セオドールとネビルの会話を聞きながらエスペランサは考える。

確かにバックビークの処刑の日なら職員も生徒もそっちの方を注目するだろうからセンチュリオンの動きを察知されないで済むかもしれない。

作戦区域を処刑決行の場所から遠い場所にする事と、処刑実行時間と作戦時間を被せない事が必要不可欠となるが………。

 

 

「吸魂鬼の数は数百体だろ?その数の吸魂鬼を作戦区域までおびき寄せる手段はどうするんだ?ついでに言えば数百体の吸魂鬼を吹き飛ばすほどのナパーム弾を使用した作戦をどこで行うんだ?規模的に隠し通せるものじゃないと思うんだが」

 

 

今度はフナサカが発言する。

エスペランサはフナサカの疑問に答えた。

 

「その疑問はもっともだ。前回は1体の吸魂鬼のみを相手にした。だが、今度は数百体の吸魂鬼を相手にしなくてはならない。まず使用するナパーム弾であるが、これはM4と呼ばれる米軍がベトナム戦争で使用したものと同種のものを使用する」

 

 

M4。

米軍が正式に使用している吸湿性のないナパーム弾であり、魔法により作り出したナパーム剤と必要の部屋を最大限に利用してエスペランサは開発に成功した。

本来なら軍需工場で作り上げるものであり、子供が作れるようなものではないのだが、魔法というのは便利なものである。

杖を一振りするだけで工場のラインの過程を全て自動でやってしまった。

 

 

「米軍で使用されるM4ナパーム弾の効果範囲ならば密集した数百の吸魂鬼を倒す事は可能。問題は前回の作戦よりも盾の呪文で爆発と吸魂鬼を押さえ込む人員を多く確保しなくてはならないという点だ」

 

「吸魂鬼の誘導は?」

 

「本来ならシリウス・ブラックを生け捕りにして、囮とすれば吸魂鬼をおびき寄せることも出来る筈だが………。まあ現実的ではないな」

 

「とすると僕達の出番になるわけだな」

 

 

遊撃部隊の長であるセドリックが言う。

彼は前回の作戦で吸魂鬼を作戦ポイントまで箒を使用して誘導するという任務を遂行した実績があった。

 

 

「前回は吸魂鬼3体のみを誘導すればよかったが、今回は数百体を相手にしなくてはならなくなる。同様の作戦は使えん」

 

「前回の作戦で吸魂鬼の移動速度や旋回性能に関する情報は収集済みじゃないか。事前に吸魂鬼を箒で回避する訓練も行ってきた。誘導は十分可能。僕はそう思う」

 

「セドリック。箒での誘導は最悪の場合使用する第2案とした筈だ。俺は隊員に犠牲の出るようなリスクある作戦は立案できない」

 

 

セドリックの乗る箒であるクリーンスイーブ7号の最高速度と吸魂鬼の最高速度は箒が若干速い程度。

しかし、吸魂鬼の機動性と、その数からして誘導は困難を極める。

前回の作戦でも迫撃砲の発煙弾を駆使して何とか誘導に成功したのだ。

 

 

「そもそも吸魂鬼は城の外周にバラバラに配置されているからそれら全部を同時に誘導するのは難しいだろう。城の外周に居る吸魂鬼全てが食いつく様な囮を作戦ポイントに配置するのがやはり適切だと思う」

 

セオドールが言う。

 

例えばシリウス・ブラックを作戦ポイントに配置すれば、城の周りに存在する吸魂鬼は全員、殺到するであろう。

もしくはハリー・ポッター。

彼もまた吸魂鬼をおびき寄せる性質を持っている。

 

吸魂鬼は城内に入ることが出来ず、彼らの主食である人間の幸福感を吸い取る事ができないために餓えていた。

故に城外に「辛い記憶」を持つハリーを出せば必ず食いついてくるだろう。

 

だが、センチュリオンの隊員ではない非戦闘員のハリーを戦闘に巻き込むわけには行かない。

 

 

「それなら…………」

 

今まで一言も発していなかったフローラが唐突に口を開いた。

 

「私が囮になります。吸魂鬼をおびき寄せる素材としてはふさわしいと思いますが………」

 

「なっ!?」

 

「ホグワーツ特急の中で吸魂鬼はハリー・ポッターだけでなく私にも襲い掛かってきましたし、彼同様、私も吸魂鬼の影響を強く受けます。城外に私が単独で出れば吸魂鬼たちは食いついてくると思いますが」

 

 

フローラは表情を一切変えずに言ってのけた。

 

確かに彼女はハリーと同様に吸魂鬼をおびき寄せる事が出来る人材ではある。

だが………。

 

「危険過ぎる」

 

「何故です?この作戦を成功させるには囮が必要不可欠なんですよね?ハリー・ポッターは非戦闘員であり一般生徒なので囮には出来ない。なら私しかいません」

 

「だが………」

 

 

反対するエスペランサをフローラは押し切ろうとする。

 

 

「私もこの部隊の戦闘員であることに変わりはありません。危険は承知の上です。それとも、あなたは私を危険な目に遭わせたくないという私的な感情で反対するんですか?」

 

「……………わかった。吸魂鬼の誘導に関してはフローラを囮とする方針で行く。ただし、隊員に犠牲者を出すつもりは毛頭無い。自分の命は粗末にするな。これは絶対命令だ」

 

 

エスペランサは自分の命が危険になる事態は想定していたし、覚悟していた。

しかし、部下である隊員たちの命を危険に晒すことは躊躇していたのかもしれない。

彼は傭兵時代、指揮官を務めたことは勿論無かったので、部下の命を預かるという状況に陥ったことはなかったのだ。

 

指揮官としては彼はまだ未熟だったのである。

 

フローラの目は本気だった。

 

数日前に彼女がエスペランサに言った言葉の意味を、彼はここではじめて理解した。

 

 




原作の時系列は

ハリーが占い学の試験を受ける

ハグリッドから手紙が届きバックビークの処刑が決まる

ハグリッドのところへ行く

その後、あばれ柳でシリウスに遭遇

だったと記憶しています。
つまりエスペランサは試験終了後、すぐに隊員を招集して作戦決行を伝えたわけです。
かなりのハードスケジュール………。

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