ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

45 / 112
続けて投稿します。

引き続きアズカバンの囚人のラストスパートにあたる部分ですが、ハリーの行動はほぼ端折っているので原作未読だと時系列が分かりにくいかもしれません。

基本的にエスペランサの作戦行動中にハリーたちはシリウスと遭遇しています。




タイトルがネタ切れで思いつかない………


case42 Mortar! VS Dementor 〜迫撃!VS吸魂鬼〜

バックビークはやはり処刑となった。

 

 

ハリーたちの元へハグリッドからバックビークが処刑されることが決まった旨を伝える手紙が届いていたらしい。

 

 

「僕たちに何か出来ないかな………」

 

グリフィンドール寮の談話室にあるソファに座りながらハリーがつぶやいた。

彼の目の前のテーブルにはハグリッドからの手紙が置かれている。

字が汚いのとハグリッドの涙で滲んでいるために解読が難しい手紙ではあったが、バックビークの処刑が決まった旨が書かれていた。

 

 

「裁判は覆らないわ。残念ながら。でも、処刑の前に会いに行って慰めてあげれたら………」

 

「うん。そうしよう。今から行けば門限までには帰って来れるし」

 

 

ハリーたち3人はハグリッドの小屋に行く用意をし始める。

 

 

「エスペランサは??」

 

「俺は行かない。大勢で行っても迷惑だろ?」

 

「そりゃないぜ。そういえばエスペランサはバックビークの裁判を手伝わずにどこか行ってたよな。いったい何してたんだ??」

 

 

ロンがエスペランサに聞く。

 

バックビークの処刑までに残された時間は少ない。

この限られた時間でセンチュリオンの隊員を作戦位置に配置し、必要の部屋から武器弾薬を運び出さなくてはならない。

正直言ってエスペランサはバックビークの処刑前にハグリッドを訪ねている暇などなかった。

 

今も彼は作戦を頭の中でシミュレートしている最中だったのだ。

 

ここ数か月、エスペランサはハリー、ロン、ハーマイオニーとの交流はかなり少なくなっている。

 

 

「気の合う連中と試験勉強をしていただけだ。それに正直な話、俺はハグリッドを慰めることはできないと思う」

 

「どうしてだい??」

 

「俺は昨年、ハグリッドの友達とやらをまとめて爆破した人間だぞ。なんて言って慰めれば良いんだ?」

 

「あ、ああ。そんなこともあったね」

 

 

ロンは昨年、アラゴクとゆかいな仲間たち(アクロマンチュラ)との戦闘を思い出したのか、身震いした。

 

エスペランサはアクロマンチュラを吹き飛ばしたことに何の罪悪感も感じていなかったが、ハグリッドとは何となく距離を置いていた。

彼の友人を吹き飛ばしておきながら親しく接するのもどうかと思っていたからだ。

 

 

「てなわけで俺は行かない。だが、バックビークのために神に祈っておくよ。まあ、神なんて信じてないんだけどな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

作戦の発動まで30分を切っている。

 

薄暗い天幕の中、腕時計を見ながらエスペランサはそう思った。

 

ハリー達を見送ってから直ぐに彼は必要の部屋に行き、作戦の準備を隊員たちと開始したのである。

 

吸魂鬼を撃滅するキルポイントは禁じられた森の中で最も大きい湖の上とした。

ここならばナパーム弾の鎮火も早く、2次災害も起きにくい。

 

作戦の第1段階は、城内で待機させておいたフローラをキルポイントである湖の湖畔に単独で前進させる。

十中八九、吸魂鬼はおびき寄せられるだろうが、万が一、おびき寄せられなかった場合の事も考えなくてはならない。

その場合、中距離火器である81ミリ迫撃砲の砲撃を城外でうろつく吸魂鬼へ撃ちこむことで気を引く。

 

無論、迫撃砲の砲撃音を城内にいる生徒や教師に聞かれては不味いので「マフリアート 耳塞ぎ」の呪文は広範囲にわたってかけることが徹底されていた。

 

ナパーム弾は湖を囲うように、湖畔にびっしりと埋め(本来なら重労働であるが、魔法を利用することで10分で作業が完了した)、遠隔操作が出来るように起爆装置から有線ケーブルを延ばしていた。

この起爆装置につながる有線ケーブルは、起爆装置自体に起爆用の電気信号を流すためのものである。

有線ケーブルはフローラが待機する湖畔とは反対側の湖畔に設営された作戦本部内に繋がっている。

 

作戦本部は巧妙に草木で偽装され、外からはただの茂みにしか見えない天幕で作られており、湖畔の様子を常に監視する事ができるようになっていた。

 

この作戦本部内には無線機と発電機、予備弾薬が運び込まれている。

本部に待機するのは指揮官であるエスペランサと通信係となったフナサカ。

加えて、万が一の時、湖畔のフローラをポイズンバレットによって援護するための狙撃手であるネビルとアンドリューを待機させていた。

アンドリューはネビルほどではないが射撃の腕を買われて第2分隊から急遽、狙撃員にまわされてきている。

 

本部の横には81ミリ迫撃砲L16が1門とそれを扱う隊員2名が待機していた。

 

先の作戦でも迫撃砲を扱ったアーニーとダフネである。

本来、4名で扱う迫撃砲であったが、魔法を駆使して運用するために人員が削減されている。

 

また、遊撃部隊の3名は禁じられた森の外周を常時飛行して吸魂鬼の様子を報告する観測員とした。

彼らには吸魂鬼が襲い掛かってきた場合、すみやかに安全地域である城内へ非難するように徹底してある。

 

残りの9名が今回の作戦の実働部隊となった。

 

指揮はセオドール。

編成は第1、第2分隊の混成。

 

セオドール以下、グリーングラス妹、ロジャー、ザビニ、スローパー、アボット、ボーンズ、アンソニー、マーカスが戦闘員となる。

 

彼らは湖畔をぐるりと回るように茂みに隠れて待機となっていた。

 

 

作戦の第2段階は、誘導されて湖畔にいるフローラに襲い掛かってきた吸魂鬼を閉じ込めるように、戦闘員が盾の呪文を使用。

使用する盾の呪文は最大級のプロテゴ・マキシマ。

これによって吸魂鬼は湖の上空に四方八方から放たれた盾の呪文で閉じ込められる事となる。

この隙にフローラは湖畔から退避。

 

作戦の第3段階はナパーム弾の起爆である。

起爆後、上空待機中の遊撃部隊は吸魂鬼が全滅した事を確認する。

仮に全滅していなかったら狙撃手が残党を狙撃する。

 

これが本作戦の概要であった。

 

作戦名はダウンフォール。

 

ダウンフォールは破滅、滅亡という意味があり、かつて米軍が日本を滅亡させる目的で命名した作戦から引用している。

エスペランサは吸魂鬼を滅亡させることを誓い、この作戦名を使用した。

 

 

「予備弾薬の搬入完了。5.56ミリ弾2000発とポイズンバレット120発。迫撃砲弾60発」

 

本部天幕に入ってきたフナサカが報告する。

本部天幕内から湖畔の様子を確認していたエスペランサはそれを聞いていた。

 

「ナパーム弾の設置状況は?」

 

「滞りなく完了。9名の戦闘員も配置についたと報告が………。迫撃砲も発射準備が完了した」

 

「よし」

 

エスペランサは天幕内中央に置かれた大きな机の上に作戦区域の地図を広げた。

地図上には戦闘員を表すマグネットが置かれていて、現在の状況が一目で分かるようになっている。

彼は戦闘員を表す9つのマグネットを湖の外周に配置した。

 

 

「大丈夫だ。シミュレーションも重ね、各機器の整備も万全」

 

エスペランサは自分に言い聞かせる。

 

大きく深呼吸をした後、机の上に置かれた通信機のマイクを掴む。

送話スイッチをオンにし、全隊員に通信ができるようにした。

 

 

「総員に告ぐ。ダウンフォール作戦を予定通り発動させる。チョコレートの準備は万全か?各人、与えられた仕事を全うしろ。今までの訓練はこの日のためにあった。失敗は許されん。必ず吸魂鬼どもを消し炭にしてやれ!」

 

 

一旦、通信を止めて再び腕時計を見る。

 

すでに9分が経過し、作戦開始まで秒読み段階になっていた。

 

 

10,9,8,7,6,5,4,3,2,1…………。

 

 

「状況開始!!!ダウンフォール作戦始動!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

作戦の最初の段階はフローラが湖畔に単独で前進するところから始まる。

彼女は待機場所であった本部天幕横の茂みから箒で湖畔へと移動する。

 

箒から下りたフローラが薄暗い湖畔に着地した事を確認したエスペランサは天幕の外で待機している迫撃砲員に命じた。

 

「迫撃砲発射用意!」

 

「了解!迫撃砲発射用意!!」

 

 

ダフネが復唱する。

 

 

「弾種実弾。初弾命中後、AからE地点に毎分3発の間隔で発射せよ」

 

「了解!」

 

 

吸魂鬼はホグワーツ城の外周に満遍なく配置されている。

これら全部の吸魂鬼の気を引きつけるためには、外周に添って複数発の迫撃砲弾を発射する必要があった。

 

着弾目標地点は目視出来ないために自動誘導魔法は使用不能。

 

隊員2名の技量が試される事となる。

 

アーニーは魔法で81ミリ迫撃砲の砲身をホグワーツ城のほうへ向け、傍らに置かれた木製の弾箱から81ミリ迫撃砲弾を取り出した。

周囲を木々で覆われた上に、頼りが月明かりのみという状況下で精密射撃は不可能。

あらかじめ弾着位置を計算して、砲弾の飛距離の調整はしていたが、少しでもミスをすればホグワーツ城に砲弾が撃ち込まれてしまう。

 

アーニーは一呼吸置いて、砲弾を黒光りする迫撃砲の砲身に差し込んだ。

 

 

「半装填良し」

 

「半装填良し」

 

ダフネが復唱する。

彼女は次弾である砲弾の調整を行っていた。

 

 

「発射!!」

 

 

 

 

ボンッ

 

キイイイイイン

 

 

 

砲弾が勢いよく飛び出す。

 

飛び出した砲弾は禁じられた森を抜けて、ホグワーツ城の外周で漂っている吸魂鬼の群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

禁じられた森の上空で待機していたセドリックは迫撃砲弾の第1段目が予定通り、城の外周(吸魂鬼がワラワラ居る)に着弾したのを双眼鏡越しに確認した。

 

マフリアートの魔法がしっかりと働いているためか、城内から爆発音を聞きつけた生徒や教師が出てくる気配も無い。

 

着弾した砲弾は芝生の斜面を抉り、爆発とともに大きなクレーターを作った。

付近に浮遊していた吸魂鬼10体は爆発に驚き、散開する。

 

 

「こちら遊撃部隊セドリック。初弾命中。城内の人間に気付かれた様子は無い。吸魂鬼は爆発に気がついた模様」

 

 

セドリックはポータブル無線機のヘッドセットを使い、本部へ報告をする。

 

 

森の中からはさらに迫撃砲の発射音が聞こえた。

 

 

ボン

 

ボン

 

ボン

 

 

初弾の命中した場所から東へ200メートル離れた地点に第2弾が、続いてさらに200メートル東へ離れた場所に第3弾が着弾する。

 

城の外周の暗い草原に一瞬だけ真っ赤な爆煙が立ち上り、周囲に漂う数十体の吸魂鬼を巻き込む。

無論、通常の物理攻撃は吸魂鬼に効かない。

 

だが、吸魂鬼たちは自分たちが攻撃されていることに気がついたようだ。

 

怒り狂った吸魂鬼たちは自分達を攻撃した者がどこにいるかを探ろうとする。

 

 

 

「気がついたようだな………」

 

双眼鏡で吸魂鬼たちの動きを観測していたセドリックは呟く。

 

吸魂鬼には目が無い。

彼らは“人間の幸福感”を捕食することを第一にする生き物である。

故に、目が無くとも、人間の感情を察知する事が出来る。

人間の感情を映し出すレーダーを内蔵し、その方向へ移動する事ができる、というわけだ。

 

吸魂鬼たちは城外の禁じられた森に複数人の“人間の感情”が存在する事に気づいた。

 

間違いない。

自分達に攻撃を仕掛けてきたのはこの“感情たち”だ。

 

そして、吸魂鬼たちは気付いた。

 

その無数の“感情たち”の中に自分達の“好物”が混じっていることに。

 

 

そう。

フローラ・カローである。

 

彼女の記憶と感情は彼らの好物であった。

 

迫撃砲弾の攻撃を受けた数百に及ぶ吸魂鬼たちは一斉に禁じられた森の中にある湖に移動を開始した。

 

それが罠だとも知らずに。

 

 

 

 

セドリックは吸魂鬼たちが迫撃砲弾の攻撃で出来た黒煙の間から禁じられた森の方向へ殺到してくるのを確認すると、背後で同じく飛行中であったコーマックとチョウに退避命令を出した。

 

「退避だ。吸魂鬼に囲まれるぞ」

 

「「了解」」

 

彼は無線を本部に繋ぎ、報告する。

 

「こちらセドリック。吸魂鬼目測で約200体が真っ直ぐ突っ込んでくる。距離からして到達までに5分とかからない。遊撃部隊はHQまで後退し、安全地帯から上空警戒を行う」

 

『こちらCPフナサカ。了解した。あとはこっちに任せろ』

 

 

200体の吸魂鬼が迫ってくる。

まるでブラックホールが向かってくるようだ。

 

セドリックは若干の恐怖を抱いて後退を開始した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「来た………」

 

 

フローラは湖畔に立ちながら吸魂鬼の襲来を肌で感じていた。

 

夏なのに感じる冷気。

思い出される最悪の記憶の数々。

 

ありとあらゆる闇の魔術で行われた拷問の数々。

祖父の死を知らされた瞬間。

 

それらを振り切るように彼女は手に持っていたチョコレートバーを噛み砕いた。

 

私は大丈夫だ。

今はあの時と違い、力がある。

仲間も居る。

 

 

湖の向こう側には偽装されて視認できないが、エスペランサが待機している本部天幕がある。

周囲には仲間の隊員が展開している。

 

近くにエスペランサが存在しているという事実だけでフローラは吸魂鬼の襲来を怖いと思わなくて済んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

作戦開始から5分以上が経過している。

 

異変は湖の西で起きた。

 

茂みに隠れながら小銃を構えていたアンソニーは何か“獣のような臭い”が自分の鼻を突いたのを感じた。

 

 

「あ??何だこの臭いは……」

 

 

彼は上半身を起こして茂みから顔を出すと、周囲を観察した。

とは言え、森の中は真っ暗で何も見えない。

 

ルーモスの呪文で周囲を照らす事も考えたが、作戦中である現在、それはできない。

 

 

「………魔法生物…か?」

 

 

そう呟き、再び茂みに隠れようとしたときだ。

 

 

「グルオオオオオオオオオ」

 

 

「なっ!!??」

 

 

背後の茂みからソレが飛び出してきたのは。

 

ソレ。

 

狼と人間を足して2で割ったらそのような姿になるだろう。

人狼である。

 

身長は2メートルを越える。

牙も爪もサバイバルナイフのように鋭利で、月明かりに照らされて不気味に光っている。

 

赤い目は獰猛さを具現化しているかのようだ。

茶色い体毛で覆われたその人狼は獲物……アンソニーを見つけ、襲い掛かってきた。

 

 

「来るなあアアアアアアアア!!!」

 

飛び掛ってくる人狼に彼は銃撃を浴びせる。

 

 

 

タタタタタン タタタタ

 

 

暗闇をマズルフラッシュが照らす。

 

しかし、人狼は予想以上の敏捷性を見せ、銃弾を避けてしまう。

センチュリオンの隊員たちが持つ銃は自動追尾の魔法がかけられていた。

 

しかし、自動追尾魔法は基本的に敵目標を常に視認していなければ発動しない。

 

人狼は視認が困難なほどに速い動きをしていた。

 

 

「くそおおおお!!CP!CP!こちらアンソニー!!エマージェンシーコール!!人狼だ!!襲われている!!」

 

 

パニックに陥ったアンソニーの右腕を人狼は長い爪で引き裂き、本部天幕の方へと走り去っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アンソニーの無線と銃声を聞いたエスペランサは焦燥していた。

 

人狼だと!?

このタイミングで!?

どこから現れたんだ!?

 

 

「アンソニーは負傷。近くの隊員が救援に………」

 

各隊員から送られてくる情報をまとめていたフナサカが報告する。

 

「照明弾を打ち上げろ!人狼の現在地を把握せねば」

 

「吸魂鬼に作戦を悟られるから照明弾は使用禁止では……?」

 

「構わない。打ち上げるんだ。待機中の隊員は周囲の警戒を怠るな!どこから攻撃してくるか分からん!!」

 

 

エスペランサは無線で全隊員に人狼の襲来を知らせた。

 

他の隊員たちは少なからず動揺したようだ。

 

 

 

 

ヒュルルルッルル  パアアアアン

 

 

 

迫撃砲から放たれた照明弾が真っ暗な森を昼間のように照らした。

 

エスペランサはネビルとアンドリューを引き連れて本部天幕を出る。

 

 

「居た!!あそこ!」

 

アンドリューが木立の間を失踪する人狼を見つける。

人狼は暴れながら隠れていた隊員たちに襲い掛かっていた。

 

 

「くそっ!何だあの人狼は!」

 

「今まで禁じられた森で人狼に遭ったことなんてなかったのに………」

 

 

吸魂鬼がここへ到達するまで残り5分を切っている。

 

早く何とかしなければ隊員の命にも関わるし、作戦は失敗してしまう。

 

 

「ネビル。狙撃できるか?」

 

「あの速さじゃ自動追尾魔法は使えない……。木立が邪魔過ぎる」

 

 

アンソニーを救出したハンナ・アボットが湖畔に姿を現す。

その二人を援護する形でセオドールが疾走する人狼を掃射するが、木立が邪魔で当たらない。

 

曳光弾が闇夜に包まれた森を赤く照らしながら人狼に向かうが、そのほとんどは大木に当たるだけだった。

 

人狼は木立を縫いながら本部天幕へ向かってきているが、その過程で2名の隊員が負傷している。

 

「ぐあっ!?」

「ぎゃああ」

 

負傷した隊員はかすり傷らしかったが、腕や足を押さえながら呻いていた。

 

 

「やるしかない………。でも単発の狙撃銃じゃ当てることは不可能だ。それなら………」

 

 

ネビルは本部天幕から重機関銃であるブローニングM2を担ぎ上げた。

本作戦では使用することはないだろうが、万が一のことを考えて運び込んでおいた機関銃だ。

12.7ミリという巨大な弾丸を連発できるこの機関銃であれば、木の陰に隠れていても意味が無い。

装甲車の装甲も撃ち抜ける銃ならばあるいは………。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

同時刻。

 

フローラは突如現れた人狼に襲われる隊員たちを援護しようと懐からM92Fベレッタと呼ばれる拳銃を取り出していた。

 

 

そんな彼女の背後から新たな訪問者が現れた。

 

 

ガサガサという音と共に、背後の茂みから転げるようにして飛び出してきたのはシリウス・ブラックであった。

 

 

ボサボサの髪と髭、痩せた身体。

ボロボロになってはいるが、日刊予言者新聞に載っていた彼に間違いない。

 

何故今ここに?と疑問に思いながらも彼女はシリウスに向けて銃を構えた。

 

 

「動かないでください。シリウス・ブラックですね?」

 

 

フローラは銃口を真っ直ぐにシリウスの眉間に向けて問うたが、彼は呻くだけで何も答えない。

よほど心身がやられているようだ。

 

その原因は吸魂鬼の影響でもあった。

 

 

「不味いですね。何故こんなにもイレギュラーが………」

 

 

人狼にシリウス・ブラック。

 

このふたつのイレギュラーが吸魂鬼が到達するまで残り5分というタイミングで出現するとは……。

そして、今度は3つめのイレギュラーが現れることとなる。

 

 

「そいつを下ろすんだ!フローラ・カロー。その人は悪い人じゃない。今は話している暇はなさそうだけど」

 

「………なぜ、あなたがここへ???」

 

 

ハリー・ポッターである。

シリウスが出てきた茂みから今度はハリーが出てきたのだ。

 

流石のフローラも混乱した。

 

何故、ハリー・ポッターがこの場に居るのか。

何故、ハリー・ポッターはシリウス・ブラックを庇うのか。

ついでに人狼とこの二人は関係しているのか?

 

そうこうしている間にも吸魂鬼は近づいてくる。

 

 

フローラが湖畔の上空を見ると、吸魂鬼の先頭集団が襲い掛かってくるのが見えた。

 

 

「吸魂鬼!!!あんなに!?」

 

ハリーが驚愕する。

 

「本当にタイミングが悪いですね。あなたはそのシリウス・ブラックを連れて逃げてください」

 

「君は!?君一人残してなんて行けないよ!!!」

 

「一人じゃありません」

 

「え……??」

 

 

ハリーはシリウスを抱えながら周囲を見渡した。

 

見れば見知った学生が湖畔に転々としているのが見えた。

何人かは負傷している。

そして、彼らは全員、小銃を携行していた。

 

 

「銃………。エスペランサが関わってるの??そういえば、エスペランサは今日、何かを準備してた。ひょっとしてこれが」

 

「我々は武装しています。そして、吸魂鬼を倒すための作戦の途中です。あなたはここから立ち去ってください。正直言って邪魔ですから」

 

「でも………!?」

 

 

逃げないハリーに苛立ちを感じていたフローラであるが、吸魂鬼の第一群が湖の上空から急降下して攻撃してくるのを目の端に捕らえていた。

 

 

「吸魂鬼が!!」

 

 

フローラは杖を構える。

 

襲来する吸魂鬼を盾の呪文で湖上空というキルポイントに押しと止める。

その任務を達成しなくてはならない。

 

他の隊員も同じ考えであった。

負傷した隊員も含めて、湖畔に点々と待機していた隊員たちは銃を捨てて、杖を構え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ネビルはM2重機関銃に200連のマガジンを装填し、ジャキとスライドを引いた。

銃口を人狼の居るであろう方向へ向けてトリガーを引こうとする。

 

そのあたりに居た隊員は湖畔方面へ退避済みであった。

 

 

「居た!今ならいける!!!」

 

木立の合間を縫って走る人狼の姿を見つけ、その方面へ射撃を開始。

 

 

ドドドドドドド

 

照明弾の効果が薄れ、再び暗くなってきた森の中を12.7ミリの曳光弾が赤く照らしていく。

 

大木は銃弾で粉砕され、地面が抉れて行く。

その銃弾の内の1発が失踪する人狼の足を掠めた。

 

「ギャアアアアアオオオオオオ」

 

12.7ミリ弾は掠めただけでも人狼の太ももを2センチほど抉り取る。

けたたましい悲鳴が盛りに響き渡った。

 

 

「ヒット!!敵の動きは止まった!止めを刺すかい?」

 

「無論だ。確実に息の根を止めろ」

 

 

ネビルは倒れこんだ人狼にM2の銃口を向ける。

早いところ人狼を倒して作戦を続行しなくてはならない。

エスペランサは焦っていた。

もうそろそろ吸魂鬼の先頭集団がキルポイントに到達する頃合だったからだ。

 

 

「駄目ええええええええええええええ!!!!」

 

 

突然、エスペランサたちと人狼の間に侵入者が現れる。

 

 

「!?ネビル!撃ち方止め!」

 

「え!?」

 

 

エスペランサはネビルに攻撃中止命令を出した。

 

理由は単純。

またも第3者が介入してきたためだ。

 

 

「ハリー???」

 

 

人狼を守るようにして現れたのはハリー・ポッターであった。

 

良く見れば後ろにハーマイオニーも居る。

 

 

「どういうことだ?なぜ、ハリーとハーマイオニーがここに居る?そして、人狼を守る理由は何だ??」

 

 

エスペランサは混乱した。

 

この二人がこの時間に禁じられた森に居る事も、人狼を守る理由も謎過ぎる。

 

 

ハリーとハーマイオニーはエスペランサとネビルの前に杖を構えながらゆっくりと近づいてくる。

二人とも心なしか疲れているように見えた。

 

 

「詳しく話している時間は無いよ。兎に角、その銃を撃つのは止めてくれ」

 

「止めてくれって………。何故、人狼を守るんだ?いや、お前達はそもそも何のために???」

 

「それは私たちの台詞でもあるわ。エスペランサ。それにネビルも。これは一体何の集まりなの?あなたたちは何をしようとしていたの?」

 

 

ハーマイオニーが聞いてくる。

 

正直に話すべきかどうかエスペランサは迷った。

しかし、一々説明している時間はもう無い。

 

 

「エスペランサ!無線に入電!吸魂鬼の第一群がキルポイントに到達した。それと、予想外の事態なんだが、シリウス・ブラックとハリー・ポッターも湖畔に現れた!」

 

背後の本部天幕からフナサカが飛び出してきて報告する。

迫撃砲についていた2名の隊員も一緒だった。

 

 

「フナサカ。何を言ってるんだ?ハリーはここに居るぞ」

 

「ええええ!!??」

 

 

フナサカは目を丸くして驚く。

 

エスペランサは湖を挟んで向こう岸の湖畔を見た。

そこには“もう一人のハリーが居た”。

 

 

「は??」

 

「何が……どうなってるんだろ?ドッペルゲンガーか??」

 

隊員たちは混乱する。

 

「エスペランサ。時間が無いのはお互い様よ。端的に言えば、あの人狼はルーピン先生で、シリウスは無実なの」

 

「どういう……ことだ??」

 

 

人狼がリーマス・ルーピンでブラックが無実。

悪い冗談にしか聞こえなかった。

しかし、エスペランサの頭は突如起きた複数の出来事でパンク寸前である。

 

 

「まずい。吸魂鬼がキルポイントに到達する。エスペランサ!指示を!!!」

 

「…………予定通り作戦を最終段階に移行する。ハリー、ハーマイオニー。お互い説明は後だ。我々はこれから吸魂鬼の群れを撃滅する。お前達は巻き込まれないように避難してくれ」

 

 

その言葉にハリーは驚愕した。

 

 

「吸魂鬼を倒す!?そうか……あの時の爆発…………。あれは守護霊の呪文ではなく、君たちだったのか。ルーピン先生があんなふうになっていたのも………全て納得できる」

 

「何を言ってるんだ?」

 

「僕とハーマイオニーはルーピン先生を連れて帰る。ネビルの銃撃のおかげで動けないみたいだし、全身金縛りの術で何とかなる筈だ」

 

 

そう言ってハリーとハーマイオニーは杖を構えつつ木立の影で倒れている人狼の方へ走っていった。

 

 

狐につままれた気分のエスペランサであったが、瞬時に頭を切り替えて作戦を続行する。

 

見れば吸魂鬼の先頭集団は既にフローラやもう一人のハリー、そしてシリウスを攻撃し始めていた。

フローラは盾の呪文、ハリーは恐らく未完成の守護霊の呪文で交戦しているが、分が悪すぎた。

 

吸魂鬼の数は総数で200。

正気を保つのがやっとだろう。

 

エスペランサはフナサカの持つ無線機の送信機を手に持って告げた。

 

 

「全隊員。盾の呪文を展開し、吸魂鬼をキルポイントに押さえ込め!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

エスペランサの命令を聞いたセオドールは杖を湖の上空に向けた。

 

数々のイレギュラーはあったものの、ようやく作戦の最終段階である。

吸魂鬼200体はほぼ全てがキルポイントである湖の上空に到達しようとしていた。

 

彼自身、吸魂鬼の影響を受けて体力と気力が著しく低下している。

 

しかし、それは全隊員が同じ事だ。

特にフローラは吸魂鬼の先頭集団数十体を相手に善戦している。

盾の呪文は吸魂鬼の撃退は出来ないが、物理的な壁を作る事で吸魂鬼の接近をある程度防ぐ事はできる。

だが、吸魂鬼の影響は受けてしまうため長くは保たない。

 

 

「総員!!盾の呪文を展開しろ!!プロテゴ・マキシマ!!!!!」

 

 

「「「「 プロテゴ・マキシマ!!! 」」」」

 

 

隊員たちは負傷者含めて戦闘員全員が茂みから飛び出して湖畔に立ち、湖を覆うような形で最大級の盾の呪文を展開する。

 

湖の上空でフローラたちに攻撃を仕掛けようとしていた200体の吸魂鬼は、突如として自分たちが見えない透明なシールドで湖上に囚われた事に驚いているようだった。

半径50メートルほどの湖の上に無数の黒いフードが身動き出来ずに漂う光景は地獄絵図であった。

 

 

「うおおおおおおお!!!」

 

 

流石に200体の吸魂鬼を前にして正気を保つのは難しい事である。

 

ここ数ヶ月。

訓練によって精神を鍛えてきた隊員たちであっても気力を保つ事は難しかった。

だが、彼らは気合で押し切る。

 

 

「踏ん張れ!!ここで踏ん張れば吸魂鬼を倒せるんだ!!!!」

 

 

盾の呪文は気力が強ければ強いほど威力が高くなる呪文である。

ならば気力を保たなくてはナパーム弾の爆発を防ぐ事はできない。

 

歯を食いしばり、セオドールは叫んだ。

 

 

「エスペランサ!!!!ナパームを起爆させろおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

フローラも限界が近かった。

 

 

シリウス・ブラックはとっくに気絶し、守護霊の呪文を使って戦っていたハリーも膝をついてしまった。

他の隊員の援護はあれど、吸魂鬼の先頭集団数十体を彼女は一人で請け負ってしまっていたのである。

 

本来なら、先頭集団がフローラを襲う前にナパーム弾の起爆段階に移行する筈であったし、それが出来なくても、本部狙撃手2名がポイズンバレットで彼女を援助する筈だった。

 

しかし、人狼の侵入と2人目のハリーの乱入でそれらの援護が遅れてしまい、結果的にフローラが戦闘をする羽目になったわけである。

 

 

体の心から冷え切り、意識は朦朧とする。

足に力は入らず、盾の呪文の展開もままならない。

 

 

「起爆は………まだなんですか……??」

 

 

フローラは薄れ行く意識の中でそう呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

湖畔にいる隊員たちが盾の呪文で湖全体を吸魂鬼ごと囲ってしまったのを確認したエスペランサはすぐに本部天幕内に入った。

 

フナサカやネビルたちも盾の呪文の展開に助勢し、また、上空警戒中であったセドリックたち遊撃部隊の隊員はフローラとハリー、ついでにシリウスの救助に向かっている。

ならばエスペランサの役割は一つだけ。

電気信号を送り、起爆装置を作動させるだけである。

 

 

「これで終わりだ。吹っ飛べ吸魂鬼!!!」

 

 

エスペランサは電気信号を送るためのスイッチを勢いよく押した。

 

 

 

 

 

 

………

 

 

……………

 

 

 

……………………

 

 

何も起こらない。

 

 

 

「なに???」

 

 

もう一度スイッチを押しても何も起こらなかった。

 

 

彼はスイッチから伸びる有線のコードを引っ張ってみる。

すると、その有線のコードが途中で何箇所も切れていることが分かった。

 

 

「何故だ!!こんなにコードがボロボロになる筈………。人狼か!!」

 

 

人狼は湖畔で暴れながら隊員を襲っていた。

 

ちょうどその辺りは有線のコードを伸ばしていた場所である。

人狼が暴れてコードを何箇所も断線させてしまったらしい。

 

1箇所ならともかく、こうも複数の箇所をボロボロにされてはレパロの呪文で修復するのは難しい。

全箇所を修復していたらかなりの時間がかかってしまうだろう。

 

エスペランサはボロボロになったコードの端を持ちながら絶望した。

 

そうこうしている間にも隊員たちは吸魂鬼に気力を奪われていく。

 

 

「くそったれ!!!失敗させてたまるか!」

 

 

彼は本部天幕内の端に緊急脱出用として置いておいた箒を手にして飛び出した。

箒はコメット260号というものだ。

 

エスペランサは箒による飛行を得意とはしていない。

真っ直ぐに飛べたためしがないほどだ。

しかし、やらなければ作戦が失敗し、隊員に犠牲者が出る。

 

腐葉土で覆われた地面を蹴り飛ばし、箒に跨ったまま宙に浮いたエスペランサはナパーム弾が埋められている箇所へ向かった。

 

 

「セオドール!!!一時的に一箇所だけ盾の呪文を解除しろ!!!俺が直接ナパームを起爆させる!!」

 

湖畔に居るセオドールに箒で飛行しながら叫ぶ。

 

「何だって!?馬鹿な!!」

 

「いいからやれ!!!俺がキルポイント内に侵入したら再び盾の呪文を展開しろ!」

 

ナパーム弾が埋められているのは湖の中心にある直径7メートルほどの孤島の上である。

そこへたどり着くためには盾の呪文を一箇所解除して、シールド内に侵入しなくてはならなかった。

 

「君は死ぬつもりなのか!!」

 

「そんな気は毛頭無い。起爆と同時に俺も個人で盾の呪文を展開して爆発から身を守る!!!」

 

「そんなことが………」

 

 

そう言っている間にエスペランサは盾の呪文が解除された場所、すなわちシールドの穴から吸魂鬼がうごめくキルポイントへ突入してしまった。

 

 

吸魂鬼の群れをかわしながら彼は孤島に降り立ち、半分地面に埋められたナパーム弾を見つけた。

 

獲物であるエスペランサを見つけた吸魂鬼は彼に襲い掛かってくる。

 

 

「悪いな。お前らはここで終わりだ」

 

 

彼は杖を取り出し、それを掘り起こした起爆装置に向ける。

 

 

「“エレクト・テーレム”武器よ作動せよ」

 

 

慣れ親しんだ武器を起動させる呪文。

杖から出た閃光は起爆装置に命中し、ナパーム弾が爆発する。

 

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン

 

 

 

過去、あらゆる戦争で米軍が使用した業火を伴う兵器が湖の水を蒸発させ、孤島の草を燃やし尽くす。

盾の呪文で封じ込められたキルポイント内はナパーム弾の爆発と魔法の作用によって、この世の理が歪められる。

その結果として吸魂鬼はこの世に存在する事が許されなくなり、消滅していった。

 

 

「プロテゴ・マキシマアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 

爆発から身を守るためにエスペランサは最大級の盾の呪文を自分の周りに展開させた。

 

この試みは2回目であったが、ナパームの爆発は想像以上に激しかった。

呪文によって展開した透明なシールドは歪み、今にも割れそうになる。

 

 

「ぐおおおおおおお!!!」

 

 

プロテゴマキシマの呪文は使用者が任意の場所、任意の範囲に球状のシールドを展開してあらゆる物理攻撃から身を守るためのものである。

 

現在、エスペランサの周囲にシールドが展開し、ナパーム弾の爆発から彼自身を守っていたが、気を抜けばそのシールドが破られそうであった。

周辺の草、砂利といった物体は全て溶け出し、失明しそうなほどの閃光が襲い掛かる。

 

 

爆発は数秒であったが、彼にはそれが永遠の時間に感じられた。

 

 

 

ジュウウウウウウウ

 

 

 

やがて、爆炎も終息し、辺りには静寂と暗闇が戻ってくることとなった。

 

エスペランサ杖を構えたまま、立ち上がり周囲の状況を確認する。

 

湖からは湯気が立ち上り、湖畔や彼の居る孤島に生えていた草は全て燃え尽きていた。

砂利も岩も真っ黒に焦げてしまい、物が燃える臭いが鼻をつく。

 

 

「ゴホッ。やったの……か?」

 

 

湖畔には未だに杖を構えたままの隊員たちがフラフラになりながら立っている。

 

 

「全隊員に告ぐ!吸魂鬼の残党がいるかもしれない!気を抜くな。周囲を警戒し、完全に安全が確保できるまで状況を継続せよ」

 

 

そう叫んでエスペランサ自身も杖を構えながら360度、未だに黒煙で覆われるキルポイントを警戒した。

他の隊員も小銃や杖を構え、周囲を警戒する。

 

しかし、いくら目を凝らしても吸魂鬼の姿は確認できなかった。

 

思えば吸魂鬼が近くに居る時特有の悪寒や絶望感を感じる事がなくなっている。

 

 

「こちら湖畔西岸。吸魂鬼確認できず」

 

「東対岸。同じく」

 

「本部警戒中フナサカ。湖に吸魂鬼の存在は確認できない」

 

 

上空からセドリックら3名の遊撃部隊の隊員がエスペランサの脇に下りてくる。

 

 

「上空にも吸魂鬼の存在は確認できない。目標は完全に沈黙。吸魂鬼はその全てが消滅したと思われる」

 

 

陸上と航空から吸魂鬼が消滅したという報告を受けてエスペランサは安堵する。

そして、湖の周囲にいる全隊員に聞こえるように大声で言った。

 

 

「吸魂鬼は全滅した!状況終了!作戦は成功だ!繰り返す。状況終了!作戦は成功だ!」

 

 

 

「「「「  うおおおおおおおおお!!!  」」」」」

 

 

森の中に隊員たちの歓声が響き渡る。

 

隊員たちは互いに抱き合い、握手をしている者もいた。

狙撃手のネビルや本部員であったフナサカ、迫撃砲についていた2名の隊員たちは杖で花火を射出している。

遊撃部隊の3名は箒で上空を曲芸飛行していた。

セオドールたちは負傷者の救護を行っているが、負傷者の怪我はいずれも軽傷のようだ。

一応、感染症を予防する必要はあるだろうが。

 

エスペランサは再び箒に乗って、湖畔へ向かう。

 

そこには疲れきって座り込むフローラの姿があった。

 

 

「大丈夫か!?」

 

フローラは近づいてきたエスペランサに気が付く。

 

「大丈夫……ではありません。直ぐにでも寝たいほどに疲れています」

 

「ちょっと待ってろ。確かチョコを携行していたはずだ」

 

エスペランサは懐から半分溶けたチョコを取り出して彼女に渡す。

チョコの包みにはスニッカーズと書かれていた。

 

 

「これ…かなり溶けてるんですけれど」

 

「ずっと懐に入れてたからな。それに近くでナパームを起爆させたし」

 

「食べにくいです……」

 

 

はむはむとチョコを食べるフローラを傍らにしてエスペランサは気絶して倒れこんでいるハリーとシリウスを見た。

 

 

「何でこいつらはここにいるんだろうか??それに2人目のハリーが出現したし………。ああ、そういえば作戦をハリーとハーマイオニーに見られたんだったな。どうやって口止めするべきなんだろうか」

 

 

彼は頭を抱える。

 

そんな時だ。

 

「おーい。作戦成功の余韻に浸っているところ悪いんだが、観測係がここへ近づくスネイプを視認した。まっすぐ向かってきているそうだ!!」

 

湖畔周辺で射撃要因として待機していた隊員がエスペランサに叫ぶように報告してきた。

 

「ハリーにブラック。次はスネイプかよ」

 

「スネイプ先生にこの場を見られるのは不味いですね。とっとと撤退しましょう」

 

「ああ。そうだな。あー。この二人はどうしよう…………」

 

 

気絶したハリーとシリウスの扱いは非常に困るところであった。

 

 

「放っておいても問題無いのでは?」

 

「それもそうだな。この二人はスネイプに任せてとっとと逃げるか」

 

 

そう言ってエスペランサは隊員たちに天幕や武器弾薬の撤収を命じた。

 

二人目のハリーやハーマイオニー、それに人狼はいつの間にか姿を消していた。

 




原作の時系列と合わせると

・ハリー占い学の試験中(センチュリオンの隊員に作戦決行を打ち明ける)
・バックビーク処刑実行時(エスペランサたち、必要の部屋から武器弾薬搬出)
・ハリーたちが叫びの屋敷でシリウスやペティグリューと会う(作戦開始直前)
・スネイプがハリー達のところへやってくる(作戦開始)
・ペティグリューが逃げる。ルーピンが人狼になる(吸魂鬼が誘導されて作戦区域へ到達するまで残り10分)

そして、シリウスとハリーが湖畔にやってくる+タイムターナーで過去へやってきたハリーとハーマイオニーが湖畔へやってくる+ナパーム爆破、となるわけです。

※ナパームで吸魂鬼を倒したのでハリーは守護霊の呪文を成功させてないです。

※エスペランサは耳ふさぎの呪文(マフリアート。原作では6巻で出てくるアレ)などを使用したので、ハリーやスネイプたちはナパームの爆発も吸魂鬼の群れも目撃してないです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。