今回はスネイプ視点の話です。
セブルス・スネイプは困惑していた。
ルーピンが人狼になり、ペティグリューが逃げ、シリウスが人狼を追いかけ、ハリーがそれに続く。
その後、吸魂鬼の気配がしたが、吸魂鬼の姿は見えなかった(エスペランサたちがかけた“耳ふさぎの呪文”等のせいでスネイプは吸魂鬼の群れも、ナパームの爆発も目撃することはなかったのである)。
この一連の流れが数分の間に同時に起き、彼は珍しく混乱した。
スネイプはダンブルドアとある約束をしている。
その約束を守るために憎たらしくて仕方のないハリーを守らなくてはならなかった。
というわけでウンザリしつつも彼はハリーを救うためにルーピンやシリウス、ハリーが走っていった禁じられた森へ入っていったのである。
ロンとハーマイオニーはロンが足を負傷し、ついでにペティグリューに何か呪いをかけられていたこともあり置いていくことにした。
森に入ったスネイプは違和感を感じる。
森が焦げ臭いのだ。
何かを燃やしたような臭いが充満している。
軽くせき込みながら彼は森の奥へ進んだ。
森の奥へ進むと、違和感はさらに増した。
「ルーモス・光よ」
スネイプは杖から光を出して森を照らす。
周囲は大小様々な針葉樹で覆われているのだが、そのうちの幾つかが“抉られていた”。
中には真っ二つに折れているものもある。
人狼の仕業ではない。
この破壊力は………。
さらに進むと、森のなかっで一番大きな湖が見えた。
その湖の湖畔にシリウスとハリーが気絶していた。
スネイプはハリーに駆け寄り、生死を確認する。
脈はある。
気絶しているだけだ。
軽く安堵したスネイプであるが、この二人を気絶させたのは誰だろうと疑問に思った。
吸魂鬼が出現して彼らを襲ったのならば二人はとっくに魂を抜かれている。
それに、吸魂鬼の姿はどこにも見えなかった。
彼は周囲を見渡す。
湖畔の木々は抉り取られている。
やたら焦げ臭いのも相変わらずだ。
湖に浮かぶ小さな孤島は全ての草木が真っ黒に焦げていた。
「ここで一体何が起こったというのだ………??」
確かにこの湖畔では何かが行われていたのだろう。
そして、その過程でシリウスとハリーは気絶した。
湖の周辺一帯を黒焦げにするほどの魔法が使われたのか?
いや。
魔法ではない。
スネイプは首を横に振る。
湖の大きさはクィディッチ競技場とほぼ同じくらい広い。
この規模の広さを黒焦げにするほどの爆発を起こせる魔法は少ないだろう。
エクソパルソやボンバーダといった爆発系の魔法はせいぜい5メートル四方を吹き飛ばす威力しかない。
悪霊の炎ならば広範囲の焼却が出来るが、悪霊の炎を使用した場合、禁じられた森全体が燃え上がっていてもおかしくはない。
なら、一体………。
そこまで考えたとき、スネイプは足元に落ちている金色のソレを見つけた。
「これは………」
円錐状の金属。
魔法界では見ることのないもの。
だが、彼はソレが何かを知っていた。
「ルックウッド………。奴か!」
マグルの世界では空薬莢と呼ばれるソレをスネイプはこの3年間で何度か見ている。
エスペランサ・ルックウッドが使用するマグルの武器から排出されるものだ。
エスペランサであれば広範囲を焼却してしまうような武器を持っていてもおかしくはない。
トロールを吹き飛ばしたり、バジリスクを倒してしまうような彼の持つ武器ならば………。
スネイプは地面に転がるシリウスに1発足蹴りを食らわせた後、魔法で即席の担架を作り出した。
その担架にハリーとシリウスを乗せ、浮遊呪文をかける。
浮遊呪文がかけられた担架は宙に漂った。
ハリーを医務室に運び、シリウスを魔法省に引き渡した後、エスペランサに湖で何をしていたかを問い詰めようとスネイプは考えた。
憎きシリウス・ブラックを魔法省に引き渡すという喜びよりも、エスペランサ・ルックウッドが一体何をしたのかということに対する好奇心が上回ったのだ。
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シリウス・ブラックを魔法大臣であるコーネリウス・ファッジ(バックビークの処刑立ち合いのために来校していた)に引き渡したスネイプは医務室を訪れていた。
医務室のベッドにはハリーとロン、それにハーマイオニーが寝かされている。
医務室のベットの周りをクルクル回りながらファッジは嘆いていた。
「言語道断……あろうことか吸魂鬼が……誰も死ななかったのは奇跡だ。セブルス。君が居合わせたのは幸運だった。君がいなければハリーを失うところだった」
「光栄です大臣」
スネイプは言う。
「ブラックはポッターたちに錯乱の呪文をかけたのでしょうな。ポッターたちは吾輩にブラックが無実であると訴えてきました。そして、ポッターに至っては教師である吾輩に呪文をかけてきました。この3人の生徒は校則違反の常連でありまして、今回もかなり出しゃばった真似を………。しかしながら校長はポッターをひいきしている節がありましてな。今回は重い罰を与えるべきかとも……」
「ああ、セブルス。確かにハリーたちは愚かなことをしたかもしれない。しかしだな………」
「吾輩はポッターを特別扱いすることは疑問に思うところでしてな。今回の件は普通なら停学扱いすべき事案です。それに吾輩はポッターが厳重な警戒網の中、ホグズミートに秘かに遊びに行っていた証拠もつかんでおりまして」
「まあまあ。それは兎も角だ」
ファッジは話題を逸らそうとした。
彼は魔法界の英雄であるハリーを停学にはしたくないのだろう。
それがスネイプには面白くない。
彼はベッドに横たわって眠るハリーを軽く睨みつけた。
「つい数時間前から吸魂鬼が見当たらないのだよ。あー。結構前に吸魂鬼が3体ほど行方不明になったこともあったのだが、今回はホグワーツの警備についていた200体以上の吸魂鬼が一斉に居なくなってしまったのだ。職員が総出で捜索をしているのだが、見つからない。彼らが任務を放棄して逃げたのかとも思ったが………」
「吸魂鬼が行方不明??」
「数時間前には私の目でも吸魂鬼が城周辺にいることを確認しているんだが。それが急に居なくなってしまったのだ。これは大問題だ。私の責任問題になったら大変だ!」
「吾輩はブラックが吸魂鬼に襲われて気絶していたのだと考えますが……」
「そうかもしれん。ブラックもハリーも吸魂鬼に襲われた形跡がある。しかし、吸魂鬼に襲われたのならばブラックは接吻されて魂が抜けた状態になるはずだ。だが、ブラックはピンピンしている。あー。今は天文台にある倉庫に閉じ込めているんだが」
吸魂鬼が200体単位で忽然と姿を消した。
この事実を聞いてスネイプはある可能性を閃いてしまう。
エスペランサが吸魂鬼を200体まとめて消滅させてしまったのではないか?
いや。
吸魂鬼を倒す手段は守護霊の呪文だけだ。
あの生物をこの世から消し去ることなどダンブルドアでも不可能。
スネイプはその可能性を自身で否定した。
そんな時である。
「大臣!!聞いてください!ブラックは無実なんです!!ピーター・ペティグリューが自分が死んでいたと見せかけていたんです。黒幕はペティグリューでした!!僕、奴を見ました!!」
いつの間にか起きていたハリーが寝巻のままベットから飛び起きて、大臣に詰め寄ってきた。
これには大臣も流石に驚く。
「ハリー。君は混乱しているんだ。大丈夫。ブラックは我々が捕まえた。もう心配することはない」
「違うんです!ブラックは無実なんです!!」
ハリーの後にハーマイオニーも起きてきて同様のことを言う。
「大臣。私も見ました。ペティグリューは未登録の動物もどきだったんです」
ハリーとハーマイオニーの必死の訴えであるが、ファッジは悪い冗談だと思っているようだ。
スネイプは真実を何となく悟っていたが、ブラックを擁護する気にはなれなかった。
ブラックには恨みがある。
たとえ無実でも、ブラックにはアズカバンがお似合いだと思っていた。
「大臣。ポッターとグレンジャーは錯乱の呪文にかかっていますな。ブラックは見事にこの二人を懐柔させたようです」
「そのようだな。しばらく入院が必要だろう」
「大臣!!僕たち錯乱の呪文になんてかかっていません!!」
「そうです!私もかかっていません!ブラックは無実なんです」
ハーマイオニーも必死で訴えるが、大臣はそれを無視した。
「そうだ!証人がいます!ブラックが僕に危害を加えていないと証言できる人が居ます!」
ふと思い出したようにハリーが言った。
「誰だね。その人は………。あの場には君とブラックしか倒れていなかったと聞いているが」
「そうです。僕は吸魂鬼の群れに襲われて気絶してしまったのですが………。あの場には他にも生徒が居ました」
「!!??吸魂鬼に襲われた!?それは本当か!その吸魂鬼たちはどこへ………??」
「わかりません。僕はシリウスを追いかけて森の中の湖畔に行ったんです。そうしたら、その湖畔には何人かの生徒が居ました」
「何!?誰だねその生徒は」
「暗かったので全員の顔は見えませんでしたが、フローラ・カローとセオドール・ノットは居ました。それから………」
そこまで言ってハリーは黙り込んだ。
果たして、あの場にエスペランサが居たことを言うべきであろうか。
言ってしまったらエスペランサに迷惑が掛かってしまう。
しかし、言えばシリウスを救える可能性が出てくるかもしれない。
「ポッター。吾輩の寮の生徒が湖畔にいたとは思えん。が、もしかするとその二人以外にも生徒が居たのではないか??そうだな、例えば、ルックウッド」
スネイプの口からエスペランサの名前が出たとき、ハリーはビクっと反応した。
ビンゴだ。
これで繋がった。
スネイプはほくそ笑む。
やはりエスペランサ・ルックウッドはこの件に絡んでいる。
そう確信したスネイプは医務室を飛び出した。
「おい!セブルス!!どうしたんだ!?君も錯乱の呪文にかかているのか!?」
ファッジの声を無視してスネイプはエスペランサを探しに行ってしまった。
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エスペランサは疲れていた。
各種武器や機材を魔法で収縮し、ほかの隊員と一緒に必要の部屋まで運搬し、怪我人の手当てをした。
使用した武器の手入れを全隊員に行わせた。
これらの作業が終了するまでに2時間はかかっている。
証拠隠滅のために湖周辺に転がっている空薬きょうを処分する時間がなかったのは不覚だった。
人狼の襲撃でケガをした隊員たちは、幸いにも感染症の疑いはない。
フローラもチョコを食べさせたところ回復した。
各人の武器にも異常はない。
エスペランサは全隊員にすぐに寮へ戻り、十分な休養を取るようにせよ、と命令した。
隊員たちも疲れ切っていたのでそれを了解し、三々五々、解散したわけである。
フラフラした足取りでグリフィンドールの寮に帰ろうとしたエスペランサは、ハリーたちに何と説明しようか迷った。
センチュリオンの作戦をハリーとハーマイオニーに見られたのは不味かった。
エスペランサは深いため息をつく。
正直にセンチュリオンのことを話すべきか。
そんな考え事をしていた時である。
「ルックウッド!!!」
エスペランサは急に呼び止められた。
振り向いてみれば大広間に続く階段から息を切らせたスネイプが走ってくるのが見える。
エスペランサは現在の時刻が門限を過ぎてしまっていることに気が付いて頭を抱えた。
夜中に外を出歩いているのがスネイプにばれるのは不味い。
罰則やら減点やらのオンパレードが待っている。
「何でしょうか………」
「ルックウッド!!お前は今夜!!どこに居たんだ!?」
「は???」
スネイプの突然の問いかけにエスペランサは困惑した。
階段を登り切ったスネイプは彼の肩を掴み、唾を飛ばしながら詰問する。
「わかっているんだ!お前は今夜、禁じられた森にいた!そして、吸魂鬼がまとめて行方不明になった件に関与している!!いったい何をしたというのだ!!」
何故、スネイプがそのことを知っているのだろう、とエスペランサは思う。
が、すぐにその疑問は解決した。
空薬きょうの回収をしなかったためだ。
スネイプは湖畔でセンチュリオンが戦闘を行った際にばら撒いた空薬きょうを見つけたに違いない。
「別に自分は何もしていませんが………。さっきまで図書室にいましたし」
「嘘をつくな!図書室はとっくに閉館している!」
「あー。ええと。ちょっと散歩に」
「だから嘘をつくな!吾輩にはわかっているんだ!お前が森に居て、吸魂鬼をどうにかしてしまったことが!!!」
「先生。そんなわけありませんよ。自分には吸魂鬼を200体もまとめて消滅させる力なんてありません………」
そこまで言ってスネイプはニヤリと笑った。
「吾輩は吸魂鬼が“200体もまとめて消滅した”とは言ってないぞ。ルックウッド」
「あ………」
やっちまった。
と思い、エスペランサは額に手を当てた。
疲労で彼の思考はほとんど機能していない。
「ふむ。吾輩の勝ちだ。お前は吸魂鬼をどこへやったんだ?」
「さあ、知りません」
「見苦しいぞ。ルックウッド」
「正直に話したらどうするんですか?」
「校長に報告する。お前が如何に危険な生徒であるかを周知させなくてはならないのでな」
「校長が信じるとでも??」
「お前は過去にバジリスクを倒したという実績がある。信じる可能性は十分にあるだろう」
ここで吸魂鬼を倒したという事実が周知されるのは好ましくない。
それ以前にセンチュリオンの存在が表ざたになるのが不味い。
ダンブルドアも魔法省もセンチュリオンの存在を許しはしないであろうからだ。
センチュリオンの存在を周知させるのは、センチュリオンが魔法省に対抗できるほどの軍事力を持ってから、というのが彼の計画であった。
「先生。あなたは魔法薬学の教師であるからにして、真実薬の調合もできると思われる。もしくは開心術を行使できるかもしれない。それなら、いくら嘘をついても無駄でしょう」
「そうだな」
「なら正直に言います。今夜、吸魂鬼を200体まとめて消滅させたのは自分です。だが、この事実は秘密にしてもらいたい」
「何を言っているんだ。吾輩が秘密にするとでも??」
「先生。これは、頼み事ではないんです。“命令”です」
「なんだと!?」
「いずれ、全てを話す時が来ます。自分が何を企んでいるかを周知させる日が来ます。ですが、今ここで、その企みを潰されるわけにはいかないんですよ」
「企みだと??やはり貴様は!!!」
「先生。“我々”には吸魂鬼を200体まとめて倒すだけの戦力がある。技術がある。加えて、どんな生物でも一撃で倒す“切り札”もある。これらの力は魔法界に混乱をもたらす危険なものでしょう。だからこそ周知させてはいけない。先生には黙っていてもらわなくては困る」
「戦力……だと。血迷ったか。お前はこの学校で何をしようというのだ。魔法界に混乱を与えるだと?それならば吾輩はそれを阻止しなくてはならない」
「無駄です。自分はもう“はじめてしまいました”。もし、先生が我々を阻止しようとするのなら………」
そう言ってエスペランサは懐から拳銃を取り出した。
「全力で抵抗しなくてはなりません」
「ルックウッド………」
「安心してください。我々の目指すところは“完全なる平和な世界”ですから」
そう言って彼は立ち去ろうとする。
スネイプは去ろうとするエスペランサに杖を向けた。
「待つのだ!お前のような危険な生徒を校長が……吾輩が見逃すとでも思っているのか?」
「思っていません。ですが………」
エスペランサは一呼吸おいてから言う。
「強力な魔法が使えるのに吸魂鬼の倒し方も研究しない校長!前時代的な差別主義者を蔓延らせている魔法省!たった一人の女の子すら救えないこの国の魔法界をあんたはおかしいと思ったことはないのか!!!!」
「っ!?教師に向かって何を言うか!!!」
「何とでも言ってやる。かつて英国はヴォルデモートとかいうクソッタレが支配したらしいが、ヴォルデモートが消えてからこの国は同じ過ちを繰り返さないための努力をしたか!?いや、していない。闇の陣営にいたマルフォイをはじめとする奴らは平気で政治に口を出す立場にある。秘密の部屋は開かれるし、校内にヴォルデモートが侵入する。この国の魔法界は腐ってやがる!!」
「…………」
「糞みたいな奴らが権力を握っていて、その陰では辛い目に遭っている奴がいるんだ。俺が魔法界に来なかったら、そいつはずっと地獄の底に居ることになっていた。それが我慢ならないんだ。俺みたいな人を殺すことしか能のない半人前の軍人崩れなんかが行動を起こさなければ、救われない奴が居るっていう事実に腹が立ってしょうがないんだ!」
「ルックウッド………」
「だから俺は止まらない。止められるものなら止めてみろ。俺はこの国を、いや、この世界を変えてやる」
話しているうちにエスペランサは止まらなくなっていた。
疲労しているから。
吸魂鬼との戦闘で興奮状態にあるから。
フローラの境遇を思い出したから。
もっと冷静になることも出来たはずだ。
しかし、彼はそうしなかった。
肩で息をしながらエスペランサはスネイプを残して寮へと去る。
スネイプはそんな彼の背中を見てはいるものの、止めることはなかった。
いや、止められなかった。
エスペランサは守りたいものがあり、救いたいものがあり、そのために力を手に入れようと足掻いた。
スネイプもかつては守りたいもの、救いたいものがあった。
だが、彼は自分の手で救おうとするのではなく、ダンブルドアに頼ったのだ。
その結果、彼の愛する人はこの世から消えた。
恐らく、当時のスネイプはエスペランサよりも強い魔法力があった。
だが、行動を起こせなかった。
面と向かって強大な力に立ち向かおうとしなかった。
気が付けばスネイプは杖を握る力を強めている。
(嘆かわしい。実に嘆かわしいことだ………)
彼はエスペランサの去っていった方向とは反対の方向へ歩き出す。
(この吾輩が生徒に影響されるなんて、実に嘆かわしい………)
7巻読んだらスネイプ好きになりますよね。
最近、文学少女シリーズを読みました。
面白かったです。