ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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炎のゴブレット
case45 Soldiers in the other world 〜向こうの軍人〜


ロンドン市内の高級レストラン。

 

恐らく政界のVIPなどが御用達にするようなレストランの一番奥に存在する個室席にエスペランサは居た。

 

 

キングスクロス駅でスーツのジャケット越しに拳銃を突き付けてきた2人の男と向かい合うようにして、彼は席に座っている。

スーツ姿の2人の男は、エスペランサに銃を突き付けながら(ジャケット越しなので周囲の人間からはわからなかった)、駅前のロータリーに停められていた高級車に乗り込んだ。

30分ほど車で移動したが、その間、彼らはエスペランサの質問に一切答えなかったし、銃は突き付けられたままだった。

 

普段なら抵抗するだろうエスペランサがおとなしく従ったのは、この2人のスーツ姿の男たちが、自分以上に手練れの軍人であると見抜いたためだ。

 

音もなくエスペランサに近づいて銃を突き付けることのできる人間は限られている。

加えて、ちらりと見えたジャケットの下の拳銃はグロック19。

1988年に採用された最新の銃であり、エスペランサも実物を見たことはなかった。

そして、グロック19を装備していると思われる英国の軍隊または警察組織は特殊部隊であるSASが挙げられる。

 

もし仮に、この2人の男がSASなどの舞台に所属する軍人だった場合、エスペランサに勝ち目はない。

 

故に彼はおとなしく従うしかなかったわけだ。

 

 

 

高級レストランの個室は豪華な装飾がされており、ホグワーツの大広間にも似た雰囲気があった。

 

その中央に置かれたテーブルでエスペランサとスーツ姿の男たちは向かい合うように座っている。

 

 

「あんたらは………ただの人間じゃないな」

 

エスペランサが口を開く。

向かい合って座ったことで、2人の男たちを観察することができたが、彼らの目は歴戦の軍人の目そのものであった。

一人は一見、優しそうな紳士といった風貌で、もう一人は無口で堅物といったかんじである。

どうやら優しそうな方の男が上座に座っているため、上官であるようだ。

 

 

「素性は明かせない。が、君の敵ではない」

 

笑いながら優しそうな方の男は言うが、彼の目は笑っていなかった。

営業スマイルなのだろう。

 

「信用できない。この国に俺が合衆国の軍人であった事を知る人間は存在しない」

 

このスーツの男はエスペランサの名前を知っていた。

非正規で米軍に雇われた未成年の傭兵の存在を知っている人間など数えるほどしかいない。

 

「まあ、信用はされないとは思うがね………。それでも、私たちは君の味方だ」

 

「味方が駅で突然銃を突き付けるわけがないだろ」

 

「ははは。確かにそうだ。でも、君は強引な手段を用いなければ従わないだろう?」

 

「まるで、俺のことを良く知っているみたいな台詞だな」

 

「ああ。知っているとも。米国特殊部隊の中でも表には出せないような部隊で非正規に雇われた最年少の傭兵。未成年の、それも10歳という若すぎる外見を武器にしてあらゆる場所に潜入して、そして、あらゆる組織を倒してきた………」

 

「……………。なぜ、そこまで知っている?」

 

「さあ、ね。まあ、我々も湾岸戦争では少々、裏で動いていたからね。その手の情報は入手できたんだよ」

 

「大尉。喋りすぎです」

 

 

横で座っていた無口な方の男が口をはさんだ。

 

 

「大尉、ってことはやはり軍人か」

 

「今更隠すこともないか。ああ。私も彼も軍人だ。名前は私がジョン・スミスで、彼はハンス・シュミットだ」

 

「明らかに偽名じゃねえか!」

 

 

ジョン・スミス、ハンス・シュミット。

両方、英国とドイツではありふれた名前過ぎて偽名として認識されている。

 

 

「本名は……軍機でね」

 

「こっちの情報は筒抜けっていうのに………。まあ、でも、あんたらの喋る言葉は型についたようなイギリス英語だ。だから、英国に存在する組織に所属しているんだろう。持っている銃は最新の拳銃。あとは、歩き方からして、普通の歩兵部隊出身ではないと判断できる。ってことは英国特殊部隊の人間だろうな」

 

「流石、10歳にしてゲリコマ作戦の立案をすることが出来る天才と言われただけあるな。インテリジェンスとしても有能だ」

 

「で?俺に何の用だ?言っておくが、俺はすでに除籍されている。まあ、非正規の傭兵だったから除籍もクソもないんだが………。だから、尋問されたところで所属も階級も認識番号も言えないぞ?」

 

「無論、それも知っている。最初に行ったと思うが、私たちは君の味方だ。尋問しにここに連れてきたのではないよ」

 

 

それはわかっていた。

尋問するために高級レストランに連れてくるわけがない。

 

 

「では、なぜ………」

 

「うーん。そうだね………。そういえば、エスペランサ」

 

「???」

 

「ホグワーツでの生活は楽しいかい?」

 

「は?」

 

 

 

エスペランサの思考が一瞬停止した。

なぜ、この男はホグワーツを知っている?

マグル界の軍人が、なぜ、ホグワーツを知っているんだ!?

 

 

 

「ははははは!いや、すまない。そんなに驚くとは思っていなかったんだ」

 

「笑いすぎです。大尉」

 

「すまない。いや、笑うつもりではなかったんだが」

 

「なぜだ?なぜ、ホグワーツの存在を知っている?もしや、あんたたちは………」

 

「ああ。我々は魔法使いではないよ。君たちの言うところのマグルってやつだ」

 

「魔法界は秘匿された世界だ。マグルが知っているはずない………」

 

「そんなことはないよ。昨年、シリウス・ブラックがマグル界でも指名手配されただろう?あれはマグル界の政府が協力しないと出来ないじゃないか」

 

「そう言われれば、そうだが」

 

「それに、君たち魔法族は魔法界を巧妙に隠していると思い込んでいるようだが、そんなことはないんだ。当たり前だ。マグル出身の魔法使いが何人居ると思う?マグルと結婚した魔法使いが何人居ると思う?」

 

 

言われてみればそうだった。

 

マグル出身の魔法使いなど珍しくも無い。

マグル界に魔法界の存在を隠しきれる保証は無かった。

 

それに、他国では魔法界とマグル界が裏で繋がっていることも分かっている。

 

 

「確か、英国以外の国は少なからず、魔法界とマグルが協力関係にあるんだったか?」

 

「そうだ。よく知っているじゃないか。米国はグリンデルバルトとの戦いで学んで、魔法とマグルの科学技術を融合させて、闇の魔法使いに対する抑止的な力を手に入れた。もちろん、極秘裏にね。だから、あの国は世界大戦前後に急成長した」

 

「やはりそうだったか。米軍が近年、導入しているネットワークというシステム………。あれの語源は煙突飛行ネットワークだ。煙突飛行ネットワークの技術を応用させてたんだな」

 

「その通り。人を電子に置き換えた技術だ。マクーザ(米国魔法省)の極秘チームと米軍が協力して作り上げたシステムが、衛星通信とネットワークを駆使したデータリンクシステムだ」

 

 

この話はエスペランサがマグル学の授業のレポートで書いた内容である。

評価は秀。

ハーマイオニーを凌駕する点数だった。

 

「他にも、ソ連の宇宙開発技術、日本の電子機器の小型化、中国の軍事的発展、インドのIT技術は数占いの応用だろう。魔法界の学者も感づいていることだ」

 

「そういうことだよ。マグルの科学技術の発展は魔法ありきのものだった。ここ半世紀で科学技術が著しく進歩したのはそのおかげさ。だが、英国は違う」

 

「英国魔法界は伝統に凝り固まっている。マグルの技術を輸入することなんてないだろう」

 

 

英国魔法界は古い考えに取りつかれていた。

世界有数の魔法使いは多数存在する(ダンブルドアやヴォルデモートを凌ぐ魔法使いは他国にいないし、標準的な魔法使いのレベルも非常に高い)。

しかし、純血主義がいまだに存在するなど、考え方は古いままだ。

故に、英国の科学技術は米国やソ連(今はロシアであるが)に抜かれてしまった。

 

「正直、危機感を覚えるよ。マグルと協力関係にある先進国の魔法界ではマグル差別主義なんてあまり生まれないからね。まあ、マグルと協力関係にあるってことはどの国の魔法省も極秘にはしているんだが」

 

「マグル差別、マグル生まれ差別が多いのは英国だけってことか?」

 

「英国以外にもそういった国は多いが、先進国の中では英国くらいなものさ。だから、ヴォルデモート一派のような危険な存在が生まれてくるんだ」

 

「ヴォルデモートを知っているのか?」

 

「ああ。何せ、我々の組織の工作員は魔法省の中にも潜入しているからね」

 

「マグルが魔法省に潜入しているのか?」

 

「まさか。魔法使いの協力者だよ。彼らは先の戦いで家族を闇陣営に奪われている。故に、魔法界に潜む闇の魔法使いを殲滅するために我々に協力をしてくれたんだ」

 

「なるほど。それならホグワーツで起きた事件も知っているって訳か。それで俺のことも知っている、と?」

 

「マグルの通常兵器でバジリスクを倒したりする少年が居るというのは少なからず話題になっていた。名前は調べればすぐに出てくる。エスペランサ・ルクウッド。米国の国防省(ペンタゴン)の伝手も利用して素性を明かしてみたら」

 

「非公式の特殊部隊で最年少で雇われていた傭兵だった、というわけか。あんたらもたいしたもんだ」

 

 

魔法界のことがここまで筒抜けになっているとはダンブルドアも知らないだろう。

マグル界の軍部も捨てたものではないな、とエスペランサは思った。

 

 

「大したことではない。冷戦期のソ連での諜報活動のほうが遥かに困難だった」

 

「ゴホンッ」

 

もう一人、シュミットが咳払いをする。

 

「おっと失礼。我々の任務は極秘中の極秘でね。過去の任務が明らかになってしまうような発言も控えなくては。特に、君のような相手にはね」

 

そう言って、スーツの男は紅茶を啜った。

 

「魔法界の人間も英国のマグル界の大臣を監視しているからお互い様だ。まあ、魔法省の人間はマグルよりも自分達の方が優位な立場にいると思い込んでいる。不愉快な話ではあるが、この手の人間は扱いやすい」

 

「優位……ねえ。実際のところ、魔法に対して通常兵器での攻撃は不利だ。科学が発達しても、魔法界に対して湾岸戦争時の米軍のような一方的な戦いは出来ないだろう。魔法界がマグル界に対して優位性を主張するのも頷ける」

 

「そうだな。数年前まではそうだったかもしれない」

 

「数年前?」

 

「ああ。これを見てくれ」

 

 

そう言ってもう一人のスーツ男が鞄から複数枚の写真を取り出した。

 

 

「なんだ……これは」

 

 

写真に写っているのは崩壊した橋であったり、壊滅した村であったり、挙句は人間だったものと思われる死体の写真だった。

正直言って目を背けたくなるような写真ばかりだ。

 

 

「1204人。この人数が何を表しているかわかるか?」

 

「さあ?」

 

「先の戦いでヴォルデモート陣営に殺されたマグルの数だ」

 

「なっ!?」

 

「表向きにはガス漏れの事故などにしているが、彼らは闇の魔法使い達に惨殺された。惨い殺され方ばかりだったよ。人数が人数だったから隠蔽も大変だった」

 

 

エスペランサは写真をめくる。

 

死体の写真は一見すれば惨殺された人間の死体だが、殺人の手法がわからないものばかりだ。

出血しているのに裂傷が無い。

身体が吹き飛ばされているのに、周囲に爆発の形跡がない。

崩壊した橋は明らかに通常兵器で攻撃されたものではない。

 

 

「家族全員、磔の呪文で殺されていた事例は数え切れない。他には巨人に全滅させられた村。崩壊した橋。警察の専門部隊が出動したが歯が立たなかった。何せ魔法が相手だしな」

 

「警察と闇陣営が戦闘を?」

 

「ああ。一方的だったよ。出動した50名の隊員はほぼ全滅。英国政府は本気で魔法界に軍隊を派遣しようとしていたが、何せ、その手段が無いものでね。被害は一方的に増えていった」

 

「そんなことが………」

 

「だから、我々は魔法使い相手に戦う術を研究しなくてはならなかった。君と同じようにね。君も察している通り、我々は英国軍部の中でもトップシークレットの部署に所属している」

 

「喋りすぎですよ」

 

 

シュミットが制止したが、スミスは喋り続ける。

 

 

「良いんだ。この少年には喋っても平気だ。それに、彼には我々の計画に協力してもらわないといけない」

 

「計画??」

 

「そうだ。先の戦いでマグルはヴォルデモートの陣営に手も足も出ず、煮え湯を飲まされてきた。我々、マグルの世界が滅ぼされることだって覚悟したよ。だから、我々は魔法に対抗できる力を持たなくてはならなかった」

 

「魔法に対抗する力………」

 

それは、センチュリオンが日々、研究していることだった。

 

「魔法省も役に立たない。マグルの社会を守るためには我々が魔法に対して対抗するための力が必要なんだ。そのために、対魔法使いの部隊を編成し、武器も開発しようとしている」

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「難しいさ。だが、我々とて、ただ滅ぼされる存在じゃない。我々はね、英国に住むマグルを守るために存在する人間なんだ。だから、ヴォルデモートのような輩を排出する英国魔法界は…………滅ぼそうとも思っている」

 

エスペランサは驚愕した。

 

この男は………英国魔法界を滅ぼそうとしている。

 

 

「馬鹿な!今はもうヴォルデモートは居ない。それに英国魔法界の大半は善人だ」

 

「果たしてそうかな?2年前、ヴォルデモートはホグワーツに侵入した。ついこの間はシリウス・ブラックが逃亡。マグルの世界にとっては脅威でしかないんだ。“君たちの世界は”」

 

 

君たちの世界。

すでにエスペランサがマグル界の人間ではないと見なされている言い方である。

 

 

「俺は3年間、魔法界で生活した。確かに、酷い奴も存在する。だが、それはマグルの世界だって同じだ」

 

「何を言おうと、我々は、次にヴォルデモートのような輩がマグルを攻撃し始めたら、英国魔法界に宣戦布告をするつもりだ。これは政府が裏で決めた事項だ。国連でも裏で承認されている。ヴォルデモートの脅威は他国のマグル界、魔法界も知っているからね」

 

「で、俺に、英国魔法界を滅ぼす手助けをしろってか?残念だが、お断りだ」

 

「そうは言っていない。我々だって無害な魔法使いや魔女を虐殺はしたくないからね。それに、魔法界と戦争をして勝てる確率は良くて60パーセントくらいだ。君には、我々が魔法界と戦争になるようなことがないように、ヴォルデモートや、闇の魔法使いが再び権力を持つことを未然に防ぐために動いてほしいんだ」

 

「俺にそんな力は無い」

 

「いや、君はバジリスクを倒すような力を持っているし、ゲリコマ(ゲリラコマンド)戦を習熟している。無理な話ではないだろう。それに、ハリーポッターやダンブルドアとも親しいのではないか?彼らを使えば良い」

 

「ハリーは唯の一般的な少年だ。戦争に巻き込めないし、あいつにはまだ、そんなに力があるわけでもない」

 

「まあ、どちらにせよ、次にヴォルデモートが復活したりしたら我々は行動する。君はそんな事態は防ぎたいだろう?だから、動かざるを得ない。違うか?」

 

「……………」

 

「では、我々はそろそろ帰るとするよ。ここの代金は我々が勿論払う。ああ、そうそう。ここでの話は、ダンブルドア等には言わないでほしいかな。君なら言わないと思うけどね」

 

 

当たり前だ。

と、エスペランサは思った。

 

こんな話を魔法界で喋ったら大混乱が生じる。

場合によっては即、全面戦争だ。

 

 

「では、これで。君と話せて良かったよ。また、いずれ会おう。君は我々にとっての希望なんだ。君の名前の通り、ね」

 

 

そう言って2人の男は店を後にした。

 

残されたエスペランサはしばらくの間、座ったまま頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

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「大尉。良かったんですか?あんなに喋ってしまって……」

 

「ああ」

 

「彼が魔法界に我々の計画を漏らしたら、それこそ大変な事態に」

 

「彼は漏らさないさ。それくらいには頭が回る人間だからね」

 

「しかし………」

 

「それに、彼にはまだオーバーロード作戦の話はしていない」

 

「………………」

 

「オーバーロード作戦。この作戦を決行することがなければ良いのだが……果たして」

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し短めです。
次はワールドカップ編で!

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