「あれは闇の印ってやつだ。例のあの人、ああ、すまない。ヴォルデモートの部下、つまり、死喰い人が殺人を犯した後に打ち上げる……戦勝旗みたいなものだ」
騒動から数日後。
ホグワーツ行きの特急の中でセオドールがエスペランサの問いに答えた。
例の騒動の後、魔法省の役人が駆けつける前に、エスペランサたちは森の奥へ逃げて身を隠した。
魔法省の役人に銃やナイフで武装した姿を見せるわけにもいかないし、マグル救出のために魔法を使ったことがバレるのを防ぐためだ。
結局のところ、闇の印を打ち上げた犯人もわからなければ、仮面の男たちを捕らえることもできなかった。
戦果と言えば、マグルを無事に救出できたこと(4人のマグルは眠らせて管理人小屋にこっそり戻しておいた。後で魔法省の役人が記憶を消したらしい)と、20名ほどの仮面の男たちに重傷を負わせたことだろうか。
致命傷を避けたので、ハナハッカあたりの魔法薬で傷は治せるだろう。
もっとも、火だるまになった男だけは聖マンゴに入院したらしいが。
余談であるが、エスペランサはセンチュリオンの隊員にヴォルデモートを例のあの人と呼ぶことを禁止していた。
「でもなんであいつらはその闇の印ってやつを見て逃げたんだ?あいつらって元死喰い人なんだろ?闇の印を見たら喜ぶんじゃねえの?」
コンパートメントの席に座って蛙チョコを食べながらエスペランサは言う。
「そういうわけでもないんですよ。元死喰い人はヴォルデモートを裏切るような形で、裁判を逃れていますから。もし仮に、ヴォルデモートが戻ってきたとなれば、彼らは間違いなくヴォルデモートに罰せられます」
「それを恐れて逃げたってわけか。案外、人間らしい奴らだな」
「でも、闇の印を誰が何の意図であげたのかは分からずじまいです。あの騒動は義理の父が計画したものらしいんですが………」
「あの男か。奴に銃弾を叩き込めなかったのは残念だ」
エスペランサは車窓に映る山並みを眺めながら呟く。
今、コンパートメントにいるのはエスペランサとセオドールとフローラの3人。
セドリックは監督生専用の車両に行っているし、ネビルはハリーたちと談笑している。
「あー。そういえばポッターもあの場にいたらしいな」
「俺も聞いた。本人からな。どうも偶然居合わせたらしいんだが、なんと言うか、あいつもあいつで不幸な体質だ」
「ここ数年の事件に毎回巻き込まれていますからね。彼」
そう言いながら、フローラは座席の上に置かれていた日刊預言者新聞をつまみ上げた。
その新聞にはリータ・スキータというゴシップ記者の書いた『魔法省の失態!ワールドカップを襲った悲劇』という記事が載っている。
「そう言えば、今学期は持ち物リストにドレスローブってやつが含まれていたよな。ありゃなんだ?」
エスペランサはふと思い出したように聞いた。
「ドレスローブは魔法使いや魔女にとっての礼装……とはちょっと違うか。ダンスパーティとかに着ていく服なんだ」
セオドールが答える。
「へえ。そんなもんが必要だとはな」
「その言い方だと、君は用意してないのか?」
「そりゃもちろん。ダンスパーティなんて柄じゃねえし。ていうか何故、ダンスパーティ用の服が必要なんだ?ホグワーツでパーティでも開くのか?」
「恐らくそうだろうね。持ち物に書いてあるってことは、ダンスパーティは全員強制参加なんじゃないか?そうなったらどうする?」
「サボるさ。もちのロンで。なあ、フローラもそうだろ?」
「何故、私に同意を求めるんですか?」
「え?参加すんの?」
「何故、そこで疑問符がつくのでしょうか?」
「だって、フローラがダンスパーティって。柄じゃねえだろうに………」
「それはどういう意味でしょう?」
「フローラがドレスで踊るところなんて想像できないだろ。ほら、スネイプがダンスを踊るとこなんて想像できない、みたいな。ホラーじゃないか。ははっ」
「……………」
フローラが黙ってエスペランサを睨みつける。
「え、何?怒ったのか?」
「いえ、別に。ただ、仮にあなたに相手が見つからなかったとしても、絶対にあなたの相手だけはしてあげませんからね?」
「そりゃ、俺もそんな気はさらさら無かったんだが………って痛っ」
フローラがエスペランサの足を思いきり踏みつけた。
彼女の靴はエスペランサの足に数センチめり込んでいる。
しかも、的確に彼の小指に全体重が乗るように踏みこんでいた。
「私はローブに着替えるので、席を立ちます。後は男二人で楽しくしてください」
そう言ってフローラはコンパートメントを後にした。
扉を閉める際に、手に持っていた百味ビーンズのケースをエスペランサの顔面にぶつけるというおまけつきで。
「いってえ………。なんなんだ?俺、そんなに悪いこと言ったのか?」
百味ビーンズのケースが直撃したところを撫でながらエスペランサはセオドールに聞いた。
「あーそうだな。君は戦闘に関しては察しが良いが、女心は察することができないみたいだね。彼女、あそこまで感情をむき出しにすることなんて、滅多にないよ」
セオドールが肩をすくめて言う。
「女心だってえ?そりゃわかんねえさ。女心と銃はすぐに機嫌を悪くするんだ」
「そういうところだよ。後で、詫びでも入れるんだな。当分、許してくれないだろうけど」
そう言ってセオドールはため息をついた。
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ホグワーツに到着した。
例年通り、大広間は豪華な飾りつけがされていて、中央には組み分け帽子が置かれている。
「やあやあ、たいちょーさん」
広間に入って、グリフィンドールの席に着こうとしたエスペランサをセンチュリオン所属のスリザリン生であるダフネ・グリーングラスが呼び止めた。
ローブの袖を摘まんでクイクイと引っ張る彼女は、悪戯っ子のような顔をしている。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないよ。どうもたいちょーさんは姫のことを怒らせてしまったみたいじゃない」
「姫??ああ。フローラのことか」
「そうそう。ホグワーツついてからずっとプリプリ怒ってるよ。何て言って怒らせたの?」
「いや、フローラってダンスパーティ似合わないよなって」
「うわあ」
ダフネは手を額に当てて呆れ顔をした。
「あのねえ。フローラだって女の子なんだから、そういうこと言われたら怒りもするの。わっかんないかな?」
「わかんねえ。どうしたら機嫌直してくれるんだろうか?」
「自分で考えなさい」
「カエルチョコでもあげれば機嫌直してくれるか……?」
「余計怒ると思うから止めなさい。というかカエルチョコって………。カエルチョコ好きなの?」
「結構好きだぞ。俺は。偶にダース単位で買ったりする」
「あっそ………。まあ、はやいところ謝ったほうが良いからね」
そう言ってダフネはスリザリンの席に戻っていく。
彼女はスリザリンの生徒にしては珍しく、他寮の生徒とも仲が良い。
グリフィンドールの生徒と仲良くしたりして、スリザリンの中で浮いたりしないのか、と一度エスペランサは聞いたことがある。
が、どうも彼女はスリザリン生とも上手くやっているようだ。
ちなみに、セオドールをはじめとしたセンチュリオンの隊員でスリザリンの学生は元々、一匹狼気質の学生が多いため、こちらも問題がないそうである。
それに加えて、エスペランサはセンチュリオンという部隊を通して、寮間の繋がりを作り出した。
このため、現在のホグワーツでは異なる寮の学生の結びつきというものが出来つつある。
ダフネの小言から解放されたエスペランサは、すでに席についていたロンの隣に座った。
ロンはいまだにワールドカップの熱が冷めていないようで、テーブルの上にクラムのフィギュアを載せて歩かせている。
「おう。久しぶり。ワールドカップは楽しめたみたいだな」
「うん。パパが貴賓席をって、知ってるよね。君も誘ったし」
「ああ。俺はセオドールたちと行った」
「そうだ。パパが言ってたよ。例の仮面の男たちの騒動………。マグル4人を助けて、仮面の連中も大勢負傷させた子供がいたらしいって。君だよね」
「さあな」
「パパが感謝してた。ほら。魔法省の役人は手も足も出なかったらしいから」
「親父さんに言っておいてくれ。魔法省とは別に、魔法界は治安維持部隊を作った方が良いって」
「あ、うん。一応言っておくよ」
そうこうしている間に、組み分け帽子が無駄に長い歌を歌い終わり、約40名の新入生の組み分けが終わった。
そのあとでホウグワーツの校歌斉唱があった。
校歌といってもメロディが決まっていないので、生徒は思うままに歌うだけだ。
エスペランサはワーグナーのワルキューレの騎行に合わせて歌った。
ワルキューレの騎行はただのクラシックなのだが、エスペランサが歌うとどうも印象がよろしくない。
ハーマイオニーは物凄い嫌な顔で彼を見ていた。
きっと彼女もアポカリプスナウを知っているに違いない。
ちなみに、校歌を楽しく歌っているのはグリフィンドールだけである。
レイブンクローは冷めた目で見ているし、スリザリンはむっつり黙ったままだ。
ハッフルパフは小声で歌うか口パクしている。
フローラは歌っているのかどうか気になって、エスペランサは彼女のほうを見た。
スリザリンの席で相変わらずの無表情で立っている彼女はエスペランサの視線に気づいてこちらをちらりと見てきたが、すぐにプイっと顔をそむけてしまった。
まだ怒っているらしい。
校歌が終わると食事が開始される。
食事の最中、ハーマイオニーがずっと屋敷しもべ妖精とやらの権利について熱く語るので、エスペランサは閉口した。
人権団体の類とエスペランサはたぶん馬が合わないだろう。
「さて、よく食べたことじゃろう。いくつか知らせがあるので聞いてもらおうかの」
食事が終わり、ダンブルドアが口を開いた。
「まず、管理人のフィルチさんからの伝言じゃが、城内持ち込み禁止品のリストが更新された。「噛みつきフリスビー」など合計437項目じゃ。リストはフィルチさんの管理人室で閲覧可能とのことじゃ。まあ、見たい学生がいればの話じゃがの」
ダンブルドアの言葉に、大広間の端にいたフィルチが苦笑いをする。
この持ち込み禁止リストにはマグルの武器や電子機器は載っていない。
エスペランサとフィルチはいまだに良好な関係を結んでいるためだ。
最近ではセンチュリオンの隊員もすっかり打ち解けているので、たまに管理人室に遊びに行く隊員もいるらしい。
ミセス・ノリスも隊員には良く懐いている。
「それから、今年に関して言うと、クィディッチの試合は取りやめじゃ。これに関してはわしも発表したくない事柄じゃったが」
ハリーやフレッド、ジョージが絶句する。
セドリックも「マザーファッカー」と叫んでいたし、チョウは手に持っていたハッカ飴を職員席に投げつけていた。
元々温厚だった学生がセンチュリオンの活動を通じて、すっかり変わってしまったことがわかる。
「これは今年、あるイベントが行われるためじゃ。皆も、大いに楽しめるイベントじゃと思う。今年、ホグワーツでは………」
バーン
ダンブルドアが言い終わらないうちに、大広間の後ろにある大扉が開いた。
生徒はそちらに一斉に目を向ける。
「なんじゃ……ありゃ」
びしょ濡れのフードをまとった男が歩いてくる。
片足は義足で、杖を突いている。
顔は焼けただれた跡や古傷で原型が無い。
片目は義眼だが、その義眼は恐らく魔法道具なのだろう。
眼球がぐるぐると回っていた。
エスペランサは確信する。
この男は、“人を殺したことがある”。
鬼のような形相に、殺気のある目。
動作一つ一つから、歴戦の兵士のオーラが漂ってくるからだ。
身長はそこまで高くないし、年齢もかなり上であることから第一線は退いているのであろうが、古参兵としての威厳は健在だ。
「ああそうそう。彼は今年から闇の魔術に対する防衛術を担当してくださるアラスター・ムーディー先生じゃ」
ダンブルドアが紹介する。
ムーディーと呼ばれた男はそのまま職員席にドカッと座ってしまった。
「ムーディーって……誰だ?」
「凄腕の元闇払いだ。アズカバンの半数は彼によって埋まったと言われてる」
少し離れたところに居たセンチュリオン遊撃部隊員のコーマックが囁いた。
ムーディが座った後で、ダンブルドアが話を続ける。
「さっきの話の続きじゃが……今年ホグワーツでは3大魔法学校校対抗試合を開催する!」
ダンブルドアの言葉に大広間がざわめいた。
フレッドは大声で「御冗談でしょう!?」と言った。
「3大魔法学校対抗試合は700年前にヨーロッパの三大魔法学校が親善試合としてはじめたものじゃ。ホグワーツ、ボーバトン、そして、ダームストラング。各校から代表選手1名を選出して、互いの技を競い合い、融和団結を図ったものじゃ。しかし、おびただしい死者が出て、数世紀は行われてこなたっか」
エスペランサはいまいちピンと来ていなかった。
代表選手を選定して殺し合いでもしたのだろうか?と首をかしげる。
ほかの学生はどうも存在を知っているようで興奮していた。
「国際魔法協力部と、魔法ゲーム・スポーツ部の努力で、今回、数世紀ぶりに開催できることになったのじゃ。ボーバトンとダームストラングの最終代表選手候補の学生たちは10月に来る。そして、ハロウィーンの日に代表選手が決定されることになる。優勝者には名誉と、賞と、賞金1千ガリオンが送られるのじゃ」
それを聞いて双子のウィーズリーが歓声を上げた。
他にも、参加を表明する学生が熱く語っている。
「しかし、如何せん危険な競技じゃから、魔法省はこれの参加に年齢制限を設けた。17歳を超えない学生は残念ながら立候補できないのじゃ」
「「そりゃ、ないぜ!!」」
ダンブルドアの言葉にフレッドとジョージが絶句する。
彼らは現在16歳であった。
ダンブルドアはその後も試合に関する注意事項や今後の日程を説明した。
その話を聞き流しながらエスペランサは少し考える。
現在、センチュリオンの隊員で参加資格のある隊員はごく少数。
有力候補としては、戦闘能力に優れたセドリックであろう。
エスペランサは隊員の戦闘能力をランク付けしていたが、セドリックはエスペランサに次いでランクが高い。
恐らく、ホグワーツの7年生と1対1で戦っても、難なく勝つことができるであろう。
精神的にもタフであるから、将来的に良い軍人になると期待される人物である。
もし仮に、代表選手がセドリックになったのならば、センチュリオンの隊員は総出で支援することになる。
ならば、今年のセンチュリオンの目標はセドリックを優勝させることにしようか、とエスペランサは考えた。
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ホグワーツの新学期が始まり、さっそく授業が始まった。
内容は3学年の時よりもさらに難しい。
とは言え、センチュリオンの隊員たちはポテンシャルが高いので然程苦労はしていないようだった。
ネビルは昨年度から飛躍的に能力が向上し、魔法薬学でミスをすることがなくなったどころか、完璧に魔法薬を調合している。
これは、彼が狙撃手として訓練を重ねるたびに、類まれなる集中力を手にしたからである。
スネイプも表情には出さないものの、彼を一定数評価しているようだった。
魔法薬の成績はハーマイオニーがトップで、次点でセオドールとフローラ、その下に意外にもマルフォイが食い下がっている。
成程、スリザリンは性格に難あれど、優秀な人材は揃っているようだ。
そんなある日のこと。
エスペランサが玄関ホールをうろついていると(フローラにカエルチョコを渡そうとしていた)、ハリーたちとマルフォイがいざこざを起こしているのを見かけた。
もはや見慣れた光景である。
「ポッター。君は夏休みにウィーズリーの家に泊まったそうじゃないか。それじゃあ、教えてくれ。彼の母親はほんとにこんなデブチンなのか?」
マルフォイはロンの家族写真が載った日刊預言者新聞を指さして言う。
どうもロンの家族が新聞に載っているらしい。
「マルフォイ。君の母親はどうなんだい?鼻の下に糞でもぶらさがっているみたいじゃないか」
「僕の母上を侮辱するな!ポッター!」
とんだブーメラン発言である。
「それならその減らず口を閉じておけマルフォイ」
そう言ってハリーはマルフォイに背を向ける。
その隙を逃さず、マルフォイは杖を抜いて、ハリーに向けた。
流石に仲間が攻撃されそうになっているのを見逃すわけにはいかない。
エスペランサは懐からゴム弾の装填された拳銃を取り出して、マルフォイの方に駆け寄った。
が、エスペランサが攻撃するよりも早く、別の誰かがマルフォイを攻撃した。
バーン
マルフォイはあっと言う間に白い毛長イタチに変わってしまう。
「卑怯な真似をするな!若造」
カツンカツンと杖を突きながらムーディが登場した。
杖を構えていることから察するに、マルフォイを毛長イタチに変えたのは彼のようである。
「二度と、こんな、ことはするな!」
ムーディーはイタチを魔法で何度も地面に叩きつけた。
あっけに取られたエスペランサは拳銃を構えたまま棒立ちになっていた。
別に、ムーディの非人道的な行為に驚いているわけではない。
ムーディはエスペランサが銃で攻撃するよりも前に、マルフォイに呪いを命中させた。
杖による攻撃は銃による攻撃よりもラグがある。
故に、反応速度でエスペランサが負けるわけがない、と思っていたが、その常識が覆されたのだった。
「ムーディ先生!それは生徒なのですか!?」
通りすがったマクゴナガルが血相を変えて飛んでくる。
「左様だ」
「本校では生徒に対する罰則で、体罰は禁じています!!」
「ふむ。ダンブルドアからそんな話を聞いたかもしれん。それよりも………」
ムーディは顔を真っ青にしたマクゴナガルを無視して、エスペランサの方へ魔法の目をギョロリと向けて話しかけてきた。
「貴様。名はなんと言う?」
「エスペランサ・ルックウッドです」
「ほう。良い目をしているな。お前のような風格の魔法使いはそう多くない。それに……」
ムーディはエスペランサの手に持つM92拳銃に目を向ける。
「良い反応だった。わしには劣るが、闇払いとして才能があるぞ」
「生憎、闇払いは目指していないので………」
フム、とムーディは唸る。
闇払いについては予習済みだった。
個人個人の能力は高いが、人数の少なさが災いして、治安維持を完遂できた試しがない。
抑止力としては物足りない組織であった。
「まあ、考えておけ。ああ、そうだ。お前はグリフィンドールだな。グリフィンドールに10点やろう」
思いがけぬ得点の獲得にエスペランサは目をぱちくりさせた。
点数を獲得したのは何年ぶりだろうか……?
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ムーディの授業がすごい。
この噂がホグワーツの中で爆発的に広まっていた。
それ故にエスペランサも彼の授業は楽しみにしていた。
また、エスペランサ自身、ムーディを気に入ってもいる。
数多くの死線を乗り越えてきた歴戦の兵士である彼の授業はさぞ、為になることだろう。
「そんな物はしまってしまえ」
杖でコツンコツンと床を鳴らしながら登場したムーディは学生が机の上に広げていた教科書を指して、そう言った。
やがて教卓につくと、魔法の目で全員を見渡してから喋りはじめる。
「ルーピン先生から昨年度の授業内容は聞いている。だが、それを聞いて、お前たちは遅れている、と思った。呪いの扱いについてだ。そこで、わしはお前らが呪いに対して一定以上抗える力を持たせなくてはならん。わしの任期は1年間だから、この1年間でみっちりと叩き込む」
「え、ずっといるんじゃないの?」
ロンが思わずく口走った。
ムーディはフッと笑う。
「お前はアーサーの息子だな。お前の父親には先日、助けられた。うむ。そうだ。1年したら再び隠居生活に戻らせてもらおう」
彼は続ける。
「さて、魔法省によれば、わしが教えるべきは反対呪文のかけかただとか、そういった陳腐なものだ。しかし、お前らは敵がどのような手段をもって攻撃してくるかを知らねばならん。違法とされる呪文は本来であれば6年生まで見ることは禁じられているが、ダンブルドアはお前たちの根性を高く評価している。ミス・ブラウンそんなものはしまっておけ」
ムーディは机の下で内職作業をしていたラベンダー・ブラウンを叱責した。
どうやら魔法の義眼には透視能力が備え付けてあるらしい。
男子生徒は皆、欲しがる夢の道具である。
「敵は礼儀正しく面と向かって闇の呪文など唱えてはこない。奇襲など、ありとあらゆる手段で攻撃してくる。だから常に警戒せねばならんのだ。さて、この中に禁じられた魔法が何かわかる者は居るか?」
ムーディの質問に3人の生徒が手を挙げた。
ハーマイオニーとロン、それにネビルである。
「ほう。アーサーの息子、言ってみろ」
「え、ええっと確か服従の呪文とか、何とか?」
「その通りだ。お前の父親は魔法省でこの呪文に苦労させられただろうな」
そう言って、ムーディは教卓の引き出しから小瓶を取り出す。
小瓶の中には3匹の蜘蛛が入っていた。
ロンは絶句する。
彼は蜘蛛が苦手なのだ。
「インペリオ・服従せよ」
ムーディが呪文を唱えると、蜘蛛は杖の動きに従いながら教卓の上でタップダンスを踊り始めた。
生徒はその蜘蛛の姿に笑った。
エスペランサとハーマイオニー、それにネビルは笑えなかったが。
「お前ら、これが面白く見えるのか?もしこの蜘蛛がお前らだったらどうする?」
生徒たちから笑いが消える。
「完全な支配だ。わしはこの蜘蛛を入水自殺させることもできれば、生徒の口に飛び込ませることもできる」
恐ろしい呪文だ、とエスペランサは思った。
この呪文一つで国を乗っ取ることだってできるだろう。
「何年も前、この呪文に魔法界は苦しめられた。だが、服従の呪文には抗うことができる。その術をわしは教えよう。さて、次だ。ロングボトム、答えろ」
「はい。磔の呪文。対象に心身ともに過大な苦痛を与える呪文です」
ネビルはハキハキと答えた。
以前の彼ならもっとおどおどしながら答えたであろう。
しかし、彼はもう立派な軍人として成長している。
ただ、彼の手は何故か震えていた。
「エンゴージオ・肥大せよ」
ムーディはもう1匹の蜘蛛を肥大させた。
「勘弁してくれ」
ロンが極限まで椅子を後ろに引いて、絶句する。
「クルーシオ・苦しめ」
ムーディが呪文を唱えると、蜘蛛は苦痛でのたうち回った。
エスペランサはここで、なぜモルモット役を蜘蛛に選定してのかを理解した。
蜘蛛には声帯がない。
もし仮に、声帯を持つ動物に磔の呪文をかけたならば、想像を絶する悲鳴が教室内を覆ったことだろう。
「この呪文を使えば、どんな拷問も必要なくなる。この世のありとあらゆる拷問よりも強い苦痛を与えられるからだ。では、最後の一つをグレンジャー。答えてみろ」
「アバダ・ケダブラ」
ハーマイオニーは囁くように答えた。
生徒たちは不安そうにハーマイオニーを見る。
エスペランサはその呪文が何か知っている。
魔法界に来た当初、真っ先に調べた呪文だ。
「最悪の呪文だ。死の呪い………」
ムーディは最後の蜘蛛を取り出して、その蜘蛛に杖を向けた。
「アバダ・ケダブラ」
緑の閃光が蜘蛛に直撃する。
蜘蛛は動かなくなった。
女子生徒が声にならない悲鳴を上げる。
ロンは椅子から転げ落ちた。
エスペランサは動かなくなった蜘蛛を凝視する。
彼自身、死には慣れている。
あの地獄のような戦場では、死がありふれていた。
エスペランサも何人もの命を奪っている。
そして、自分が手を下した人間のことは決して忘れていない。
「この呪文に反対呪文は存在しない。防ぎようがない。この呪文から生き残った人間は人類史でもたった一人だ」
ムーディはハリーを見つめながら言った。
「この呪文を使用するには高い魔力が必要だ。お前たちが唱えたところで発動しない。では、なぜ、この呪文を教えたのか。それはお前たちがこの呪文を知らなくてはならないからだ。最悪の事態というものをお前たちは知らねばならん。油断大敵!!」
反対呪文の存在しない死の呪文。
しかし、当たらなければ死ぬことはない。
つまるところ、死の呪文というのは単発の小銃と大して変わりはないのだ。
それならば、反対呪文が存在しなくても恐れる必要はない。
エスペランサはそう判断していた。
その後の授業は、許されざる呪文の特性についての講義となり、生徒たちは授業の内容を板書した。
授業が終わった後、教場を出てすぐにネビルがエスペランサを呼び止めた。
「君は、あの授業をどう思った?」
「どうって………。俺的には良い授業だと思った。敵の攻撃手段を知るのは重要だからな」
「そうだね。僕たちの持つ銃や野戦砲も……許されざる呪文と同じ能力を持つんだよね」
「そうだな。だが、ネビル。俺がお前に以前言った言葉を覚えているか?」
「………。銃は敵を殺す道具であると共に、仲間を守る道具でもある。敵を殺すことを恐れるんじゃなくて、仲間が殺されることを恐れろ……だっけ」
「その通りだ。ネビルの不安は、俺たちがこれから行う活動に、死の呪文と同様の、つまり敵を殺傷する行動が伴うのか?っていうものだろ?違うか?」
「うん。その通りだ。今日の授業を見て、少し不安になった。僕はやっぱり、人の死が怖い。磔の呪文も………。だから、実戦で、果たして本当に引き金を引けるのかが不安なんだ」
エスペランサは知る由もなかったが、ネビルは磔の呪文に縁がある。
「当たり前だ。最初から引き金を引くのに躊躇しない奴っていうのは余程のサイコパスしかいない。俺だって、最初は引き金を引くのに躊躇した。だが、躊躇してるうちはまだ、人間らしさが残ってるってもんだ」
「君は……もう躊躇したりはしないの?」
「俺か?ああ。そうだな。俺はもう………」
エスペランサは最後まで言わなかった。
そんな彼を見てネビルは少し不安になる。
もしかしたら、エスペランサの心はまだ戦場に置き去りにされたままなのではないだろうか。
彼は、今、覚めない夢の中を彷徨っているだけなのではないか、と。
IMAXで地獄の黙示録を見てきました。
やはり傑作映画ですね。