久々の投稿です!
ターン
タターン
必要の部屋にある50メートル射撃場に銃声が響き渡る。
本日のセンチュリオンの訓練は実弾射撃訓練。
それも、普通の実弾射撃訓練ではない。
2つの的を設置し、その的の真ん中に生身の人間を一人立たせる。
射手は、生身の人間を射線に入れながら、2つの的に射撃をする危険な訓練だ。
この訓練は各国の特殊部隊で取り入れられている高度な訓練だ。
戦場で、とっさに射撃すべき目標を選別し、味方に射撃することがないようにするトリガーコントロールの訓練である。
エスペランサは各人の射撃成績が書かれたプリントを挟んだバインダーを片手に、射撃場を左右に歩いている。
隊員の練度はかなり向上した。
ネビルの射撃成績は言うまでもないが、セドリックもなかなかのものだ。
総合した戦闘能力は米陸軍の一般歩兵を上回るだろう。
これは、彼がストイックに訓練にのぞんでいたからである。
射撃場の反対側ではフナサカがポータブルの無線機ではなく、指揮所で使うような大型の無線機を調整している。
彼は、この1年で通信系のプロになっていた。
さらにその向こうの武器庫前では本日の当直であるアーニーたちが対空兵器の調整を行っている。
必要の部屋が出してくれた対空兵器は91式携帯型地対空誘導弾。
通称、ハンドアロー。
見た目はバズーカ砲に似ているが、熱源誘導式の対空ミサイル(SAM)が射出できる。
熱源誘導であるため、ドラゴンなどを相手にした戦闘に向いていた。
「隊員たちの練度はかなり向上した。海兵隊のフォースリーコンと渡り合えるレベルだ。作戦次第では魔法省も2日で陥落できる」
隊員たちを見渡してエスペランサはつぶやく。
センチュリオンの戦闘力は1年で飛躍した。
普通なら10年以上かかるだろうが、魔法と必要の部屋を最大限に活かした訓練のおかげで、それを1年に短縮したのである。
銃の軽量化の魔法。
自動誘導の魔法。
肉体改造のための魔法薬。
ありとあらゆる(上限はあるが)武器や物資を出してくれる必要の部屋。
この調子でいけば数年後にはデルタフォースレベルの軍隊を作ることもできるかもしれない。
エスペランサは首から下げていた号笛を吹く。
「状況中止。総員、ブリーフィングルームに集合せよ」
彼の号令を聞いて、18名の隊員がブリーフィングルームに集合する。
ブリーフィングルームは必要の部屋の端に設置された、パイプ椅子とホワイトボードのみがある簡素な部屋だ。
全員が着席したことを確認して、エスペランサは口を開いた。
「さて、新学期が始まって2か月近くが過ぎた。昨年度は吸魂鬼の撃滅という目標があったが、今年はそれがない。皆も目標がないとモチベーションが保てないだろう」
隊員たちはエスペランサを見つめて話を聞く。
「そこで、今年の目標を立てようと思ったんだが。今年は3校対抗試合があるだろう。あれにセンチュリオンの隊員から代表選手を出すってのはどうだろう」
この提案は多くの隊員が賛同した。
「良いね!」
「賛成だ!俺たちの力を他校に、いや、他国に見せつけるチャンスじゃないか」
「でも誰が出場するんだ?」
出場資格を満たす学生は実のところセドリックしかいない。
そう。
これはセドリックを3校対抗試合の代表選手にし、優勝させるという計画であった。
無論、セドリックとは事前に打ち合わせ済みである。
「出場可能なのはセドリックのみだ。人事担当のフローラに在校生で代表選手に選ばれそうな学生を調べてもらったが、セドリックを上回る技量を持った学生は存在しなかった。どのような選出方法かは知らないが、ホグワーツの代表選手に彼が選ばれる可能性は高い」
エスペランサがそう言った後で、セドリックが前に出てくる。
「僕が選出されるかどうかはまだわからない。が、選手に立候補するつもりだ。僕は僕の力を試したい。もちろんフェアな方法で」
「3校対抗試合に関する資料を集めて検討したが、この試合における競技では、魔法生物との戦闘が予想される。過去には、キメラやドラゴン、スフィンクスや水魔といった生物と戦闘を行い、そのうえで付与された課題をクリアするといった競技が行われていた。セドリックにはこれらの課題をクリアできる技能をつけてもらう」
隊員たちは歓声をあげた。
ホグワーツ在校生で魔法生物と戦闘を行うことのできる技量のある学生は少ない。
センチュリオンの隊員を除けば、実戦経験が豊富なハリーや、行動力だけはある双子のウィーズリーくらいなものだろうか。
ハーマイオニーは3学年時の闇の魔術に対する防衛術の試験でわかったように、実戦に向かないし、6年生7年生の秀才たちは頭でっかちばかりである。
ホグワーツの生徒で、潜在能力のある学生は片っ端からセンチュリオンに入隊させていたため、センチュリオンの隊員以外の学生はそこまでの技量がない、とも言える。
まだ決まったわけではないが、セドリックが代表選手に選ばれるのは必然とも言えた。
もちろん、セドリックは謙虚な隊員であったためにこれを否定したが。
「僕が代表選手になるかはわからない。が、もし選ばれたのであればセンチュリオンの旗を背にして、全力で挑む」
セドリックは全員の前でそう誓った。
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「豪語はしたものの、選ばれなかったらどうしようって思うよ」
セドリックは隊員が必要の部屋から寮へ帰った後で心中を吐露した。
「何を言ってるんだ。自分から言い出したことだろう?」
「まあね。ただ、不安なものは不安だ。過去には死者も出ている試合で、僕は勝つことができるんだろうかってね」
セドリックは新学期が始まって早々に、3校対抗試合に出たいという旨をエスペランサに報告してきた。
その報告を受けて、エスペランサはフローラに在校生の技能や成績をデータ化してまとめるように命じたのである。
ちなみに、彼女はいまだにエスペランサに腹を立てているのか、物凄く嫌そうな顔をしていた。
「大丈夫だ。お前以上に適任はいない。それに、昨年度は遊撃部隊の隊長として何度も死線を潜り抜けてきてるじゃないか」
「そう、だね。僕はもう少し自信を持つべきなんだろうね。公私共に………」
「公私?」
「いや、何でもないんだ。皆の期待にこたえられるように頑張るよ」
そう言ってセドリックは必要の部屋を後にした。
エスペランサはしばらくセドリックの言った“公私”という言葉の意味を考えていたが、結局、わからずじまいであった。
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時は流れて、3校対抗試合に参加するダームストラングとボーバトンの最終選考に選ばれた選手がホグワーツに来校する日になった。
季節は夏を過ぎ、すっかり寒くなってきている。
ホグワーツの生徒たちはマクゴナガル指揮のもと、城の入り口前に全員集められ、整列していた。
服装を正し、品を求められるホグワーツ生。
エスペランサは腰につけていた拳銃用のホルスターと、ローブに忍ばせていた手榴弾や無線機をすべて没収された。
マクゴナガル曰く、物騒なものを来客に見せるわけにはいかない、そうである。
さらに、マクゴナガルはエスペランサが2年生の時に校内に大量に設置したカメラやセンサー、予備の武器弾薬まで発見し、没収した。
エスペランサ自身も忘れていたが、彼はバジリスク対策にホグワーツ内のいたるところに武器を隠していた。
没収されたのは全体の4割ほどであったので、まだ各所に爆薬やら予備弾薬が温存されていた。
フィルチはあえて、それらを見逃していたのだろう。
ダームストラングの学生は湖の下から巨大な船で来校、ボーバトンは空飛ぶ馬車で来校した。
「湖から船でくるって……いや、もう突っ込みが追い付かない」
「僕もだよ」
マグル出身のエスペランサとハリーはまだ魔法界に慣れていなかった。
ダームストラングの乗ってきた船は巨大な帆船であったが、帆は飾りに過ぎないようだ。
推進力は魔法だろう。
大きさはドック型強襲揚陸艦ほどもある。
「ワスプ級と同じ大きさだな。一度だけ中東で見たことがある」
「ワスプ級?」
「米国の強襲揚陸艦だよ」
「へえ。ワスプ級って空母のイメージがあったけど」
ハーマイオニーが言う。
「ハーマイオニーは空母の名前を知ってるのか?」
「マグルの歴史も少しは勉強してるもの。WW2で日本の潜水艦に撃沈された船でしょ?」
「あ、ああ。そうなんだが。詳しいな」
「私の知り合いのおじいさんが、プリンス・オブ・ウェールズに乗っていたの。だから、少し勉強しようと思って」
勉強熱心なことである。
一方で、その横にいるロンは別のことで興奮していた。
「ハリー。みろよ!クラムだ。ビクトール・クラムだぜ!?まさか、ダームストラングの生徒だったとは!!」
「学生だったんだね。知らなかった」
ダームストラングの船から出てきた猫背で不愛想な男はクイディッチワールドカップで活躍していたクラムに違いなかった。
他の生徒も気づいたようで、興奮している。
セオドールは昇天しかけていた。
セオドールはクラムの熱心なファンらしい。
いつもは冷静沈着な参謀である彼はクラムがホグワーツの敷地をまたいだ瞬間に目の色を変えた。
頭の回転が速い彼は、夜の晩餐会に他校の生徒も参加することを予想した。
そして、おそらく、他校の生徒に席は用意されていない。
ならば、クラムを是非とも自分の隣に誘導し、お近づきになりたい。
セオドールはセンチュリオンの作戦を立案するときと同じくらいに頭を回転させ始めた。
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夕食の時間がはじまる1時間前。
エスペランサは大広間前でそわそわと待機するセオドールを発見する。
「どうしたんだ。こんなところで」
「なっ!?エスペランサ!君もなのか!」
「何が?」
「クラムを待ち伏せて、スリザリンのテーブルに誘導しようと思っていたんだ。もしや、君も」
「いや、全然そんなことは考えていなかったんだが」
エスペランサはたまたま大広間前に来ただけである。
「そうか。なら良い。僕はこのためにダームストラングの船の入り口に、偵察員(リコン)を送り込み、クラムの動向をリアルタイムで送るように言ってあるんだ。さらに、船からホグワーツに続く5パターンの経路にスリザリンの1年生を総動員して待機させてある。僕の計画通りならクラムは他寮の生徒に接触することなく、ここに来るはずだ」
「は、はあ」
呆れたことに、セオドールはクラムをスリザリンのテーブルに誘導するための作戦を立てたらしい。
彼の手元には吸魂鬼撃滅作戦で使用したホグワーツの敷地内の地図が握られている。
「ここまでやるとは思ってませんでした。呆れたものですね」
見れば、大広間の反対側の入り口にフローラが待機していた。
その足元ではフナサカが通信機を設置してどこかと連絡を取っている。
ちなみにフナサカはスリザリン生ではない。
セオドールに無理やり命じられたのだろうか。
「個人的には不愛想なクラムよりも美人ばっかのボーバトンの子たちを隣に誘導したいところだけどね」
フナサカが冗談交じりに言ったが、その一言がフローラの機嫌を悪くさせた。
「スリザリン生もボーバトンの生徒に目を奪われてばかりいます。呆れてものも言えません」
「こっちも似たり寄ったりだ。ロンは“ホグワーツじゃあんな子作れないよな。芋ばっかりさ”とか言ってハーマイオニーに殴られてたよ」
実際、ボーバトンの生徒は美人が多かった。
特に、フラー・デラクールという生徒。
ハリウッド映画にでも出てきそうな容姿である。
しかし、容姿で言えばフローラも負けてはいない、というのがエスペランサの感想であった。
もっとも、口には出さなかったが。
「あなたもそう思うんですか?」
「え?」
「あなたも、ホグワーツの女子生徒は芋ばっかりだとか思ってたんでしょうか?」
不意にフローラに話しかけられたエスペランサは困惑する。
「いや、俺は興味ないし………」
「とか言いつつ、ボーバトンの生徒が来校してきたときは随分とじっくり見てたように思えましたが?」
「なんで、俺のことを観察してるんだよ………」
「さあ?」
彼女はいまだにエスペランサに対してへそを曲げている。
「別にホグワーツにだって、あのフラーとかいう生徒に引けを取らない女子生徒はいるだろ。フローラ然り………」
「………え?」
「いや、だから……。だいたいにして、俺はあの手の女性が苦手なんだよ。住む世界が違うっていうか。なんというか」
エスペランサはゴニョゴニョと言葉を続けていたが、フローラの耳にそれは入ってきていなかったようである。
彼女は少し目をそらしながら城の外にそそくさと走っていった。
「おい……どこいくんだ?まったく、わけがわかんねえ……」
「やっこさん。照れてんのさ」
フナサカが発電機に通信機のコードを差し込みながら言う。
「照れてる?」
「まあ、隊長にはわからんかもしれないけど。天然ジゴロの隊長には」
「お前、次にそのあだ名を使ったら榴弾と一緒に迫撃砲で撃ちだすからな」
そうこうしているとセオドールの裏工作通り、クラムを含めたダームストラングの生徒が大広間へ向かってくるのが見えた。
「来た!」
セオドールは持っていた地図をエスペランサに押し付けてクラムのほうへ走っていった。
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他校の生徒が来るというだけあって晩餐会の食事はかなり豪華だった。
だが、エスペランサはそれどころではない。
今晩、代表選手の選考方法が知らされるのである。
この選考方法は秘匿されていたために、図書館の資料でも見つけることはできなかった。
「3校対抗試合では各校1名の代表選手が選出され、競技によって点数を競う。魔法だけでなく、勇気や論理も重要な要素じゃ。点数は各校の校長と審査員によってつけられ、最も得点の高いものが栄誉と賞金を手にする」
ダンブルドアが解説する。
ダンブルドアの横に座る長身の女性がボーバトンの校長であるマダム・マクシーム、そして、目が笑っていない犯罪者のような男がダームストラング校長のイゴール・カルカロフだ。
さらに、その横には国際魔法協力部長であるバーテミウス・クラウチと元クィディッチ代表選手であったルード・バグマンが座っている。
この5名が審査委員らしい。
「さて、代表選手の選考に関してじゃが……」
フィルチが大広間の隅から布で覆われたカップのようなものを持ってくる。
「この炎のゴブレットを使って選出する」
フィルチが布を取り払うと、そこには古めかしいゴブレットが現れた。
彼はそれを大広間前面の職員席の真ん中に置かれていたテーブルの上に大事そうに置いた。
置かれた瞬間にゴブレットは炎を噴き上げる。
「これが古来より使われてきた炎のゴブレットじゃ。選手の希望者はハロウィーンまでに名前を書いた羊皮紙をこのゴブレットに入れるのじゃ。ゴブレットは希望者の中から適任と判断した学生を代表選手に選ぶ」
つまり、代表選手を決定するのはゴブレットの意志であるということだろう。
そこに、ダンブルドアをはじめとした審査員の意志は関わらない。
ゴブレットがセドリックの才を見抜くことができるだろうか。
エスペランサは疑わしげにゴブレットを眺めたが、組み分け帽子などの魔法道具が実証するように、この手の道具は割と信頼性がある。
「このゴブレットは玄関ホールに置く。17歳以上の学生で、危険を承知で立候補する勇気ある学生は名前を入れるのじゃ。ただし、競技は安全対策がされたといえ、危険じゃ。生半可な気持ちでは立候補しないように注意すると良い。それから、17歳未満の生徒は羊皮紙を入れることができない。ゴブレットの周りには年齢線を引くからのう」
ダンブルドアの説明を聞いていた双子のウィーズリーはニヤリとする。
年齢線ならば老け薬で何とかなると思っているのだろう。
そう簡単にいくとは到底思えなかったが……。
ダンブルドアの説明は終わり、生徒は三々五々、大広間から出ていく。
「どうする、ハリー。フレッドたちが年齢線を超える術を見つけたら僕たちも入れるかい」
「うん。そうだね。もしそうだったら……」
ハリーとロンはそのようなことを話しながら寮へ向かう。
「エスペランサ。君は?君ならどんな課題だってクリアできそうだけど」
「残念だが、俺は立候補しない。年齢制限は規則だしな」
「君から規則の話が出るとは思ってなかったよ」
ロンはエスペランサが首からかけているサブマシンガンを(こっそりマクゴナガルの部屋から回収しておいた)見てそう言う。
「だが、簡単に優勝する方法なら考えてあるぞ」
「え!?何、何?」
「そりゃあ、他の代表選手を競技前に戦闘不能にしちまえば良い。そうすれば自然に優勝だ」
エスペランサの回答にハリーとロンは唖然とする。
「あなたならそう考えると思っていたわ。たぶん、あなたがゴブレットに名前を入れたところでゴブレットはあなたを選ばないでしょうね」
「それに関しては同意見だ。ハーマイオニー」
フェアプレーを考えないのならば、他の選手を先に潰してしまったり、競技会場に細工をしたりすれば簡単に勝てる。
戦争はいつだってルール無用で、ズルをしてでも勝ったほうが正義だ。
だが、これは競技である以上フェアプレーを求められる。
セドリックは意地でもフェアプレーを目指すだろう。
ハッフルパフの席の横で、羊皮紙を握りしめているセドリックを横目で見ながら、エスペランサはそう思った。
フェアプレーをする選手なんていたっけ……?
炎のゴブレットはセドリックに焦点があてられそうです。