第一の課題も大詰めです。
「こちらはHQ。各部、感度良ければ知らせよ」
『迫撃砲班感度良好』
『後方支援班感度良好』
各部からの返信を聞いたエスペランサは通信機の送話器をフナサカに返す。
第一の課題を行う競技場に設置されているスタンドの端にエスペランサをはじめとするセンチュリオンの本部班はいた。
スタンドの高さは地面から20メートル以上あり、課題が行われるフィールドが一望できる。
巧妙に魔法でカモフラージュされた通信機の前に通信員であるフナサカが座り、その横に双眼鏡を持つセオドールが立っていた。
これらの隊員の他に、数名の隊員たちがスタンドの各地に散らばり、状況を逐一、本部に知らせることになっていた。
また、競技場から3キロ離れた地点に迫撃砲班が陣地を構築している。
「81ミリ迫撃砲の設置は完了。各部との通信も確保した。あとは作戦通りに動くだけだ」
セオドールが双眼鏡を覗きながら言う。
「先程の放送によればセドリックは一番手。相手にするドラゴンはスウェーデンのショート・スナウト種。比較的小型で装甲も薄い。ただし、吐く炎の温度は他の種類より高温だ」
エスペランサは手元にある資料に目を通す。
そこにはドラゴンの種類と特性が記してあった。
「それなら好都合だ。今回使う武器は熱源探知式の誘導弾。ドラゴンのプラズマチャンバーが高温であればあるほど、正確な射撃ができる」
プラズマチャンバーというのはドラゴンの体内に設けられた炎を吐くための器官である。
ドラゴンはこのプラズマチャンバーで高音の炎を生成したあと、息と一緒に吐くことができる。
つまり、熱源探知式の誘導弾はドラゴン体内のプラズマチャンバーめがけて飛んでくれるというわけだ。
「しかし、観客の盛り上がりもすげえな」
「ほとんどの生徒は今日、第一の課題の内容を知ったからな。驚きもするだろう。それに、ドラゴンをこんな間近で見る機会なんて滅多にない」
スタンドに座る生徒たちは、つい10分前に審査員兼アナウンスのルード・バグマンから第一の課題の内容がドラゴンを相手にすることだと聞いた。
それを聞いた生徒たちは大いに興奮している。
生徒たちの声が響き渡り、木製のスタンドが小刻みに揺れるほどだ。
「そう言えば・・・ポッターは大丈夫なのか?」
セオドールがふと思いついたようにエスペランサに聞く。
「心配ではあるが、何とか活路を見出したようだ。まあ、バジリスクを相手にするよかよほどマシだろう」
「彼も災難だな。ほら、ほとんどのホグワーツの生徒は例のバッチをつけている。こんな環境で課題をやるっていうのはメンタル的によろしくない」
セオドールが指差した先には「汚いぞポッター」のバッチをつけたスリザリンの生徒たちがいた。
『おおーっと!ここでドラゴンが登場だ!』
バグマンの実況に生徒が一斉にフィールドを見る。
フィールドの端の暗幕から1頭のドラゴンがのそりのそりと現れた。
比較的小型とはいえ、トロールよりも遥かに大きく、そして獰猛そうである。
ギラギラとした金色の目に鋭い牙はバジリスクを思い出させる。
体色は青みがかっており、どことなく魚類を連想させる。
グオオオア
唸り声と共にドラゴンは炎を吹き出した。
『ショート・スナウト種です!ディゴリー選手はどう戦うのか!?』
迫撃砲陣地で指揮をとるアーニー・マクミランは手にじっとりとついた汗をローブで拭いていた。
彼が迫撃砲の指揮をするのはこれで3度目である。
『こちらコーマック。上空から競技場の中心を確認。ドラゴンはいまだ姿を見せず』
上空で箒に乗り、競技場を観測しているコーマックから通信が入る。
「了解。引き続き観測を行え」
アーニーは自分の声が震えていることに気付いた。
迫撃砲陣地は競技場の北3キロ地点にある禁じられた森の内部に構築されている。
これは、生徒や職員に見られないため、また、迫撃砲の発射を審査員に悟られないためである。
故に、迫撃砲陣から競技場は視認できない。
つまり自動追尾の魔法は使えない。
自動追尾の魔法が使えない以上、弾道計算や軌道修正は全て手動で行う必要がある。
アーニーはエスペランサと協力して、競技場のフィールド中央に発煙弾を命中させるための弾道計算を行っていた。
計算に狂いがなければ、迫撃砲から発射された発煙弾は競技場のフィールドのど真ん中に着弾する筈だ。
しかし、計算に少しでも狂いが生じていたら・・・。
もしくは、迫撃砲自体の射角を少しでも間違えたら・・・。
発煙弾とはいえ、生身の人間にあたれば即死は免れない。
セドリックや観客に命中しないようにするには、フィールドのど真ん中に命中させるしかない(セドリックにはフィールドのど真ん中には近寄らないように指示をしている)。
その思いがアーニーを必要以上に緊張させた。
迫撃砲陣地は森の中の茂みを刈り、木を切り倒して簡易的に作ってある。
地面には木製の板を敷き、迫撃砲を水平に保つ工夫がされた。
黒光りする81ミリ迫撃砲が薄暗い森の中で異様に煌く。
その周囲に指揮官のアーニー、射手のダフネ、それから補給や整備に携わるスタッフとマフリアート(耳塞ぎの魔法)をかける隊員が立つ。
さらに上空では競技場を観測するコーマックが飛行していた。
「ダフネ。発煙弾発射用意」
「了解。発煙弾発射用意」
迫撃砲の横に並べられた発煙弾の一つをダフネが取る。
「射角、1100。本隊からの指示があり次第、半装填とせよ」
寒い季節であるにも関わらず、額から噴き出てくる汗を拭いながらアーニーは指示を出し始めた。
同時刻。
セドリックも額から汗を流していた。
緊張からではない。
ドラゴンの炎のせいである。
岩石をも容易く溶かしてしまう炎の熱にセドリックは苦戦していた。
審査員の指示によりフィールドに入ったセドリック。
まず、目に飛び込んだのは観客席に座る無数の生徒であった。
彼らはまるでサーカスでも見るように楽しさと不安さが入り混じった顔でセドリックを見て歓声をあげている。
「呑気なものだよ」
セドリックは観客を見てそう思う。
彼らはドラゴンと戦うセドリックをただ単に観るだけ。
そこには緊張も葛藤も恐怖も存在しない。
観客席から聞こえる声援はどこか別世界のものだ。
彼はそう感じた。
そして、正面に立つドラゴンを見据える。
青みがかった皮膚を持つショート・スナウト種がセドリックを睨んでいた。
ドラゴンの足元には金色の卵が複数個置かれている。
今回はあの卵を奪わなくてはならない。
そのために、ドラゴンを無力化する。
『さて!ディゴリー選手はどのようにドラゴンを相手にするのか!』
バグマンの実況が聞こえる。
セドリックはその実況を合図に杖を足元の岩に向けた。
そして呪文を唱える。
呪文により岩が巨大な犬に変化する。
変身魔法の中でも高度な魔法だ。
OWLレベルの魔法で、セドリックも習得には2週間の時間をついやした。
しかし、この犬はデコイである。
「行けっ!」
彼の指示で犬が走り出す。
ドラゴンはセドリックから走り出した犬の方へ気を奪われた。
『岩を犬に変身させました!ドラゴンは犬に気を取られる!この隙に卵を奪うのか!?』
ドラゴンは犬の方向へ炎を吐きつけるが、犬は巧みにこれをかわしていた。
逸れた炎はフィールドを溶かし、あたりには熱気が立ち込める。
観客はドラゴンの炎を避ける犬に気を取られていたため、上空から聞こえるヒュルルという音に気付かない。
「来た!」
セドリックは競技場の上空から飛来する砲弾の音に気付いた。
セドリックが岩を大型犬に変化させることが、作戦のトリガーであった。
双眼鏡越しにセドリックが岩を犬に変えたことを確認したエスペランサは速やかに指示を出す。
「作戦開始!発煙弾発射!」
その指示を聞いたフナサカが通信機で迫撃砲班に通信を入れる。
「作戦開始。発煙弾発射せよ」
『了解』
エスペランサはフィールドから目を離さない。
万が一の場合、すなわち、ドラゴンがセドリックを殺しそうになった場合、即座に対処するためだ。
その時は、発煙弾ではなく実弾を迫撃砲に撃たせ、また、場外で待機中の重火器で武装した部隊によってドラゴンを無力化する。
だが、それは本当の最終手段だ。
そもそも、この作戦で発煙弾を使用する理由は、セドリックがマグルの兵器を使うところを見られないため。
さらに、魔法省にセンチュリオンの存在を秘匿するためである。
「懸念事項は多い。今回の作戦も前回と同様に無理難題だらけだった。我々の武器を秘匿するという前提がなければ確実にドラゴンを無力化できるのに」
「心配するな。セオドール。シミュレーションは何度も重ねている」
「僕の役目は常に最悪の事態を想定して対策を立てることだ。如何なる時も楽観視はできない」
セオドールの表情は硬い。
今回の作戦は彼が全て立てた。
故に、作戦が失敗したらその責任を全て負おうとしているに違いない。
だが。
「セオドール。お前の作戦を採用し、実行させたのは隊長の俺だ。全責任は俺にある。だから、もう少し楽に構えろ。副隊長であるお前がそんなに肩肘張っていたら部下も心配になる」
ヒュルルル
そんな中、上空から砲弾が空を裂く音が聞こえてくる。
「来たか!」
フィールドの中央。
ドラゴンとセドリックの間に発煙弾が着弾する。
ズズン
土煙を上げて着弾した発煙弾からは白い煙がもうもうとあがってきた。
突然、出現した白煙にドラゴンは驚きを隠さず、犬から目を離した。
『なんだこの煙は!ディゴリー選手の奇策か?フィールドは白煙に包まれ、何も見えなくなっていく』
ドラゴンとセドリックを切り離すかのように白煙はどんどん広がる。
しかし、フィールド全体を覆うまでには至っていない。
まだ、観客席こらはセドリックもドラゴンも視認できてしまう。
「次弾発射急げ!今度は着弾点を左右に散らすんだ」
エスペランサの指示を受け、アーニーが迫撃砲弾を次々に発射した。
ズン
ズズン
鈍い音を立てて、フィールドに発煙弾が着弾していく。
たったの3発で広大なフィールドは白煙に完全に包まれた。
『これでは何が起きているのかわからないぞ!ディゴリー選手は大丈夫なのか?彼は何を考えているんでしょうか?』
バグマンが叫ぶ。
生徒たちは周囲を覆う白煙に息が詰まり、たまらずに観客席を後にしようとする者もいた。
「フナサカが苦心して作り上げた発煙弾。凄まじい効果だな」
「もともとの発煙弾ならここまでの範囲を白煙で覆えなかったよ」
フナサカが言う。
彼は発煙弾の威力と持続時間を延ばすために頭を悩ませていた。
そんな時、魔法省の輸入品目の中にペルー産のインスタント煙幕という物が入っていることに気づく。
インスタント煙幕は悪戯グッズの一つではあるが、持続力と効果は保証できた。
インスタント煙幕に使われている魔法を解析し、発煙弾に応用させたのはつい3日前である。
「それでも持続時間は10分を超えるくらいしかない。勝負はその10分間だ」
発煙弾がどのような物なのかは富士総合火力演習の動画にて
今回は迫撃砲に頑張ってもらってます。