ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case58 Second challenge 〜第二の課題〜

必要の部屋にセンチュリオンの隊員が4列横隊で並んでいた。

 

センチュリオンの隊員は19名。

隊長のエスペランサが前に出ている為、18名の隊員が列を成形する。

 

しかし。

 

 

「5の3欠か。一人足りない」

 

5の3欠。

つまり、5列作って5列目は3人居ないということだ。

となると、総員は18名であり、一人足りない計算となる。

 

「誰が居ない?」

 

「チョウだ。彼女が居ない」

 

「やはり、な」

 

エスペランサが急遽、必要の部屋に隊員を集めて点呼を行った理由はチョウの不在を確かめるためだ。

 

本日は第2の課題が行われる当日である。

課題の内容は、セドリックの"大切なもの"を湖の中から救出するというものだ。

大切なもの、それはつまりチョウを意味する。

 

「なるほど。セドリックにとって大切なものというのはチョウのことか。彼女はいつ拉致されたんだ?センチュリオンの隊員である彼女が易々と拉致されるとは思わないんだが」

 

「恐らくは任意同行だろう。今朝、フリットウィックがチョウを職員室に連れて行く姿を見た者がいる」

 

レイブンクローの隊員たちがしきりに頷いた。

 

「セドリック。準備の方はできたか?」

 

「ああ。問題ない」

 

潜水用のウエットスーツを着て、頭には水中でも使用可能なヘッドライトを装着し、腰にはサバイバルナイフ、手には水中銃APSを持ち、APS用の弾倉と水中会話用の砂鉄を利用したボード(マグルのおもちゃである)を入れた防水性のリュックを背負ったセドリックが落ち着いた表情で言う。

 

「湖の中で脅威になり得る生物は水中人と水魔のみだ。書籍によれば、奴らは群を率いて組織だった戦闘を行う。機動性も水中であれば敵に有利で我に不利。接近戦は控えて、ロングレンジからの狙撃をメインに戦うんだ」

 

セオドールがセドリックに力説した。

彼は第2の課題の内容がわかった後、センチュリオンの隊員数名を湖の中へ偵察に出していた。

必要の部屋でマグルのダイバーが使用する潜水機器を調達し、体力に自信のある隊員を選抜。

選抜された6名の隊員は3日を費やして湖の中に存在する生物、湖底の地形、水深、底質、時間毎の外力、課題の予想実施場所を調べ尽くした。

 

苦心して作り上げた湖底の地図は防水処置済みである。

地図には水中人の村の場所や水中人の作り上げたと思われる砦、大イカの生息地などが記されていたが、課題の実施場所は恐らく水中人の村の中心と思われた。

偵察で分かったことだが、村の中心の広場には荒削りな水中人の石像が存在し、そこに、磔に使うような鎖が4つ設置されていたからだ。

 

「審査員は誰も湖の中を事前に偵察する選手が居るとは思わないだろうな」

 

最前列にいたコーマックが笑いながら言う。

 

「ああ。事前に情報を仕入れている分、セドリックが有利だ」

 

湖の中の情報を仕入れたことで、セドリックはかなり行動し易くなった。

まず、チョウが拉致されたであろう場所がほぼ特定出来ている。

また、脅威となる水中人の砦や障害となる生物を回避することができる。

さらに、地形や水の流れを知ることができたので、最短距離、最速で目的地へ辿り着くことも出来るだろう。

 

「俺たちに出来るのはここまでだ。あとはセドリックの技量にかかっている」

 

「何から何まで世話になって申し訳ないね。本当は僕一人の力でやらなきゃいけないんだけど」

 

「何度も言わせるな。お前はセンチュリオンの隊員だ。故にお前はホグワーツだけでなくセンチュリオンの旗も掲げて戦っているんだ。俺たちの代表に最善の協力をするのは当たり前だろう」

 

エスペランサはそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セドリックは湖畔に急遽設営された三校対抗試合用のスタンドの足元にある選手待機所にいる。

 

第二の課題の舞台はホグワーツ城の横にある湖だ。

 

ホグワーツの1年生は入学する際にこの湖をボートで渡ることになっている。

2年生からは馬車で城まで移動することになっているが、何故、1年生だけボートで移動するのだろう、とセドリックは疑問に思ったことがあった。

諸説あるが、この湖を渡るという儀式は1年生にとっての最初の試練なのだそうだ。

親元を離れて、ホグワーツという魔法の世界に足を踏み入れるための登竜門という考えだ。

エスペランサにその話をしたら「銃の貸与式のようなものか?それとも、編成完結式か?」と言っていた。

セドリックには今一ピンと来ない話である。

 

この湖はかなりの面積を持っており、マグルの海軍の艦隊を丸々一つ浮かべることが出来る程だ。

水深は意外と浅く、最深部でも50メートルも無いそうである。

底質は基本的に砂であり、湖畔はホグワーツ城の脇から禁じられた森の中にまで及んでいる。

ホグワーツ城側の湖畔には高さ15メートル程の観客席が3つ設けられていて、生徒たちはそこから見物することになる。

とは言え、課題自体は湖の中で行われるので、生徒たちは課題の内容を見ることが出来ない。

 

セドリックをはじめとした4人の代表選手(ハリーは少し遅刻した)は、観客席の下に作られた桟橋のような物の上に立たされた。

この桟橋の脇に審査員が座っている。

審査員の内、クラウチは病欠していて、代わりにパーシー・ウィーズリーが審査員をしていた。

 

観客席の生徒も、審査員たちも、ついでにセドリックの両親も、皆、セドリックの異様な格好に驚いている。

他の3人の選手は水着を着て、杖を持っているだけだが、セドリックのみフル武装だったからだ。

そもそも、魔法使いたちはセドリックの着ているマグルの潜水用のウェットスーツを見たことがない。

手に持っている水中銃が禍々しく光っているが、ホグワーツの生徒たちはエスペランサのせいで銃の存在とその威力を嫌という程に知っていた。

 

 

「あー。さて、全選手の準備が終わりました。制限時間は1時間!その間に選手たちは奪われた大切な人を取り戻さなくてはなりません。それでは、開始します。いーち、にー、さーん、開始いいい!」

 

バグマンはカウントダウンを行った後に、ホイッスルを鳴らした。

それを合図に4人の選手は一斉に湖へ飛び込む。

 

冷たい水の中に入り込むと、観客席の声援が遠く、別の世界の物に聞こえる。

飛び込む寸前、セドリックは一瞬だけ観客席で座るエスペランサの姿を目にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖に飛び込み、3メートル程沈んだセドリックは、持っていた杖を自分に向けて泡頭呪文をかける。

泡頭呪文は、どんな環境にいても新鮮な空気を確保することができる魔法であり、見た目的には頭に大きなシャボン玉を被るような物だ。

単純で簡単な呪文なので、ホグワーツの上級者なら誰でも使うことが可能である。

 

新鮮な空気を取り戻したセドリックは水中で体勢を整えて、他の選手を観察した。

 

フラーはセドリックと同じく泡頭呪文を使用している。

しかし、泡頭呪文しか使用していないため、真冬の湖の冷たさに体力が消耗していくのが目に見えて分かった。

また、足ヒレなどを装着していないために水中での速力が出せていない。

 

クラムはサメに自身を変身させている。

変身呪文が未熟であるため、頭のみサメになっていた。

元々、体力と運動神経が良いため、こちらはかなりの速度で泳ぐことが出来ている。

 

ハリーは何を使ったのかは分からないが、水中人に変身しているように見えた。

手足にはヒレが付き、エラも出来ている。

 

3人とも早々に湖の奥へと消えていったが、セドリックは落ち着いていた。

潜水用のウェットスーツのおかげで寒さは感じない。

マグルの知恵の凄さをつくづく感じながら、彼はリュックから方位磁石とセオドールたちが苦心して作り上げた防水加工済みの地図を取り出した。

 

「現在地から南西に500メートル進み、その後、水魔の生息地を避けつつ、南に1キロ進めば目的地か」

 

セドリックは地図と水中銃をリュックに入れ、杖を進行方向とは反対側に向けた。

 

「プロモーティファイ・推進力よ!」

 

杖からは小型の渦が噴出し、セドリックは推進力を得ることが出来た。

原理は船のスクリューと同じである。

 

セドリックをはじめとしたセンチュリオンの隊員たちは水泳をした経験がほとんど無い。

そもそも、魔法界の人間は水泳をする機会がないため、基本4泳法すら知らなかった。

マグル出身のフナサカも競泳の経験は無い。

そのため、エスペランサがセドリックに水泳を教えることになった。

 

が、しかし、エスペランサ自身も中東での活動しかしておらず、水泳に関しては素人同然。

一応、水路を用いた急襲作戦の為にダイビングのライセンスを獲得していたり、基本4泳法は出来るようになっていたが、ベテランと言う訳ではなかった。

 

エスペランサはセドリックに素潜りのやり方と、クロールや平泳ぎ、足ヒレの使い方、そして立ち泳ぎ等の必要最低限の技術を教えはしたが、所詮は付け焼き刃の技術である。

そこで、魔法によって推進力を得ることを考え出した。

 

水の中で渦を作り出す原始的な魔法であるが、スクリューと同じ効力を持つため、魔法を使った者は潜水艦の様に前に進むことが出来る。

 

「凄いな。一切、体力を使わずに進むことが出来る」

 

セドリックは感嘆した。

推進魔法を使うと、6ノットの速力が出る。

6ノットとは1時間で6マイル進むということだ。

 

1マイルは約2000ヤードであり、ヤードは約メートル×1.1である。

つまり、概略で1時間に10909メートル進むことができる。

この速力に加えて、地図による最短ルートが分かっているのだから、セドリックが最初に目的地に到着するのは当たり前であった。

 

水魔の生息する地域を避け、水中人の作り上げた木製の砦を突破したセドリックはリュックから水中銃を取り出し、それを右手に、杖を左手に持ちながら水中人たちの村に接近する。

 

岩を削って作ったのであろう水中人の住居が

少なくとも10は存在した。

間違い無い。

ここが水中人の集落だ。

セドリックは確信する。

 

よく見れば住居の穴からは水中人がこちらの様子を伺っているのが見えた。

灰色の肌に、暗緑色の髪、黄色い歯。

手に石で出来た槍を持つ者も居る。

エスペランサがこの場に居たら「良く出来たB級映画に出てくるエイリアンみたいだな」とでも言うに違いない。

それ程に水中人は空想上の人魚とは程遠い生き物であったのだ。

 

良く見れば水魔を鎖で繋いでペットにしている家もある。

水魔、すなわちグリンデローは英国の湖に生息する魔法生物であり、魔法省による危険度は××だ。

タコのような手足を持ち、角が生え、胴体は出来の悪いゴブリンのようで、時には人肉も食うとされている。

昨年度、ルーピンが授業で扱った生物でもあり、手足が脆い為、撃退はそれほど難しくは無い。

 

水中人の集落の中央にお祭り広場のような場所があり、そこに巨大な水中人の石像が存在する。

その石像に縄で作られた鎖で4人の人間が括り付けられていた。

 

縄でどうやって鎖を作るのかというと、いかり結びという結び方がある。

エスペランサの指導により、センチュリオンの隊員はある程度のロープワークが出来るようになっていたため、セドリックも人質である4人を縛っている鎖のような物が、いかり結びによって結合された縄であることを即座に見抜いていた。

 

ならば、腰につけたサバイバルナイフで切断可能だ。

 

石像の横で水中人のコーラス隊が歌うのを横目にして、セドリックは自分の人質であるチョウの元へ向かっていく。

 

その間、他の水中人たちは槍をセドリックに向けたまま、動くことは無かった。

 

「チョウ!大丈夫か!?」

 

セドリックは縛りつけられたチョウに呼びかけるが、返事は無い。

当たり前だ。

魔法で眠らされているのだろう。

逆にここで目が覚めれば、彼女は溺れ死んでしまう。

 

チョウの他にはロンとハーマイオニー、それから恐らくフラーの妹が縛られている。

セドリックの任務はチョウの救出のみ。

他の人質は他の選手が救出すれば良い。

 

セドリックはサバイバルナイフでチョウを縛っていた縄を切断し、彼女を解放した。

心なしか彼女の顔は青くなっている。

長時間冷たい湖の中で放置されているのだから同然だろう。

 

周囲の水中人は今のところ妨害して来ない。

もし、彼らが妨害してきたのなら水中銃で反撃するところだったが、何だか肩透かしを食らわせられたような気がする。

セドリックは軽く息を吐いた。

 

彼は上を見上げる。

湖面までは軽く20メートル以上あるだろう。

となると、潜水病の心配をする必要があった。

 

潜水病は別名、減圧病と呼ばれる。  

 

急激な減圧により血液中に溶け込んだ窒素が気泡化し生じる疾患のことだ。

主に10m以下に長時間潜水し、急上昇すると血液中に溶け込んだ窒素が気泡化する。

これによって、目眩や吐き気、果ては知覚、運動障害を引き起こしてしまう。

 

米海軍の潜水マニュアルにもあるため、エスペランサは潜水病についてある程度の知識があった。

彼は、審査員が潜水病の存在を選手に知らせないのは安全管理上よろしく無いと憤慨している。

 

療法は高圧酸素療法と呼ばれるものがあるが、専用の施設が必要であり、掃海母艦や潜水艦救難母艦などに積んであるような物なので、無論、ホグワーツで用意はされていない。

対策は水面下で安全静止をしたり、急な浮上をしないことであるが、そんな悠長なことはしてられないため、今回は魔法を使わせて頂くことにした。

 

「プロテゴプレッシャー・圧力から守れ」

 

セドリックはチョウに向けて魔法をかける。

盾の呪文を改良した魔法であり、あらゆる圧力から身を守るものだ。

チョウは見えないシールドに守られる。

 

「質問です。他の人たちは助けても良いんですか?」

 

セドリックは身近にいた水中人に声をかけた。

 

「ならぬ。自分の人質だけ連れて行け」

 

「他の選手が辿り着かなければ、この人質たちはどうなるんです?」

 

「お前の知るところでは無い。他の者に構うな」

 

水中人は冷たく言い放つ。

審査員は安全管理を徹底していると言っているから、選手が脱落しても人質は最終的に救助されるのだろう。

それであれば、チョウのみを救助して帰れば良い。

 

そう思ってセドリックは浮上しようとした。

 

だが、浮上しようとする瞬間、彼の脳裏にエスペランサの顔が過ぎった。

 

「エスペランサ。君なら、きっと、全員を助けようとするだろうね」

 

エスペランサは目の前に人質が居たならば全員助けようとするに違いない。

彼は自分のことを現実主義者と言っているが、その実、理想主義者だ。

全員を助けられないと分かっていても、全員を助けるという選択肢を捨てることが出来ない。

そんな甘さをセオドールはよく指摘していたが、セドリックはエスペランサの甘さ、つまり人間らしさが好きだった。

時に冷酷で、どこか戦闘を求める危なさのある彼の、ほんの少しだけ人間らしさが見え隠れするところ。

セドリックが憧れるのは、そこだ。

 

 

「悪いが、全員を助けさせてもらう!」

 

セドリックは水中銃を構えて、銃口を水中人に向ける。

 

「何のつもりだ?それは何だ?」

 

銃を向けられた水中人は不思議そうな顔をした。

水中人は魔法に疎い。

人間界とは無縁の湖底で暮らすのだから当たり前だ。

故に、銃の存在など知る由もない。

抵抗の多い水中では飛び道具など開発すらされなかったのも大きかった。

 

「死にたくなければ失せろ!」

 

精一杯の威嚇と共に、セドリックは水中銃の引金を引く。

 

ズズズズズという音と共に銃口から針のような弾丸が連射された。

それらはセドリックの周りに集まってきた水中人たちを上手いこと避け、湖底の岩や苔に突き刺さっていく。

 

流石の水中人たちもその威力には驚いた。

 

「こいつの威力が良くわかっただろう?死にたくなければ邪魔をするな!」

 

セドリックは周囲を囲む十数名の水中人に叫ぶ。

水中人は興奮してギャーギャー騒ぎ始めたが、彼は構わなかった。

 

チョウを庇いつつ、セドリックはフラーの妹とハーマイオニーの縄を瞬時に切り裂く。

彼の持つサバイバルナイフはコールド・スチールと呼ばれるもので、湾岸戦争で採用されたものだ。

必要の部屋では様々なサバイバルナイフを出すことが出来たが、セドリックはエスペランサが元々、マグル界から持ってきていたこのナイフを使うことにしている。

 

軍用サバイバルナイフは流石の切れ味で縄を切ることができた。

 

残っていたロンの縄もあっという間に切断したセドリックは、ナイフを腰に仕舞い、再び銃を水中人たちに向ける。

水中人たちは銃を警戒して隊列を組み、槍を向けながら彼を360度囲むようにしていた。

 

その数は当初の十数名から膨れ上がり、40人を越える程になっていた。

APS水中銃の装弾数を越える人数の水中人を殲滅することは不可能である。

と言うよりも、水中人は課題に協力してくれているだけであるから殺傷するのはよろしく無い。

 

そんな時だ。

ハリー・ポッターが現れたのは。

 

 

「セドリック!これは一体?」

 

エラ昆布によって魚人と化したハリーは見事な泳ぎでセドリックの元へ近づいてきた。

 

「ハリーか!人質の縄は全て切ったんだけど、水中人曰く、自分の人質しか救助出来ないらしい。僕は全員助けようとしたんだけど、まあ、この様さ」

 

「そっか。僕も全員、助けたい。協力するよ」

 

ハリーはセドリックの横で杖を構えた。

瞬時に全員を助けるという決断が出来てしまうあたり、ハリーもエスペランサと同類の人間なのだろう。

セドリックは少しだけハリーに嫉妬した。

 

「クラムやフラーがここに現れてくれれば、全て丸く収まるんだけど」

 

「残念ながらまだ来ていない。残り時間は?」

 

「わからない。僕の時計は湖に入ったら壊れちゃって」

 

ハリーは腕につけていた時計をセドリックに見せる。

確かに止まっていた。

湖底では魔法の力が強くなるために、アナログなマグルの道具であっても狂ってしまう。

 

セドリックの持つ水中銃は機械仕掛けでは無いものの、セオドールの機転によって、マグル避け呪文無効化の魔法が施されていた。

 

「体感で残り時間は20分も無いってところか。あれは!?」

 

見れば、サメの頭をしたクラムが猛スピードで泳いで来る。

 

クラムは解放されたハーマイオニーを見つけると、彼女を抱えて湖面に浮上しようとした。

 

「あ、ちょっと待て!潜水病になるぞ!」

 

セドリックの叫びも虚しく、クラムはあっという間に湖面へと達してしまった。

 

「潜水病って何?」

 

「詳しく話している時間は無いんだけど、深いところから急に浮上すると身体にダメージを与えてしまうんだ」

 

「ああ。僕が試合に来る前にエスペランサが教えてくれたやつか」

 

どうやらハリーもエスペランサに潜水病の知識を施されていたらしい。

 

「さて、どうする?もうじきタイムアップだ」

 

「フラーはまだ来ないね。どうしよう、このままだと人質が3人とも………」

 

セドリックはちらりと隊列を組んだ水中人たちを見た。

水中人たちは出来の悪い槍を構えているが、その後ろを見ると、彼らがペットにしているのであろう水魔グリンデローが無数に集められていた。

水中銃に対抗する策として水魔をセドリックにけしかけるつもりなのだろう。

 

「グリンデローか。あれだけの数のグリンデローを見たことがない。何というか気持ち悪いな」

 

「グリンデローなら魔法で対処出来るけど、ロンたちを助けながらとなると難しいよ」

 

エスペランサならどう乗り切るだろう。

セオドールならどんな策を思いつくだろう。

セドリックは考えた。

 

「いや。俺はエスペランサでもセオドールでも無い。ここに居るのは、僕だけだ」

 

「え?どうしたの?セドリック」

 

「ハリー。僕が奴らを引きつける。その間にロンとチョウを連れて浮上してくれ。ああ、圧力から守る魔法をかけるのを忘れずに。呪文はプロテゴプレッシャーだ」

 

「そんな。でも君は?」

 

「僕には銃がある。こいつは杖と違って連射出来るから、ある程度は水魔や水中人に対しても牽制ができる筈だ」

 

「君を置いて行くことは出来ない。僕も力に………」

 

「二人を助けながら戦うことは難しいだろう。ロンはデカイし、チョウも背の高い方だ。引き上げるだけでも一苦労だろう」

 

セドリックはそう言いつつ、フラーの妹とみられるブロンドの髪の生徒を引き寄せた。

フラーは高身長だが、妹の方は小柄だ。

多分、フローラよりも背が低いだろう。

だが、小柄故に、彼女を庇いつつ戦うことが可能になる。

 

「セドリック!僕も出来る限り君を援護する。無茶だけはしないでくれ。君を見ていると無茶な戦いをするエスペランサのことを思い出して心配になるんだ」

 

「そりゃどうも。さあ、行け!」

 

「気をつけて!」

 

ハリーはあちらこちらの水中人に武装解除の呪文を撃ちながらロンとチョウを連れて浮上し始める。

エラ昆布の効果が切れ始めているために浮上にてこずっているようだ。

 

「お前らの相手はこっちだ!」

 

ハリーを追いかけようとする水中人の頭上に銃弾を撃ち込みつつ、セドリックが叫ぶ。

 

水中人たちは怒りの表情を露わにしてセドリックの方へ水魔をけしかけてきた。

タコ星人のような生き物が無数にセドリックへと向かってくる。

 

「よし!こっちについてこい!」

 

セドリックは自分とフラーの妹に圧力から守る魔法をかけ、さらに、推進力を得る魔法を駆使して湖面へと浮上し始める。

 

魔法による推進力は水魔のスピードよりもやや遅い。

加えて、フラーの妹を抱えているのだから速力は落ちる一方だ。

 

水中銃を撃ち、水魔の先頭集団を排除。

どす黒い血を吹き出しながら水魔たちは湖底に沈んでいく。

それを見て怒った水中人が槍を投げてきた。

 

水中であるため、それ程のスピードは出ていないが、槍はセドリックの腕をかすめ、皮膚を切り裂く。

 

「痛っ!くそっ!舐めるな!」

 

空になっていた水中銃の弾倉を交換し、再び射撃を再開するセドリック。

片手で杖による推進力を得て、脇にフラーの妹を抱え、さらにもう片手で射撃をする。

この無理な姿勢でまともに戦える筈も無く、湖面まで残り数メートルのところで、彼は水魔の群に追いつかれた。

 

足や腕に絡みつく水魔。

水魔の手足にある吸盤がウエットスーツごとセドリックの肌を吸い込み、ダメージを与える。

首に巻き付いた水魔を何とか振り払った彼であったが、その弾みで自分を湖底へと落としてしまう。

 

「しまった!?」

 

顔面に張り付いた水魔の手に食らいつき、噛みちぎるセドリック。

口の中に異様な味が広がるのを感じる。

 

「レラシオ・離せ!レダクト・粉々!」

 

無我夢中で魔法を連発すると、それが効いたのか、水魔の攻撃が弱まった。

その隙に、セドリックはフラーの妹と共に湖面へ浮上する。

 

「良し!助かった!これで………」

 

セドリックは安堵する。

しかし………。

 

「キャアアア!」

 

水魔の度重なる攻撃によって目が覚めたのか、はたまた、1時間というタイムリミットが切れたのか、フラーの妹は目が覚めてしまった。

 

そして、魔法界の人間は足のつかない湖で泳いだ経験などない。

明らかにパニックに陥っている。

加えて、周りは水魔だらけだ。

 

湖面をバシャバシャさせながら生き残っていた数十匹の水魔がセドリックとパニックになって溺れかけているフラーの妹に襲いかかってくる。

 

 

「どうすれば良いんだ!」

 




独自設定やオリジナル魔法を少し加えてます。
潜水病に関してですが、マダム・ポンフリーがちゃんと対策してくれている設定です。
湖底での時計が止まった件に関しては、ポッターモアなどに湖が別の場所に繋がっていたり、当初、重要な役割を果たす場所にしようとしていたとの記載がありました。
なので、アナログ機器も停止してしまう魔法力の強い場所と解釈しました(ハリーの時計が止まった具体的な理由って原作に明記されてましたっけ?)。
ポッターモアの日本語訳はKindleで売っているのでオススメです。
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