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ハリーはマッドアイ・ムーディに連れられて城の中に入った。
この時点でハリーはムーディに絶対的な信頼を置いていた。
この1年間、彼はムーディに何度も助けられていたからである。
故に、ダンブルドアの意向に背く行動をするムーディに対して何の疑問も抱いていない。
しかし、ムーディがハリーを医務室では無く、自室に連れて行こうとしていることが分かった時は流石に疑問を感じた。
「先生。医務室へ向かう道はあっちです」
「うむ。そうだ。しかし、今はワシの部屋に来てくれないか?医務室にお前さんを運ぶ前に聞かなくてはならんことがある」
ムーディはいつもの調子でそう言った。
ハリーは特に抵抗せずにそれに従うことにする。
ヴォルデモートの言う通りなら城内に敵が居る筈だが、元闇払いのムーディと一緒ならば心配無いだろう。
そう思ったのだ。
二人は大理石の階段を登り、2階へと到着する。
「それで、何が起こったのだ?」
「優勝杯が移動キーでした。それで、知らない場所に移動して、そこで、ヴォルデモートが復活しました」
言いながら、ハリーはつい30分前に起きた出来事を思い出す。
煮え滾る大鍋。
復活したヴォルデモート。
金色の光。
そして、セドリックの死。
この短時間で様々な事が起きた。
そして、ハリーは心身共に疲労していた。
まともに考える力は残っておらず、とにかく今は休みたい気分である。
「闇の帝王がそこに居た、と?それからどうした?」
「カローが、フローラ・カローの父親がヴォルデモートを復活させました。それから、奴はセドリックを殺しました」
「カロー、か。他の連中は?」
「何人かの死喰い人が現れました。マルフォイやノットです」
「闇の帝王はその死喰い人たちになんと言ったのだ?許したのか?それとも拷問をしたのか?」
ムーディは興味津々といった形でハリーの話を聞く。
その時だった。
「止まれ!」
短く、しかし鋭い声が2階の踊り場に響く。
見れば、ハリーたちの登ってきた階段の下に銃を構えたエスペランサが居た。
銃口はムーディに向けられている。
銃身が短いのが特徴であり、センチュリオンの標準装備であるM733だ。
「どうした?ルックウッド。何のつもりだ?」
「ムーディ先生。ダンブルドアはハリーに"この場に残れ"と命じました。しかし、あなたはその命令に背いた」
「ああ。そうだ。ポッターはすぐに休む必要があるからな。教師として当然の配慮だろう」
「いや。あなたが本当に歴戦の闇払いであるマッドアイ・ムーディなら、そんなことはしないでしょう」
「ほう?」
「今回の事件の黒幕は未だにホグワーツ内に潜伏していると考えるのが妥当です。それならば、ハリーは最も安全であるダンブルドアの庇護下に置いておくのが最善の策。しかし、あなたはリスクを犯してでもハリーを城の中へ連れて行こうとした」
エスペランサは銃を構えたまま階段を登り、ムーディに近づく。
ハリーは何が何だか分からなかったが、エスペランサの表情が、バジリスクやクィレルを相手にした時の様に変わっていることに気付く。
「俺の推理が正しければ、黒幕はムーディ先生。あなただ。いや、もしかしたらあなたはムーディ先生では無いのかもしれない」
エスペランサの台詞にムーディの表情が一瞬だけ凍りつく。
ハリーはそれに気付き、無意識にムーディから遠ざかろうとした。
「あんたは一体、誰なんだ?」
エスペランサはムーディに問いかける。
「フッ。フフフ。ハハハハ!」
ムーディは不気味に笑い始めた。
ハリーの知る限り、彼がこの様な笑い方をしたのははじめてである。
「ルックウッド。お前は大した奴だ。敵にするには勿体ない」
「なんだと?」
「お前の推理は憶測に過ぎない。だから否定しようとすれば否定出来た。しかしな、俺はこの城を離れる前にやらなければならないと思っていたことが二つあった」
もはやムーディの物とは思えない表情をした男が杖を取り出しつつ話す。
「一つはポッターの殺害。二つ目はルックウッド。お前の殺害だ」
「俺の殺害?ハリーだけではなくてか?」
「お前はいずれ闇の帝王の脅威となる。この一年、お前を観察していたが、確信した。お前個人の能力は大したことは無い。しかし、魔法界にお前が持ち込む武器や戦術、そして思想は闇の帝王の目論見とは相反するものだ。故にここで叩かなくてはならん」
「何を言っているかは分からんが、お前はムーディでは無く、そして、ハリーと俺を殺そうとしているということは理解した」
エスペランサは引き金に指をかける。
ムーディは杖をエスペランサに向けた。
この男はムーディでは無い。
この男はハリーを殺そうとしている。
そして、この男はセドリックを死に追いやった。
それだけで戦う理由は十分だ。
バタタタという音と共に、ホグワーツの階段に連続射撃音が轟く。
エスペランサが先制攻撃を仕掛けたのだ。
無論、彼の撃った銃弾は盾の呪文で防がれる。
だが、エスペランサの目的は銃弾によりムーディを倒すことでは無い。
「ハリー!競技場まで逃げて応援を呼べ!」
30発の弾倉を使い切る勢いで射撃するエスペランサが叫んだ。
ハリーはその声を聞くなり、城の出口まで駆け出す。
ムーディはハリーを追おうとしたが、エスペランサの攻撃を防ぐので手一杯だった。
「くそっ!」
吐き捨てたムーディはエスペランサが弾倉交換をしている隙に、爆破呪文を彼の足元の階段に撃つ。
「コンフリンゴ!爆破せよ!」
動く魔法の階段が爆破され、足場を失うエスペランサであったが、彼も彼で冷静だった。
階段の石性の手すりに足をかけ、爆発の勢いで別の階段に飛び移る。
ホグワーツの階段は魔法によって動き、その数は数百もある。
身体能力が高ければ、動く階段を飛び移る事も不可能では無い。
今まさに動いていた3階へと続く階段の手摺りにしがみついたエスペランサは、懸垂の要領で階段の上に登った。
「面白い!狩り甲斐のある敵は久々だ!」
魔法使いは魔法に頼る故に身体能力がマグルに比べて低い。
しかし、エスペランサは軍隊生活で鍛えられている上に、魔法薬を活用して身体を改造(これはセンチュリオンの隊員が全員やっている事であり、この為に彼らは数年で特殊部隊レベルの軍人になることが出来ている)していた。
そのような敵を見てムーディは高揚する。
「そりゃどうも!」
エスペランサも手榴弾をムーディに向かって投擲するが、これも盾の呪文で防がれた。
だが、その隙に彼は4階まで一気に駆け上がり、階段から廊下へと逃げ去る。
「逃げることしか出来ない、か。武器を持てども、所詮は餓鬼でしかない」
ムーディは舌打ちした。
エスペランサはもっとムーディを手こずらせる強さと知恵を持っていると思っていたが、そうでも無いことが分かったためだ。
確かに今まで見てきた魔法使いとは一線を画す戦い方をするが、魔法の腕が未熟な為なのか、マグルの武器に頼り過ぎている。
ムーディはそう分析した。
「ドラゴンを倒す武器を持つくらいなのだから、もっと強い魔法使いだとおもっていたのだが、残念だ」
ダダダダ
廊下の向こうから柱を掩蔽としてエスペランサが射撃してくる。
だが、銃撃は盾の呪文の前には無力である。
ムーディはエスペランサの隠れている柱に爆破呪文を連発した。
柱は粉々になり、銃撃が止む。
土煙の舞う4階の廊下へ足を踏み入れた彼は、エスペランサが廊下の突き当たりで銃を構えているのを見つけた。
義足であるムーディがエスペランサに追いつくのには時間がかかるので、取り逃してしまったのでは無いかと一瞬、不安になったが、取り越し苦労だったようだ。
4階の廊下は長さにして30メートルはあり、複数の教室や使われていない部屋が点在している。
突き当たりはT字路になっていて、そこにエスペランサは立っていた。
彼はここで決着をつけようとしているらしい。
「逃げるのはもう終わりか?」
「ああ。ここで決着をつけてやる」
エスペランサはM733を再び構えた。
ムーディは知る由も無かったが、エスペランサが持つ銃弾は今装填されている30発でラストだった。
手榴弾も使い切っている。
ダダダダ
連射モードで銃撃を開始するエスペランサであるが、無論、これもムーディは防いだ。
彼はエスペランサが使う銃という武器が、弾丸を高速で飛ばすだけの武器であり、弾薬の数に制限があることも見抜いている。
つまり、全て防ぎ切れば良いだけのことだ。
M733に装填されていた弾薬は30発。
連射すれば数秒で撃ち切ってしまう。
ムーディは盾の呪文でエスペランサの放った弾丸を全て防ぎ、再び爆破呪文を唱えた。
杖から閃光が迸り、エスペランサの足元に命中。
凄まじい爆発と共にエスペランサを後方の壁に吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
壁に背中を打ちつけたエスペランサは、口から血の塊を吐き出して、その後、床にドサリと落下する。
既に残弾の無くなった小銃は廊下の隅に転がっていった。
しかし、身体がタフなのか、精神力が凄いのか、エスペランサは意識を失わずに立ち上がろうとしている。
「その戦闘本能だけは認めてやろう。この俺の前にお前は無力だったが、臆病者の死喰い人達よりはマシだ」
「何の、話だ?」
床に血反吐を吐きながらエスペランサが言う。
「ワールドカップの時、元死喰い人達は弱者であるマグルを蹂躙していただろう?だが、奴らは俺の打ち上げた闇の印を見るなり、尻尾を巻いて逃げ出した腰抜けだ。あんな連中より、俺はお前の方を評価してやる」
「闇の印を打ち上げたのは、お前だったのか?」
「そうだ。のうのうと生きていた腰抜けどもには良い薬だったろう」
エスペランサはムーディの顔がムーディの顔ではなくなってきていることに気付いた。
顔のシワが消えつつあり、身体つきも変わってきている。
白髪だらけで薄くなっていた髪も茶色くなっている。
こいつはムーディに化けている別の人物だ。
エスペランサは察した。
「やはり、お前はムーディでは無かったんだな」
「そうだ。数ヶ月前に本物のムーディは俺の手によって無力化されている。俺は奴に成り代わっていた訳だ。ダンブルドアでさえそれに気付いていなかった。俺の演技も大した物だろう?」
「なるほど。確かに演技派だ。オスカー俳優にでもなれば良いんじゃねえか?では、お前は一体?」
「冥途の土産に教えてやろう。俺はバーティ・クラウチJr.だ」
クラウチJr.。
その名前をエスペランサは知っていた。
セオドールとクラウチJr.の話をした事もある。
だがしかし、彼はアズカバンで死んでいる筈だ。
「どういうことだ?クラウチJr.は死んだとされている筈なのに」
「カラクリがある。だが、俺もそれを説明する時間が無い。薬も切れてきているし、何よりもポッターを仕留めなくてはならんからな」
ムーディ、いや、クラウチJr.は杖をエスペランサに向けた。
二人の距離は20メートル近く離れているが、クラウチJr.は決闘にも秀でているため、魔法を外したりしないだろう。
「プロテゴ・マキシマ!」
エスペランサはいつの間にか取り出していた杖で最大級の盾の呪文を展開した。
地面に倒れている彼の周りに透明なシールドが展開される。
「俺の授業を忘れたか?死の呪文には盾の呪文は効かない」
クラウチJr.は残忍に笑う。
彼がアバダ・ケダブラを唱えようとしているのはエスペランサにも理解出来た。
だが。
「馬鹿が。お前は仕掛けられた罠にノコノコと入り込んで来ただけだ」
エスペランサは血塗れの口で笑う。
「何っ?」
ズドオオオオオオオオオオ
突如としてクラウチJr.の横の壁が爆発した。
壁だけでは無い。
天井も爆破され、床からは無数の鉛の弾が吹き出してくる。
エスペランサは2年生の時に城のあちこちに爆薬を仕掛けていた。
また、今年度はセオドールと共に各所に弾薬庫を設け、トラップもしかけている。
この4階の廊下には、天井と壁にC4爆薬と床にはクレイモア地雷が仕掛けられていたのだ。
クラウチJr.は対応が遅れた。
天井から降る瓦礫から身を守ろうとして、クレイモア地雷の攻撃を防ぎ切れない。
鉛の弾が彼の手足をもぎ取っていく。
「ギャァアアア!」
クラウチJr.の断末魔の叫びが廊下に響き渡った。
爆発自体はものの数秒で終わり、瓦礫の間から土煙が出るものの、廊下はシーンと静まり返る。
盾の呪文で爆発から身を守ったエスペランサは、フラフラと立ち上がった。
背骨と鎖骨辺りに痛みが走る。
ひょっとすれば折れているのかも知れない。
「無事か!?隊長!」
破壊を免れていた教室の扉や、隠し扉の裏からセンチュリオンの隊員達が続々と出てくる。
「ああ。何とか無事だ」
「こっちは攻撃のタイミングを見計ってはいたが、ヒヤヒヤしていたぞ。ムーディ、いや、クラウチJr.が悠々と演説をしなければ、出て行って総攻撃を仕掛けるつもりだった」
隊員の先頭にいるセオドールが言う。
「良く間に合ってくれた。俺もなるべく時間は稼ぐようにしたんだが、案外、手強かったからな」
「ギリギリ間に合ったさ。だが、急に動員したから集められたのは10名に満たない。それに、ここでの戦闘を知られるわけにはいかないし、何人かは教職員を足止めさせるために城の入り口を魔法で吹き飛ばさせている。お陰であいつらは全員罰則の対象だ」
「そうか。良くやってくれた」
エスペランサは隊員たちを見渡した。
セオドールの他にはコーマックやザビニ、マイケル、アンソニー、ネビル、ハンナ、それにフローラが揃っていた。
全力で駆けつけた為に、皆、息を切らしていた。
彼らはエスペランサが4階の廊下に辿り着く前に教室や隠し扉の内側に入り込み、壁や天井に仕掛けられた爆薬を起爆させる準備をしていたのだ。
セオドールはホグワーツ内に敵が潜入していることを察知し、エスペランサに城内で戦闘を行うプランを幾つか提示した。
その内の一つが4階の廊下に敵を誘い出し、あらかじめセットされた爆薬と対人地雷で奇襲するというものである。
約10回に渡り、センチュリオンの隊員たちはこの作戦の訓練を行なっていた。
無論、日中では人目につく為、夜間にフィルチの監視下の下で訓練をしている。
ホグワーツの入り口は1つだけでなく、複数個存在するから、エスペランサやクラウチJr.が入ってきた入り口でない入り口から隊員たちが先回りすることは十分に可能である。
最終訓練では、隊員たちが配置完了報告をするまでの時間が10分を切っていた。
つまり、エスペランサは10分間、クラウチJr.を引きつけながら4階の廊下に誘導すれば良かったのである。
彼が競技場でネビルに「4階の廊下に集まれ」と指示したのは、この作戦を展開するという意図が含まれていた。
隊員たちはその意図を汲み取り、行動を起こしたのである。
「大丈夫ですか?すぐに手当てをします」
フローラは持っていた雑嚢からイスラエル軍製の止血帯を取り出した。
しかし、エスペランサはそれを止める。
「俺は大丈夫だ。それよりも、クラウチJr.の様子を確認してくれ」
彼は袖で口元の血を拭い、背骨や鎖骨に異常が無いことを確かめると、瓦礫と共に地面に倒れているクラウチJr.に近づいた。
他の隊員たちも各々の武器を構えながら近づく。
拳銃をムーディ、いや、クラウチJr.に突き付けながらフローラは彼の懐に入っていた魔法瓶を取り上げて、中身を床にぶち撒けた。
中に入っていた液体が床を黒く染めていく。
「間違いありません。これはポリジュース薬です」
フローラは断言した。
「本当か?」
「はい。液体の色からは判断出来ませんが、粘度と香りで判断できます」
彼女の魔法薬の成績はハーマイオニーに匹敵する。
故にこの報告は信用できた。
「さっきので死んだと思っていたが、致命傷を免れたみたいだな」
「多分、こいつの盾の呪文に散弾が防がれたんだろうが、運が良いのか、魔法の腕が良いのか?」
隊員たちが口々に言う。
クラウチJr.は絶命していなかった。
手足はもがれ、身体中を撃ち抜かれ、瓦礫に押しつぶされながらも、息をしている。
流石に意識は失っているが、咄嗟に致命傷を避ける手腕は流石であった。
「とどめを刺そう。隊長」
アンソニーが銃口をクラウチJr.の後頭部に突き付けながら言う。
「いや。殺すな。今は生かしておけ」
「何故だ!隊長!こいつはセドリックの命を奪う原因を作ったんだぞ!」
「そうだ!」
隊員たちが怒りの感情を表に出し始める。
「駄目だ。こいつを殺してしまったら、今回の事件の真相を知る人間が居なくなる。それは避けなくてはならん。我慢してくれ」
「しかし!」
隊員たちはそこでエスペランサが必死で殺意を抑えていることに気付いた。
部下を殺されて最も怒りを感じているのは他ならぬ隊員のエスペランサである。
「皆、良く聞いてくれ。こいつは恐らくセドリックが戦死した原因を作り出した張本人だ。出来るなら仇としてこの場で射殺したいところだ。だがな」
エスペランサは廊下に集まった隊員たちを見て言う。
「こいつを殺してしまえば、今回の事件の真相は闇の中になってしまう。だから今は生かしておく。理解してくれるな?」
隊員たちは無言で頷く。
だが、中には涙を流したり、悔しそうに床を叩く者も居た。
無理も無い。
セドリックは彼らにとって同じ釜の飯を食べた仲間である。
そして、センチュリオンの中でも人望があり、誰もが慕う隊員だったのだ。
「隊長。クラウチJr.はどうするつもりだ?」
セオドールが聞く。
「まずは、ダンブルドアに引き渡す。その後はどうなるかは分からんが、真相は必ず聞き出す」
「なるほど。では僕も同行させてくれ」
「構わないが。俺一人でも十分ではないか?」
「いや、隊長は今、感情的になっている。放って置いたら何をしでかすか分からんからな」
そう言うとセオドールは持っていた武器と装備をザビニに渡した。
「分かった。同行を許可する」
「よし。もうじき教職員が駆けつけるだろうから他の隊員は解散させよう。我々の存在が露呈するのは宜しくない。あ、それからフローラ」
「はい?なんでしょうか」
「競技場に戻ったらすぐに、チョウのメンタルヘルスをするんだ。彼女は今、精神的に壊れかけている」
フローラは衛生幕僚であり、隊員の管理をする役目を負っていた。
「わかりました。すぐに向かいます」
「他の隊員も競技場に戻れ。今後の我々の行動の方針は追って下達する。それまでは気持ちを整える為にも休息を取っておけ」
エスペランサの言葉を聞き、セオドール以外の隊員は敬礼をすると、競技場へ戻って行った。
しかし、彼らの足取りは遅い。
セドリックを失ったショックで皆、精神的に参っている状態だ。
エスペランサが仲間を失ったのは初めてでは無い。
これまでに何人もの仲間を失っている。
しかし、自分が作り出した部隊の隊員、つまり、自分の部下を失ったのは初めてだ。
もし、エスペランサがセドリックを後押ししなければ。
いや、センチュリオンに入れなければ、彼は死ぬことはなかっただろう。
だが、戦死者の出ない戦闘など、夢のまた夢。
センチュリオンの最終目的を果たす為には、近い将来、必ず犠牲者は出るだろうとエスペランサは心の何処かで思ってはいた。
仲間を二度と失いたく無いと願いつつ、失わない為の努力をしつつ、それでも尚、戦死者が出る未来を予想してしまっていた。
それは、彼が決して理想主義者では無いことを表している。
「他の隊員達は皆、セドリックの死に動揺している。だが、僕はどこか冷静になってしまっているんだ。彼の死が現実味を帯びていないと感じてしまう」
エスペランサの横でセオドールが呟く。
確かにセオドールは冷静だ。
セドリックの死に動揺せず、感情的にならず、冷静に作戦を遂行させた。
しかし、エスペランサは彼の手が小刻みに震えているのに気付く。
セオドールは無意識に感情を殺していた。
「現実味が無い、か。俺が最初に経験した戦闘では、所属していた小隊の半数近くが死んだ。敵の十字砲火に晒されてな。所属していた部隊自体が未成年を傭兵として雇う様な非公式で非合法な部隊だから、公式記録には残っていないけどな。俺が生き残れたこと自体が奇跡だったが、生き残った隊員達の内、かなりの数の人間が精神的に狂ってしまった」
「君は狂わなかったのか?」
「ああ。目の前で仲間が倒れていくのを見ても、訓練通りに身体が動いて、引き金を引き続けた。戦いが終わった後も仲間の死を実感することは無く、次の戦場に赴いたものだ。それを何回も繰り返して俺は生き残ってきた」
「そうか。我々も近い将来、その様な戦場で戦うのだろうか」
「もし仮に、クラウチJr.の証言が正しくて、ヴォルデモートが復活したのだとしたら、その可能性は十分にある」
「ヴォルデモートの勢力と全面的に対決するってことか」
「そうだ。我々の目的の前にヴォルデモートは邪魔だ。それに・・・」
「それに?」
「俺はセドリックを死に追いやったヴォルデモートをこの手で殺してやらないといけないからな」
使用したのはクレイモアとC4プラスチック爆薬です。