ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case 06 Sniper 〜狙撃〜

クィディッチ。

 

英国魔法界で最も人気とされるスポーツである。

ルールは箒に乗った選手がクアッフルと呼ばれるボールを奪い合って、そのボールをゴールに入れることで点数が入るというシンプルなものだ。

箒に乗って行うバスケットボールと例えれば分かり易い。

これに加えて、選手を箒から落とそうと飛び回るブラッジャーや、スニッチと呼ばれる小さな羽根の生えたボールをシーカーが捕まえれば150点の点数が入るといったバスケットにはない要素がプラスされる。

 

スニッチを捕まえると一度に150点の点数が入り、尚且つそこで試合が終了となるというルールは果たしてどうなのかとエスペランサは疑問に思っていた。

 

ここホグワーツでもクィディッチは人気であり、各寮にチームが存在する。

そのチームのシーカーに1年生にして選ばれたハリーの才能は本物なのだろう。

 

 

季節は移り変わり寒さが肌にしみるようになった今日。

ホグワーツでは寮対抗クィディッチ競技会の第一戦が開幕となった。

 

グリフィンドール対スリザリン。

 

犬猿の仲ともいえる2つの寮の試合を一目見ようと、クィディッチ競技場にはほぼ全ての生徒が押し寄せていた。

片や赤色の旗を振り、片や緑色の旗を振る。

ホグワーツは今、熱狂の渦に巻き込まれていた。

 

 

 

 

 

 

クィディッチの観戦に生徒だけでなく職員も出払っている現在、ホグワーツ城内は閑散としている。

そんな閑散とした城内をエスペランサ・ルックウッドは一人、重そうな荷物を背負って歩いていた。

 

日々、銃や爆薬などの武器を作り続けていた彼であるが、その武器もそろそろ寮の部屋には隠しきれない量となっていた。

隠し場所が無いために新たな武器を作り出すことも出来ない状態を良しとしなかったエスペランサは武器の隠し場所を空き時間に探していた。

そして、ついに地下牢近くのタペストリー裏に秘密の抜け道を見つけたのである。

 

抜け道は地下という事もあり、冷気が漂っていた。

ごつごつした岩に囲まれる天然の洞窟のようなその抜け道は、武器の保管に最適な環境だ。

温度や湿気の変化も少ない。

自室のベット下やトランクの中に隠していた武器を全て保管出来る広さもある。

 

問題はいつ武器を抜け道に移動させるか、であった。

 

日中は生徒や教職員の目があって移動は困難。

例のトロール事件以来、マクゴナガル先生はエスペランサの所有する武器を狩ろうとしている節がある。

夜間は夜間でリスクが高い。

 

そこで彼はクィディッチで城内から一時的に人が居なくなる今日を武器の搬入日に選んだ。

 

 

 

G3A3が3丁。

M3グリースガンが4丁。

M92ベレッタが5丁。

破片手榴弾20個とスタングレネード8個。

 

7.62ミリ弾1120発入りの弾箱が2つに、予備マガジン十数個。

C4プラスチック爆弾と指向性散弾。

84ミリ無反動砲カールグスタフ。

 

カールグスタフは完成して間もない出来立てほやほやの虎の子で、あらかじめ準備が必要なプラスチック爆弾よりも即応性に秀でていた。

 

これらは新たに作ったものだが、もともと持ってきたものもある。

 

使い物にならなくなった暗視装置。

米軍の横流し品である防火加工、赤外線対策加工の施された戦闘服。

そして、分解されたままの軽機関銃M249。

 

 

本来なら検知不可能拡大呪文と言う、鞄の中に広大な空間を作ったりする魔法を使って、武器を保管しておきたかったのだが、検知不可能拡大呪文は高度な魔法過ぎたために習得が難航していた。

物体の重量を軽くする呪文も中々上手くいかない。

故にエスペランサは全ての武器を背負って移動しなくてはならなかったのである。

 

結局、十回近く寮と抜け道を往復し、現有する全戦力を移動することが出来た。

 

装備の作動確認と手入れを行い、それぞれ異常が無いことを確認。

布に油を染み込ませて銃や手榴弾をぐるぐる巻きにする。

空気を遮断させ、保存状態を良くするための加工を施した後、念のために抜け道の入り口にスタングレネードを使用したブービートラップを仕掛けておく必要があると思い、スタングレネードとワイヤーを取り出そうとした時、抜け道を隠しているタペストリーが動き人が入ってくる気配がした。

 

(まずい!?誰か入ってきやがった!)

 

急いで隠れようとするエスペランサだが、隠れるところは無い。

そうこうしているうちに侵入者は抜け道に入り込んできた。

 

 

「貴様………ここで何をしている?」

 

 

意地の悪い声。

足元にはペットの猫。

 

「管理人の………フィルチか」

 

ホグワーツの抜け道と言う抜け道を知り尽くし、生徒をしょっ引く事に全力を注ぐ管理人がそこに立っていた。

 

 

「言い逃れは出来んぞ。貴様が何やら色々なものをここに運び込んだというのをミセス・ノリスから聞いたからな」

 

「賢い猫だな。軍用犬より役に立つ」

 

 

ミャーとフィルチの足元に居るミセス・ノリスが鳴く。

 

 

「生徒も職員も居ないこの時間に何をしていた?さては悪戯の準備でもしていたな?」

 

「悪戯?そんな馬鹿げた事のために時間をつぶすほど俺は暇じゃない」

 

「じゃあ、これは何だ?」

 

 

そう言ってフィルチは布に包まれた銃を取り上げる。

そして、その布を取り払った。

 

 

「これは…………」

 

 

独特の油の臭いを放ち、黒光りする銃を見てフィルチの表情が固まる。

 

 

「銃を知っているようだな」

 

「貴様………。これで何をしようと?」

 

「最近、城内がきな臭かった物でね。有事の際に戦えるように準備をしていた。確か、あんたの持ち込み禁止リストに銃や爆薬は入ってなかったはずだが?」

 

「これは………本物か?」

 

「まあな。最近、ホグワーツにおっかない化け物が次々と入って来てるだろ。そいつらから生徒の命を守るとなったらこういった武器を保有するのが現実的だ。あんたも城の管理人として化け物が城に侵入するのは気持ちの良いものではないだろ」

 

「成程。トロールや3頭犬をやっつけたのは貴様か」

 

「3頭犬の存在を知っているのか」

 

「…………………」

 

「あの化け物が“何か”守っているということと、トロールの侵入はおそらく関係している。昨年までは、3頭犬はホグワーツに居なかったみたいだし、禁じられた部屋も普通に使用されていたらしいな。あの、3頭犬が守っていた“何か”をホグワーツに持ってきてから事件が起こったと考えるのが妥当だ。そもそもトロールの生態からしてここへ侵入するとは考えにくいし、誰かが故意に入れたとしか考えられん」

 

 

エスペランサはトロールの生態について調べたことがある。

トロールのような知能の低い怪物が果たしてホグワーツに単独で侵入可能なのかどうか疑問に思ったからだ。

 

結論から言えばNO。

 

トロールの生息地は一番近くてもホグワーツから数百キロは離れた場所である。

さらに、その危険性からトロールの生息地は魔法省によって監視されているらしい。

よって、単独でトロールがホグワーツを訪れる可能性は低かった(ちなみにこれらのことが書かれたレポートはクィレル先生の論文であった)。

 

ならば、何者かがトロールを招き入れたことになる。

 

教職員はあの日大広間に居たから犯人ではない。

生徒も同様に違う。

 

だとすれば部外者がホグワーツに侵入し、工作を行っているかもしれない。

その目的はおそらく3頭犬が守る“物”の奪取だろう。

 

これらのことが事実ならば、ホグワーツは危機に晒されている訳だ。

それも、一般の生徒に危害が及ぶこともあり得る。

エスペランサが本格的に戦闘を意識して武器開発に乗り出そうとしている理由はここにあった。

 

 

「フン。そんなマグルの道具に頼らなくても貴様らには杖があるだろうが」

 

「杖(こいつ)は俺の魔力じゃ火力不足だ。こっち(銃)のほうが性に合ってる」

 

「ケッ。では何だ?貴様はその銃とやらでホグワーツを守ろうとしている、と?」

 

「将来的にはホグワーツだけでなく、全世界の市民を守るつもりだ」

 

「…………………」

 

 

大真面目に答えたエスペランサをフィルチが黙って見つめる。

 

 

「本気か?」

 

「ああ。本気だ」

 

 

そう答えてエスペランサはタバコを取り出す。

 

 

「一本居ります?」

 

「…………貰おう」

 

 

杖に火を灯し、フィルチと自分のタバコに火をつける。

 

 

「タバコも持ち込み禁止リストに無かったからな」

 

「今日付け足しておくことにする」

 

「勘弁してくれ」

 

 

ハア、と息を吐きフィルチが喋りだす。

 

 

「貴様は他の生徒と違う。何が違うとは言えんが、生徒らしくない。生徒ってのは悪戯ばかりの悪餓鬼のことだ。だが、お前は………何かが違うな」

 

「そりゃそうだ。この間までマグルの世界の中でも有数の地獄に居たんだから。平和に暮らしてきたそこらの生徒とは違う」

 

「地獄?」

 

「殺すか、殺されるかの世界だ。俺も大勢殺したし、仲間も大勢死んだ。幼いときから教えられてきたのは銃の扱い方と人殺しの方法ばかりだった」

 

「…………そうか」

 

「そんな中で自分が魔法使いだと知った。魔法ってのは何でも出来るんだろうと思って、ここに来た。魔法を完璧に使いこなせばあんな地獄をこの世から消す事だって出来ると思ったからだ。だが、現実はそう上手くいかない。トロールから3人の生徒を守ることすら難しかった」

 

「今の世の中は平和ではないのか?」

 

「マグル界は常にどこかで紛争が起きている。魔法界だって人事ではない。つい十年前まで英国魔法界は戦争状態だったらしいじゃないか」

 

「そうだな。だがわしには魔法界がどうなろうと関係なかった」

 

「何故?」

 

「スクイブ。魔法が使えないからだ」

 

「………………」

 

「こんな話、絶対に生徒にはしないんだが。わしも魔法に憧れた時期があった。魔法は何でも出来ると思い羨ましがった。魔法で何でも出来るここの生徒が恨めしかった。だが、初めて見たよ。魔法よりもマグル武器を頼りにする奴をな」

 

 

フィルチがなぜ生徒に厳しいのかが分かったような気がした。

 

憧れていた魔法使いになれなかった彼が、魔法を自由自在に操るホグワーツの生徒を見たらどんな気持ちになるか………。

 

 

「それで?俺の武器はやっぱり没収されるのか?」

 

「…………いや。没収はしない。き……お前はその武器でこの城を守ろうとしているんだろ?ならわしと利害は一致するわけだ」

 

「ありがたい言葉だ」

 

「ただし、お前が他の生徒と一緒に悪戯でもしようものなら………覚悟しておけ?」

 

「了解した」

 

「ならもう寮に帰れ。そろそろクィディッチも終わるころだろう」

 

 

必要最低限の武器弾薬だけ持ち、エスペランサは抜け道を後にする。

 

フィルチの悪い噂は良く聞いていたが、案外悪い人でもないのかもしれない。

確かに性格に難があることは否定できないが、合理的な判断が出来る点は評価すべきところだろう。

そうエスペランサは思った。

 

 

「言い忘れてたことがある!」

 

 

寮に帰ろうとしていたエスペランサをフィルチが大声で呼び止めた。

 

 

「何だ?」

 

「お前、ホグワーツで事件が起き始めたのは3頭犬が守っていた“物”が運び込まれてからだと言ったな?」

 

「ああ。言った」

 

「それは少し違うかもしれんぞ?」

 

「?」

 

「この城に運び込まれた悪い連中が狙いそうなものはもう一つあるだろう」

 

 

もう一つ運び込まれたもの?

 

(3頭犬の守る“何か”が運び込まれたのは入学式の直前と聞いた。この“何か”を狙う奴が悪い奴、つまり、魔法界で言う「闇陣営」の人間であることは確定だ。その闇陣営が狙うもう一つのもの…………!!)

 

エスペランサの脳に電撃が走ったように何かが閃いた。

 

 

 

「ハリーポッター……………か」

 

 

 

この城には悪い奴が狙いそうな対象がもう一つあった。

 

かつて闇陣営を衰退させる原因を作った“生き残った男の子”。

即ち、ハリーポッターである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アーガス・フィルチの言ったことは正しかった。

 

見えざる敵は3頭犬が守る“物”だけでなく、ハリーポッターの命も狙っている。

 

 

エスペランサが寮に戻ると、クィディッチ勝利パーティーが開かれていた。

宿敵スリザリンを負かしたとあって、クィディッチ代表選手はまさに英雄扱いだ。

特に、勝利の決め手となったシーカーであるハリーは英雄の中の英雄といった扱いをされていた。

無論、本人はそれを嫌がっていたが………。

 

双子のウィーズリーを筆頭にドンちゃん騒ぎをしている談話室の隅にロンとハーマイオニーを見つけたエスペランサは試合の内容を聞こうと話しかけた。

 

 

「試合は……勝ったみたいだな」

 

「ええ。そうね」

 

「そりゃもう凄かったさ!スニッチを取った、じゃなくてくわえた時のスリザリン生の顔を見せてやりたかったよ!」

 

 

興奮したロンとはうって変わってハーマイオニーは深刻な表情をしていた。

 

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「え、ええ。その………」

 

「スネイプの奴だ」

 

「スネイプ先生がどうしたんだ?」

 

「あいつ、ハリーの箒に呪いをかけてハリーを箒から振り落とそうとしたんだ!」

 

 

スネイプ先生がハリーを目の敵にしているのはエスペランサも良く知っている。

授業毎に減点をし、嫌味を言うそのあからさまな態度からスネイプ先生がハリーを何故か憎んでいるのは周知の事実となっていた。

 

しかし、だからと言って教師が生徒を殺そうとするだろうか?

 

 

「本当にスネイプ先生がハリーを殺そうとしてたのか?」

 

「ええ。確かよ。私見たもの。先生はハリーの試合中ずっと呪文を唱えていたわ。瞬き一つせずにね。本で読んだからあれが呪いって事は分かるわ。私が邪魔をしたら途端に呪いが無くなったことからも明らかよ」

 

「うーむ」

 

 

本で読んだから、と言う理由は信憑性が薄いが秀才のハーマイオニーが言うのだから何かしらの呪文を唱えていたのは間違いないのかもしれない。

 

しかし、スネイプ先生がハリーに呪いをかけるというのは些か信じがたかった。

 

 

「スネイプ先生がハリーを殺そうとする理由って何だ?」

 

「スネイプはハリーを恨んでるんだ。だから呪いを」

 

「それなら別にクィディッチの最中にやらなくても良いんじゃないか?わざわざ全校生徒の集まっている前での殺人はリスクが高すぎるだろう」

 

「でも呪いをかけていたのは確かよ?」

 

「少し冷静になって考えてみてくれ。仮に俺がハリーを殺そうとしている奴だったとする。その場合、俺がハリーに日頃から憎悪の感情をむき出しにすることはデメリットにしかならない」

 

「どういうことだ?」

 

 

ロンは何を言っているか分からないという顔をして首をかしげる。

逆にハーマイオニーは何か理解したような顔をした。

 

 

「ロン。エスペランサはこう言いたいのよ。ハリーを殺そうとしている人間が日頃からハリーを嫌っている態度を露にしてたら、ハリーが殺された時に真っ先に殺しの疑いがかけられる危険性がある、って」

 

「そういうことだ」

 

 

もしエスペランサがハリー殺害の計画を練るとしたら、スネイプのようにあからさまにハリーを嫌う態度は取らない。

ハリーを殺した時に疑われる可能性が大きいし、それに殺害計画前に警戒される。

特にアルバス・ダンブルドアのように偉大な魔法使いのお膝元で殺害計画を練るのならば、怪しまれない行動を徹底しなくてはならない。

 

確かにスネイプ先生がハリーに殺意を持つことは否定し難いが、それならば日頃のハリーに向けたあからさまな態度はお粗末過ぎる。

 

 

「それに加えて、俺はハリーの命を狙う人物とトロールを城内に入れた人物は同一人物だと思っている」

 

「根拠は?」

 

「確証は無い。ホグワーツで事件が起き始めた時期というのが、3頭犬の守る“物”が搬入されたのと同時期っていうのは分かると思うが、“物”が搬入された時期にハリーも入学した。偶然と言ってしまえば偶然だが、ハリーは魔法界の悪い奴らにとって憎くて堪らない存在なんだろ?辻褄が合うことは合う」

 

 

実際のところトロール事件と3頭犬の守る“物”の搬入、そしてハリー殺害未遂事件が因果関係にあるのかは疑問が残る。

しかし、立て続けに物騒な事件が起きるのは偶然なのだろうか?

そうエスペランサは思う。

 

「ついでに言えば、トロール事件の際にスネイプ先生はずっと大広間に居た。もし俺の仮説が正しくて、今回の犯人とトロール事件の犯人が同一人物なのであればスネイプ先生は犯人ではないことになる。もっとも、犯人が複数人存在すればスネイプ先生も犯人となり得るが………」

 

「じゃあやっぱりスネイプが犯人だ!」

 

「何はともあれ、城内に敵が侵入していることは明白だ。今後はハリーを一人で行動させることが無いようにしないといけない」

 

「そうね」

 

「うん」

 

 

ロンとハーマイオニーが頷く。

彼らはすっかりスネイプ先生を犯人だと思っているらしい。

 

犯人が誰であれ、城内の一般生徒の命を狙う悪者には違いない。

 

しかも、その悪者は既に城内に潜伏している可能性がある。

 

(トロールを操り、高性能な箒に呪いをかけることが出来る敵………か)

 

 

強敵だ。

低知能のトロールとは違う。

魔法を熟知した人間を相手に銃や火薬でどう戦うべきか………。

 

(犠牲者が出る前に戦える体制を整え、作戦を練る必要がある)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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もうじきクリスマスが来るという季節。

禁じられた森も雪が積もり始め、ひんやりとした冷気が漂う。

 

生徒の侵入が禁じられたこの森であるが、危険なのは森の奥のほうであり、森に入ってすぐの場所は比較的安全である。

背の高い針葉樹が日光を遮り、昼間でも薄暗い。

そんな森の湖畔に面した比較的開けている場所にエスペランサ・ルックウッドはいた。

 

 

迷彩服に身を包み、頭にかぶるヘルメットは草木で偽装されている。

腰には弾納6つと水筒のつけられた弾帯を巻き、サスペンダーには4つ手榴弾がぶら下がっている。

背には大きめのリュックサック(背嚢)を背負っていた。

 

合計で10キロを超す装備を身にまとい、エスペランサは禁じられた森の危険ではないと言われている地帯を行軍していたのである。

 

 

ホグワーツに来て以来、彼は戦闘訓練をしていなかった。

 

空き時間に懸垂などの体力練成は行うものの、射撃訓練や行軍などは全く行っていない。

訓練を怠った兵士は使い物にならない。

故にエスペランサは休日の時間を使って禁じられた森での訓練を行うことにしたのである。

 

禁じられた森はほぼ未開の地であり、人の歩くことの出来る道は殆ど無い。

それが逆に野外訓練をするにはもってこいの条件となっていた。

 

また、禁じられた森ならばいくらでも射撃訓練が出来る。

 

森の外周を往復し、20キロほど歩いた頃、エスペランサは湖畔に装備を下ろし、休憩に入った。

朝一から50分歩き、10分休憩を繰り返し、重武装で20キロ歩いた訳であるが彼の体力にはまだ十分な余裕がある。

 

水筒のキャップに水筒内の水を入れ、一口だけ水分を取ったあとで、エスペランサは一服し始めた。

 

定期的にフィルチとタバコを吸うようになったために減りが早い。

大量に持ってきたはずのアメリカン・スピリッツも今持っているのが最後の箱だった。

 

 

「この森は美しいな」

 

 

無意識に呟くエスペランサ。

 

人の手が加えられていない森の中は神秘的なオーラを放つ。

時折顔を見せる魔法生物も彼の目を楽しませる要因の一つだった。

 

きらきらと光る湖を見つめ、湖に小さな岩が突き出ていることに気づいたエスペランサは脇に置いておいたG3A3自動小銃を手繰り寄せる。

 

 

「ちょうど良い的だ。距離は200メートル。射撃訓練にもってこいだな」

 

 

そう言って彼は寝撃ちの姿勢をとった。

 

寝撃ちとは地面に腹ばいとなって行う射撃姿勢のことである。

銃の銃尾を片につけ、頬をつける。

左手でハンドガード部分を軽く握り、照門と照星の中に目標となる岩を捉えた。

 

呼吸を読み取って射撃を行う。

 

 

(呼気、吸気、呼気、吸気…………今だ!)

 

 

 

 

ズガアアアアアン

 

 

 

 

目標の岩の端が砕けると同時に湖畔にいた鳥が一斉に飛び立つ。

 

 

「駄目だな。クリック修正しないと」

 

 

銃についた円状の部品を2回ほど横にスライドさせ、クリック修正を行う。

要するに照門を調整したわけだ。

射撃というのはどうしても個人個人で癖が出る。

そういった場合は照門の位置を微調整することで癖をカバーするのである。

 

 

(はじめて射撃訓練を行った時を思い出す………。教官に頭を叩かれながら行った射撃は悲惨なものだった)

 

 

傭兵時代の訓練を思い出し、懐かしむエスペランサ。

 

 

 

 

ズガアアアアン

 

 

 

 

2発目の銃弾は見事に目標の岩を撃ちぬいた。

 

 

 

「この程度の練度ならおそらく作戦に支障は出ないだろ」

 

 

エスペランサはここのところずっと、魔法使い相手の戦闘計画を練っていた。

 

魔法使いとマグルが戦争をした場合にマグルのほうが有利となるであろうというのが彼の持論だ。

それは武器の性能が良いというわけではない。

マグルの電子機器は魔法で封じられるからミサイルや戦闘機の類は使い物にならなくなる。

 

マグルの軍隊が有利な理由は、圧倒的な兵士の数と、統制された動き、しっかりとした指揮系統、過去に学んだ数々の戦略と戦術、優れた情報収集能力などが存在するためだ。

魔法使いは戦闘用のプロ組織を持っていないために、どうしても1対1の戦い方をしてしまう。

いくら魔法と言う利器があれど、優れた指揮系統を持ち、組織で攻撃をしてくるマグルの軍隊には勝てないだろう。

 

 

だが、エスペランサは軍隊など持っていない。

 

 

部下も指揮官も居ない。

情報収集をするためのUAVも持って居なければ、満足な武器も無い。

 

たった一人で戦わねばならなかったのだ。

 

 

そうなると魔法使いのほうが戦いを有利に運ぶことが出来る。

 

1対1のタイマンならば、物理攻撃を魔法で防ぐことが出来、攻撃のパターンも豊富な魔法使いに分がある。

対面で戦ったら確実に負けるだろう。

仮にエスペランサがホグワーツに潜伏している可能性のある魔法使いの“敵”と戦うことになれば、その戦い方は1つに絞られる。

 

狙撃だ。

 

おそらく銃撃はプロテゴなどの呪文で防がれるであろうから、相手に自分の攻撃を悟られずに1撃で倒す狙撃こそが対魔法使い戦で最も有効な戦い方と考えられた。

故に射撃訓練を欠かすことは出来ない。

 

 

 

 

ホグワーツに持ち込まれた“物”とハリーはいまだに無傷である。

敵の策はことごとく失敗しているということだ。

失敗続きの敵は少なくとも焦りを感じ始める頃だろう。

ならば近いうちに何らかのアクションを起こしてくるはずである。

 

その時がチャンスだ。

 

敵の正体が不明な現在、こちらから攻撃を仕掛けることは出来ないが、向こうが行動を起こした時に即時、戦闘を仕掛ける体制を整えておく必要がある。

 

 

「せめて敵の正体が分かりさえすればこっちとしても作戦が立てやすいんだが……………ん?」

 

 

ふと、エスペランサの視界に“白い何か”が映る。

 

銃尾を肩から外したエスペランサは、風に飛ばされてきたであろう“白い何か”を地面から拾い上げた。

 

 

「何だこれ?」

 

 

拾い上げて見てみれば、それは動物の白い毛のようなものであった。

エスペランサはそれを見て白馬の鬣かと思ったが、どうも違うようである。

 

動物の毛にしては綺麗過ぎる。

 

まるで絹糸のようにサラサラとしている癖に、光ファイバーケーブルのような手触りであり、それでいて頑丈だ。

彼はこんなにも美しい動物の体毛など見たことが無い。

 

その白い毛?のようなものにはエメラルドブルーに染められた液体がドロッと付着している。

 

これまた美しい液体であるが、同時に、その液体を触ることを本能が拒絶している気がした。

 

 

「何だろうな。この白い毛と液体を見ていると罪悪感が芽生える………」

 

 

エスペランサは知る由も無かったが、その白い毛はユニコーンの体毛であった。

 

 




フラッフィーが倒されているのでスネイプ先生の足の負傷は回避されています。
ハリーたちがほぼ空気状態だ………


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