魔女の旅々面白すぎるんじゃい
イレイナさん可愛いんじゃい
ハリー・ポッターがまともな夏休みを過ごした事があるだろうか。
答えは否。
屋敷しもべ妖精が襲来したり、叔母を無意識に膨らませたり、ワールドカップでは死喰い人が暴れ出したり。
毎年、何かしらのアクシデントが起きるのだ。
ハリーは今年の夏休み、非常に苛立っていた。
ヴォルデモートが復活したというのに日刊預言者新聞は何も書かないし、死喰い人が何か事件を起こすのでは無いかとマグルのニュースを毎日チェックしても、何も起きていない。
友人もシリウスも今、魔法界がどうなっているか何も教えてくれない。
その鬱憤を晴らす為に、ハリーはダドリーを挑発して遊んでいた。
ダドリーは英国南東部中等学校ボクシングチャンピオンになっている。
マグル界では敵無しのダドリーが杖を恐れてビクつく姿を見て、ハリーは快感を覚えていた。
だが、ハリーのささやかな快楽はそう長続きしなかった。
マグノリア通りからウィステリア・ウォークに繋がる狭い路地でハリーはダドリーと言い争っていたのだが、その最中、突如として現れた2体の吸魂鬼に彼らは襲われたのである。
「何でこんなところに吸魂鬼が!?」
真夏なのに極寒の地のような寒さを感じたと思えば、上空から2体の吸魂鬼が飛来していた。
ハリーは杖を吸魂鬼に向ける。
「うわぁ!何をするんだ!やめろ!」
「ダドリー!そっちに行くな!」
マグルであるダドリーに吸魂鬼は見えない。
だが、影響は受ける。
彼は今まさに吸魂鬼の1体に突撃をかまそうとしていた。
「何も見えない!何だこれ!パパに言いつけてやるからな」
「バカダドリー!止まれ!逃げるのはそっちじゃない」
吸魂鬼に突撃しようとしていたダドリーをハリーは力づくで止めようとする。
しかし、ボクシングチャンプとなったダドリーの力はヒョロガリのハリーが止められるものではなかった。
「何をするんだ!やめろ!」
吸魂鬼の影響で何も見えていないのだろう。
ダドリーは当てずっぽうにパンチを繰り出した。
そして、運の悪いことにその一つがハリーの顔面に直撃する。
「ぐへっ」
まるでブラッジャーだ。
ハリーは吹っ飛ばされながら思った。
まともにパンチを食らってしまった彼は路地に放置されていたゴミの山に倒れ込み、危うく気を失いそうになる。
しかも、弾みで眼鏡と杖が吹っ飛んでいった。
「うぎゃあああ!暗い!寒い助けて!」
ハリーの努力も虚しく、ダドリーは吸魂鬼に突っ込んだ。
吸魂鬼が見えない事が災いしたのだろう。
そして、もう1体の吸魂鬼がゴミの山の上で伸びているハリーに襲いかかってきた。
「うう。何で、吸魂鬼がこんなところに?いや、何とかしないと」
彼はふと、ジーンズのポケットにロケット花火のような魔法道具が入っていることに気付く。
1ヶ月程前にフローラ・カローに渡された緊急用の信号弾である。
「これだ!これしかない!」
ハリーは急いでポケットからロケット花火を取り出し、吸魂鬼の頭越しに夜空に放った。
原理は悪戯道具であるフィリスターの花火と変わらない。
魔法使いであれば杖を持たない子供でも打ち上げる事ができる。
花火はオレンジ色の火花を撒き散らしながら、プリペット通り方面に飛んでいった。
フローラの言葉を信じるのなら、これで助けが来るはずだ。
吸魂鬼は既にハリーに覆い被さっており、彼はセドリックが死んだ時や、両親が殺された時のことを強制的に思い出していた。
もう立てない。
身体に力が入らない。
「ハリー!頭を低くしてろ!」
路地に聞き覚えのある声が響き渡る。
「え!?」
エスペランサ・ルックウッドがそこに居た。
タタタン
タタタン
乾いた連続射撃音と共に、ハリーの頭上に銃弾が飛来した。
もちろん、吸魂鬼に通常の弾薬での攻撃は通用しない。
そんなことはエスペランサにも分かっている。
だが、今は吸魂鬼の意識をハリーからエスペランサに向ける事が先だった。
突然、攻撃を仕掛けられた吸魂鬼はエスペランサの方を向く。
「ハリー!今のうちに眼鏡と杖を回収しろ!」
狭い路地に入り込んだエスペランサは単連射で吸魂鬼に牽制をかけつつ、ハリーに指示を飛ばす。
バジリスクの毒から生成した弾丸も無いし、プリペット通りでナパーム弾を使う訳にもいかない。
手元にあるのはM733と手榴弾のみ。
ならば、エスペランサに出来るのは、ハリーとハリーの従兄弟を逃す事だけだった。
ダドリーを襲っていた吸魂鬼もエスペランサの存在に気付く。
吸魂鬼に攻撃を仕掛ける魔法使いの方が彼等としては襲いたい。
2体の吸魂鬼は一斉にエスペランサの方へ向かっていった。
「そうだ。こっちに来い!」
彼は射撃を続けつつ後退する。
吸魂鬼の注意は十分に引きつけた。
エスペランサの狙いは吸魂鬼の意識をハリーから遠ざけることである。
ゴミの山から起き上がり、何とか眼鏡と杖を回収出来たハリーはエスペランサの意図に気付いた。
エスペランサは吸魂鬼2体を引きつけている。
チャンスは今しかない。
彼は杖を吸魂鬼に向け、呪文を唱えた。
「エクスペクト・パトローナム!」
杖先から銀色の雄鹿が飛び出して、2体の吸魂鬼に飛びかかる。
吸魂鬼は堪らず逃げ出した。
逃げ出した吸魂鬼を見ながら、ハリーは地面に膝をつく。
「無事か?ハリー」
小銃の弾倉を交換しながらエスペランサが近づいてくる。
OD色のTシャツに迷彩柄の戦闘服のズボンを履いた姿は、魔法使いの格好程ではないが、マグル界では目立つ。
「いや、もう疲れて、でも、何で吸魂鬼が」
ハリーは汗まみれのシャツを扇ぎなら何とか声を出した。
「さあな。俺も救難信号、つまり、例の花火が打ち上げられたのを見て駆けつけたんだが。来てみたらハリーが吸魂鬼に襲われてて驚いた」
「え?待って。君はプリペット通りにいたのかい?」
「まあな。夏休みが始まってから定期的にハリーを見張っていた。死喰い人の襲撃があるかもしれないだろ?」
「なら、なんでもっと早く僕に会いに来てくれないんだ!僕が夏休み中何をしていたか見ていたんだろ?」
「おう。ゴミ箱から新聞を漁ったりしてたな。だが、俺がハリーと接触するのを見られるのは得策じゃない」
「何で?」
「ハリーの事を監視してるのは俺だけじゃないのさ」
エスペランサは気絶して倒れているダドリーの脈を測り、命に別状がない事が分かると、ファイヤーマンズキャリーという方法で持ち上げた。
「重いなこいつ。だが、脂肪じゃなくて筋肉の重みだ。軍隊に入れるべきだ」
銃を担いでいるのにダドリーまで持ち上げることの出来るエスペランサに感心しつつ、ハリーは安堵していた。
少なくともエスペランサが居るのなら安心出来る。
「でもすまねえな。ハリーが1日かけてゴミ漁りしたり、家の庭で寝転がっているのを見ていながら何も出来なかった」
「いいよ別に。でも、君は何で僕の事を監視しようと思ったんだい?」
「ハリーを狙って死喰い人やヴォルデモートが現れないか待っていたんだ。奴らがノコノコと現れたら殺そうと思ってな」
「へ、へえ。で、死喰い人は現れた?」
「いや全く。徒労に終わったよ。死喰い人はまだ何の動きも見せてない」
ハリーはヨロヨロと立ち上がり、杖をポケットにしまおうとした。
「そいつを仕舞うんじゃないよ!」
不意に後ろから怒鳴られる。
ダドリーを担いだままのエスペランサは慌てて振り向いた。
「フィッグさん?」
ハリー達の後ろには足腰の悪そうな老婆が立っている。
「何だ?ハリーの知り合いか?」
「う、うん。近所のお婆さんなんだけど………」
「杖の事を知ってるってことは魔女なのか?」
「いいや。あたしゃスクイブだよ。出来損ないのね。そういうあんたは?」
「ハリーの級友のエスペランサです。あなたはハリーを監視していたんですか?」
エスペランサは老婆に聞く。
もし仮に彼女がダンブルドアの命を受けてハリーを見守っていた人間なのだとしたら酷過ぎる話だ。
魔法も使えず、歩くのも大変そうな老婆に何が出来るというのだ。
「あたしだけじゃないよ。ハリーが襲われたのはタブルスって男が教えてくれた。本当ならマンダンガスが見張りにつく筈だったんだが、あいつ、大鍋を売りつけるか何かでいなくなっちまったんだ。ああ、あいつ!殺してやる」
どうもハリーを複数人で見張っていたらしい。
実を言えばエスペランサも一人ではなかった。
フナサカと二人でプリペット通りの外れにある空き家に泊まり込み、ハリーを監視していたのだ。
「ダンブルドアにこの事を知らせないと………。でも、あたしゃ姿現しも出来ないんだ」
「あの、僕がフクロウを使えば」
「分かってないね!魔法省だってあんたやダンブルドアを見張ってるんだ。悪い意味でね」
「なら、俺が何とかして連絡を取りましょうか」
「あんたが?どうやって?」
「俺の仲間の何人かが無線機を持っているので………。魔法省はフクロウや煙突ネットは監視出来ても、無線までは傍受出来ないでしょう」
エスペランサは一旦、ダドリーを雑に下ろした後、小型の軍用無線機を取り出した。
「携帯無線機だから遠方まで通信を飛ばすには中継が必要なんだ」
彼が使うのはAN/PRC-152と呼ばれるトランシーバータイプの無線機である。
HF帯とVHF帯を使用し、短距離の通信に対応しているが、センチュリオンでは電波の代わりに、空気中に漂う魔力の流れを利用した新たな帯域を活かして通信を行えるように改良していた。
魔法界では魔力の影響により、短波や超短波といった電波が乱される事があり(ホグワーツでも時々あった)、また、マグル界では傍受される可能性があった。
そこで、一部の隊員が空気中に漂う魔力の流れを電波のように扱い、無線機に応用する事を考えたのである。
「02、02。こちら01、01送れ」
『こちら02。どうぞ』
01というのはエスペランサのことで、02はプリペット通りに潜伏するフナサカのことだ。
「ハリーが吸魂鬼に襲われた。フクロウ便は傍受される可能性がある。我々の回線を使用してこの件をダンブルドアに伝えられないか?」
『吸魂鬼だって!?そんな馬鹿な。ここはマグルの街だぞ!』
「俺がこの目で確認したから間違い無い。兎に角、速やかにダンブルドアに伝えたい」
『フクロウが使えないとなると手段は限られるな。休暇中の隊員の家族を経由すれば何とかなるかもしれん。親がホグワーツの理事を務めている隊員なら何とか出来るかも』
「頼んだ。俺はハリーを安全な場所まで連れて行き、何が起きたかを把握する」
『了解。気をつけてくれよ?』
エスペランサは通信を終了し、再びダドリーを背負った。
「ハリー。お前の安全が完全に確保されるまでの間、俺が護衛役を引き受ける。どうやら、ダンブルドアの息のかかった連中が近くに居るようだが、どうも信用出来ん」
「そうとも。マンダンガスの野郎や、あたしみたいなスクイブより、あんたの方がよっぽどマシってもんさ」
フィッグがエスペランサの持つ小銃を顎で指しながら言った。
「ありがとう。エスペランサ」
ダドリーが吸魂鬼に襲われた事をダーズリー夫妻に説明するのを思うと胃が痛かったハリーであるが、エスペランサが随行するのなら少しは安心出来る。
エスペランサは魔法使いだが、少なくともマグル界に詳しい人間だ。
それに、バジリスクやアクロマンチュラを相手に戦うことも出来る実力がある。
「それじゃあ行くとするか」
ハリー達はプリペット通りに帰るために歩き始めた。
ハリーとダドリーを背負ったエスペランサはプリペット通りに存在するダーズリー家に戻った。
玄関を開けたダーズリー夫妻はパニック状態に陥った。
気絶して泥だらけのダドリー。
杖を持ったままのハリー。
そして、ダドリーを背負っている銃をぶら下げた迷彩服の男。
「ダドちゃん!どうしたの!バーノン!警察に連絡よ!警察を呼んで!」
玄関先でダドリーの様子を見たペチュニアが叫ぶ。
「どうした?何があった!詳しく話してみなさい」
「その前にこいつを俺の肩から下ろしても良いですか?正直、かなり疲れるので」
エスペランサは大騒ぎするダーズリー夫妻の前にダドリーを下ろした。
ダドリーはいつの間にか意識を取り戻していたが、顔は青ざめて今にも吐きそうにしている。
「む!貴様、は!」
バーノンがエスペランサを見て顔を歪ませた。
エスペランサとバーノンは一度会っている。
ロン達と共に空飛ぶフォードアングリアでダーズリー家に奇襲攻撃を仕掛けた為だ。
「お久しぶりです。ええと、ダーズリーさんでしたっけ?」
「お前は確か、小僧の通っているイカれた学校の生徒だな?さては、お前が私の息子に何かしたのだろう!」
「勿論違います。詳しく説明しますので、中に入っても宜しいですか?」
バーノンはここで初めてエスペランサが手に銃を持っている事に気が付いた。
見た目からしてオモチャでは無さそうだ。
バーノンは杖も怖いが、銃も怖い。
増してや相手は何を考えているか分からない魔法使い。
玄関先で銃を乱射されたら困る。
「む。早く入れ!詳しく話を聞かせてもらわんといかんからな」
「ありがとうございます」
エスペランサは玄関で泥だらけの半長靴を脱ぎ(ここでペチュニアが非常に嫌そうな顔をした)、ダドリーを支えながらリビングに向かうバーノンの後に続いた。
ハリーもそれに倣った。
エスペランサはマグルの一般家庭など見たことも無かったが、小綺麗なキッチンや高そうな家具を見て、ダーズリー家が金持ちであることを察した。
蜘蛛の巣を放置したり、埃まみれのホグワーツよりも好感が持てる。
軍隊生活で飽きるほど清掃をして来た彼は埃一つ無いダーズリー家の居間を見て素直に感心した。
「申し遅れました。自分はハリーの級友で、元合衆国陸軍所属のエスペランサ・ルックウッドと言います」
「合衆国陸軍!?」
ダーズリー夫妻は目を丸くする。
エスペランサは自己紹介で敢えて、合衆国陸軍所属を強調した。
英国マグル界でも軍に対する信用は高い。
魔法使いと名乗ればダーズリー夫妻は信用しないだろうが、軍人となれば話は別だ。
エスペランサはもう既に軍人では無いし、そもそも非公式の部隊で傭兵のような存在であったから元合衆国陸軍所属かと言うと正確では無い。
が、ここはダーズリー夫妻の信用を得る為にも使わせてもらうことにした。
「所属は軍機で言えませんが、米陸軍に所属していたことは間違いありません。今はホグワーツで生徒をしていますが、杖よりも銃の方が馴染みがありますし、あなた達のようなマグル、いや、非魔法族にも理解はあるつもりです」
「ちょっと待て!その年齢で軍人になれる筈も無いだろう」
「その件に関してはいずれ話します。今は息子さんの身に何が起きたかを説明する方が先です」
見ればダドリーはペチュニアが持ってきたバケツに吐きながら、ハリーを指差していた。
「そいつが、ハリーがぼくに杖を向けた」
「何だと!小僧!それは本当か?」
「向けた。でも、魔法を使ったわけじゃない」
ハリーが言ったが、ダーズリー夫妻はその発言を信じていないようだ。
「それでどうなったの?ダドちゃん?」
「それで、それで、真っ暗になった。それから、それから、気持ち悪くなって、まるで………………」
「まるで二度と幸福になれないような感覚になった?」
言葉が出てこないダドリーをハリーがフォローした。
「うん。そう、そうだ」
「ダーズリーさん。おたくの息子さんは吸魂鬼と呼称される魔法生物に襲撃されました。吸魂鬼というのは周囲に存在する人間から幸福感を奪い取る生物です」
エスペランサが補足説明をしたが、上手く伝わらなかったようだ。
「吸魂鬼!?何だそれは!」
「アズカバンの看守よ。魔法使いの牢獄の」
ペチュニアが口を挟む。
これにはハリーもバーノンも驚いたようだ。
今まで魔法を毛嫌いしてきた人がアズカバンの看守という情報を知っていたのだから。
「以前、あの妹とろくでなしの男が話しているのを聞いたの」
「吸魂鬼について知っているのなら話は早い。っと?」
突然、開けていた窓から一羽のフクロウが居間に侵入して来た。
フクロウ便だろう。
足に手紙を括り付けている。
ハリーはフクロウから手紙を受け取り、中身を読み始めた。
エスペランサは開けっ放しの窓を閉め、カーテンを広げた。
外から居間の中が丸見えでは、いつでも襲って下さいと言っているようなものだからだ。
「何の手紙だった?ハリー」
「魔法省から。未成年が魔法を使ったから退学だってさ」
ハリーが力無く言う。
その言葉に喜んだのは勿論、バーノンである。
「それ見たことか!やはり魔法を使ったんだろう」
「魔法は使った。でも、それは吸魂鬼を追い払うためだ」
「ハリーが言う通りです。彼は吸魂鬼を追い払う為に守護霊の魔法を使った。吸魂鬼には銃も効果が無いので、ハリーが守護霊の魔法を使わなければ、あなたの息子を含めて、我々は誰一人生きて帰れなかった」
「いーや。信じられんな。だいたい、そのキューコンバーとかいう連中は看守らしいじゃないか。そいつらが何故、プリペット通りでダドリーや小僧を襲うんだ?」
エスペランサは答えに詰まった。
彼は吸魂鬼を送り込んだ組織が何であるのか、予想は出来ている。
だが、それを説明するのは非常に難しい。
一方のハリーはエスペランサとは違う推理をしたようである。
「多分……ヴォルデモート卿だ」
その名前を聞いてバーノンが顔をしかめた。
「まてよ、そいつの名前は聞いたことがある。確か……」
「そう。僕の両親を殺した魔法使いだ」
「なるほど。そうか。そいつがキューコンバーとかいう奴を使ってダドリーを襲ったんだな?」
確かにヴォルデモートなら吸魂鬼を味方につけることを考えるだろう。
しかし、現段階でヴォルデモートが吸魂鬼を掌握出来ているとはエスペランサは思えなかった。
もし、掌握出来ていたならアズカバンに収監中の死喰い人が解き放たれている筈だ。
解き放たれていないとなれば吸魂鬼はまだ魔法省の管理下ということになる。
「よし。決めたぞ!小僧!今すぐ家から出て行くんだ!」
「え?」
「最初からこうするべきだったんだ!お前をこの家に住まわせてから散々な事ばかりだ!ダドリーに豚の尻尾は生えるし、マージは膨らむし、挙げ句の果てに空飛ぶフォードアングリア!」
バーノンが癇癪を起こした。
エスペランサは彼に若干、同情する。
急に魔法使いから子供を一人育てろと言われたり、息子が吸魂鬼に襲われたりすれば発狂するのも仕方の無いことだ。
エスペランサは懐から煙草を取り出して吸おうとしたが、ダーズリー家の中で喫煙すればペチュニアに半殺しにされそうな気がしたのでやめた。
「出て行け!今すぐ出て行け!あーくそ!また、フクロウか!」
癇癪を起こしたバーノンの頭上に再びフクロウが来襲した。
フクロウは吠えメールと思われる郵便をテーブルの上に落とす。
「吠えメールか」
「何だそれは!」
「音声付きの手紙みたいなものです。開いた方が良いかもですね」
エスペランサは勝手に開封した。
『私の最後のあれを思い出せ。ペチュニア』
短い内容の吠えメールであった。
ハリーもバーノンもエスペランサも理解出来なかったが、ペチュニアは理解したらしく顔色が変わる。
「バーノン。この子はこの家に置いておかなくてはなりません」
「え?」
「ここに置いておくのです」
彼女はハリーに顔を近づけた。
いつもとは様子の違うペチュニアにハリーも少なからず動揺しているようだ。
「本当に。例のあの人が復活したの?」
「え、あー。うん。そうだ。僕が先月目撃した。奴は帰ってきたんだ」
「そう。本当なのね」
ペチュニアとハリーの母親は姉妹である。
ヴォルデモートに家族を奪われたのはハリーだけでなくペチュニアもだ。
エスペランサもハリーもその事に気が付いた。
その時、エスペランサの持つ無線機が入電する。
『ハウンド。こちらクルーザー。コントローラーより入電あり。そちらに繋ぐ。送れ』
「ハウンド了解した。送れ」
エスペランサとフナサカのみの通信では、01や02という呼称でお互いを呼び合っているが、センチュリオンの隊員全体で回線を繋ぐ場合はコールサインを決めている。
ハウンドはエスペランサ。
クルーザーがフナサカで、コントローラーがセオドールだ。
他にも、フローラはローレライ、ネビルはスナイパー、コーマックがアルバトロス、チョウがホークアイだったりする。
『ハウンド。こちらコントローラー。スナイパーがスナイパーの祖母経由でダンブルドアに現状を報告した。ハリーの保護に何名かの魔法使いが送られると思われる』
「ハウンド了解した」
『我々の回線が敵に傍受される心配は無いと思われるが、引き続き警戒されたし。終わり』
どうやらダンブルドアにハリーが襲われた事が伝わったようだ。
「ハリー。ダンブルドアが護衛を送ってくれるそうだ。ダーズリーさん。ハリーの保護の為に何名かの魔法使いがここに来る。自分はそれまでの間、この家に待機しますがよろしくですか?」
事の成り行きに呆気に取られていたバーノンがエスペランサの言葉で正気を取り戻した。
「むっ。私たちはこれからダドリーを医者に連れて行くが、その留守中にお前や小僧が家を吹っ飛ばす可能性だってある。そんなことを認める訳には」
「先程も言ったが、自分は元々合衆国の軍人です。詳細は話せませんが英国海兵隊と共同の任務に就いたこともある。少なくとも普通の魔法使いよりは信用出来る人間だと思いますが」
エスペランサの言葉を横で聞いていたハリーは、彼が躊躇なくホグワーツで爆薬を使用する光景を思い出し、突っ込みたくなったがやめた。
「軍隊の採用年齢を私は知っている。15歳の子供が海兵隊と任務を共にする事は無い」
「まあ、表向きにはそうでしょう」
エスペランサは一枚の写真を取り出した。
ボロボロの写真だ。
そこには米軍のデルタフォース達と肩を組むエスペランサが写っていた。
背景にはブラックホークと呼ばれるヘリも写っている。
「これで証拠になりますか?」
「これが合成写真である可能性もある。が、留守中に我が家を守る人間が居ないというのも不安だ」
バーノンは不満そうではあったが、エスペランサがダーズリー家に留まることを承諾した。
皆さんは愛の貧乏脱出計画って知ってますか?
あれを見るとたこ焼き食べたくなるんですよね。