ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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感想、誤字報告ありがとうございます!
夏休み編はあと少しだけ続きます。


case72 A man made alive by God 〜神に生かされた男〜

 

「エスペランサは誰が吸魂鬼をプリペット通りに送り込んだと思う?」

 

ダーズリー夫妻はダドリーを医者に連れて行ってしまい、ダーズリー家にはエスペランサとハリーが残されていた。

 

外からの襲撃を警戒し、家中の照明を切っている為、リビングの中は暗い。

 

「そうだな。ヴォルデモートでは無いだろう」

 

「どうして?」

 

「俺がヴォルデモートだったら吸魂鬼なんて使わずに、直接ハリーを殺しに行く。だが、ヴォルデモートはそれをしていない。恐らく、何らかの保護魔法がハリーにかけられているからヴォルデモートは襲って来れないんだ」

 

「保護魔法?そんなのかけられた記憶は無いよ」

 

「ハリーの叔母さんが、ハリーを家に置いておかないといけないって言ってただろ。叔母さんはハリーがダーズリー家に居る限り安全だということを知っていたんじゃ無いか?」

 

「いい迷惑だよ。何でよりによってダーズリー家で保護魔法なんてかけるのさ」

 

「さあな。だが、ダーズリー家は一応、衣食住は確保してくれたんだろ?」

 

「ほんの少しね。君も見たろ。ダーズリー家は酷いものだよ」

 

「軍隊の営内に比べりゃ天国さ。キューバ危機前後の米軍内じゃコードレッドが頻発してたんだぜ?俺もGIシャワーとか知ってるけど酷いもんさ」

 

「コードレッド?何それ」

 

「知らない方が良い。それに、ちょいと考えて欲しいんだが、もし仮に純血家系の家の軒先にマグルの赤ん坊が捨てられていたら、その家は赤ん坊の面倒を見てくれると思うか?」

 

「見てくれないと思う。でも、それって極端な例じゃない?」

 

「違いねえな。それはそうと、ハリー。腹減ってないか?」

 

ハリーもエスペランサも吸魂鬼に襲われてから何も食べていなかった。

 

エスペランサはダーズリー家の冷蔵庫を勝手に開けて、中から食べれそうな物を取り出していく。

 

「エスペランサ。それはまずいよ。ダーズリーに怒られちゃう」

 

「何言ってんだ。ここはハリーの家なんだろ?ハリーはここにある物を食べる権利がある」

 

冷蔵庫から取り出したチーズとハムをマヨネーズ塗れにして、パンの上に乗せたエスペランサは、そのパンをオーブンに突っ込んだ。

 

ハリーも空腹な上に、半ばヤケになっていたからそれ以上、エスペランサの行動を止めようとは思わなかった。

 

「で、吸魂鬼を送ったのが誰かという疑問についてだが。ヴォルデモートはまだ吸魂鬼を掌握していないだろう。もし、掌握しているのならアズカバンから死喰い人が集団で脱走しているはずだ」

 

「言われてみればそうだね。でも、そうすると吸魂鬼は誰が?」

 

「吸魂鬼はどこの組織が管轄しているかハリーは知っているか?」

 

エスペランサはパンを齧りながらハリーに聞く。

 

「それは……魔法省だと思うけど。まさか、魔法省が?」

 

「そういうことだ。魔法省はダンブルドアと対立関係にある。というか魔法大臣が対立してる。魔法大臣はヴォルデモートの復活を認めたくないからな。だから、奴はヴォルデモート復活を唱えるダンブルドアやハリーを陥れたいと思うに違いない」

 

「つまり、魔法大臣が僕の事を陥れる為だけに吸魂鬼をプリペット通りに派遣したってこと?いくらファッジでもそこまでやらないと思う」

 

ハリーはファッジと何回か会っている。

最後に会った時の印象は悪いが、それでも、吸魂鬼をマグル界に解き放つような悪人では無いと思っていた。

 

「そうだな。恐らく、ファッジをコントロールしている黒幕が居る」

 

「黒幕?ファッジは魔法界で一番の権力者だろ?そんな人を操れる人が居るの?」

 

パンを食べ切ったハリーはソファにドカっと座りながら尋ねる。

 

「居るさ。権力者を操りたい奴なんてどこの国にだって居る。この手の連中はヴォルデモートよりよっぽど脅威だ」

 

「何で?ヴォルデモートの方がずっと恐ろしいと思うけど」

 

「ヴォルデモートは、そうだな。人の心を知らない。だからヴォルデモートは己の力を誇示して恐怖で人を従わせる事しか出来ない。そういう独裁者が指揮する部隊は弱い。人の心を操って世間まで味方につけようとする敵の方がよっぽど厄介なんだ」

 

「そうかな?でもヴォルデモートは英国魔法界を支配しかけたんだろ?」

 

「そうだ。だが、結局、支配出来たのは英国だけだ。かつてグリンデルバルドは英国だけじゃなく世界を支配しかけた」

 

「グリンデルバルドなら知ってる。ダンブルドアに敗れた闇の魔法使いだよね。ダンブルドアの蛙チョコのカードに書いてあったような」

 

「そう。そのグリンデルバルドだ。グリンデルバルドは人の心を知っていた。だから、力では無く、言葉で人を従える事が出来たんだな」

 

「エスペランサはヴォルデモートよりグリンデルバルドの方が凶悪な闇の魔法使いだと思ってるんだね」

 

「そうだな。ただ、俺はグリンデルバルドが必ずしも絶対悪だとは思えん。ヴォルデモートの主義思想にはこれっぽっちも共感出来ないんだが、グリンデルバルドの主義思想には共感出来てしまうところもある。あ、これは絶対にダンブルドアには言うなよ?」

 

かつてグリンデルバルドは言葉の力で大勢の魔法使いと魔女を従えた。

従った魔法使いや魔女達はグリンデルバルドの考えに賛同したから彼の軍門に下ったのだ。

 

グリンデルバルドはマグルの戦力を過小評価しなかった。

マグル生まれを差別しなかった。

マグルを一方的に下等だと見下さなかった。

彼はマグルの科学が魔法界どころか地球を滅ぼす危険性があることに気づいたのである。

 

故に魔法という力を持つ者がマグルの科学を抑制し、世界をコントロールすべきだと考えたのだ。

 

この考え方はエスペランサの考え方と似た部分がある。

セオドールはその事をエスペランサに伝えていた。

 

マグルの軍事力を過小評価しないグリンデルバルドが相手ならエスペランサ達は有利に戦う事が出来ない。

逆にマグルの軍事力を碌に知らないヴォルデモート勢力が相手ならエスペランサ達は有利に戦う事が出来る。

 

「ヴォルデモートは確かに強い。だが、ヴォルデモートに統率力は無いし、ヴォルデモートの率いる軍は組織としては必ずしも強く無いんだ。となれば、どう戦うのが正解だと思う?」

 

「うーん。あ、そうか。ヴォルデモートじゃなくて死喰い人を倒せば良いんだね」

 

「そういうことさ。普通の戦争なら大将の首を取れば良いんだが、ヴォルデモートの首を取るのが困難なら、奴の勢力を壊滅させれば良い。ここまで言えば今、死喰い人達が何をしようとしているか分かるだろ?」

 

「なるほど!ヴォルデモートはダンブルドアを倒したいけど、ダンブルドアを倒すのは難しい。だけど、ダンブルドアを孤立させる事は出来るんだね。だから色々と工作してるのか」

 

ルシウス・マルフォイをはじめとして死喰い人には魔法省に圧力をかけることの出来る人間が何人も居る。

彼らはダンブルドアがヴォルデモート勢力に対抗する勢力を作る事が出来ないように、ダンブルドアを孤立させようとしている訳だ。

 

ハリーにも今、魔法界がどうなっているかが見えて来た。

 

「僕、ここ数週間、死喰い人達が何か事件を起こさないかどうかマグルのニュースを見て探っていたんだ。だけど、何も無かった。死喰い人は表立った行動をせず、ダンブルドアを孤立させる為に動いてたから何も無かったんだ」

 

「そうだ。魔法界もマグル界も今のところ表立って何かが起きている訳じゃない。っ!?」

 

エスペランサは突然、ソファに立てかけてあった小銃を手繰り寄せる。

 

「どうしたの?エスペランサ」

 

「ハリー!部屋の奥に隠れろ!」

 

エスペランサはソファを掩蔽として、小銃を構え、銃口を庭に面した窓に向けた。

 

カーテンのレース越しに見える庭は街灯で照らされている為、明るい。

その庭に何人かの人影を視認したエスペランサはハリーを部屋の奥に逃がし、自身は臨戦態勢に入った。

 

銃の握把を握る手に汗が滲む。

 

もし仮にこれが敵襲なのだとしたら手持ちの武器では圧倒的に不利だ。

 

 

「そこに居るのは誰だ!答えろ!さもなければ撃つぞ?」

 

エスペランサは小銃を構えながら尋ねる。

 

「儂だ。小僧。その物騒な武器を下ろせ」

 

聞き覚えのある声がレースのカーテン越しに聞こえる。

レース越しに見えるシルエットから、答えた男が義足をして、杖をついている事が分かった。

 

「ムーディ先生?」

 

ソファの後ろからハリーが顔を出そうとする。

 

「まだ顔を出すなハリー」

 

エスペランサは銃を下げなかった。

 

「むっ!はやく武器を下ろさんか!」

 

レースのカーテンを開け、土足でガツガツと居間に乗り込んで来たのはやはり、マッドアイ・ムーディであった。

魔法の目や傷だらけの顔ですぐに分かる。

彼の後ろにも何人かの魔法使いが待機している。

 

だが、エスペランサは彼が本当にムーディなのか確かめる必要があった。

ただでさえ、昨年は1年近く騙されていたのだ。

警戒して当然である。

 

「あんたがムーディだという証拠が無い。死喰い人がポリジュース薬で化けている可能性も否定出来ない」

 

「ほう。死喰い人の襲撃を警戒するとは、やはり並の学生では無いようだな。儂が本物のムーディであるかを証明する方法は今のところ無いが……。あいつなら証明出来るかも知れん」

 

ムーディの後ろからこれまた見覚えのある顔が出てくる。

リーマス・ルーピンであった。

 

「やあ。久しぶりだね。エスペランサ。ハリー。元気そうで何より、とは言える状況じゃなさそうだけど」

 

以前にも増して顔が老けて疲れ切っているようなイメージがあるので、まだ貧乏な生活をしているのだろう。

 

だが、ルーピンは狼人間である故にポリジュース薬でルーピンに化けることは出来ない。

ポリジュース薬は人間のみを対象とする為、狼人間は実は対象外となるのだ。

 

「なるほど。これは失礼しました」

 

エスペランサはここで初めて銃を下ろした。

 

ムーディはそれを確認してから部屋に上がってくる。

他の魔法使い達もムーディに倣った。

 

「いや、いや、小僧。お前さんは正しい行動をした。庭に我々が現れた事を察知したのも早い。儂に武器を向けながらも、我々の人数を把握しようとして片目だけを動かしていたのも賞賛に値する。闇祓いに向いていそうな人材だ」

 

「お褒めに預かり光栄ですが、残念ながら闇祓いを目指そうとは思えませんな」

 

「そうか。それもまあ良かろう。それよりも、まだお前さんに礼を述べていなかったな」

 

「はあ?礼、ですか?」

 

「聞けば、あのクラウチJr.を倒したのはお前さんらしいじゃないか。元とは言え、死喰い人を仕留める事のできる生徒はそう多くは無いだろう」

 

確かに、エスペランサはクラウチJr.を倒した。

だが、あれはエスペランサの力では無くセンチュリオンの力だ。

一個小隊規模の戦力と火力を使わなければ倒せなかっただろう。

 

「儂からも一つ質問させてもらう。お前さんが本物のエスペランサ・ルックウッドであるか確かめないといけないからな。クラウチJr.を倒した武器は何という名前だ?」

 

「C4プラスチック爆弾とクレイモア地雷、M733も使用した。これで良いですか?」

 

「よろしい。どうやらお前は本物のルックウッドらしいな」

 

ムーディはそれ以上は何も疑わなかった。

どうやら、魔法界ではこの手の質問をして本人か偽物かどうかを確かめるらしい。

 

センチュリオンでも定期的に変わる符号を決めて本人かどうかの認証を出来るようにはしていたが、開心術などを使われては意味がないだろう、とセオドールが言っていた。

 

「へえ。この子が死喰い人を倒したの?へえー」

 

ムーディの後ろからカラフルな髪をした若い魔女が現れる。

 

「あなたは?」

 

「ニンファドーラ・トンクス。トンクスで良いよ。で、その武器が例のマグルの武器って奴かな?」

 

トンクスはエスペランサの持つM733を指差す。

 

「ええ。M733という銃です。アバダ・ケダブラを連射出来る杖のような物です」

 

「それはどれくらい訓練したら使えるの?」

 

「正直な話、子供でも扱えます」

 

その言葉に居合わせた魔法使い達は軽く息を飲んだ。

それもその筈。

アバダ・ケダブラという魔法はかなりの魔力を持つ魔法使いや魔女で無ければ使えない。

たが、銃は子供でも簡単に使える上に、一瞬で死体の山を作り上げる事ができるのだ。

 

「そう。銃の怖い所は誰でも使える道具である事だ。だから、国によっては警察や軍しか銃の所持を認めていない」

 

トンクスの左横に居た黒人の魔法使いがエスペランサの代わりに話した。

 

彼はキングズリー・シャックルボルト。

魔法省の高官でありながらマグル界でも首相補佐官を勤めるエリート中のエリートだ。

 

「ムーディにキングズリー・シャックルボルト。これだけの戦力があればハリーの護衛は心配ないだろう」

 

ルーピンが言う。

 

これだけの戦力があれば安心だとエスペランサも思った。

 

「ところで、ルックウッドが本物だと分かったのは良いが、ハリーが本物なのか確かめるべきでは無いのかね?」

 

ルーピンの後ろに居た白髪の魔法使いが言う。

 

「ああ。そうだ。ハリー、君の守護霊は何の動物の形をしている?」

 

「牡鹿。ルーピン先生がやり方を教えてくれた」

 

ハリーが答えた。

 

「間違いない。この子はハリーだ。本物だ」

 

「へえ。ハリーが守護霊の呪文を使えるのはルーピン先生のおかげだったのか」

 

エスペランサはハリーが守護霊を使うところを2回ほど見ているが、彼が高等魔法を何故、習得していたのか疑問だったのだ。

 

エスペランサはセオドールやフローラと一時期、守護霊の呪文の練習をしてみたが、全員、まともに発動しなかった。

皆、一様に幸せな記憶が無かった為である。

 

もっとも、センチュリオンは守護霊の呪文が無くとも吸魂鬼を倒す術を少なくとも二つ用意出来ているので必要の無い技術と言えばそれまでだったが。

 

「でも良かった。こんな大勢の魔法使いが家に現れたらダーズリー家の人達は発狂するところでした」

 

ハリーが苦笑いしながら言う。

 

「あはは。あのね、連中を家から遠ざけたのはわたしなんだよ。ポストに"全英郊外芝生手入れコンテスト"入賞の手紙を入れたら急いで会場に向かった訳。勿論、そんなコンテスト無いんだけどね」

 

トンクスが笑いながら答えた。

ダーズリー家、と言うよりもペチュニアは庭の手入れに命を捧げている様な人だ。

簡単に騙されるだろう。

 

「で、これから貴方達はハリーを連れてどこへ行くんですか?」

 

 

エスペランサはルーピンに尋ねた。

 

「ひょっとして隠れ穴?」

 

ハリーが期待を込めた目をして言う。

 

「いや、あそこは危険過ぎる。本部は別の場所だ」

 

ムーディが代わりに答えた。

ムーディは魔法の目の調子が悪いのか、キッチンにあったピカピカのコップに浄水を入れて、さらにそのコップに魔法の目を入れている。

 

「本部?何の本部ですか?」

 

「それを聞いてどうする?坊主」

 

「いえ、少し気になったので。ダンブルドアが秘密裏に作った組織の本部かな、と」

 

「悪いが機密中の機密だから話すことは出来ん」

 

ムーディとエスペランサが話している間、ルーピンはハリーに魔法使い達の紹介をしていた。

 

それを聞いていたエスペランサは集まった魔法使いと魔女の共通点を見出せずにいる。

出自も役職もバラバラ。

まるで、センチュリオンの様だ。

 

やがて、ハリーとトンクスが荷造りの為にハリーの部屋に向かった。

 

「ここに居る人達はハリーの救援をしたくて名乗り出て来た人達なんだ」

 

ルーピンがエスペランサに話しかけた。

 

「へえ。魔法界はとっくにアンチハリー派で埋め尽くされてると思っていました」

 

「そうでも無いさ。ダンブルドアを信じる人はまだ大勢居る。君もそうだろう?」

 

「さあ。俺はそこまでダンブルドアを崇拝してる訳じゃないんです。だが、まあ、ヴォルデ……例のポンコツお辞儀ハゲが復活したっていうのは信じられます」

 

「それで、君は夏休み中、ハリーを守る為に行動していたんだね」

 

「それもあります。が、本命はノコノコ現れた死喰い人を片っ端から殺せるかと思っていたんですよ」

 

エスペランサの言葉に何人かの魔法使いが眉を顰めた。

いくら正義感の強いグリフィンドールの生徒でも、死喰い人を"片っ端から殺す"という発想には至らない。

ムーディですら、だ。

 

その思想はまるで……。

 

「確かに死喰い人は悪い連中だ。でも、君が手を汚す必要は無い」

 

「お言葉ですが、俺の手は既に汚れています。クィレル先生を射殺したのは他でも無い自分ですし、それに、中東では数え切れない程の命を奪った。それこそ、死喰い人以上に」

 

「君はまだ15歳の学生なんだ。そういうことは我々大人に任せておくのが一番良い」

 

 

エスペランサはルーピンに反論しようとしたが、止めた。

 

すでに吸魂鬼を百単位で倒すことの出来る部隊の指揮官であるエスペランサだが、ここに居る魔法使い達にとっては、か弱き未成年の魔法使いでしか無い。

 

彼はその認識を改めようと思わなかったからだ。

 

 

 

 

 

荷造りを終えたハリーはファイアボルトを片手に1階へ降りて来る。

煙突飛行ネットワークは魔法省に監視されている為、移動手段は箒なのだそうだ。

 

エスペランサは、ダーズリー家の庭から箒で飛び立つハリーやムーディ達を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何のようかしら?貴方のような人が魔法省に来るなんて」

 

魔法省のとある一室。

 

アンブリッジは突然の来訪者に多少なりとも驚いていた。

 

「ドローレス・アンブリッジ。貴方はホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教師をやるみたいだな」

 

来訪者の名前はアエーシェマ・カロー。

アンブリッジですら警戒心を抱く魔法使いだ。

 

「ええ。そうです。今のホグワーツはダンブルドアの支配下。ダンブルドアは魔法省に楯突く老害ですから、私が監視しに行くのです」

 

「ほう。貴方にダンブルドアを抑えることが出来ますかな?」

 

「何が言いたいんです?」

 

アエーシェマの挑戦的な物言いにアンブリッジは軽く苛立ちを覚えた。

 

対するアエーシェマもピンク色に染められ、あらゆるところに猫のファンシーグッズが飾られたアンブリッジの執務室に嫌悪感を抱いている。

 

「いえ、別に。ただ、ダンブルドアは意外と善人では無い。もし、貴方がホグワーツで好き放題し始めれば必ず消される」

 

「あら?そうでしょうか?世間はダンブルドアの味方をもうしていません。ほとんどの人が魔法省を信用しています。もう、ロートルの校長には権力も統率力もありません。私が消される筈が無いでしょう」

 

「笑わせる。ダンブルドアの権力を失わせたのは貴方達でしょうに」

 

アエーシェマは苦笑した。

ダンブルドアの持つ地位と権力を魔法省は一瞬で奪い去った。

つい先日まではダンブルドアを頼っていた魔法省が、だ。

 

「あら。そんなことはありませんよ。我々は魔法界に混乱をもたらそうとしているダンブルドアから魔法界を守るために、あの人から少しばかり権限を剥奪したまでです」

 

「まあ、そういうことにしておこう。だが、私の予想していた通り、貴方はホグワーツを舐めている節がありますな」

 

「舐めている?どういうことでしょう?」

 

「魔法省の権力と地位をもってすれば生徒も校長も教師も抑える事が出来る。貴方はそう思ってはいませんか?」

 

「魔法省は魔法界を統べる組織ですから当然、ホグワーツなど簡単に抑えられますわ」

 

「甘い。実に甘い。貴方は、あそこに居る邪悪な存在を知らないからそう言えるのだ」

 

「邪悪な存在?」

 

「吸魂鬼を送り込む貴方もまた、邪悪な存在だが、それ以上に邪悪な存在ですよ。魔法省、いや、貴方やファッジが恐れるのはダンブルドアがホグワーツを私設の軍事組織にすることでしょう。魔法省より力を持つ組織が出来ることを恐れている」

 

「そんなことは……」

 

「隠さなくて結構。ここからは本音で語りましょう」

 

アエーシェマはアンブリッジに顔を近づけた。

その目は笑っていない。

 

「………」

 

「ダンブルドアは私設の軍を作ったとしても生徒をメンバーに入れる事は絶対無いでしょう。あの人は生徒を必要以上に大切にする。それが、どっぷり浸かったスリザリン生でも、だ。そこがダンブルドアの弱点。彼は優し過ぎる。冷酷になれない」

 

「では、ダンブルドアは恐るに足りませんね」

 

「そうだ。ダンブルドアは手段を選ぶ人だ。故に、魔法省にとっては脅威では無い。だが、手段を選ばない者がホグワーツには居る」

 

「手段を選ばない者?誰でしょう?」

 

「闇の帝王と組んだ教師を躊躇いなく殺害し、バジリスクを粉砕し、死喰い人に圧倒的な戦力で勝利する。そんな学生がホグワーツには居る。私は彼の存在がこの世界に紛れ込んだ一種のバグだと思っています。そして、そのバグは恐らく、私設の軍隊を組織しようとしている」

 

「私設の軍隊?」

 

魔法省には軍隊が存在しない。

 

ヴォルデモートの勢力を便宜的に例のあの人の軍勢と呼ぶ事はあるが、正規軍など存在しないのだ。

故にアンブリッジは私設の軍隊というのは、かつてヴォルデモート全盛期にダンブルドアが集めた仲間の集団のようなものだと思っている。

 

「私設の軍隊とはどういった物なのでしょうか」

 

「そうですな。貴方はマグル界についての知識が乏しいから、軍隊という物のイメージが良く分かっていないでしょう。軍隊というのは、戦闘をする事に特化し、統率の取れた集団です。マグル界では国が組織した正規の軍隊がある」

 

「なるほど。闇祓いの様な物ですね」

 

「認識としては間違っていない。問題はその規模。マグル界の軍隊は数十万の人間と音速で飛ぶ兵器、一瞬で街を消滅させる爆弾を持っている。そして、エスペランサ・ルックウッドという生徒はこのマグル界の軍隊出身なのだ」

 

「はん。ルックウッドとやらはマグル生まれの野蛮な生徒な訳ですね」

 

アンブリッジもマグルを下等だと思う魔女の一人だ。

マグルにどっぷり浸かった生徒など恐るるに足らない。

恐らく、アーサー・ウィーズリーのような人間なのだろうと勝手に予想した。

 

だが、少し引っかかるのはルックウッドという名前だ。

アンブリッジはかつて神秘部に所属していたオーガスタス・ルックウッドという魔法使いの事を思い出した。

 

記憶が正しければ彼に妻子はいなかった筈。

 

 

「で、そのルックウッドは何故、私設の軍隊を作ろうとするんですか?」

 

「簡単だ。奴は戦いを求めているからだ。正義を振りかざしていても、本質は隠しきれていない。厄介な存在だ」

 

「所詮は生徒でしょう?私にかかれば」

 

「侮ってはなりませんな。ルックウッドは昨年のワールドカップで20名近い元死喰い人を瀕死の状態にした。しかも、たったの数分で。こんな芸当、闇祓いにも出来ないでしょう」

 

魔法省の虎の子である闇払いを凌ぐ戦力を持った組織など存在しない。

が、その闇祓いとて死喰い人20人を一瞬で葬ることは難しいだろう。

 

「エスペランサ・ルックウッド……。一体、何者なんです」

 

「さあ。私も知りたいものだ。突然、魔法界に現れた異端な存在」

 

そう言い残してアエーシェマはアンブリッジの執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アエーシェマは魔法省から煙突飛行ネットワークを使わずに、マグルの公共機関を使って自宅まで帰ることにしている。

 

服装は魔法使いのソレだが、目眩しの呪文を自身にかけてしまえば問題は無い。

 

少し前までは姿眩ましを活用していたが、エスペランサ・ルックウッドに出会ってからは積極的にマグル界を出歩くようになっていた。

 

エスペランサは魔法界もマグル界も熟知している。

だからこそ、魔法使いとの戦闘で有利に立ち回れたのだ。

 

なるほど、敵を知るという訳だ。

 

アエーシェマは電車や自動車が行き交うロンドンを見て、感心した。

この科学技術が発達したマグル界から魔法界に飛び込んだエスペランサという少年は何を思ったのだろう。

それを知る事で、魔法界にエスペランサが送り込まれた理由が分かるような気がしたのだ。

 

市街の電光掲示板では今日もまた殺人事件のニュースが流れている。

アエーシェマはそれを見て溜息を吐いた。

 

ここ数日、郊外で殺人事件が頻繁に起こっている。

元々、殺人事件自体は珍しくも無いが、これは阿呆な死喰い人もどき達がマグルの軍隊に暗殺されているだけだ。

 

マグルの政府も馬鹿では無い。

 

15年前に死喰い人に煮湯を飲まされたのだから対策くらいはしているだろう。

それにしても、ヴォルデモート賛同派の者たちは軽率で、そして、雑魚なのだろう。

 

アエーシェマは思う。

 

もっと強い者を狩る方が楽しいに決まっている。

故に、アエーシェマはエスペランサを狩りたかった。

 

それは、サディストな彼の快楽の為でもあったが、彼が"与えられた役目"でもあった。

 

神は何故、アエーシェマ・カローという人間を生かしたのか。

長年自問してきたアエーシェマは最近、その答えを見出した。

 

エスペランサ・ルックウッドをこの世から葬り去るために神はアエーシェマを生かしたのだ。

彼はそう結論付ける。

 

エスペランサ・ルックウッドと闘うための舞台の設定はあと少しで完全する。

今回の魔法省訪問もその一貫であった。

 

ヴォルデモート、ハリー・ポッター、魔法省、ダンブルドア。

これらの要素をフルに使ってアエーシェマはエスペランサと闘う機会を設けようとしているのだ。

 

 

 

 

(エスペランサ・ルックウッド。お前にとっては絶望しか残らない一年になるだろう。そして、全てを失い、闘う事しか頭に無くなった本気のお前と闘う事を楽しみにしているぞ)

 

 

 




アエーシェマは謎だらけのオリキャラです。
いや、実はオリキャラでは無く……
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