ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case73 Luna Lovegood 〜ルーナ・ラブグッド〜

今は何月何日なのだろう。

 

フローラ・カローは朦朧とする意識の中でそんな事を考えていた。

 

 

度重なる磔の呪文とその他の闇の魔術による拷問により、身体の感覚は完全に麻痺していた。

 

並の魔法使いならこの時点で廃人に足を踏み入れているだろうが、彼女は拷問には慣れていた。

 

 

夏休みの初日、カロー家に帰ってきたフローラは即座にアエーシェマによって家に存在していた地下牢に幽閉された。

この地下牢は彼女がカロー家に連れられてきてから数年間、性格を矯正させられる為に閉じ込められてきた部屋である。

 

僅かな蝋燭の炎が照らす地下牢には一通りの生活が出来る道具が代々伝わる拷問道具と共に備え付けられていた。

フローラは数年間、この部屋に閉じ込められ、あらゆる拷問をされながら育った。

 

カロー家の人間としての素質を表向きには、身につけたので、ここ数年は地下牢に閉じ込められる事も、拷問されることも無かったのだが、アエーシェマは夏休み初日からフローラを監禁して拷問し始めたのである。

 

ここ1年、カロー家の意向に背いて来たことが彼の逆鱗に触れたのだろうか、とフローラはぼんやり思った。

 

小刻みに震えている手を持ち上げて、時計の針を見る。

 

時刻は正午過ぎ。

 

夏休みが始まってから5回目の正午だ。

 

フローラが持つ時計はいつぞやのクリスマスにエスペランサが送ってくれたマグル製の物だった。

彼曰く、メイドインジャパンのSEIKOの時計らしい。

 

もし、エスペランサが今の自分を見たらどう思うのだろう、とフローラは思う。

 

鎖に繋がれて、埃まみれになり、まともな食事も摂らせてもらえず、ボロボロになった自分を見た彼は、恐らく激怒するだろう。

 

自分の為に怒ってくれる人が存在するだけでフローラは救われていた。

彼女がここ数日、正気を保っていられたのは単にエスペランサの存在があったからだ。

 

この苦痛に耐えれば、またきっとあの人に会える。

そう思うことで狂わなかったのだ。

 

石の床の冷たさを肌で感じながら、なんとか身体を起き上がらせる。

関節が悲鳴を上げ、口から出た血の塊が既に泥塗れのローブを赤く染めた。

 

 

 

「まだ正気を保っていたか。まあ、そうであってもらわなければ困る」

 

 

数時間ぶりにアエーシェマが地下牢に入ってきた。

フローラは彼を睨む。

 

正気を保ち、悪意を向けることが彼女に出来る唯一の抵抗だった。

 

「ほう。そんな目をするようになったか。教育が足りなかったか?私は教育者として失格だな」

 

「あ…あなたは……き、教育者などでは……なく、狂った人殺し……です」

 

やっとのことで声を出すフローラ。

 

彼女はもうアエーシェマを恐れてはいなかった。

センチュリオンで過ごした日々が確実に彼女を強くしている。

 

アエーシェマはそれでも笑い続けた。

 

「面白い。ここに連れてこられてから数年間、ヒンヒン泣き喚いていたお前をここまで成長させるとは……」

 

彼はフローラに近づき、彼女の髪わグイと掴んだ。

 

「ううっ」

 

「綺麗な髪も顔も台無しだ」

 

「だ…誰の所為……ですか」

 

「ここまで拷問されてもまだ口が利けるのか。良いことを教えてやろう」

 

アエーシェマはフローラを地面に叩きつけながら耳元で囁いた。

 

「磔の呪文を行使されても正気を保とうとするには、何か心の支えが必要だ。心の支えとは、つまるところ、家族や恋人の存在だったりする。お前の場合は、恐らく、エスペランサ・ルックウッドの存在だろう」

 

フローラはエスペランサの名前に僅かに反応した。

 

そして、アエーシェマはそれを見逃さなかった。

 

「図星か。なるほど」

 

「あの人は…関係、ありま…せん」

 

「嘘を吐くな。私にはバレバレだ。だが、私は今年、ルックウッドを殺そうと思っている。お前が恋焦がれる少年をどう殺そうか考えるだけで1日が過ぎていくのだ」

 

「なぜ……なぜ、あの人に…執着するの…ですか」

 

「さあ、何故だと思う?」

 

フローラは身体の痛みも忘れて考え込んだ。

 

彼女はアエーシェマという男を良く知っている。

アエーシェマはサジェストだ。

人を痛めつける事に快楽を覚える人間だ。

 

しかし、フローラを痛めつける時は何かしら理由があった。

性格を矯正する為。

"カロー流"を覚えさせる為。

思想を植え付ける為。

 

だとしたら今回も理由がある筈だった。

 

そう理由が。

 

エスペランサを殺す事に執着する事にも理由がある筈だ。

 

「絶望……を、味わわせる。そういう…事ですか」

 

「ほう?」

 

「あなたが…あの人を殺したい理由は……分かりません。が、私を利用して…あの人に絶望を味合わせる……。そして、その上で……殺す。それが…あなたが考える"最高の殺し方"。そういう事ですね」

 

アエーシェマはニヤリと笑った。

 

「面白い考えだ。私がルックウッドを殺す理由を理解出来る人間はこの世界に存在しないだろう。だから、その事についてお前に説明する気は無い。だが、どうせ殺すのなら、ルックウッドから全てを奪い、絶望させてから殺してみたい」

 

「やはり……あなたは狂っている」

 

「そうだ。私は狂っている。その事を否定する気は無い」

 

彼は杖をフローラの胸に向けた。

 

何の魔法を使っているのかは分からないが、途端に彼女は呼吸が出来なくなる。

まるで心臓を鷲掴みにされているような。

そんな感覚に陥った。

 

「ぐっ…く、苦し……」

 

「さて、どうやって奴に絶望を味合わせるか。お前がルックウッドを大切に思うように、ルックウッドもお前を大切にしている」

 

アエーシェマは魔法を止めた。

 

呼吸を取り戻したフローラは再び、冷たい石の床に倒れ込む。

 

「うっ……」

 

「ルックウッドの前で下賤な死喰い人の慰め者にでもしてやるか?それとも手足をもぎとってやるか?」

 

「き…詭弁です。あなたは……まだ私にカロー家の…跡取りとしての……価値を見出している。そんな……私を、簡単に使い捨てたりは……しない」

 

「ふっ。これだけ痛めつけても冷静な思考が保たれているとは」

 

「もう…私は……あなたを恐れたりしない。今回の仕打ちを受けても……あの人への気持ちは変わりません!私は絶対にあの人を絶望させたりしない!」

 

フローラの目にアエーシェマに対する憎悪が宿る。

 

セドリックだけでなくエスペランサまでも殺そうとする彼を絶対に許さない。

フローラはアエーシェマを睨みつけた。

 

 

「闇の帝王が復活した今、ルックウッドは私が手を下さなくとも死ぬ運命にある。この私と闇の帝王と、そして、死喰い人を同時に相手にして無事にルックウッドが生き残れると思っているのか?」

 

「…………」

 

フローラは押し黙った。

 

エスペランサはヴォルデモートにもアエーシェマにも、そして、死喰い人にも戦いを挑むだろう。

だが、それらの化け物を相手にしてエスペランサが果たして無事に生き残れるだろうか。

彼にはセンチュリオンという強力な組織がある。

だが、その隊員であるフローラは最も容易くアエーシェマの餌食になっていた。

 

このままでは、エスペランサも殺されてしまうかもしれない。

 

フローラはエスペランサが死喰い人を殲滅する未来を今まで疑った事が無かった。

しかし、心身共にボロボロになっていたフローラは始めて疑いを持ってしまう。

 

 

「ふむ。だが、条件次第でルックウッドを生かしてやっても良いぞ?」

 

「!?」

 

「奴を孤立させろ。奴が魔法界で力を振るえなくさせれば私はルックウッドを生かそう。闇の帝王に計らってやっても良い」

 

「そんな言葉を…私が……信じるとでも?」

 

「信じるか信じないかはお前の勝手だが、頭の片隅に留めておけ。ルックウッドが孤立し、力を失えば、我々の陣営はルックウッドの命を保障する」

 

 

アエーシェマの言葉をフローラは信じていなかった。

 

だが、彼の言葉はフローラの頭に深く刻み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 

セオドール・ノットは自宅で父親と対峙していた。

他の純血家と同じく、ノット家もまた豪邸である。

 

彼の母は10年近く前にこの世を去っており、ノット本家には父親と二人で暮らしている。

 

幼い頃から父親による"本来あるべき純血主義"を叩き込まれたセオドールは、エスペランサと出会ってからも、その純血主義を曲げる事は無かった。

 

マグルを差別し、純血でない魔法使いを侮蔑する現代の純血主義と違い、魔法界の繁栄と魔法族の安全を保障しようとする古典的純血主義に彼は誇りを持っていた。

 

そして、魔法族の繁栄と安全保障を確保するためには、魔法界を変える必要がある。

その為にセオドールはエスペランサと協力してセンチュリオンを結成した。

 

もっとも、最近では彼もエスペランサに影響され、世界を救うという大層な目的の為に己の頭脳を使っていたが。

 

 

夏季休暇が始まってからセオドールと彼の父親の仲は悪化した。

 

セドリックが殺害された現場に父親が居たという情報を聞いたセオドールは烈火の如く怒ったのである。

 

 

「何故、父上は再び死喰い人に復帰したんです!?」

 

「仕方の無いことだった」

 

「何が仕方の無いことなんですか!」

 

既に60を超える年齢となった父親は思った以上に小さく思える。

それは、セオドールに怒鳴られて縮こまっていたからかもしれない。

 

「ヴォルデ……例のあの人がノット家の掲げる純血主義とは相反する純血主義を掲げている事は分かりきったことだ!それに気付いたから父上は15年前に死喰い人から足を洗おうとしたと、長年言い続けて来たではないですか!なのに、父上はまた死喰い人になった!これは一体どういうことだ!」

 

「仕方の無い事だと言っているだろう……。我々の掲げる純血主義を理解する純血家系は既に存在しない。現状、英国魔法界は闇の帝王の思想に賛同する勢力と、ダンブルドアの思想に賛同する勢力の二択しか無い。ならば、闇の帝王に賛同するのが筋というものだろう?」

 

全てを諦めた顔をして父親が言う。

 

「ふざけるな!その二択で何故、闇陣営を選ぶ?例のあの人は確実に魔法界を破滅に追い込むんですよ!?」

 

「そうは言い切れんだろう。闇の帝王は力がある。魔法族の繁栄の為には闇の帝王に従うのが正しい選択だ」

 

「馬鹿な!だいたい、死喰い人を含めた闇陣営の勢力は全盛期の半分にも満たない筈。そんな勢力が魔法界を支配出来る筈が無い!」

 

「そうとも限らないのだよ」

 

「何!?」

 

「闇の帝王は既に巨人を味方につけた。吸魂鬼もだ。アズカバンに居る死喰い人や闇陣営の人間たちも、すぐに沙婆に出て来るだろう。それから地下に潜伏したり、外国に行っているかつての仲間達も揃い始めた。その数はダンブルドアの勢力を圧倒している」

 

「具体的な数は……」

 

「魔法省職員の数を軽く上回る程だ」

 

 

とすると、千人は軽く超える。

 

それに数千体の吸魂鬼と巨人。

彼らが集まり、総攻撃をかければ魔法省もダンブルドア陣営も1日で敗北する。

 

センチュリオンとて現状では太刀打ち出来ない。

 

「良いか。セオドール。もはや、闇の帝王の勢力は止められない。選択肢は一つなのだ。闇陣営につかなければ破滅するしか無い。分かるな?」

 

分かりたくはなかった。

 

しかし………。

 

エスペランサもセンチュリオンも強い。

だが、その火力も闇陣営を止めることは出来ない。

 

その事実が彼を苦しめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ちに待った新学期。

 

エスペランサはホグワーツ特急に揺られ、ホグワーツに着いた。

例年、セオドールやフローラとコンパートメントを共にする彼であったが、今年はそうしなかった。

というよりも、エスペランサは特急の中でセオドールとフローラを見つけられなかったのである。

 

なので、フナサカやザビニ、コーマックといったセンチュリオンの隊員達とホグワーツに着くまでの旅を過ごした訳である。

 

寮も家柄もバラバラな面子がコンパートメントで楽しそうに過ごす光景を多くの生徒が奇怪な目で見ていたがエスペランサは構わなかった。

 

特急はホグズミード村に到着し、そこからは馬車でホグワーツ城に向かうことになっている。

馬車を引くのはセストラルという"人が死ぬところを見た人間"にしか見えない魔法生物だ。

 

一説にはホグワーツ特急も移動キーもまだ出来ていなかった頃、魔法使いや魔女はセストラルでホグワーツに登校していたらしい。

今、ホグワーツに残っているセストラル達はその末裔なのだそうだ。

 

馬車の一つにハリー達の姿を見つけたエスペランサは、その馬車に向かった。

 

 

 

「この馬みたいなドラゴンみたいな生き物……何だと思う?去年までは見えなかったよね?」

 

「何を言ってるの?ハリー。何も見えないじゃない。いつも通り、馬車が一人でに動いているだけよ?」

 

ハリーがセストラルを見て困惑していた。

 

ハリーはセドリックの死を見たので、セストラルを視認出来るようになったのだ。

 

 

「何言ってるんだい?この馬みたいな奴だよ?君達見えないの?」

 

「何も見えないぜ?ハリー、大丈夫か?」

 

馬車を引く馬とドラゴンを足して二で割ったようなセストラルを指差して癇癪を起こしているハリーをロンが可哀想な子を見るような目で見ていた。

 

「大丈夫。あたしにも見えるもン」

 

既に馬車に乗り込んでいた女子生徒がグィブラーという三流雑誌を何故か逆さに読みつつ、ハリーをフォローする。

 

「え?君も見えるの?」

 

「うん。最初に来た時から見えてるよ。大丈夫。あんた、あたしと同じくらい正気だよ」

 

「え、あー。うん。ありがとう?」

 

「ついでに言えば俺にも見える」

 

エスペランサは困惑しているハリーに話しかけた。

 

「久しぶりだね。エスペランサ」

 

ハリーはエスペランサに気付いて、驚いたように挨拶した。

 

馬車の中からロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニーが顔を出す。

 

「おう。皆も久しぶりだな。ハリーは吸魂鬼に襲われた日以来だ。本当はあの婆さんの代わりに法廷で吸魂鬼の証言をしようとしたんだが、ダンブルドアに止められてな」

 

「そうだったんだ。僕、法廷にエスペランサが来ると思って期待してたんだけど」

 

ハリーが吸魂鬼を撃退する際に未成年魔法使用の件で起訴されたのはエスペランサも知っていた。

彼は吸魂鬼が出現したことを証明するために証人喚問に応じようとしたが、ダンブルドアに手紙で止められたのだ。

 

センチュリオンの隊員伝いにハリーが無罪になったことを知り、エスペランサは安心していた。

 

「ええと、そちらは誰だ?」

 

馬車に乗り込んだエスペランサはネビルの隣に座る奇妙なブロンドの髪をした女子生徒を見て言う。

 

雑誌を逆さに読んでいる事もそうだが、杖を耳に挟んだり、バタービールのコルクをネックレスにしていたりと謎の多い魔女だ。

 

顔立ちは整っているが、変人のオーラが隠しきれていない。

 

「あんた変わってるね」

 

少女は雑誌から顔を上げてエスペランサに突然話しかけてきた。

浮世離れした声だ。

 

「そりゃどうも。ええと……」

 

「ルーナ・ラブグッド」

 

「ルーナか。俺はエスペランサ・ルックウッド。よろしく」

 

「あんたの事知ってる。レイブンクローでも有名だよ」

 

「らしいな」

 

「その腰につけてる物はナーグル避け?」

 

「は?ナーグル?何だそれ。いや、腰につけてるって……」

 

エスペランサは腰に拳銃のホルスターと弾納を付けている。

だが、それはローブで見えていない筈だ。

 

何故、ルーナはそれを見破れたのだろう。

 

「何で俺が腰に武器をつけてる事に気付いたんだ?」

 

「へえ。それ武器なんだ。馬車に乗る時にその武器をつけてる方の腰が反対の腰よりも上手く曲げられないみたいだったから」

 

「良い観察眼だ。お前、レイブンクローの生徒だろ」

 

「ルーナ」

 

「は?」

 

「"お前"じゃなくてルーナ」

 

ルーナが少しブスッとして言う。

 

「ああ。すまん。ルーナはレイブンクローの生徒だろう」

 

「良くわかったね」

 

「地頭が良さそうだからな」

 

会話を成立させているエスペランサとルーナを見てハーマイオニーが目を丸くしている。

 

無理も無い。

 

ハーマイオニーとルーナは決定的に馬が合わないだろう事は誰しも理解出来た。

 

 

「おいおい。やっぱエスペランサも変人だぜ?今に始まった事じゃ無いけど、エスペランサはどうして変人奇人の知り合いばかり増やしていくんだ?」

 

「失礼なやつだな。ロン。変人奇人って誰の事だよ」

 

「ノットにカローにグリーングラス、一個上のコーマックにフナサカって奴も変人だろ」

 

ロンの言葉にネビルが顔を顰めた。

今上がった名前は全員、センチュリオンの隊員だ。

 

「その人達、良い人達だよ。あたしの悪口言わないもン」

 

「そうなのか?」

 

「うん。それに、あたし、フローラ・カロー好きだよ。だって綺麗だもン」

 

ルーナはそれを言ったきり、またクィブラーを読み耽った。

 

「夏季休暇はどうだった?」

 

ネビルがエスペランサに聞く。

 

「知ってるだろ?吸魂鬼と戦ってた。それから、こいつを買った」

 

エスペランサは鞄から数冊の本を取り出す。

一番上の本には"基礎から解る!コンピュータ入門"と書かれている。

 

「こんぴゅーた?」

 

「これからの時代はコンピュータにネットワークが主流になると思ってな。データ通信は88年から使われているが、民間にもネットワーク通信が普及し始めてたんだ。俺も勉強しないといけないと思って」

 

「僕のパパがコンピュータを大量に買ってきたよ。でも、何をする道具なのかは見当もつかないみたい。僕もだけど」

 

ロンが言う。

彼の父親であるアーサーは無類のマグル好きだが、マグルの道具には疎かった。

 

「インターネットっていうのが普及し始めててな。もうフクロウ便なんて時代遅れさ」

 

エスペランサはロンのフクロウであるピッグヴィジョンをちらりと見た。

マグルの通信技術は日進月歩。

フクロウ便よりも遥かに伝達速度が速くなってきている。

 

センチュリオンの今年の課題は必要の部屋にネットワーク環境を整える事だとエスペランサは考えていた。

 

「ところで、5年生は監督生が指名されるんだろ?誰になったか知ってるか?」

 

エスペランサはネビルに聞いた。

 

「ロンとハーマイオニーだよ。ね?」

 

「ええ。そうよ」

 

ハーマイオニーは胸を張って答えた。

ロンは少し居心地悪そうに視線を逸らす。

 

 

 

「やはりロンだったか」

 

「やはりって?ロンが監督生になると思ってたの?」

 

ジニーが意外そうな顔をした。

ジニー自体、自分の兄が監督生になるとは思っていなかったのだ。

 

「予想はしてた。俺みたいに学校を破壊してる奴は監督生にはなれないし、ネビルはだいぶ成長はしたが少し優し過ぎる」

 

「でも、僕はハリーが監督生になると思ってた」

 

ロンが自信無さげに言う。

 

「ハリーか。このご時世にハリーを監督生にする馬鹿はいない。新聞でも悪口を言われ、法廷に出頭し、同級生からも嘘吐き呼ばわりされる今のハリーが監督生なんてやってみろ。胃に穴が空くぜ」

 

「それもそうだね。じゃあ、このご時世じゃなかったら監督生はハリーがやっていたかもしれない」

 

ロンは顔を曇らせた。

 

ロンがハリーや他の兄弟に劣等感を持っているのはエスペランサも知っている。

 

「そうとも限らんぜ?グリフィンドール以外は誰が監督生になったんだ?」

 

エスペランサの予想が正しければ、スリザリンはセオドールやダフネが監督生を務めるのだろう。

他の寮ならアンソニーやハンナなどが監督生になりそうだ。

彼らは吸魂鬼掃討作戦で作戦指揮能力を遺憾無く発揮していたのだから。

 

「スリザリンはマルフォイとパーキンソンよ」

 

「え?冗談だろ」

 

「冗談じゃないわ。残念だけど。パーキンソンなんて、トロールよりも馬鹿なのにどうして監督生になれるのかしら?」

 

エスペランサは愕然とした。

 

センチュリオンの副隊長であるセオドール以上に有能なスリザリン生は居ないだろう。

強いて言えば、セオドール程では無いがスリザリンにはザビニというブレインが居る。

 

マルフォイも学業自体は悪くない。

それはエスペランサも認めているところだ。

だが、監督生は学業以上に人格が良くなければ務まらないだろう。

 

それに、彼の父親はセドリックが殺された場に居た死喰い人だ。

 

その息子に権力を与える事は愚策であろう。

 

パンジー・パーキンソンは論外だ。

 

「レイブンクローとハッフルパフは?」

 

「アーニーにハンナ、アンソニーとパドマ・パチルだよ」

 

ネビルが嬉しそうに教えてくれた。

4人中3人がセンチュリオンの隊員だ。

 

「その面子なら大丈夫そうだな。安心した。それにしてもマルフォイねぇ。誰が人事を担当したんだか」

 

「スネイプだろ。スネイプはマルフォイを贔屓してる」

 

ロンが投げやりに言うが、ジニーがそれを否定した。

 

「監督生の人事決定は学校長よ。パーシーが自慢げに言ってたわ」

 

「ダンブルドアは何を考えているんだ」

 

エスペランサはどうも引っかかった。

スリザリン以外の寮の監督生は差はあれど有能な面子が揃っている。

アンソニーもハンナもアーニーもここ2年間でかなり成長し、各戦闘でその技量を遺憾無く発揮していた。

 

だが、スリザリンだけはいくらなんでもお粗末過ぎる。

 

エスペランサは考えるのを止めた。

いくら考えてもダンブルドアの思考を理解出来るとは思えなかった為だ。

 

 

馬車の群れは森を抜けて、やがてホグワーツ城の正門に辿り着く。

 

エスペランサは「ああ。帰ってきたんだな」と柄にも無く口にした。

 

そして、帰るべき場所があるというのは良いものだ、と思った。

 

 

 

 

 




ルーナの口調は日本語訳の口調にしました。
賛否ありますが、もンが好きなので

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