申し訳ありません!
少し多忙でして……
感想、誤字訂正ありがとうございます!
落ち着いて来たので投稿を再開します!
本当に申し訳ないです!
北海に浮かぶ孤島。
それがアズカバンである。
無論、マグルの地図にも魔法界の地図にも載っていない。
衛星写真にも映し出されないその孤島は荒れ狂う波と嵐に晒されていた。
要塞のようなその孤島の周りには数千を数える吸魂鬼が飛び回り、囚人から生きる気力を奪っている。
そんなアズカバンの入り口の管理を任されていたのはホグワーツを卒業してから間もない若手の魔法使いの警備員だった。
魔法省職員、すなわち公務員は成績優秀者でしかなることが出来ない。
しかし、アズカバンの警備をする役職となれば話は別だ。
大した成績を取らずともアズカバンの警備員になる事は出来るし、肩書きは魔法省職員となる。
給料も悪く無い。
それに、アズカバンはその特性から脱獄者もいない為、非常に暇な勤務となる。
若い警備員は衛門の詰所で漫画雑誌を読みながら暇を潰していた。
次の当直交代までは4時間もある。
ちなみに、警備員は吸魂鬼の影響を受けないようにする為に必死で覚えた守護霊の呪文で守護霊を出して勤務をする。
「面会の申し込みをしたいのだが」
不意に話しかけられた警備員は雑誌から目を離して顔を上げる。
見れば受付に二人の男が立っていた。
二人ともフードを被っていて顔が見えない。
「面会ですか?アズカバンの面会は事前に魔法省での手続きが必要です。本日は面会の予定は無かった筈ですが?」
「ああ。手続きなどしていない。だが、旧友に会いたくなってな」
「旧友?誰でしょうか?」
怪訝な顔をしながら警備員は杖を片手に立ち上がる。
「レストレンジにドロホフ、それにルックウッド達だ」
「はあ!?」
揃いも揃って極悪人ばかりである。
警備員は益々不審に思い、魔法省とのホットラインを繋ごうとした。
「何をする気だ?」
「すみませんが、魔法省に通報させてもらいます。例のブラック事件以来、不審な者が訪問してきた際は通報するようになっているので」
「我々が不審者であると思うのか?」
「ええ。手続き無しの訪問に加えて、面会相手が死喰い人となれば疑わざるを得ないので」
「そうか。残念だな。無駄な殺しは避けたいところだったのだが」
「へ?」
「アバダ・ケダブラ」
緑色の光がフードの男の持つ杖から噴射され、警備員は呆気なく死んだ。
「問答無用で殺害か。俺様が言えた事ではないが、お前も大概、恐ろしい奴だ」
後ろにいた男がフードを取り払う。
まるで蛇の様な顔が露わとなった。
言わずと知れたヴォルデモートである。
「我が君。目的の為には手段を選ばないのが私のモットーです。それは、貴方もダンブルドアも変わらないでしょう?それに、これは戦争です。殺しを躊躇すれば敗北あるのみ。一人や二人殺す事を躊躇ってはなりません」
警備員を殺した方の男はアエーシェマ・カロー。
ヴォルデモートとアエーシェマという英国魔法界最悪の二人組がアズカバンを訪問しに来たのである。
「戦争、か。孤軍奮闘の老ぼれダンブルドアに、腐敗した魔法省相手では戦争にすらならんだろう」
「戦争を甘く見てはなりません。油断や驕りで戦争に負けた国や組織は数え切れないほど存在するのですから」
アエーシェマは警備員の亡骸を悪霊の炎で消し炭にしながら話し続けた。
「確かにそうかもしれん。俺様は油断した故に赤子に敗北したのだからな」
「その通りです。油断大敵。持てる駒は全て使い、総力戦を仕掛けて完全な勝利を手に入れましょう」
「総力戦?」
聞き覚えの無い単語にヴォルデモートが赤く細い目をさらに細くさせた。
「総力戦というのは国家の総力を結集した戦争の事です。この場合は我が君の陣営の総力を結集すると言えば分かりやすいでしょう。戦闘員である死喰い人だけが戦うのではなく、経済、文化、思想、宣伝などあらゆる部門を戦争目的のために再編し,統制して我が陣営の総力を戦争目的に集中するのです。そして、全体が戦闘員化するにいたる。これが総力戦です」
「その総力戦とやらはお前が考えた概念なのか?」
「まさか。マグルの考えです。クラウゼヴィッツというマグルはマグル界における戦争が総力戦に変わり行く中で、"戦争とは他の手段をもってする政治の継続"と定義したようですな」
「ほう。純血主義の権化とも言えるお前がマグルの思想を参考にするとは。マグルの様な野蛮な存在の考える戦い方など参考にもならんのではないか?」
「我が君。マグルは愚かにも、我々魔法使いよりも遥かに多く、そして、長く戦争をして来たのです。その血塗られた愚かな歴史がマグルの科学技術を発達させ、さらに、戦争の形態を進化させてきたのです」
アエーシェマは語る。
殺しに快楽を覚えるヴォルデモートと違い、アエーシェマは戦闘に快楽を覚える人間だ。
それをヴォルデモートもよく理解している故に、アエーシェマの言葉に傾聴した。
「戦争の仕方に関してはマグルの方が遥かに秀でている。我々魔法族の戦争とは、個人間戦闘、つまり決闘です。その形態が古来から変わりません。ですが、マグルは集団での総力戦を主体とし、その戦い方と武器を極めてきた。人を殺すという点においてマグル以上に恐ろしい存在はありません。我が君も数年前にそれを味わった筈です」
ヴォルデモートの脳裏に、エスペランサとの戦闘が過る。
無数の近代兵器を前にしてヴォルデモート、というよりクィレルは死亡した。
「忌々しい記憶だ。マグルの武器は確かに強力だが、俺様の魔法の前には無力とも言える。あの時は力も弱く、クィレルに寄生していた故に敗北したのだ。今ならそうはいかない」
「そうでしょうとも。しかし、それは我が君に限っての話。あのクラウチJr.でさえマグルの武器にやられたのです。死の呪文を乱射する事しか脳の無い他の死喰い人達は対応が出来ない」
「アエーシェマよ。お前ともあろう者がマグルの武器を恐れるのか」
「ええ。恐れます。戦争におけるマグルはスリザリンより狡猾かつ残虐な存在なのです。そして、彼らの生み出す武器は魔法以上に破壊をもたらす。そんな武器を魔法使いが使うように仕向けている人物。奴の存在が私にとって脅威であり、また、好奇心の対象でもあるのです」
「エスペランサ・ルックウッドか……。あの小僧一人で我が陣営に対抗出来るとは到底思えん。所詮は学生だ」
「エスペランサ・ルックウッドは単体での脅威度は然程高くない。ですが、奴はマグルの恐ろしさと魔法の恐ろしさの両方を知っている。さらに奴はグリフィンドール生でありながら他のダンブルドア派と違い、手段を選ばない。殺害を躊躇わないそして、マグルの戦い方を魔法界にもたらそうとしている」
「それだけ聞けば、エスペランサ・ルックウッドは実にスリザリン的な存在とも言える。俺様としては奴が何故グリフィンドールに組み分けされたのか理解に苦しむ」
「我が君。私が思うに、マグルの思考は実にスリザリン的なのです。故にマグル界で軍人をしていたルックウッドは限りなくスリザリンに近い思考をしている。しかし、奴の思想はスリザリン的ではない。はっきり言って奴は脅威です。奴が生きている限り私の望みは叶わない」
「お前の望みとは何だ?お前が欲しいのは戦いだけでは無かったのか?」
「違います。私が欲しいのは"私の存在する未来"です」
アエーシェマの言葉をヴォルデモートは理解する事が出来なかったが、理解するつもりも毛頭無かった。
アエーシェマとヴォルデモートはアズカバンの監獄の奥へと歩みを進める。
囚われの死喰い人を世界に解放する為だ。
そして、その死喰い人の中にアエーシェマにとって重要な人物が居た。
オーガスタス・ルックウッド。
神秘部を熟知すると共に、エスペランサ・ルックウッドを知る男。
彼の記憶の中にアエーシェマの求める全てが残されていた。
"アズカバンからの集団脱獄!ブラックが先導か!?"
日刊預言者新聞の見出しにホグワーツの生徒は震え上がった。
朝食を食べていたエスペランサの横でハリー達が大騒ぎしている。
"昨夜遅く魔法省が発表したところによれば、アズカバンから集団脱獄があった。魔法大臣コーネリウス・ファッジは、大臣室で記者団に対し、特別監視下にある十人の囚人が脱獄したことを確認し、すでにマグルの首相に対し、これらの人間が危険人物であることを通告したと語った。「まことに残念ながら、我々は、二年半前、殺人犯のシリウス・ブラックが脱獄したときと同じ状況に置かれている」ファッジは昨夜このように語った。「しかも、この二つの脱獄が無関係だとは考えていない。このように大規模な脱獄は、外からの手引きがあったことを示唆しており、歴史上初めてアズカバンを脱獄したブラックこそ、他の囚人がその跡に続く手助けをするにはもってこいの立場にあることを、我々は思い出さなければならない。我々は、ブラックの従姉であるベラトリックス・レストレンジを含むこれらの脱獄囚が、ブラックを指導者として集結したのではないかと考えている。しかし、我々は、罪人を一網打尽にすべく全力を尽くしているので、魔法界の諸君が警戒と用心をおさおさ怠らぬよう切にお願いする。どのようなことがあっても、決してこれらの罪人たちには近づかぬよう」"
記事の内容を読んだハーマイオニーはヒステリックになっていた。
「こんなの前代未聞だわ!アズカバンは既に魔法省が管理出来ていないと言ってるようなものよ!それに、外から手を引いたのは絶対に例のあの人だわ!」
「そうだろうな。脱獄したのは誰だ?」
「ベラトリックス・レストレンジにアントニオン・ドロホフ、それにオーガスタス・ルックウッドよ」
エスペランサはハーマイオニーの持つ日刊預言者新聞の表紙に目を向けた。
ボサボサに乱れた髪に狂人の目をしたベラトリックス。
面長で青白い顔をしたガタイの良い男がドロホフ。
そして、痘痕面で退屈そうにしている男がオーガスタス・ルックウッド。
「ルックウッド……」
エスペランサは自分と同じ名を持つ元死喰い人を眺めた。
「例のあの人に魔法省の秘密を漏らして捕まった死喰い人ね。エスペランサと同じ名前だわ」
「ああ。だが、ルックウッドなんて名前はそんなに珍しいものでもない。それに俺は中東の米軍施設で育ったんだ。こいつとの関係は無い」
そう言いながらもエスペランサは新聞に映るオーガスタスの姿に目を取られていた。
「でも、やばいぜ?ドロホフやベラトリックスって凄い極悪人だ。パパが言ってた。魔法界で育った子供は皆知ってるくらいの悪い連中だよ。そいつらが脱獄したってことは例のあの人の陣営は強化されちゃうだろ」
ロンが言う。
「そうね。見て、職員席を。ダンブルドアもマグゴナガルも、それにスネイプも深刻そうな顔して話してるわ」
「本当だ。アンブリッジだけが呑気に朝食とってるな」
エスペランサはもう一度、新聞に目を落とした。
脱語した死喰い人は10人。
人数にしてみれば分隊規模。
しかし、この死喰い人達は他の死喰い人よりも優秀で、そして、カリスマ性もある。
彼らが脱獄したと知った元死喰い人達がヴォルデモートの元に戻るであろうことは容易に想像出来た。
エスペランサは朝食を中断し、ハリー達を残してセオドールを探した。
セオドールもエスペランサのことを探していたようで、二人は大広間の入り口で出会した。
「エスペランサ。新聞は読んだか?」
「勿論だ。10人の死喰い人が脱獄したんだろ?」
「そうだ。これは最悪の事態だ。いや、こうなるのも時間の問題だと思っていたが、予想以上に早かった」
「最悪の事態と言ってもまだ10人脱獄しただけだろう。ヴォルデモートの勢力が強化された事には変わりないが……」
エスペランサはそう言うが、セオドールは深刻そうな顔を崩さない。
「たかが10人、されど10人だ。隊長。至急、総員を集めて話したい事がある。今日の午後は訓練を取り止めて欲しい」
「ああ。許可する。だが、何を話すんだ?」
「今後のセンチュリオンの活動についてだ」
必要の部屋に集まった18名の隊員。
ほとんどの隊員が魔法界育ちである。
それ故に、ベラトリックスをはじめとした死喰い人がどれ程に恐ろしい存在であるかを知っている。
そして、センチュリオンはその恐ろしい存在と戦う組織である事を思い出していた。
特にレストレンジに親を廃人化されたネビルは殺意に満ちたオーラを纏っていた。
ブリーフィングルームに集まった隊員達の前にセオドールが出てくる。
隊員達は固唾を飲んで彼の言葉を待った。
恐らく、脱獄した死喰い人との戦闘を開始する旨が達せられるのだろうと誰もが思っていた。
「全員集まったようだな。隊長。これから僕は副隊長兼、当隊の参謀として、現情勢下における我々の活動について提案するつもりだ。よろしいな?」
「構わない。副隊長の意見を皆と、そして俺に伝えてくれ」
「承知した。では、まずこれを見て欲しい」
セオドールはブリーフィングルームの前方に置かれたホワイトボードに貼り付けられた日刊預言者新聞を指差した。
10人の死喰い人達が脱獄した旨が書かれた新聞だ。
「ここにいる皆は、この記事をもう知っている事だろう。昨夜、ベラトリックス・レストレンジをはじめとした死喰い人10名が脱獄した。アズカバンにいた魔法省職員は死亡。吸魂鬼は機能しなかった」
セオドールは言葉を続ける。
「脱獄した死喰い人は全員、クラウチJr.と同等、またはそれ以上の戦力だ。特にドロホフとレストレンジに関しては1人で1個中隊と同程度の戦力と言って良い。また、吸魂鬼が機能していないということから、魔法省は既に吸魂鬼を管理出来ていないとも思われる」
「そうなのか?魔法省はまだ何も言っていないけど」
隊員の一人が発言する。
「今の隠蔽体質が蔓延した魔法省が事実を発表する事はまず無いだろう。これは憶測だが、吸魂鬼は既にヴォルデモート陣営に下った可能性が高い」
「10人の死喰い人に吸魂鬼か。ヴォルデモート勢力の戦力は以前よりも増強されたって訳だな」
隊員達が顔を見合わせる。
「そうだ。そんな中で魔法省はまだヴォルデモートの復活を認めようとしない。つまり、魔法省は闇払いを含めて戦力にならん。今、ヴォルデモートが戦争を仕掛けてきたら、対抗出来るのはダンブルドアとホグワーツの職員、若干名しかいない不死鳥の騎士団、そして、我々だけだ」
「なるほど!遂に僕達の出番って訳だ!腕が鳴るな!」
「いよいよ実戦って訳だ!」
血の気の多いコーマックと自信家のアーニーが興奮して立ち上がる。
だが、セオドールは彼らに冷たく言い放った。
「お前達は今のセンチュリオンでヴォルデモート勢力を倒せると本気で考えているのか?」
「何!?」
「現状でヴォルデモート勢力と対抗可能な勢力は不死鳥の騎士団と我々センチュリオンのみだ。これを見ろ」
セオドールはホワイトボードに英国魔法界の地図を貼り付けた。
その地図には敵味方の勢力がビッシリと数値化されて書き込まれている。
「昨日の脱獄犯を含めた勢力図だ。多少の誤差はあるが、地下に潜っている人狼や人攫いも併せて数値化してある。これを加味してシミュレーションを行った結果、ヴォルデモート勢力との戦闘を行った場合の勝率は限りなくゼロに近い」
「所詮はシミュレーションでしょ?それに限りなくゼロに近いだけで、ゼロでは無い」
前列に座っていたハンナが反論する。
「勝率が限りなくゼロに近い戦闘を行う軍隊ほど愚かな軍隊は存在しない。そもそも、人数からして勝ち目が無いんだ。それに、シミュレーションは大切だ。太平洋戦争前に日本という国の総力戦研究所が米国と戦争をした結果をシミュレーションしたが、その結果は現実とほぼ同じ結果となっている」
戦争をシミュレートする事に関してあまり知識が無い隊員達はピンと来ないようだった。
OR(オペレーションズリサーチ)を理解しているエスペランサや、マグル出身のフナサカ、それにインテリジェンスを独学で学んでいるザビニはセオドールの言っている事を理解した。
「兎に角、現情勢下で戦闘を行えばヴォルデモート勢力が勝利する可能性が高い事は分かった。だが、我々は近代兵器という利点があるじゃないか。それに、ダンブルドアだっている」
フナサカがブリーフィングルームの横に積み上げられた武器を指差して言う。
「そうだ!僕達には機関銃や迫撃砲、ナパームもある。吸魂鬼を倒すことの出来る弾丸だってある」
「ヴォルデモートは脅威だけど、ダンブルドアならヴォルデモートに勝てるんじゃないの?それなら、私達は死喰い人や人狼だけを相手に戦えば良い。勝ち目が無い訳じゃないわ」
他の隊員達も口々に反論し始めた。
「クラウチJr.一人に我々は総員で戦ってやっと勝てたんだぞ?死喰い人が束になって襲いかかって来た時、本当に勝てると思うか?確かに、センチュリオンには強力な兵器がある。だが、我々はたったの18人しか居ない。死喰い人に損害を出す事は可能だが、無傷で勝つなんて不可能だ。戦闘を重ねれば重ねる程、戦死者は出る。そうなれば、戦力は段々と減り、最終的には全滅するんだ!」
セオドールが声を荒げた。
隊員達はそれを聞いて黙ってしまう。
自分達に戦死者が出る可能性を今の今まで失念していたからだ。
「副隊長。勝ち目が無いのは分かった。だが、だからと言ってヴォルデモート勢力にやられるのを待つっていう訳にもいかんだろう」
それまで言葉を発していなかったエスペランサが口を開いた。
「あくまでも現段階で勝ち目が無いというだけだ。ヴォルデモートが本格的に戦闘を行うまでには戦力を整える事は可能だし、戦略次第では勝率は上がってくる。違うか?」
「隊長。ヴォルデモートは死喰い人を脱獄させるという行動を起こしたんだ。表舞台に出てきて戦闘を始めるのは時間の問題だ。聞くところによれば死喰い人は巨人にも接触したんだろう?戦力を整える時間はもう無いんだ」
セオドールは譲らなかった。
副隊長の言葉に隊員達も少なからず動揺している。
「だが、ヴォルデモートの好きなようにさせていては魔法界だけでなくマグル界でも犠牲者が多く出る。勝ち目が無いから戦わないという訳にはいかない。我々の行動理念は全世界の平和だ。ヴォルデモートが戦闘を始めたら我々が立ち向かわなくてはいけない」
「戦ったところで我々が全滅する未来しか無くても、か?」
「俺達が日々訓練しているのは罪なき人々の命を守る為だ。ヴォルデモートに魔法使いやマグルが殺されるのを指を咥えて傍観する訳にはいかないだろう」
セオドールとエスペランサが対立する構造はセンチュリオン設立以来、はじめての事だった。
対立する隊長と副隊長を隊員達は不安げに見つめる。
「傍観しろとは言っていない。勝ち目が無いなら勝ち目が見出せる機会を待てば良いんだ。今の段階でヴォルデモートと全面戦争をすれば我々は全滅する。が、勝機は必ず来る。まあ、話を最後まで聞いてくれ」
「ああ。わかった」
セオドールは再び、隊員達の方へ向き直った。
「ヴォルデモート勢力がダンブルドア達と戦闘を行った場合、多大なる犠牲を出した後に勝利するだろう。そうなったら、ヴォルデモートは次に何をすると思う?」
「そりゃあ……マグル界を攻撃するんじゃないのか?」
端に座っていたアンソニーが自信なさげに言う。
周りの隊員もそれに同調した。
「そうだ。ヴォルデモートはマグル界を侵略し始めるだろう。だが、そうなればマグルだって黙ってはいない。必ず反撃する。いくらヴォルデモートが強くても、60億のマグルを敵に回せば勝ち目は無い。それに、他国の魔法界だって加勢してくる。それに対してヴォルデモート勢力はダンブルドアとの戦闘で疲弊した状態だ。ここに勝機が訪れる!」
セオドールは力強く言った。
「確かにそうだ!ヴォルデモートが英国マグル界に攻撃し始めれば、英国軍が動く!」
「英国軍が動くなら、マグルの国連だって加勢するぞ!米軍に仏軍もだ!そうしたらヴォルデモートなんて一捻りじゃないか」
フナサカが興奮したように指を鳴らす。
しかし、エスペランサはセオドールの意見を肯定出来なかった。
エスペランサはヴォルデモートが一度でも魔法界を支配すれば、英国軍が英国魔法界そのものを滅ぼそうとしている事を知っている。
セオドールの作戦は一度はヴォルデモートが英国魔法界で天下を取ることを想定している。
つまり、英国軍は魔法界を助けるどころか、魔法使いや魔女を一人残らず殺しにかかる筈だ。
だが、それをセオドールはおろか隊員達は知らない。
「セオドール。それに隊員諸君。皆に黙っていた事がある」
「何だ?」
「俺は数ヶ月前に英国軍のとある軍人と接触した。その際にその軍人は俺に幾つかの情報を教えてくれた」
エスペランサの言葉に隊員達がざわめいた。
「英国軍の上層部は魔法界の存在をすでに認知している。無論、ヴォルデモートが復活した事にも気付いている」
「それは、そうだろうな。米国やロシアも魔法界とマグル界は裏で繋がっている訳だし」
「英国軍は、既に戦う準備を進めている。だが、それはヴォルデモートと戦うだけじゃ無い。英国軍は、かつてヴォルデモートが英国を支配しかけた際の教訓から、ヴォルデモートのような闇の魔法使いが魔法界を支配した場合、英国魔法界そのものを滅ぼす準備をしているんだ」
エスペランサは躊躇せずに事実を伝えた。
そしてこの事実は隊員達を更に動揺させた。
「何だって!」
「それは本当なのか?隊長!?」
「何でそんな事を黙っていたんだ!隊長は」
口々に隊員が叫ぶ。
「黙っていたのは悪かった。しかし、事実なんだ。だから、セオドールのプランは成立しない」
エスペランサの告白にセオドールは愕然とする。
「闇の魔法使いが英国魔法界を征服した時点で、英国軍は魔法界に全面戦争を仕掛けてくるのか……」
「そうだ。そういうことだ」
「絶望的だ。どう足掻いても絶望だ。これではどうしようもない。ヴォルデモートに滅ぼされるか、マグルに滅ぼされるか、究極の二択になってしまった」
隊員達も顔を暗くする。
ヴォルデモート勢力は兎も角、マグルの軍隊の恐ろしさをセンチュリオンの隊員達は嫌というほど理解出来ていたからだ。
「いや、副隊長。希望はある。確かに現段階で勝ち目は薄いが、近代兵器を活用した戦術を駆使したり、ゲリラ的な戦いを仕掛けて各個撃破すれば勝ち目はあるだろう。それに、マグルの軍隊とヴォルデモート勢力が全面戦争をすれば、必ず、魔法界にもマグル界にも大勢の犠牲者が出る。我々は魔法界、マグル界、両方の世界を救う為に戦う事を理念としているんだ。ヴォルデモート勢力は必ず倒さなければならん」
エスペランサは力説した。
しかし……。
「隊長。我々がマグル界まで救う必要ってあるのか?」
「何?」
「だってそうだろ?マグルは魔法界を滅ぼす準備をしてやがるんだ。そんなマグル界を助ける義理が我々にあるのか?」
アーニーが立ち上がって言う。
他の隊員達もそうだそうだと口々に言った。
「計画をしているのは英国軍の上層部だけだ。彼らは前回の戦いでヴォルデモートに痛手を被ったから計画を立てたに過ぎない。我々がヴォルデモート勢力を倒せば魔法界をマグルが攻撃する事はない」
「分かるもんか!ヴォルデモートが居なくたって、マグルは魔法界を蹂躙しようとしてるんじゃないのか?」
今度はアンドリューが叫ぶ。
エスペランサは英国軍がどのような計画を立てているかを全て知っているわけではない為に否定が出来ない。
「隊長はマグル出身だからマグルを助けたいと考えてるんじゃないの?それに私達を巻き込んだんじゃないの?」
「そうだそうだ!正直な話、僕達がマグルを助ける必要なんて無いんだ!実際、こんな恐ろしい近代兵器を作るマグル達を助けたところで、いつかはマグルが魔法界を滅ぼそうとするかもしれないんだ!」
「隊長は魔法界よりマグル界を優先して考えているんじゃないのか!?」
スーザンやアンソニーもエスペランサを非難し始める。
「おい!皆、落ち着くんだ!隊長は魔法界もマグル界も等しく助けようとしているんだ!お前たちだって知ってるだろ?」
親エスペランサ派のフナサカが反論した。
「フナサカだってマグル出身じゃないか!お前もマグル界の事を優先して考えてるんじゃないのか?」
「何だと!?僕はそんな選民思想持ってやしない」
普段は大人しいフナサカも憤慨して立ち上がる。
「おいおい。お前らどうかしてるぞ!副隊長もだ!僕達がヴォルデモート勢力に負けるかもしれないと思って怖気付いたのか?」
コーマックがエスペランサの横に出てくる。
しかし、彼の言葉は他の非交戦派の怒りを買っただけであった。
「何だと!?」
「勝ち目の無い戦をする馬鹿が何処にいるって言うんだ?」
「無駄死にする為に戦えってか?」
隊員達の意見は真っ二つに割れ、もはや収集がつかなくなっている。
「俺はお前達を無駄死にさせるつもりは無い!」
エスペランサが叫ぶ。
しかし、彼は彼で自分の部隊が分裂するという初めての状況に動揺していた。
元々、エスペランサは軍隊生活で隊長を経験した事はない。
故にこのような事態に対応出来るほど指揮官として能力がある訳でもなかった。
「確かに状況はよろしくない。だが、我々は何の為に訓練して来たんだ?この時のために訓練をしてきたんだろう?」
「………」
「俺達は吸魂鬼を倒し、クラウチJr.も倒した。不可能を可能にして来たんだ。違うか?」
エスペランサは尚も言葉を続ける。
「我々に不可能は無い。それに、副隊長。戦力は我々だけじゃない。ダンブルドアも騎士団も居るんだ。まだ負けると決まった訳ではない」
エスペランサはセオドールに語りかける。
しかし、セオドールの表情は変わらなかった。
隊長であるエスペランサもダンブルドアの力に少なからず頼ろうとしてしまっている。
今までエスペランサはダンブルドアの戦力を頼ろうとした事は無かった。
だが、今、彼はダンブルドアを頼り始めている。
それは、つまり、センチュリオンだけでは状況を打開出来ないことを裏付けているようなものだ。
もし仮にダンブルドアがいなければ、やはり、ヴォルデモート勢力が勝つ。
セオドールはもうセンチュリオンが勝つビジョンを完全に見出せなくなってしまっていた。
不死鳥の騎士団編も中盤です。
今のところは原作準拠してます。多分、当分は準拠します。