筆が乗ってきました!
不死鳥の騎士団編もクライマックスに近づいてきました!
失意の底からグリフィンドールの寮に帰ってきたエスペランサを迎えたのはネビルとコーマックだった。
「隊長!退学にならなかったんだな!」
コーマックが嬉しそうに言う。
彼はクーデターに参加していない数少ない隊員の一人だった。
「ああ。まあ、何とかな……」
「まったく、副隊長も何を考えてるのやら……。でも、僕らは隊長側の人間だ!まだ、センチュリオンは終わっちゃいない。これを見てくれ」
コーマックが談話室の隅を指さす。
談話室の隅には若干の武器弾薬が積み上げられていた。
「これは……」
「僕とネビルで運んだ。セオドールの奴、必要の部屋を閉鎖したまでは良かったが、ホグワーツの隅々に温存させておいた武器弾薬の確保までは手が回らなかったらしい」
「さっき他の隊員たちが隠していた武器も全て回収しちゃったけどね。でも、少しはこっちで確保出来た」
センチュリオンは必要の部屋以外にも武器弾薬を隠していた。
その一部を起点を利かせたネビル達が確保したようだ。
「M733が4挺に、MINIMIが1挺。サブマシンガンと拳銃は人数分は確保してある。弾薬は5.56ミリ弾が1150発入りの弾箱が3つと9ミリ弾は若干ってところかな。それから、M24も確保出来た。ポイズンバレットは手に入らなかったけど……」
「フナサカとチョウも協力してくれたんだ。フナサカは通信機器と発電機、それにディーゼル燃料を確保してくれたし、チョウは誘導弾と対戦車榴弾の類を確保した。流石に野戦砲までは持ってこれなかったが」
エスペランサは積み上げられた物資を見る。
数挺の銃と弾箱。
短期間で集めたにしては上々だが、それでも、戦局をひっくり返すような量の武器は無い。
たったの数千発の小銃弾に5名の隊員では、1時間も戦闘をすることは出来ないだろう。
一応、魔法で武器の生成が出来ないことも無い。
事実、エスペランサは1学年の時に銃や弾薬の製造を魔法でしていた。
しかし、それには途方も無い時間がかかる。
「隊長。セオドール達の事は忘れて新たなセンチュリオンを立ち上げるべきだ!たったの5人だけど、少数精鋭さ」
「…………」
エスペランサは何も言わなかった。
人数としては分隊の規模もきっているセンチュリオン。
ダンブルドアも追放された現状。
どう足掻いても勝ち目は無い。
それでもセンチュリオンとして活動する意義はあるのだろうか。
「隊長!何か指示をしてくれ!僕達は戦える。それとも何だ?隊長も怖気づいたのか?」
「コーマック……。少し考える時間をくれ。現状、我々5人ではヴォルデモート勢力に太刀打ち出来ん。それに、今日は疲れた」
エスペランサはコーマックとネビルを残して寝室へ向かった。
セオドール達多くの隊員の離反を受けて、エスペランサは精神的にも滅入っている。
数々の戦場を戦い抜き、並ならぬ精神力を持っていた彼だが、味方に裏切られる経験ははじめてだった。
血生臭い戦闘でも、隣には信頼できる仲間の隊員がいた。
だからこそ、彼は折れる事なく、戦ってこれたのだ。
しかし、その味方の隊員が離反したという事実にエスペランサの精神は追い詰められる。
ベットに倒れ込んだエスペランサは枕元に置いていた古びたドックタグを握りしめた。
それは、彼が軍隊にいた頃の上官から貰ったドックタグだった。
中東で米軍が秘密裏に組織した対ゲリコマ特殊部隊。
年齢も国籍も問わず、秀でた才能がある者を片っ端から徴用して作り上げた非合法かつ非正規の軍隊。
そんな誰にも知られない、名も無い軍隊の中でエスペランサは育ち、戦った。
1991年にその存在がメディアにスクープされそうになり、解散してしまったが、彼にとってあの部隊は家族であり、そして、故郷であった。
エスペランサの所属していた小隊を指揮していた隊長は彼がこの世で最も尊敬する男であり、センチュリオンの隊長となってからも、指揮官の理想像として、常に意識してきた。
あの指揮官のように振る舞えば、部下は決して逃げ出さないし、裏切らない。
自分がそうだったように。
だが現実は違った。
「小隊長……。教えてくれ。俺は……あなたみたいな指揮官にはなれなかった………。どうして、こうなったんだ」
奥歯を噛み締め、エスペランサは指揮官になってから初めて弱音を吐いた。
しかし、その弱音は誰の耳にも届かなかった。
翌朝から、ホグワーツはアンブリッジの天下となっていた。
まず、アンブリッジの肩書きが学校長に変わった。
魔法省公認の生徒による警察組織、尋問官親衛隊を編成したアンブリッジは、尋問官親衛隊に生徒の取り締まりと減点を全面的に許可した。
独裁者のアンブリッジに尋問官親衛隊。
ダンブルドアが西側ならアンブリッジは東側のようだとエスペランサは揶揄したが、その例えを理解したのはハーマイオニーくらいなものである。
共産党とその共産党のためだけに存在する軍隊のように、アンブリッジは生徒と教員の言論を弾圧し、行動を制限し始めた。
生徒は片っ端から尋問官親衛隊に減点され、アンブリッジに邪悪な罰則を課せられた。
既にハリー達ダンブルドア軍団は尋問官親衛隊に50点以上も減点されている。
尋問官親衛隊のメンバーはリーダーのマルフォイをはじめとしたスリザリン生だけだ。
だが、そんな尋問官親衛隊にも恐れているものが2つ存在する。
一つはセンチュリオン。
いや、元センチュリオン。
アンブリッジによってその存在を公言された元センチュリオンは、「魔法省の為に組織された治安維持用の武装集団」として一躍、有名となったなった。
つまるところ、元センチュリオンは尋問官親衛隊の上位互換としてアンブリッジの指揮下で活動することとなっている訳だ。
それが、尋問官親衛隊には気に入らない点である。
元センチュリオンの持つ武器は全て必要の部屋に格納された上で、元センチュリオン自身によって警備されることになった。
エスペランサという指揮官の不在と、武装解除から、もはやそれはセンチュリオンとは言えないハリボテの組織となっているし、隊員達の中にはアンブリッジの指揮下になっている現状に不満を持つ者も少なくない。
だが、今となってはどうしようもないことだ。
2つ目に尋問官親衛隊が恐れたのはエスペランサ・ルックウッドだ。
ホグワーツ内で武装集団を組織するという前代未聞の事をしていたエスペランサに彼らは恐怖した。
尋問官親衛隊は元センチュリオンの隊員達がホグワーツに隠されていた武器を必要の部屋に運ぶのを目の当たりにしたわけだが、その数の多さに恐れを抱いたのだ。
だが、そんなエスペランサはダンブルドア追放の夜以来、何事も投げやりで腑抜けた状態になっている。
「エスペランサ。昼間から廊下で酒を飲むのはやめてちょうだい」
「別に良いだろ。校則には昼間から酒を飲むなとは書いてない」
「未成年飲酒は魔法界でも違法よ?それに、他の生徒があなたのことを怖がってるわ」
「それは今に始まった事ではない」
廊下で壁に背を預けながらウイスキーボトルをラッパ飲みしていたエスペランサにハーマイオニーが釘を刺す。
「……ネビルから聞いたわ。あの組織、エスペランサが作ったんですってね」
「ああ。ハーマイオニーは少しだけ見たことがあるだろ。ほら、吸魂鬼を倒すところを」
「ええ。見たわ。それに薄々勘付いてた。でも……」
「実質、解散した。しかも、セオドールのクーデターによってな」
「こんなこと言いたくないけどノットは正しいと思うわ。だってあなた達だけじゃ、例のあの人に勝てるとは思えないもの」
「そうかもしれない。でもな、俺には戦うしか方法が思いつかないんだよ。指揮官なんてしてたけど、俺は一兵卒だ。指揮官の経験なんて無いし、軍師でも無い。俺はいつまでたっても兵隊なんだよ」
「よく分からないわ」
「そうだろうな」
隊員の無駄死にを防ぐと言う点においてセオドールの判断は正しい。
それはエスペランサも認めるところだ。
だが、ダンブルドアも追放され、センチュリオンも分裂した以上、ヴォルデモートが行動を起こせば英国魔法界は破滅する。
そして、最終的に行き着く先はマグルと英国魔法界との全面的な戦闘だ。
そんな絶望的な状況を打破するためにエスペランサは"戦う"という選択肢しか思いつかなかった。
それは、彼の本質が政治家でも軍師でも指揮官でも無く、戦闘員であるからに他ならない。
「昼間から酒に溺れるとは、ルックウッドも堕ちたものだ」
不意に声をかけられ、エスペランサは酒を飲むのをやめた。
見れば、スリザリンの上級生がざっと10人は揃っている。
どいつもこいつも揃って荒くれ者ばかりだ。
その中心に居るのはフローラの姉であるヘスティア・カローだった。
「落ちぶれた俺に何のようだ?」
「いや、別に。味方に裏切られて孤立するってどんなかんじか聞いてみようと思ってさ」
「そういうことはヴォルデモートにでも聞いてみるんだな。あいつほど部下に裏切られた人間もそう居ないだろ」
ウイスキーを飲み干しながらエスペランサはケラケラ笑った。
自暴自棄になっているエスペランサと、荒くれ者のスリザリン生達。
一触即発となった廊下を見て、他の生徒達は退散し始める。
「エスペランサ!喧嘩はダメよ!これ以上問題を起こしたら……」
「退学になるかもな。だが、それでも構わん。もう俺が魔法界で魔法を学ぶ意義も無い」
「あんたのようなマグルかぶれは元々魔法界に来るべきじゃなかったと思うけどね。そうすればあの忌々しい妹が希望を持つ事も無かっただろうし」
ヘスティアが言う。
彼女の言葉にエスペランサは反応した。
「妹?フローラがどうかしたのか?」
「あら、何も知らないのね。あの妹は、あんたに出会ってから感情を取り戻しちゃったのよ。数年かけてお父様が拷問して、ようやく人形みたいにしたっていうのに。あんたの存在が希望になって精神が元に戻ってきちゃったわけ」
「クソが……」
エスペランサは怒りを露わにする。
フローラから何もかもを奪おうとしたカロー家への憎しみで彼の理性が吹き飛びそうになる。
「あらあら。あの娘の事になると熱くなるのね。ひょっとして惚れてた?でも、残念。あの娘はどっかの純血家系に売られて、それでおしまいよ」
「腐ってやがる。お前も…アエーシェマ・カローも」
「随分とあの娘にご執着のようだけど、結局、あんた、あの娘に裏切られたじゃない。まあ、それもお父様の策略だったかもしれないけど」
そこまで聞いたエスペランサは杖を抜いた。
スリザリン生達も杖を抜く。
10人を相手に杖一本で戦うのは不利だったが、それでも、何人かを聖マンゴ送りに出来れば御の字だ。
「何をやっているのです!ルックウッド!」
まさに最初の呪いを詠唱する寸前、アンブリッジが飛んで来た。
「何を…か。ムカつく連中を片っ端から聖マンゴ送りにしようとしていました」
「っ!罰則です。今夜、私の校長室に来なさい」
「了解しました。校長先生閣下殿」
エスペランサは気の無い返事をした。
アンブリッジの罰則の内容はハリーから聞いていた。
アンブリッジの趣味は自作の拷問道具を作る事らしい。
書くごとに手の甲に血文字を浮き上がらせるペン(とても痛い)による書取りをエスペランサも命じられた。
「これで書取りを行えば良いんですね?」
「ええ。そうよ。インクは要らないわ。貴方の血がそのまま文字になって手の甲に刻まれるから」
「内容はハリーから聞いてます。なかなか痛いとのことで」
エスペランサは拷問道具のペンを眺める。
彼にとって手の甲に傷が出来る程度の拷問は寧ろ生温かった。
だが、アンブリッジの趣味で作った拷問道具のペンによって身体に傷をつけられるというのも癪だった。
「まったく、良い趣味じゃねえか。ハリーはこれを毎晩やって手の甲の文字が消えなくなったのか」
「ええそうよ。心身に文字を刻みつけないといけないわ」
アンブリッジはニターッと笑う。
「悪いが、こんなに屈辱的な罰則は無い。そんなに俺の血を流したいんだったら流してやるよ」
エスペランサはローブの内側からコンバットナイフを左手で取り出した。
アンブリッジは一瞬、本気でエスペランサに殺されるかと思ったが、それは違った。
彼は思い切り、右手の甲をナイフで切り裂いたのだ。
鮮血が舞い、羊皮紙にもエスペランサの顔にも、そして、アンブリッジの顔にも血が飛び付いた。
「ひっ」
「これで満足だろ。この部屋、ピンク一色で気持ち悪かったんだ。いつか赤く染めてやろうと考えてたんだが、手間が省けた」
「あ、あなた!狂ってるわ」
「それはお互い様だろう?独裁者さんよ」
アンブリッジは今まで生徒を恐れた事は無かった。
自分の奴隷程度にしか思っていなかった。
しかし、自暴自棄になり、アルコールの匂いを漂わせるエスペランサに彼女は本気で恐怖を覚える。
退学にするという手段もあるが、今のエスペランサを退学にすれば何をしでかすか分からない。
最悪、マグルの武器を片手にホグワーツや魔法省に乗り込んで来るかもしれない。
結局、触らぬ神に祟り無しということでアンブリッジは何もしない事に決めた。
エスペランサの手の甲の傷は癒えず、ネビルやコーマックとの関係もギクシャクしたまま、進路指導の時期に突入した。
進路指導とは、その名の通り生徒の進路を寮官と共に決める面接である。
エスペランサは右手の甲に包帯を雑に巻いたまま、マグゴナガルの待つ空き教室へ入った。
部屋の中ではマグゴナガルと何故かアンブリッジが待っていた。
マグゴナガルの前にある机には様々な資料が置かれている。
生徒の成績やら各種職業のパンフレット等だ。
アンブリッジはエスペランサを見て顔を引き攣らせたが、エスペランサはそれを無視して椅子に座った。
マグゴナガルが口を開く。
「進路指導は貴方の希望進路を調査して、6.7年目に何の教科を履修するかを決める面接です。ルックウッドは希望する職種はありますか?」
「……ありません」
「それでは困ります。貴方の成績は教科によってムラはありますが、概ねE(期待以上)が取れています。学年末考査でも常に上位10名には入っていますから、選択肢は多いのですよ」
マグゴナガルは眉間に皺を寄せる。
「……先生。俺はもう魔法界にいる意味は無くなったんです。仲間も武器も失った。なら……再びマグル界に戻って俺の居た世界、つまり、軍隊に復帰しようと思います」
エスペランサの言葉にマグゴナガルもアンブリッジも絶句した。
魔法界を知り過ぎた生徒がマグル界に戻るのは法律では禁止されていないが、タブーとされている。
そもそも、マグル界へ戻ろうと思う生徒など半世紀に1人いれば良い方だった。
しかも、エスペランサは軍隊に復帰すると言っている。
「まあ、その前に英国の国籍を取らないといけませんし、入隊試験も突破しないといけません。サンドハースト陸軍士官学校とか受けるのも悪く無い……」
「ルックウッド。貴方の心中は察します。ですが、貴方はまだ全てを失った訳では無いでしょう?」
「失ったも同然です」
確かに全てを失った訳では無い。
だが、僅か数千発の弾丸と数挺の銃の他は戦力のほとんどを失った。
何よりも仲間を失った。
「私は、あまり生徒に過去の話はしないのですが、少しだけ昔話をしましょうか」
マグゴナガルはアンブリッジが横に居ることも忘れて、自身の過去を話し始めた。
「かつて私には大切な人が居ました。マグルの男性です。結ばれはしなかったものの、ホグワーツの教師になってからも心のどこかで想っていた人です。ですが、彼は死喰い人による襲撃で死にました。もし、私が彼の側に居たら彼を守れたのではないか…と今でも思います」
「先生……」
「あの時、私は全てを失ったと思い自暴自棄になっていました。自暴自棄になる余り、死喰い人を根絶やしにしようと活動していた程です。ですが、どんなに絶望的な状況でも、希望はあります。手を差し伸べてくれる人が居ます。ルックウッド。貴方にもそういう人が居るはずです」
「そんな人は、俺には…いない」
「いいえ。居ますとも。例えばロングボトム」
「ネビル?」
「ロングボトムは進路指導で、ルックウッドと共に世界平和を実現させたいと言い放ちました。最初は馬鹿げているとも思いましたが、彼の両親もそういえば同じような理想を掲げていた気がします」
「馬鹿げてる……。本当に、あいつは」
「ロングボトムは1学年の時、はっきり言って成績不良でした。ですが、恐らくあなたが彼を変えたのでしょう。今や私の誇れる優秀な生徒の一人です。そんなロングボトムは貴方にとっての希望にはなりませんか?」
「そう、ですね。でも……」
「ロングボトムだけではありません。ルックウッドに影響を受けて変わった生徒は大勢います。マクラーゲンもそうです。ロナルド・ウィーズリーもあなたに影響されて立派なクィディッチ選手になりました。あなたは何も出来なかった訳ではありません。良い影響を与えているんです」
「…………」
ああ。
これが教師なのか。
エスペランサはそう思った。
今まで、教師というのは学業の面倒だけを見る物だと思っていたが、そうではない。
生徒に道を示すのも教師なのだ。
エスペランサが指揮官として足りなかった物はそこにもある。
彼は部下に道を示す事が出来なかった。
「マグゴナガル先生。あなたの部下になれて、俺は光栄です」
「ルックウッド。部下ではなく生徒です。それで、進路はどうしますか?」
「そうですね。まだ分かりません。ですが、近いうちに答えを出します。それまでは保留にさせてもらえませんか?」
「分かりました。ですが、OWLでは結果を出しなさい。あなたに期待してる人も多いのですから」
マグゴナガルはそう言って微笑んだ。
進路指導を終えたエスペランサは湖の畔にいた。
考え事をする時は湖の畔がうってつけの場だからだ。
何故、自分は魔法界に入ろうと思ったのか。
彼は自問自答する。
1991年。
エスペランサの所属していた部隊は解散した。
理由は、簡単。
非合法かつ非公式である部隊がジャーナリストにリークされたからだ。
あらゆる分野で秀でた人間を徴用していたため、エスペランサをはじめとした未成年者、元犯罪者、テロリスト予備軍が部隊には含まれている。
未成年者も犯罪者もテロリスト予備軍も山岳レンジャー部隊に匹敵する過酷な訓練と教育を受けて、最終的には完璧な兵隊に育て上げられていた。
危険を顧みず、勇猛果敢に任務を遂行する彼らは、不安定だった紛争地域に秩序と平和を取り戻した。
エスペランサは自分の幼少期の記憶が無い。
気が付けば駐屯地の塀の中で育てられていたからだ。
彼を育てたのは、彼の所属していた小隊の指揮官だった。
指揮官曰く、エスペランサは駐屯地の脇に捨てられていたそうだ。
6歳から本格的な軍人としての教育と訓練を受けさせられたエスペランサは類稀なる戦闘員としての素質を発揮して、最年少で対ゲリラコマンド小隊に配属される。
軍隊の中での生活しかしらない彼にとっては、任務の遂行が生き甲斐となっていた。
自分が任務を遂行すれば、地域に平和がもたらされる。
そう信じて、彼は戦い続けた。
敵の罠に嵌り、クロスファイアに晒された事は一度や二度とでは無い。
仲間の死も何人も見てきた。
敵を何人も殺してきた。
それでも、彼が狂わなかったのは、自分のしている事に正義があると思っていたからだ。
いや、彼はとっくに狂っていたのかもしれない。
最終的にエスペランサは戦場も戦闘も恐れなくなってしまっていたからだ。
部隊が解散してから、エスペランサは中東の地に残った。
彼が滞在していたのは、何時ぞやの任務で救った町の一つだった。
町の住民は自分たちを救った部隊の人間であるエスペランサを快く迎えてくれた。
町の人達を見て、彼は自分が戦ってきたことが間違いでは無かったのだと確信した。
だが、そんな町の住民達は一瞬にして皆殺しにされた。
そして、エスペランサは唯一生き残り、ダンブルドアに救出される。
その場で自身が魔法使いだと明かされた彼は、魔法を学び、もう二度と罪の無い人々が脅かされる事のない理想的な世界を作ろうと決心した。
「そうだ。俺は、そんな理想を夢見ていたんだ……」
戦場を離れてから5年が経ってもエスペランサはやはり、軍人だった。
脅威に侵される国民を武力を用いて全力で守り通す。
それが軍人の本望なのだと、エスペランサは信じて疑っていなかった。
エスペランサは母国を持たないが、彼にとっての守るべき国民とは即ち、全世界の善良な市民である。
そこに、魔法使いもマグルも関係は無い。
だから、全てを守ろうとセンチュリオンを立ち上げたのだ。
決して、戦いを求めていたのでは無い。
エスペランサは決して狂戦士では無い。
セオドールをはじめとしたエスペランサの周りの人間は、エスペランサの心がまだ戦場に残されているのでは無いかと考えていた。
彼が戦いを求めて彷徨っているのでは無いかと考えいた。
エスペランサ自身、実は自分は戦いたいだけなのでは無いかと思うことがあった。
「今ならそれを否定出来る。俺は戦いを求めていた訳じゃなかった。周りからそう思われていたのは、俺の本質が、昔から変わらず、軍人だったからに他ならない」
答えは得た。
勝ち目の無い敵が相手でも、国民が脅かされればそれを守る為に戦うのが軍人だ。
エスペランサはもう迷わない。
まずは残った隊員を集め、体勢を立て直す。
それから、武器弾薬の確保。
今後の戦略も一から立てなくてはならない。
エスペランサは走り出した。
ヴォルデモートがそろそろアップをはじめました。