書き溜めのデータが吹っ飛んだので1から書き直しています。
申し訳ありません。
唯一生き残ったデータが過去話だったのでこっちを先に投稿します。
EX01
死の商人。
友軍、敵軍問わず兵器を販売して儲ける商人、もしくは組織の蔑称である。
ソ連崩壊後、武器の生産と販売を行っていた国や企業が様々な理由から直接的な武器の販売を出来ない状態になったことにより死の商人が間接的に武器の販売を行うようになった。
己の利益のみを追求する商人たちは紛争当事国、テロリストなどにも武器の販売を行う。
その為、テロリストや非公式の武装組織は飛躍的に戦力を増大させていった。
性質が悪いことに死の商人は各国の政府首脳とも関係を持つ場合が多いために武器売買が摘発されることはほぼ無い。
1988年まで続いたイラン・イラク戦争では死の商人がこぞって武器を売るという事態にもなっている。
さて、ここパキスタンでも武装組織相手に武器を販売する組織が多数存在している。
その中でも勢力を伸ばし始めた「ターミナル・ウエポン社」は他の組織と異なり、裏で流出した米国最新の装備を販売する業者である。
武装組織に流れる銃器は基本的にソ連製のものをコピーした中華製等が多いが、コピー銃は粗悪なものが多く作動不良が良く起こる。
加えて、出回るのは現役で活躍する武器より1世代も2世代も前のものばかりだ。
しかし、ターミナル・ウエポン社は裏から入手した米国製の正規銃だとか、誘導兵器を売買している。
武装組織にとってそれらはのどから手が出るほど欲しい物であった。
パキスタンの首都イスラマバード郊外の一見、ただの海外商社オフィスと思われる5階建ての建物がターミナル・ウエポン社のオフィスであり、そのオフィスの地下に武器庫が存在していた。
オフィスの警備を担当するのは地元の民兵組織であり、今日も1個小隊に匹敵する人数が周囲の警戒を行っている。
その警備兵の一人であるコードネーム「E-1(エコー・タック・ワン)」と呼ばれる男は建物の裏門にて警戒を行っていた。
時刻はまもなく深夜2時を回ろうとしている。
町は寝静まり、時折遠くで罵声が聞こえる以外は虫の声すら聞こえない。
月明かりに照らされた建物前の通りも人っ子一人存在しなかった。
「これだけ警備を固めてる会社に攻めようとする組織なんていないんだから、警備なんてしなくたって良いと思うけどな………」
男は一人呟いた。
実際、男の所属する民兵組織は裏の世界では有名な武装組織であった。
受け持つのは汚れ仕事ばかりで、政府関係者の暗殺から、テロの支援まで様々だ。
それに、組織内の人間はどいつもこいつも荒くれ者で、武器を片手に一般市民を脅して好き放題している。
昨日も外国人向けのホテルに押し入り、2人ほど英国人を拉致してきたばかりだ。
拉致された2人の外国人がどのような末路をたどるのかは想像もつかない。
何にせよそんな武装組織の警備する会社を攻撃しようとする人間などこの市内には皆無だったのだ。
「ふああっ」
欠伸をしてから持っていたAK-47カラシニコフ銃を脇に置いた男は胸ポケットからタバコを取り出した。
口に煙草を咥え、火を付けようとしたとき、彼は目の前の通りから“1人の子供”が自分の方へ向かってくるのを目にした。
深夜2時に表向きには製薬会社となっているこの建物に子供が何故向かってくるのか?
お世辞にも治安の良いとは言えないこの町で、一人子供が歩くというのも不可解である。
一体何の用があるのだろうか?
「おいおい。こんな時間にガキ一人で何しに来た?ここは子供の来るような所じゃねえぞ。つか、俺らが誰か知ってるよな?」
男は近づいてくる子供に声をかけた。
身長は決して高くない。
見た目からして10歳前後の少年であろうか。
短い黒髪はこの辺りの子供にしては綺麗に整っており、服装も清潔感がある。
「迷子に………なっちゃって。この辺良く知らないから………」
「迷子だあ!?」
「お父さんと旅行に来てたんだけど………。はぐれちゃって」
治安の悪い地域に旅行に来る人間は少ない。
子供連れとなれば尚更だ。
しかし、少年の雰囲気は確かにこの地域の子供ではなく、どこか治安の良い場所で育てられたようなかんじだ。
綺麗な服を着ていることから意外と裕福な家庭育ちなのかもしれない。
とするのなら良いカモだ。
少年を人質に身代金を要求すれば案外稼げるかもしれない。
男はそう思った。
「オーケー。俺がお父さんのところに連れて行ってあげよう。さあ、こっちに来るんだ」
「わかった!」
男はニヤニヤしながら少年を迎え入れる。
少年は何の疑いもなく男のすぐ傍までやってきた。
「ところでここってターミナル・ウエポン社だよね?」
少年が尋ねる。
「おお。そうだ」
「そっか。それを聞いて安心したよ」
グサッ
「あ……………?」
少年は突然男に体当たりをした。
その少年の行動に驚いた男であったが、直後、腹部を襲う激痛で何が起こったかを察した。
「ぐあっ!な!?お前っ!!!」
「悪いな。これも仕事なんでね。ま、あんたたちのしたことを考えれば当然の報いだ」
少年は男の腹にサバイバルナイフを突きたてたのだった。
男の腹部には深々とナイフが刺さり、地面にポタポタと血が垂れている。
涼しい顔をして少年は男の腹部に刺さったナイフを引っこ抜く。
抜いたと同時に大量の血が噴出した。
「あんたらが町でやった悪事を昨日調べたんだがな………。正直、胸糞悪くなった。被害者の気持ちを味わうっていう意味で苦しんで死んでもらいたいんだが………。ちょっと時間が無いんだ」
「うっ。ぐ…………。お前、何…者だ?」
「ただの雇われ兵士だよ。あんた達と違って悪い連中を潰すためのな」
声を出して仲間を呼ぼうにも血が喉を埋め尽くし、声が出せない。
薄れ行く意識の中で男は少年の顔を見た。
(ああ。こいつはただのガキじゃねえ。兵士だ…………)
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今しがた警備兵の命を奪ったナイフを懐にしまったエスペランサ・ルックウッドは耳につけられた骨電動式の通信機のスイッチを入れる。
「こちらブラボー1。目標の死亡を確認。他の警備兵が気づいた様子はなし。01は先行して内部に侵入。02は裏門にて援護を頼みます」
『了解』
エスペランサは今月10歳を迎えた子供である。
他の兵士に比べて筋力も体力も劣るが、“子供である”という利点があった。
子供は敵に警戒されにくい。
今回もそうであったように敵はエスペランサがまさか米国特殊部隊の雇われ兵だとは夢にも思わない。
最近の作戦は彼が油断した敵兵士に近づいて、その兵士を殺害することから始まることが多くなっていた。
エスペランサの所属する01分隊の分隊長とその分隊員が路地から続々と音も立てずにやってくる。
分隊は分隊長(彼はエスペランサの直属の教官であった)を含めて8名。
6人の小銃手と1人の機関銃手、それに対戦車榴弾を持った隊員で構成されていた。
エスペランサの下まで来た分隊長が口を開く。
「重要な伝達がある。周囲の警戒を行ったまま各人、耳を傾けて欲しい」
「了解!」
分隊員は各々小銃を構えて警戒態勢をとった。
「時間が無いので手短に言う。先程の通信で作戦に変更が出た。当初は我々の分隊が先行して突入する予定であったが、その任務は2分隊が行うこととなった」
「急に何故!?2分隊はオフィス内の上層部の制圧が任務では?」
「私にも詳しいことは知らされていない。上からの命令により我々は今から別の任務に移る」
今作戦の目的。
それは「ターミナル・ウエポン社内部に潜入し、上層部を制圧。武器の流出経路を明らかにせよ」というものであった。
投入された特殊部隊は総勢30名。
エスペランサの所属する1分隊が当初内部に潜入し、武器庫を確保。
敵火力の神通力を奪い去り、無力化する。
2分隊は1分隊が敵の戦力を無力化した後に上層部を制圧する。
残る3分隊が周囲の警備兵を倒す。
これが作戦の流れであった。
それが急遽変更されるとあって、分隊員たちに動揺が走る。
「昨日、この会社の警備に当たる民兵組織が2人の英国人を拉致したという事実はブリーフィングで話したと思う。どうもその拉致された英国人というのがVIPらしくてな。我々1分隊で彼らを救出して欲しいとの依頼があったそうだ。依頼主は英国政府の役人であるコーネリウス・ファッジという男らしいが………」
「英国人を?米国人以外のために我々を動かすことを上は了承したんでしょうか?」
「英国は同盟国だからな。それに我々は正義のために存在する部隊だ。拉致被害者救出という任務は我々にとって誇りある任務である」
分隊長は隊員を見渡す。
救出任務ははじめてではない。
テロリストに拉致された一般人の救出任務は年間10回以上行っている。
もっとも、エスペランサ少年が救出任務に参加するのははじめてのことであったが………。
エスペランサが実践配備されたのは半年前のことである。
任務の特性上、少年兵が必要とされたため急遽現在の部隊に彼は配属となった。
無論、非公式にだ。
米国では10歳の少年が兵士となり実践に投入されることなど認めていない。
しかし、この米海兵隊第二特殊部隊中東派遣隊はその存在自体限られた人間しか知らない秘匿組織であったし、多少の違法行為なら容認されていた。
中東において身寄りの無い子供を集め、兵士として教育(教育は人道的なものであったし、子供は生死を彷徨っているような子を保護して確保した)しているこの特殊部隊であるが、その子供の中でも特に優秀だったのがエスペランサ・ルックウッドだった。
だが、いくら優秀でも所詮は子供である。
エスペランサの考える戦術にはまだ“甘さ”がたっぷりと存在した。
「時間が無い。我々はこれより英国人救出任務に移行する。作戦概要は後ほどこの場を離れてから説明する。以上。質問があるもの?」
分隊長はそう言って全員を見渡す。
分隊員は誰も手を挙げずに、次の任務へ移行する準備を行おうとしていた。
エスペランサもである。
質問が無いことを確認して分隊長は隊員に前進を命じた。
「よし。では出発する。分隊前進!」
はやいところ本編を載せることが出来るよう努力します!