金メダルラッシュ凄いですね。
エスペランサ達が死喰い人と死闘を繰り広げている頃。
ホグワーツの正面玄関ではセオドールが目覚めていた。
「くっ……あれからどうなったんだ」
彼の最後の記憶はエスペランサに敗北した瞬間であった。
「そうか……。僕は彼に負けて、気絶していたんだな」
「そうです。あの人は他の人達と一緒に魔法省へ向かいました」
セオドールの横にはフローラが立っている。
どうやら彼を蘇生させたのはフローラらしい。
「馬鹿な事を……。だがもう止める術も無い」
「仮に止める術があったとしても……私には止められなかったと思います」
「ああ……。そうかもしれないな」
戦いに向かうエスペランサを止めても無駄な事は分かりきっていた。
それでも止めようと思ったのは何故か。
戦いに行けばエスペランサが死ぬという確信があったからだ。
罠だと分かりつつも死地に赴くなんて正気の沙汰では無い。
止めるのは当たり前だ。
だが、理由はそれだけか?
「怖かったのかもしれないな。僕は。エスペランサがこのまま、ヴォルデモートや死喰い人と戦い、それが公になれば魔法界は多かれ少なかれパニックになる。そうなれば英国魔法界は崩壊するだろう」
「…………」
「紛い物の平和でも良かった。今の魔法界が崩壊するところを見たくは無かった。魔法界の崩壊を目の前にして成す術も無い無力な自分を見たくはなかった」
セオドールは戦闘で死ぬ事を今更恐れてはいなかった。
彼が恐れていたのは自分の戦ったところで世界は変わらないという事実を知ってしまう事だった。
だが、エスペランサはそんな事を恐れずに戦いに行った。
それを、セオドールは愚かだと思う一方で羨ましくも思う。
「私も……怖かったですよ。私はここ数年、ホグワーツで過ごしている間、幸せでした」
この世界に絶望して、全ての景色が灰色に見えていたフローラを救い出したのはエスペランサだった。
「救いなんて無いと思っていた私ですが、あの人の姿を見て、この世界にも救いがあるのだと思いました。あの人の作る世界にはきっと私の居場所がある。そう思えるだけで幸せだったんです。平和な世界で……あの人の近くに居ることが出来るだけで私は良かったんです」
「フローラ。君はやはり、隊長が……」
「ええ。私は彼に好意を抱いています」
彼女がエスペランサに好意を抱いたのがいつからかは本人も良く分かっていない。
しかし、彼はフローラにとって希望そのものだった。
彼の存在にフローラは救われていた。
それだけで好意を抱く理由は十分だろう。
「だからこそ、あの人が戦いに行くのを止めたかった。あの人が死ぬのは嫌だったから……。でも……。馬鹿ですよね、私。側にいたいと思うなら、私も一緒に行くべきでした……。裏切って…傷つけて…一人で戦いに向かわせて……」
フローラの目から涙が溢れる。
普段感情を表に出さない彼女にしては珍しい事だった。
「大変だ!大変なことになった!」
廊下の向こう側からザビニとグリーングラス姉妹が走ってくる。
「どうした?何があった?」
「今…職員室を盗聴していたんだが、ポッター達は遂に死喰い人と交戦をはじめたらしい」
「スネイプ先生をはじめとした教員が慌てて職員室に入って行くのが見えたからこれを使って盗聴したんだよ」
見ればザビニもグリーングラス姉妹もウィーズリー製の「のび耳」を手にしている。
3人はのび耳を使って職員の会話を聞き出したようだ。
「それは本当なのか?やはり、あれは死喰い人の罠だった訳だな」
「うん!スネイプ先生は不死鳥の騎士団の一員だから魔法省で起きている戦闘の情報も入手してた。隊長やダンブルドア軍団が死喰い人と交戦して、騎士団の何人かが救援に向かったみたい」
ダフネが言う。
「戦闘の結果は?」
「分からない。隊長は少なくとも5人の死喰い人を倒したらしい」
「5人倒したのか!」
圧倒的に不利な状況で5人の死喰い人を倒したのは流石としか言いようがない。
「だが、敵が思ったよりも強く、味方の被害も甚大という話だ」
「味方の被害……だと?隊長は無事なのか?」
「それも分からん。しかし……敵にはあのアエーシェマやドロホフが居るんだ。騎士団が味方についたとは言え戦況は不利だろ」
「副隊長、私達は行かなくて良いの?このままじゃ……」
「落ち着け。そもそも僕達には魔法省に行く手段も無いんだ。あそこへ行くには煙突飛行ネットワークに接続しなくては……」
そこまで言って、セオドールは気付く。
ホグワーツには魔法省と繋がる暖炉が一つだけ存在した。
だが、今から魔法省へ行ってどうする?
武器も作戦も用意していない状態で行って何をするというのだ。
この場には彼を含めても5人の隊員しかいない。
たった5人で何をするのだ?
セオドールが考え込んだその時。
「副隊長!聞いたぞ!隊長達が魔法省で戦ってるらしいじゃないか!」
「しかも、5人の死喰い人を倒したって?」
大広間の方からセンチュリオンの隊員達が続々と走ってきた。
「お前たち、どこでその情報を嗅ぎつけたんだ?」
「ザビニから聞いたんだ」
「何だと?」
セオドールはザビニをチラリと見た。
「情報は共有すべきだろ?」
ザビニは肩をすくめて言う。
そうこうする間に隊員達は続々と集まってきた。
アーニーやアンソニー達離反組。
コーマックやチョウといった残留組。
見れば全隊員が集結していた。
「隊長と死喰い人が交戦を始めたのは嘆かわしいことに事実だ。隊長は5人の死喰い人を倒し、尚も交戦中とのこと」
「マジかよ……」
「5人も倒すなんて、信じられねえぜ?」
隊員の口から驚きの声が上がる。
「で、副隊長。我々はどうするんだ?」
アンソニーが言う。
「どうするって言っても、我々は死喰い人と交戦する事を避ける為に離反したんだぞ?」
セオドールの言葉に離反組は目を落とした。
彼等はエスペランサに死喰い人と戦闘をさせない為に離反したのだ。
「確かに……そうだ。だが、結局、隊長は戦闘を勝手にはじめちまった。僕らが居ようが居まいが、隊長は戦い始めちまう。そんな事は分かりきってた事だけどさ……」
「やっぱり、戦うのは怖いけど……。でもじっと待ってることなんて出来なくて」
「隊長一人に戦わせるのも…こう、後味が悪い。これで勝手に戦死されたら、それこそ最悪だ。そう思って、僕らは集まったんだ」
アーニーが言うと離反組が頷く。
「離反した連中は兎も角、私達は戦いに行くつもりよ?隊長も行くなら私達を誘ってくれれば良いのに。水臭い」
「ああ。勝手なもんだ」
チョウ、コーマック、フナサカが口々に言った。
「良いか?現時点で我々には死喰い人を殲滅出来るような武器弾薬はない。人数も少ない。前にも言った通り、戦えば敗戦濃厚だ。今戦い始めたら味方に犠牲が出るどころか、魔法界に混乱をもたらすだけだ。だから、我々は離反したんだぞ?それでも、戦いに行きたいと言うのか?」
セオドールは隊員達を見渡した。
皆、戦意に満ちた顔をしている。
グリフィンドールの隊員も、ハッフルパフの隊員も、レイブンクローの隊員も、そして、スリザリンの隊員も。
一様に戦士の顔をしていた。
そこに寮の隔たりは存在していない。
ああ、そうか。
セオドールは思った。
ここに居るのはセンチュリオンの隊員だ。
寮なんて関係ない。
エスペランサ・ルックウッドという男は寮という垣根をぶっ壊して、一つの組織を作り上げた。
寮も能力もバラバラの生徒たちを同じ目標に向かって突き進む一つの集団にまとめ上げたのだ。
グリフィンドールは勇猛果敢でスリザリンは狡猾。
そんなものは関係ない。
彼は数世紀に渡って存在し続け、どんなに優秀な指導者でも壊す事の出来なかった寮という隔たりをたった3年で壊した。
それは奇跡としか言い様が無い。
エスペランサは奇跡を起こして見せた。
ならば、今度は自分が奇跡を起こして見せよう。
「分かった。お前達の気持ちは伝わった!我々は今から隊長の救援に向かう!」
セオドールは高らかに宣言した。
「おおお!」
「そうこないとな!」
「やってやろうぜ!」
隊員達は俄然やる気を出す。
「良いか?戦闘は既に始まっている。悠長に準備をしている時間は無いぞ?各人、5分で戦闘準備を終わらせろ。遅れる者は置いていく!準備の出来たものからアンブリッジの部屋に集合せよ」
「「「 了解! 」」」
隊員達は忽ち、必要の部屋へと走り出した。
一度、バラバラになったセンチュリオンは再び、一つになろうとしている。
「やはり、隊長は隊長だったな。エスペランサが隊長だったから、あいつらはまた一つにまとまることが出来てしまった」
「それは、やはり不本意ですか?」
フローラが言う。
「当たり前だ。僕はこの戦いにまだ勝ち目を見出せていないのだから。だが……最後まで諦めずに考え抜くさ。勝利する方法を」
「5分後には出発ですよ。今回の戦いに勝利する方法はもう考えているのですか?」
「まだ考えていない。だが……」
セオドールはフッと笑う。
「5分あれば十分だ」
ベラトリックスを追いかけていたハリーはいつの間にか魔法省のエントランスホールに来ていた。
魔法界同胞の泉というセンスの悪い噴水や、無数の暖炉、エレベーターが存在する広い空間である。
不思議なことに職員の姿も来訪者の姿も見えない。
ホールは不自然に静まり返っていた。
「ギャハハ!シリウス・ブラックの仇でも討ちに来たのかい?可愛いポッターちゃん?」
狂ったようにベラトリックスが笑う。
「クルーシオ!」
ハリーは怒りに任せて磔の呪文をベラトリックスに行使した。
「グハッ!く…小僧。磔の呪文を使った事がないようだね?本気になる必要があるんだよ。お前のような青二才じゃまだ扱えない」
磔の呪文は直撃した筈だが、ベラトリックスは少し苦しんだだけで無傷だった。
「さて、ポッター。今度はこっちの番と言いたいところだが、まずは予言を渡せ!そうすれば命だけは助けてやらんでもない」
「渡しちゃダメだ!ハリー!」
ハリーの背後にあるエレベーターが開き、エスペランサとネビルが銃を構えながら出て来る。
二人の銃口はピタリとベラトリックスに向けられていた。
「誰かと思えばロングボトル家の倅かい。両親は元気?」
「お陰様で元気さ。聖マンゴでピクニックしてる」
ネビルは皮肉を込めてそう言い、M24の引き金に指をかけた。
その横でエスペランサもM733を構える。
ハリーも杖をベラトリックスに向けた。
3対1。
ベラトリックスに勝ち目は無い。
ハリーの魔法は防ぐ事ができても、M24の弾丸をこの間合いで防ぐ事は不可能だ。
「残念ながら、チェックメイトだ。最期だし愛しの主君に助けを求めてみたらどうだ?」
エスペランサが笑いながら言った。
「その必要は無い」
短くも恐ろしい声がエントランスホールに響いた。
ハリーは突然、傷跡が痛み始め、床に倒れてしまう。
エスペランサとネビルの顔からは余裕の笑みが消えた。
「この声……聞いた事がある」
エスペランサの記憶が蘇る。
1学年の時、賢者の石を巡って死闘を繰り広げたあの時。
確かに聞いた声だ。
「ああ!ご主人様!申し訳ありません!予言をまだ奪えていないのです!」
「黙れベラトリックス。俺様はお前の言い訳を聞きに来たのでは無い。ポッターの息の根を止めに来たのだ」
ベラトリックスの横にいつの間にか一人の男が立っていた。
赤い目に毛が一つも生えていない頭頂部。
蛇のような鼻。
間違いない。
こいつは………。
「ヴォルデモートか!」
エスペランサは叫ぶ。
「ご名答だ。お前は見覚えがあるぞ?ああ、クィレルを殺した生徒か。確か…エスペランサ・ルックウッド」
ヴォルデモートは愉快そうに笑った。
その笑い方があまりにも人間離れし過ぎてエスペランサはゾッとする。
いかなる敵に遭遇しても恐怖を覚えなかった彼であるが、ここに来てはじめて恐怖を感じた。
(こいつは…もはや人間じゃない!)
「ではまず、ポッターから殺すとしよう。俺様はここ一年、ずっとこの時を待っていたのだ。アバダ・ケダ……」
「させるか!」
ヴォルデモートがハリーに向かって死の呪文を撃ち込もうとする寸前、エスペランサはM733の引き金を引いた。
マズルフラッシュと共に5.56ミリ弾がヴォルデモートを襲う。
「小癪な」
ヴォルデモートはほとんど杖を動かさなかった。
しかし、彼の周りに盾の呪文が展開される。
5.56ミリ弾は全て弾かれた。
「なんて反応速度だ……っ!?」
エスペランサは手に持つM733を見て焦りを見せた。
弾切れだ。
5.56ミリ弾の残弾はもう無い。
「ネビル……。例の作戦だ。あれをやるぞ」
「正気か?」
「ああ。あれを試すのは今しかない」
エスペランサはM733を投げ捨てて、代わりに肩にぶら下げていたMP5サブマシンガンを構えた。
これは待機中のネビルに渡していたものだった。
だが、残弾に余裕が無くなったため、先程返してもらったのである。
「うおおおおおおお!」
エスペランサは声を上げ、MP5サブマシンガンを乱射しながらヴォルデモートに突撃を仕掛けた。
パララという乾いた音と共に9ミリ弾が発射される。
「フハハハ!何をして来るかと思えば自暴自棄になって特攻か?」
ヴォルデモートは不気味に笑いながら襲いかかって来る9ミリ弾を防いだ。
25発しか装填されないMP5はすぐに弾切れを起こす。
だがエスペランサは弾が切れても、構わずにヴォルデモートに向かって走り続けた。
二人の距離は僅か10メートル。
(なるほど。懐に潜り込んで近接戦を仕掛けるつもりか……。確かに近接戦に持ち込めばこの小僧にも勝ち目はあるかもしれん)
ヴォルデモートは冷静に判断した。
彼はエスペランサの戦闘を知っている。
気を引いたところで懐に潜り込み、そして、近接戦を仕掛ける。
かつて、クィレルを倒した際も似たような戦い方をしていた。
(周囲一帯ごと奴を吹き飛ばすか、それとも、死の呪文を直撃させるか。いずれにせよ、間合いを詰められる前に対処すれば問題無い)
ヴォルデモートは瞬時に判断して杖を走りながら近づいて来るエスペランサに向けた。
桁違いの出力で爆破呪文が展開される。
エスペランサもその周囲の床もまとめて吹き飛ばされた。
だが、ヴォルデモートが魔法を発動すると同時に、後方で待機していたネビルも"エスペランサに向かって"呪文を唱えていた。
「ステータム・モータス 強制回避」
対象を6から7メートルほど瞬間移動させる魔法だ。
ネビルの放った魔法はエスペランサに命中し、彼の身体は7メートル前方に瞬間移動する。
つまり、ヴォルデモートの目と鼻の先にエスペランサを瞬間移動させたのだ。
「何!?」
ヴォルデモートは突然自分の目の前に瞬間移動してきたエスペランサに驚愕する。
(これが狙いだったのか!?だが、既にマグルの武器は使用不能。杖は手に持っていない。丸腰のこいつに何が出来るというのだ?)
瞬時に冷静な思考を取り戻したヴォルデモートはエスペランサの持つ銃はとっくに弾切れを起こしている事を思い出した。
しかも、エスペランサは手に杖を持っていない。
丸腰の状態だったのだ。
「馬鹿が!俺の武器は銃だけじゃねえ!」
ヴォルデモートの目と鼻の先の空中に転移してきたエスペランサは右手の拳を握りながら言った。
この世で最も原始的な攻撃。
それ故に誰も考えなかった攻撃。
ヴォルデモートの顔面にエスペランサの拳がめり込んだ。
「グハッ」
鈍い音と共にヴォルデモートが床に倒れ込む。
恐らく鼻の骨が折れたのだろう。
彼の鼻は変な方向に曲がり、どくどくと血が垂れていた。
生まれて初めてヴォルデモートは暴力による激痛を味わう。
ヴォルデモートを物理的に殴りつける人間はエスペランサがはじめてだろう。
そもそも、普通はそんな方法を考えない。
魔法界を脅かした闇の魔法使いを殴りつけようと考えたのは後にも先にもエスペランサのみだ。
ヴォルデモートもまさかエスペランサが殴りかかってくるとは思いもしなかった。
故に対応が遅れたのだ。
ハリーもベラトリックスも唖然としていた。
「き、貴様あああ!」
怒り狂うヴォルデモートは杖をエスペランサに向けようとする。
だが、遅かった。
エスペランサは既に杖をヴォルデモートに突きつけている。
「これで終わりだ。地獄に堕ちろ。アバダ・ケダ………」
だが、彼が最後まで詠唱をすることは無かった。
突如としてエスペランサの身体が魔法によって吹き飛ばされたからだ。
吹き飛ばされたエスペランサは勢いよく石で出来た壁に叩きつけられる。
「なかなか面白いものを見せてもらった。まさか闇の帝王に物理攻撃を仕掛けるとは」
エントランスホールの奥からアエーシェマ・カローが歩いてくる。
彼の持つ杖は壁に叩きつけられたままのエスペランサに向けられていた。
「遅いぞ、アエーシェマ。何をしていた?」
「キングズリー達が思ったよりも手強く、撃退するのに時間がかかってしまいました」
笑いながらアエーシェマは言う。
ヴォルデモートは自分の顔面に治癒魔法を施しながら立ち上がった。
「あの小僧。楽には殺さん。ポッターを殺すのは後だ。エスペランサ・ルックウッドを血祭りに上げる」
「それは名案ですな。ですが、奴はまだ戦うつもりらしいですよ?」
エスペランサは満身創痍になりながらも起き上がり、拳銃を腰から引き抜いていた。
そして、ネビルもM24の銃口をヴォルデモートに向けている。
ハリーはと言うと、傷痕を押さえて倒れ込んだままだ。
「我が君!ポッターは私が殺します!」
ベラトリックスが言う。
「ベラトリックス。ポッターを殺すのは俺様だ。お前は生き残った同胞を連れて速やかに逃げろ。もうじき闇払いやダンブルドアがここに来るだろう。その前に逃げるのだ」
「しかし、我が君……」
「これは命令だ。早く行くのだ」
「はい………」
ベラトリックスはエントランスホールから走り去っていった。
彼女が逃げる様子を横目で見つつ、アエーシェマは口を開く。
「さて、我が君がこの一年、ポッターを殺す機会を心待ちにしていた様に、私もルックウッドを殺す機会を心待ちにしていた」
彼はゆっくりと杖を構えた。
壁に叩きつけられた衝撃でエスペランサの骨は何本か折れていた。
だが、彼は痛みをほとんど感じていない。
アドレナリンを大量に分泌しているからだ。
エスペランサは弾倉が空になり使い物にならなくなったMP5サブマシンガンを地面に捨て、拳銃を引き抜く。
そして、迷わず引き金を引いた。
「そんな攻撃が効くとでも思っているのか?」
アエーシェマは拳銃から発射された9ミリ弾を弾き返す。
さらに、彼は杖を一振りして悪霊の炎を噴出させた。
「悪霊の炎…か!?」
アエーシェマは悪霊の炎をまるで鞭のように操る。
悪霊の炎の鞭はエスペランサに直撃した。
「ぐあっ!」
悪霊の炎がエスペランサの皮膚を焼く。
あまりの激痛に彼は床に倒れ込んだ。
「エスペランサ!くそっ!」
倒れたエスペランサに代わり、ネビルがM24をアエーシェマに向ける。
だが、弾丸を発射する前にヴォルデモートの磔の呪いがネビルを襲った。
「クルーシオ・苦しめ!」
「うあああああ!」
想像を絶する苦しみが彼の身体を襲う。
センチュリオンで鍛え上げたネビルの精神力をもってしても耐え難い苦しみだった。
堪らず彼は倒れ込んでしまう。
「ロングボトムの倅も大した事は無かったな。では、我が君。そろそろ終わりにしましょう。コンフリンゴ・爆破せよ」
アエーシェマの魔法でエスペランサとネビルの倒れていた付近が爆発する。
爆風と瓦礫の山が二人に襲いかかった。
吹き飛ばされた両名は身体中から血を流し、再び地面に倒れ込む。
(痛みは…感じないが、身体が……動かない)
身体中の骨が砕け、全身に火傷を負ったエスペランサは反撃するどころか、立ち上がる事すら不可能であった。
「悪いが、死んでもらうぞ?ルックウッド。最期に言い残した事はあるか?」
倒れているエスペランサにアエーシェマが言葉をかける。
「まだ……終わっちゃいねえ」
「その身体ではもう戦えんだろう。所詮、貴様はその程度の人間だ。貴様に世界は変えられん。世界を変える力を持つのは、我が君であるヴォルデモート卿だ」
「ヴォルデモートが作り出す世界なんてクソ喰らえだ」
「そうか。それが遺言という事で良いんだな」
アエーシェマの杖がエスペランサに向けられる。
結局、自分は勝てなかった……。
エスペランサは思う。
セオドールの言う通り、無謀な戦いだったのだろう。
この後、ヴォルデモートは魔法界を支配しようとするに違いない。
恐らく、英国魔法界は支配される。
ダンブルドアという抑止の力があっても、ヴォルデモートの勢力が強大過ぎるからだ。
そして、行き着く先はヴォルデモート勢力とマグルの全面戦争。
ヴォルデモートやアエーシェマが存在する世界に平和なんて存在しない。
彼等が作り出すのは大勢の人が死に、苦しむ最悪の世界だ。
かつての仲間達。
夥しい死体の山。
センチュリオンの隊員達。
エスペランサの脳裏に様々な記憶が過ぎる。
これが走馬燈というやつなのだろうか。
そして、最後に脳裏に浮かび上がったのは一人の少女の姿だった。
死を覚悟した瞬間に、エスペランサは無性にフローラ・カローに会いたくなった。
(笑っちまう……。最期の最期に思い浮かべるのが女だったとは……。俺も少しは人間らしいところがあったみたいだな)
エスペランサは自嘲気味に笑う。
(世界どころか、フローラひとり幸せにする事も出来てねえ………)
せめてもの抵抗とばかりに、エスペランサはアエーシェマを睨みつける。
だが、彼の視界にアエーシェマの姿は見当たらない。
それどころか、30センチ前すら視認できない。
(ああ。俺は死んだのか。死後の世界ってのはこんなに真っ白なのか)
彼は目だけを動かして周囲を見渡す。
辺り一面が白煙で包まれていて、何も視認出来ない状況だ。
さらに、息苦しさすら覚える。
「違う………。この白煙、この臭い……。まさか、これは!?」
エントランスホールにヒュルルルという何かが飛来する音が響く。
そして、破裂音と共に白煙が増していく。
間違いない。
これは……。
「発煙弾か!?」
原作と戦いの流れが少し違いますが、死喰い人が何人か戦死した為に違いが生まれています。