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新年初投稿です!
ロンドンのダイアゴン横丁にある漏れ鍋の食堂は現在、戦闘指揮所になっていた。
普段、調理器具が置かれている机には無線機が置かれ、アンテナが小窓から伸びている。
その脇には発電機と燃料タンクが置かれていた。
テーブルは全て端に寄せられ、その代わりに5.56ミリ弾の弾箱が積み上げられている。
中央には魔法界には場違いなプラスチック製のテーブルが置かれ、その上にはダイアゴン横丁の地図が広げられていた。
その地図の上には部隊の配置を示すマグネットが置かれている。
店の中には戦闘服姿の隊員達が右往左往していたが、その様子を店主のトムは不安そうに見ていた。
「武器弾薬、各種物資の搬入終わり。通信系設定も終了。隊員と闇払いを集めて作戦の最終確認に移ろう」
エスペランサはダイアゴン横丁の地図と睨めっこしていたセオドールに話しかけた。
「少し待ってくれ。まだ不確定要素が多い。遊撃班の配置をA-1ブロックからB-3に移したい」
「根を詰めるのも良いが、土壇場での配置変更は作戦そのものに支障を起こす可能性がある。それに、本作戦は1週間、情報収集をして精査した上で立てたものだ。心配し過ぎても返って悪い結果になるぞ?」
「確かに作戦は周到なものだ。しかし、本作戦は対ヴォルデモート勢力との初陣。失敗すれば敵の進撃の速度を早めてしまう。負けられない戦いなんだ」
エスペランサはセオドールの顔を見た。
目の下に深い隈がある。
「副隊長。昨日、寝てないだろう?」
「仮眠は取った」
「身体のコンディションが悪ければ勝てる戦も勝てなくなるぞ」
「ああ。そうだな」
セオドールは地図から目を離した。
現在、漏れ鍋の戦闘指揮所にいる隊員はエスペランサ含めて28名。
しかし、新入隊員はまだ戦力にはならず、基本的に補給等の後方支援に徹することになる。
また、隊長と副隊長であるエスペランサとセオドール、衛生班のフローラ、通信班のフナサカ、参謀のザビニは戦闘指揮所で指揮を執るため、戦闘には参加しない。
アーニー達5名は対巨人戦で不在。
そのため、本作戦での戦闘員はたったの8名となったのである。
本作戦というのは、オリバンダーの拉致を阻止する作戦だ。
リータが持ってきた情報によれば死喰い人は杖作りのオリバンダーとフォーテスキューというアイス屋の店主を拉致しようとしているらしい。
また、それを悟られない為に、別の場所で巨人を暴れさせるという情報も入ってきた。
センチュリオンは拉致を阻止するために行動する許可をダンブルドアにもらおうとしたのである。
だが、ダンブルドアは簡単に首を縦に振らなかった。
戦闘員がたったの8名だったからである。
そこで、ダンブルドアは闇祓いとの共同作戦にするように要求してきたのだ。
「君がエスペランサ・ルックウッドか?」
ライオンのような髪型をした男が足を引きずりながらエスペランサに話しかけてきた。
「ええ、そうです。魔法大臣候補のルーファス・スクリムジョールさんですね」
「如何にも。君に会うのはホグワーツで作戦会議をして以来だ。だが、君の組織を目にするのは初めてだ」
ルーファス・スクリムジョールはファッジの後任予定の魔法省職員である。
彼は元、闇祓い局長だ。
セオドールが立案した作戦をダンブルドアと闇祓いのキングズリーに開示する際に、スクリムジョールは陪席していた。
無論、マグル式の戦闘をメインにした本作戦の概要を彼等が理解したかは怪しいところである。
本来なら闇祓い達にも銃火器を用いた訓練をして欲しいところだったが、時間の関係からそれも叶わなかった。
「正直、君達の実力は疑わしいと思っている。噂によれば吸魂鬼を撃退する力があると言われているが……。見たところホグワーツの4から6年生ばかり。子供達だけで死喰い人を倒せるとは思わん」
「そうですね。ですが、自分には闇祓いが死喰い人を倒せるとも思えません。そこは、お互い様ってところでしょう」
エスペランサが嫌味を込めて言った。
魔法省の戦いでヴォルデモートを撃退したのはセンチュリオンであって闇払いではないのだ。
「君たちはまだ子供だ。ダンブルドアが君達を前線に送るのは反対と言っていた。私もそれに関しては同意見だ」
「何とでも言ってください。ただし、我々の足だけは引っ張らないで下さいよ」
「それはこちらの台詞でもある。それに……」
スクリムジョールはセオドールをはじめとしたスリザリン生の隊員をチラリと見た。
「君たちのメンバーには何人か死喰い人の親族を持つ者が居る。そんな組織の言葉を信じろという方が難しいだろう」
そう言い残してスクリムジョールは去っていった。
センチュリオンの隊員と闇払いの面々は戦闘指揮所の中央に集まった。
作戦決行前の最後のブリーフィングを行うためだ。
「では、これより作戦概要を再確認する」
エスペランサが隊員と闇祓いを見渡しながら言う。
センチュリオンの隊員達は真剣な表情で聞き入っていたが、闇祓い達の中にはあからさまにエスペランサ達を馬鹿にしたように見る者が何人も居た。
まるで、子供の飯事に付き合う親のような目である。
内心、苛立ちながらもエスペランサは言葉を続けた。
「本作戦における目標はオリバンダーとフォーテスキューの保護。そして、死喰い人の殲滅だ。だが、二つの作戦目標を達成しようとするには人員も練度も足りない」
作戦目標は一つであった方が良い。
複数の作戦目標を優先順位を付けずに達成しようとすれば、失敗のリスクが高くなる。
ミッドウェイ海戦が良い例だ。
「そこで、今回は事前にオリバンダーとフォーテスキュー両名を保護した。現在はホグワーツに避難してもらっている」
「つまり、死喰い人はもぬけの殻になっているオリバンダーの店とフォーテスキューの店に襲撃するということ?」
闇祓いとして作戦に参加するニンファドーラ・トンクスが聞いた。
「そうです。無論、この2人が避難した事を悟られては元も子もない。故に避難は今朝、秘密裏に行いました」
「それじゃ、別に今回は死喰い人や人攫いと戦わなくても良いんじゃないかな?」
トンクスの言葉に何人かの闇祓いが頷いた。
その光景を見たエスペランサは愕然とする。
「あなた達はこの戦争に勝つ気が無いのか!?死喰い人を倒せる機会があるというのにそれを見逃そうと言うのか!?」
「そうは言ってないけど……」
「闇祓いが何を考えているのかは知らないが、我々センチュリオンは死喰い人の殲滅を目指している。一人として生かすつもりは無い」
「へっ。餓鬼が粋がってやがるな。口だけなら何とでも言えるぜ?」
闇祓いの一人が小馬鹿にしたように笑う。
だが、相手にするだけ時間の無駄だと思いエスペランサは無視する事にした。
「話を戻す。今回の作戦は至ってシンプルだ。オリバンダーとフォーテスキューを攫いに来た敵を待ち伏せて殲滅すれば良い。詳しい作戦概要については副隊長から説明がある」
エスペランサに代わりセオドールが前に出てくる。
「作戦の概要を説明する。今回参加する戦闘員はセンチュリオン側から8名。闇払いが10名。合計して18名だ。混成部隊を編成している余裕は無い為、それぞれを独立部隊として運用する」
セオドールが作戦の概要について説明を始めた。
闇祓いとセンチュリオンは前述の通り共同訓練を行えていない。
つまり、互いに連携を取れない状態だ。
それなら、混成部隊を編成するのではなく、それぞれ別個に動いた方が良い。
「敵の勢力は現在、ノクターン横丁に潜伏中。よって敵が侵攻してくるルートは自ずと限られている」
セオドールは机に置かれた地図を指さした。
「ノクターン横丁とダイアゴン横丁は複雑に入り組んでいるようで実の所、1箇所でしか接続されていない。ここを押さえてしまえば敵の動きをある程度制限することは可能だ」
「敵が姿現しや箒で移動してくる可能性は?」
「ノクターン横丁からオリバンダーの店までは直距離にすれば1キロも無い。箒を使うメリットは無い。また、黄金虫から得た情報によれば今回、襲撃に参加する死喰い人と人攫いは10人を超える。もし、姿現しによる誘拐を企てるのならこんなに大人数を投入する必要は無い」
ただし、とセオドールは付け加える。
「姿現しと眩ましを使わないという保証は無い。姿眩ましで逃亡されては手の打ちようが無いのも事実だ。故に、初手で敵を殲滅する必要があるだろう。そのために今回は布陣を考えてある」
地図には狙撃班、遊撃班、そして闇祓いの配置が書かれている。
闇払いは全員、フォーテスキューの店に配置されていた。
「本作戦の名前はトラシメヌスと呼称する。状況開始は30分後。各人、配置に付いたならば無線を利用して報告せよ。魔法は一切使うな。傍受される可能性がある。概要説明は以上。別れ」
セオドールの号令で隊員達は三々五々、準備の為に走り出した。
センチュリオンの戦闘員8名は各々、配置についていた。
ネビル、チョウ、コーマック、スーザン、アンソニー、ロジャー、アンドリュー、スローパー。
今回、オリバンダーの店の中で敵を待ち伏せする隊員はこの内、アンソニー、ロジャー、アンドリュー、スローパーの4人である。
この実行班の指揮を任されたアンソニーは緊張のあまり、手が震えていた。
薄暗いオリバンダーの店の中で4人の隊員達はサイレンサーを装着したM733を握りしめている。
商品である杖を入れた木箱が所狭しと積み上げられているおかげで身を隠すのは簡単だった。
吸魂鬼やヴォルデモートとの戦闘に参加した経験があるアンソニーだが、人間を殺した経験は無い。
今回の作戦は敵の殲滅、すなわち、死喰い人達の殺害を目的としている。
死喰い人を殺す事に否定的な考えは持たないが、それでも、殺人をするという行為には未だ抵抗があった。
敵を前にして自分は本当に引き金を引く事が出来るのだろうか……。
『こちらHQ。人攫いと思われる集団がノクターン横丁からダイアゴン横丁に向けて出発した模様。数は5。その内一人は死喰い人と思われる。オリバンダーの店への着予定時刻およそ5分後』
「こちらアンソニー。了解した」
無線機で敵の出現を伝えられた実働部隊の4人は表情を硬くした。
「心配するな。訓練通りにやれば良い」
アンソニーは他の3人の緊張を解すためにそう言う。
だが、その実、この言葉は自分に言い聞かせるためのものだった。
4名の隊員達はそれぞれ、棚や机の裏に隠れ、銃を構える。
「見えた!敵、グリンゴッツ方面から真っ直ぐ向かってきている。数は5。間違い無し」
窓から外の様子を伺っていたロジャーが報告した。
今日のダイアゴン横丁の路地は人通りが多い。
本来なら通行制限等をして一般人に危害が及ばないようにしたいところだが、そうしてしまうと死喰い人達が不審がる可能性がある。
故に、通行制限も何もしていない。
一般人が行き交うダイアゴン横丁の表通りだが、その中にフードを被った明らかに怪しい人間が5人、オリバンダーの店に向かってきている。
よく見れば全員、杖を構えていた。
4人の人攫いを1人の死喰い人が指揮しているのだろう。
人攫いはアウトローな集団かつ、能力も低い。
故に死喰い人を指揮官にしているのだろう。
だが、彼等は人を攫うことに関してはプロだ。
その動きに無駄は無い。
フードを被った5人の敵は買い物客に紛れ込み、オリバンダーの店に向かってくる。
アンソニーは自身の持つM733の安全装置が外れている事を確認し、大きく息を吸った。
死喰い人と人攫い達は店の前に辿り着くと、杖を掲げ、勢い良く店の中に突入してくる。
ドアを蹴破り、積み上げてあった箱を魔法で吹き飛ばし、怒号を上げながら5人の男達は店に入ってきた。
だが、店の中に居たのはオリバンダーでは無く、戦闘服に身を包み、小銃を構えたセンチュリオンの隊員達であった。
「撃ち方始め!」
アンソニーの号令で隊員達は身を潜めていた棚や木箱の裏から容赦なく銃撃を開始する。
彼自身も躊躇いなく引き金を引いた。
サイレンサーのお陰で眩いマズルフラッシュは出ず、銃声も聞こえない。
しかし、銃口からは5.56ミリ弾が数十発も発射され、人攫い達の身体を貫いていった。
「うっ」
「ごはっ」
突然の銃撃に成す術もなく倒れる人攫い。
悲鳴をあげることすら出来ず、血飛沫を上げて肉塊となっていく男達。
彼等は死ぬその瞬間まで自分の身に何が起こったのか理解出来なかっただろう。
「撃ち方止め!」
アンソニーの号令で全員、射撃を終了する。
残弾にはまだ余裕があったが、敵は沈黙しているし、これ以上無駄弾を使う必要は無いだろう。
何の躊躇も無く引き金を引くことの出来た自分自身に驚きと恐怖を感じつつ、アンソニーは硝煙の漂う店内を見渡した。
死屍累々。
その言葉が今の光景を表すのにふさわしいだろう。
「やっ……たんだ。俺……」
スローパーがボソリと言う。
彼の口からはカチカチという音が聞こえていた。
震えで歯と歯がぶつかる音だ。
訓練と何ら変わらない。
ただ、号令に従い、そして引き金に少し力を加えただけ。
それで、5名の命が瞬く間に失われたのだ。
人を殺すことを躊躇わないという点でセンチュリオンと死喰い人の間に差はあるのだろうか。
(ある。俺達は正義の為に戦っているんだ。この殺戮は正当なものだ)
アンソニーは自分自身を納得させようとした。
「ぐっ……うう……」
突然、足音で呻き声が聞こえ、隊員達は慌てて銃を構える。
銃撃でボロボロになった床には5人の男が血塗れで倒れていたのだが、その内の1人はまだ息があるようだった。
「こいつ、生きている。とどめを刺すか?」
ロジャーが男を半長靴でひっくり返しつつ言う。
倒れていた男は人攫いを指揮していた死喰い人だった。
まだ若い。
年齢は25.6といったところだろう。
ヴォルデモート全盛期にはまだ未成年だった筈だ。
「お、お前達……一体……何者なん……」
苦痛に顔を歪ませ、死喰い人はアンソニーを見る。
アンソニーは一瞬だけ躊躇った後、引き金を引いた。
発射された5.56ミリ弾は男の眉間を撃ち抜き、彼の生涯を終わらせる。
「これで……良いんだよな俺達」
血溜まりに沈んだ死喰い人を見下ろしながらスローパーが漏らした。
「スローパー。作戦はまだ終了していない。感傷に浸るのは後にしろ」
アンソニーはスローパーに強めに言った。
彼自身、多少のショックを受けていたが、感傷に浸っていては任務に支障が出る。
作戦はまだ終わっていない。
それに、この戦争は始まったばかり。
(そうだ。俺達が戦わなければ平和は訪れないんだ。だから、迷わずに引き金を引き続けるしか無い)
震える手を無理やり抑え、アンソニーは銃を握り直した。
フェンリール・グレイバックはある意味で幸運だった。
彼は狼男である。
しかも、子供を襲う事に快楽を覚える狂人だ。
かつて、リーマス・ルーピンを狼男にしたのはグレイバックだった。
リーマスの父親であるライアル・ルーピンは魔法生物の規制管理部の一員だった。
そして、マグルの子ども2名の死に関与した疑いで取り調べを受けるため、魔法省に連行されてきたグレイバックと出会ったのである。
当時、狼人間登録室は出来たてほやほやの部署であり、組織として未熟だった。
狼人間は今と変わらず魔法界で忌み嫌われていた為、人狼達は地下に潜り、群れを成して登録から逃れていたのである。
故に当時の魔法省はグレイバックを人狼と知らず、当のグレイバックも自らをマグルだと偽り、尋問を逃れてしまった。
唯一、ライアルのみがグレイバックを疑い、その場で怒りを買ってしまった為、後日、報復とばかりにルーピンが襲われたのだ。
グレイバックは人狼は人間を噛む権利があるという主張をし、勢力を拡大させた。
彼がヴォルデモートの配下になったのは単にヴォルデモート支配下の魔法界の方が好き勝手に出来ると判断したからに過ぎない。
逆にヴォルデモートもグレイバックの組織する人狼グループの利用価値を理解したからこそ、彼等を優遇している。
現在、英国内に居る人狼の殆どがグレイバック指揮下にあった。
その事は英国魔法界では常識であり、グレイバックの名は恐怖の対象である。
さて、今回のオリバンダー及びフォーテスキューの拉致作戦に駆り出されたグレイバックだが、正直な話、乗り気ではなかった。
襲撃対象は子供ではなく老人であるし、殺傷は厳禁とされていたからだ。
それでは何の快楽も得られない。
オリバンダーの殺傷は厳禁とされていたが、フォーテスキューに関しては殺傷しても構わないとの指示があったので、グレイバックはオリバンダー拉致グループではなくフォーテスキュー襲撃グループに加わる事にした。
もし彼がオリバンダー拉致グループに加わっていたら、アンソニー達の銃撃であっという間に蜂の巣にされていただろう。
だから、ある意味で幸運だったのだ。
グレイバックとその配下の人狼2人、人攫い4人がフォーテスキューの店に着くと、そこには先客が居た。
無論、闇祓い達である。
「グレイバックだな?貴様らは包囲されている。大人しく杖を捨てろ」
店先で闇祓いの一人が言う。
グレイバック達を取り囲むようにして10人程の闇祓い達が杖を抜きながら近寄ってきた。
待ち伏せしていたとしか考えられないが、予期せぬ敵の出現に人攫い達は混乱する。
「どういうことだ?俺達の行動が筒抜けになっていたのか」
グレイバックは驚きを隠せなかった。
周りを見渡せば、買い物客や通行人が悲鳴を上げて逃げ惑っている。
無理もない。
アイスクリーム屋の店先で闇祓いと人攫いが一戦交えようとしているのだから。
闇祓い達は店先のパラソルやテーブルを強引に蹴飛ばしながら人攫い達を拘束しようとしてくる。
事前の打ち合わせで人攫いは見つけ次第、即刻殺害としていたにも関わらず、彼等は拘束という手段を選んだ。
数の上で有利である事に加えて、殺人に対する躊躇が少なからずあったからだ。
その迷いと不安をグレイバックは察した。
「どいつもこいつもぬるま湯に浸かったような顔しやがって……」
彼はニヤリと笑うと杖を地面に向ける。
グレイバックの意図を汲んだ他の人攫い達も杖を出した。
「杖を捨てろ!」
闇祓い達が叫ぶ。
だが、グレイバックも人攫いも杖を捨てない。
そして……。
「「コンフリンゴ・爆破せよ」」
一斉に周囲を爆破した。
血の匂いが漂うオリバンダーの店から出たアンソニー達は近くで何かが爆発した音を耳にした。
オリバンダーの店とフォーテスキューのパーラーは直線距離にして100メートルも離れていない。
「何だこの爆発音は?」
スローパーがM733を構え直す。
爆発音はフォーテスキューの店の方からした。
悪い予感がする。
見れば爆発音のした方から一般市民が我先にと逃げてくるではないか。
遠くには黒い煙も見え、悲鳴も聞こえる。
「まさか……闇祓いの連中、反撃に遭ったんじゃ?」
「そのまさかかもしれん。兎に角、急ごう」
アンソニーを先頭にしてセンチュリオンの隊員達は走り出した。
逃げてくる人達を押し除け、やっとのことでフォーテスキューの店まで辿り着いた隊員達は絶句する。
路地の地面は抉れ、街路樹は薙ぎ倒され、店先のテーブルやパラソルは跡形もなく吹き飛ばされていた。
そして、闇祓い達が血塗れのまま地面に倒れ込んでいる。
呻き声が聞こえることからまだ生きてはいるようだ。
「何だ?まだ仲間が居たのか?」
爆心地と思われる比較的被害の少ない地面に立つ男がアンソニー達を見て言う。
身なりは見窄らしく、猫背気味。
だが、鋭い牙や獣を感じさせる目から、隊員達はこの男が狼男のグレイバックである事を悟った。
他の人攫い達もセンチュリオンの隊員に杖を向ける。
「散開!付近の物を掩蔽として敵の攻撃を回避しろ!」
アンソニーは隊員達に指示をした。
隊員達は咄嗟に吹き飛ばされていたテーブルや街路樹の裏に身を隠す。
グレイバックをはじめとした人攫い達はありったけの呪文を放ってきたが、間一髪のところでそれらを避けることに成功した。
閃光が遮蔽物に当たり、火花を散らす。
「スローパー!隊長に報告しろ!グレイバックの反撃を受けた。被害甚大。闇祓いは壊滅!」
「り、了解」
スローパーは携帯型無線機で本部に通信を試みるが、手が震えて送信機を落としてしまう。
「あそこだ!テーブルの裏に隠れてやがる。まとめて吹き飛ばしてしまえ!」
グレイバックがスローパーの隠れている場所に爆破呪文を撃ち込んだ。
凄まじい爆発と共に付近一体が吹き飛ぶ。
街灯がへし折れ、粉塵と共にスローパーが宙を舞った。
そして、ドサリと路地の中央に落ちる。
「スローパー!くそっ!ロジャー、アンドリュー援護射撃をしろ。俺がスローパーの救助に行く」
「了解!アンドリュー、3カウントで射撃開始」
アンソニーは身を潜めていた街路樹の影から踊り出した。
それと同時にアンドリューとロジャーも伏せ撃ちの姿勢で射撃を開始する。
タタタンタタタンというリズミカルな音と共に5.56ミリ弾が発射され、人攫い達に襲いかかる。
「ぐあっ!」
グレイバックは咄嗟に盾の呪文を展開させたが、対応が遅れた1人が血飛沫をあげて地面に倒れ込んだ。
「何だこの攻撃!?まさか、こいつら……神秘部で死喰い人を壊滅させたという連中なのか?」
「どうします!?」
「敵の攻撃手段が分からん。とりあえず盾の呪文を展開しつつ、反撃のチャンスをうかがえ!」
その言葉を聞いて人攫い達も盾の呪文を展開させた。
荒くれ者ではあるが、グレイバックの戦闘能力は死喰い人に匹敵する。
アンドリューとロジャーが交代で援護射撃をしている中、アンソニーは爆発に巻き込まれたスローパーのところに駆け寄った。
グレイバックの放った爆破呪文は幸いにもスローパーを直撃はしていなかったが、状況は思ったよりも悪い。
爆破で吹き飛んだテーブルや地面の破片がスローパーの身体を切り裂いている。
「大丈夫か!?」
「う……うう」
スローパーは苦痛で目を閉じていた。
顔色も悪い。
アンソニーは彼をまだ吹き飛ばされていなかった隣接する店舗の影に引き摺り込む。
「今止血してやる。少し我慢しろ……」
アンソニーはそこでスローパーの太腿の内側に巨大なガラス片が突き刺さり、大量に出血しているのを目にした。
恐らく、大動脈を傷つけているのだろう。
この調子で出血していけば命が危ない。
かと言ってアンソニーに現場での応急措置が出来るほど医療の知識は無かった。
一応、止血帯は持参しているがそれを取り出す時間も惜しい。
「仕方ない。ペトリフィカストタルス・石になれ」
彼はスローパーに全身金縛りの呪文をかける。
たちまちスローパーの身体は石のように硬直した。
この魔法なら一時的に出血を止められる筈だ。
アンソニーはその後、スローパーの持っていた携帯型無線機の送信機を掴む。
「こちら実働部隊アンソニー。HQ送れ」
『こちらHQ。爆発があったようだが、何があった?』
「エマージェンシーだ。闇祓い達が反撃に遭い、被害甚大。敵は人攫いとグレイバックで、数は6。現在交戦中。尚、スローパーが負傷した」
『何っ!?』
「意識朦朧。自力歩行不能。出血あり。恐らく大動脈を傷付けている。全身金縛りの呪文で止血したが、時間の問題だ。緊急後送の要あり。増援求む!」
『了解した。こちらから衛生班と増援を派出する。それまで持ち堪えろ』
通信が終わる。
アンソニーは無線機を掴み、銃を掲げると再び表通りに走り出した。
アンドリューとロジャーの二人は果敢に攻撃しているが、救援が来るまで持ち堪える事は困難だ。
表通りに踊り出したアンソニーはすかさず人攫い達に銃口を向ける。
が、人攫いの一人が魔法で射出した街路樹が先にアンソニーを襲った。
「何っ!?」
躱せるタイミングでは無い。
街路樹はアンソニーの右肩に高速でぶつかる。
骨の折れる音と共に激痛が彼を襲った。
「アンソニー!」
「くそっあそこだ!」
アンソニーが倒れるのを目撃したアンドリューとロジャーが人攫いに掃射する。
人攫い達は盾の呪文で銃撃を阻止しつつ、手近にある折れた街路樹や街灯、地面の残骸を魔法で飛ばしてきた。
二人は建物の陰に身を隠して攻撃をやり過ごす。
「手榴弾だ。手榴弾を投擲しろ!」
痛みを堪えつつ、アンソニーが指示をとばす。
アンドリューとロジャーは素早く手榴弾のピンを抜き、投げ付けた。
大量の破片を撒き散らしながら破裂する手榴弾。
人攫い達は一瞬怯み、攻撃の手を止めてしまう。
その隙を逃すまいとアンドリュー達はありったけの弾丸を撃ち込んだ。
それに加えてまだ動ける闇祓いが倒れながらも魔法で応戦し始める。
これにはグレイバックも形勢不利と感じたようで防戦一方となった。
「ここは一旦引いて態勢を立て直すぞ!付いてこい!」
グレイバックは仲間を引き連れてノクターン横丁とは逆の方向に走り出す。
人攫い達もその後に続いて走り出した。
「敵、後退を開始し始めた!後を追うか?」
銃を構えたままのロジャーが言う。
「無理だ。負傷者が多過ぎる。今戦闘可能なのはロジャーとアンドリューの2名だけだ」
「しかし……このままでは敵を逃してしまう」
「敵の追撃は遊撃班に任せろ。今は負傷者の搬送が先だ」
アンソニーは痛む右腕を押さえながら座り込んだ。
アドレナリンが出ているのか、思ったよりも痛みは少ない。
しかし、何故、敵は姿眩ましで逃げなかったのだろう。
それに、逃げた方面はノクターン横丁では無い。
「何故……アジトのあるノクターン横丁に逃げなかったんだ。いや、それよりも、連中はどこへ向かったんだ?」
アンソニーはグレイバック達が逃げた方向を見る。
彼の記憶が正しければ、その方向はロンドンの市街地、すなわちマグルの世界がある筈だった。
新学期が始まってないのに物騒な魔法界。
コミケに行って来ました。
近所のスーパーの方が密だなと思う程ガラガラでした…