GATE ~幻影 彼の空にて 斯く戦えり~(更新停止中) 作:べっけべけ
そして亀更新に引き続きまして、これから就職なのでしばらくお休みさせていただきます。
「今日こそ炎龍退治だ。お前ら」
「「うぃっす!」」
ブリーフィングルーム。いつものホワイトボードの壁を背に隊長が今回の作戦の内容を説明していく。
今日は以前遭遇した炎龍討伐の作戦当日。4、5日前から陸さんの対炎龍の部隊が既に出発しており、一個大隊程の量の車両がアルヌス駐屯地を後にしていた。
まさにその光景は大怪獣でも出たかのようで、一個大隊はあるんじゃないかと思う程の車両数が大名行列のように続いていた。
戦車などが踏み潰される程炎龍は大きくもない(?)し口からは放射能などではなくナパームに近い火炎しか吐く事はできないので恐らく多大な被害を受ける事は無さそうだろう。
「やっと俺達にも出番が来たんですね」
「ああ。あの時は炙られたからな。その時の仕返しができるってもんだ」
「隊長、また突っ込んだりしないで下さいよ?」
「わーってるって」
「どうだか……」
4人は雑談を交えながらも靴音を廊下に響かせて
いつも特撮の画面の中じゃ航空自衛隊は……3~4機が何処からともなく編隊飛行でやって来る。
派手にロケット弾などの兵装を放つが幾発か弾かれ、おまけに怪獣から尾翼辺りに攻撃を受けて、黒煙を吐きながら離脱していくか虚しくも爆散する俺達空自パイロットだが……現実じゃそうそう違うという事を見せつけてならないとな。……誰が見るのかは俺にもわからんが。
『タワーよりホークウインド01、02。エンジン始動許可』
『01、
『02、
整備員の人とハンドサインを出しながらエンジン始動を始める。
エンジン始動車の準備が完了、人差し指をクルクルと回して【空気送れ】の合図。整備員がエンジン始動車の機材を操作すると、甲高いコンプレッサーの雄叫びが滑走路に響き渡った。
接続から5秒程で二つ並ぶうち右側の方のエンジン回転計が動き出す。エアーが入り始めているのでエアーインを示す為右手は握りしめ拳を作っていた。
5%……10%。
『10%ー』
『はい10%ー』
イグニッションを作動させながら右スロットルだけをOFFの位置からIDLEへと推し進め、握っていた拳からは人差し指が突き出され10%を意味して不動になっていた。
『20%』
『はい20%ー』
立たせる指は1本から2本に。
2列に並ぶエンジン系統のうち右側1列の計器では徐々に動いていく指針が幾つか見られた。
最初に動き出した回転数を指し示すメーターを筆頭に吸入口温度計、排気温度計なども目を覚まし始めていた。
『30%』
『はい30%ー』
次第に立つ指の本数が増えていく。グローブ越しにぶつかる風は真夜中な為かどことなく冷たかった。
『40、カット』
『はいエアーオフー』
整備員の手によって胴体右下から高圧空気を送る為の太いホースの接続が外されると、今度は反対側の接続部分に取り付けられた。
そうして今度は左側のエンジンの始動に取り掛かり、俺はピースの要領で2本指を立てて再び【空気送れ】の合図を送った。
滑走路上には赤いダンダラ模様を垂直尾翼に刻んだ2機のF-4EJ改ファントムⅡ。星が幾つか浮かぶ夜空の中、翼端や機首下に設けられた航法灯や編隊灯などといった照明の類いを規則的に光らせていた。しかしその中でも一際輝いているのは足元を照らす着陸灯であり、その光度により2機の周りは照らされていた。
それぞれの方向舵等操作系統の動作確認は既に実行済みであり、斜めに並んだ二羽の老兵はその重たい腰を上げた。
『ホークウインド、
隊長の告げる合図に合わせてこちらもブレーキを解除。ほんの少し上下方向の振動が身体を揺らすと視界に映る左右の景色はその流れの勢いを早めていった。
いつもなら既に操縦桿を引いている速度にまで達する。しかし今回の装備は
文字通り腰が重い老兵は走り出す。自身に課せられた今日の仕事を終わらせる為に、数百年もの間異世界で続いてきた食物連鎖の頂点の存在に終止符を打つ為に。
そして二羽は飛び立つ。星の瞬く夜空を背景に、周囲を揺らす轟音と揺れる陽炎を引き連れて。
暗い空。まだ夜明けの兆しも見当たらない空のキャンバスには煌々と輝く星々が散りばめられており、その綺麗さは目の前の計器自身が自らを照らす為の赤い照明が煩わしく思える程だった。
もちろん夜間飛行なのでバイザーは降ろしてはいない。本来ならバイザーはバードストライクなど緊急の際顔面を保護するので常時下げておく事が規定だが、この状況で降ろすと俺には計器とHUD以外が見えなくなる為致し方無い。
それにこの真夜中に鳥が飛んでいる事はほぼ無いだろう……周辺の動物についての報告では一応ミミズクやフクロウなど夜行性の鳥も居るには居たが。
『シュワルツの森まであと3分』
『
『テュベ山です、隊長。自分で説明してたじゃないっすか』
『そうだっけか?』
現在、アルヌスを飛び立ち方位
上は青、下は緑。昼間ならそういった似たような景色だけがひたすらヘッドアップ・ディスプレイの向こうから後ろへと流れていくのだろう。
しかし今現在は深夜4時前。真っ暗な中では上下の判別も計器と星空以外で目印になる物は何一つ無かった。ほとんど動かない星と何も見えない地表では何も見えなかった。
日本では山などには自動販売機や街灯、海には漁船など少なからず明かりが何処かにはある筈なので地表が真っ暗……何て事はほとんど無いのだが、ここは特地。連絡に使われる烽火や照明に使われる焚き火や松明の小さな炎達だけだった。
(これじゃ
そんな暗い中で変わるものと言えばせいぜいヘッドアップ・ディスプレイに映る対気速度の数字の1桁目と姿勢指示の水平線が僅かに上下を繰り返す程度だった。
これで【計器が故障している】などと思い込めば、機体が地面と熱烈なキッスを交わす事はまず避けられないだろう。
『あ~一面のクソミドリ』
『どうした西元?わざわざ無線開いてまで。てかこんなんじゃ
『いや、何となく』
(やっぱネタ通じねぇなぁ……)
若干戸惑いと笑いを含んだ声で瑞原が聞いてくる。最近門の向こうで話題になっているらしいF-35には色々と便利な機能が盛り沢山らしく、なんでも視界にずっと様々な情報が映されるらしい。
もしそれがあればこうして夜間飛行の際にも目を凝らして周囲を見ずに済むってもんだ。
『暇だ。てか絶対この任務
F-2には確か夜間でも精密な爆撃を可能にするポッドがあったはずだ。赤外線だとかでハッキリと目標を捕捉できる機材の方が向いているかに思うが……。それに噂じゃJDAMとかいう爆弾も使えた筈だ。
『そう言うなって。俺達の独壇場なんだから、
座席に押し付けていた頭を前へと戻して座り直すと、左に設けられたレーダー・ディスプレイには小さな丸い表示が映し出されていた。
『IFF
その報告を皮切りに、ポツポツとレーダーには反応が出始めていた。しかしそれらは全て丸い表示であり、どれも陸上自衛隊の所有するヘリの類いと思われる友軍機からの反応だった。
それにしてもIFFがきちんと作動していて良かった。昔のソ連からの亡命してきた某中尉の騒ぎの際のように航空自衛隊と陸上自衛隊とでIFFがきちんとやり取りをできなかった……なんて事はその時で最後にして欲しい。
味方同士でIFF応答無しの国籍不明機として捉えて矛先を向け合うなんてのは馬鹿げた話だ。
『陸さんに挨拶でもしてくか?』
『するなら言ってくれ。計算し直さなきゃならん』
『んじゃロールだけにするか。西元!エンジェル2!』
『ラ、
隊長の指示に従って上下が反転、現在高度
そして数分。
遠くの森の上空に豆粒のように小さな光が浮いているのが目に入る。
『
先行する隊長も見えたらしく、俺と隊長との距離はドンドンと近づいていく。
隊長から見て俺は9時方向に、俺から見て隊長は3時方向に並ぶとその距離は警戒装置が鳴り響く程で、翼端と翼端との距離は10m程に縮まっていた。
『ロール……ナウッ』
隊長が「ナ」と発言する瞬間に操縦桿を一気に左に倒し、世界がひっくり返る。
一回転……身体が右コンソールに向かって押し付けられる。
二回転……ハーネスが身体に食い込み、座席から浮くのを阻止。頭には鉛でも入れたかのように重たい感覚が出始める。
三回転……目の奥に異物感。目に血液が流れているというのが手に取るようにわかる。おもわず
『リカバリー……ナウッ』
五回転目にて水平で停止。ロールを打ち消す為に操縦桿を逆側に大きく倒した。
『ゴホッゴホッ……ほんと
ロール後、瑞原が咳き込みながら先程の感想を言う。操縦桿を握る俺は自分の意思で操作しているが彼はどんな感じだったのだろうか。
『楽しかったろ?』
『んなわけあるかい』
そんなやり取りとしつつ高度を
ロールしながら一瞬で陸自ヘリの編隊横を脇目もふらず通り過ぎる俺達。彼らの目にはどのように映っただろうか。
『もうテュベ山が見えてくる。報告だとあの中には伊丹二等陸尉が居るはずだ』
夜明け直後の赤い空。その紅に照らされ、小さく見えるテュベ山は神々しさと骸のような静けさがあった……が。
『隊長、あれ煙ですよね?』
『ああ。以前は何も無かったのにな』
まだほんの少しだけしか視認できない山の山頂にポッカリと開いた火口から一筋の黒煙。
『ヤタガラスよりホークウインド隊。テュベ山山頂に目標がふたつ。至急迎撃を求む』
『
『
『
無線に合わせMASTERのスイッチをパチンと
『クソっ山が邪魔しやがる』
その言葉の通り、先程からレーダー・ディスプレイには
反応が山肌にかなり近い場所にいるからかコンピュータは
このままだと視認可能な距離に近づかなければ敵を確認する事ができない。それはレーダーに頼る筈の
『瑞原、
『だな。固定モード』
当初の予定では最初に
レーダーは役に立たない。赤外線で直接狙うのが早いだろう。
数十秒後。テュベ山にもだいぶ近づき、山頂の目標がようやく見えてきた。
『
『シーカーオープン』
瑞原から
『
『完全に別目標だが、伊丹達が追われているのを
『
『了解、
朝焼けの空に照らされてなお、黒光りする方のドラゴンへと視野円を合わせ、その中にスッポリと収める。するとその瞬間にロックオン完了の電子音が鳴ったので右手の親指は赤い兵装レリーズを2度押した。
シュゴッというロケットモーターが点火、推進していく音と共に黄色い噴射炎が左右から放たれる。
白煙を尾にして2匹の蛇は視野に入っている中で最も航空機と思しき熱源体へと突っ込んでいき……
数秒後、マッハ2に達するというところで弾着。山肌に沿って飛んでいた目標は土埃を上げながら地表と見事な接触をしていた。
そしてそれは隊長の担当する目標《赤》も同じで、仲良く2匹は墜落していた。
兵装のモードを切り替え
『ホークウインド01、FOX3!』
『02、FOX3』
隊長の宣言と共にこちらも引き金を一気に引いた。
一段階目の操作を感知。HUD後ろに取り付けられたガンカメラ作動、一連の流れの録画を開始。
二段階目。火器管制システムに指示、JM61A1の6本ある銃身がモーターによって回り出す。
それぞれ機首の下に設けられたJM61A1バルカン砲から20mmの曳光自爆榴弾と徹甲弾が混ざりあって放たれる。
外に居る者からは多大な破裂音が聞こえるだろうが、撃っている本人である俺にはゴーっという何か低い機械の動作音のような音と細かい振動が尻を荒々しく撫でるだけだった。
墜落していた2匹のドラゴンに200近くの数はあろうという弾丸がそれぞれ襲い掛かる。
引き金に指を掛けてから2秒後。墜落を避ける為、俺は操縦桿を引いて機首の引き起こしにかかっていた。
周囲に跳ね回る幾つもの黄色い光線が跳弾の恐ろしさを物語る。ここからでは小さく見える弾丸もよく考えてみれば20mm……人体はおろか、機体の当たりどころによっては損傷、操縦不能に陥る可能性は十分に含んでいた。
冷や汗が頬を伝う。
『ホークウィンド01!目標を地面へ追いやった!』
隊長が報告する。機首を上へと向け上昇する中振り返ると、山肌に噴き上がる土煙が攻撃の猛々さを物語っていた。
『トレボー、
その報告を受けた俺達ホークウィンド隊はすぐさま
高度計を指し示す針が回り出す。
『だんちゃーく……』
『今!』
木々の隙間に浮かぶ1機の
『
テュベ山より北に17km。シュワルツの森とテュベ山の境に拓けたとある広い空き地では特科部隊の75式自走榴弾砲が横一列に並んでいた。
『ってー!』
何をしているのか理解していないダークエルフ達や白髪に黒いアイパッチが印象的なエルベ藩王国の国王デュランをよそに、無線に合わせて次々に炎の三つ葉模様を空に描いていく。
一斉放火により降り注ぐ155mmの榴弾の雨は、未だに山肌へと縫い付けられていた2頭の新生龍へと容易く襲い掛かる。
遠い空気の揺れ。再びやってきた大粒の黒雨は山肌を覆っていた黒煙の中を切り裂いて進み、幾つものクレーターを新しく形成していく。
『砲撃待て。コブラ、前へ!』
『
その無線を皮切りに、機首に20mmのM197機関砲を、胴体横の兵装下には8発のTOWミサイルと合計76発の70mmハイドラロケット弾をぶら下げていた攻撃ヘリ……
『ヤタガラスよりコブラ第1目標赤、 コブラ第2目標黒』
『コブラ1、了解』
『コブラ2、了解』
『TOW、発射よーい』
『発射!』
2機のコブラからそれぞれ発射のコールが送られると、
その後、幾つもの爆発音が夜明けのテュベ山周辺に轟いた。
『ヤタガラスより。目標の沈黙を確認。撃ち方止め、撃ち方止め』
ホークウィンド隊による攻撃を始めてから約3分。特地に生まれ落ちた2つの新生龍は、その生涯に幕を下ろした。
彼らの四散した身体は辺りに真っ赤な血の池を形成し、辺りには肉の焦げたような鼻を刺す重く酸っぱい臭いが立ち込めていた。
『そろそろタンクが
そう久里浜さんが言う。
『
『02、
『
隊長に続いて操縦桿を左に倒す。視界の先にはもうドス黒い煙ではなく、赤く燃え上がる朝焼けの空が広がっていた。
方位指示器と人間ナビこと久里浜さんの合図により針路を変更。そのままアルヌス駐屯地のある北へと向かって行く。
『伊丹回収班、前へ』
すると、そこではちょうど火口付近にて照明を点灯させながらホバリングする機体からラペリング降下を行う陸自の隊員達の姿が僅かながら見えた。
無事だと良いな……今回の作戦の要救助者であり、噂のバカと言われている
俺はゆっくりとした動作で左手をスロットルから離すと、
場所は変わってアルヌス駐屯地空自区域。朝焼けが終わりすっかり青い空の下の
機体の30m後方では地上要員の手によってドラッグシュートの回収が行われていた。
「よく
今回の作戦での弾薬の消耗は
何でも、その結果などを制作した企業の人や防衛省の方に報告するのだそう。
「そうかそうか、うちらの作ったミサイルちゃんと当たったか。良かった良かった」
なんて事を以前の炎龍の戦力評価の際に使用した
日本じゃほとんどが廃棄される実弾。使ってなんぼの弾薬はここ特地くらいでしか使用されていない。一方的過ぎる戦力差とはいえ一応実戦の戦闘区域である特地では俺達航空自衛隊よりも陸上自衛隊の小火器及び車両などの弾薬や燃料の消費ペースが例年の数倍に跳ね上がっているそうだ。
……予算足りんのかなぁ?いや、無理か。
久里浜さん曰く、エルベ藩王国の北部には黒水と呼ばれ石油らしきものが湧き出る”呪われた燃える沼”という地区があるらしい。もし分留させることができる施設ができれば燃料の補給問題は解決するだろう。
一応特地は日本と直接繋がっているのでここで取れた資源は日本の物であると一応言い張っているが、そんな事は一部の党が許さない。
やれ、「これは侵略戦争だ」
やれ、「自衛隊は犯罪集団だ」
やれ、「首相は殺人集団を支持している」
毎日のように報道されるのは自衛隊批判ばかり。伊丹二等陸尉が救出したとされる拉致被害者も、そんな事は存在しない自衛隊によるでっち上げだと"自称"評論家は言う。
理由としては、まだ特地へのマスコミや野党の立ち入りが認められていないのと、自衛隊による情報公開がほとんどされていないからだった。
論より証拠とは言ったものだが、その証拠が世に出ない為に論だけが世間を渡り歩くこの状況。
マスコミが取り上げる偏った報道で与党の支持率は下がりつつあった。
亡くなった人へ一輪の花も餞る事無く、片言の日本語で「ジエイタイ、ハンタイ!」と騒ぐ銀座のデモ参加者はさておき。特地は特地で新たな問題が発生していた。
さて、次の更新はいつになるかわかりません。なので一応未完という形にしておこうと思います。
こんな小説でも読んでくださった方ありがとうございます。