俺のお嬢様は、最近なんだか活発すぎる   作:ogyo

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 中盤のテンションと後半のテンションが違い過ぎる件。(土下座)


第九話 『無能な聖剣』

「マコト。……話が長いよ」

 

 開口一番、アイリーンが言い放った感想はこれだった。

 今、街はすでに夕焼けに包まれている。このカフェについたのが昼過ぎなので、もう五時間くらい話し続けていたことになるのだ。

 飽き性のアイリーンが、よくここまで聞いてくれたと思う。

 まあ、おそらく話の内容から俺の気持ちを気遣ってくれたのだろう。

 

「でも、結局マコトさんの能力ってどんなものなんですか?」

 

 飲み物を飲みほし、クリーミネは首を傾げた。

 そう言えば肝心なことを言ってなかったな。

 

「神力っていう特別な力の放出だよ。魔法みたいに神力を使って氷や炎を形成したりできないけど、圧倒的な高火力攻撃が撃てるのが強みだな」

 

 この力にリスクは存在しない。能力の元となっている神力が無限に存在するため、攻撃は無限に撃つことが出来るのだ。 

 ほとんどの防御魔法を貫通し、攻撃魔法に至っては消滅させる。

 けん制、なんて生ぬるいものじゃなく、始めから全力で相手を殲滅する力。

 

「この力があればどんな敵も一撃で倒れる。威力で言えば魔力の五十倍はくだらない神力の放出が、体への負担なしで撃ち放題だ。そりゃ、誰でも欲しがるわな」

 

 だが、使用条件はある。

 

 一つ、敵が自分と周りに害成す存在であること。

 

 二つ、能力の使用は反撃する場合でしか認められない。

 

 この二つのうち一つでも条件をクリアしていれば能力は撃てる。

 反撃でしか使用が出来ないとは、自分が先制攻撃としてこの力を使ってはいけないということ。

 つまり、俺は相手の攻撃を一回躱す、または受けることをしないと能力は使用できないのだ。

 

 あれ……これリスクじゃね? と、思う人もいるだろう。

 が、この条件は戦闘が開始された時点で大体の場合勝手にクリアされる。

 一つ目の条件に注目してほしい。

 

 『一つ、敵が自分と周りに害成す存在であること。』

 

 ……害を成さなかったらそもそも戦闘に何てならない。

 つまり、戦闘が始まる→相手は害を成す存在→使用OK。という一連の流れで、結局自分が先制攻撃としてこの力を使っても問題ないのだ。

 こんなことなら条件なんて作んなきゃよかったのに。

 

「それがあるなら、明日のダンジョン攻略は楽勝だね!」

 

 拳を高く突き上げ、アイリーンはにんまり笑った。それにクリーミネも同調する。

 

「マコトさんがいるなら天下無敵です! ボスモンスターもペットにできますよ!」

「それいい! ペットほしい!」

 

 テンションが高い二人に俺は思わず苦笑い。

 だが、まさかこんなアイリーンが見られることになるとは思ってもいなかった。

 一体、アイリーンに何があったのだろう。

 あの薄暗い部屋に籠っていたアイリーンに変化をもたらす存在など、いなかったはずだ。

 

「じゃあ、宿にいこ?」

 

 立ち上がって、小首を傾げながら言うアイリーン。

 その微笑に、俺の疑問は頭の片隅に消えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

『じゃあ、私たちお風呂に入ってくる!』

『覗いたら斬りますからね』

 

 とは、俺のパーティーメンバー二人の言葉だ。

 俺は言いたい。

 『フリですか?』と。

 

 生きとし生きるもの全てが水を欲し、干からびる砂漠の中で目の前にオアシスがあったら君はどうする? 

 俺は断言しよう。

 

「絶対に行く」

 

 法? マナー? 常識?

 それらは死んだ。俺がルールだ。

 

 というわけで、俺は現在女湯の覗きを試みている。

 最上難易度クエストはここにあった!

 

 俺が今いる所は昼間に立ち寄ったカフェだ。この高さなら宿の屋上も余裕で見える。

 このカフェを作った人には賢者の石をあげよう。

 俺の後ろの席には一人のエルフが腰かけている。フードを被っていて顔がよく見えないが、腕の細さから見ておそらくは女だろう。

 

 ……通報されないよな?

 

「さてと。いざゆかんオアシスへ!」

 

 不安を力技でねじ失せ、俺は手すりに身を乗り出した。

 おっかさん、生んでくれてありがとう。

 

 俺は気持ち悪いほど清々しい笑顔でバッグに手を突っ込み、用意していた道具を取り出した。

 タラリラッタラー、望遠鏡ー。

 

 これは魔法がかかった特殊な望遠鏡で、どんな暗がりでも先が見通せるようになっている。これがあれば、夜でも女湯が覗けるのだ。

 ちなみに価格は十万ランド。日本円にして十万円。

 まあ、路地裏の怪しいおじさんから買ったものだからしょうがないね。

 

「ふぅ……」

 

 呼吸を整え、膨れ上がっていく期待を抑えながら慎重に望遠鏡を覗く。まず初めに見えたのは宿の壁だ。方向は合っているようだ。

 円状の視界を、俺は上まで引き上げた。

 無機質な宿の壁でいっぱいの視界が、一瞬にしてクリーミネの横顔のアップへと変化する。

 ついに来ましたこの瞬間!

 

 一旦望遠鏡から顔を遠ざけ、静かにガッツポーズ。このクエストはクリアされました。

 胸に広がる期待に身を任せ、俺はもう一度望遠鏡を覗いた。再び見えるクリーミネの顔。

 しかし、今回は横を向いていない。真っ直ぐとこっちの方を見ている。

 

 ……ばれているわけがない。こちとら魔法と望遠鏡の力を借りてやっとクリーミネを視認することが出来るのだ。

 そんな肉眼で俺のこと見えるとか冗談よしてくださいよHAHAHA。

 

 視界の奥で、クリーミネがにっこりとほほ笑んだ。その目は完全にウサギを食い殺すトラの目である。

 

「は、ハハハハハハ。ありえないありえない。見えてるはずがない」

 

 俺の笑いが心なしか乾いた笑いに変わっていく。服は冷や汗で濡れ、手が震えはじめた。

 クリーミネの笑みは消え、手に握られていたショートソードが視界の端に映った。

 

「終わりましたありがとうございますみなさん」

 

 望遠鏡から顔を遠ざけ、目に涙をためて笑う。

 と、俺の望遠鏡が水星のごとく飛んできたショートソードで粉々に吹き飛ばされた。

 

「俺の十万円があああああああああああああああ!?」

 

 視界にいっぱいに、ガラス質の破片が舞った。

 俺はその光景を見て願う。

 

 ……無事に明日が来ますように。

 

 

◆◆◆

 

 身を燃やし、それぞれの時を生きる星々の下。

 エルフの都市エルソフィアは、魔法によってついた薄い街灯の光によって幻想的に照らし出されていた。 

 穏やかで幻想的なエルフの都市。

 その一角で、複数のエルフが一人の小さな少年を蹴り飛ばしていた。

 

「おいどうしたよガキ! こんな人目につくところに出てよぉ! てめえはボロ小屋に帰りな!」

 

 大男が少年の胸倉を掴み、建物の壁に向かって投げ飛ばす。少年は顔をしかめ、地面に力なく倒れた。

 

「おいおいぼくちゃん、寝るのはまだ早い、ぜっ!」

 

 男のつま先が少年の腹に突き刺さり、小さな体が一瞬宙に浮かぶ。

 が、浮かんだ体は重力に従って地面に落ち、地面とあっけなく衝突した。

 

 ――――父さん、母さん、なんで……でていっちゃうんだよぉ……

 

 少年の拳が閉じ、土が握りしめられる。少年の目は、怒りに燃えていた。

 

「あ? んだよその顔。てめぇはボロ小屋で一生泣いてろ!」

 

 大男の顔が大きく歪み、少年に拳が迫る。

 が、その拳は疲れ切った声によって止められた。

 

「は、ハハ……君には、帰る場所があるんだぁ……」

 

 声の主はとある男だ。手には砕け散ったガラス片と望遠鏡が握られている。

 目のハイライトは完全に消えており、表情は死に顔そのものだった。

 

「な、なんだよてめぇ……」

 

 大男が顔を引きつらせながら問う。少年が怪訝な顔をする中、男――――――マコトは、己の感情を爆発させた。

 

「だってよ! ちょっと覗いただけじゃん! まだ見てないじゃん! なのになんだよ! 『一晩頭をじっくり冷やしてください!!』って! 減るもんじゃないだろ裸なんて! 俺の願望も減らないけどね!?」

 

 猛るマコトは己のテンションのままに望遠鏡を大男に投擲し、背後の木ごと吹き飛ばした。その腕力に、背後のエルフも短く悲鳴を上げる。

 

「お、おい……こいついろいろやべぇぞ!」

「逃げろ!」

 

 顔面蒼白のエルフたちは全力で逃走。マコトはその様を見て深くため息をこぼし、少年に駆け寄った。

 警戒する少年に、マコトは微笑みながら手を差し出す。

 

「……君の家に泊めてくれる?」

「は?」

 

 瞬間、少年の拳がマコトの顔にめり込んだ。

 

 

◆◆◆

 

 虫の奏でる美しい音色と月光に満たされたエルフの森の中を、少年は歩いていた。

 ……背後にマコトを連れて。

 

「いや~、悪いね。泊めてもらうなんて」

「全然悪いと思ってないことは伝わってくるよ」

 

 少年が呆れ顔で言った時、マコトは何かに気づいたように片眉を上げた。

 マコトの視線の先にあるのは少々古めの家。悪く言うならボロ小屋である。この少年はここに住んでいるのか。

 

 少年はカギの掛かっていないドアを開け、マコトを招き入れた。

 

「別に泥棒に入られても盗られて困るものがないから」

 

 マコトがドアに視線を向けたのに気づき、少年は不器用に笑う。

 少年の背後の家は部屋の数は三つで、日当たりはいいようだ。が、家具なんてロクに揃っておらず、数少ない日用品が乱雑に置かれている。

 生活に困っているのか。

 

 と、ここでマコトはあることに気づく。

 

「えぇーっと……」

「イル」

「イルの親はどうしたんだ?」

 

 この部屋に置かれた物の少なさは異常だ。その原因として、まず貧しいことがあげられる。それは綺麗とは言えないイルの身なりを見てわかることだ。

 次に、そもそも靴などの日用品が一人分しかない。こんな小さな子が一人暮らしとは複雑な事情があるのだろうか。

 

「母さんは大戦中にメルカニコスに行ったきり戻ってこない。父さんは俺のことを捨てた」

 

 イルが顔を落とし、悔しそうに呟く。

 メルカニコスとは、エルフの森の東に位置する大国だ。文明レベルは日本を遥かに上回っており、大戦中にその高度な科学技術を活かして作られた大量殺戮兵器は多くの種族を苦しませた。

 マコトもその被害者の一人であり、多くの同胞を殺され、また多くのメルカニコス兵を殺戮した。

 

 メルカニコスはアリアとマコトにより滅ぼされかけたが、現在は国際復帰も果たしている。が、大戦中の横暴のせいもあってか未だに妙な噂が尽きない国でもある。

 その国に大戦中に向かって今となっても帰って来ていないということは、生存は絶望的だろう。

 

「なんで……なんで大戦なんて……馬鹿みたいに強い奴らが勝手に暴れて、何で関係のない俺たちが……なんで母さんが……」

 

 床に膝をつき、イルは涙を流しながら拳を床に打ち付けた。部屋に響く鈍い音がマコトの心を削っていく。

 この少年と同じような思いをした人間が他にもいたのはわかっていた。理解していたのだ。

 

 味方の死体を見て子供が泣くたびに。

 

 親の訃報を聞いて子供が死んでいくたびに。

 

 敵を殺して誰かに恨まれるたびに。

 

 それはもう、うるさい程に自責の念が心のドアをノックしてきた。

 

『殺すことが正義なのか?』

 

 鬱陶しい程に自責の念がマコトの心を壊していった。

 

『殺すことで悪を滅すれば、自分たちの行いは正当なものになるのか?』

 

 そしてマコトの心は―――――平和を望む戦意は崩れたのだ。

 

『――――――一般人を巻き込んだ戦いの先に、涙と血と怨念と憎しみと醜態の果てに、正義なんて、平和なんて、あるわけがないだろッ!!』

 

 この言葉でマコトの戦意は崩れた。誰の手によるものでもない、自分自身の心の声によって。

 

 それから、マコトは終戦にむけて奔走した。ようやく終戦を成し、待っていたのはこの景色。

 大戦中となんら変わらない、子供が泣き、怒る姿である。

 

「何が万能の聖剣だ! 何が全ての望みは叶うだ! だったら俺の望みを叶えて見ろよ! 母さんを……かあ、さんを……返してくれよぉ……」

 

 何度も打ち付けられた拳は血が滲み、綺麗だった幼い少年の手は見る影をなくしていた。とても少年の拳とは思えない見た目だ。

 マコトは見ていられず、イルの拳を無理やり掴む。

 イルは一瞬抵抗したが、やがて力なく手を下ろした。

 

 この景色も、全く変わらない。

 

「せ、聖剣だ。 せい、けんで……かあさんを……!!」

「……聖剣はもうない。破壊された」

 

 少年の顔が歪んだ。

 歴史は繰り返される、と誰かが言ったらしい。その通りだ。

 現に青年は聖剣が原因となって引き起こされた戦争で苦しみ、聖剣を求めた。そしてまた、戦いと憎しみの連鎖が続いて行くのだ。

 聖剣は壊れて正解だったのかもしれない。

 

 ……たった一つ、戦いと憎しみの連鎖すら断ち切れない聖剣に何が切れるというのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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