俺のお嬢様は、最近なんだか活発すぎる   作:ogyo

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お久しぶりです。
僕の今年の夏は勉強で終わります。
しかし! ……来年こそは、小説を書きたい!

ということで、最新話投稿です。


第十話 『その呪いは優しかった』

「まったく! 何でいつまでたっても子どもなんでしょうかマコトさんは!」

「大人らしいところもあるのにね。マコトは昔からはっちゃけちゃうときは全力ではっちゃけちゃう人だから」

 

 風呂から上がり、着替えを済ませたクリーミネはマコトへの愚痴をこぼす――――というより叫んでいた。

 だが、クリーミネが本当にマコトのことを嫌うことなど万が一にもありえない。これは普段の様子を見ていて当たり前にわかることだ。

 そのため、アイリーンはマコトをフォローすることなく安心して同調する。

 

「成長したのは家事スキルだけですか、あの人は」

「そんなことは……ない、んじゃないかなぁ」

 

 自信なさげ呟いて、アイリーンは窓の外で輝く月を見る。エルソフィアの明かりが大地のように広がり、その上で輝く月はなんとも幻想的だ。

 今頃、マコトもこの月を見ているのだろうか。

 

「アイリーン嬢。どうしてマコトさんはこのクエストを受諾したんでしょうか? アリアさんが進めてきたとマコトさんは言ってましたが」

「なんでだろう……いつもの気分じゃない? マコトって気分屋なトコあるし」

 

 2人そろって首を傾げ、グラスに入った水を喉に通す。クリーミネはテーブルの上に手を伸ばし、ブドウを一粒取って口に運んだ。

 甘い風味が口内を包み、小さな満足感に頬が思わずゆるむ。

 

「――――マコトって変わらないようね。まるで形がないものみたいに」

「形がないもの、ですか?」

「うん。形があるものは時が過ぎれば変化して、いずれ朽ちていくでしょ? でもね、マコトは変わらないよ。初めて会った時から、今まで」

 

 魔法使いは形がない魔力から形がある物を造る創造主。無から有を生み出すには、それを可能とする想像力が最も重要だ。

 これは魔法使いを目指す者なら当たり前に得る知識であり、魔法を扱う者の中では常識と言える知識でもある。

 

 故に、アイリーンは気付いていた。マコトは世界の、いや、もっと大きなものの法則から外れている。

 世界規模ではなく次元規模で永遠に繰り返される法則。

 万物流転の法則だ。

 

「マコトの時は止まってる。それにクリーミネも気付いてるでしょ?」

 

 アイリーンの言葉を受け、クリーミネは驚愕した。

自分も気づいてはいた。数年前から全くと言っていいほど変わらないマコトの異常さに。

 しかし、これに気づけるのは、年がら年中マコトと共に仕事をこなし、マコトと顔を合わせる回数が極めて多い自分だけだと思っていたのだ。

 アイリーンは自室に、スカーレッドは大図書館に、そしてもう一人は……この世界のどこかに。それぞれがそれぞれの時間を過ごしていた。

 マコトの顔を一番見ていたのは間違いなくクリーミネだろう。

 

 それなのに、なぜアイリーンは気付いたのだろうか。自室に籠って出てこなかったアイリーンにマコトと顔を合わせる機会のなどなかっただろうに。

 

「今回のクエストは、多分マコトの時を動かすのに賢者の石が必要になったから受けたんだと思う。だから、明日は頑張ろう」

 

 いつになく真面目な表情で言うアイリーンに、クリーミネの心も引き締まる。

 失敗は許されない。

 必ず、自分たちの助けでマコトの時を動かす。

 

 クリーミネはそれだけを思いながら、グラスを傾けた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 翌朝。

 慣れない環境での睡眠のせいもあってかマコトはいつもより早く目を覚ましていた。

 昨日はイルをなんとか落ち着かせてすぐ寝た。

 

 落ち着かせるまで大分時間を要した気がするが、イルの歳を考えればあれくらい取り乱すのは当たり前といえるだろう。

 あの見た目の幼さで独りぼっち。辛いに決まっている。

 

「――――なんだ、起きてたんだ。見た目に反して早起きだね」

 

 突如ドアが開き、小屋にイルが入ってくる。

 それにしても朝からなかなか辛辣な言葉が飛んできたものだ。見た目に反して早起きって、自分の見た目はイルにどんな風に見えているのだろう。

 

「なんか侮辱が入った気がするんだけど。朝からナイスジョークだな。どこか行ってたのか?」

「ちょっと散歩。良いものは出せないけど、朝飯作るよ」

「お、さんきゅー」

「そこは普通『俺も手伝うよ』だと思うんだ……」

 

 イルは呆れ顔で鍋を掴み、再び外に出て行く。どうやら調理場は外にあるようだ。

 

「……俺の家事スキルを見せてやるかね」

 

 小さい男の子の家に無理を言って泊めてもらい、朝食の手伝いもしないのはさすがに礼儀に反しているというものだ。

 罪悪感に怠けた心が折れたマコトは、駆け足で外に繰り出した。

 

「……というわけで飯を作ったんだが、味はどうだ?」

 

 小さなテーブルに大振りの皿が二つ、乱雑に置かれている。

 これは慣れない調理場にもかかわらず、経験を頼りに作り上げた『簡単・安価・原始的』の三拍子が詰まったマコト特製どんぐりラーメンである。

 三拍子の最後に変なものが混ざっていたのは気にしないでいただきたい。

 

「ちゃんとアクは取ったし、味も大丈夫だと思うんだが」

 

 味付けはアッサリ系の塩ラーメン。

 エルフの森に生える豊富な植物を少々頂戴させてもらって具は確保したが、チャーシューがないのが残念だ。

 だが、短期間でここまでできればいい方だろうと妥協した。

 

「……うまい。こんなうまいもの久しぶりに食べた! マコトは料理人なの!?」

「いや、クラーウィス家っていう家の専属執事をやってる。ここへはお嬢様の初クエストのお供……というか、俺の呪いを解くために来たんだ」

 

 もの凄い集中力でラーメンをすすりながら、イルは首を傾げる。

 

「ほおい?」

「飲み込んでからしゃべれよ……」

「呪いってなんなの?」

 

 イルの質問に、マコトは一瞬顔を引きつらせた。

 この質問の答えは、言いたくない。言いたくないものではあるが、家に泊めてくれた恩もあるのだ。

 昔話をするくらいの恩返しはしておくべきだろう。

 

 マコトはグラスの水を飲みほし、口を開いた。

 

「……俺はな、実はこの世界の生まれじゃないんだ」

「それって異世界人ってこと?」

 

 首を傾げるイルに、マコトは頷く。

 

「俺が前にいた世界の住人は、ほとんどが別の世界から来た異世界人だった。だって、あの世界は『世界に嫌われた罪深き者』が集まる地獄なんだから」

 

 ノースコスモロジー。その世界のことをそう呼び始めたのは、どこの神、あるいは魔族だったか。いや、人間なのかもしれない。

 

 その世界は九つの国から成り、神、悪魔、モンスター、妖精……人間や魑魅魍魎などの種族間で常に争いが起こっている世界だった。

 その世界に集うのは『大罪を犯した者』か『存在しないと断定された種族』のみで、人間なんて片手に収まるほどしか存在していなかった。

 

「ただの人間だった俺がそんな世界にいて無事でいられるわけなくてな。俺は異世界入り数時間でズタボロにされ、モンスターに殺されそうになってたんだ」

 

 血の味が広がる口内に、金切り声をあげて襲いかかるモンスター。

 絵に描いた様な絶望的状況の中、死の淵に立たされたマコトの一歩手前を黄金の光が通り過ぎた。

 黄金はモンスターを一瞬で溶かし、辺りに静寂を呼び戻す。

 

「そんな時、凛とした声が響いた」

 

『―――――――あなたはどんな罪を犯したの?』

 

 金色の髪を揺らし、グリーンの瞳をマコトに向ける少女。

 数秒前まで死の淵にいたマコトは状況が理解できず、苦笑しながら呟いた。

 

『……人生で最大の罪は友達の弁当をつまみ食いしたことだよ』

『―――――ふふっ、なにそれ。随分可愛い大罪もあったものね』

 

 天使のような微笑みを向けられて、マコトは思わず目を逸らす。そんな様子を見て、金髪の少女は尚も笑い続けた。

 

『あなた本当におもしろい人ね。ふふふ、名前はなんていうの?』

『マコト。大島マコトだ』

 

 目を逸らしながら言うマコトに手を差し伸べ、少女はマコトに名乗った。以後、マコトの心に深く刻み込まれることになるその名を。

 

『私はアリス。ここの世界の住人よ』

 

「それから数年後、ノースコスモロジーでアリスを巻き込んだ事件が起きた。俺はアリスを救出に行ったんだが――――――俺はアリスを救えなかった」

 

『マコト……もう、傷つかなく、て……いい、から……生きて……』

 

「アリスはその生涯最後の瞬間、俺に呪いをかけたんだ。……俺がノースコスモロジーという名の世界から嫌われるように」

 

 ノースコスモロジーは絶えず変化する。それはその世界で生きている住人の共通認識だ。

 生きとし生けるものから物体に至るまで、ノースコスモロジーに存在するあらゆるものは決して不変ではない。

 絶えず変わっていく。それがあの世界で存在するものの証であるわけだ。

 

 では、変化しなくなったらどうなるか。

 その答えは単純だ。

 

「世界から嫌われ、弾きだされる」

 

 アリスはどこまでも優しかった。最後の最後、死の手前までも人を想い、魔法を使用したのだ。

 

 もう、マコトが傷つかなくてもいいように。

 

 もう、マコトが涙を流さなくてもいいように。

 

「アリスのかけた呪いは、俺を世界から逃がすためのものだったのさ」

 

 

 

 

 

 

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