しばらく小説を書いていなかったので、文がより拙くなっていると思います。
そのため、訂正される可能性大です。
「ごめん……マコトにそんな過去があると思ってなかった。話すのが辛いことを話させちゃったね」
「別にいいよ。人に話すと楽になることもあるしな」
イルは謝り、気まずそうに目を伏せた。どうやら少し話の内容が重すぎたらしい。
でもこれは実際に起きた出来事だ。少しでも内容を歪めるのならば、それは過去から目を背けているような気がする。
「そういや――――――――――」
「もう! 探したよ!」
マコトが重い雰囲気を変えるべく話を振ったその時。マコトの言葉は仲間の少女の声で遮られた。
慌てて振り返ったマコトに少女―――――アイリーンは詰め寄ると、怒りの形相で言葉を飛ばす。
「今日はもうダンジョンに潜るのに! 準備はしたんだよね!?」
「も、もちろん準備万端だよ」
目を逸らし、頬を掻きながら言うマコトの姿はまるでお母さんに言い訳する子供のそれである。アイリーンはマコトの主なので上下関係としては間違っていないが、傍から見るとなんとも情けない光景だ。
「マコトさん。アイリーン嬢は凄くマコトさんのことを心配していたんですよ?」
「し……してない!!」
「いやしてくれよ」
頬を赤らめてマコトを突き飛ばしたアイリーンは、目を点にしてこちらを見ている少年に気が付いた。
とても裕福には見えない子だ。自分よりも少し年下くらいだろうか。
「……隠し子?」
「んなわけあるか! こいつはイル。昨夜泊めてもらってたんだ」
マコトの説明に、クリーミネとアイリーンは納得したようにうなずく。
2人は、マコトのことだから外に居ても凍え死ぬことはないだろうと予想して外に出したのだが、誰かに泊めてもらっているとは考えてもいなかったので、マコトを探すときに居住区にはいかなかったのだ。
まぁ、仮に行ったとしてもここは街はずれにあるからマコトは見つけられないが。
「私はアイリーン。そして、横にいるのはクリーミネだよ。私たちマコトのパーティメンバーなの。よろしくね?」
「う、うん」
マコトの陰に隠れたイルに微笑むと、アイリーンはもう一度マコトに向き直る。
「準備が出来てるなら行こうよ! 賢者の石探し」
「そうですよ。夜までにダンジョンを出ないと森で迷って街に帰って来れないでしょうし」
『エルフの森は夜になると姿を変える』
マコトはそんな言葉を大戦中に聞いていたことがあった。
おそらくは森が本当に姿を変えるのではなく、暗くて迷いやすくなるためこんな表現を用いたのだろう。マコトも実際に夜の森の中の町で剣聖と戦ったが、異常な事態は特に見られなかった。
「夜の森で迷うのは確かに御免だな。んじゃ、イル。泊めてくれてありがとう。帰り際にまた寄ってくよ」
刀を腰に差し、手を振りながら歩き出すマコト。その様を見て、イルの頭の中である記憶がフラッシュバックされた。何度も一人きりの夜に思い出し、涙した悲痛な過去だ。
「……って、待って!」
かすれた声で、イルは叫んだ。マコトは驚きながらも、片眉を上げてイルを見る。
『何だ?』とは聞かなかった。ただ、イルの言葉を待っていたのだ。
それに気づいたイルは一呼吸置き、ゆっくりとその口を開く。
「お父さん……僕のお父さんが賢者の石を探しに行って、ずっと帰って来ないんだ。だから……」
そこまで言って、イルは口ごもった。
『お父さんを連れて帰ってきて』とは言えない。たった一晩泊めただけの人間に、そんな頼みは迷惑だろう。それに、考えたくもないがお父さんはもういないかもしれない。
ダンジョンは危険だ。落石、モンスター、トラップ……そのいずれかにでも襲われたなら、まず無事ではいられないだろう。
嫌な考えがイルの頭を支配する中、マコトはイルの頭に手を乗せた。
イルは驚き、すぐに顔を上げる。
「見つけたら連れてくるよ。お前病気なんだろ? 家に薬草があった。賢者の石は万能の石だ。きっと、お父さんはイルを想って危険を顧みずにダンジョンに出掛けたんだ。安心しろ。何かを守りたいと思った奴は、簡単に死んだりしないよ」
マコトはそう微笑んで、仲間の少女たちのもとへ向かった。
不安そうなイルの顔を胸に焼き付けながら。
◆◆◆
迷宮型。そう呼ばれるダンジョンは、名の通り迷路のように入り組んでいる。当然迷路の中にはモンスターが存在し、運が悪ければ迷路に迷って抜け出せなくなり、最後には食料や体力が尽きるという惨い死を迎えた冒険者は数多くいるそうだ。
「迷宮の壁は結界で壊せないだろうし、もし壊せたとしても今回の迷宮は地下だしなぁ。俺の攻撃は広範囲に届くし威力も強いから、迷宮が崩れて生き埋めにならないためにも祝福は使えないな」
「じゃあマコトは荷物持ちね」
「俺は祝福だけの人間じゃないぞ!?」
地下に続く階段の前でダンジョンの様子をうかがっていると、アイリーンがさらっと言葉のボディブローをはなってきた。
マイペースだとよく言われる俺でも、さすがにダンジョン潜入前にこのゆるさはどうかと思う。緊張感が大事だよ緊張感が。
「ごほん、皆さん注目してください!」
わざとらしく咳払いしたクリーミネが、バッグから一冊の本を取り出した。
そして、えらく自慢げにその本を掲げ、パラパラとページをめくり始める。
付箋が何枚かついているところから判断すると、おそらくはこの本で何か勉強をしたのだろう。
「これはなんと、このダンジョンに関する本です! 迷宮の地図も、出現するモンスターも、ボスモンスターの部屋の場所も全て書かれています」
「……どこで手に入れたの? その情報怪しくない?」
「路地裏で優しいおじさんから五万ランドで譲ってもらいました。初めの値段はなんと十万ランドだったんですよ!」
田舎のおばあちゃん並に騙されやすいなクリーミネは。
この世界には法もルールもあったもんじゃないので、普通この世界の人間は日本にいる人より疑い深く、人を信用しない。
誰に教えられたわけでもなく、数々の失敗を通して自然とそんな性格になっていくのだ。
しかし、クリーミネにはそんな兆候は見られず、どんなに騙されても失敗してもすぐに人を信じてしまう。
この性格がいい方向に転ぶことも少なくないのだが、騙されて落ち込む姿を見ていると心苦しいから少しは疑い深くなってほしい。
「では、このダンジョンの説明をしますね。まず、ダンジョン潜入前に絶対やってはいけないことを説明します。入口の少し上についている悪魔の装飾、あれは魔法を感じ取るセンサーです。ここで魔法を使えばトラップが作動します。絶対に魔法を使ってはいけません」
クリーミネのそれっぽい説明を半信半疑で聞きながら、例の装飾を見る。気味の悪い悪魔の両目は赤く輝いていて、確かにセンサーぽい。
でも、実際に確かめたりするとトラップが発動するかもしれないのでやめておいた方が良さそうだ。
「ふーん、トラップかぁ……楽しそう」
「「は?」」
にんまりと、いたずらっ子のような笑みを浮かべたアイリーンは、杖を取り出して装飾に向けた。杖の先には魔力が集中している。
まさか、魔法を撃つつもりなのか。
背中を冷や汗がつたる中、俺は全力でアイリーンを止めにかかる。が、俺の反応はあと一歩遅かった。
「『リュミエール』!」
アイリーンの杖から放たれた光の矢が、一直線に装飾へ飛んで行った。矢は鮮やかな光の尾を引き装飾に迫り、激突三センチ手前で見えない障壁に激突して爆発した。
「な、なんだ……センサーなんてないじゃんか」
「あ、あれ? おかしいですね?」
阻まれるだけで終わった魔法に2人そろって肩を落とし、安堵の表情を浮かべたその時。
地面から無数の黄金の鎖が飛び出し、俺たちの体を縛り付けた。
「きゃ!? やっぱりあった! この本は頼りになりますね!」
「これがトラップなんだ! ホントに無人で魔法が発動するんだね!」
「言ってる場合か!」
呑気な感想を述べるアイリーンは、楽しそうに笑い声を上げている。遊園地感覚でトラップに挑むとはなかなか肝が据わっているな。アリアといい勝負である。
だが、それはこのトラップの恐ろしさを知らないがゆえの余裕だ。
実は、この黄金の鎖のトラップに俺は一度引っかかったことがある。この鎖は魔法無効化の鎖で、これに触れている限りあらゆる魔法は強制的にキャンセルされてしまうのだ。
ただ魔法が使えないのなら、武器で抜け出せばいいだけだからただの嫌がらせで終わるが、このトラップの厄介な所は二段構えであるところだろう。
「みんな、歯を食いしばれよ!!」
予想通り、突然浮遊感が全身を包み込んだ。下を見ると、やはりさっきまであった地面がない。
「落とし穴!?」
日本にいた頃小説や漫画でよく見た落とし穴だが、この世界では魔法が存在するためただ人を落とすだけのトラップだと簡単に防がれてしまう。
それを予想してか、この手のトラップが仕掛けられている場合、高確率で一緒に魔法無効化のトラップも一緒に仕掛けられているのだ。
「!? 魔法が使えない……このままじゃ落下死だよ!」
現在俺たちが落ちている穴は直径四メートルくらいの、丁度人三人が通れるサイズの穴だ。もっと広さがあれば、俺が祝福で落とし穴ごと鎖を吹き飛ばして2人を救出できるのだが、今それを行うと仲間の二人も鎖もろとも吹き飛ぶことになるのでできない。
となれば、俺がとるべき――――いや、とらざるをえない策は一つだけだ。一日三回しか使用できないのでこんなところで使いたくはなかったが、この一回を惜しんで死ぬよりはましだろう。
「2人とも、下手に動かずじっとしてろ!」
両隣でジタバタともがいていた二人に叫び、俺は祝福『
温度だけで魔法物をも破壊する、絶対的な氷神の権能―――――『
その力による冷気がまだ残る中、俺は刀を引き抜き、アイリーンとクリーミネを縛っている鎖を破壊する。
バキィン という金属音が鼓膜を叩くのに構わず、俺はアイリーンの箒に触れて魔力を流した。すると、箒が宙に静止し、俺たち三人の体を支える。
通常なら、箒で空を飛べるようになるのは相当訓練が必要だ。
しかし、操縦ではなく浮かせるだけなら一定の魔力を流すだけで良いので、素人の俺にもできる。小さい子が車を運転することはできなくても、エンジンをかけることだけなら出来るのと同じ原理だ。
「た、助かった……」
「マコトさんがいなければ死んでましたね……」
「でもおもしろかったね!」
とびきりの笑顔を振りまきながら笑うアイリーンに、俺とクリーミネは大きなため息を吐いた。おそらくクリーミネも、この先の苦労を想像したのだろう。