「いやぁー、いい運動になったなコレ。ボスモンスターとは聞いてたけど、まさか二体もいるとは思わなかった」
手首をポキポキと鳴らし、愛刀を鞘に納める。
その一連の動作に慣れ過ぎたと俺は苦笑いし、地面に座り込んでいるアイリーン嬢の元へ駆け寄った。
「大丈夫でしたか?」
「……おそい」
頬をふくらまし、俺の袖をつまむアイリーン嬢に俺はまたも苦笑い。
速度的にはリニアモーターカーよりも速いスピードでここまで来たはずだが、それでもアイリーン嬢の求める速度には達しなかったらしい。
次はスペースシャトルくらいの速度を目指してみるか。
「クリーミネ。怪我はあるか?」
「建物に吹き飛んだ時、マコトさんが受け止めてくれたじゃないですか。大丈夫ですよ」
「いや、壁を貫通したんなら大丈夫なはずが……まぁ、いいか。そろそろ聖騎士が駆けつけるはずだから、俺たちは逃げるぞ」
「え、何でですか?」
「何でって、事情聴取面倒臭いし。それに、面倒臭い奴がいるから」
頭を掻きながら、どうやってこの国から退散しようか考えている時。
俺の肩を、誰かが握りしめた。
いや、握りつぶそうとしていると言った方がいい。
「面倒臭い奴……はて、それは私のコトですかね?」
「いだだだだだだだっ!! 痛い痛い!!」
「居たい? なら、ここで一生を終えてもいいですよ」
「そういう意味じゃないから!!」
俺の必死の抵抗が功を奏し、俺はようやく解放されて地面を転がる。
涙目で元凶を睨むと、元凶――――――もといダーインスレイブは、アイリーン嬢と礼儀正しく挨拶を交わした。
「イルソーレ王国へようこそ。私は聖騎士団団長ダーインスレイブ……と肩書はなっていますが、ダーインスレイブという名前は仕事で使っているものでして……今日は非番なので、本名で名乗らせてもらいますね。私はアリア・エスペランサ。今日はただのアリアです」
にっこりとほほ笑み、長い髪を揺らすダーインスレイブ改めアリア。
その姿は絶世の美女というにふさわしく、クリーミネとアイリーン嬢はじっとアリアを見てしまっている。
同性でさえ見とれてしまうほどの美貌。
そんな美人を目の前にして、男が悪い印象を抱くわけがない、と思う人がいるかもしれないが、それは大きな間違いだ。
俺は過去―――――この世界に来た当初に、アリアとすでに接触している。
そして、あまりいい別れ方ができなかった。
別にアリアと仲違いしたとか、苦手とかでいい別れ方ができなかったんじゃあない。
ただ……アリアの感が良すぎたのだ。俺の『呪い』を見抜いた奴なんて、いまだかつていなかったというのに。
「ダーインスレイブ。俺達に何の用だ。今日は非番なんだろ? まさか仕事をしに来たなんて言わないよな?」
「ええ、もちろんですよ。街中でいきなりボスの固有結界が貼られたので、様子を見に来ただけです。と言っても、そのボスはどこかの誰かに消し飛ばされたようですが」
バチチッ! と火花が散り、お互いに得物に軽く触れる。
アリアは笑ってはいるが完全に目からハイライトを消し、額に青筋が立っている。
まあ、俺もあまりいい気分じゃないが。
「な、なんでそんな仲が悪いの?」
「「それは目の前の人物の性格が生ゴミ以下だからですよ」」
再び火花が散り、今度は殺気が放たれる。クリーミネはその光景を苦笑いしながら見て、「お二人は仲がいいんですね」と呆れた。
放たれる殺気を見てこの感想が出るなんて、クリーミネは超人かなんかなのかもしれない。
「まあ、それはともかく。私はボランティアでこの男を王城に連行し、ボランティアで事情聴取しますがお二人はどうします? ……王城の見学と魔法結晶くらいなら、私の特権で細かい書類をなしにできますが」
「「よろしくお願いします」」
「お二人さん俺を裏切りましたね憶えておきますよ忘れませんよ」
アリアに背中の服をつままれ、宙に浮かんだ俺を持て二人はそっと目を逸らす。
俺、裏切られたこと、忘れない。
「あ、アリア! 今すぐ放したらお前の胸がパッドいr――――ゴフベッ!?」
「え、いまパッドって……「あなたは何も聞いていない」……はい」
アイリーンを一睨みで黙らせ、アリアは今度は俺を睨む。そして、俺の耳元に口を近づけ、
「事情聴取の時、覚えておいてくださいね? ……誰も、聴取室には入ってこれませんから」
少し目を逸らしながら言った。
なんてこった。アリアが精神一発ノックアウト級のセリフを完全に自分のモノにしているではないか。
やばいどうしよう嫁に欲しい。
「では、今から王城に転送させてもらいますね。『テレポート』!」
アリアはノーモーションで素早く魔方陣を形成し、無限にある魔力を用いて俺達が入る程度の大きさまで魔方陣を広げた。
その鮮やかな魔法技術に、アイリーン嬢は思わず目を輝かせる。
これくらい俺だってできるし。
「王城に着いたら、この男は取調室に連行します。城の案内は私の部下に任せておりますので、何かありましたら部下の方にお申し付けください」
アリアはにこやかに微笑み、魔方陣を起動する。魔方陣が発光し、俺の視界は真っ白に塗りつぶされていった。
◆◆◆
「……でさ、どうしてこうなるわけ?」
王城に転送されて、約三十分。
取り調べという名目でここに来たはずの俺だが、手には重々しい手錠がかけられていた。え? 俺は犯罪者ですか?
「どうしてこうなってしまったか……ですか。それを一言で表しますと、『運命とは残酷なものだ』という有名な哲学者の格言が相応しいですね」
「うん、運命のせいにしたね」
俺の問いにいい加減なことを言ってのけるアリアは、俺の正面にある机に一枚の紙を取り出した。
俺は警戒しながらもその紙に視線を送る。
「逮捕令状?」
「太字で『クエスト』と書いてあるでしょう。……私には、人生においていくつかの心残りがあります。その一つにあなたとのことも含まれているんです。私なら、あなたの呪いを解いてあげられる。どうですか?」
アリアは目を閉じ、静かに告げた。
アリアの言葉を聞いた俺の感想は『余計なお世話』、だ。俺の『呪い』は、俺自身の過ちによって生まれた業。これは俺一人で解決する問題であって、解決できないのなら俺は一生背負っていく覚悟だ。
よって、俺の返答としては、
「悪いが、呪いに関しては俺がなんとかする」
この返答が最も適切だろう。厚意自体はありがたいことだが、呪いのことに関しては俺も譲れない。
返答を聞いたアリアはそっと目を開け、言葉を紡ぐ。
「あなたは、今この瞬間も罪を犯し続けている。あなたの罪は、それに気づいていないということです……!」
その言葉には明らかな怒気が含まれていた。アリアがここまで感情的になるのも珍しい。失言でもしただろうか。
「俺の罪? ……それは飢えを忘れた『暴食』の竜と同じ罪か? それとも世界全てを恨んで呪った『傲慢』の氷神と同じ罪か? それとも支配することでしか現実を認識できなくなった『怠惰』の悪神のことか? それとも――――――――
「いつまであなたは逃げているんです!?」
アリアの怒号が響き渡った。俺は突然の出来事に言葉が出ず、アリアの言葉に耳を傾ける。
「あなたは罪と向き合っていない。あなたに償いが必要ならば、それは抗うことです。抗い、苦しみ、それでも生きることが償いなんですよ! 術者があなたに復讐をしたくてかけた呪いなのかはわかりませんが、生きるために抵抗されない呪いに何の意味があると言うんです!? あなたが苦しむことを望んでかけられた呪いなのでしょう!? なら、もっと必死に足掻いてくださいよっ!!」
アリアの声がこだまする。その言葉に秘められた感情が、俺の過去のワンシーンを脳内で精密に再現させた。
『……ありがとう、マコト。もう、傷つかなくてもいい、んだよ……―――――――-』
手に、血がついた様な気がした。まだ温かく、ひょっとして救えてしまうんじゃないかと残酷な希望を抱かせる血だ。
……俺は馬鹿か。
「……苦しむことを望んでかけられた呪い、か……そうかもしれないな。アイツは……どこかで俺のことを恨んでいたのかもしれない。……いいぜ、そのクエストの話、聞くよ」
紙を見つめ、俺はアリアに微笑む。すると、アリアの顔に笑顔が戻った。
「―――――マコトさんは『賢者の石』という石を知っていますか?」
知らない単語が乱射されたと思いますが、後々明らかになると思います。
……多分(殴