俺のお嬢様は、最近なんだか活発すぎる   作:ogyo

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第五話 『冒険の気配』

「―――――マコトさんは『賢者の石』という石を知っていますか?」

「賢者の石?」

 

 俺が首を傾げると、アリアはこくりと頷いた。そして笑みを浮かべ、カップを口に近づけながら言葉を紡ぐ。

 

「曰く、その石は大いなる魔力の封じられた石で、飲めば如何なる病もたちまち治る。力を欲する者が飲めば無限の魔力が手に入り、健康な者が飲めば不死者にさえなることができる。……世界中の支配者が喉から手が出るほど欲しいであろう石です。これであれば、あなたの呪いも解けると断言できましょう」

 

 カップを傾け口を潤すと、アリアは眼光をこちらに向けて停滞した。

 俺の反応を見ているのか。人の内面を見透かすような賢者特有のその仕草、バカの類である俺にはやめてほしいんだが。

 

「……確かに魅力的なものだな。でも、世界中の支配者がその石を欲するなら、今さら俺が手に入れられるのか? それに、もし賢者の石が未発見のままどこかに隠されているとして、この無限に広がると言われている世界でそんな石ころ一つ見つけるのは不可能なはずだろ」

 

 この世界は無限に続く。日本とその周りのように世界は丸くなっていないし、よくあるファンタジー小説みたいに世界の端があるわけでもない。

 その昔、創造神が宣言したらしい。『この世界は無限だ』と。

 

「その不可能という判断は、あくまであなたが下したものでしょう? 私ならできますよ、今この瞬間にも」

「は?」

 

 ニヤリと笑い、片目を閉じてこちらを見つめるアリア。

 俺はその視線を感じながら、混乱した頭を無理やり回転させていた。

 無限に続くこの世界から、一個の石を見つけ出す。誰が聞いても不可能というだろう。

 サハラ砂漠から指定された砂を一粒見つけ出すよりも難しい話だ。なざなら、サハラ砂漠は有限だが、この世界は無限。スケールが違い過ぎる。

 じゃあ、どうやってやる……?

 

――――――――いや、あった。一つだけ方法が。

 

「……アリア、賢者の石には大いなる魔力が封じられていると言ったな?」

「ええ」

「それだ。お前の中にある無限の魔力を世界に放って、石を探知すればいい。膨大な魔力を内包した石なら、多めの魔力を流せば反応するはずだ」

 

 魔力というのは波のように存在している。魔力の量が多ければ多いほどその波は大きくなり、逆に小さければ小さい波で存在するものなのだ。

 この波は、遭難者などを探すときに非常に役に立つ。存在する波に同じ大きさの波をぶつけることで跳ね返ってきた波を探知して、正確な座標を特定できるのだ。

 アリアは、これを利用して石を見つけるつもりだろう。

 

 でも。

 

「やっぱりこれは難しいんじゃないか?」

 

 波の大きさは、見つけたいものが発する波と同じ大きさにしなければいけない。大きすぎれば相手の波を飲み込んでしまうし、小さすぎれば逆に飲み込まれてしまう。この微妙な魔力操作が出来る人材は相当限られてくるだろう。

 

 それに、そもそも賢者の石の正確な魔力量を知らない。これでは波で探すことは不可能になってしまう。

 

「大丈夫ですよ。私の魔力で、この世界を満たせばいいのです。空気と一緒に私の魔力が世界と一体化すれば、私はどんな小さなできごとでも感じ取ることができる。例え、大きさが大きく異なる波がぶつかり、片方が飲み込まれる瞬間の小さな振動でも」

 

 アリアはそう言うと、カップをテーブルに置いて瞳を閉じた。そして、魔方陣が鈍い音を立てて展開される。

 

「お、おい待て! この世界は無限に広がってんだぞ!? お前のまりょ……いけるか」

「わかってくれたようで何よりです。私の内包している魔力は『無限』。例えこの世界が無限に続くとしても、私の魔力が足りなくなることは永遠に無い」

 

 突如、アリアの魔力らしきものが爆発じみた勢いで世界に広がった。

 視界が僅かに青色に霞み、魔力の吸収量も多い。これが聖騎士団団長様の実力か。

 

「む……みなさん手荒ですね……」

「どうした?」

「いえ、北方で、固有結界が開いたかと思えば魔力が一瞬にして消滅させられました。東では吹き飛ばされましたね。斬撃の類でしょうか」

 

 瞳を閉じ、アリアは楽しそうに苦笑した。

 この状況を楽しめるあたりの性格を俺にも分けていただきたい。

 

「――――――――マコトさん」

 

 アリアのいつもよりも一段階低いトーンで発せられた声を聞き、俺は全てを察する。

 素早く能力を発動し、窓に向かって拳を構えた。

 

 世界中に何の前触れも無く魔力が振り撒かれたのだ。警戒し、先制攻撃を仕掛けてくるものが現れることは予想の範囲内である。

 こんな緊急事態でもアリアの意図を察せる俺、マジ天才。

 

「よっしゃこいいいいいいい! ドラゴンでも悪魔でもドンときやがれぇぇぇ!!」

 

「カレーのお届けでーす」

「……カレーが来る時間だと言いたかったんですが。何やっているんです?」

「何やっているんです?は俺が一番聞きてえよ! なんでこの時間帯にカレー!? てかこの世界にカレー!?」

 

 もうなんか雰囲気がぶち壊しである。まぁ、今さらシリアスとか俺には出来そうにないが。

 

「ったく……なんでチートってこんなマイペースなんだろうな」

 

 俺はため息交じりにドアに近寄り、配達員に金を渡す。ちなみに金をアリアの財布から取った。異議の申し立ては認めない。一人前しかないしな。

 

「一番のマイペースはあなたでしょ―――――――見つけました。エルフの森の中央部、精霊の巣窟です」

 

 アリアの呆れ声のトーンが落ち、早口で位置を伝える。どうやら賢者の石が見つかったらしい。

 さすがに早いな。

 

「ここからどれくらい離れてる? 俺の能力で飛ばせばそれなりに早く着くだろ」

「あなたならば一時間もかからないはずです。しかし、日を改めるべきでしょうね。精霊の巣窟は迷路型のダンジョンです。馬鹿なあなたには攻略が難しいでしょうから」

「っ……そうか」

 

 暴言はムカつく。でも、正論。そんなアリアが大嫌いです。

 にしても、この世界に詳しい方の俺に、ここら辺にあるダンジョンで知らないものがあったとは。

 しかも『エルフの森』の中だ。

 これはかなり厄介なことになることが予想される。

 

「あの森は、一度迷えば帰って来れないと言われています。帰って来れたのは大戦中の剣聖とあなたくらいでしょうね」

「あ、そうだったのか。まぁ帰って来れて当然だよな。木を片っ端から切ったんだから」

 

 エルフの森は巨木が生い茂る広大な森で、過去に行われた大戦の中で俺が迷った場所でもある。

 あの森はあまりに広く、現在も正確な広さが出ていない。

 そんな森で迷った剣聖と呼ばれる剣の達人は、森の木々を一振りで全て伐採したのは伝説として語り継がれている。

 ……あれ実話だったんだ。はた迷惑な剣聖である。

 

「私も迷宮について行くことが出来ますが……どうします?」

「俺だけで行くよ。あそこは少々面倒な連中がいるから」

「それはダメだよ!!」

 

 突如、聞き馴染んだ声が響いたと同時にドアが勢いよく開かれる。部屋にドアから僅かな光が入り、声の主――――アイリーン嬢は大きく胸を張って見せた。

 ……話は聞かせてもらったッ!的な展開をやってみたかったのだろうか。

 

「マコトは私のパーティに入ってるんだから、個人行動は許しません!」

「じゃあ、入浴もご一緒で?」

「そ、それは別! でもこの話は一緒なの!」

 

 腕を大きく振り、強行採決もびっくりの力技でアイリーン嬢は俺の意見をねじ伏せた。

 俺の経験上、こういう時は何を言っても俺の意見は通らない。理不尽である。

 

「……危険ですよ」

「それが冒険よ。その先に、何かがあるなら私は行きたい。あ、敬語は禁止ね」

「え!?」

「マコトはもうパーティメンバーだもん」

 

 どんだけ自由なんだアイリーン嬢。完全に親に似たな、間違いない。

 

「そ、そういうことになった。ありがとう、アリア」

「貸し一ですね」

「そういうこと!?」

 

 アリアは小悪魔っぽく微笑み、世界に撒いた魔力を収束させた。

 視界が待機中の魔力量が減っていき、視界が元に戻っていくことが確認できる。

 

「す、すごい魔力量ですね……」

「お、いたのかクリーミネ」

「ひどい!! ひどいですよマコトさん!!」

 

 俺とクリーミネのくだらないやり取り中に魔力は全て集まり、一個の玉のように圧縮されていた。

 アリアはその玉を手に納め、掌の上でコロコロと転がすと床へ捨てる。

 ん……捨てる!?

 

「おいアリア、それは世界を覆うほどの魔力の塊だぞ? いいのか?」

 

 俺が問うと、アリアは長い髪を翻し言う。

 

「魔力なら無限にありますし、別にこの玉に価値なんてないでしょう。それに、正確には世界を覆うことは出来ていません。無限に広がるものを無限に追いかけても、いたちごっこが永遠に続くだけです。永遠とはそういうものなのですよ。マコトさん」

 

 最後だけ含みのある声で言い終え、アリアはノーモーションで転移魔法用の魔方陣を展開。

 アイリーン嬢―――――もといアイリーンに礼儀正しく一礼すると、魔方陣に魔力を流した。

 

「それではマコトさんの取り調べが終了しましたので、屋敷まで御送りしますね」

「え、アイリーンじょ……アイリーン、魔法結晶は貰えたのか?」

「うん! ポーチに入ってる」

 

 アリアは俺がアイリーンの返事を聞いたことを確認すると、魔法を行使した。

 

「また、どこかで会うこともあるでしょう。その時には、あなたが時間軸に戻れていることを願ってますよ、マコトさん」

「戻ってやるさ。例え、この力を失うことになるとしても」

 

 それぞれ自信あふれる笑みを浮かべ、愛剣と愛刀を突きだす。

 騎士が戦に出る時に行われる、仲間同士の絆を示すジェスチャーのようなものだ。

 

 それを見たアイリーンとクリーミネは笑みをこぼす。

 

「やっぱり、仲がいいんですね」

 

 クリーミネの言葉を最後に、俺の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 




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