中二病でも長文が書きたい!
今回辺りから、今まで伏せてきた秘密が徐々に明かされるはずです。
……嘘になるかもしれないです
風が執事服を叩き、景色が後ろへと流れていく。そして、マコトの前方では箒にまたがって飛ぶという如何にも魔法使いらしい飛び方を披露する少女―――――アイリーンが目を輝かせていた。
「マコト! あれがエルフの森?」
「はいs――――ああ、そうだよ」
長年の習慣というのは一日や二日で落ちるものではないらしく、マコトはたびたび敬語を途中でタメ口に直している。
それを見て、アイリーンは決まって嬉しそうに笑みを浮かべた。
賢者の石の捜索クエストを受けたマコト達は、早朝に屋敷を出発。アイリーンとクリーミネは箒で、マコトは能力を行使して空を数時間飛び続け、ようやくエルフの森の前にたどり着いた。
「すごい……世界に、こんな場所があったんだ……」
アイリーンの声が静かに響く。無論、この発言はエルフの森についての感想である。
エルフの森の木々は大きく、一本一本が六階建てのビル程度に相当する。太い幹から出る数々の枝は、巨大アスレチックのような光景を形成していた。
マコトもこの景色を最初に見た時はかなりの衝撃を受けたものだ。綺麗な絵などでしか見ることがなかった空想の景色が実在し、実際に目で見ることが出来た感動は形容し難いものがある。
『そうか……俺の元居た世界を見た時点で感づいてたけど、幻想は幻想のまま終わっちゃいなかったんだな』
マコトの脳裏に、今となっては遠き日の記憶が蘇る。あの時はこれから剣聖と戦うことになるなんて思っていなかった。なんで自分だけこんな不運なんだ。
「マコトさん。長時間の飛行でアイリーン嬢の魔力の消耗が激しいです。今日は宿に泊まって、明日からダンジョンに潜りましょう」
「え~……」
「アイリーンも魔法をいっぱい使いたいだろ? だから、今日はのんびり観光しようぜ?」
「うん、まぁ、そうだね!」
立ち直りの早さとちょろさは、屋敷の中で随一のアイリーンだった。
◆◆◆
「そ、ソフトクリームだとっ!? この世界にもあったのか!」
宿を適当に探し、アイリーンとクリーミネと観光している現時刻は11時。
俺はこの世界で初めてソフトクリームを発見していた。なにこれ感動。
「お、おっちゃん! これ、牛乳からできてるやつだよな!?」
「なんでわかんでぇい兄ちゃん。まさか、作り方でも盗み見たんじゃねぇだろぉな」
店の厳ついおっちゃんが、眉間にしわを大きく寄せて俺に問う。だが、俺はそんなことを気にしてる場合じゃない。
「そんなことはどうでもいいんだ!」
「あんだと!?」
「俺に10本くれ! 金ならある!」
「なんだ、にいちゃん客か。まいどあり~」
俺がソフトクリームを買うことがわかると、おじさんは掌を返したように朗らかに笑う。商人ってロクな奴がいないのか。
「マコト! あのカフェ入りたい!」
「あ、それ私たちにもください」
アイリーンが指差したのは、巨木の中心をくり抜き中を店にしてあるカフェだ。なるほど、木の上から景色を見ながらお茶が出来るわけだな。
さすがはエルフの森の玄関口であり、森居一体の都市・エルソフィア。
自然と建築物が完全に融合を果たしている。
俺は景色に感心しながらアイリーンとクリーミネにソフトクリームを渡し、巨木の上へと続く螺旋階段に足をかけた。
さすがにエレベーターはないか。やはり文明レベルの差はそう簡単に埋まりそうにない。
「ていうか、腕一杯の食べ物を持って店に入るとか少し無粋だったか?」
「私なら三秒で食べられますけどどうします? マコトさんの7個も私にくれてもいいんですよ?」
「断固拒否する」
「そんなぁ……」
項垂れるクリーミネに苦笑いしていると、暖かな斜陽が店内を満たす巨木の上部にたどり着いた。なかなか立地に恵まれた店だ。
「私、あそこの端の席が良い!」
「眺めが良さそうですね……」
眺めがいい、か。ひょっとして宿の女湯とかもここから覗けたりするのだろうか。
まぁやらないけどな。絶対にやらないけども、俺を含む全世界の男の願望と希望をかけて、俺は今夜あくまでお茶をしにここへ来ます。異論は認めない。
「さすがに飛んで見るのはばれるしなぁ」
「クリーミネ、なんかマコトを斬った方がいい気がしてきた」
アイリーンが何だか物騒なことをクリーミネに伝えて席に座る。
後ろの席にエルフが一人座っているが、他の席は空席だ。ここは意外に穴場だったりするんだろうか。
「ねぇ、マコト。少しマコトの話をしてよ」
店員が机に置いたグラスの中の氷を転がしながら、アイリーンは景色を見た。
上から見ると先ほどのアイスクリーム屋がミニチュア程のサイズになっている。良い眺めだ。
「確かに、私もマコトさんの話を聞いたことがありませんね」
「昼時のカフェで話せる話となると大分限られてくるんだけどな」
俺の話は大体流血と死体が登場する。そんな話を昼時のカフェで、しかも少女に話すなど無粋にも程があるだろう。というか、自分の話はしたくないです。
「マコトのことを知らないままじゃ、クエストに行けないよ」
「そうですよ。聞きたいです」
身を乗り出していうアイリーンに、俺は苦笑した。あまりにも場を考慮しない話だが、仲間建っての希望ならしょうがない。
「――――――これは大戦の末期、終戦まで一年を切った日の話だ」
◆◆◆
エルフの森の玄関口、エルソフィア。
森に愛された精霊の住むその都市は、血痕と腐った血肉で溢れていた。
「貴様らァ! この都市は完全に我々が―――――――」
「ま、まさか貴様が―――――――」
「撃つんだ! 奴は所詮人間―――――――――」
亜人兵士十人の言葉が一振りの刀によって強制的に切られ、兵士たちはその場で死体と化す。殺害した本人は死体に目もくれず、刀についた血を軽く払って前方を見据えた。
敵の数―――――ざっと数えて120人。本気を出せば一撃で終わる。
「アリア、ここは俺一人で落とせる。お前はメルカニコスへ急げ」
「待ってますよ? ―――――――瓦礫と死体の上で」
マコトのいるエルフの森では、凄惨な戦いが繰り広げられていた。
特に兵士が多いエルソフィアでは敵国が木々に炎と枯葉剤をまき、森を地獄絵図に変えてしまった。
これに反発したエルフが挙兵するが、それも敵国のドラゴン使いの前で敗北。
現在の戦況は最悪となっている。
「まあ、前の世界よりはましだな。この戦争は」
前の世界。それは、マコトがこの世界に異世界転移する前の世界のことだ。
その世界の名は『ノースコスモロジー』。
世界から恨まれ存在を消去された者たちが集う9つの国。
そこでマコトは戦いに巻き込まれていたころをある少女によって救われ、現在に至るというわけだ。
ちなみにマコトの出身は神奈川県。つまり、マコトは二度の異世界転移をしたことになる。
「まし? それは随分と余裕そうだね。何か作戦でもあんの?」
突如として、マコトの背後に霞むほどの速さで現れた剣士。マコトは何の反応も見せず、剣士が動くのを待った。
「油断大敵。よわっちぃのしかいないと思った? 残念。私がいたのです」
「剣聖か?」
「なんだ、きづいてたの」
余裕の声色で笑う少女―――――もとい剣聖は、殺気とともに鞘から剣を抜いてマコトの首元に置いた。僅かに触れた刃が、真紅の血液を吸う。
「あなたはここでゲームオーバー。さようなら」
剣聖が笑ったその時。
エルソフィアがマコトを中心にして一瞬で凍結した。剣聖の剣は凍てついて真っ二つに折れ、木々に放たれていた炎は姿を消す。
剣聖は魔力を体内に流してマコトの力に抵抗し凍結を防いだが、それは致命的なタイムロスとなる。
「―――――油断大敵。自分の力を過信したな、剣聖」
剣聖が防御姿勢を取る前に、マコトの刀が剣聖の腹に届く。肉が避ける音が響き、鮮血が宙を舞ってもおかしくない剣速と威力がその一太刀にはあった。
が、マコトの鼓膜に響いた音は甲高い金属音だけだ。
「あぶなかった! ひやひやしたよ」
マコトから距離を取り、剣聖は腰にあるポーチから剣の柄を取り出した。どうやらあれに刀が当たったらしい。運が良い奴だ。
「それにしても、私顔はいいと思ってるんだけど。なんでこんなか弱い少女に刀で斬りつけるの?」
「斬りつけてきたのはお前だろ。そんなに自分の身が可愛いなら戦場になんて来るな」
剣聖は「確かに……」と苦笑し、剣の柄だけを構えた。その行動に、マコトは目を細める。
相手は剣聖だ。この世界における剣聖がどれほどの実力を持つかは知らないが、警戒を強めておくに越したことはない。
場合によってはこの森にも犠牲になってもらう必要もでてくるのだ。
「斬撃はパワーだぜ☆、なんつって」
剣聖が笑みを浮かべたと同じ、剣の柄から放たれた白銀の輝きが一瞬世界を染め上げる。そしてその数瞬語、剣の柄から力の奔流と形容してもよい魔力の塊が、マコトに向かって放たれた。
「こちとらボムも何も無いってのに……難易度ルナティックですかちくしょうが」
マコトは悪態をつきながらも能力を発動。目の前に巨大な氷壁を造り、力の奔流を受け止めた。
衝撃波と轟音が木々の間を駆け、氷壁にひびが一筋入る。だが、魔力の塊でさえも氷壁を破壊するにはいたらなかった。
「その氷、君の能力?」
凛とした声が響き、剣聖の剣が氷壁を真っ二つに切り裂く。マコトはその光景に驚愕した。
剣聖の剣はさっき氷結させて折ったはずだ。しかし、剣聖の手にはしっかりと剣が握られている。
錬金術で瓦礫を剣に変えたのか? いや、そんな時間はなかった。では、なぜ。
「……さっきの剣の柄か。魔力でも流せば刃が生成される仕組みにでもなってるんだろ」
「察しが良すぎるのはつまらないなぁ」
剣聖が苦笑し、つまらなそうに剣を構え直す。マコトは刀を中断に構え、この戦いを一瞬で終わらせる策を考えていた。
「そういえば、よわっちぃ兵士たちは……うわぁ、寒そ」
剣聖の剣を壊した時、わざわざ街一つ凍結させたのは敵の兵士120人をまとめて凍結させて無力化する狙いがあった。
それに気づいた剣聖の顔が引きつる。が、そんななかでもマコトへの警戒を怠っていないのだから化け物である。
「お前は人間なのか?」
「あたりまえでしょ。その質問は失礼だよ? ……君は?」
「人間だ」
お互いが笑みを漏らす。が、その笑いはすぐに嗤いに変化した。
「「化け物め」」
お互いが地を蹴り、霞むほどのスピードで距離を詰める。
剣聖はその尋常ならざるスピードから生じた勢いをそのまま剣に乗せ、マコトの首元に向けて振った。
マコトは刀で斬撃を受け流し、衝撃波によって木の葉が吹き飛ぶのにも構わずに上段蹴りを放つ。
剣聖はこれを首をひねる動作だけで回避。続けざまに反撃に出ようと重心を低くする。が、その前にマコトの鞘が剣聖の腹部に届いた。
「――――ッ!?」
鞘が腹部に沈み、剣聖の顔が歪む。
――――――――――――このままではまずい。
剣聖は危険を察知し、後ろへ下がろうとする。が、即座にマコトの刀が跳ね上がって剣聖の髪をかすめた。
「くっ!!」
この攻撃はマコトにとって躱されてもいい攻撃だった。剣が剣聖の周囲に届くことで『逃げ切れない』と剣聖に思わせるための、ただの接続のための攻撃に過ぎなかったのだ。
「なら!」
剣聖は剣を嵐のように振り続け、マコトの攻撃スピードを徐々に落としていく。
攻撃は最大の防御、というわけだろう。よく考えられた戦術だ。
が、剣聖の思考はそのさらに上を行く。
剣聖が剣をマコトの頭に向けて振り下ろす。マコトは後ろに軽く飛んで距離を取ることで、前髪の先を掠める程度に被害を抑えた。
が、剣はマコトの鼻先で動きを止めた。
「もらった」
剣の先に、膨大な魔力が収束していく。その光景を見て、マコトはようやく剣聖の策に気づいた。
嵐のように繰り出された斬撃は、全てこの攻撃をマコトに悟られないようにするための攻撃。本当の策は、ここで全てを終わらせる究極の一撃を放つことだったわけだ。
剣聖の名は伊達じゃないらしい。
「こりゃまいったな、氷結じゃ防ぎきれない」
「――――――さよなら」
剣先から無慈悲に放たれた一撃は、辺りを真っ白に染め上げて氷を溶かした。