FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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化猫の宿

 

 フィールが生まれた翌日、身支度を済ませたジェラールは杖と大きなリュックを背負うとフィールを腕に抱きかかえながらテューズに別れの挨拶をしていた。

 

「すまない、ここからは危険だから連れて行くことは出来ないんだ」

「やだ! 危険ならジェラールだって危ないでしょ!? 僕も行くよ!」

「ダメだ! これはオレの問題だから…巻き込む訳にはいかないんだ」

 

 ジェラールは心を鬼にして泣きじゃくるテューズを突き放す。これから彼はまた各地を転々としながらアニマを閉じて回る。アースランドとエドラスを繋ぐアニマに関わる為、一歩間違えればエドラスに送られてしまう危険と常に隣り合わせになってしまう。

 

「テューズは何処か近くのギルドに入ると良い。本当はギルドまで連れて行ってあげたいんだけど…」

 

 ジェラールは申し訳なさそうに目を伏せる。近くのギルドに連れて行ってあげたいというのは彼の紛れもない本心なのだが、ジェラールにはそれを出来るような時間が無かった。

 

 というのも、フィールを孵化させる間ジェラールはアニマを閉ざす事が出来なかったため、今まで放置していた分幾つかのアニマの気配を感じ取っていた。

 一刻も早くアニマを閉ざさなければどんな影響があるか分からない。その為、テューズをギルドに送り届ける余裕は無かった。

 

「頼む、わかってくれ…」

 

 頭を下げ、震える声で懇願するジェラールに何も言えなくなってしまい、テューズは唇を噛み涙を堪えると分かったと声を絞り出す。

 

「…ありがとう。ドラゴン、見つかるといいな」

 

 悲しそうな顔でテューズの頭を撫で、ジェラールはフィールを抱えてテューズの元から去って行く。その後姿を眺めるテューズはジェラールとの思い出がフラッシュバックし、涙が溢れて止まらない。

 1年振りに誰かと暮らした。また一人ぼっちに戻ると思うとどうしようもなく寂しくなってジェラールに手を伸ばすが、迷惑はかけられないと拳を握り、俯いて声を殺す。

 

 その様子をジェラールの肩越しから見ていたフィールはするりとジェラールの腕を抜け、小さな羽をはためかせてテューズ元へ飛んで行こうとする。

 

「フィール!? 一体何を!?」

「…私はあの子と一緒に居ます」

 

 驚愕するジェラールに言葉を返すと、フィールはフラフラとテューズの元へ向かい彼の頭に乗った。

 

「…フィール?」

「一緒に居る…から」

「え"ぐ…フィール!」

 

 一人ぼっちに戻ると思っていたテューズはフィールの一緒に居ると言う一言が嬉しくてたまらず、感涙に咽び泣く。

 そんな彼らを見たジェラールは目頭が熱くなり、一度手で拭う。エドラスに関する者であるエクシードをテューズの側にいさせるのも気が進まなかった為フィールを連れて行こうと考えていたが、どうやらその必要はないらしい。

 テューズが一人で大丈夫だろうかと心配していたジェラールは、これなら大丈夫そうだと安心すると彼らに背を向けて歩き出した。

 

「ジェラール! また会える…?」

「あぁ、必ずまた会えるさ」

 

 足を止めたジェラールは振り返る事なくそう言い残すと去って行き、ジェラールを見送ったテューズはまた会えるという言葉を信じ、希望を胸に涙を拭う。

 頭のフィールを撫でると自身も洞窟に戻り、身支度を整えてジェラールとは反対方向へ進み出した。

 

 

        *

 

 

 その後、テューズはジェラールに言われた通り近くのギルドに加入する。ということはなく、何処のギルドにも属さずにフィールと共にリヴァルターニを探し続けていた。

 しかし手がかりなど微塵もなく、二人は偶然見つけた木の切り株を椅子代わりに昼食を取ることにした。

 

「ん、これ美味しいよ」

「色々と貰いましたね」

 

 先程立ち寄ったお店でテューズを心配した店主に貰った弁当を広げ、そのおいしさに頬を緩ませる。フィールが他に貰った物を探ってみると、飲み物やお菓子、更にはこの付近の地図までもが入っていた。

 

「今は大体この辺りですかね…?」

「へぇ、近くにギルドがあるんだ」

 

 フィールが地図を見ていると、テューズも弁当をつつきながら地図を覗き込む。彼の言った通り、地図にはこの先を進んだ辺りにギルドあると記載されている。

 そのギルドに立ち寄ってみようかなどと話していると、テューズが突然振り向き茂みの方を睨む。

 

「どうかしました?」

「今何かいたんだけど…」

 

 足跡や僅かな気配を感じた気がしたのだが、テューズの見つめる先には何もない。気のせいかな? と疑問符を浮かべたテューズは再び弁当を食べ始めるが、フィールは辺りを見渡して索敵する。

 すると、先程テューズが睨んでいた茂みのすぐ近くから二人の様子を窺う猪の姿を発見した。

 

「テューズ! 後ろ!」

「!?」

 

 猪が涎を垂らしていることから危険を察知したフィールはテューズに報告し、それと同時に猪がっかり猛スピードで突進してくる。横に飛ぶことで猪のタックルを回避したテューズは急いでリュックを手に取り、フィールを抱えて猪から一目散に逃げ出した。

 

「危ない!」

「ッ!?」

 

 子どもの足で野生の猪から逃れられる筈もなく、獲物に狙いを定めた猪が突撃するのをフィールが目撃し、フィールの警告によって紙一重で猪の攻撃を回避する。

 

「テューズ、さっき地図に載ってたギルドに──」

「もう向かってる!」

 

 フィールが攻撃を察知し、それに合わせてテューズが回避。単調な攻撃を繰り返す猪をそうやって何度もいなしながらひたすらに走り続け、助けを求める為ギルドを目指す。

 途中何度か魔法で応戦を試みたが火力不足か効いている様子は無く、それどころか怒った猪は更に興奮してしまった。

 

「嘘ッ!? もう一体来てます!」

 

 自分達を追ってくる猪に集中していたフィールは、視界の端にもう一頭猪がこちらに向かってきていることに気づいた。匂いか、それとも騒音に引かれて来たのかは分からないが、もう一体の猪も自分達を狙っていることは理解できた。

 フィールの警告に合わせて何とか躱していたテューズだったが、その小さい体で二頭の猪を相手するのは無理があり遂に猪の突進がテューズを捉えた。

 

「かはッ! …ぅ…」

「テューズ! しっかりして!」

 

 巨体に吹き飛ばされたテューズは木に背中を打ちつけられ、地面に転がると苦しそうに咳き込み立ち上がれそうにない。今の一撃で骨が何本かやられ、呼吸するだけでも苦しい程だった。

 二頭の猪は倒れたテューズの元へやってくると、奥歯を鳴らして震えるフィールを無視してテューズが倒れた際に撒き散らした荷物の方へ向かって行き、争うように食糧を漁っている。

 

(目的は私達ではなく、私達の持っていた食材…?)

 

 猪の狙いに気づいたフィールが咄嗟の機転で、自分の持っていた食材を丁度二頭の間の辺りに放り投げた。

 それに反応した猪達は同時にその食材を狙い、唸り声を上げて対峙する。睨み合いが続いていたが、痺れを切らせた一頭が食材を咥えて森の奥へと逃走し、もう一頭もそれを追って森の奥へ消えていった。

 

 安心したのも束の間、フィールは辛そうに呼吸をするテューズの様子を見てどうすれば良いのかと辺りを見渡し、テューズに助けを呼んでくると言葉を残して全速力で近くにある筈のギルドへ向かった。

 

 

        *

 

 

 所変わって、ここはテューズ達のいた森からそう遠くない花畑。一面に咲く花達の中央には藍色髪の少女と、白い猫が花の冠なんかを作って遊んでいた。

 しかし、いつもと違って少女はチラチラと森の様子を何度も気にしており、白猫は何かあったのだろうかと疑問をぶつけてみることにした。

 

「ウェンディ、さっきから森さん方を気にしてるけどどうかしたの?」

「うん…さっきから何だか騒がしくて」

「騒がしい? 私は別に何も感じないけど…」

 

 ウェンディの話を聞いてシャルルは集中して森を見てみるが、やっぱりよく分からず首を傾げる。滅竜魔導士である為人並み外れた聴覚を持つウェンディが言うのだから何かあるのは間違いないだろう。

 が、恐らく十中八九面倒ごとであることは想像がつく為シャルルは出来れば関わりたくないと森から意識を逸らした。

 

 そんな考えとは裏腹に、シャルルは面倒ごとに巻き込まれることになる。二人の元にフラフラと飛ぶフィールがやって来たのだ。

 

「大丈夫!?」

「待ちなさい! ウェンディ」

 

 翼が消え、花畑の中に落ちたフィールに駆け寄ろうとするウェンディの行手をシャルルが阻む。

 翼を生やした猫の姿を見て自分と同じエクシードだと理解したシャルルは、嘗てないほどの警戒心をフィールに向けていた。

 

「気をつけて、罠かもしれないわ!」

「何を言ってるの…シャルル」

 

 自分達エクシードは滅竜魔導士の抹殺を命じられていると記憶しているシャルルはウェンディを狙って来たのかとフィールを警戒しているのだが、そんなことを知らないウェンディは一変したシャルルの様子に困惑している。

 

「ウェンディは渡さないわよ!」

「ウェンディ…? 何のことかさっぱり──」

「嘘おっしゃい! あんたの狙いは分かってるのよ!」

「シャルル、落ち着いて!」

 

 疲れ果てているフィールにはシャルルの言葉の真意を考える余裕もなく、フラフラと立ち上がる。明らかに弱っているフィールを見ていられなくなったウェンディはシャルルの制止を振り切ってフィールの元へ駆け寄っていった。

 

「ダメよウェンディ! そいつから離れて!」

「何言ってるの!? こんなに弱ってるのにそんなこと出来ないよ!」

 

 ウェンディの反論にシャルルは言葉が詰まる。まさか自分達エクシードはあなたを抹殺する為に別世界から送られて来ました、などと言えるわけもなく危険なのにその危険性を説明出来ない。

 そんなシャルルの苦悩など知る由もなく、ウェンディはフィールを膝に抱えると治癒魔法をかけてやった。

 

(これは…治癒魔法?)

 

 痛みが引いていき、冷えた頭で思考を巡らせたフィールはウェンディにしがみつく。

 

「あなたなら…! お願いです、テューズを助けて!」

「あんた…何言って…」

 

 フィールの様子からただならぬ雰囲気を察知したウェンディと困惑するシャルルは互いに顔を見合わせ、フィールに事情を説明する様に促すがフィールはそんな余裕はないと翼を広げて森の方へと飛んでいく。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 構わず進み続けるフィールを息を切らしながら追う二人。暫く追いかけているとフィールが突然止まり、地面に降りる。追いついた二人が目にしたのは地面に倒れた紅色髪の少年の姿だった。

 

「お願いします、この人にさっきの治癒魔法を!」

「う、うん! 任せて!」

 

 魔力を解放してテューズに治癒魔法をかけると、次第に呼吸が穏やかになり表情も和らいでいく。傷も消え治癒魔法を止めたウェンディは息をつくと後ろにふらつき、尻餅をついた。

 

「無理しすぎよ、1日に2回も魔法を使うなんて」

「私は大丈夫。それよりこの子…」

「取り敢えずはギルドに連れていきましょ」

 

 シャルルの言葉に頷いたウェンディは眠るテューズに肩を貸し、反対側の腕をシャルルとフィールが協力して持ち上げる。途中何度も休憩を挟みながらギルドまで連れて行くと、ギルドマスターであるローバウルがテューズを預かりベッドまで連れていった。

 

「あんた、本当にウェンディを狙ってたわけじゃないみたいね」

「別に、狙う理由もありませんし…」

 

 ウェンディも心配だからとローバウルについて行った為、現在ここにいるのはシャルルとフィールの二人のみ。見定めるかのようにジロジロと見てくるシャルルから視線を逸らし、フィールは疑問に思っていたことを尋ねることにした。

 

「そもそも、どうして私は疑われているんですか?」

「どうしてって、あんた自分の使命について覚えてないの?」

 

 問いに対して疑問符を浮かべたフィールに、空いた口が塞がらない。まさか全部忘れて自分を猫だと思っているのでは? という疑問が浮かんだ為、シャルルが自分が何者かと問うてみるとフィールはエクシードだと正しい答えを返した。

 

「使命について忘れているだけみたいね…まぁいいわ。教えてあげる。私達エクシードは、滅竜魔導士を抹殺するために送り込まれた存在なのよ」

「滅竜魔導士を、抹殺!?」

「そう。勿論私はこの使命を放棄するつもりよ。だから、あんたがウェンディに手を出すようなら容赦はしない」

「なッ!? 私だって、テューズの抹殺なんてするつもりはありません!」

 

 そう言い返したフィールの言葉にシャルルの思考が停止した。今彼女は何故あの少年の名前を出した? 疑問の答えを探そうと今までの状況や発言を思い返し、もしやテューズも滅竜魔導士なのではないかと推測したシャルルは、もう一度思考を巡らせる。

 

 今後別のエクシードが攻めて来た際、バラバラでいるよりも集まっていた方が迎撃は容易になる。一つの場所に滅竜魔導士が二人もいるとなると狙われる危険も増えるが、戦力が増える方がウェンディを守れるだろう。

 答えを出したシャルルは顔をあげ、急に黙ったシャルルを心配そうに見ていたフィールの肩を掴んだ。

 

「あんた達、うちのギルドに入りなさい」

「は? な、何を急に…それにテューズはドラゴンを探しているのでギルドには──」

「ドラゴンを探しているのはウェンディも同じよ。闇雲に歩いて探すよりも、情報が集まるギルドに留まっていた方がよっぽど賢いわ」

 

 シャルルの説得にフィールは納得し、確かにそうかもしれないと考え込んでしまう。しかしどれだけ考えたところでそれを決めるのはフィールではなくテューズだ。

 

「私も説得はしてみます…けど」

「あいつの答え次第ってわけね…」

 

 そう言って、二人はローバウルが連れていった扉を見つめる。

 

 

        *

 

 

「マスター、この人大丈夫かな?」

「なぶら、わしが見た限り命に別状はない。時期に目を覚ますだろう」

 

 ローバウルに頭を撫でられたウェンディはジッと処置を施されたテューズを見つめる。一向に目を覚さない少年に肩を貸していた時、彼の匂いに何処か懐かしさを感じた。自分の育て親であるグランディーネに何処か似ていて、だけど決定的に違う匂い。何処かで嗅いだ覚えがあるような気がするが、そんな記憶は存在しなかった。

 

「ん…んん…」

 

 唸り声を上げながら目を覚ましたテューズをウェンディが覗き込む。瞳に映る自分と目が合い、何度か瞬きをしてからテューズはようやく思考が巡り始めた。

 自身の状況を思い返し、きょろきょろと部屋を見渡してみる。自分が助かったであろう事は何となく分かるが、ここが何処なのか分からない。

 

「安心せい。ここはギルドじゃよ」

 

 テューズの心情を見抜いたローバウルが説明するとテューズはもう一度辺りを見渡してフィールがいないかと尋ねた。

 ウェンディからフィールは無事だと知らされ、テューズは肩の力が抜ける。そこでようやく傷に処置を施されていることに気づいた。

 

「これありがとうございます。お陰で全然痛くないです!」

「なぶら、わしは包帯を巻いただけ。それはこのウェンディの魔法のお陰じゃよ」

 

 紹介されたウェンディは照れて頬を赤く染め、テューズは何を思ったのか鼻先がぶつかりそうな程顔を近づけると真剣な眼差しでウェンディを見つめた。

 

「な、なんですか…?」

 

 固唾を飲み、顔を後ろに引いたウェンディの匂いを何度か嗅ぐと、テューズはリヴァルターニに似た匂いだと独り言ちる。

 

「リヴァルターニ?」

「僕を育ててくれたドラゴンの名前だよ」

「ドラゴン!? じゃあ、グランディーネって知ってる!?」

 

 大人しそうな雰囲気とは一転して、肩を掴み食い気味に尋ねてきたウェンディに戸惑いながら、テューズは首を横に振った。するとウェンディはテューズの肩から手を離し、萎んだように小さくなる。

 

「そっか…グランディーネ、何処に行ったんだろう…」

「グランディーネって…」

「私のお母さん。一年前から行方不明のドラゴンなの」

 

 その言葉に目を見開いて驚愕したテューズはウェンディの手を掴み、君もドラゴンに育てられたのかと質問する。それに首を縦に振って肯定すると、テューズは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

(ジェラールの言った通り、本当に僕以外にも居たんだ…!)

 

 そこから先は早かった。同じ境遇で同じような魔法を使う二人はすぐに打ち解けあい、話が盛り上がる。

 黙って二人を眺めていたローバウルは日が沈むのを見て夕食にしようと提案した。

 

「いいんですか…?」

「勿論。夕食だけじゃない、ずっと此処にいてもいいんじゃぞ」

「そうだ! テューズも化猫の宿(ケットシェルター)に入りなよ!」

 

 提案したウェンディに手を引かれ、テューズはローバウルと共に部屋を出る。そこにはシャルルとフィールが待っていた。

 

「あら、目が覚めたみたいね」

「良かった…」

 

 涙を拭うと、フィールは心配かけてごめんねと笑うテューズの頭に乗る。そこでストレートにこのギルドに加入したいと頼み込んだ。

 フィールからの頼みにローバウルを見ると、ローバウルは満面の笑みを浮かべている。

 

「…これからよろしくお願いします」

「ようこそ、化猫の宿(ケットシェルター)へ!」

 

 ローバウルがそういうと、テューズ達の後ろで化猫の宿(ケットシェルター)のメンバー達が新メンバーの加入に歓声を上げ、テューズは恥ずかしそうに笑った。

 

 

 こうしてテューズが化猫の宿(ケットシェルター)に加入し、6年の月日が流れた。

 

 




ー今後の矛盾についてー

 現在書き直しているため、今後書き足されたシーンによりあれ? と思う所があるかもしれません。
 そう言った点については後ほど編集時に直されるはずなのでご了承ください。
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