2日3日で更新してた自分が信じられないです……
魔法舞踏会
朝。いつも通りに目覚め、いつも通りに支度をして、いつも通りにギルドへ行く。
そんなごく普通の日常はギルドに着くまでの間だけで、ギルドに着いたときに聞こえてきたのは賑やかな声ではなく、お城などで流れていそうな
ギルドの前にはみんなが集まっており、その中心ではエルフマンさんとエルザさんが踊っていた。
いや、踊りと言うよりもただただ回されている。グルグルと絶え間なく回転させられているエルフマンさんの顔色は青くなり、回転により胃から込み上げてくるものを吐き出すまいと必死に堪えている。
「これって……」
「音楽的に、多分ソシアルダンスですよね……?」
みんなが踊っているのがソシアルダンス、所謂社交ダンスだと推理したフィールだが、自信がなさそうに首を傾げている。
僕もきっとソシアルダンスなのだろうとは思うが、エルザさん達のダンスを見てはそう断言することが出来ない。
以前
「ソシアルダンス……懐かしいね」
そう言うウェンディはニコニコと笑いながら僕に手を差し出してくるが……踊れと言っているのだろうか?
別に僕は構わないのだが、もし断りでもすればウェンディの後ろから目を細めて睨んできている二人が黙っていないだろう。
「……Shall we dance?」
「I'd love to.」
差し出された手を握るとウェンディは満足そうに笑い、僕の手を引いて踊り始める。
僕もウェンディの足を踏まないよう気を付けながら踊っていると、段々と僕達の様子を見ていたみんなも踊りだし、終いにはその場にいる全員がそれぞれペアを組んで踊るほどになった。
と、そこで疑問に思った。
そもそも何故みんなはソシアルダンスを踊っているのだろうか?
みんなが解散した後にルーシィに尋ねてみると、一枚の依頼書を渡された。
内容は御尋ね者のベルベノを捕まえれば400万ジュエルもの報酬が貰えるというもの。
御尋ね者を捕まえるだけで400万ジュエル。僕の家賃50回分とかなりの金額だ。
「す、凄いですね……400万ジュエル……」
その金額にウェンディは表情を驚愕に染め、普段冷静なシャルル達も唾を飲み込んでいる。
「それで、この依頼書とダンスには何の関係が……?」
「依頼主のバルサミコ伯爵が今度の土曜日に魔法舞踏会っていう魔導士だけの舞踏会を開催するんだけど、その魔法舞踏会にベルベノが現れるらしいの」
なるほど、それで舞踏会に参加する為にナツさん達とダンスの練習をしていたのか。
理由を聞いて納得する僕達をルーシィさんはチラチラと見ると、気まずそうに付いてきて欲しいと頼んできた。
「ナツは潜入とか向いてないし、魔導士だけの舞踏会だから喧嘩始めそうで……二人ともダンス上手かったでしょ!? お願い!」
手を合わせて頭を下げるルーシィさんに分かりましたと伝えるため口を開こうとした時、僕達の後ろから「話は聞かせてもらった!」と声が響く。
「そういう事なら私達も協力しよう」
「報酬はオレ達も貰うけどな」
「仲間を助けてこそ漢!!」
「エルザ……グレイ……エルフマン……!」
三人がルーシィさんを助けようと名乗りを上げ、ルーシィさんの顔が明るくなる。
エルザさんが付いてきてくれるなら心強いし、ナツさんも暴走はしないだろう。
こうしてエルザさん達の同行も決まった。
********
土曜日。バルサミコ伯爵の屋敷前にウォーレンさんを含めたメンバーと辿り着いたとき、屋敷の扉が開かれた。
「どちら様ですか?」
綺麗な声と共に扉から顔を出したのはピンク色のドレスを着た茶髪の女性。その美しさに僕の目は、彼女の周りがキラキラと輝いているような錯覚を起こし、ウォーレンさんも念話で美人だと呟いていた。
「あんたは?」
「私はこの宮殿の主であるバルサミコの娘で、アチェートといいます」
『舌噛みそうな名前……』
念話でそんな事を伝えてくるウォーレンさんにみんなはツッコミを入れ、ナツさん達はその様子を苦笑いしながら見守っていたアチェートさんに仕事で来たということを伝える。
するとアチェートさんは納得したように頷き、宮殿の中に招き入れてくれた。
案内された部屋に行くと背の低い男性にソファへと座るように促され、男性は座ったアチェートさんの膝に腰を下ろす。
「私が依頼主のバルサミコ伯爵だ」
右手を上げてそう主張する窄んだ口が特徴的な男性は名前の通りだとゲラゲラ笑っているナツさんを一瞥し、仕事の内容について説明を始めてくれた。
今日の舞踏会はアチェートさんの婿を決めるためのものであり、ベルベノはその際に7年に一度だけ披露されるバルサミコ家に代々伝わる指輪を狙っているらしい。
ベルベノは7年前に指輪を狙って失敗しており、お陰で婿選びも台無しになったとか。
「しかし、ベルベノはこの風体。いくら変装して舞踏会に紛れても直ぐにバレるのでは?」
依頼書に書いてあったベルベノの似顔絵は特徴的で、あのアフロヘアと顎でクルクルと渦模様につくっている髭を持つ人物はそうそう居ないだろう。
「奴は変身魔法とマジカルドレインを使うのだ!」
バルサミコ伯爵は身を乗り出してエルザさんの疑問に答えた。
何でも、マジカルドレインというのは触れた魔導士の魔法を短時間だけ複数コピー出来るという厄介な魔法なのだとか。
「君達の力を結集し、ベルベノから指輪を守るのだ! そしてこやつを取っ捕まえて、再び牢獄に送り込んでほしい 」
「お任せください。ご期待には必ず答えます」
真面目な面持ちで答えるエルザさんに皆同意し、バルサミコ伯爵はそれを見て満足そうに頷いた後、僕達を更衣室へ案内してくれた。
僕達は男性組と女性組、そしてウォーレンさんとフィール達エクシードの外部から監視する3グループに分かれたのだが、その時にフィールから少し警戒するように注意を受けた。
そしてそれぞれ更衣室に入り、用意された普通の黒いスーツを着用する。
更衣室から出るとナツさん達は着替えを終えており、後はエルフマンさんだけだ。
「あ、グレイさんネクタイ緩いですよ?」
「んぁ? こんくらい大丈夫だろ」
「貴族の人達も沢山居るんですから、その辺りしっかりしてくださいよ……」
ため息を溢しながらグレイさんのネクタイを締めると、隣からナツさんの笑い声が聞こえてきた。
グレイさんは腹を抱えて笑うナツさんを見て舌打ちし、違和感があるのかネクタイを弄りながら苦笑いを浮かべる。
「こういうのって結局、いつの間にか緩めてるんだよな」
「じゃあ緩められないようにきつく締めますね」
「ぐぇ!」
頭を掻くグレイさんとの距離を瞬時に詰めてネクタイをきつく締めると、グレイさんの体はビクンと跳ねて両腕がピンと伸びた。
「今回は服脱いじゃダメですからね?」
「お、おう……」
グレイさんに人差し指を立ててそう言うと、グレイさんはコクコクと何度か頷いて冷や汗を垂らす。
すると、そこに着替え終えたエルフマンさんがやって来たので女性組と合流するために舞踏会の開催されている広間へと向かった。
ちなみに、苦しくなるほど笑っていたナツさんにはトロイアをかけておいた。
********
広場へ来て少し待っていると女性組が到着したのだが、僕達と合流する前にエルザさんが軽めの口調で話す男に誘われた。
ウォーレンさんの指示でエルザさんは男を調べるためにダンスを始め、ルーシィさんも誘われてダンスを始める。
続いて突然現れた女性二人にナツさんとグレイさんは無理矢理ペアを組まされ、エルフマンさんも誘われて全員が散り散りになってしまった。
「みんな誘われちゃったね……」
「取り敢えず、僕達は怪しい人を探そうか」
残った僕とウェンディは怪しい人を探すために周囲を見ていたのだが、突然歓声が聞こえ、そっちに視線を移すとグレイさんが先程エルフマンさんと踊っていた女性と魔法をぶつけ合っていた。
あれほど、あれほどみんなで喧嘩しないように言ったのに……と痛む頭を押さえていると、エルザさんが仲裁に入ってくれたが二人を吹き飛ばしてしまう。
「あ、アチェートさんが現れましたよ」
ウェンディの言葉に視線を移すと、バルサミコ伯爵と共に白いドレスに着替えたアチェートさんが広場の階段をゆっくりと降りてくる。
その美しさに男達はただただ歓声を上げるだけで誰もアチェートさんを誘うことが出来ず、アチェートさんはグレイさんを止める際に男物の服に換装したエルザさんを誘って踊り始めた。
「あの、踊ってもらえますか?」
背後から聞こえた声に驚きながら振り返ると、目元を仮面で隠した金髪の少年がウェンディをダンスに誘っていた。
「すみません。この子は僕の連れなので」
「え!? そ、そうでしたか……すみません」
ウェンディと少年の間に入って断ると少年はウェンディに差し出していた手を引っ込め、困ったように頭を掻く。
僕がフィールから受けた注意。それはこの舞踏会中誰とも接触せずに、怪しい人物の捜索に集中することだ。
ベルベノは7年前も指輪を狙っており、今回魔導士が護衛していることも予想されていると考えていい。
その為余り他人とは接触せず、それでも無理矢理触れようとしてくる者がベルベノだとフィールは言っていた。
「あの、せめて握手だけでも――」
「ごめんなさい、もう行くので……」
「ま、待って!」
その場を離れようとした時、少年は咄嗟にウェンディの腕を掴んだ。
「ッ!」
振り返り際に蹴りを少年に放つと、少年は腕で蹴りを受け止めて僕の足を抱える。
少年がニヤリと笑みを浮かべた刹那、大きな鐘の音が響き渡り、僕達以外全員の視線が音を発している巨大な柱時計に固定された。
周囲全員が柱時計に注目する中、少年はコキコキと音を鳴らしながら首を回す。
「よくオレがベルベノだと分かったな? 勘のいい……いや、誰かの入れ知恵かァ?」
仮面の奥から僕を見つめる瞳が細められ、僕とウェンディは構えを取って目の前の相手を警戒する。
その時、娘にプロポーズしたければあの指輪を手に入れろと言うバルサミコ伯爵の声に反応して周囲の男達は柱時計へ向かっていった。
ベルベノを警戒しながら柱時計の方を盗み見てみると、柱時計は扉のように左右に開いて中で小さな何かが光っていた。
恐らくあれがベルベノの狙っている指輪なのだろうと理解してベルベノに視線を戻すと、ウェンディがベルベノに魔法を放った。
ベルベノはウェンディの手から放たれた風を跳躍して回避し、元の姿であるアフロヘアの男に戻ると大きく息を吸う。
「天竜の咆哮!!」
「なっ!?」
ウェンディの技をコピーしたベルベノの
「バルサミコ家の指輪は、このベルベノ様が確かに貰ったぜ!」
「ベルベノ……」
「おのれ! 指輪を返せェ!」
激昂するバルサミコ伯爵を見下ろしながらベルベノが指輪をクルクルと器用に回していると、その背後から腕に炎を纏わせたナツさんが飛びかかる。
「やっと面白くなってきたぞ! ――火竜の鉄拳!」
「火竜の鉄拳!」
「なに!?」
炎を纏った拳同士がぶつかり合い、後ろに跳んだナツさんが
「ダンスしている間にお前の魔法もドレインさせて貰ったのよ!」
「ならば私が相手になろう。グレイ、エルフマン、アチェート殿を頼む!」
エルザさんは二人にアチェートさんの護衛を任せるとベルベノに向かっていき、煉獄の鎧に換装する。
同じ鎧に換装したベルベノとエルザさんは鍔迫り合い、なんとベルベノはエルザさんを押し返した。
「無駄だ。ここに居る
「上等だ! 物真似野郎が何処までやれるか、とことん勝負してやる!」
青筋を立ててナツさんが詰め寄ろうとすると、ベルベノは「まぁ待てよ」と言って片手を出してナツさんを制する。
「前回は失敗したが、更に7年も辛抱強く待ったのは……アチェート、お前にプロポーズするためだ」
指輪を見せながら放たれたベルベノの予想外の言葉に全員固まってしまい、ベルベノは真面目な面持ちでアチェートさんをじっと見つめる。
「お前とはガキの頃からの付き合いだったが、オレはずっと……お前に惚れてたんだぜ?」
「使用人の息子だったお前を特別に娘の遊び相手にしてやった恩を忘れたか!」
「はんッ! あんたに屋敷を追い出されてから何度もアチェートに会いに行ったが、あんたは身分違いを理由に毎回門前払いしてくれたな!」
その事はアチェートも知らなかったようで、それについてアチェートさんから尋ねられたバルサミコ伯爵は大いに焦り、ベルベノを止めようとした時の勢いはもうない。
「オレもそのごもっともな理由で勝手にアチェートの事を諦めた……だがそのせいで心が荒んじまって、いつしか悪事に手を染め、気が付きゃ刑務所暮らしよ……でもよ! 務所の中でお前にちゃんと気持ちを伝えなかった事をずっと後悔してたんだ! だからオレは脱獄して、この7年に一度だけのチャンスに賭けたのよ! しかも二度もな!」
ベルベノは僕達の横を通り過ぎてアチェートさんの前に行くと跪いて指輪を差し出し、結婚してほしいとプロポーズをした。
バルサミコ伯爵はベルベノを止めようと駆け寄っていったが、それよりも先にアチェートさんがベルベノの元へ行き、「はい」と笑顔でそう答えた。
捕まえる筈の相手がプロポーズを行い、しかもアチェートがそれを受けてしまったことに僕達は愕然とする。
アチェートさんもずっとベルベノを待っていたらしくそれはもう物語のような話だったが、アチェートさんから出された条件は自首をして罪を償ってからというものだった。
ベルベノはフゥと息をつくと僅かに笑みを浮かべながら頷き、それを見たアチェートさんはベルベノに左手を差し出す。
最初は分かっていなかったベルベノも直ぐに理解してアチェートさんの手を取り、その左手に指輪をはめる。
「二人の門出に拍手だ!」
二人は会場に居る全員に祝福され、ベルベノはみんなに見守られながらアチェートさんに「必ず迎えに行く」と言い残し、評議院に連れられていってしまった。
「よし! 今宵はアチェート殿の幸せを願い、踊り明かそうではないか!」
「「「オォォ!!」」」
エルザさんの言葉にみんなはダンスを再開し、僕は合流したフィールにお礼を伝えた。
「ありがとうフィール。フィールの助言のお陰でベルベノを特定できた」
「そんな……私は何もしていませんから……」
と、フィールは謙遜しているがそんな事はない。フィールは物事を冷静に分析し、その結果からその後の展開を見事に推理する。まさしく天才だ。
今までにもフィールに何度も助けられたし、これからもフィールには何度も何度も助けられるだろう。
「これからもよろしくね、フィール」
「ふふ、何ですか急に? それよりも、今ウェンディの相手がいないみたいですよ?」
クスリと笑うフィールの視線の先には確かに一人で居るウェンディがおり、ウェンディはキョロキョロと周囲を見回して僕と目が合うと駆け寄ってくる。
「ウェンディは踊らないの?」
「今日の私はテューズの連れらしいからね。ちゃんとエスコートしないとダメだよ?」
「いや、それは……ハイ、精一杯頑張ります」
咄嗟に出た嘘だ、と言いそうになったのを我慢してウェンディの手を取ると、ウェンディは「よろしい」と言ってクスリと笑う。
同い年で昔から知ってる間柄だからか、ウェンディは他の人に比べて僕に強気だったり、からかってきたりする。
だがそれはウェンディが僕に対して素を見せてくれているというわけで、ニコニコと楽しそうに踊るウェンディを見て、それも悪くないんじゃないかと思った。
こんなに待たせてしまって本当に申し訳ありません。
書いてて分かるんですが、多分以前の方が上手く書けてますし誤字も少ない気がします。集中力が以前の方がありましたね……
書こうにも文が浮かんでこないですよね……