FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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 アクエリアスの口調が掴めない……


星々の歌

 

 

 

 

 海合宿2日目。たった2日間ではあるが、かなり魔力は上がっただろう。この調子で鍛え続ければ、3ヶ月後の大魔闘演武までにはこの時代に追い付くことも出来るかもしれない。

 

「かーかッかッかッかッ! 見てろよ、他のギルドの奴等! 妖精の3ヶ月、炎のトレーニングの成果をな!」

 

 そう言ったナツさんは、自分が他のギルドの人達を圧倒している光景を思い浮かべているのか「オレが最強だーッ!」と哄笑していた。

 "炎のトレーニング"と言うナツさんの言葉通り、各々が自分の限界を超えようとキツいトレーニングをしていた。

 

「最初はたった3ヶ月? って思ったけど、効率的に修行すれば、まだ3ヶ月もあるの? って感じよね」

 

 ぐ~っと体を伸ばしてストレッチし、ルーシィさんは腰を下ろす。刹那、ボゴッと音がすると同時に砂煙が舞い、何かが悲鳴を上げるルーシィさんのお尻を押し上げた。

 

「姫! 大変です!」

 

 砂煙が晴れ、ようやくその何かを視認する。ピンク色の髪に、特徴的なメイド服。下半身は地面に埋もれていて見えないが、間違いなくルーシィさんの星霊であるバルゴさんだ。

 

「ちょっ!? 何処から出て来てんのよ!?」

 

「お仕置きですね」

 

 お尻を押し上げられて地面に足の着かないルーシィさんは、見事にバランスを取りながらバルゴさんに文句を言う。一見無表情に見えるバルゴさんだが、よく見てみると主からのお仕置きに期待しているのか若干頬を染め、表情が柔らかく見える。

 

「そう言や、ルーシィが7年間妖精の球(フェアリースフィア)に居たってことは、契約してる星霊もずっと星霊界に居たって事になるのか」

 

 言われてみれば、確かにそうだ。僕は星霊界がどれ程の広さなのかは知らないが、7年間もルーシィさんに会えなかったのは寂しかっただろう。ルーシィさんと星霊は主従と言うより家族のような関係に見えた。

 そう思ったのだが、「それは大した問題ではないのですが……」とバルゴさんが即座に否定する。となれば、問題は別にあるのだろうが、バルゴさんはそこから先を言わずに俯いている。

 

「……星霊界が、滅亡の危機なんです。皆さん……どうか助けてください」

 

 いつもと違い弱々しい声でそう言ったバルゴさんは深く頭を下げた。星霊界が滅亡の危機。衝撃的で一瞬止まった思考を動かし、思考を巡らせる。あり得ない話ではないのだろう。空白の7年の間に星霊界で何かが起きていても、別におかしな事ではない。

 

「星霊界にて王がお待ちです。皆さんを連れてきて欲しいと」

 

「おし! 任せとけ! 友達の頼みとあっちゃあ――」

 

「待って! 星霊界に人間は入れないはずじゃ――」

 

 ナツさんの言葉を遮ったルーシィさんの疑問に「大丈夫です」と一言だけ返すと、バルゴさんは僕達の足元に巨大な魔法陣を展開した。直後、魔法陣は眩い光を放ち、体が宙に浮く。

 浮遊感が消えると同時に体は重力によって落下し、何か地面ではない柔らかいものの上に落ちた。それが何なのか、という疑問を抱く間もなく僕も落下してきた何かの下敷きになってしまい、それがモゾモゾと動き、呻き声を発している事から人間であることが分かった。

 下の人に申し訳ないと体を起こそうとした時、僕は視界一杯に飛び込んできた光景に目を奪われた。

 宇宙のような空間に小さな惑星が無数に浮かび、それぞれに城のような建築物がある。僕達のいる星は神殿の入り口の様な場所になっており、周囲に結晶の柱が並び、一瞬で人を魅了するような幻想的な場所だった。

 

「綺麗……って、そうじゃなくて! 何で私達は星霊界に入れてるのよ!?」

 

「姫、人間でも星霊の服を着用すれば星霊界での活動が可能なんです」

 

「あ、そうなの……確かに服変わってるし……」

 

 今まで景色に魅入っていて気がつかなかったが、確かに服が変わっている。僕のTシャツと水着は、いつの間にか白と水色の衣服になっていた。

 

「よく来たな。古き友よ」

 

 重量感のある声が響き、空気が変わる。声の発せられた方向を向くと、巨人の如き体躯に鎧を纏い、大きなマントをはためかせる星霊王の姿があった。その巨体に加え、鼻下から肩まで届く2つに別れた大きな髭によって威圧感が凄まじい。

 

「お前がここの王か?」

 

「如何にも」

 

「星霊王! 星霊界が滅亡の危機って……」

 

 ”お前”と呼んだエルザさんにヒヤヒヤしたが、星霊王の機嫌を損ねるような事はなかったようだ。星霊王は特に気にする様子もなく、不安げな表情のルーシィさんにニカッと笑いかけた。

 

「ルーシィとその友の、時の呪縛からの帰還を祝して――宴じゃァーッ!!」

 

 星霊王の言葉と共に沢山の星霊が歓声を上げながら現れたのだが、正直状況についていけない。”星霊界が滅亡の危機”と聞いて来た訳だが、いざ来てみると星霊達は元気そうだし、星霊界も見た感じ平和そのものだ。

 

「星霊界滅亡の危機って……?」

 

「てへ」

 

「何ーッ!?」

 

 僕達の聞きたかったことを質問してくれたルーシィさんだが、星霊界滅亡の危機が嘘であることを知って驚愕している。当然僕達もそうなのだが。

 

「MO! 騙してスマネッス!」

 

「驚かせようと思ったエビ」

 

 彼等曰く、星霊達でルーシィさんの帰還を祝いたかったが、星霊であるためにいっぺんに顕現することは出来ない。じゃあ星霊が人間界に行くのではなく、ルーシィさんを星霊界に呼んでしまおうと言うことになったらしい。

 それでも今回こうして招待したのは特別らしいので、普通であれば出来なかったのだろう。

 

「さぁ、今宵は大いに飲め! 歌え! 騒げや騒げ! 古き友との宴じゃ!!」

 

 星霊王がそう言うと、僕達の周囲に豪華な食事が出現した。最初に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来たときはこう言うノリに戸惑っていたが、もう慣れた。

 皆もすぐに星霊達と打ち解け合い、豪華な食事を食べ始める。僕も食べようと食事を見て回っていると、声をかけられた。

 

「あんた海の滅竜魔導士だろ? ほら、ここ座りな」

 

 僕に声をかけてきたのは、人魚のような姿をした宝瓶宮の星霊、アクエリアスさん。その隣にはジュビアさんもいた。

 アクエリアスさんは怖いというイメージが強いためにこうも顔をジロジロと見られると変に緊張してしまう。

 

「ふむ、女――彼女はいるのか?」

 

「――へ?」

 

「彼女だよ、彼女。恋人の事。恋に早いも何もないんだし、今のうちから考えておかないとルーシィみたいになるよ」

 

「は、はぁ……」

 

「確かに。テューズ君ってウェンディとずっと一緒に居ますけど、その辺りどうなんです?」

 

 と言うジュビアさんの質問に続き、アクエリアスさんも次々と聞いてくる。以前に女性は恋話への食い付きは凄いと聞いたことがあったが、まさかこんな所でそれを実感するとは思っていなかった。

 しかし、ウェンディについてと言われても、ウェンディは恋人と言うより家族と言うか、兄弟と言うか、余りそう言う関係になる事を想像出来ない。

 

「あ~、距離が近すぎるって奴か。少し距離を置いてみたらどうだい?」

 

「なんて贅沢な! ジュビアはもっとグレイ様と距離を縮めたいのに……」

 

「?? グレイさんと仲良くなりたいなら、明日一緒に修行しますか? 明日はグレイさんとやる予定でしたし」

 

 ジュビアさんなら属性的に一緒にやっても差し支えないだろうと思って誘ってみたのだが、思っていた以上に反応が大きかった。

 凄い勢いで僕の手を取ると、ジュビアは鼻息を荒くしながらグンッと距離を縮めてくる。

 

「是非!!」

 

 若干怖いと思ってしまうほどの勢いに、コクコクと首を縦に振って意思表示をする。するとジュビアさんは落ち着いたのか自分の椅子に戻り、明日の事を考えて胸を踊らせていた。

 

「……で、本当に恋人は居ないのか?」

 

「いや、居ませんよ」

 

「チッ」

 

 舌打ちされた。はぁと大きくため息をついたアクエリアスさんは、その後ジュビアと苦労話を共感し合いながら僕に、恋愛とはどういうものか、と語り続けていた。

 そうして2人の話を聞いているうちに時間は過ぎ、この宴の終わりも近づいている。2人の話は聞いていて面白かったし、僕にとっては凄く新鮮だった。

 

「次会うときまでには彼女作りな」

 

「えぇ!? そんな急に……」

 

「冗談だ。何をとは言わないが、頑張りなよ」

 

 表情を和らげたアクエリアスさんはバシンッと僕の背を叩く。力強さに咳き込みそうになったが、気持ちは充分に伝わってきた。

 

「古き友よ。そなたには我々がついてイル」

 

「これからもよろしく頼むぜ」

 

「いつでも私達を呼んでください」

 

「皆さん、ルーシィさんをこれからもよろしくお願いします!」

 

 宴も終わり、僕達を見送ってくれている星霊達のルーシィさんへの眼差しは、信頼や愛情、友情等色々な感情が込められている。

 

「では、古き友に星の導きがあらんことを!!」

 

 マントを大きくはためかせると同時に星霊達はいなくなり、僕達を送ってくれるバルゴさんだけが残った。

 今日は目一杯星霊界で遊んでしまった為、皆のやる気は高まっている。ジュビアさんに至っては明日グレイさんと一緒に特訓できると、今からソワソワしていた。

 

「そう言えば一つ、言い忘れてた事が。星霊界は人間界とは時間の流れが違うのです」

 

「まさかそれって……星霊界(こっち)での一年が人間界での一日……みてーな?」

 

「夢のような修行ゾーンなのかッ!?」

 

 ナツさんとグレイさんはキラキラした期待の眼差しでバルゴさんに問う。するとバルゴさんは、その期待を情け容赦なく打ち砕いた。

 

 僕達が星霊界に行く前と違って少し肌寒い風が頬を撫で、放置されていた為か萎んでしまったビーチボールが無造作に置かれている。

 驚きの余り人間界に戻ってきても動けない僕の脳内に、衝撃を与えたバルゴさんの言葉が再生された。

 

『いいえ、”逆”です。星霊界で一日過ごすと、人間界では”3ヶ月”経っています』

 

 もしかしたら3ヶ月も経っていないかもしれない、と最後に残った淡い希望も、人間界に残っていたドロイさん達の「大魔闘演武はもう5日後だぜ!」と言う発言によって消え去ってしまった。

 受け入れがたい現実を前にヘナヘナと腰が抜けて膝をつく。

 

「終わった」

 

 その呟きと同時にナツさん達は倒れてしまい、ウェンディは泣いてしまっている。

 どうすれば……と空っぽになった頭の中でその言葉だけが繰り返される。どうすればいい。7年の後は3ヶ月の間空白ができるなんて、冗談だったらどれ程良いものか。

 

「ヒゲェ!! 時間返せーッ!!」

 

 夕陽に染まるビーチに、ルーシィさんの叫び声が虚しく響いていた。

 

 

 





 更新が遅くなってすみません。先週から立て込んでいたのですが、今週はほとんど暇がないので少し短いですが更新しました。本当はもう少しやる予定だったんですが……
 少し忙しくなってしまい、次の更新も遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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