FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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破滅の行進

「あ! あれナツじゃない!?」

 

 ルーシィが指差した先に流れる川。その川に揺られる筏の上には確かにナツの姿があった。

 筏に乗ったことで乗り物酔いを起こし、ダウンするナツの他にもう一人。

 ナツを踏みつけにし、造形した氷の槍で貫こうと引き絞るように上体を反らしているは仲間である筈のグレイ。

 

「ルーシィ!」

「わかってる! 開け、人馬宮の扉! サジタリウス!!」

「お呼びでありますか? もしもし」

 

 明らかに様子のおかしいグレイに戸惑いながら、ルーシィは自身を呼ぶハッピーの前に出て翳した鍵を振り下ろす。

 呼び出されたのは馬の被り物を着た人馬宮の星霊、サジタリウス。ルーシィの指示にサジタリウスは持ち前の巧腕を披露し、放たれた矢は見事にグレイの持つ槍を粉砕した。

 

「ッ!? 誰だ!」

 

 狙撃され、激昂したグレイは瞬時に大量の氷の槍で反撃する。

 しかし、それら全てはサジタリウスによって撃ち落とされてしまい、ルーシィ達に届く事は無かった。

 

「なにしてんのよ! グレイ!」

「オイラ達だよ!?」

 

 グレイは自分達を敵と勘違いしている。そう思ったルーシィ達は存在を主張するが、グレイは何も言わずに見つめるだけで謝罪を述べもしなかった。

 代わりに、ルーシィ達に気付いたのは筏でダウンしているナツ。

 

「ル、ルーシィ! ……ウプ」

「名前呼んでから吐きそうになるのやめてくれないかしら!?」

 

 乗り物酔いだと分かっていても、自分に対して吐き気を催されているような錯覚にルーシィは不平を漏らす。

 

「てか酷いよグレイ! いくらなんでもやり過ぎだよ! 魚横取りされたとかなら分かるけど!」

「それも大概だけど……!」

 

 ハッピーの共感性にツッコミを入れるが、ルーシィもやり過ぎだという意見に賛同してグレイに抗議する。

 今までは黙って様子を見ていたグレイだが、それを聞くと忌々しそうに舌打ちをし、侮蔑の視線を向けた。

 

「うっせんだよてめぇら。うぜえっての。こいつ片付けたら相手するから、邪魔すんじゃねぇよ」

 

 ナツを冷たく見下ろし、再び仕留めようとするグレイを見てルーシィ達の頭にある一つの可能性が浮かんだ。

 

──ニルヴァーナ。

 

 先程話していた善悪を反転させてしまうニルヴァーナの影響を受け、グレイは反転され闇に堕ちてしまったのではないかと。

 

「ゆ、揺れ……助けて……」

「止まってるからしっかりしなさい!」

「ナツ! 今助けるよ──はぐぅ!?」

 

 筏が止まっていようと少しの揺れでも吐き気を催すナツを助けるべく、翼を広げて飛び立ったハッピーは一瞬で氷漬けにされてしまう。

 氷塊となったハッピーは地面に落ち、動く様子はない。仲間に手を上げたグレイをルーシィが声を荒げて糾弾すると、グレイは表情を一転させて不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハッピーは空を飛べる。運べるのは一人、戦闘力はなし。情報収集完了」

 

 意味の分からない事を呟き始めたグレイに困惑していると、グレイは次にルーシィを見つめる。

 頭から足先まで、じっくりと観察して再び狂気を滲ませた笑みを浮かべた。

 

「グレイから見たルーシィ、ギルドの新人。ルックスはかなり好み。少し気がある」

「ふぇ!? な、なによそれぇ……!」

 

 告白とも取れる発言に不意をつかれたルーシィは顔を染め、大いに慌てふためく。

 元々グレイを意識していたという訳ではないのだが、あんなことを言われたルーシィは自分でも分かるほどに鼓動が激しくなっていた。

 

「見かけによらず純情、星霊魔導士……ほぉ、星霊ねぇ」

 

 まるで今初めてルーシィが星霊魔導士である事を知ったような、そんな口ぶりに違和感を覚える。

 その一瞬の隙を突き、グレイはルーシィに氷の槍を飛ばして攻撃を仕掛けた。

 

「……違うな、君はグレイ君じゃない。何者だ」

「グレイじゃない?」

 

 間一髪の所で氷を防いだヒビキから語られた事に、ルーシィはグレイを注視して首を傾げる。

 グレイじゃないと言われても、見た限り違和感はない。確かに行動や言動はおかしいが、彼の外見は寸分違わずグレイと一致しているのだ。

 

「グレイから見たヒビキ。青い天馬の一員。男前。詳しく知らない……チッ、情報不足か」

 

 舌打ちをすると、グレイはこちらを警戒するヒビキからテューズ達に視線を移す。

 

「ウェンディとテューズ。へぇ、二人とも滅竜魔導士か。だがどちらも戦闘能力は無し」

 

 次にシャルル達を見たグレイはハッピーと同じだな、と呟いて面倒そうに後頭部を掻いた。

 いい加減ハッピーと同じだと言われることに業を煮やしたシャルルがグレイに飛びかかろうとする。

 ウェンディ、テューズ、フィールの三人がかりで宥めていると、グレイは大体こんなもんか、と零し突然煙に包まれた。

 何を仕掛けてくるつもりなのかと臨戦態勢を取るルーシィ達が煙を凝視していると、次第に煙が晴れていく。

 煙の先にグレイの姿はなく、代わりにあったのはルーシィの姿だった。

 

「あ、あたし!?」

「君、頭悪いだろ…こんな状況でルーシィさんに変身しても、僕達が騙されるはずがない」

 

 グレイが消えただけでなく、目の前に自分が現れて驚愕するルーシィと、愚行としか思えない行動に呆然とするヒビキ。

 しかし偽ルーシィには何か考えがあるようで、余裕の笑みを崩さずに軽く手招きをして視線を集める。

 

「そうかしら? あんたみたいな男は女に弱いでしょ?」

 

 そう言って偽ルーシィは自分の服をたくし上げ、見せつけるように胸部を晒す。

 ただでさえその存在を主張している胸部。それを僅かに胸を反らして強調すると、ヒビキとサジタリウスの視線は釘付けにされてしまった。

 

「「おぉぉ!!!」」

「いやぁぁぁ!!!!」

 

 雄叫びを上げる男達と、その横で自らの胸を隠して悲鳴を上げるルーシィ。

 その隣で、偽ルーシィが服に手をかけた時点で彼女の行動を読んだフィールにより、目を潰されたテューズは彼らの横で激痛に悶えていた。

 

「す、すみません。つい咄嗟のことで……」

「いえ、よくやったわ。全く、こういう教育によくない事はやめてもらえるかしら!?」

「あたし違う! あっち! あたしだけど……うわーーん!! 意味分かんない!」

 

 偽ルーシィを指差し、頭の中がこんがらがったルーシィは泣き出してしまう。

 その隣で両目を押さえるテューズにウェンディが治癒魔法をかけてやると、こんな下らない事でウェンディに魔法を使わせないでとシャルルが偽ルーシィに声を荒げた。

 その言葉につい勢いがついてしまったフィールも責任を感じ、気まずそうに目を逸らす。

 一方偽ルーシィは眉を顰めてシャルルを睨み、取り出した金色の鍵をシャルルに向けた。

 

「うるさいなぁ、君は邪魔だよ。サジタリウス──お願いね」

「ッ!? 危ない!!」

 

 引き絞られた弓から勢いよく矢が放たれ、矢は真っ直ぐシャルル達へと向かう。

 予想外の攻撃に反応が遅れたシャルルとフィールを抱く形で庇ったヒビキの体を矢が掠め、破けた服にじんわりと血が滲む。

 

「サジタリウス!?」

「なんでフィール達を!?」

「ち、違いますからして……某は、こんなことをしようとは……」

 

 サジタリウスの行動に誰よりも驚いていたのはサジタリウス本人だった。

 体を思うように動かすことが出来ず、抵抗する意思と意思に従わない体が拮抗してサジタリウスの体は震えている。

 

「あんた、まさか私の星霊を操って!!」

「そう、今の私にはあんたと同じことができるのよ」

 

 怒りの込められたルーシィから送られてくる視線を気にも留めず、偽ルーシィは金色の鍵をくるくる回してサジタリウスに攻撃の指示を送る。

 

「申し訳ありません……体が勝手に!」

 

 再び弓を引き絞るサジタリウスは必死に抵抗し、指先を振るわせて照準をずらす。

 そんなサジタリウスの辛そうな表情にルーシィは怒りが沸々と湧いてきたが、それを押し殺してまずは冷静にウェンディ達二人を連れて逃げるようシャルル達に指示を出した。

 

「分かってます!」

「言われなくてもそうするわよ!」

 

 パートナーを掴み、その場からいち早く離脱しようと上昇する二人にサジタリウスが照準し合わせる。指先の震えにより狙いが安定しないが、彼の技術を持ってすればそんな状態でも矢を外す事はなかった。

 

「やめて! サジタリウス!」

「!!」

 

 意思の抵抗と主人であるルーシィから指示。二つの要因により放たれた矢は風を切り、二人から逸れて空の彼方へと消えていく。

 

「下ろしてフィール! せめてサポートくらいは──」

「今行っても足手まといになるだけですよ!」

「ここは任せるしかないのよ! ウェンディも我慢して!」

 

 暴れる二人にそういうとシャルル達は全速力でその場を離脱し、ルーシィ達の姿は木々に阻まれて見えなくなってしまった。

 

 

 

 

「ここまで来れば、取り敢えずは大丈夫だと思います」

 

 樹海を一望することが出来る高台にテューズを下ろし、フィールはくたっと座り込む。

 ここまで常にフルスピードで飛び続けていたため疲れ切ってしまっていた。

 

「一旦ここで休憩しましょう。みんなと合流するのは後ね」

 

 同様に疲労したシャルルが座り込むと、ウェンディも俯きながらシャルルの隣に腰を下ろす。

 やはりウェンディとテューズの二人は置いてきたルーシィ達が気掛かりのようで、その表情は浮かないものだった。

 

「私、みんなの役に立ててるかな……」

 

 誰に質問する訳でもなく、ボソリとウェンディが独りごちる。膝を抱えて丸くなるウェンディの表情は見えないが、彼女がどんな表情をしているかシャルルには容易に想像できた。

 

「どうせあの場所にいても役に立たなかったわよ。だったら、こうして逃げた方が迷惑をかけずに済むわ」

 

 突き放すように淡々と語るシャルルは、ウェンディから目を逸らす。今ここで慰めを言ったところで、ウェンディが自責をやめないことは分かっていた。

 だからこそこうして合理的な回答をした訳だが、それでもウェンディを突き放すというのは心にくるものがある。

 

「……ごめん。僕がちゃんと戦えれば──」

「そうじゃないでしょ。あいつらが強すぎるってだけなんだから」

 

 落ち込むテューズに言葉をかけると、シャルル自身も下を向く。一体誰が予想できただろうか。

 姿形を真似るだけでなく、思考や魔法まで完璧に真似てしまうなど反則だ。あんなもの勝ち目がない。

 もし仮にウェンディ達が戦えたとしても、シャルル達はこうして二人を連れて逃げただろう。

 今日初めて会った他ギルドの人間より、大切な親友を優先するに決まっている。

 

「……そういえば、ウェンディはジェラールを知っているんですか?」

 

 暗い雰囲気を変えようと話題を探し、フィールはウェンディに疑問をぶつけてみた。

 その問いにウェンディはハッとしたように顔を上げる。

 

「そうだ。テューズもジェラールを知っていたの?」

 

 今まで色々あったために忘れていたが、洞窟での出来事からずっとそれが気になっていた。

 当然同じような疑問をテューズも抱いており、二人は互いにジェラールとの関係を話すことになる。

 ウェンディは7年前に天竜グランディーネを探していた時、ジェラールと出会っていた。一人路頭に迷うウェンディを連れて、ジェラールは一ヶ月程の期間あてのない旅をしていた。

 しかし突然変なことを言い出し、ウェンディを化猫の宿に預けたという。

 

「……そっか。じゃあジェラールが言ってた子って、ウェンディのことだったんだ」

 

 以前ジェラールから聞いた、テューズと同じようにドラゴンを探しているいう人間。

 いつか会ったみたいと思っていたが、まさかそれがウェンディだとは思ってもいなかった。

 

「で? あんたはそのジェラールって奴とどういう関係なわけ?」

「僕がジェラールと会ったのは、多分ジェラールがウェンディと別れて一年位経ってから……」

 

 ジェラールと出会い、そのお陰でフィールと出会えたこと。ジェラールとの思い出などをテューズが話し合えると、シャルルは何処か腑に落ちないようで眉を顰めながら考え込む。

 

「二人がジェラールの知り合いってことは分かったけど、洞窟内で見た時はとても知り合いって感じじゃなかったわよ?」

「それは同感です。私にもジェラールは二人を知らないように見えました」

 

 その言葉に、二人の表情が重くなる。言われた通り、ジェラールは二人と会話することもなく洞窟から去って行ったのだ。

 ジェラールは自分達のことなど忘れてしまったのか、という考えが頭を過り、二人の纏う雰囲気はより重苦しいものへと変わってしまう。

 

「……とにかく、今は休むことが大切です」

「そうね。あんた達もウジウジしてないでゆっくり休みなさい。……役に立ちたいんでしょ?」

 

 気を使った二人の言葉に頷くと、テューズは自身の頬を挟むようにして叩き気合いを入れる。

 こんなにウジウジしていてはニルヴァーナにジャッジされてもおかしくない。ジェラールに関しても、本人から直接聞いてしまえばいいのだから。

 だから、ここから先は前を向く。

 

「あの光の所に行くんだよね」

 

 立ち上がり、尻についた砂埃を手で払うとテューズは光を目指して歩き出した。

 しかし、二歩三歩歩いた所で何者かに襟首を掴まれて尻餅をつく。

 

「気合いを入れるのはいいんですが、さっきの話聞いてました?」

「今は休むって話してたでしょ!」

「……ごめんなさい」

 

 翼を広げ、腰に手を当ててテューズを見下ろすシャルル達に、テューズは縮こまってしまう。

 そんな彼らを見てウェンディも胸の痞が下りたのかいつもと変わらない笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 時間は過ぎていき、空が赤く染まった頃。ある程度回復したテューズ達は黒から白へと変わったニルヴァーナの光を目指し、樹海を進んでいた。

 ウェンディが後どれほどの距離があるのかと光を見たその時、異変は起こった。

 

「ねぇ、あれ!」

 

 ウェンディが指差したニルヴァーナの光。全員がその光に注目していると、光は徐々に太く広がりより強い光を放つようになっている。

 

「まさか、ニルヴァーナが最終段階に──!?」

 

 青ざめたフィールが呟いた刹那、立っていられなくなるような大きな地響きが起こると地面が盛り上がる。

 大地がひび割れたことで支えを失った木々は根元から倒れ、危険と判断したフィール達はテューズ達を連れて上空に避難する。

 そして、そこで見た光景に言葉を失った。

 

「なに……あれ……」

「地面から何かが……」

 

 自分達のいた地点だけでなく、この樹海全体から()()が大地を突き破るようにして出現している。

 光を中心として、そこから各方面に計6本の巨大な足のようなものが広がっており、その内の一本がテューズ達の足元に繋がっていた。

 

「これが、ニルヴァーナ……?」

「まさかこんなにも巨大なものだなんて……」

 

 あまりの大きさに驚愕していると、中心となっていた光の周辺は木々を払い落としながらどんどん上昇していき、その全貌を表した。

 光のあった場所には今では廃れてしまった巨大な街が広がっている。

 古代人の都市。これこそがニルヴァーナの正体。

 

「あの街まで行ってみよう」

「……そうですね。少し危険ではありますが」

 

 フィールがチラリとシャルルに視線を向けると、ウェンディとシャルルは頷いて同意する。

 まるで生き物のように6本の足を使って前進するニルヴァーナの上空を飛び、降下地点に敵はいないかを索敵。

 滅竜魔導士の視力を用いて探り、見る限り周囲に敵影がない事を確認してニルヴァーナの街に降り立った。

 

「ごめんねシャルル、無理させちゃって」

「私のことはいいの。あんた達は私に構わず先に進んで」

 

 街に降り立つと、シャルルは限界を迎えていたようで息を切らして座り込む。

 そんなシャルルを置いていく訳にも行かず、シャルルが回復するまで待つと言うテューズの言葉を否定したのはウェンディだった。

 

「シャルルは私に任せて、テューズ達は行ってきて」

「……でも」

「大丈夫、心配しないで」

 

 微笑みながらそう述べたウェンディにこれ以上何も言えなくなり、テューズはフィールと目を合わせると再び上空へと飛翔する。

 心配そうに何度か振り返りながら二人が街の奥へと向かっていくと、何処からともなく声が聞こえてきた。

 

「フィール、今なんか聞こえなかった?」

「そうですか? 私にはさっぱり……」

 

 気のせいかと頭を掻いた時、テューズの耳は確かに何かの声を拾った。

 フィールに一度止まるように頼み、テューズは空中で意識を耳に集中させる。

 風切音の中から目的の声を拾い上げ、ある程度の方角を絞ると声のする外側の方へと向かってみる。

 

「助けてくれぇぇ!」

「……! 今のは……確かに声が!」

 

 近づくにつれフィールも謎の声を聞き取ったようで、彼女はスピードを上げて助けを求める声の下へ急いだ。

 

「誰かー! ここから下ろしてくれぇ! メェェェン!!」

 

 叫び声を上げていたのは、青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士、一夜=ヴァンダレイ=寿。

 まるで豚のように手足を棒に縛られ、手と足の間に建物の突起が引っかかったらしく一夜は宙吊り状態で身動きを取れずにいた。

 

「一夜さん! 大丈夫ですか!?」

「き、君はテューズ君!? 救出されたのか!」

 

 テューズに気付いた一夜はその場でもがき、棒がカタカタと音を立てる。

 

「エルザさんは! エルザさんは助かったのか!?」

「え、えぇ……大丈夫ですよ」

 

 エルザの無事を聞いた一夜は安堵の息を漏らしているが、その光景を見ていたテューズは混乱していた。

 棒に縛られ、建物に宙吊りになっている一夜。突然頭に入ってきた情報は余りにも衝撃が強く、彼らの思考を乱すには充分すぎた。

 何故に一夜は手足を縛られているのか。どうしてこんな所でぶら下がっているのか。彼の身に一体何が起きていたのか。

 考えれば考えるほど疑問は湧いてくる。

 

「……はやく下ろしてくれると助かるのだが」

「ご、ごめんなさい! 今助けます!」

 

 一夜の声で我に返ったテューズは、まず一夜の棒を掴んで下に降ろそうとするが重量オーバーでフィールは飛ぶことが出来なくなる。

 ならばと一夜の縄を解こうとしたが、それは一夜に止められた。

 

「こんな状態で縄を解かれたら落ちてしまう! 出来れば私を優しく降ろしてくれ!」

「ふぅ……テューズ、世の中には決して救えないものもあるんです。そして彼がそれ。さ、行きましょう」

「ちょ!? ま、待ってくれ! 分かった! 縄を解いてくれるだけでいいから!」

 

 テューズを連れて去ろうとするフィールを必死に止める一夜。

 そんな彼に冗談ですよと言ってクスリと笑みを零すと、一度に一人しか運べないフィールはテューズを降ろし、代わりに一夜を持ち上げて地面に降ろす。

 

「た、助かった……君、冗談キツくないかね!?」

「はて、何のことです?」

 

 テューズによって縄を解かれた一夜は、額を伝う冷汗を拭ってフィールを睨んだ。

 しかし、当のフィールは口笛を吹き、悪びれる様子は無い。

 

「ま、まぁいい。助けてもらったのは事実だ。この恩は必ず返そう!」

 

 そう言って一夜は親指を立てると仲間達と合流する為にその場を去り、残ったテューズは眉を顰めてフィールを見る。

 

「フィール、あんまり意地悪しちゃダメだよ?」

「別に、意地悪なんてしてませんよ」

 

 ふいっと顔を逸らし、反省する様子のないフィールに嘆息したテューズだが、すぐに彼女の異変に気付いた。

 そっぽを向いたフィールはその状態で固まり、目を見開いて一点を見つめている。

 

「フィール、どうしたの?」

「……まさか、そんな……」

 

 汗をかき、体を震わせながらフィールはニルヴァーナの外側へと歩いていき、そこから見える景色を一望する。

 その後を追ってきたテューズも、その景色を見て表情が固まる。

 そこから見える山などに、見覚えがあった。今日、連合の集合場所に向かう途中に見た光景だ。

 それはつまり、このニルヴァーナが自分の来た道を引き返しているということ。

 

「……フィール、これって」

「えぇ。この方向にこのまま真っ直ぐ進めば──化猫の宿(私達のギルド)があります」

 

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