ーーーそれは、何時もの日常で起きた非日常。
買い出しに出かけていたお父さんが帰ってきた。
お父さんに駆け寄ると、目を伏せている事に首を傾げた。
「……お父さん、どうしたの?」
「……ん? いや、何でもないさ。ほら、晩御飯にしよう。手伝ってくれるか?」
「うん、わかった」
その後のお父さんの様子は何時もと変わらなかった。
次の日の朝。何時もと同じ様に店番をする。今日はあまりお客さんが来なかった。お父さんは少し元気が無かった。
次の次の日の朝。今日はお店は休みだ。家でゆっくりとしていた。お父さんは少し窶れていた。
そのまた次の日の朝。今日はお店を早く閉めた。お父さんが倒れたからだ。
それからまた次の日のーーー。
「…………魔理沙」
「駄目だよお父さん。病人なんだから、ちゃんと寝てないと」
「いや、大丈夫だ。今日はなんだか調子が良いんだ。丁度良いから、村長の家に行ってくるよ」
「……そっか。気をつけてね」
その日の夜。事件は起きた。
「………きろ。……起きろ、魔理沙」
「んう……?どうしたの、お父さん」
「此処から逃げるぞ」
「…………え?」
お父さんに手を引かれながら、僕は走り続けた。後ろからは、村の大人が追いかけてきている。
優しかった農家のおじさんが居た。おじさんは血走った目で鍬を僕目掛けて振り回している。
元気の良かった魚屋のお兄さんが居た。痩せこけた顔で家宝だと言っていた刀の切っ先を僕に向けて走ってきている。
それ以外にも、沢山の知り合いがいた。でも、その全てが、僕に憎悪の籠もった視線を浮かべている。
始めは信じられなかったけれど、今はただただ怖かった。お父さんが居なかったら、僕は成すすべもなく殺されていただろう。いや、もしかしたら、お父さんもあの中に居たかもしれない。
「うわっ!?」
「ッ魔理沙!」
小石に躓いた。お父さんが駆け寄ってくる。しかし、そのせいで、村の大人が僕達に追いついた。僕達に追いついた村人達は、皆同じ表情を浮かべていた。
拳が、斧が、刀が、沢山の得物が振り下ろされる。死を直感し、僕は目を閉じた。
しかし、それらが振り下ろされる事は無かった。何故だろうと、目を開く。其処にはーーー。
「……おとう、さん…?」
村人達を弾き飛ばした、お父さんの姿があった。
「無事か?魔理沙」
「う、うん。お父さんは……?」
「俺は大丈夫だ。それよりも……魔理沙。お前は早く逃げろ」
「……そんな!?お父さんは如何するの!?」
怖かった。
引き止めようと思った。一緒に逃げようと懇願した。でも、お父さんのその眼差しが僕に逃げろと叫んでいる。
「………………分かった」
「…………そうか。なら急いで此処からーーー」
「でも」
「……でも、なんだ?」
「ぜったい、死んじゃ駄目だからね」
「……安心しろ。お父さんは強いんだ。ーーー自分の後ろに、家族が居るなら尚更な」
走り出す。後ろを振り向く事は決してしない。振り向けば、脚を止めてしまうから。
森を抜けると、大きく伸びた崖に出る。下を見ると、岩が剣山となって道を塞いでいる。
道を探さないと。そう思って振り向くと、其処には槍を構えた村人達が居た。
「へ、へへ。とうとう追い詰めたぞ、魔女の息子め!」
「……ぅ、あ」
追いつかれた。お父さんが死んだ?いや、もしかしたら、僕の知らない抜け道があったのかもしれない。そうだ。そうに違いない。
「死ね!死ねぇ!」
槍が、僕に向かって飛んでくる。思わず僕は後退りした。それがいけなかったのだろう。上を見上げると、眼前には岩の剣山がーーー。
其処で、