ちなみに、サブタイトルは『あかいろのひょうせい』と読みます。どうでもいいですね。
―――最初に異変に気付いたのは、玄武の爺亀であった。
(これは―――)
「……?どうしたの玄爺。 何か有ったの?」
「……靈夢殿。 空を見なされ」
「空―――? ……っ!?」
先程まで太陽の輝く晴天の空が、今では見るも不快な紅の霧に覆われていた。
「靈夢殿、これは……」
「……ええ。 これは"異変"よ。 それも多分、厄介な部類の、ね」
霧に含まれている少量の魔力と、それを霞ませるほどの異質な妖力。余りに簡素。しかし、たったそれだけで彼女にとっては十分な要素となる。
「るーこと!」
「はい、
音もなく現れた彼女の名はるーこと。諸事情から神社の掃除をさせているロボットだ。
「話は聞いてたわね」
「はい」
「それじゃあ玄爺、るーこと。私が居ない間、神社は任せたわよ」
「うむ。 お任せくだされ、靈夢殿」
「はい、
玄爺とる―ことに神社を任せ、私は神社から飛び去った。
(さて……この異変、鬼が出るか蛇が出るか……。気を付けて下され、靈夢殿)
ーーーーー
同時刻、魔法の森にて。
ーーーーー
魔理沙もまた、この異変に気付き、解決のために動いていた。
「《シュート》《ニードル》《トリプル》」
魔法陣から三本の光線が放たれる。光線がそれぞれ妖怪の心臓を貫くと、棘の様に広がり、身動きの取れない妖怪を内側から串刺しにした。
「《スティング》《スピアー》《ワイド》《ホーリー》」
もう一つの魔法陣を地面に展開し、そこから突き出した光の聖槍で地上の妖怪を一掃する。
「《レイン》《アロー》《サンダー》」
空に魔法陣を展開し、其処から雷の矢の雨が降り注ぎ、空中の妖怪を撃ち落とした。
広範囲・高密度の魔法を連続で放っているにも関わらず、魔理沙には一切の疲労を感じさせない。
「これで三度目……」
妖怪との戦闘は、何もこれが初めてではない。先程も言った通り、計三度、同じような戦闘をこなしているのだ。
三度も同じような戦闘をこなしているからか、相手の生態、弱点も凡そ把握した。
異変の主魁は恐らく悪魔、或いはそれに準ずる者。今まで戦ってきたのは眷属か何かだろう。
悪魔と言うことは、聖属性の攻撃が有効なのが有名だ。しかし、実は”光”ならば何でも有効だ。無茶苦茶だが、雷属性の攻撃も有効なのだ。
閑話休題。
「取り敢えずは、霧の発生源の特定を急ぐか」
幸か不幸か、この霧のお蔭で魔力は有り余っている。しかし、だからと言ってこの霧は放置出来ない。
幸いにも、霧が発生した直後を発見している。方角から察するに、霧の湖の辺りから発生していると考えている。
そんなこんなで現在、俺は霧の湖の近くまで来ている。どうやら俺の考えは正しかった様だ。霧の湖に近づくにつれて、紅い霧が濃くなってくる。中に入れば、自分の身体すらも見えずらくなってきた。
「よし。《クリアミスト》《ソニックストーム》《ワイド》」
突風が広範囲にばら撒かれ、周囲半径30メートル程の視界が確保された。
「よし、これで何とかなったな。……それにしても妙に寒いな、此処は。一応真夏だってのに」
周囲の気温を探ると、大体15度弱だと分かる。少なくとも、夏場の気温ではない。
何か異変の手掛かりがあるかもしれないと、周囲を探っていると、すぐ近くから悲鳴が上がった。
「早速か!」
瞬時に悲鳴の上がった場所を特定し、最速で駆け出す。まだ死ぬなよ、心の端でそう呟いた。
ーーーーー
数分前、霧の湖にて。
ーーーーー
「チルノ、くん……?」
「……………」
私の声に、彼は虚ろな眼差しで答えてくる。
―――彼の体は、正に”異形”其の物だった。
体の至る所から羽が生え、今にも弾け飛びそうなほどに血管が隆起している。水晶の様に繊細で、綺麗だった水色の羽も、今では棘々しく、醜悪な紅色に変わっている。基本的な造形すら変貌しており、一目見ただけでは彼だと気が付かなかった。
心当たりはある。恐らく、先程の”蝙蝠”が原因だろう。此処まで変化するのに、一体何匹もの”蝙蝠”を取り込んだのだろうか。
心が締め付けられる様に痛い。彼をあんな姿にしてしまう原因を作った自分が憎い。
彼を止める事は、自分には出来ない。否、出来ることは出来るが、自分はただでは済まないだろう。それは彼にも、そして何より”子供達”が悲しんでしまう。だから、それだけは出来ない。
「………ゥ、ア」
彼が此方に視線を向ける。その濁り切った瞳には、狂気が浮かんでいる。
彼が一歩踏み出し、姿を消した次の瞬間、眼前に彼の瞳が重なる。
「ひぁ―――!」
恐怖の余り悲鳴をあげた瞬間、目の前の彼が
「………え?」
「まだ死んでねえよなぁ、嬢ちゃん!」
「……え? え? ……私?」
「……他に誰が居るってんだ」
「えっと、あなたは…?」
「ん?ああ俺か。俺の名前はな……っと、話してる場合じゃねえな。……そうだな、俺は魔法使いさんとでも呼んでくれ」
青年に釣られて彼が飛ばされた方向を見ると、そこにはほぼ無傷の彼が立っていた。その姿を見て、青年は私を庇うように前に出た。青年は私に”早く逃げろ”と催促している。
青年の背後から彼を見る。彼は相変わらず表情の抜け落ちた顔で、此方を窺っている。その姿に軽い恐怖を覚えそうになるのを必死で堪える。
自分まで彼に恐怖してしまったら、今度こそ彼は独りになってしまう。……覚悟を決めて、私は彼に告げる。
「……逃げません」
「……本気か? 下手すりゃお前さん、死ぬぞ?」
「大丈夫です。私、妖精ですから」
そういって、隠していた羽を広げると、青年は一瞬驚きの表情を浮かべると、しょうがないとばかりに溜息を吐く。
「……わかった。ただし、言ったからには逃げるなよ」
「安心して下さい。
―――友達を見捨てるなんて真似、したくありませんから」
ーーーーー
「安心して下さい。
―――友達を見捨てるなんて真似、したくありませんから」
妖精の少女がそういうのを待っていたとばかりに、少年の手に冷気が奔る。
「チルノ君…彼は妖精の中でも一、二を争うほど強力な妖精です。気を付けて下さい」
チルノ―――。その言葉を聞いた瞬間、体が強張るのを感じる。人里の一角にある屋敷に住む”稗田一族”が書き記した書物”幻想郷縁起”。そこにその名前が記されているのを見たことがある。
詳細なことまでは憶えていないが、ただ一つ憶えていることがある。
人間有効度、普通。
そして、―――危険度、極高。
妖精の危険度は平均的に高いが、それでもこの評価は異常と言っていいだろう。
しかし、一つ気になることがある。
「なあ、妖精の嬢ちゃん」
「……何ですか?」
「実際に見た事は無いんだが、確か氷精は青色だった筈だよな?」
「―――ッ、はい。彼は、この異変、いえ、元凶の生み出した
「……蝙蝠? 確かか?」
「はい」
………まさか。いや、アイツらにこんな事をする理由はない。となると、元凶は―――。
「来ます! 魔法使いさん!」
「!」
どうやら、奴さんはそこまでは待ってくれないらしい……!
「っと!」
「へ? ――きゃあッ!?」
氷精の手が輝いた瞬間、俺は妖精の少女を抱えて空中へと跳んだ。
次の瞬間、先程まで俺達が立っていた場所が凍り付いた。氷精はそのままこちらに向かって手を薙ぐように振るう。
咄嗟に障壁を張るが、驚いたことに障壁が凍り付いてしまった。
凍り付いた障壁を掴み、氷精に向かって放り投げる。氷精はそれを止めようとするが、接触した瞬間に凍り付いたはずの障壁が爆発した。
「チルノ君!」
肩に背負われている妖精が心配の声を上げるが、心配は無用とばかりに煙の中から氷精が飛び出してくる。
「《バインド》《チェーン》《スネイク》!」
「………!」
突然現れた鎖によって氷精はその動きを止める。鎖から逃れようと暴れるが、蛇のように鎖は複雑に絡まっていく。
「《アサルト》《バスター》《オールレンジ》《ファイア》!」
その隙を逃さんと、全方位からの炎の砲撃が氷精を襲う。
「や、やったんですか?」
「手ごたえはあった。後は運次第だが……どうやら、まだ生きているらしい」
煙が収まると、其処には全身が溶けかけ、今にも崩れ去りそうな氷精の姿があった。しかし……
「……え?」
妖精が困惑の声を上げる。無理もない。何故なら、溶けかけていた氷精の体が
内心で舌打ちをする。どうやら氷精の体に棲みついた蝙蝠は、吸血鬼の眷属だったらしい。
「…ど、どうしましょう、魔法使いさん」
「……仕方ないか」
「え?って、うわぁ!?」
地上へ急降下すると、妖精を肩から降ろす。彼女は一瞬困惑したが、直ぐに意図を感じとったようで、苦笑いした。
「悪いな、嬢ちゃん」
「……いえ、大丈夫です。ですから、―――チルノ君のこと、よろしくお願いします」
妖精のその言葉に頷くと、空へと舞い上がる。目の前には相変わらず無表情な氷精が居る。
「ふーー、ッ!」
遠慮はしない。殺す気で掛かる。
―――一瞬の内に氷精の懐に飛び込んだ俺は、掌に集めた魔力を解き放つ。
「《バースト》《バスター》《クアトラブル》《ホーリー》!」
拡散した四つの砲撃は、氷精の中に巣食っていた蝙蝠を消しとばした。
「ほれ」
「わ、とと……」
彼が放り投げてきたものに、私は見覚えがあった。
「これは……」
「あー、氷精を倒したら飛び出して来たんだが、そいつ。なんか知らないか?」
「はい、知っています。―――とっても」
「そうかい……なら、そいつは嬢ちゃんにやるよ。俺じゃあ、使い道がわかんねえからな」
「有難うございます。それで、これからどうするんですか?」
「まあ、引き続いてこの霧の発生源を突き止める事になるな」
「なら、これを持って行って下さい」
そういって私は懐からあるものを取り出した。
「……そいつは?」
「もしもの時に使ってください」
「……ありがとな、嬢ちゃん」
「いえ、こちらこそ。チルノ君のこと、有難うございました」
「おう。……っと、そろそろ行くかな」
「そうですか。…そうそう、霧の発生源を調べるんでしたら、湖の中心部を目指してください」
「中心部?」
「はい。最近、と言っても十年も前ですけれど、湖の中心に大きな館が出来たんです」
「ふむ……手掛かりもない事だし、湖に向かってみるか。またな、嬢ちゃん。…そうだ、霧が晴れたら、博麗神社にでも行ってみるといい。損はしないぜ」
「そうですね。なら、チルノ君もつれて行きますよ。では、また。お元気で」
中心部の方へ飛んで行った彼を見送ると、私は彼が渡してくれた
用語紹介
《結晶(チルノ)》
氷精チルノの魂が結晶化したもの。傷一つない。
《蝙蝠(眷属)》
元凶の生み出した眷属の一つ。戦闘能力は無いが、数が多く、相手に取り付いて支配する。