タグの文字数が多すぎて困る件。
「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
無難な挨拶を終えて着席した学園唯一の男子生徒に対し、彼以外のすべてを占める女子生徒たちは非難がましい視線を浴びせて、不満感を露わにする。
まぁ無理もない。なにしろここは国立IS学園。本来なら女性しか操れないISの操縦者を育成するための学校なのだから、そこに通う生徒たちが女の子オンリーになったとしても何ら不思議は存在しない。
むしろ、その中に一人だけ混じっている織斑一夏の方こそが異常。異端者は集団の中で常に排除される存在だから彼のファーストインプレッションは最悪だったと言わざるを得ないのだが、結果の話として何も起こらなかった。
それは彼の態度が敵対的でなかったのが理由の一つ。
配属された一年一組が今時珍しすぎるほどに良い子たちだけで構成されていたことが一つ。
そして最後の一つはーー彼の後ろに座っている女子生徒。
ツッコミとして一夏の頭を出席簿で殴りつけた実姉の織斑千冬がつれてきた少女で、出席番号順でいくならもう少し後なのだが特殊な事情があるからと、千冬が有無を言わさずに押し通して一夏の次に自己紹介をするはめに陥ってしまった女の子。
彼女の名はーー
「篠原美矢です。出身校は県立碧陽中学です。出身地は東京の秋葉原ですが、親の仕事の都合で圏外にある中学校に通っていました。
入学直前までISについては何も知らなかった初心者ですが、精一杯勉強して皆さんの足を引っ張らないようにしたいです。
それでは皆さん。これから一年間、よろしくお願いします」
おお・・・・・・
美矢のセオリーに乗っ取った完璧に普通で癖のない自己紹介に曲者揃いの一年一組生徒たちからは、まばらに歓声が上がる。
なにしろ彼女の前が酷すぎたので、セオリー通りに無難な挨拶がこれほど稀少で尊いものなのかと、改めて彼女たちは礼儀作法とルールを守ることの大切さを学んだ。
感心するあまり一夏に対する不満が、自己に対する自省に転嫁するほどに。
ーー一方で、完璧に失敗しまくったルールを知らぬ少年は頭を抱えて悶絶していたが、それは余談であり幕間劇の類であろう。無視して良し。
要らぬ余談だった。次へ行こう。
「ーー皆には今伝えておくが、そいつはお前らの中で二人だけ在籍している入学試験で試験官を破った者の一人で、その功績によって末席ながらも国家代表候補生に任命されている。侮ると怪我するから気をつけるようにーー」
ガタタっ。
突如として大きな音が教室内に響き、それが慌てて立ち上がったがために座っていた椅子のバランスが崩れ、後ろへと倒れ込んだ際に生じた落下音だと言うことが分かる。
だが何故、彼女は椅子を蹴倒してでも慌てて立ち上がりたかったのか?
「どうした、オルコット。腹でも痛いのか」
「い、いえ。きわめて順調ですわ織斑先生」
「なら早く席に着け。戯けが。
お前等の脳では詰め込むとことから初めてやらんと、どうにもならない。諸君等にはまず、これから半月の時間をかけてISの基礎知識を学んでもらう。
言っておくが、基礎を侮るなよ。基礎ができていない輩にはISに指一本触れさせる気はないので、そのつもりで居るように。以上だ」
篠原に影響でもされたのか、柄にもなく常識的な激励を終えると千冬は入学最初の授業を開始した。
世界で唯一の男性IS操縦者であり、姉から手渡された参考書を古い電話帳と間違えて捨てた織斑一夏は、全く何言っているのか分からない。ちんぷんかんぷんな1時間だった。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「ん?」
一時間目の授業が終わり、休み時間も過ぎて、今は二時間目の休み時間中。早いですね。
一夏と篠原。どちらも席が近いのと、同じくISの知識に乏しい途中参加組に属しているので気が合う。話も意外に合う。
男の子らしくロボットについて、つまりはISについて対戦ゲーム『IS/VS』をネタに話している内に親しくなったのだ。
ちなみにだが、一夏のお気に入りはイタリアのテンペスト。理由は強いから。
そして篠原のお気に入りというか、それしか使ったことないのがドイツのシュヴァルツェア・グレーデン。理由は武装の一つにマシンガンがあり、その見た目がロシアのカラシコフ氏が残した傑作機関銃「PKM」にちょっとだけ似ているから。それだけ。
篠原美矢は拘りを持つ少女である。たった一つの拘りしか持たず、それ以外はどうでもいい少女である。・・・やっぱダメだろ、こいつ。
「訊いてます? お返事は?」
こちらが返答できないのを無視していると受け取ったのか、相手の少女はややキツメの口調で詰問してきた。
ーーいけない、怒らせてしまった。空気を和らげなければ。
相手の態度から篠原はそう考えた。
空気を読めないだけで読む気がないわけでは決してない彼女は、割と気使いができる少女である。ただし空気が読めない事に関しては厳然とした事実なので否定しようがない。
空気が読めない少女が相手に気を使って発言したらどうなるのか?
答えは直ぐ目の前にあるーー。
「えっと・・・ば、バウムクーヘン?」
「いきなりなんですの!? て言うか、なんでバウムクーヘン!?
え? ドイツのお菓子ですわよねそれ! それをなんでイギリス人のわたくしに言うのですか!」
「え? 外国のお菓子ってみんなヨーロッパ発祥じゃないの?」
「違いますわよ! と言うよりも、ヨーロッパは国というカテゴリーに属しません! それは地名です!」
「だいじょーぶ! マシンガンが生まれた国ならドイツもイギリスもアラブもインドも皆ヨーロッパ! 人類皆マシンガンラバー!」
「どういう理屈ですのそれはーーーーーっ!!!!!!」
お嬢様、絶叫。
イギリスの代表候補生セシリア・オルコットの初登場シーンは自ら絶叫して始まるシーンとして、長くIS史に記録される事となる。
ISの歴史が、また1ページ。
「あー・・・、悪い、ちょっと訊いても良いかな? とりあえず俺たちは、まだ君の名前も教えてもらってないんだが・・・」
織斑一夏、ファインプレー。
本来の彼は、こういう居丈高な態度で接してくる女を「女尊男卑」思想故の傲慢だと言って否定的なのだが、なにぶん一緒にいるのが自分よりも空気の読めないマイペース少女のため、仕方がなしにブレーキ役か調整役を担わざるを得なくなっていたのだ。
正直言って柄じゃない。だが、やるしかない。
だってそうでもしないとこいつ絶対なにか引き起こしそうなんだもん。んで、巻き込まれそうなんだもん。なんとなくだけど。
現実逃避のために敢えて幼児化した思考で心中で言い訳をする織斑一夏だったが、相手もさるもので金髪ドリルヘアーのお嬢様は先の不満を爆発すべく、今度は一夏へと矛先を向けて挑発を繰り出す。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補にして、入試主席のこのわたくしを?」
「えっと・・・ごめん。俺、代表候補っていうの自体知らなくてさ・・・」
「な!? あなた本気でおっしゃってますの!? 代表候補ですわよ! だ・い・ひょ・う・こ・う・ほ!
国家の代表でVIPで祖国の未来を担うエリート中のエリートを知らないなんてそんなはず・・・」
「おう。知らん」
堂々と、あえて堂々とした態度で一夏は断言する。
ーーが、内心いつ嘘が露呈するかと冷や汗ものである。
なにしろ横には空気を読もうとしてくれるが決定的に空気が読めない美少女が未だに居続け、不思議そうな顔で見つめてきているのだ。これが焦らずにいられようか?
(頼む! 余計なことは言わないでくれよ篠原!)
「あれ? 一夏君さっきイタリアのテンペストが好きって言ってたけど、あれって国家代表の機体じゃないの?」
(言っちゃったぁぁぁぁぁ!)
「あ、そっか! 分かったよ一夏君。つまりあれだね。
「国家代表は国に一人だけだが候補止まりは幾らでもいる。図に乗るな」ーーと。
格好良いな一夏君! 私もその台詞、使ってみたいぞ☆」
「言ってない! そんなこと一言も言ってないから!
変な誤解招くようなこと言うなよマジで! 特にこのタイミングでこの相手にそれ言っちゃうとーー」
「・・・へぇー・・・。わたくしは国家代表“候補”止まりですか。そうですか。へぇ~・・・」
「ほらやっぱり誤解されちゃったじゃん! これ絶対、「決闘の勝敗で決着つけようぜ!」展開になるよ! ジャンプマンガのお約束展開だよ! バトル漫画ノリだよ!
現実の学生にやらせんなよ厨二バトル展開!」
織斑一夏、魂の常識論。
己の身に危険が及んだとき、人は保身的になると言う。
彼、織斑一夏と言う少年は人のために自分が身体を張れる大変希有な才能を有する好漢だが、その一方で「自分のために自分の身を張る」事ができない少年でもあった。
要するに彼は「誰かのために戦う正義のヒーロー」であって、「己のプライドと身の安全のためだけに敵をぶち殺して平然と嗤える利己的な悪役」には向いていないのである。
結果。場合によっては、このようなとんでもない自体に巻き込まれて狼狽え騒ぐ、一般的な大衆へと成り下がってしまうのだ。ナームー。
「決闘ですわ! だいたいあなた、ちょっと入試で試験教官を倒せたからって図に乗っておりませんこと? それくらい、あなた以外にも出来た人はいくらでもーー」
「え? でもオルコットさん。さっき織斑先生が「試験教官を倒せた新入生はふたりだけ」だって・・・」
「Shut up! そこのモブキャラ生徒は黙っていて下さい! これはわたくしと篠原さん。物語のメインとなるべき二人だけの問題ですわ」
「・・・あれ? 俺って確か世界で唯一の男性IS操縦者で、主人公属性持ってたような気が・・・あれ?」
「さぁ、お受けなさい篠原美矢。わたくしから投げつけられた手袋を。決闘状を!
言っておきますけれど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使いーーいえ、奴隷にしますわよーー」
「うおっしゃあああああっ! 入学早々マシンガン撃ち放題の公式試合だぁ!
今日の私は付いている! ありがとうマシンガンの神様!
オープンボルト! 略してOB!」
「人の話を聞きやがれですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「OB! OB! OB! OB! OB!」
「だぁぁぁぁぁぁっ!!!!
もういいですわ! 試合まで待ちませんわ! ここでケリ付けてやりますわぁぁぁぁっ!!!
お出でなさい、ブルーディアー・・・!」
「待て、オルコット! 早まるな!
今ここでお前にIS展開されて暴走されて放校されたら、私の立てた計画が台無しになる!
頼む! 頼むから待ってくれ!
殿中に!殿中に御座るーーーっ!!!」
「うおぉぉぉぉっ!!!
来たぞヌルリとマシンガンの神様がなぁぁぁぁっ!!!!」
「いい度胸ですわ! ぶち殺してやりますから覚悟しやがれですわトリガーハッピーのガンマニア!
狂ったガンマニアは殺していい! KILL!」
「お前が言うなぁぁぁぁっ!!!!!!」
織斑千冬、魂と血涙の絶叫。
こうしてなんだかよく分からない内に篠原美矢とセシリア・オルコットの決闘が決まってしまったのだった。
「・・・あれ? 俺の役割は?」
「ああ、一夏。お前はクラス委員長だ。頼んだぞ、任せたからな」
「なんでだよ! 何で素人の俺なんだよ千冬姉!」
「・・・・・・一夏・・・お前は私に、アイツを止めろと言うのか・・・?」
「ごめん、千冬姉・・・俺が間違ってたよ・・・」
「いや、いいんだ。分かってくれたのならそれでいい。
後のことは、頼んだ、ぞ・・・・・・」
「千冬ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
死んでないので続きます。