何やら四魂の玉に憑依してしまったんだが誰か助けてクレメンス 作:nenenene
「ここじゃ。この中に犬夜叉はおる」
老婆はそう言って、一つの古井戸を指さす。場所は、村はずれの森のなか。鬱蒼としげる木々の中に、ポツンと不自然で作られた井戸だ。
要するに、骨喰いの井戸。現代と戦国時代を行き来できる、タイムマシンだ。
それを老婆は指さしている。
「この井戸のなか?」
ひょいと結羅は身軽な動作で、井戸の縁に飛び乗る。両足を大きくひらき井戸をまたぐと、上半身を屈めて中を覗き込む。
そのときだった。
「今じゃ!」
老婆の叫び。助走をつけた老婆は、不安定な姿勢で井戸の縁に立つ結羅に、タックルを決める。
「きゃ!」
結羅はバランスを崩す。可愛らしい悲鳴を上げ、井戸へと落ちて行く。
そして、地面に激突。
グチャり。
肉の潰れる音。
結羅は、茫然とした表情で、自分の右腕を見つめる。
「あたしの腕……」
結羅の右腕は、落下の衝撃であらぬ方向へとねじ曲がっていた。
「あの老婆、よくも」
怒りに顔を歪ませた結羅が跳躍。井戸の縁へと降り立つ。
「え?」
だが、そこは先ほどまでの場所ではない。何かの建物の中のようだった。
「これは一体?」
どうやら結羅には、状況の変化が理解できないようだ。そこで俺は口を挟むことにした。
『オッパイちゃん。あの井戸は、骨喰いの井戸という。数百年後の未来と繋がっているんだ』
「数百年後……ここに犬夜叉がいるの?」
『ウム。そのようだ。犬夜叉の妖気を感じるから間違いない』
「そう……それじゃあ、まずは犬夜叉を殺して。その後にあの老婆ね。あたしの腕を潰したこと、あの世で後悔させてやるわ」
結羅はそう言って、凄絶な笑みを浮かべる。
******
井戸の祠を出ると、そこには無個性な現代日本の家が建っていた。
「この家……半妖の妖気が漏れてる。ふふふ。犬夜叉、今すぐ殺して、ア・ゲ・ル」
そう言って結羅は糸を操り、家のドアを破壊。犬夜叉、そしてかごめのいる家へと侵入していく。
「なんだー。女妖怪? 何しに来た?」
侵入後すぐ、犬夜叉に遭遇。犬夜叉は結羅をすいかする。
「あたしは結羅、逆髪の結羅。あんたを殺しに来たの」
そう答えながら結羅は艶やかに微笑む。
「俺を殺すだと……へっ。この俺にそんな舐めた口を利いて、生きてる奴は一人もいないんだよ!」
舐め腐った結羅の態度に、犬夜叉は激昂する。
「あら? そうなの? 半妖に殺されるなんて、マヌケな奴もいたものね?」
「けっ! そのマヌケな奴に、テメエも入るんだよ! 結羅!」
犬夜叉の叫び。同時に、結羅へと掴みかかる。
だが、結羅は余裕綽々だ。数本の糸を二人の間に張って、防壁とする。
「ふふふふ。その程度の攻撃……」
簡単に防げる。そう言葉をつづけようとして、結羅は我が目を疑った。犬夜叉はいともたやすく糸を引き千切って、そのまま攻撃してきたからだ。
「散骨鉄爪!」
犬夜叉の強力な一撃。
慌てて結羅は、攻撃を避けようとする。だが、そこは室内、狭い狭い日本家屋のなか。回避するスペースなどはなから存在しない。
ブシュ!
結羅の左腕が、ひざ元から切断される。
バシャアアアアアアア!
噴出する鮮血。部屋の中が、少女の血で染まった。
「あんた! 女にはもっと優しくするもんよ!」
結羅が、自分の扱いに抗議する。
「俺を殺しに来ておいて、手加減しろだぁ! うっせーよ! 頭に蛆でも湧いてんじゃねーか!! この痴女!!」
当然のように犬夜叉は、そう反論する。
「なっ!? 痴女ですって!」
激昂する結羅。
「痴女だろーがよ! オッパイ丸出しにして!」
叫び返す犬夜叉。
「え?」
『え?』
思わず、俺と結羅の声がハモル。慌てて結羅は自分のオッパイを確認。するとそこでは、服がずれてオッパイが出てしまっていた。
ちなみに、俺もこのときはじめて気づいた。どうして気づかなかったかというと、俺は結羅の谷間に挟まれていたからだ。灯台下暗し。全然気づかなかった。谷間の中からでは、結羅の服がどうなっているのかを確認できないのだった。
くっ!
俺のバカ! 痛恨のミスだ。
「この変態!」
涙目になりながらも結羅は、慌てて服を直す。
だが、そのせいで結羅は隙だらけになる。そんな結羅へと、犬夜叉が急接近。再度の一撃を放つ。
「どりゃああ!!」
裂ぱくの一撃。犬夜叉の右腕が、結羅の心臓を貫通。反対側へと突き抜ける。その衝撃で、俺は谷間から零れ落ち、コロコロと床を転がる。
「けっ! ざまー見やがれ!」
心臓をぶち抜かれ、茫然と目を見開く結羅を、犬夜叉が侮辱する。
だが、結羅はまだ生きている。
「図々しいわね。会ったばかりの女の懐に、腕を突っ込むなんて」
そう言って犬夜叉を睨むと、器用に糸を操作。腰の刀を抜いて、構える。
「死にな!」
振るわれる刀。犬夜叉の腹に直撃。
だが、全く利かない。犬夜叉は火鼠の皮で作った服を着ているからだ。この服は下手な鎧よりも頑丈。大抵の攻撃なら防げるのだ。
「けっ! 今度はこっちの番だ!」
犬夜叉の跳躍。空中に浮かぶ刀をもぎ取ると、結羅へと飛び掛かる。そして刀が振るわれる。
ザシュウウ!
強烈な一撃。中心線をぶった斬られて、結羅の身体は左右に両断。傷口から、脳味噌や内臓がはみ出ている。
「くっ!」
結羅の苦しげな悶え声。流石に、不死身の結羅といえども、身体を両断されればただでは済まないようだ。周囲に浮かぶ糸が、ポタポタと床に落ちて行く。怪我の程度が酷すぎて、糸を支えられなくなっているのだ。
今や、結羅が制御可能なのは数本の糸のみ。たったのそれだけではどうしようもない。
『オッパイちゃん!』
俺は思わず、結羅へと声を掛ける。
だが、結羅は俺の言葉を聞いていない。
「馬鹿な半妖! あたしは不死身なのよ!」
結羅はどうやら意固地になっているようだ。何が何でも一人で犬夜叉を倒そうとする。両腕を失い、両断された少女。
そんな結羅にも、犬夜叉は手加減しない。
「おんな!! お前だれと話してる!!」
裂ぱくの叫びとともに、更なる一撃。右半身の頭を爪で引き裂き、バラバラにする。
「くっ!」
残った左半身の口から、苦し気なうめき声が漏れる。数本の糸を操作。犬夜叉を斬りつけるも、全て無駄。犬夜叉の頑丈過ぎる体には、手も足も出ないで弾かれる。
「これで終わりだー!」
犬夜叉の一撃が、今度は左半身の頭部へと向かい、
そこで動きを止めた。
ん? なんだ? なぜ犬夜叉が棒立ちに? 何が起こったんだ?
意味が分からない。
俺は犬夜叉の様子を注意深く観察してみる。
そして気付く。
『あ! 精神操作だ!』
一本の糸が、犬夜叉の頭部に接続されている。原作でもあった、糸を使った精神操作だ。それを使ったんだ。
今や犬夜叉は、結羅の操り人形と化していた。
「馬鹿な半妖。あたしに勝てるはずないでしょ」
そう言って結羅は、刀に糸を巻き付ける。ヒュルヒュルと宙に浮く刀が犬夜叉に向かい、犬夜叉の首を跳ねる。
……はずが、途中で刀がとまる。
「やっぱ、やめ。こいつ頑丈だし。操り人形にした方が何かと便利そう」
結羅はそう呟いて、家の端の方へと視線を向ける。
「ふふふふ。さあ、犬夜叉、あんたの初仕事よ。この家の住民を皆殺しにして、生首をここに並べなさい」
残忍な笑みをうかべた結羅による、非道な命令。
「キャアアアア!!」
「ぐああ」
「ヒイイイイイイイイ!!」
住民の悲鳴が聞こえてくる。犬夜叉が命令を完遂するのに、数分しかかからなかった。